私は白夢の人たちが嫌いだ。

 

人の夢を糧とするのは白夢にとって仕方の無いことというのは解る。

 

でも、だからといって納得できるわけじゃない。

 

それでも今までは見てみぬ振りをしてきた。

 

しかし、今回ばかりはそれはできない。

 

彼の夢を糧とすることは絶対に許さない。

 

悲しみに耐えられず私が与えた彼の世界。

 

その彼の悲しみにつけこむような行為を許せるはずは無い。

 

だから今、私はそれを間接的に妨害している。

 

直接的なことをすれば彼が危うくなる。

 

だから今までそうしてきた。

 

でも、それを見たときもう私は限界だった。

 

あろうことか白夢の人が彼を苦しめている。

 

このままだと彼はあのことを思い出し、また壊れてしまう。

 

だから、私は彼の元へ姿を出した。

 

苦しむ彼を優しく抱きしめ、力いっぱいその人たちを睨みつけた。

 

どうしてこんなことをするの…というように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の望んだ世界

 

第五話 彼の現実と彼の夢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然現れたその少女は今、リビングで三人を睨みつけている。

気を失った恭也は灯夜の部屋のベッドで寝かせてある。

リンには恭也を見てもらっていた。

睨まれている三人は居心地が悪そうに視線を下に向けている。

そんな視線を崩すことなく今まで黙っていた少女は口を開く。

 

「人の悲しみを掘り起こしてそんなに楽しい…?」

 

そう言う少女の視線には冷たさが帯びていた。

実際恭也の記憶を思い出させるような発言をしてしまったため三人は何もいえない。

そして少女はさらに言葉を続ける。

 

「人の悲しみにつけこんで食事してるだけでもイライラするのに…」

 

「っ?!」

 

少女のその言葉にユリエルはびくっと震える。

その発言に灯夜は言っている意味がわからないといった顔をする。

 

「食事って……どういうこと?」

 

「何も知らされていないのね…死神さん」

 

「な、なんで君がそれを……」

 

「何も知らされてないあなたに言っても理解できないわよ」

 

灯夜の言葉にそう冷たく返す。

そんな中、今まで黙っていた女性――和泉恵都が口を開く。

 

「なんでも知ってるような口ぶりだな…」

 

「大体のことは知ってるわよ……白夢の堕天使さん」

 

「……」

 

そう言われ恵都は絶句する。

しかし、すぐに我に帰ると言葉を続ける。

 

「君はあの少年…恭也について何か知ってるのか?」

 

「ええ……あなたも気づいているのではなくて?」

 

冷笑を浮かべてそう言う。

恵都は少しぞくっとした感覚が起こるが何とか持ちこたえ質問を続ける。

 

「ということは…あの子と同じってことなのか?」

 

「あの子がどの子を指すのかにもよるけど、私と同じならそうね…」

 

「ということはあの少年も……」

 

二人の会話についていけていない灯夜はちょっと居心地が悪そうする。

 

「あ、あの……話についていけないんだけど・・・」

 

「ん? あ、ああ…あんたはまだ聞かなくていいことだから…少年のところにでも行ってな」

 

「え? でも……」

 

「お願い…」

 

ユリエルにまでそう言われ灯夜は渋々といった感じにリビングを出て行った。

灯夜が出て行くと恵都は話を続ける。

 

「少年があの子…榎本ひいろと同じということは、少年も現実で何かあったのか?」

 

「ええ…あったわね。 でも、彼女と彼には違うところがある」

 

「違う…ところ?」

 

「彼女には彼女を現実へ戻そうとする存在がいるわね?」

 

「あ、ああ。 確かにいるけど……まさか」

 

「お察しの通り、彼にはいないわ。 これが何を指すのかわかる?」

 

「現実ではもう死んでいるってこと…そんなのありえない」

 

信じられないといった感じにユリエルは呟く。

しかし、ユリエルの言葉に少女は首を横に振る。

 

「勝手に彼を殺さないで。 彼は生きてるわ……一応、ね」

 

「一応…?」

 

最後に小さく付け加えた言葉に疑問を持ったのか恵都がそう聞く。

 

「肉体的にはなんの損傷もなく生きてる……でも、問題は彼の心」

 

「どういう意味ですか…?」

 

「彼の心は……壊れたの」

 

「「!!?」」

 

その言葉に二人は絶句する。

そんな二人に構わず少女は続ける。

 

