「ここが御崎町か……」

 

満月が町を照らす夜。

とあるビルの屋上に青年―恭也は立っていた。

恭也の視線はまっすぐにその町、御崎町へと向いている。

 

『珍しいな……お前が感傷に浸るのは』

 

「ふ……俺とて柄でもないということは承知している。 だが、こういう町を見るとどうしても……」

 

『故郷を思い出すか……いや、故郷であった場所を』

 

「ああ」

 

町に向けていた視線を空へと移す。

空に浮かぶのは散りばめられた星々と町を照らす満月のみ。

それらを見ながら恭也は無表情のまま呟く。

 

「もう少し……あともう少しで――にたどり着く」

 

そこで視線を再度街へと移す。

町を見るその視線はある一点を射抜くように見つめる。

 

「お前たちの仇は必ず……討つ」

 

呟きと共に恭也の姿は屋上から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

復讐に狂う黒衣の鬼神

 

第一話 御崎に降り立つ復讐鬼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とてつもないほどの違和感。

本来この世にいるはずのない者が存在しているという、違和感。

それを少女―シャナは感じた。

それは存在の力を繰り、この世に干渉する者の気配。

それは何かがこの地、御崎町に来たということ。

 

「シャナっ、今!」

 

「わかってる」

 

同じものを感じたのか隣にいた少年―悠二が声をかける。

悠二のかけた言葉にシャナは短く返すとすぐに悠二から若干離れ封絶を張ろうとする。

いつものシャナなら違和感を、気配を感じただけではすぐに封絶を張るなどはしない。

ならなぜ今、封絶を張ろうとするのか。

それはその気配が急速に接近してきているから。

ただそのことはシャナだけでなく悠二も感じていた。

だが、シャナはそれと同時に嫌な予感を感じていた。

だからすぐさま封絶を張ろうとした。

しかし……

 

「!?」

 

陽炎の壁が周囲を覆う。

その封絶はシャナが張ったわけではない。

それは見るだけで解る。

封絶はそれぞれによって炎の色が違う。

シャナが紅蓮であり、マージョリーが群青であるように。

だが、今張られた封絶の色はそのどちらでもない。

 

「黒い、封絶?」

 

『これは……まさか!』

 

シャナの首から掛けられている神器、コキュートスから声がする。

それはシャナと契約した紅世の王、アラストールの声。

アラストールの声からは驚きと焦りのようなものが聞いて取れる。

それは珍しいことだった。

だが、同時にそれほどの者が近づいてきているということでもある。

 

「お初にお目にかかる、“炎髪灼眼の討ち手”……そして、“天壌の劫火“アラストールよ」

 

闇夜の空から降り立ったのは、歳にしてまだ若く見える黒衣の青年。

身に纏う黒衣のコート、そして首から下げられたコキュートスよりも大掛かりな首飾りが大きな特徴。

二人の前に降り立ったその黒衣の青年は射抜くような視線を二人に向けている。

 

「アラストール、こいつら誰?」

 

『“闇の獣神”ケイトルファ、そしてそのフレイムヘイズ、“闇刃の狩り手”だ。 だが、“闇刃の狩り手”は滅んだはず……』

 

『新たな契約者を見つけたのだ、“天壌の劫火”』

 

アラストールの疑問に答えるように青年の首から下げられた首飾りが声を発する。

 

『“闇の獣神”……貴様は、また『あのとき』の再現をしようというのか!?』

 

『どうだろうな。 確かに私とて『あのとき』の狂気を無くしたわけではない。 だが、今のところは我が契約者が望むままに動くだけだ』

 

『望み……だと?』

 

「復讐だよ、“天壌の劫火”」

 

それほど声量があるわけでもない。

だが、青年の口にしたその声は、言葉は、周りに響き渡るかのように放たれた。

そこには一つの感情が見え隠れしている。

その感情とは紛れもない……憎悪。

 

「復讐?」

 

「ああ。 復讐だよ、“炎髪灼眼の討ち手”。 そのために俺はこの町、御崎町にきた」

 

「復讐するのとこの町にくるのとどういう関係があるんだ?」

 

それは悠二の純粋な疑問。

だが、その疑問もこの町の今の状況を見ればわかることだった。

 

「紅世の徒、王、そしてフレイムヘイズが頻繁に出没するから……」

 

悠二の疑問にシャナは答える風ではなく、独り言のように呟く。

それを聞いた青年はそうだとばかりに頷く。

 

「ならば、俺がお前たちの姿を出した理由、わかるな……」

 

黒衣のコートの右側をまくり、そこに携えた刀―小太刀に手を掛ける。

そして目を細めて二人を射抜くように視線を向けたまま

 

「答えてもらおう。 “白戒”という真名に聞き覚えはないか」

 

そう尋ねる。

声にも、その尋ねる目にも凄まじいほどの殺気が込められている。

シャナも、悠二も、その目にぞっとする。

悠二に至っては足が震える。

それほど殺気を向けられて腰が抜けないだけたいしたものだろう。

 

「……ない」

 

『我も聞かぬ名だな』

 

「そうか……」

 

青年は呟くように言うと目を閉じる。

そして次にその目が見開かれ、放たれた言葉に二人は、いや、三人は驚愕する。

 

