『An unexpected excuse』
〜ミラ編〜
「俺が、好きなのは……」
「面白そうなことをしてるわね、恭也」
恭也が名前を言おうとしたときに、それを遮るように冷めた声が聞こえてくる。
その声に物凄く聞き覚えのある恭也は声のしたほうに振り向いて驚きの顔を浮かべつつその人物の名前を叫ぶ。
「ミラ!? ど、どうしてここに……」
恭也の動揺ぶりにFC+αの面々はミラと呼ばれた人物に顔を向ける。
薄い青色をした長髪になぜかゴスロリを着ており、少し幼く見えるが浮かべている笑みからはどこか大人びた感じのする少女。
それが皆が見たミラに対しての第一印象だった。
「あなたが忘れ物をしてたから困ってると思って届けに来たのよ。 まさか、こんな状況になってるとは思いもしなかったけどね……」
ミラはFC+αの視線など気にした風もなく、変わらぬ冷めた声でこう言う。
その声から明らかに怒っていることがわかるのだが、鈍感朴念仁の恭也にはなぜ怒っているのかまるでわからなかった。
「とりあえず……はいこれ」
「あ、ああ」
恭也に近づいて手に持っているノートをミラは差し出し、恭也は戸惑いながらも頷いて受け取る。
恭也がノートを受け取ったのを見てからミラは、じゃあ、と呟いて恭也へと詰め寄り、笑みを浮かべて問いただすように口を開く。
「説明してもらえるかしら? この状況について」
「な、何をそんなに怒ってるのかわからないが、とりあえず落ち着いてくれ」
「怒ってる? 私はこんなにも笑顔じゃない」
そう言って更に笑みを深めるが、誰がどう見ても怒っているようにしか見えない。
そんな笑みを浮かべたまま答えろと言わんばかりにズイッと詰め寄るミラに恭也は困り顔で一歩後ずさる。
その二人に皆は二人の関係について気になりつつも口を出せずにただ成り行きを見守っている。
まあその中でただ一人、恭也とミラの関係を知る美由希、レン、晶も小さく苦笑を浮かべつつ口を出さずにただ見ているだけだった。
「さあ、恭也。 早く白状しちゃいなさい」
「白状といっても……別に不純なことをしてたわけじゃないし」
「私というものがありながらこんな大勢の女をはべらせて不純なことじゃないと?」
「はべらせてって……そんなつもりは」
「ないと? この状況を見る限りではその言葉は説得力に掛けるわよ」
「あ〜……」
更にズイズイと詰め寄りながら言ってくるミラに恭也はどう言ったものかと考える。
が、こうなったミラはどう言っても無駄だということが今まででよく分かっている。
故に恭也は言葉での説得を諦めて行動に出るし、詰め寄ってくるミラの背中に両手を回して抱き寄せる。
「ちょ、恭也! こんなことじゃ誤魔化されないわよ!」
「誤魔化すつもりなんてないんだが……」
若干抵抗を見せるように暴れるミラを離さぬように恭也は強く抱きしめる。
そしてその状態のままFCたちのほうを向いて先ほどの答えを口にする。
「俺の好きなのは、ここにいるミラだ」
予想していた通りの恭也の答えにFCたちは納得したように頷いてその場を去っていった。
FCたちが去った後、妙に大人しくなったミラに視線を向けるとミラはどういうことと言うような顔で恭也を見ていた。
そんなミラに恭也は簡単に事情を説明するとミラは申し訳なさそうな顔で謝罪を口にする。
その謝罪に恭也は、気にしてない、と小さく言って抱きしめたまま片手で優しく頭を撫でる。
撫でられる心地よさにミラは目を細め、まるで猫のように恭也に擦り寄る。
そんな二人に忍と那美はミラについて聞きたいと思いながらも邪魔をするのも無粋かと思って静かにその場を後にする。
美由希たちも同じ思いなのか去っていく二人についていくようにその場を去り、校舎へと戻っていった。
自分とミラ以外の者がいなくなっていることに後になって気づいた恭也は気づけなかったことに、修行不足だな、と思いながらミラを抱きしめつつその場に腰を下ろして頭を撫で続ける。
「恭也の手、気持ちいい……」
「どうしたんだ? いつにも増して甘えてるみたいだが」
「たぶん、さっきのが効いてるんだと思うわ。 知ってはいたけど、恭也がもてるんだって改めて実感したから」
「そんなことはないと思うんだが……」
「恭也の言うことは当てにならないわよ。 すごく鈍感なんだから」
「むぅ……」
笑みを見せながら言われた言葉に恭也は唸りながら憮然とした顔をする。
そんな恭也にミラはやはりクスクスと笑いながら再度抱きついて恭也の胸に擦り寄る。
猫のときのように擦り寄り甘えるミラに今度は恭也が苦笑して先ほどのように優しく頭を撫でる。
だが、しばらくしてからミラは少しだけ恭也から離れて表情を一転させ、沈んだような顔になる。
「それにしてもだめね、私……恭也しかいないって思うと、あんなにも嫉妬深くなっちゃうなんて」
