海鳴の巫女      No.03「剣士、巫女に真相を聞く」

社務所に入ると、那美は恭也を畳張りの神棚のある部屋に通す。
 「それじゃ私と神城さんは着替えてまいりますので、少々お持ち下さい。」
 「ああ分かった。」
 どうやら宮司は外出しているようなので、那美は綾を一旦部屋に案内して、着替えてくるという。
 二人が出て行った後恭也は暫し瞑想に入る。退屈だからといって気を抜かないところは、この男らしいといえるかもしれない。
 やがて障子が開かれ、二人の人物が入ってくるのを気配で感じ、目を開ける恭也。
 「お待たせしました恭也さん。」
 那美の声にそちらを見た恭也は不覚にもそこで動作が止まってしまう。
 そこには先ほどの少女が二人立っていた・・・・但し服装が違っていたのだ。そう彼女達は巫女服を身に付けていたのだ。
 とはいえ、恭也は那美の巫女服は見慣れていたから、固まった原因は、隣にいる綾の姿のせいだった。
 あの黒髪を青の紐で結い上げてポニーテールにし、巫女服を着た綾は最初に見た時より、神々しさが増して見えた。
 「高町様?」
 自分達を呆けた顔で見る恭也を見て、綾は首を傾げて聞いてくる。ちなみに那美は彼のそんな姿にショックを受けていた。
 那美だって、初めて巫女服を恭也に見せたときは似合っていると褒められたことはあったのだが、見惚れてくれはしなかった。
 その恭也が綾の巫女服姿には見惚れているのだから、心中穏やかですむはずも無い。
 まあ自分が思いを向ける男性が他の女性にそんな反応を見せれば、大概の女性の心中はそうなるだろう。
 (そんなに神城さんの巫女服姿がいいのかしら?男性ってやっぱり美人の巫女服姿に弱いの?)
 ちなみに恭也本人の名誉の為に言っておくと、彼にそんな嗜好はない。ただ純粋に目の前に佇む綾を美しいと思っただけだ。
 「取り合えずお茶をお持ちしました・・・あの神咲さんもお座りになってくださいませ。」
 このままでは先に進まないと思ったのだろう、綾は那美を促して座ると、お茶を恭也の前に置く。
 続いて那美の前、最後に自分の前にと順番に置いてゆく・・・・その動作は優美でそつがない。
 (か、敵わないよ・・・・・私がやってもこうはいかない。)
 思わず心の中で涙する那美。彼女がやった場合、確実にお茶を零す事になるのは、自分でも分かっていた。
 「あの・・・・・神咲さん?」
 下を向いて何かぶつぶつ言い出した那美を見て綾が心配そうに聞いてくる。
 「あ・・・・はい、何でしょうか?」
 呆けた顔をして那美は思わず聞き返してしまう。
 「・・・・何かあったのか那美さん?」
 恭也も心配そうに聞いてくる・・・どうやら呆けていたのは一瞬の事らしい、流石は剣士といったところだ。
 「いえ何でもありませんよ恭也さん。」
 慌てて繕う那美。まさか恭也が綾を見つめていたので落ち込んでいたとは言えない。
 「そうか・・・・それならいいんだが。」
 そう言って恭也はお茶を飲む。どうやらそんな那美の思いなど気付きもしない様である、相変わらずな男である。
 一方綾の方もそんな場の空気に気付いていないようで、これまた優美にお茶を飲んでいる。
 どうやら彼女、他の事には鋭くても、色恋事に関しては相当鈍いらしい・・・ますます恭也にそっくりだ。
 そんな妙な空気を破ったのは恭也だった、但し本人はそんなつもりなどなかったが。
 「それで・・・俺に心してもらいたいというのは?」
 前置き無しで言葉を掛ける恭也。それに対し綾はお茶をゆっくりと畳に置くと、語り始める。
 「それにはまず・・・今海鳴で起こっている事件についてお話しなければなりません。」
 先ほどの事で落ち込んでいた那美も、慌てて佇まいを正すと、続けて言う。
 「それについては私が・・・恭也さん、先週市役所前で起こった多重衝突事故を覚えてますか?」
 「・・・ああ、あの事故か。」
 先週、自家用車や大型トラック数十台が、真夜中に衝突を起こし、何十人もの怪我人が出た事故は恭也も覚えている。
 「あれだけの酷い事故で、亡くなった人がよく居なかったと思ったが・・・それが何か関係が?」
 「はいあります。あれの事故原因は・・・ドライバーの運転ミスと言う事になってますけど。」
 那美が緊張した面持ちで、恭也の質問に答える。
 「真実は違います。まあ警察も最初は信じていなかったみたいですけど。」
 「・・・さっき『妖』と言っていた物が関係していると?」
 「流石高町様ですね、その通りです。」
 恭也が那美の言葉からそう推理して言った言葉に綾は感嘆した表情を浮かべ肯定する。
 「何しろ事故にあったドライバー全員が同じ物を見たと証言していますから・・・流石に無視できなかったみたいで。」
