メンアットトライアングル!2〜永久に語り継がれし戦士たち〜

 

外伝之弐 石を護りし守護の剣

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東洋のとある土地に建つ日本風の一軒家。

その家の周りに建つ家はほんの数軒しかなく、畑や山があるというような田舎と言える場所。

自然の風がそよぎ、木々の葉がざわざわと音を立て、とても落ち着いてしまうような雰囲気の土地。

そんな場所のそんな一軒家に今、雰囲気に似つかわしくない金属音が響き渡っていた。

 

「く……」

 

「おらおら! その程度か、女!!」

 

一軒家の庭で、着物を纏い刀を持った女性が次々と絶え間なく繰り出してくる男の斬撃をなんとか捌いていた。

だが、斬撃を捌く女性の表情はとても苦悶に満ちており、それに対して男は戦うことが楽しいとでもいうかのように笑みを浮かべていた。

これだけで、刃を交えるこの二人のどちらが優勢かは一目瞭然だった。

 

「っ……」

 

女性は男の剣を捌きながら横のほうに少しだけ視線を向ける。

そこには先ほどまで男と戦っていたと思われる白シャツ黒ズボンの男性と戦っている女性と同じ着物を着た女性が倒れていた。

倒れている二人は息絶えてこそいないが、所々の傷や出血量を見ると状態はそんなに良くないことがわかる。

早く二人を手当てしないとまずい、という思いが女性の苦悶の表情をさらに深めさせ、そして焦らせる。

 

「よそ見してんじゃねえよっ!」

 

「あぐっ……」

 

注意を二人に向けていたため、女性は男の放った蹴りを避けられずに横腹に受ける。

その衝撃で女性はよろめき、体勢を崩した女性に追撃を掛けるように男は腹に掌底を放つ。

よろめいた体勢から掌底を避けられずに女性は直撃を受け、衝撃で後ろへと引き飛び背中から地面に倒れる。

地面に倒れた女性は痛みに表情を歪めながら上体を起こし、ゆっくりと歩み寄ってくる男を睨む。

 

「かっ、この程度かよ。 賢者の石の恩恵を受けているって言うから期待してたのによ……がっかりだぜ」

 

男は女性の傍まで歩み寄ると足を止めて剣の切っ先を女性に向けて落胆したようにそう言う。

その男から賢者の石という単語が出たことに女性は若干驚くが、それが目的かと納得もする。

そしてそれを確認するように、女性は男に対して表情を変えずに口を開く。

 

「あなたの目的は……やはり賢者の石、ですか」

 

「ああ、よくわかったな。 お前の身に宿す賢者の石、それを俺は奪いに来た」

 

「何の、ために……」

 

「ははは、いくらお前がこれから死にゆく身とはいえ、そこまで語る義理はねえな」

 

男は笑いながら言いつつも、女性がいつ動いても命を絶てるように警戒をしている。

それがわかっているからか、女性は下手に動くことも出来ずにただ男を睨むしかできない。

 

「にしても……綾小路の一族っていうのも大したことねえな。 たったあれだけの奇襲で対処もできずにあのざまとは」

 

「っ……」

 

「これならいちいち『断罪者』の俺が出向かなくてもよかったじゃねえか。 たくっ……つまんねえ仕事押し付けられたもんだぜ」

 

男は落胆の溜め息をつきつつ馬鹿にするようにそう言い、女性は何も言い返せずに悔しそうな表情をする。

 

「さて……じゃあ、そろそろお前の持っている賢者の石、頂こうかね」

 

そう言って女性を見据えつつ突きつけていた剣を振り上げる。

そして振り上げたと同時に振り下ろされる剣に女性はぎゅっと目を閉じる。

だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その刃は、女性に届くことなく見えない壁に遮られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに……」

 

男は刃を遮られた壁に驚きの表情で呟くと同時に、男の体は突如襲った衝撃によって横に吹き飛ぶ。

吹き飛んだ男は倒れることなく地面に着地し、その衝撃を放ったと思わしき人物に視線を向ける。

 

「やれやれ……なんとか間に合ったみたいだね」

 

「そうですね。 迷ったときはどうしようかと思いましたけど、無事間に合ってよかったです」

 

