果てなく続く『世界の果て』に、一人の例外もなくうんざりし始めていた。

元々見上げるたびにその大きさにうんざりしていたのに、それに加えてリリスの駄々っ子モードを目にしている。

故にか、ケンの説得を受けたジャスティンでさえもうんざり度が増し、再び諦めモードが浮上してきていた。

そんな中で、うんざりしながらもまだ登る気力を見せている恭也は不味いのではないかと一人思っていた。

もしここでジャスティンたちが登ることを諦めてしまえば、歴史が大きく変わってしまうのではないか。

本の中の人物たちの事情には基本的に不干渉……という言葉を最初に聞いていながらもある程度関わってしまい、次いでそうなってしまえば笑うに笑えない。

そのため、どうにかしてジャスティンたちの登る気力というのを取り戻させようと試みるのだが、そのたびに……

 

「つまんな〜い! お腹空いた〜! 帰りた〜い!」

 

「……リリス、少し静かにしてくれないか?」

 

「やだ〜! 静かにしてたらもっとつまんないも〜ん!」

 

もう意図して邪魔しているのではと思えるくらい、リリスがタイミングよく喚きたてるのだ。

しかもそれに加えて構ってほしいのか、おんぶされた状態で暴れだす始末。

さすがの恭也もそれには怒りを通り越し、呆れ果てたような溜め息をつくしかなかった。

ちなみにだが、先ほどから姿の見えないケンはというと無謀にもリリスを嗜めようと試み、やたら威力の高い駄々っ子パンチを前に撃沈した。

 

「はぁ……なら降りるか? おんぶされたまま登るよりも自分の足で登ったほうが暇にならないだろ?」

 

「それもやだ〜! 歩いたら疲れる〜!」

 

どうしろと言うんだ……というように恭也は再び深い溜め息をついた。

そしてそんな二人に対してジャスティンたちも笑う気力さえ残ってはいない状況である。

そんな会話さえもなくなった皆の間でリリスの喚く声のみが響く中を登り続けること数時間後、突如皆の前におかしな現象が起こった。

それは、本来『世界の果て』に遮られて見えないはずの日の光が、突如皆を照らし始めたのだ。

起こるはずのないそんな現象にジャスティンたちや恭也はもちろん、喚いていたリリスさえも静かになって一様に驚きを浮かべる。

そして、一時思考が停止してしまった後に皆はそのわけに気づき、揃って顔を見合わせて喜びを浮かべあい、先ほどまでの足取りが嘘のように嬉々とした様子で駆け上っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヤミと剣士と本の旅人

 

【グランディアの世界編】

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駆け上っていった先にあったもの、それは壮大と言えるほど広大な景色。

先が見えないほどの森が『世界の果て』の反対側の地上に広がる……皆に言葉を失わせるには十分なほどの光景。

ジャスティンたちからしたら『世界の果て』の前に『霧の樹海』という森を通っているが、それでもその目は輝いてしまう。

それもそうだろう……『世界の果て』の名のとおり、世界はこの壁で終わっていると言われていた事実が否定された瞬間なのだから。

 

「見ろよ、皆……壁の向こうに、こんな広い大地が広がってるぞ」

 

「ええ……正直、最初に聞いたときには信じられなかったのだけど、本当だったのね」

 

「ああ……リエーテの言うとおり、やっぱり世界に果てなんてなかったんだ」

 

笑みが浮かぶこと抑えられず、喜びを露にするように拳を握る。

そして十分に喜びを感じた後、もっと近くで見るために下に落ちるギリギリのラインまで駆け寄っていった。

そんなジャスティンたちを若干後ろで見ていた恭也はリリスを地面に下ろし、微笑ましいものを見るような目で微笑を浮かべていた。

 

「いろいろあったが……登りきれてよかったな」

 

「そうね。 特にあの子たちにとっては歴史上で最初の難関だったわけだし、嬉しさも半端じゃないでしょうね」

 

「そやな〜。 まあ、途中いろいろと冷や冷やしたんやけど」

 

「あら、ケンちゃん……いたの?」

 

「リリスはん……それはさすがに酷い思うで」

 

元々リリスのせいで置いていかれた故に、その言葉に対して恨めしそうに睨むケン。

しかし、それをいつもの如くさらっと受け流し、リリスは疲れたというようにぐっと両腕を上に伸ばす。

まあ実際、リリスはほとんどおんぶされていたため疲れるはずなどないのだが、そこはまあ気分もあるのだろう。

 

「ん〜……さてと、壁も登りきったし、そろそろ帰りましょっか」

 

「いや待て。 そもそもページを探しに来たわけなのだから、ここで帰ったら意味がないだろう……」

 

