剣士と守護の楯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一話   「邂逅」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……シールド9、状況を報告しろ』

 

 

機械越しに聞き慣れた声が聞こえる。

 

プライベートだとあまり聞きたくない声だが、今の彼にとっては今の状況でのこのやり取りには身が引き締まる。

 

 

「こちらシールド9.今のところ、異常ありません」

 

 

全神経を研ぎ澄ませ、彼は周囲を窺いながらも対象からは目を離さない。

 

 

『油断はするな、常に神経を尖らせろ』

 

 

 その声が細心の注意を促すように彼は自分が騒がしい周囲と一体になるように神経を細く、細く、まるで一本の針のようにさせる。

 

 

『シールド9……今のお前は、文字通り‘‘ 楯 、、なのだ。それを忘れるな』

 

 

彼にとって自分が‘‘ 楯 、、だということを一時たりとも忘れたことはない。

 

物心が付いたときからそういう訓練を受けてきた。

 

だからこそ、今の自分がシールドナンバーであることを誇りに思う。

 

 

「了解。……アイギスの名に懸けて」

 

 

『よし。通信終了、引き続き任務にあたれ』

 

 

「……護ってみせるさ。俺が……必ず」

 

 

アイギスの名はギリシャ神話の女神アテナが持つ楯[イージス]に由来する。

 

イージスはアテナが父神ゼウスより賜ったもので、あらゆる邪悪を退ける力を持つと言われている。

 

その彼が自らの誇りを汚す訳がない。

 

誇りを護るために。

 

護るべき人を、護るべきもののために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご覧下さい!どこを見渡しても、人、人、人!ものすごい人だかりです!道路を、完全に埋め尽くしています!そして、そしてっ!見えますでしょうか!?」

 

 

カメラの前に立ち、人だかりの中から目的の人物を探し出すと指を向けて、カメラにわかるようにするマイクを持ったレポーターがいる。

 

 

「今、私の背後に立っている人物こそ、この人だかりの中心点!まさに台風の目!

全米チャートの頂点に君臨し、今やCSS出身であるエレン・コナーズと肩を並べる全米の歌姫の一人……セシリアです!」

 

 

ここ最近になって、人気急上昇してきたセシリア・ローズ、その人である。

 

 

「初主演を飾るハリウッド映画、《マイティガード》のPRのため、緊急来日っ!あのセシリア・ローズがいます。ああっ、押さないで下さいっ!カメラさん、しっかり!」

 

 

揉みくちゃにされるレポーターの背後で、その歌姫はにこやかに手を振っている。

 

 ちなみに《マイティガード》》という映画の内容というのはとある歌手に脅迫状がおくられ、契約を結んでいる会社はある東洋人に護衛を依頼することから始まる。しかし、その歌手は脅迫状が送られてきてもツアーを取りやめず「笑顔を皆に届ける」と言って断固続ける姿勢を示す。

 反発をする二人だが、様々な困難を乗り越えて二人は次第に心惹かれていく。そして心を重ねた二人だが、やがて護衛の期間が終わりを告げることで最終局面を迎えることになっており、その終わり方が様々な論争を呼んでいる話題の映画である。

 

 

「両脇をがっちりとボディガードに挟まれています。あの《予告状》を懸念してのことでしょうか。命を脅かす《予告状》が来ても尚、彼女は来日を取り止めませんでした。そして今も大勢のファンに囲まれて、にこやかに笑顔を振りまき、握手とサインをしています。なんという度胸、なんという勇気。」

 

 

現状を伝えているリポーターもセシリアを目の前にして、普段の放送されている姿よりも幾ばくかは興奮しているようだ。

 

 

ファンサービスが旺盛なことで有名なセシリアは集まった多くのファンに対し、花のような笑みを浮かべて優雅に手を振った。

 

握手を求められれば、極力答えようともする。

 

ボディガードたちは歌姫のファンサービスに焦りを隠せない様子で、あわただしく動き回っている。

 

無理もない。

 

彼女は今・・・命を狙われているのだから。

 

 

「ミス・セシリア!Welcome to JAPAN!」

 

「ハァイ!」

 

「うわっ、凄い声。ファンの声で私の声がスタジオに届いているか分かりませんが、とにかく凄い歓声です。セシリア!視聴者のファンにメッセージを!」

 

「日本の皆さんに会えて嬉しいデース。私の初主演映画、《マイティガード》。ぜひよろしくおねがいシマス♪」

 

 

そう。

 

彼女は今、命を狙われている。

 

事の発端は、数ヶ月前に遡る。

 

以前、セシリアと握手したファンの男が自分たちは相思相愛に違いないと勘違いし、ストーカー行為に走るという事件が起こった。

 

セシリアに付きまとい、住居不法侵入まで犯し、ついに犯人は逮捕された。

 

……だが、話には続きがある。

 

その後、裁判にかけられ、犯人に下された判決は【セシリアの半径5kmに近づいてはならない】というものだった。

 

この判決に怒った犯人はついに、セシリアの命を狙い始めた。

 

 