向けた男の視線に映ったのは、白いシャツに白いズボン、その上に白いコートを纏い、腰に二刀の剣を携えた黒髪の男性。

そしてその男性の横には白い長髪をポニーテールに纏め、真っ白なドレスを着た女性。

そんな互いに真っ白と言える二人の人物は、男の視線に自身の視線を交わらせて口を開く。

 

「悪いけど、僕たちが来た以上君たちに賢者の石を渡すわけにはいかないよ」

 

「はっ……そんなこと言われて、俺たちが諦めるとでも思ってるのかよ」

 

「ん〜……そうしてくれると非常にありがたいんだけど、たぶん無理なんだろうね」

 

「当然だろ。 ていうか、お前ら何者だ? お前のさっきの動き、それにその女のその魔力量……どう見ても人とは思えねえ」

 

「まあ一応人、かな」

 

「一応? ふん……まあいいさ。 ちょうどその女の手応えの無さに退屈してたところだ」

 

そう言って男は黒髪の男性へと剣を構える。

それに男性は少しだけ残念そうに溜め息をついて横の女性へと顔を向けずに小さく声を掛ける。

 

「あれの準備……いいかな?」

 

「はい。 ですが、あれほどのものになるとどうしても詠唱が必要なので、その間はお願いします」

 

「わかった」

 

「何ごちゃごちゃ言ってやがる。 来ねえならこっちからいくぜ!!」

 

痺れを切らしたのか男は剣を脇に構えて男性へと駆ける。

駆ける男の速度は普通の人間ならば目で追うのもやっとの速度。

そんな速度で男性へと近づき、脇に構えた剣を斜め上に斬り上げるように振る。

だが、その男の速度も、その斬撃も、男性には見えているのか腰に差してある剣のうちに一刀を抜いて受け止める。

そして同時にもう一方の手で残ったほうの剣を抜いて男に対し抜刀からの横斬撃を放つ。

 

「ちっ……」

 

男はそれに舌打ちをして身を後ろに反らしながら後方へと下がる。

男が後方に下がったのを見てから男性は女性から少し離れるように前へ数歩歩むと剣を持った手をだらりと下げる。

その構えは素人が見れば隙だらけにしか見えない構えだが、素人ではない男には分かった。

 

(隙だらけに見えて……隙がねえ)

 

隙があるように見せてまったく隙が無いその構えに、男は斬り込むことが出来ずに苦々しいといった表情をする。

どう斬り込むべきか、どうすればあの構えを崩すことができるのか、男はそれを考えながらも警戒しつつ均衡を保つ。

だが、男は知らない……それこそが男性の思惑のうちだと言うことを。

 

(どういうことだ……構えるだけで攻めて来やしねえ)

 

均衡を保ち始めてから約二分、男はまったく攻めてこない男性に不信感を抱く。

そして不信感を抱いてからすぐに、男は聞こえてきた声で男性の思惑に気づくこととなる。

 

古より伝わる魂の聖域。 其の光を以って戦士たちに安らぎの光を与えん

 

それは男性に守られるように後ろにいる女性の声。

呟くその詠唱は男も良く知る禁呪と呼ばれる魔法の一つ。

男性がその構えで均衡を保っていたのは、女性の魔法詠唱の時間を稼ぐため。

それに気づいた男は苦々しく舌打ちをして即座にそれを阻止するために駆け出す。

 

「させないよ……」

 

「くっ……」

 

それを妨害するかの如く、男性は駆け出した男を迎え撃つように剣を振るう。

次々と繰り出される斬撃に男は捌きつつ避けることに専念せざるを得ず、女性に近づくことは出来ない。

そしてその間も女性の魔法詠唱は続く。

 

魂清めし慈愛の光よ。 悪しきを裁く断罪の光よ。 集いて魔に冒されることなき大いなる領域と成せ

 

その部分を言い終わると同時に女性の足元とその周りを囲むように複数の魔法陣が浮かぶ。

その数は合計にして10、それぞれが女性の足元に浮かぶ魔法陣と一本の線で繋がり光を放つ。

そして光を放つと同時に女性は瞑っていた目を開いて天に手を掲げて言い放つ。

 

顕現せよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

禁呪・光 安らぎを与えし絶対聖域(ヴァルハラ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女性の放った言葉と同時に周りを囲むようにドーム状の結界が展開する。