「ならば用はない。 ここで消えろ、“炎髪灼眼の討ち手”」

 

「っ!?」

 

悠二には見えなかった。

だが、シャナはかろうじて見えたその動きに反応し、贄殿遮那を抜きそれを受け止める。

受け止めるシャナの眼と髪はいつのまにか紅蓮に染まっていた。

 

「シャナ!」

 

「来ない……で!」

 

青年の小太刀と刃を交えながら、駆け寄ってきそうな悠二を制止する。

その声はどこか苦しそうで、辛そうな声。

 

「あれを受け止めるか……さすがだが、このままでは長くは持たないぞ?」

 

「く……」

 

徐々に、徐々にシャナは押されていた。

ただ刃を交えているだけ。

それだけなのにシャナは辛そうな声を漏らす。

剣士としての、フレイムヘイズとしての力の差を感じているから。

悠二はそう思った。

だが、それは違った。

悠二の考えを青年の言葉が否定したのだ。

 

「『闇刃』は刃を交えた者の力、存在の力を奪う。 このままだとお前は完全に力を奪われ消滅は必至。 さあ、どうする?」

 

それは紅世の徒、王、フレイムヘイズにとって脅威となりえる力。

長く交えていればいるほど存在の力を奪われる。

ならば、離れればいいという考えは青年には通用しない。

離れようとしても青年がそれを許さない。

 

「このまま消えるか? ここで終わるか、“炎髪灼眼の討ち手”?お前はその程度なのか?」

 

「く……あ…」

 

シャナは肩膝をつく。

どんどん奪われていく。

存在の力が奪われていく。

 

「残念だよ」

 

失望したかのように青年は呟く。

そしてさらに小太刀を持つ手に力を加えていく。

 

「やめろっ!」

 

悠二は駆け出した。

シャナの来るなという言葉を破り、シャナへと駆け出した。

シャナを助けるべく駆け出した。

それは愚かな行為。

この場に他の誰かがいたのならばそう思うだろう。

 

「死に急ぐか、“ミステス”」

 

青年は愚かしいものを見るかのようにシャナから悠二に視線を移す。

そして、同時にシャナを押さえ込んでいる小太刀から片手を離し懐から小刀を取り出し投げようとする。

 

「だ……め」

 

「む?」

 

「悠二は・・・・・やらせない!!」

 

それは片手を離したからなのか。

それとも意識が駆け寄ってくる悠二に向いたからなのか。

それはわからない。

ただあるのは刃を交えているシャナの手に力が篭ったということ。

徐々にではあるが、ついていた片膝を上げ青年を押し返しているということ。

 

「ほう……」

 

「はあっ!」

 

交えた刃を弾き、駆け寄ってきていた悠二の前まで下がる。

そして荒く息をつきながら贄殿遮那を青年へ向けて正眼に構える。

 

「……」

 

対峙したまま、しばしの時が流れる。

シャナはわからなかった。

なぜ、攻めてこないのか。

青年の腕ならば即座に間合いを詰め、その刃で斬りつけることなど容易なはずだ。

なのに、なぜ青年は攻めてこない?

わからなかった。

シャナにも、悠二にも、アラストールでさえも。

 

「ふ……いい眼をする。 そのミステスがそんなに大事か」

 

「……」

 

シャナは答えない。

答えずにいつ攻めてきてもいいように身構えている。

だが、青年は攻めることをせず、小太刀を鞘に納める。

 

「久しぶりに思い出してしまったよ……あの頃を」

 

「え?」

 

「今は見逃そう……お前のその眼と想いに免じて、な」

 

青年は黒衣のコートを翻し、闇夜に消えていった。

それを呆然と見ているしか出来なかったシャナと悠二。

最後に青年の残した言葉の意味は、なんだったのだろうか。

 

 


あとがき

 

 

掲示板にて、FLANKERさんが気になっている言われたのでネタを捻り出して書いてみました。

【咲】 プロローグから進んでなかったからちょうどいいんじゃない?

まあね。 でも、実際けっこう難しかったよ。

【咲】 一話はもともと戦いを入れようってことにしてたのよね?

そうそう。 でも、まったく台詞とかが浮かばず執筆止まり気味だったんだよね。

【咲】 なのに書いたと?

続きが気になってると言われたら書いてしまうのが俺の性なんだよ。

【咲】 つまり感想を貰うことで調子に乗りやすいと?

かもしれん。

【咲】 ま、それで執筆のペースが速まるんだから私からいうことはないけどね。

さいですか……では今回はこの辺で!!

【咲】 次回も見てくださいね♪




うあー、こんなのを読んだら、自分も更新が止まっているシャナとのクロスを書きたくなって…ぶべらっ!
美姫 「そういう事とは関係なく、定期的に更新しなさい!」
う、うぅぅ。その件に関しての言い訳はこの場では置いておいて。
美姫 「どうやら恭也はフレイムヘイズさえも討ち取る対象としているようね」
みたいだな。でも、何でだ。
美姫 「これからどうなっていくのかしらね」
シャナたちとも接触を果たした事だし、当分は御崎市に留まるんだろうな。
美姫 「さてさて、シャナたちはどう出るかしら」
次回もお待ちしてます。



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