人は悲しみを背負わずにはいられない。

 

どんなに裕福な家に生まれ、どんなに幸せな生活を送ったとしても。

 

どんな人でも悲しみを背負うだろう。

 

そんな世界で、そんな現実で、私は彼を見ていた。

 

彼はその世界に生まれながらにして母親に捨てられるという悲しみを背負っていた。

 

彼は自分の家族や親戚を失うという悲しみを背負っていた。

 

彼は幼い身で父親を失うという悲しみを背負っていた。

 

彼は新しい家族や友人までもまた失うという悲しみを背負っていた。

 

そして、彼は悲しみに耐えられなくなった。

 

だから、私は彼に選択を与えた。

 

彼の選んだ答えは、彼の望む答えはとても悲しいものだった。

 

でも、私は彼の望みを叶えてあげた。

 

その結果が、彼にどう影響するかはわからない。

 

でも、私は彼にそんなことしかしてあげられない。

 

だから、私は彼を見守り続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の望んだこの世界で……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の望んだ世界

 

第一話 必然の出会い

 

 

 

 

 

 

 

午前五時。

そんな早い時間に恭也は目覚める。

恭也にとってはそれが習慣になっており苦にはならない。

布団から起き上がると鍛錬着に着替える。

そして鍛錬道具一式を持って恭也は部屋を出る。

玄関では恭也の義妹…美由希が立っていた。

短くおはようといい玄関を出る。

そしてランニングのため走りながら八束神社へと向かう。

神社へつくと恭也は三分後になるようにタイマーをセットする。

 

「美由希、三分休憩。 その後打ち合うぞ」

 

「あ、うん……」

 

息を整えながら美由希はそう答える。

三分後、タイマーがなる。

すでに美由希は息を整えており、木刀を持って立ち上がる。

恭也も同じく木刀を構え、打ち合いが始まる。

朝早くの神社に木刀の打ち合う音が響き渡る。

しばらく打ち合って、恭也はここまでにするかと言って鍛錬が終わる。

来たときと同じくランニングをしながら家へと帰る。

そんないつもの朝の鍛錬風景……。

 

 

 

 

 

家に帰ると美由希、恭也の順にシャワーを浴びる。

美由希がシャワーを浴びている間、恭也は台所へと顔を出す。

今日は高町家の居候…レンが食事当番なのか台所にはレンが鼻歌を歌いながら朝食の準備をしていた。

 

「あ、お師匠。 おはようです〜」

 

「ああ、おはよう、レン。 今日はレンの当番だったか……」

 

「はい〜。 今日の朝食は朝粥です〜」

 

「ふむ……いい匂いだ」

 

そう言ってレンの頭を撫でる。

レンは照れくさいような、嬉しいような、そんな顔をしていた。

そこへシャワーを浴び終わった美由希が顔を出す。

 

「あ、恭ちゃん。 お風呂空いたよ」

 

「ああ…」

 

短く答え、学校の制服を持って脱衣所へ向かう。

服を脱ぎ、籠の中入れると浴室へと入る。

シャワーの蛇口を捻ると少し熱めのお湯が出てくる。

鍛錬でかいた汗をそれで流すと恭也は再び蛇口を捻ってお湯を止める。

脱衣所へ出るとバスタオルで頭と体を拭き、制服に着替え、髪を整えて脱衣所を出る。

台所へ向かう途中の廊下で恭也の義母……桃子と出くわした。

 

「あら、もうシャワー浴びたの?」

 

「ああ…」

 

「ふ〜ん、早いわね〜。 それで今日の当番は誰だっけ?」

 

「レンだな。 今日は朝粥らしい」

 

「そうなんだ〜。 はやく手を洗ってこなくっちゃ」

 

そう言って桃子は洗面所へと向かう。

桃子と別れた恭也は再び台所へと向かう。

 

「あ、お師匠。 ちょうどよかったです〜」

 

「どうしたんだ…?」

 

「なのちゃん起こしてきてもらえませんか〜? まだ起きてきてないようなんです〜」

 

「了解……」

 

恭也は台所を出て二階へと向かう。

部屋の前に着くと恭也は部屋のドアを軽くノックする。

 

「なのは…朝だぞ」

 

しばらくすると部屋のドアが開き、中から恭也の妹…なのはが寝ぼけ顔で現れる。

 

「にゃ……おに〜ちゃん…?」

 

「ああ…お前の兄だ。 もう朝だから洗面所で顔を洗ってくるように…」

 

「は〜い……」

 

寝ぼけ声で返事をするとなのはは階段を降りていく。

落ちるなよという恭也の声には〜いと返事をしながら。

そして顔を洗い、目を覚ましたなのはを加えて朝食をとる。

 