「そんなことはないさ。 不謹慎かもしれないが、嫉妬してくれることは俺としても嬉しいしな。 それに、ミラは勘違いをしてるぞ」
「勘違い……?」
「ああ。ミラはもう俺だけじゃないだろ? 美由希もいる、母さんもいる、なのはもいる、晶も、レンも、今はいないがフィアッセも……ミラにとって家族と呼べる人がこんなにもいるじゃないか」
「家族……なのかしら」
「家族だよ。 少なくとも、皆はきっとそう思ってくれている……もちろん俺も、な」
「ありがとう……でも、家族と言われてもやっぱりよく分からないわね。 元々アイザックに作られ実験に使われるだけの存在だった私には縁のないものだったから」
「だったらこれから知っていけばいい。 時間はまだたっぷりあるのだし、ミラはもうそれだけの存在じゃないんだから」
「そう、よね……」
「ああ。 ミラはもうちゃんとした人間だ。 そしてさっきも言ったが、れっきとした俺たちの家族だよ」
その言葉にミラは嬉しそうに頬を緩めて笑みを見せる。
だが、すぐにそれを少しだけ悪戯っぽい笑みに変えて口を開く。
「でも、だったら恭也は皆と同じというのは駄目」
「駄目、なのか?」
「ええ。もっと上……それ以上の関係がいいわ」
「それ以上……」
「わからないの?」
これだけ言っても分からないのかとミラは若干の上目遣いで聞く。
それに恭也は冷静さを保ちながらも少しだけ焦りつつどこか自信なさげに口を開く。
「いや、そういうわけじゃないんだが……俺で、いいのか?」
「恭也なら……ううん、恭也じゃないと駄目なの」
「そうか……じゃあ」
恭也はそこで一旦言葉を切ってミラに顔を向ける。
そのまま視線を逸らすことなく交わらせながら口を開き、静かにその言葉を紡いだ。
「俺と、結婚してくれ……ミラ」
「はい……喜んで」
恭也の口から紡がれた言葉にミラは頬を染めてそう返す。
そして二人は静かに見つめ合う中、一陣の風がそよぐと共に顔を近づけあって唇を重ねる。
その口づけはまるで互いの温もりを確かめ合うかのように長く、そして次第に濃厚なものへと変わっていく。
その後、長く続いた口づけを終えると二人はしばし見つめ合い再度抱きしめ合う。
口づけと同じく互いの温もりを感じ合うように強く、だけど優しく、しばしの間そんな風に二人は抱きしめ合っているのだった。
その数ヵ月後、恭也は風ヶ丘を卒業すると同時にミラと結婚した。
タキシードとウエディングドレスを纏い、皆に祝福されながら結婚式を挙げたときの二人の表情はこれ以上にないほど幸せそうなものだったという。
そしてその更に一年後、二人は二児の子供を授かり、騒がしくも明るい家族に囲まれて幸せな毎日を送り続けるのだった。
<おしまい>
あとがき
初めて浩さんのこのシリーズに手を出してみました。
【咲】 短すぎるわ!!
げばっ!!
【咲】 まったく……手を出すなら出すでもうちょっと長く書くとかしたらどうなのよ。
う、うぅ……これでもがんばったんですよ?
【咲】 じゃあ頑張りが足りないのね。
ひ、酷い……。
【咲】 で、これってどういう設定なわけ?
あ〜、簡単に言えばメントラの設定そのままだな。 ただ、時間の流れをかなり弄くってるのとIFの話であることが違うところかな。
【咲】 時間を弄ったのはわかるけど、IFってどういうことよ。
つまりだ、メントラ本編では恭也はあっちの世界に戻ったけど、もし戻らずにこっちで生きていくことに決めたなら……そしてもしその際にミラもついてきたなら……という、もし、の世界なんだよ。
【咲】 なるほどね。
実際のところ、このIFの話はメントラとは別に書こうかなとか考えてたんだけど、まだメントラ2が終わってないのにこれ以上増やすのはどうかと思って今のところは断念した。
【咲】 というかこの話を長編にするとミラがいるだけでメントラとはまったく別物になるわね。
まあ実際別物だしな。
【咲】 ちなみに、最初はミラ編ってことだけど、他には誰か書く気なの?
そうだな〜。 あるにはあるけど、あのキャラはメントラ2をある程度進めてから出したほうがいいかなと。
【咲】 ふ〜ん。じゃあ、本編の更新がんばんなさい。
うぃ。では、今回はこの辺で!!
【咲】 また次で会いましょうね〜♪
ああ〜、長くされると自分が書くときに困る!
美姫 「って、滅茶苦茶自分勝手な言い分!」
あははは。冗談だって。それは兎も角、まさかこのシリーズの投稿が来るなんて。
美姫 「しかも、メンアットからだものね」
うんうん。でも、さすがのミラも恭也相手には雷は落とさないんだな。
美姫 「まあ、こんな所でそんな真似をしたら結構な惨事になるしね」
確かに。他キャラの参戦があるのかどうか。
美姫 「とりあえず今回はこの辺で」
ではでは。