「と、言われてもね〜……登ってみて分かったけど、ここにページは――」

 

「きゃあああああ!!」

 

リリスが言葉を言い切る前に、ジャスティンたちのいる方面からそんな悲鳴が聞こえてきた。

それに恭也はすぐさま視線を向けると、そこにはUFOキャッチャーの人形を掴むやつのような機械が飛んでいた。

そしてその機械が掴んでいるものは……悲鳴を上げた張本人であるスーであった。

スーを掴んだ機械は驚きを浮かべるジャスティンとフィーナ、そして恭也の目の前で『世界の果て』の向こう側へと移動し、あろうことかスーを下へと落としてしまった。

それに慌てて手を差し伸ばすが、結構遠い位置から落とされた上にすでに見えなくなっているため意味を成さず。

凄まじく高い『世界の果て』の頂上から一気に地面へと落とされれば普通に考えてただで済むはずもなく、スーの落ちていったほうを見ながらジャスティンとフィーナは愕然としてしまう。

が、そんな二人にお構いなく、一つ増えたキャッチャーは次の標的を二人に決め、逃げる間もなく二人を掴んで下へと落としてしまった。

もうその光景に恭也は言葉を失い、すぐさまジャスティンたちのいた場所へと駆け寄ろうとするが……

 

「はい、ストップストップ。 あそこに近寄ると、恭也まで落とされちゃうわよ?」

 

そう言いつつ肩を掴んできたリリスによって止められることとなった。

まるでジャスティンたちを見捨てるかの如く言われた言葉に、恭也はリリスへと非難の視線を向けて口を開こうとする。

だが、恭也が言葉を発するよりも早く、そんなリリスを弁護するようにケンがその口を開いた。

 

「まあまあ、リリスはんは説明せえへんから見捨てたようにも見えるやろうけど、これにはちゃんと理由があるんやよ?」

 

「む……そうなのか、リリス?」

 

「まあ、ねぇ……あまりに簡単なことだから説明しなかっただけで、ちゃんした理由くらいあるわよ」

 

「ふむ、ならいいんだが……ちなみにその理由というのはなんだ?」

 

「簡単なことよ。 あの子たちがここから向こう側に落とされることが、この本に描かれる事態そのものってだけだから」

 

リリスの語ることはつまり、あそこで助けたり恭也まで落とされたりしたら本の物語が変わってしまうということ。

本の出来事にはある程度しか干渉しない……その最初に述べた約束事を忠実に守った故の行動だったということだ。

そのため恭也は納得せざるを得ないのだが、実際干渉してはいけないから助けないというのはどうなのだろうと考えていたりもする。

干渉して世界が変わるのを避けるために助けることが出来ても助けないというのは、御神の剣士にあるまじき行動なのではないかと。

しかし、過ぎてしまったことを言っても仕方がないし、これが本の物語どおりということは少なくとも無事ではあるということから、この考えを奥へと仕舞いこむことにし、先ほどリリスが口に仕掛けた言葉を尋ねることにした。

 

「それで……さっき中断してしまったが、リリスは何を言いかけたんだ?」

 

「ふえ? ……あ、ああ、さっきの話ね。 いや、単にここにはページはないからって言おうとしただけよ」

 

「ふむ、そうか……って、待て。 ここにページが……ない?」

 

「ええ。 もっと正確に言うなら、この場面にはだけどね。 魔力の薄さを考えるに、この世界に迷い込んだページはもっと先の場面にあると思うのよ」

 

「なら、ここまで登ったのは無意味、ということか……」

 

「そうなるわね。 だから言ったじゃない……頂上まで登ってもページがあるとは限らないって」

 

「むぅ……しかし、ここにないならどうするんだ? 俺たちも壁の向こう側に降りるのか?」

 

「そんなわけないじゃない。 いちいち歴史を辿るよりも、一旦戻って歴史を進めたほうが早いわよ」

 

そう言うリリスに恭也は納得するように頷いて返す。

その後、恭也とリリス、そしてケンの三人は光に包まれ、視界が徐々に黒く染まってゆく。

そして光が晴れた後、三人の姿はなく……誰もいなくなった『世界の果て』の頂上には一陣の強い風が吹くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界に色が戻ったとき、三人の立っていた場所は打って変わって図書館世界。

このいきなり世界が変わることに最初こそ戸惑いがあった恭也ではあるが、もう最近では慣れてしまっていた。

そんなわけで図書館世界へと戻った三人の中でリリスは地面に開いたまま落ちている本へと歩み寄る。

そして、その本を拾い上げてう〜んと悩みを表すように唸りつつ、パラパラと本を捲っていく。

 

「ここでもない……ここでもない……はぁ、一体どこにあるのかしらねぇ」

 