『キミを殺して僕も死ぬ。二人が永遠に結ばれるには、もうこの方法しかないんだ。』

 

 

そんな身勝手な殺人予告状がセシリアの下に届いたのが、数日前のこと。しかし、彼女は命を狙われていると知りながらも、その身を安全な場所に隠そうとしなかった。

 

 

『だって、姿を隠しちゃったら、ファンに会えなくなるでしょ』

 

 

そう言って、彼女は来日スケジュールを敢行した。

 

危険と知りながらも。

 

 

『ストーカーのせいで、あのジュ―シィな神戸ビーフが食べられないなんてそんなの耐えられない』

 

……とも言った。

 

親日家の日本食好きで有名だった。

 

この言い方だと食べることの方が優先順位高そうな気がするのだが。

 

……ん、神戸ビーフって神戸牛か。……あれって日本食?

ん〜〜気にしない方向でいこう。

 

 

「セシリアさーん、サインをー。サインプリーズ。」

 

 

ファンから次々とサインを求められ、差し出された紙にサインするセシリア。

 

 

「セシリアがにこやかにサインを書いています。ほんとに優しいですね。」

 

 

レポーターがどこか羨ましそうな顔をしながらコメントをテレビの前の視聴者に答えるように言葉を紡いでいく。

 

流れるようにサインを書いていくセシリア。

 

その彼女が、ふと足を止めた。

 

彼女の目の前でセシリアを見ていた学生服に身を包んだ少年がいた。

 

その姿はまだ高校生に上がったばっかだろうか、セシリアを目の前にして緊張の様子が見て取れる。

 

 

「あら?キュートなボーイ。くすっ、アナタもサインが欲しいの?」

 

 

「へ?あ……いや、俺は……」

 

 

「日本人、エンリョする、よくないです。子供はもっとオープンでないとね」

 

 

「え……っと、あは、あははっ……子供って……」

 

 

「なんとも微笑ましい光景です。学生服の可愛い少年です。セシリアが男の子にサインをしています。」

 

 

「映画、よろしくデス♪ステディなガールフレンドと見に来てネ。」

 

 

彼女が茶目っ気たっぷりの笑顔を少年に向けた瞬間、遠くのビルで……何かがキラリと光った。

 

 

 

 

 

「…………セ……シリア……やめろ……やめてくれ。」

 

 

男は銃の照準をセシリアに合わせる。

 

 

「……ボク以外の男に微笑むのは止めろ……う……うぅ……ボクのボクだけのセシリア。」

 

 

もうここまでくると妄想ではない。

 

狂気だ、狂ってる。

 

 

「……はぁはぁ……今……キミを天国に連れて行ってあげる。」

 

 

男は息を荒くし、もうすぐセシリアが自分だけのものになれると思い込んで。

 

 

「……心配しないで……ボクももうすぐそっちに行くから……」

 

 

ぬめる脂汗を拭って男は銃のトリガーに指をかけた。

 

 

「ボクのセシリア……」

 

 

男は今、銃のトリガーに指を引いた。

 

 

 

 

 

男が銃のトリガーを引いた瞬間、そのときに動いたのは二人。

 

 

 

一人はセシリアを銃弾の軌道上から外すために。

 

もう一人は学生鞄を盾としてセシリアの前に立ち、銃弾を弾くために。

 

 

 

「ッ!!」

 

 

「!!!」

 

 

「きゃああっ!!」

 

 

銃弾が着弾したのは、先ほどの少年が持っていた学生鞄 。

 

先程、光ったのは太陽の光が銃のスコープに反射したものである。

 

だからこそ、この二人は気づくことができた。

 

 

 

セシリアの悲鳴。

 

それまでの周りの歓声がピタリと止まった。

 

一瞬の静寂の後……

 

 

「しょ……少年が持っていた鞄でセシリアに向けられた銃弾を防ぎました。」

 

 

突然の大きな音に人々は本能で危機を感じ、悲鳴を上げながら散りだした。

 

 

「そ、狙撃だ。セシリアが狙われた。」

 

 

「向かいのビルの五階だ。」

 

 

ボディガードたちがセシリアの周囲に立ちはだかる。〔防弾の壁〕として

 

 

「M700、ボルトアクションライフルか」

 

 

「……おそらく、そうだな。」

 

 

学生服を着た少年と黒を基調としたスーツに身を包んだ青年の眉間に深い皺が刻まれる。

 

少年と青年は更に周囲を警戒した。飛んでくる銃弾が一発とは限らない。

 

次の弾丸を装填し、今にもこちらを狙っている可能性もある。

 

ちなみにセシリアは今、青年の腕の中にいる。

 

その青年の腕の中で彼女は青年の顔を見ながらも驚いたような表情をしているが、その表情はどこか恍惚としていて頬に赤みがさしている。

 

 

 

(はぁ〜〜〜、エレンが言ってたけど、彼のこういう姿って初めて。これは……やば……だめ……彼の顔、見たらオチちゃう……。エレンも狙ってるのよね、確かエレンが言うにはCSSのほとんどが狙っているって聞いたけど、いったいどのくらい狙っているのがいるのかしら。)