「レン、塩をとってくれ…」

 

「はい〜」

 

「む、すまん…」

 

塩を受け取って軽くかけた後、朝粥をかきこむように食べる。

食べ終わった後、おかわりをもらってまたかきこむように食べる。

二杯ほどおかわりをし、腹八分目になったところでご馳走様という。

その間も皆は笑いながら楽しそうに話をしていた。

そんないつもの朝の団欒風景……。

 

 

 

 

 

家を出て、恭也は学校へと向かう。

通学路には同じく学校へ向かっている生徒たちが大勢いた。

そんな中を恭也は一人で歩く。

やがて、学校の下駄箱へたどり着くとそこには見知った顔がいた。

 

「お、高町か。 おはよう」

 

「ああ、おはよう、赤星」

 

軽く挨拶をしながら自らの靴を下駄箱に入れ、上履きに履き替える。

そして恭也の唯一の男の親友…赤星と教室へ向かう。

教室へ入ると恭也は自分の席に着く。

そして隣を見るとそこにはいつものように頬杖をつきながら眠る人物がいた。

恭也はその人物に声をかける。

 

「おい、忍……」

 

「ん……あ、おはよう、恭也」

 

恭也の親友…忍は少し眠たそうな声で挨拶をする。

挨拶をした後、忍はまた眠ってしまった。

恭也をそれを少し呆れ顔で見ながら自分も眠ることにした。

そして、気がつけばお昼になっていた。

四限終了の合図と共に眼を覚ました恭也は隣でまだ寝息を立てている忍に声をかける。

 

「忍、起きろ……」

 

「く〜……す〜……」

 

いくら呼んでもまったく起きる気配がなかった。

恭也は忍を起こすのを諦め、昼食に出かけるついでに忍の頭に筆箱を置くという悪戯を施して教室を出た。

食堂でレンのお手製の弁当を広げ、食べ始める。

量が多めだが数分で食べ終わり、弁当箱を布で包んで教室へ戻る。

 

「きょ〜〜お〜〜や〜〜」

 

教室へ戻ると忍が怒りの形相で出迎えた。

怒った忍を宥めると、午後の授業が始まる。

そんないつもの学校での風景……。

 

 

 

 

 

ホームルームが終わり、帰り支度をすると教室を出る。

廊下を歩いて階段を下りていく途中、一人の少女と会う。

 

「あ、高町先輩……」

 

「えっと……神楽さん?」

 

「あ、覚えててくれたんですね」

 

少女……神楽夏希は少し嬉しそうな顔をする。

 

「あ、それじゃあ私、これから用事がありますんで失礼しますね」

 

「ええ、さようなら……」

 

「さよなら、高町先輩」

 

そう言い合って分かれる。

恭也そのまま下駄箱へと向かう。

下駄箱で靴を履き替え恭也は学校を出る。

そんないつも(・・・)の下校風景……。

 

 

 

 

 

 

 

家に帰った恭也は散歩がてら、八束神社へと向かう。

神社につくとそこにはすでに学校が終わりなのはのお友達の狐……久遠と遊んでいるなのはの姿があった。

恭也はそれを微笑ましげな顔で見ながら立っていた。

すると恭也の側に巫女服を着て箒をもった少女が近寄ってくる。

 

「こんにちは、恭也さん」

 

「ええ。 こんにちは、那美さん」

 

美由希の友人で恭也の後輩……那美の挨拶に恭也も返す。

そして二人で楽しく遊んでいるなのはと久遠を見ていた。

しばらくすると、もう日が沈み辺りは暗くなり始めていた。

 

「なのは…そろそろ帰るぞ」

 

「は〜い。 く〜ちゃんまたね〜」

 

「くぅん」

 

那美にこれで失礼しますねと軽く頭を下げて言った後、なのは連れて神社の階段を降りていった。

途中、なのはが恭也と手を繋いできた。

別に剥がすことも無く、なのはの好きにさせたまま、夕暮れの道を歩きながら家へと向かっていく。

そんないつもの午後の風景……。

 

 

 

 

 

 

夕飯が終わりしばらく寛いだ後、恭也は鍛錬着に着替え装備一式を持って玄関へと向かう。

玄関にはすでに準備を終えた美由希が立っていた。

美由希にいくかと一言言って外へ出る。

朝と同じくランニングをしながら神社の裏の森へと向かう。

森へつくと三分間、タイマーをかけて休憩をとる。

三分後、タイマーが鳴ると二人は互いに小太刀を構え実践形式の鍛錬が開始する。

 