「壊れた心はもう戻らない。 彼は今も病院で眠っているわ。 もしこの現実に戻ったとしても彼は心のない人形になるだけ」

 

「そんな……人の心が壊れるなんて、余程のことがないとそんな」

 

「その余程のことがあったのよ」

 

ユリエルの言葉を遮るように少女は言う。

 

「何が…あったんですか?」

 

「聞きたいの? 彼のとても辛く…悲しい過去を。 あなたたちにそれを聞く勇気があるのかしら?」

 

嘲笑うかのようにそう聞く少女。

ユリエルは少し黙ると真剣な声で言う。

 

「お願いします…」

 

「……いいわ、聞かせてあげる。 あなたも覚悟があるのね?」

 

恵都はしっかりと静かに頷く。

 

「…白夢の天使と堕天使の割にはいい覚悟ね」

 

そう言って一息吐くと話し出す。

話を聞いているうちに二人の表情は変わってくる。

それはまるで自分のことのように悲しんでいるような顔。

話し終えると二人は最初のように顔を俯けていた。

 

「これが彼の背負ってきた悲しみ。 彼の心を壊すまでに至った過去よ」

 

「「……」」

 

「聞いて悲しむのなら今後彼にあんなことはしないでもらいたいわね。 いつか刻が来たとき、彼が現実を受け入れることができるようになるときがくるまでは彼にもうあんな話はしないで」

 

「……わかった」

 

少女の言葉に恵都とユリエルは頷く。

 

「その言葉…信じるわよ。 でも、もしまた同じようなことをしたら……」

 

少女は椅子から腰を上げ玄関のほうへと歩き出す。

そして少しずつその体が透けていった。

 

「私はあなたたちを許さない」

 

周りに響くようにそういうと少女はその場から消えた。

そして後にはなんとも言えないような空気が漂うのだった。

 

 

 

 

 

 

あれから一時間とちょっとたったとき、恭也は目を覚ました。

あの少女が何かをしたのか恭也はさっきの恵都の会話のことを覚えていなかった。

そして迷惑をかけたと謝罪するとその場にいた面々は複雑な表情で首を振った。

その後、恭也は夕食を食べていかないかと誘われたが丁寧に断ってそのマンションを後にした。

 

「家族と友人の死…か。 辛い過去だね」

 

「ええ……心を壊してしまうほど」

 

恵都とユリエルはそう言い合う。

 

「灯夜には明日、彼の過去には触れないように話しておくわ」

 

「ああ…頼んだ」

 

そう言って恵都は自室へと戻っていった。

ユリエルはそれを見送るとマンションの外へ出る。

 

「辛いわね……恭也さん」

 

そう呟くユリエル。

ユリエルの頭の中にはさっきの話が離れずにいた。

会ったときから少しだけ気になる雰囲気を持った人。

灯夜と同じ力を持った榎本ひいろと同じ感じのする人。

ユリエルの認識はいままでそうだった。

 

「……はぁ」

 

小さく溜め息をつく。

さっき聞いた恭也の過去。

これ聞いたためかそれともまた別のことか。

どちらにせよ、ユリエルの中で恭也の認識が少しずつ変わり始めていた。

そして今はまだユリエルもそれには気づかない。

 

「はぁ……」

 

また小さく溜め息をつき、ユリエルは帰りの道を歩き始めるのだった。

 

 


あとがき

 

 

さて、なにやらユリエルの心境がすこしだけ変わったようです。

【咲】 これって誰エンドとか決まってる?

今のところは個別に作るという感じでファイナルアンサー?

【咲】 いや、私にきかないでよ。

まあ、今のところはって感じだけどね。

【咲】 今後どうなるかわからないってことね。

そういうことです。

【咲】 そもそもBLACKだけで終わらせるつもりはないんでしょ?

そうだね〜。

【咲】 まだまだエンドまでは先が長いってことね。

ま、気長にいきますよ。

【咲】 気長に行き過ぎて更新遅れないように。

ラジャー。 では今回はこの辺で。

【咲】 次回もまた見てくださいね♪




語られた恭也の過去を聞き、二人にどんな変化が現れるのか。
美姫 「また、恭也はいつか目覚めるのかしら」
うーん、どんな風になっていくんだろうか。
美姫 「楽しみね」
ああ。また次回も待ってます。
美姫 「待ってますね〜」



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