 那美の話によれば、警察はバカバカしいとは考えたものの、その可能性も否定出来ず那美の神社に相談してきた。
 そして後日那美が付近を見回った時、事故現場近くの公園でそれに遭遇した。
 「最初は何らかの霊象だと私は思ったんですけど・・・・違っていたんです、まさかあんな物だったなんて。」
 襲ってきたのは見たことも無い生き物・・・いや本当に生き物なのか那美には判断できなかった。
 「とっさに使った神咲の力では、大したダメージを与えられず逃げられました。」
 悔しそうに唇を噛む那美、霊象に関してはエキスパートの彼女としては相当悔しい出来事だったらしい。
 「『妖』は霊ではありませんから仕方がありませんよ神咲さん。」
 肩に手を置き綾が慰めている。確かに相手が霊象でなければ神咲の力も発揮しようがないだろう。
 「つまり『妖』は生き物の一種というわけか?妖怪みたいな・・・・・」
 恭也がその点を聞いてくる。相手が霊で無ければそう考えるしかない。
 「まあそういう類である事は確かです・・・ただ妖怪と違い単なる伝承では済まないのですが。」
 綾の話では、『妖』は彼女の住む桜木市一帯で主に出没している、人とは違うがれっきとした生き物だと言う。
 「ですが人の武器では傷一つつけられません、神咲さんの力でも追い払う事が精一杯です。」
 『妖』に対処出来るのは古代よりその力を受け継いできた『封印の巫女』のみ。
 「もっともその名の通り、封印することしかできませんが・・・・・」
 伝わっているのは封印する事だけで、消滅させるまでは至らない・・・・と綾。
 「消し去るのでは無く、封じるだけ・・・殺生をしない・・・というわけか。」
 恭也は『封印の巫女』が持つ力の意味を何となく分かった気がした。
 「そういうことですね・・・・でもそれに気付かれるとは・・・流石は高町様。」
 綾は再びお茶を口に運びながら、恭也を見て微笑みながら言う。
 まあ恭也にしてみれば、自分の剣技が、相手を的確に倒す事に特化しているのを知っているからこそ気付いたのだが。
 「・・・ところでその『妖』だが、先ほどの話だと桜木だけに現れるみたいだが、今回どうして海鳴に?」
 少なくてもそんな物が出没する話を今まで恭也は聞いた事が無い、桜木と海鳴では距離もかなり離れている。
 「その事なんですが・・・桜木の外から来た方が・・・封印された『妖』を持ち出して海鳴に持ち込んだようなのです。」
 過去に巫女達が封印した『妖』を複数収めた『封印石』と呼ばれる石柱を、金目の物と思って持ち出した連中がいたらしい。
 「山に県外から運び込んだ違法なゴミを捨てる為、穴を掘っていて見つけたらしいのですが・・・・」
 後日警察がその場所を発見し、神社に連絡が来た時には既に県外に運び出された後で、『封印石』の行方は分からなくなっていた。
 「ただ幸運な事に、犯人の一人が桜木に舞い戻ってきた所を捕まえることができ、その証言から・・・・」
 「海鳴に持ち込まれた、と分かったわけか・・・・・」
 綾の説明を引き取って恭也はそう言うとため息を付く、何時の世もこういう輩はいるものらしい。
 「でもそれだけでは警察も動きようがなくて・・・そうこうしているうちにあの事故が起きてしまった訳なんです。」
 那美がそこまで話すと一旦ため息を付いた後話を続ける。
 「神咲本家は事態を重視し、神社間のネットワークを通して、『妖』専門とする神社へ対処を要請する事にしたのです。」
 「そして私が海鳴へ派遣されて来たと言うわけです・・・・」
 那美の説明を綾が締めくくると、室内に沈黙が落ちる。時刻はPM5:00を過ぎ、黄昏が迫ってきている。
 「・・・で連中はどの位居るんだ?」
 恭也は腕組みをすると、綾を見て質問してくる。
 「持ち出された『封印石』にどの位封じられていたかは・・・・はっきりとは分かりません。」
 何でも無いように答える綾。恭也はそれを聞いて眉をしかめる。
 「どれほど居ようと・・・やる事は心得ていますから。」
 恭也の思いを察したのか、綾はそう言って微笑む。そこには己の使命に殉ずる一人の人間がいた。
 彼女がそこまで覚悟を決めているならば、自分は自分の出来る事をやるだけだな・・・恭也はそう考える。
 綾が使命を果たそうとするのを妨げようとする者から絶対に守り抜くということを。
 「わかった・・・・封印以外の事は俺と那美さんに任せてくれ、良いかな那美さん?」
 恭也の問いに那美が肯く、まあ恭也に関しては譲れないが、同じ魔を封じる者同士協力するのは当然だった。
 「それじゃ簡単ですけど夕飯を用意しますね。」
 綾と那美の二人が立ち上がり恭也に待つよう言うと、台所に向かう。なおこの時また那美がショックを受ける事になるのだが。
 「料理まで完璧だなんて・・・・・(泣)」と。
 