「はあっ!!」

 

「ふっ!!」

 

小太刀同士が打ち合う音が暗い森の中に響く。

しばらく打ち合った後、恭也の今日はここまでだという言葉で鍛錬が終わる。

投げた飛針や小太刀などの装備を片付け、来たときと同じようにランニングをしながら帰る。

そんないつもの夜の鍛錬風景……。

 

 

 

 

 

鍛錬から帰る途中、恭也は二人の人を見かける。

一人は赤い髪をし、恭也の学校の制服を着た少年。

そしてもう一人は白い長髪のワンピース・・・とはまた違うような服を着た少女。

そんな二人がこんな時間にこんなところを歩いているのは誰でもおかしいとは思うだろう。

しかし、恭也が注目したのは別のことだった。

それは少年の持っている大きな鎌。

まるで死神の鎌のようなそれに恭也は注目していた。

 

「恭ちゃん……どうしたの?」

 

「どうしたって……おまえ、あれが見えないのか?」

 

恭也は指を差しながらそう言う。

恭也の指の先にいる人物たちを見ながら美由希は不思議そうな顔をする。

 

「確かにこんな時間にこんなところを歩いてるのはおかしいけど……別にそこまで不思議がることじゃないんじゃない?」

 

「そこじゃない……あの男のほうが持っているものだ」

 

恭也の言葉に美由希はさらに不思議そうな顔をする。

 

「持っているって…何も持ってないよ?」

 

「まさか……見えないのか?」

 

「見えないも何も…持ってないものは見ようがないと思うけど」

 

美由希は困り顔でそう答える。

すると向こう側がこちらに気づいたのか、恭也たちのほうへ近寄ってくる。

恭也は少し警戒しながら近寄ってくる二人を見る。

 

「あなたたち……こんなところで何してるの?」

 

「鍛錬の帰りです……そういうあなた達こそこんな時間のこんな場所でいったい何を?」

 

「ちょっと用事を済ませてたんだ」

 

少年のほうが少し苦笑しながらそう答える。

 

「美由希……先に帰れ」

 

「え? 恭ちゃんは?」

 

「俺はこの人たちに少し話がある。だから先に帰ってろ」

 

「う、うん…わかった」

 

そう返事をして美由希は家へと向かう。

美由希が帰ったのを見て恭也は二人のほうを向く。

 

「それで、話というのは?」

 

「聞きたいことは二つです。 まず一つは」

 

恭也は少年の持つ大鎌を指差しながら言う。

 

「それはなんですか?」

 

その言葉に二人は驚いた顔をする。

 

「もしかして……見えてるの?」

 

「ええ……」

 

「そう…か」

 

そこで少年は少し考えるような仕草を見せると恭也に聞く。

 

「あなたにはこれが何に見える?」

 

「鎌……に見えますね」

 

「そう、鎌だよ。 それ以上でもそれ以下でもないさ」

 

「そうですか……では二つ目です」

 

そこで一呼吸置いて恭也は口を開く。

 

「あなたたちは……何者ですか?」

 

夜の風と共に恭也の言葉が辺りに響き渡る。

 

彼らの出会いは偶然か……それとも必然か。

 

どちらにしても彼らはこの世界、この場所で出会った。

 

この出会いが恭也にどんな意味をもたらすのか。

 

それは今、このときには誰も知りはしなかっただろう。

 

 


あとがき

 

 

 

第一話が終了しました〜。

【咲】 これって基本はシリアスなわけ?

まあそうですね〜。それしか書けないし……。

【咲】 ま、あんただしね〜。

微妙に納得できるけどそう言われるとなんかムカつく。

【咲】 ならコメディとか書けるようになることね。

ぐっ……か、書いてやろうじゃないか!!

【咲】 ほんとね?嘘は言わないわね?

う……か、考えておこうじゃないか!!

【咲】 ……弱気になったわね。

弱気で何が悪い!! 執筆遅くて何が悪い!!

【咲】 ドサクサ紛れに何言ってるか!!

ぐはっ……バタ。

【咲】 まったく。 ではまた次回も見てくださいね。 では〜ノシ




そうだ! 遅くて何がわる…ぶべらっ!
美姫 「アンタも何を言うつもりなのかしらね」
…ぐぅぅ。あ、あはははは。冗談ですよ、冗談。
えっと、えっと。
恭也はあの声と会話以前に、何かが起こったことも覚えてないのかな。
美姫 「どうなのかしらね」
それに夜中に出会った二人は一体。
美姫 「これからどうなっていくのかしら」
次回が待ち遠しい。
美姫 「次回も待ってますね〜」
ではでは。



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