An unexpected excuse

    〜  瀬名 愛理  編 〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おれが好きなのは…………」

 

 

 「で、恭也は誰が好きなのよ?」

 

 

 そう言うのは校門の方からゆっくりと歩いてくる一人の少女。その姿は凛としていて一輪の汚れていない花。そこにいるだけで魅力に溢れている。そう、その花はブーゲンビレアのように。

 

 

 「瀬名さん?いつ、こっちに来たんだ?」

 

 

 瀬名と呼ばれた少女は腰まで伸びた長い茶色の髪を靡かせ、右側にあるリボンが黒い大きなリボンが一際、少女を引き立たせる。

 

 少女は指先で髪の先をクルクルといじりながら罰がわるそうな顔をしながら恭也から視線を逸らし、頬を赤くする。

 

 「……つい、さっきよ。皆と来たんだけど、先に翠屋へ向かうことにするからって言われて、仕方なくよ?仕方ないから私が学園まで来たのよ。」

 

 

 その言葉を聴き、恭也を除く美由希たちやFCの面々は「……この人、絶対自分で来たかったんだ」とどこか納得したように「……ああ」という顔をするが、それだけで納得できる訳ではない。

 

 

 「あの〜、それであなたはどちらさまでしょうか?」

 

 

 忍が珍しく遠慮がちに声を掛ける。その様子を見て、普段の様子を知る者にとっては少しばかり気後れをする様子が見て取れる。

 

 そこで納得されたようで「あ、そうだったわね」と呟き、全員に向かって丁寧にお辞儀をした。外面用の笑顔とともに。

 

 

 「はじめまして、私は各務台にある結姫女子学園二年の瀬名愛理と申します。以後、よろしくお願いいたします。」

 

 

 にこりと笑うその顔に思わず中庭にいる恭也以外の人が見惚れ、恭也は思わず顔をほんのりと赤く染めて背けてしまう。

 

 数瞬してから美由希が思い出したように恭也に向かって視線だけでも殺せそうな殺気を送りながら問いかける。

 

 

 「どうして瀬名さんが恭ちゃんを知っているの?それになんだか翠屋に来ることは決まっていたみたいな言い方だったよ。」

 

 

 その視線に恭也は自分の知らぬ間にこんなに洗練された気を放つことができて嬉しい反面、どうしてそれを自身に向けられているのかを理解できないままに冷や汗を一筋垂らしながら話し始める。

 

 

 「……ああ、そういえば話していなかったか?以前、武者修行していたことが一時期あったのを美由希や晶、レンは覚えているか?」

 

 

 恭也の問いに三人は顔を見合わせてから二回、首を縦に振った。赤星は「ああ、そんなのも聞いたな。」と納得し、愛理はどこか幼い子どものように瞳をキラキラとしていた。その様子を見て恭也は続きを話し始める。

 

 

 「ま、そのときに各務台に立ち寄って、瀬名さんのお母さんが父さんと旧知の知り合いであることを知ったんだ。それから……ま、そんな訳で一年に一回ぐらいは各務台に挨拶をしに行ってたんだ。それでいつか海鳴の方に来てみたいとも言っていたので、近日中にとは言っていたのだが……言ってなかったか?」

 

 

 疑問に五人から知らないというジェスチャーを返される。それを見て恭也は「そうだったか。……まぁ、いいか」と呟くのを聞き流した。

 

 そう言うと愛理が目に見えて落ち込むのだが、そこは恭也。やはりというべきか気付けないでいる。

 

 そこで那美が愛理のことを不憫に思い、恭也に再度訊ねてみた。周囲からは那美さん、ナイスという声が聞こえたのは幻聴だと思いたい。

 

 

 「それでですね、恭也さんと瀬名さんとはどういった関係なのですか?先程、瀬名さんが恭也さんのことを呼ぶのに随分慣れたような感じがしたのですが、私の気のせいでしょうか?」

 

 

 那美のその言葉に恭也は思わず愛理を見て、愛理は恭也の視線に頷く。周囲の者からすればそれだけである程度の察しはつくのだが、そこは諦めの悪いのが揃っている。

 

 ある意味、死刑宣告をその場で受けるのだが、恋愛にとってはそれが想い人から告げられればある程度の諦めはつくというもの。しかし、何人かにとってはライバルが一人増えたという認識にしかならないだろうがそれでもこの場で告げる意味があるというもの。

 

 

 「そうだな……俺と瀬名さんの関係か、友人だな。それもお互いのことを包み隠さずに言えるような赤星とは違う親友とも言えるのかな。」

 

 

 「へぇ〜、親友ね……」

 

 

 忍はそういうと愛理へと視線を向けるが、当の愛理は俯き、「……親友……か。ううん、約束したじゃない。だから……」と瞳が潤み始めている。

 

 その様子に忍は口元をいやらしい笑みを浮かべたと思うとおもむろに恭也へと抱きついた。

 

 警戒していなかったのか、恭也は抱きつかれたりしたのにうろたえて引き剥がすこともせずに愛理の方を見た。

 