 この後、帰ってきた宮司を交えて食事を済ませた3人は夜の街へ向かった。
 ここに海鳴の夜の街を舞台にした闘いが幕を開ける・・・・
 



 あとがき
 すいません・・・結局会話だけで終わってしまいました、h.hiroyukiです。次回こそ・・・・・!

 で、話は変わりますが(笑)美姫様の巫女服・・・・見たかったです、ああイラストの無いのが恨めしい(笑)。
 あ、でもメイド服もいいかもしれないですね!!・・・・はっ!思わず錯乱してしまいました、お許し下さい。
 ちなみにうちの綾も巫女服で剣を持って常に歩いていますので、変ではないと思います美姫様。
 というわけで(?)綾も美姫様の妹分の一人として色々お教え下さると嬉しいです。
 ただ、SS執筆の強制の仕方は・・・・教えて頂かなくても結構ですので、というかお願いしますからお止め下さい(泣)。

 それでは。


闘う巫女さん奮闘記。
美姫 「綾が海鳴へと来た理由も語られ、いよいよ夜の街へと」
果たして、どんな出来事が三人を待っているのか!?
美姫 「次回も大変楽しみにしてます♪」
うんうん。所で、hiroyukiさん、美姫に教わらない方が良いですよ。
絶対に、ろくな事を教えませんって。それに、凶暴になっちゃいますよ……。
美姫 「浩〜。祈りは済んだ? 準備はOK? 今日はいつもよりもぶっ飛んでね♪」
い、いや、いや、いや……
た、助け……。
美姫 「問答無用! ぶっ飛んじゃえ〜!」
はきょりょぴょにょみょ〜〜!!



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