「……今思ったのだが、本を捲るだけでどこにあるのかわかるのか?」

 

「まあ、この本の中に迷い込んでるっていうのが分かったから、一応は分かるわね。 本来の物語と変わってしまってる箇所を探せばいいわけだし」

 

と、こともなげにリリスは言うが、実際にそれ自体も簡単なことではない。

一冊の本だけでも何百ページとあるお話を慎重に読み進め、本来の物語と照らし合わせなければならない。

故に少しでも本来の物語を覚えていないと本来との違いを見逃してしまうことだってあるのだ。

だがまあ、伊達にリリスは図書館管理者を名乗っているわけではなく、図書館世界に存在する本の内容はあらかた覚えている。

故に見逃すということはないのだが、それでも慎重に読み進めないといけないため、結局のところ苦労はするわけである。

 

「……たるいわねぇ」

 

楽しい好きのリリスからしたら、そんな苦労の全てはその一言に尽きる。

しかしそれでも作業を止めたりしないのは……それが恭也の頼みだからである。

例えばの話だが、これがケンの頼みであるのならばきっぱり断ることはもちろん、拳が飛ぶことだろう。

だが、好意を抱いている恭也の頼みだからこそ、リリスは投げ出したりせずに作業を頑張るのである。

そんなわけでリリスは頑張っていたのだが、止まることのなかったページを捲る手がある場所に差し掛かった辺りで突然止まることになった。

 

「ここまででないってことは……はぁ、やだなぁ、ガイア戦争の辺りに迷い込んでるってことじゃない」

 

「あ〜、それはややなぁ。 あないな危ない時期に行かないかんとなると、気が滅入るわぁ」

 

「ガイア戦争?」

 

「……ああ、そういえば兄さんは知らんのやったな。 しゃあない、ワテが丁寧に説明するさかい、よう聞いてや」

 

説明好きなのはいいが、そうなるたびに偉そうになるのは如何なものか。

ちょっとムカッときた気持ちを抱きながらそう思うも、それをなんとか抑えつつケンの話を聞くことにした。

 

「まずはガイアについてやけど……ガイアいうんは、人間が精霊の力を借りずに己の欲望だけで精霊石を使おうとした結果、人の欲望いう闇を精霊石が吸収し、変質した異形の怪物やな」

 

「あ〜、すまん。 精霊石というのは何なんだ?」

 

「精霊石いうんは〜……まあ簡単に言うと、人と精霊の約束の証やな」

 

「ふむ……」

 

「と、話の続きやけど……そのガイアいうんがずいぶん前に封印されてたんやけど、それを復活させて世界を我が物にしよういう輩が出てはったんや。で、それが発端でガイアが復活して世界を巻き込む結果になった事態が、総称してガイア戦争ゆうわけや」

 

「なるほどな……それで、さっきまでの話を聞くとページがその場面に迷い込んだ可能性があるってことなのか?」

 

「そういうことやなぁ……ま、リリスはんが見逃してるゆう可能性もあるんやけぐぇっ!?」

 

言葉を最後まで言い切る前に、本から放した片手でケンが強く掴まれる。

それにヒキガエルが潰れたような声を漏らすケンを、リリスは自分の目の前まで持ってきて怖い目で微笑む。

 

「ケンちゃ〜ん? さっきの言葉が聞こえなかったんだけど、もう一回言ってくれるかなぁ?」

 

「い、いやや……」

 

「へ〜……そこで拒否するってことは、私の悪口を言ったってことでいいのかなぁ?」

 

「ぐぇぇ……く、苦しい」

 

ギリギリと握る力を強くされ、ケンの顔色が黄から赤へと代わり、次いで青へと変わっていく。

まるで信号の如く目まぐるしく変わる顔色にリリスは、それすらも楽しむようにどんどん力を強める。

 

「ふふふふ……次は一体、何色に変わるのかしらねぇ」

 

「もう変わらへぐえぇぇ……ガク」

 

遂にはその圧迫感に気絶してしまうケンを、リリスはつまらなそうな目で見た後にポイッと後方に投げ捨てる。

そして、ケンを掴んでいた手を本へと添え直し、先ほど以上に慎重にパラパラとページを捲りだす。

ケンにはあんな仕打ちをしたが何気に気にしているらしい、というのがその行動から窺え、恭也は少しだけ苦笑した。

その後、ケンがやっとこさ復活してきたのとほぼ同時に、リリスはページの迷い込んだと思われる箇所を見つけ出したのか、あっと声を上げる。

 

「む、見つかったのか?」

 

「ええ……一応、ね。 でも行きたくないなぁ……」

 

「そないに厄介なとこやったん、リリスはん?」

 

「厄介も厄介、すっごい厄介な場所よ……」

 

