白夢の一人が捕まった。

 

それを知った彼はいったいどんな行動に出るだろうか?

 

いえ、愚問だったわね…。

 

彼なら誰であろうと助けるでしょうね。

 

でも、できるなら今回は何もしないで欲しい。

 

今回の敵はいつもと違う。

 

きっと今の彼ではあの敵に勝つことはできない。

 

それでも彼は戦おうとするだろうけど、負ければそれは死に繋がる。

 

この世界で彼を死なせるわけにはいかない。

 

現実で悲しい目にあった彼にはこの世界でなんとしても生きて欲しい。

 

それが彼自身の幸せに繋がる他人の幸せを奪うことになったとしても……。

 

 

 

 

 

 

 

彼の望んだ世界

 

第十話 灯夜を知る者

 

 

 

 

 

 

 

恵都とリンを除く面々は病室で二人の帰りを待っていた。

二人は現場に何かしらの痕跡があるかもしれないと考え調べにいっている。

そして今病室の中を沈黙が支配していた。

もともとあまり喋るほうではない恭也と愛。

そして最初こそ言葉を交わしていた灯夜、夏希、ひいろも次第に話す言葉がなくなった。

それからしばらくして、沈黙に耐え切れなくなった灯夜は愛に話しかけた。

 

「御堂、体はもう大丈夫?」

 

「え……あ…いや」

 

「愛さん、どこか具合でも悪いの…?」

 

「あ、いえ、ちょっと足をくじいたもので…」

 

「ふむ…ちょうどここは病院ですから診てもらっては?」

 

「いや、大丈夫だ」

 

「ならいいが……」

 

「ほんとに大丈夫…?」

 

ひいろはほんとに心配そうに愛に尋ねる。

愛はそれに微笑を浮かべながら大丈夫ですと返し、気づかれないように灯夜を睨む。

睨まれた灯夜はすまなそうに頭を小さく下げていた。

ひいろや夏希は気がつかなかったが恭也はその二人の動作に気づいていた。

だが、別段おかしくは感じなかった。

ひいろに心配をかけたくなかったのだが灯夜が言ってしまったから睨んだのだろう。

それに気づいた灯夜が慌てて皆に気づかれないように謝罪をした、というこだろうと恭也は考えていた。

だから恭也は気づかなかった。

二人の一連の動作のほんとの理由がいずれ自らに関わってくるだろうことに。

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、恵都とリンが帰ってきた。

二人は神妙な面持ちをしており、手には手がかりと思われるものが握られていた。

そしてその手がかりにはその病室にいる誰もが見覚えがあった。

それはユリエルの服の一部だったのだ。

それを見た誰もが息を飲む。

恵都は手に持った布を灯夜に差し出した。

灯夜は二つ折りになったそれを受け取った。

 

「中、見てみな」

 

灯夜は恐る恐るそれを開いてみると中には血文字で「19時学校」と書かれていた。

 

「これは……」

 

「ユリエルを人質にあたしらを誘い出したみたいだね」

 

「つまりユリエルさんはまだ生きているということですね」

 

「そういうことになるな……生きてなかったら人質にはならないし」

 

「でも、悪い状況なのには変わりありません…」

 

そういうとリンは申し訳なさそうな顔で謝罪を口にする。

 

「ごめんなさい。 やっぱりあの時、無理やりにでもお止めすべきでした」

 

「もう過ぎたことです。 そんなに気落ちしないでください、リンさん。 それよりも問題はこれからどう動くかですね」

 

「そういうことだな」

 

「もちろん、助けに行くに決まってるじゃないですか!」

 

「落ち着け、灯夜。 これは罠の可能性もあるんだぞ」

 

「僕とリンなら大丈夫だよ」

 

「じゃあ、その隙に彼女らが襲われたらどうすんのさ?」

 

恵都は親指で後ろにいる夏希とひいろを指差した。

指を差された二人は黙って俯いてしまう。

 

「ユリエルとリンが一緒に歯が立たなかったんだ。 戦力を割いて勝てる見込みは少ない」

 

「しかし、だからといって総出で行けば警備が手薄になる。 そうなれば神楽さんや榎本さんが狙われた際、守ることができなくなってしまう」

 

「そういうことだね」

 

二人の言葉の後、沈黙が部屋を支配した。

そして沈黙を破ったのは夏希とひいろの思わぬ言葉だった。

 

「私も一緒に行く」

 

「私も行きます」

 

意志のこもった口調で二人はそう言う。

二人の言葉に一番驚いたのは愛だった。

 

「な、何を言うんですか! 相手の狙いはそれかもしれないんですよ」

 

「わかっています。 でも……」

 

「私たちも一緒に行動すれば、みんなでユリエルさんを助けにいけます!」

 

二人は一歩も引くことなく愛にそう返す。

 

「し、しかし、ひいろさんの身に何かあったら意味がありません。 ユリエルだって、そのつもりで……」

 

「どんな人でも命の重みは一緒です。こんなときこそ、協力し合わなければならないと思います」

 

「あんたのお姫様はもう覚悟したんだよ。 もうあきらめなー」

 

明らかに無神経な物言いで恵都はそう言う。

その言葉に案の定、愛は怒りを露にする。

 

「なっ…貴様っ!」

 

「皆で助けに行こうよ。 御堂さんも力を貸して!」

 

「な? 姫様の親友もこう言ってる事だし」

 

再度同じような感じで言ってくる恵都に愛はもう怒る気も失せていた。

そして小さく溜め息をついて

 

「……今回だけだ」

 

そう口にした。

 

 

 

 

 