 

 

 

先ほどの銃撃の際に、青年が軌道上から外すために抱き寄せたのだ。

 

彼はセシリアがなぜ顔を赤くしているのかわかっていないようで表情には疑問の顔が浮かんでいる。

 

もし、狙われているような状況でなければ、青年は手をセシリアに当てるなりの事をしたのだろう。

 

 

「な、な……」

 

 

全身を集中させていると少年と青年の耳にレポーターの声が耳に入ってくる。

 

一瞥すると気丈にもマイクを持ち、事を報道しようとする姿が見えた。

 

 

「な、何者かが……セシリアを狙撃した模様です。そ、それを少年が……いきなり飛び出て学生鞄で銃弾を受け止めました。信じられません。信じられない。」

 

 

「・・・少年じゃない。」

 

 

少年がボソッと否定をする。

 

 

「え……?今、なにか……?」

 

 

 少年はレポーターの声を意識的に排除し、無線機を繋げる。

 

 

『シールド9、こちら本部。狙撃手の無力化に成功した。対象の安否を報告しろ』

 

「こちらシールド9.対象は無事です。」

 

『よくやった。ミッションは終了だ、帰還しろ。』

 

 

少年が通信をしているときに、青年も同じようにセシリアからは離れて通信をしていた。

 

 

 

「リスティさんですか。」

 

 

『捕まえたよ。今、アイギスの連中が連れて行った。』

 

 

「そうですか、それでは俺は元の配置場所に戻ります。」

 

 

『ん、OK。終わったらデートだからな。』

 

 

「ちょ、待ってください。ってリスティさん?リスティさん?……っく。あの人はまた、勝手に……」

 

 

そういって半ば通信先の相手に諦めを感じながら、自らの配置に戻る青年。

 

 

「あれ?恭也君?いない。もう……ねぇ、助かったの?」

 

 

セシリアは青年の姿を探すとその姿は近くになく、残念な気持ちを抑えてもう一人助けてくれた少年の側に歩み寄った。

 

 

「ええ、もう大丈夫です。ミス・セシリア。犯人は押さえました。もう安心ですよ。」

 

 

「あなた……ファンのボーイじゃない?」

 

 

「あなたが依頼した《アイギス》のガーディアンです。」

 

 

「まさか……あなたのような幼いボーイが《アイギス》のガーディアンなんて……」

 

 

「う、幼いって……これでも成人男子で……学生服はガード用の変装で……童顔……気にしてるのに」

 

 

パチクリと瞬きをして、セシリアは少年を見つめた。

 

ボディガードの男たちも信じられないといった表情を浮かべ、肩を竦ませている。

 

 

「ありがとう」

 

 

「いえ……」

 

 

「あなた方がいてよかった」

 

 

「 ……に、任務ですから」

 

 

「あは。ボーイなのにクールなのね」

 

 

「……成人男子です」

 

 

「わたし、すごくどきどきしちゃった」

 

 

「っっ!?」

 

 

歌姫からの突然の抱擁に彼の身体は硬直した。

 

押し付けられた豊満なバストにダラダラと冷や汗をかき始める。

 

 

「あなたと恭也君がいれば、怖いものなんてないわね。恭也君は凛々しくてかっこよくて、頼りになるし、あなたはこんなにカワイイのに頼もしいのね」

 

 

「あの!に、ににににににん任務中です」

 

 

「あら、もう安全なんでしょ?」

 

 

「し、しか、しか、っしし、しかし」

 

 

服がぐっしょりになるまで汗をかき、呂律が回らず、焦点も定まらない。

 

セシリアはそんな任務一筋の少年を可愛く思い、とびっきりのプレゼントをすることにした。

 

 

「うふふ、本当にありがとね」

 

 

お礼の言葉を言いながら、顔を寄せ、唇を貪るように合わせた。

 

 

「ちゅ〜〜〜☆」

 

 

「んっ、んんぅぐぐうぅうぅ!?」

 

 

それは舌を濃厚に絡めた音なのディープキス。

 

全世界のセシリアファンが殺意を抱くであろう。

 

ゴージャスなプレゼントを受けて、少年は、少年は。

 

 

「ああ、こっちに倒れてくる。」

 

 

「ああ、少年くん。少年くん。」

 

 

「……少年って、連呼するな。これでも……成人男子……だ。」

 

 

「あらら……鼻血出して倒れちゃった。」

 

 

少年はそのまま意識を失った。

 

 

そのとき、青年はいうと既にその場から離れており、セシリアからディープキスをされている少年の姿を見ながら、内心あの場所にいなくてよかったと安堵していた。




恭也たちのお仕事風景。
美姫 「にしても、マスコミのいる前でキスはまずいわね」
犯人の怒りは間違いなく、この少年に向かうな。
美姫 「成人しているから、少年ではないけれどね。それに、犯人はもう捕まったし」
まあ、そうだが。
美姫 「これから、どんな展開が待っているのかしらね」
次回を待っています。



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