「は〜……リリスはんがそう言うゆうことは、よほどの場所なんやなぁ。 で、ちなみにそれってどこなんでっか?」

 

「……崩壊後のジールパドンよ。 そこに現れたガイアバトラーが桁外れの力を発揮してるって記述されてるわ。 たぶん、ページを身体に取り込んで魔力等を増幅させたのでしょうね」

 

本当に嫌そうな顔をするリリスの説明に、聞いていたケンの顔も嫌そうに顰められる。

そんな中でその世界の物語をほぼ知らない恭也が不思議そうに首を傾げるというのはまあ、仕方の無いことだろう。

 

「……でもまあ、行かないと駄目よねぇ。 激しく遠慮したいけど……」

 

「……そんなに嫌な場所なのか?」

 

「嫌な場所っていうか、場所そのものは別に嫌じゃないわ……崩壊した後の街ってだけだから。 ただ、このガイアバトラーっていうのが気持ち悪い姿しててねぇ……正直、出来るなら見たくないっていうのが本音ね」

 

語るリリスの嫌そうな顔がどんどん深められるのを見ると、本気で嫌なのだということがよく分かる。

故に恭也はページを集めないといけないと思う反面、嫌がる女性に無理をさせるのもなぁと困り顔を浮かべてしまう。

そんな恭也の困り顔からその思考を瞬時に読み取ったリリスは、珍しく慌てたように首を横に振って口を開いた。

 

「ま、まあページ探しの手伝いは私が言い出したことでもあるし、今更止めたいなんて言わないから安心して」

 

「むぅ……だが、ここに行くのは嫌なのだろう? だったら俺だけでも……」

 

「だから大丈夫だってば! 確かに嫌ではあるけど、恭也のお願いでもあるんだから無理してでも行くわよ!」

 

慌てえていた故か、かなり大胆なことを言ってしまった後に気づき、顔が若干赤くなる。

だが、鈍感朴念仁である恭也がそんな一言で気づくわけもなく、ただ小さく微笑んで感謝を言葉にする。

気づいてくれなかったことにちょっとだけがっかりする反面、微笑を直で見て赤かった顔が更に赤くなるのを自覚する。

そしてそのことにやはり気づかぬ恭也が不思議そうに首を傾げる中、居心地悪そうにしていたケンが咳払いをして口を開いた。

 

「オホンッ……まあ、場所のわかったことやし、早速そこにいくとしましょうや」

 

「そ、そうね。 ケンちゃんもたまにはいいこと言うじゃない」

 

「たまに、は余計や……」

 

意味はないと思いながらも反論して、無視するリリスにやはり意味はなかったと悟るケン。

とまあそのケンの一言によって(というのかどうかは分からないが)、とりあえず恭也たちは開かれたその場面へと行くことになった。

先ほどまでいた『世界の果て』からかなり時間が流れた場面である……崩壊した後のジールパドンという街へと。

 

 


あとがき

 

 

今回は結構短めでお届けいたしました〜。

【咲】 ほんとに短いわね〜……。

ま、まあ……仕方ないんですよ。 重要部分だけを載せたらこうなったわけですから。

【咲】 じゃあ、重要じゃない部分も載せればいいじゃない。

それは〜……ネタが思いつかんかった。orz

【咲】 まったく……ほんと駄目作者ねぇ。

うぅ……。

【咲】 で、今回で世界の果て編は終わったわけだけど、次はずいぶんと時間が飛ぶわねぇ。

崩壊後のジールパドンだからねぇ……世界が混沌と成り始めた真っ只中だよ。

【咲】 ていうかさ、なんでそこにしようとなんて思ったわけ?

いや、ページが齎す世界の影響を考えると、どうしても介入すれば歴史に影響を与える部分しか出てこなかったわけで。

【咲】 ……あそこも十分歴史的に重要だと思うけどね。

むぅ……でも、他の部分に比べるとまだマシ……かな?

【咲】 聞き返すな!!

げばっ!!

【咲】 たくっ……で、つまるところ次回からはそこなわけだけど、これも長いわけ?

つつ……いやぁ、世界の果て編よりもかなり短い。 というか、たぶん後一、二話……多くても三話くらいだと思う。

【咲】 そう……じゃあ、グランディア編もそろそろ大詰めってことね。

そうなるかな……じゃ、今回はこの辺にて!!

【咲】 また次回も見てね〜♪




ようやく登りきったと思ったら。
美姫 「肝心のページがないとはねぇ」
しかも、ようやく見つかったページは何かとんでもない所にあるみたいだし。
美姫 「無事に回収できるのかしら」
一体何が待っているのかな。
美姫 「次回も待ってますね」
待ってます!



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