 その愛理は呆然としていて、しばらくすると瞳いっぱいに涙をためて今にも泣き出しそうな表情をしており、なにかをこらえるように我慢を続ける。

 

 忍はその様子に気付きながらもさらに密着して恭也を誘惑していく。さすがに那美や美由希もそこまではできないし、どちらかというと気恥ずかしさが優先されて密着することはできない。二人っきりだったら別なのかもしれないが。

 

 恭也もいつもよりちょっと押しが強いじゃれつきかと思っていたのだが、目の前には愛理がいる。だからこそ、恭也は離そうとしているのだが、如何せん男の性なのか腕に当たるふくよかな弾力の誘惑にはなかなか引き剥がすことはできない。

 

 やはりというべきか、それを見ている愛理は耐えられなくて恭也を引き剥がすとすんなりと剥がすことができた。そして、忍を敵を見るような目で睨むと恭也を腕に抱いたまま高らかに告げた。

 

 

 「いい加減にしなさいよ!恭也が嫌がってるじゃない!!」

 

 

 「あら?そんなことないわよ。いつも恭也と私はこんな感じよ。ね〜。」

 

 

 忍は平然と答え、その内容に何人か羨ましそうな感じをさせているが、ただ一人だけ愛理が恭也を見る。

 

 恭也はその視線を受け止めると思わず手を顔の前で振って否定の意を示すと愛理は忍へと移す。

 

 

 「ほら、恭也は違うと言っているじゃない。あんな嘘つかないでちょうだい。」

 

 

 「嘘なんかじゃないわよ。あなたがいるからそんな態度をとっているだけだと思うわよ。それになぜ、あなたが恭也と私のスキンシップをするのかな?あなたは恭也とは友人なのでしょう?なら、私たちの問題に口を出さないでもらえる?」

 

 

 「わ、わたしは……きょ、恭、恭也の…………」

 

 

 捲くし立てる忍に対し、愛理は追い詰められていく。先程より瞳には大粒の涙を溜めながら決して泣き出さないように我慢を続ける愛理に対して、さらに忍が追い討ちをかけていく。

 

 

 「さぁ、恭也のなによ?友人なんでしょ?早く言いなさいよぁ!!」

 

 

 「……………言える訳ないでしょ……」

 

 

 愛理は俯き、大粒の涙を地面を濡らしながら顔を上げる。その様子から恭也が止めようとするが、もう止まらなかった。愛理は止められなかった。

 

 

 「愛理!」

 

 

 「友人なんて言える訳ないでしょ。こんなに好きなのに、恭也が好きなのに、友人なんて言えるわけないわよ。だって、もう恭也の温かさを知っちゃたんだから。恭也が抱え込んでる寂しさとか、悲しさとか、弱さとか全部、全部知って、受け止めようって決めたんだから。一緒に生きたいと思ったんだから。恭也のこと、誰よりも愛してるんだから。だから……だから……言えるわけないよぉ。」

 

 

 泣きじゃくる愛理を包み込むように恭也は優しく、壊れないように抱きしめる。泣き顔が他の人に見られないように己の背中で守るようにして。

 

 

 「……ふん、さっさと言えばいいのよ。強がってバカみたい…………那美、私このまま帰るからバック持ってきてちょうだい。」

 

 

 忍は那美に頼むと顔を見せないように校門の方へと歩き出して、すぐに姿は見えなくなっていった。しかし、その様子は涙を堪えながらも我慢できずにボロボロと地面を濡らしながら、涙を流していたのを恭也は見ていた。

 

 だからこそ、恭也は何も言わない。言えない。忍の気持ちに気付いてしまったから。だけど、その気持ちに答える訳にはいかないのだ。今はこうして自分の腕に愛する女性がいるのだから。

 

 那美や美由希、晶、レンもFCの皆も理解してしまった。忍のあの姿は私たちなのだと。忍が自分たちの気持ちを代弁する形で伝えてくれた。なら、もう見守り立ち去るしかない。

 

 

 「恭也さん、瀬名さんのこと大切にしてあげてくださいね。……美由希さん、行きましょうか?一度、帰ったら忍さんに届けてあげないといけないので。」

 

 

 「そうですね。私は翠屋をちょっと手伝ってくので時間があったら寄ってください。……恭ちゃん、先に翠屋で待ってるからね。ほら、晶たちも行こ。」

 

 

 「あ、はい。……お師匠、瀬名さん。今日はうちが夕食作るんで食べてってください。」

 

 

 「あ、コラ。今日の当番、俺だろ?勝手に決めんな。師匠、瀬名さん。腕によりをかけて作りますんで食べていってください。……あ、待てよ、カメ。」

 

 

 「ほらほら、二人とも。特別なんだから二人で作ればいいじゃない。だからね…………」

 

 

 そういうと四人は連れ添って校内へと 歩いていった。忍ほどではないが、瞳を潤したまま。

 

 

 「愛理、大丈夫か?」

 

 