そして結界内部には光の粒子がタンポポの綿のように宙を舞っていた。

その光景に今まで呆然としていた着物の女性は自身の違和感に気づく。

それは、今さっきまで痛んでいた自身の傷が急に痛みを無くしたということ。

 

「もう大丈夫ですよ」

 

痛みが無くなったことを不思議に思っていた女性に白ドレスの女性が安心させるように笑みを浮かべる。

その白ドレスの女性の笑みに着物の女性はどこか安心感を覚え、それと同時に苦しそうな声を上げる男の声が聞こえてきた。

 

「あ……がああぁぁ……」

 

男は剣を地面に落として頭を抱えながら苦しみの声を上げる。

そんな男の様子を見ながら、男性は両手の剣を腰に戻して口を開く。

 

「勝負ありだよ。 この結界の中では、君の持つ力の大半が封じられるからね」

 

「……っ……てめえ……」

 

「さて、もし君がここで『教団』の情報を話し、投降すると言うのなら僕たちは君を悪いようにはしない。 でも、まだ抗うと言うのなら残念だけど君を破壊、もしくは封印させてもらうよ」

 

「力を……奪った上での……っ……脅しってわけか」

 

「そう取ってくれてもいい。 さあ、二つに一つ、どちらを選ぶんだい?」

 

男性はそう聞くと、男は苦しみながらも黙り込む。

そして、数秒も経たぬうちに男は男性の言葉に対する答えを口にする。

 

「どっちも……嫌だねっ!」

 

男は語尾を強めてそう言うと地面に落ちた剣を瞬時に拾い上げて明後日の方向に投げる。

突然の行動に男性には対処できず、そして男がした行動の真意がわからずといった顔をする。

だが、それはパキンという何かが割れる音で分かることとなった。

 

「っ、しまった!」

 

男性のその叫びと同時に周りを覆っていたドーム状の結界は崩れ去る。

男が剣をあらぬ方向に投げた理由、それは結界にその剣の保有する力をぶつけて砕くため。

普通の剣ならばそんなこと出来ずに剣のほうが砕けてしまうが、男の持っていた剣はただの剣ではない。

その剣は魔剣といってもいいほどの膨大な魔力を秘めているのだ。

故にその魔力を全開で放出し、それが一点集中で結界にぶつかればどうなるか。

その答えは今の状況でよくわかることだった。

 

『はっ……今日のところは退いておいてやる。 だが、次会ったらただじゃおかねえ。 覚えとけよ』

 

その声に男性はばっと元の位置に視線を戻すが、そこにはすでに男の姿は無かった。

すでにいなくなった男に男性は苦々しく溜め息をついて女性たちの下へと歩み寄る。

 

「―――、お二人の様子は?」

 

「結界を崩されたのが癒し終えた後なので、大丈夫だと思います」

 

「そっか……ならよかった。 それで、君も大丈夫だったかい?」

 

「え、あ……はい」

 

男性の言葉に戸惑いながらも小さく頷く着物の女性に男性は安心したように笑みを浮かべる。

そして、すぐに真剣というような表情に戻して口を開かず念話にてそれに問いかける。

 

『追跡は、できたかい?』

 

『できるわけねえじゃん。 結界を破ったと同時に転移されたんだぜ?』

 

『こら、リディ。 前も言いましたけど、主に対してその言葉遣いは何事ですか』

 

『いいじゃねえかよ。 主殿だっていいって言ってんだし』

 

『主がいいと言ってもだめなものはだめです!! だいたいあなたは昔から礼儀と言うものを――』

 

『ああ、うるせえうるせえ。 そんなことより主殿よぉ、いつ愛しの彼女に会えるんだ?』

 

『人の話を聞きなさい……と言いたいですが、私もそこは気になりますね』

 

『あ、あははは……たぶん近いうちに会えるとは思うけど』

 

『マジで!?』

 

『いや、たぶんだよ? でも、僕も――もそれに関しては何も言わないけど、あの子達に手を出したらロリコンになるよ?』

 

『大丈夫ですよ、主。 私たちはそんなことまったく気にしませんから』

 

『は、はははは……』

 

乾いた笑いをしながら、男性は念話を終えて溜め息をつく。

それに白ドレスの女性は首を傾げながらどうしたのかというような視線を向けてくる。

 

「いや、ね……彼らがあの子達に早く会いたいって言うもんだから」

 

