『An unexpected excuse』
〜キャサリン編〜
「俺が、好きなのは……」
そこまで言いかけて、恭也の脳裏には彼女のことが浮かぶ。
彼女の笑った表情が、悲しみの表情が、怒ったときの表情が、次々と鮮明に浮かび上がる。
今だ色あせず脳裏に残る彼女との思い出は、恭也の胸を強く締め付ける。
そんな痛みに耐えながらも、辛そうな表情で言いかけていた言葉の続きを言う。
「いる……ということで納得してくれないか」
辛そうな表情で口にする恭也にFC+αの面々は誰かと追求はできずに頷く。
それに恭也は小さく、ありがとう、と口にするも表情は先ほどからまったく変わることは無い。
恭也はその表情のまま、FC+αの面々から視線を外して空を見上げる。
空を見上げるその視線はまるでその先を見ているような視線。
今も恭也の心を占めている彼女がいるであろう場所を見ているかのような視線だった。
FC+αの面々は空を見上げる恭也にそれ以上何も言えず、邪魔をしないように静かにその場を去っていった。
皆が去った事にも恭也は気づかずに、しばらくの間ずっと、ただ空を見上げ続けているのだった。
―恭也' View―
そんなことがあった日の夜、俺は昼間と同じように縁側に座って空を見上げていた。
忘れていたわけではないが、あれからもう一年近くも経つのだと改めて実感してしまう。
そう……君と出会ってからもう一年近くも経つのだと。
「キャサリン……」
君の名前を呟いてみると、やっぱり俺の胸は強く締め付けられる。
それほどまでに、俺は君のことを愛していた。
でも俺はこんなにも君を愛し、守りたいと思っていたのに、君を救うことができなかった。
守りきれなかった俺を君は恨んでくれてもおかしくはないはずだった。
なのに君は恨むどころか、死ぬ最後まで微笑みを浮かべて俺に感謝の言葉を口にしていた。
「ありがとう……か」
最後に君が零れ落とすように口にしたその言葉に今も俺は胸を痛める。
なんで、君を守れずに死なせてしまった俺に幸せだったというような笑みを向ける?
恨み言を言われたほうがよっぽど楽だったのに、なぜ君は俺に感謝の言葉を口にする?
分からない……いや、本当はわかっているんだ。
君が最後まで俺といることができて幸せだったと。
俺と出会って、愛し合ったあの日々がとても充実した幸せな日々だったのだと。
俺だって君と出会えて、愛し合って、この上ないほど幸せを感じていた。
だが、それが結果として君を死なせることになってしまった。
「俺と君は……出会うべきではなかったのかもしれない」
だから遂、そんなことを思って口にしてしまう。
出会わなければ、君は死なずに済んだのかもしれない。
そうでなくとも、きっとこんな気持ちになることはなかった。
だが、俺たちは出会ってしまった。
それはきっとほんの偶然であり、俺たちの運命だったのだろう。
変えたくても変えられない俺たちに定められた運命。
忘れたくても忘れられない、俺たちの幸せだった日々。
そこで俺は、学園を出るときにフィリス先生に言われた言葉を思い出した。
「忘れようとしないで……受け入れる」
君を愛したことも、失ったことも、俺の人生にとって大切なこと。
だから残酷だけど、忘れようとしないで受け入れて欲しい。
フィリス先生のその言葉は、悲しみに沈む俺を前に進ませるための言葉。
あの言葉があったから、きっと今の俺があるのだろう。
きっと俺は、残りの人生を歩む中で再び誰かを愛するかもしれない。
でも俺はその言葉通り、誰かを好きになっても君のことを忘れたりはしない。
そう思って、俺は見上げていた空に再び意識を戻した。
すると、幻かもしれないけど、その空の向こうで君が俺に微笑みを向けてくれているのが見えた。
その微笑みを浮かべながら小さく口を動かす君の唇をなぞるように、俺は精一杯の笑みを浮かべてその言葉を口にした。
「幾星霜を経ても、変わらぬ愛の誓いを」
生涯忘れることのない君との絆の言葉を……。
あれから一年後、俺は風ヶ丘を卒業すると共にあの学園へと赴いた。
命を掛けてまで守ったキャサリンの意志を継いで、これからは俺がその学園の講師となって学園を守るために。
幸いにも、学園の戦闘術の講師がちょうどいないということで、俺はすんなりと講師になることが出来た。
そして今は、キャサリンが愛した学園で多くの生徒たちに囲まれながら充実した毎日を送っている。
そんな毎日の中でも、俺は毎週決して欠かさないことがある。
それは、俺が学園を去ってから建てられたキャサリンのお墓参り。
「今日も来たよ……キャサリン」