 「……うん、ごめんね。私がまだ恥ずかしいから誰にも言わないでいようなんて言ったのに、自分から言っちゃうなんて。でも、我慢できなかった。あの人がわざと挑発しているのはわかっていたけれど、でもね、恭也を誘惑しているの見てたら我慢できなかった。」

 

 

 恭也は愛理を抱きしめるのを止めて、愛理を真っ直ぐ見る。

 

 

 「いや、愛理が言ってくれて嬉しかった。確かに恥ずかしいこともあるのだが、それ以上に愛理から言葉で言われて俺は愛理が好きだと思った。」

 

 

 「私は恭也の凛々しい顔が好き。」

 

 

 「俺は優しく微笑んでいる愛理が好きだ。」

 

 

 「私は恭也の温もりが好き。」

 

 

 「俺は嫉妬して拗ねている愛理が好きだ。」

 

 

 「私は恭也の抱えている脆さを包みたいと思ったの。」

 

 

 「俺は愛理を護りたいと思った。」

 

 

 「「一緒に二人で生きて生きたいと思った。」」

 

 

 二人で囁き、くすりと笑うと自然に目を瞑ってなによりも優しい柔らかな口づけを交わした。

 

 それから愛理は恭也の片腕を抱いて、幸せそうな表情で歩いて呟いた。

 

 

 「ねぇ、私のことちゃんと紹介してくれるんでしょ?」

 

 

 「ああ、もちろんだ。俺はもう蘭華さんに挨拶してるんだし、次は愛理の番だな。」

 

 

 「うん……やっぱ、緊張するわね。でも、初めて会うんだもの。しっかりしなきゃ。」

 

 

 よし、と胸の前で小さく気合を入れる愛理をよそに恭也は今、この幸せな時間をかみ締めていく。

 

 

 「恭也、私たちはこれからの道で一緒にたくさんのことができて、何色にも染めることできるよね?」

 

 

 「……ああ、そうだな。俺たちが一緒ならどんな色にもなれる。」

 

 

 「うん。私たちの未来は『まっしろ』なんだから。」

 

 

 花のように咲き誇って笑う愛理はとても綺麗で恭也はとても優しく微笑み返した。

 

 


   あとがき

 

 

 ふぅ、やってしまった。しかし、後悔はない。

時雨「あ、やっとできたの?遅かったじゃない。で、どれどれ……聖(クロス)・逆十字(クルセイド)・反(リバース)・天雷烈波(デリンジャー)!!」

 ぎゃアアアアアアアアあああああああああああああああああ

時雨「さて、言い訳を聞きましょうか?」

 いやな、最近プレイしてできんじゃね、みたいな感じだったから。つい。

時雨「つい、で済ますな。おかげで他のが進んでない。」

 でも、まぁ、ぶっちゃけこのシリーズは初めて手を出したわけだけど、難しいなぁって。人数多いと誰かに偏る。今回は忍に大半持ってかれたきがするし。

時雨「それは否定しないわ。展開的にだれかがやらなきゃいけないとこだったし、なんとなく忍が的確かなって思わなくはないしね。」

 ま、そうだな。ちなみに今回のヒロインは『ましろ色シンフォニー』のメイン?ヒロインの『瀬名愛理』です。ぶっちゃけネタバレ全開の気が……ま、原作はもっとラブラブ臭が漂っているんですが

時雨「そうね。原作よりラブラブ臭が足りないわ。もっと精進しなさい。」

 へぇ、わかっております。それでは、この辺で失礼を。

時雨「それでは、甚だ不本意ではありますが贈り物のクラシック風のノルマンを。……ちっ、なんで私がこんなのを浩に贈らなきゃいけないのかしら?美姫お姉さまが気の済むまで私の代わりに調教してもらえますか?」




うちにとっては初かな? ましろ色シンフォニー。
美姫 「どうだったかしら。多分、初じゃないかしら。で、プレイは?」
これはしてないです。正直、悩んだけれど、結局は未プレイ。
美姫 「でも、中々良いキャラっぽいわよね」
だよな。ちょっと原作の方にもまた興味が出てきそうだ。
と、今回は『An unexpected excuse』シリーズで投稿して頂いたけれど。
美姫 「こういうパターンもあるわね」
うん、勉強になるな〜。投稿ありがとうございます。
……で、贈り物がどうこうといっているんだが?
美姫 「……知らないわよ」
目を逸らすな!
美姫 「仕方ないわね。でも、アンタには無用のものだと思ったんだけれど」
勝手に決め付けるなよ。
美姫 「ふ〜ん、そう。かつては軍馬として利用されたノルマンっていう品種なんだけれど?」
……ごめんなさい。
美姫 「分かれば良いのよ。こっそり何処かに隠しておこう」
何か言ったか?
美姫 「何も言ってないわよ。あ、ついでにちょっとした豆知識を。
     軍馬として利用された品種は正確にはアングロノルマンです。
     大型化させる為に、サラブレッドと混ぜられた品種がノルマン種」
???
美姫 「そんな訳で、あまり役に立たないけれど豆知識でした〜」



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