「ああ、そういうことですか。 よほど好きなんですね、あの子達が」

 

「だね……まあ、あの一目惚れの仕方ははっきり言っておかしいとは思うけどね」

 

男性がそう呟くと頭の中に、そんなことはない、と二人の声が響く。

だが、男性はそれをさらっと無視して再度着物の女性へと声を掛ける。

 

「僕たちはこれから行かないといけない場所があるから早めに出ないといけないんだけど、君はどうする?」

 

「え……?」

 

「あなたが賢者の石を身に宿している以上、彼らはあなたを逃がしはしないと思います。 ですので、少し酷な言い方かもしれませんが、あなたがいることで下手をするとあなたの周りの人、大切な人たちが傷ついてしまう可能性が高いんです」

 

「……」

 

「僕たちが守って上げられればいいんだけど、僕たちも僕たちでやることがあるからそれはできない。 でも、君が僕たちについてくるというのであれば、僕たちは君を全力で守る」

 

「少し酷な選択ですが、どちらを選ぶかはあなたが決めてください。 それが、賢者の石を身に宿すあなたの義務なのですから」

 

「はい……」

 

着物の女性が小さく頷いたのを見て、二人は笑みを浮かべると倒れている男性と女性の下へ行く。

それに少しだけ思案顔をしていた着物の女性は小さく決意に満ちた表情を浮かべて立ち上がり、同じく二人のところへと駆け寄っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男の襲撃から二日後、真っ白な服の男性と女性はとある場所へと向かうためにあの一軒家を発った。

そしてその女性の横には着物を着て刀の入った袋を手に持った女性の姿があった。

あの後、目を覚ました男性と女性(どうやら親らしい)と着物の女性が話し合った結果、二人についていくことに決まった。

それはその女性の決意からの言葉であるため、女性の両親は何も反論せずにそれを受け入れた。

そんなわけで、その女性は二人についていくことになったというわけである。

 

「そういえば、僕たちの名前を名乗ってなかったね。 僕は―――。 そして彼女が」

 

「―――です。 よろしくお願いしますね」

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします。 私は」

 

「菫さん、だね?」

 

「あ、お父様かお母様に聞いたんですか?」

 

「聞いた、というのとはちょっと違うかな。 あそこを出るときに『菫をよろしくお願いします』って言われたから」

 

「そうなんですか。 あ、そういえば、これからどこに行くのでしょうか?」

 

「そういえば言ってなかったね。 僕たちがこれから向かうのは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウォザーブルク……魔法学園と呼ばれるところですよ」

 

 


あとがき

 

 

さてはて、原作ではほぼ出番のなかった菫の登場だ。

【咲】 ほぼっていうか、ほんの数行会話があっただけのキャラだしね。 ていうか、菫って親と一緒に各地を飛び回ってるんじゃなかった?

あ〜、それに関してはちょうど仕事を終えて定着していた時期に襲われたという設定。

【咲】 ご都合な……。

あ、あははは、そ、それはいいとして実は今回出てきた人物たちの素性、隠しているようで分かるようにしてある。

【咲】 ていうか、まる分かりだし。

ま、まあちょっと分かり易すぎたのは事実だな。 あ〜、にしてもなるべく名前を明かさないようにしてたから途中で意味わからんくなってたんだよ。

【咲】 まあ男と男性、あと女性の三つだったしね。 分かりにくい部分は特徴で現してたみたいだけど。

というか見返してもたまに意味がわからんくなるのは気のせいだろうか?

【咲】 気のせいじゃないわね。

いや、そこは否定して欲しかったな……。

【咲】 で、これはどの辺りの話なわけ?

あ〜、そうだな〜……十三話以前のお話だな。ついでに言うと外伝壱の後。

【咲】 ふ〜ん……で、外伝を書き終わったいいけど、本編は?

そっちは現在誠意執筆中。 まあもう半分以上書けてるからすぐに出来上がると思う。

【咲】 そ。 じゃあさっさと仕上げてしまいなさいな。

アイアイサー。 じゃ、今回はこの辺で!!

【咲】 また本編で会いましょうね〜♪




時間軸的には本編よりちょっと昔。
美姫 「菫は二人と共に」
これがどう本編に絡んでくるのか、ちょっと楽しみですな〜。
美姫 「一体、どんな展開が待っているのかしらね」
本編も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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