キャサリンの墓前で俺は微笑みを浮かべながらそう言って、簡単にキャサリンのお墓の周りなどを掃除する。
そして供えられている花を新しいものに変え、目を閉じて手を合わせてからゆっくりと目を開いて口を開く。
「キャサリン……君の守り抜いた学園は、今日も平和だ。 君が望んでいた、生徒たちの声で賑わう学園になってる」
墓前に立った俺がいつも欠かさないことは、学園の現状報告。
それと簡単に二つ三つ話をして、いつもはそこで終わる。
だが、今日はキャサリンにどうしても伝えたいことが俺にはあった。
「それと、この間話した君の孫に当たるフィリス先生の娘のメルフィナという生徒のことなんだが……彼女は、ほんとに君によく似てる」
似ている、といっても容姿もまったく違えば性格も違った。
でも、彼女の姿を見るたびに、君の面影を感じずにはいられない。
「だからと言って、彼女が好きだというわけじゃない……君の面影があるから好きになるというのは失礼だからな」
だけど、メルフィナの姿を見つけるたびにその姿を目で追ってしまう自分がいる。
それはきっと、君の面影に俺がまだ囚われているという証拠なのだろう。
「だがこれから先、もしかしたら好きになるかもしれない。 そうなったら君は、一体なんて言うんだろうか」
問いかけるように俺はそう言うが、もちろん答えが返ってくるとは思わない。
だから俺は小さく苦笑して入れ替えた古い花と水の入った桶を手に持って立ち上がる。
「じゃあ……また、来るよ」
そう言ってお墓に背を向けて歩き出した俺に、不意に君の声が聞こえてきた。
あのときと変わらず優しくて、温かい、まるで包み込むような声で……
『恭也が幸せになれると思う道を、歩んで……』
そう、俺に語りかけてきた。
俺はその声に後ろを振り向くが、そこには変わらず君のお墓があるだけ。
だけどその声が聞こえたのはきっと本当のことだと思うから、俺は呟くように、ありがとう、と口にして再度歩き出した。
歩き出した俺の視線を向こうには、俺がこの時間ここにいるとわかっている二人の人物、フィリス先生とメルフィナの姿があった。
二人は微笑みを浮かべながら俺を迎え、俺は同じように微笑みを浮かべながら歩み寄っていった。
俺はこの先、メルフィナを好きになるかもしれないし、もしかしたら他の誰かを好きになるかもしれない
だけど俺は、君のことを決して忘れたりはしない
君と過ごした日々はいつまでも、俺の中で色あせずに残り続けるだろう
―――――幾星霜を経ても、変わらぬ愛の誓いを―――――
この君との絆の言葉が、俺の胸にある限り……
<おわり>
あとがき
【咲】 なんでいきなりキャサリンなわけ?
いや〜、ネタ詰まりでメンアット4をやり直してたらすごく書きたくなった。
【咲】 いや、それはわかるけど……だからってなんでキャサリンなのよ。
なんで、というと?
【咲】 あんたがキャサリンを気に入ってるのは知ってるけど、どっちかって言うとキャサリン<リィナじゃない。
まあ、そうだな。 キャラ的にいうならリィナのほうが好きだけど、でもストーリー的にいうならキャサリンが好きなんですよ。
【咲】 へ〜……でもキャサリンエンドって。
おっと、そこはストップだ。
【咲】 なんでよ。
メントラ2でもうすぐキャサリンのストーリーに突入するからな。 ここで言っては見ている人の楽しみが半減するかもしれん。
【咲】 いや、この作品でめっちゃネタバレしてんじゃない。
あ〜、まあそうだけど、詳細はなるべく暈してるだろ?
【咲】 まったく。
そ、そう?
【咲】 腕なしが暈したところで暈しになってないのよ。
う、うう……。
【咲】 まあ、それはいいとして、前回言ってた次に書くキャラっていうのはキャサリンのことだったの?
んにゃ、違うよ。 これはやり直してたら書きたくなっただけ。 本当に書きたいのは、君もさっき言ったキャラだよ。
【咲】 さっき? ……ああ、リィナね。
そげそげ。 まあ書くにしてもいつになるかはわからんけどな。
【咲】 ふ〜ん……まあ、メントラ2の執筆が遅れなければ問題はないけどね。
さいか……では、今回はこの辺で!!
【咲】 また会いましょうね〜♪
これまた一風変わった感じだな。
美姫 「こういうのも良いわよね」
だな。落ち着いた感じというか。
美姫 「故人を想い、それでも前へと進んでいかなければならない」
いやー、本当に良い雰囲気でした。
美姫 「次はリィナらしいわね」
次はどんな風になるのか楽しみにしてます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」