全員で行くことが決まった後、早速皆は準備に取り掛かっていた。

それは相手がどうでるかがまったくわからないからである。

もしかしたらユリエルを盾にされ最悪の結果を迎えるかもしれないからだ。

 

「恭也、ちょっと話がある……」

 

「なんですか?」

 

自分の装備を確認し終えた恭也に恵都が話しかけてくる。

 

「今回の敵はけっこうやばい……だから恭也に言っておくことがあるんだ」

 

「言っておくこと?」

 

「そう……といっても簡単なことだよ。 自分の身を第一に考えて行動してくれ」

 

「え?」

 

恵都がなぜそんなことをいうのかがわからなかった。

普通は人質のことを第一に考えるものではないだろうか。

そう考えていた恭也は恵都がどういった意味でそういったのか理解できなかった。

 

「どうしてそんなことを?」

 

「これは私の勘だけど……恭也は自分の身がどうなっても人を守ろうとする、そういった考えを持ってるんじゃないか?」

 

「……」

 

「それは悪いことじゃないと思う。 でも、今までそれでうまくいってきたかもしれないけど、今回ばっかりはそうも行かないと思う」

 

「……」

 

「それに今回は私たちもいる。 だから今回ばっかりは自分のことを第一に考えて行動してくれ」

 

「……わかりました」

 

「なら、話はこれで終わり……準備に戻っていいよ」

 

そう言って恵都は恭也から離れていった。

 

「恭也を死なせるわけには……いかないからね」

 

そう呟く恵都の言葉は誰にも聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

恭也たちが準備を終え、学校の校門前についたときにはもう太陽が沈んでいた。

恭也は周辺の気配を探るが特に誰の気配らしきものもなかった。

その少し前で恵都が灯夜に話しかけていた。

 

「これが終わったら、全てを話すよ」

 

「全て……って?」

 

「お前の知りたいことだ。 だから……」

 

「だから、絶対にユリエルを…皆を守れよ」

 

「最初からそのつもりです」

 

「言うねー」

 

その会話がどういった意味を成すのかは恭也にはわからなかった。

だが、それは二人の問題だろうと思い口を出すことはしなかった。

灯夜に話し終えた恵都は後ろにいる皆に声をかけた。

 

「やつは屋上だ。 一直線に向かうよ」

 

「……」

 

「何?」

 

「先生も気配を感じれるんだね」

 

「お前、あたしをナメんなよー」

 

軽口で恵都はそう言う。

そして皆は校門をくぐり、屋上へと向かっていった。

 

 

 

 

 

屋上にたどりつくとそこには罠らしきものはなかった。

 

(だが、油断は出来んな…)

 

恭也はそう考えながら慎重についていく。

そして灯夜が同じく罠を警戒しているのか慎重にドアを開けた。

 

「……あれか」

 

屋上のほぼ中心にそいつはいた。

巨大な体躯と鎌、そして翻るマント。

その黒い影の足元に後ろ手を縛られたユリエルがいた。

灯夜はその無事な姿を見て内心安著する。

 

「ユリエル!」

 

ユリエルは助けにきた皆を見て声をあげた。

 

「何しに来たのっ!?」

 

「何って……」

 

「あんたを餌に誘い出されたんでしょうが」

 

「わざわざ罠にかかりにきたんですか!」

 

「…あいつ、人質になっても相変わらずだな」

 

「そうですね……」

 

恵都の呆れたような言葉に恭也はそう返す。

 

「彼女達はっ!?」

 

彼女達、夏希とひいろのことを聞いているのだろう。

それに気づいた二人は後ろからユリエルに声をかける。

 

「あ、無事です……」

 

「ユリエルさんこそ大丈夫ですか」

 

「なんでここにいるのよーっ!」

 

ユリエルの言葉に二人は少し困り顔をする。

 

「何でいるって聞かれても…」

 

「こいつの狙いがあなたたちだったらどうするの!」

 

「黙れ」

 

クリープは足元のユリエルの頭を掴むと片手で持ち上げた。

それにユリエルの顔が苦しそうに歪む。

 

「くっ…」

 

「ユリエル!」

 

灯夜は思わず駆け出しそうになるがそれをクリープが静止させる。

 

「動くな。 こいつがどうなっても知らんぞ」

 

「っ!」

 

灯夜は動き出そうとした体を止め、クリープを睨む。

 

「お前の……目的は何だ?」

 

灯夜の疑問は思わぬ形で返された。

 

「お前を助けに来た」

 

「何?」

 

灯夜はその言葉の意味がよくわからなかった。

だがそんな灯夜にかまわずそいつは言葉を続ける。

 

「白き者に加担するのはやめろ」

 

緊迫した空気の中、そいつの言葉が周りに響きわたった。

 

 


あとがき

 

 

これって名付けるなら「ユリエル救出編」かな?

【咲】 そう言えなくもないわね。

ま、どうでもいっか。

【咲】 よくないわよ!

はべしっ!

【咲】 ま、それよりも……。

や、やっぱりどうでもいいんじゃないか!!

【咲】 うるさい!

はぐあっ!

【咲】 まったく……それで今度もこの続きなのかしら?

ま、まあそうじゃないと話おかしくなるしね……。

【咲】 それもそうね。 じゃあさっさと続きを書きなさい。

い、イエッサー! では今回はこの辺で。

【咲】 次回もまた見てくださいね♪





ユリエルを人質に取ったものの要求は灯夜を助けること?
美姫 「一体全体どうなっているのかしら」
うーん、謎が謎を呼ぶ展開。
美姫 「次回が待ち遠しいわね」
一体どうなっているんだー!
美姫 「次回も待ってますね〜」



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