発見した地面に倒れる二名の女子生徒を発見した裂夜とリエルは驚きのあまりにしばし呆然とした。

しかしすぐに二人は我に返り、倒れている女子生徒の生死を確認する。

すると、女子生徒はどちらも脈があり、口に耳を近づけてみればかすかに息をしていた。

故に二人は困惑を抱きながらも二名を背負い、急いで保健室へと運んでフィリスを呼んだ。

緊急事態と告げられ叩き起こされたフィリスはすぐに保健室へと駆けつけ、ベッドに横たわる二名に驚きつつも容態を診る。

 

「ふぅ……」

 

しばしして容態を診終わったフィリスは小さく息をつきながら裂夜とリエルへと向く。

そして、大丈夫ですよ、と小さく微笑を浮かべながら言い、続けるように口を開く。

 

「ただの貧血のようですから、一晩休めば二人とも目を覚ますと思います」

 

「そ、そうか……」

 

生徒が倒れているのを見て、裂夜は真っ先に嫌な予感を抱いた。

だが、フィリスのその言葉に予感は杞憂に終わったと思い、裂夜は内心でほっと息をつく。

しかし、その後にフィリスから放たれた言葉がその安心を打ち砕いた。

 

「ただ……少し妙なところがあるんです」

 

「妙な、ところ……?」

 

「はい。 これなんですけど……」

 

頷きつつフィリスは女子生徒の制服の横襟の部分をそっと少しだけ肌蹴させる。

すると、露にされた肩の部分には吸血痕と思われる傷跡があった。

 

「これは……血を吸われた跡、か?」

 

「だと思います。 ですけど、血の大半が吸われている、なくなっているというのはここ最近多々あったんですが、これはその中でも初めて見るケースなんですよ」

 

「確かに、な。 今までは刃物による傷、銃による傷があったりしたが……吸血痕というのは今までに無いものだ」

 

「はい。 それで、私の考えなんですけど……これは以前犯人とは別の者の手によるものじゃないかと思うんです」

 

「……どうしてそう思う?」

 

「えっと、確かに今まで起こった事件の殺害方法はほとんど全て異なります。 ですけど、今回に関しては以前とは違う点が一つだけあるんです」

 

「ふむ……それは、襲われた二人が二人とも生きている、ということか?」

 

「……はい」

 

今まで起こった事件、そのほとんどが血の大半を失い、そして殺害されていた。

しかし今回に限ってはなぜか、大量の血を奪うでもなく少量のみを奪い、そして襲った相手を生かしている。

それだけで前回とは別の犯人と判断するのは性急と見えもするが、そうでなければ一つ謎が出てくる。

それは、今まで襲った者は殺してきたのに、なぜ今回は生かしたのかという謎だ。

襲われた者が生きているに越したことは無いが、しかし殺し殺しと今まで続けてきてのこれは妙だとしか言いようがない。

 

「あ、あの〜……裂夜様? フィリス先生? 一体何のお話を……」

 

その相違点について考える二人に、リエルは事情が掴めず困惑する。

しかし、二人はそんなリエルの言葉に返すことなく、ただ腕を組んで考え込んでいた。

だが結局のところこの疑問は解けることなく話は終わり、裂夜とリエルは保健室を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!2〜永久に語り継がれし戦士たち〜

 

第三十二話 広まる噂と兄妹の一日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いろいろなことが起こった日の翌日。

朝の午前八時に、自室のベッドで綾菜は目を覚ました。

目を覚ました綾菜は食堂にいたはずなのになぜベッドにいるのかということに困惑を浮かべる。

だが、その困惑はふと感じた自身の左目に対する違和感によって消えることとなった。

 

「ん……」

 

感じる違和感を確かめるために、綾菜は左目にゆっくりと触れてみる。

そして左目が何か布のようなもので覆われていることに気づき、すぐにベッドから降りて鏡の前に立つ。

すると鏡の前に立った綾菜の目に映ったのは、自身の左目が白い眼帯に覆われている様子だった。

目に映ったそれに綾菜は何でこんなものが、と思い、違和感を拭うためにそれを外そうとする。

 

「綾菜……外しちゃ駄目よ」

 

外そうと再度左目に伸ばした手は、いつの間にか横に立っていたミラによって止められた。

それに綾菜はなんで?というような視線を向け、ミラはその視線に笑みを浮かべて返しつつ口を開いた。

 

「綾菜の左目はね、今少しだけ傷ついてるらしいの。 だから、それが治るまで外しちゃ駄目なのよ」

 

「でも……痛くないよ?」

 

「それでも、大事を見てつけておくのよ。 もし傷が悪化して、左目が見えなくなったら綾菜も嫌でしょ?」

 

「うん……」

 

「だったら治るまで、我慢して付けてましょうね?」

 

頭に手を置き、優しく撫でながら言うミラに綾菜はコクンと頷いて返す。

頷いた綾菜をミラは微笑みつつ更に一撫でし、ゆっくりと撫でていた手を頭から下ろす。

それとほぼ重なるように、鍛錬に出ていた恭也と蓮也が部屋へと戻ってきた。

そして戻るや否や、蓮也は綾菜が起きているのを見てすぐさま駆け寄り声を掛ける。

 

「綾菜……もう、大丈夫なのか?」

 

「うん。 目はもう全然痛くないよ、お兄ちゃん」

 

「目はって……じゃあ、体調のほうはまだ悪いのか!?」

 

突然声を大きくして聞いてくる蓮也に驚いた綾菜はびくっと身を震わせる。

そして蓮也のそれが怒鳴るように聞こえたのだろう、綾菜はじわっと目に涙を浮かべる。

それに蓮也は当然の如くたじろぎ、そんな蓮也の横を綾菜は駆け出して恭也へと抱きつく。

 

「あらあら、駄目じゃない蓮也。 綾菜を泣かしたら」

 

「え? え?」

 

そもそも怒鳴ったつもりなど無い蓮也はなぜ綾菜が泣いたのかわからず困惑するしかない。

そして怒鳴ったつもりは無いということはミラも分かっているため、特に強く叱ったりはせずに自身も綾菜をあやすために歩み寄る。

その後、綾菜が二人にあやされて泣き止むまで、およそ三十分を要することとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綾菜を泣き止ませ二人を仲直り?させてから、恭也とミラは揃って今日は早いからということで出掛けていった。

恭也とミラが出かけた後、朝食を食べに行こうかということで蓮也と綾菜は服を着替え、同じく部屋を出て行った。

まだ時間は八時半、講義が始まる三十分前ということでまだ廊下にはちらほら生徒の姿が見える。

そしてその状況下を蓮也と綾菜が歩けば、もはや今では当然の如く生徒たちの視線が集中する。

そもそも子供が学園内を歩くということ事態ない上に、二人は学園内では有名な恭也(とミラ)の子供だ。

中には純粋な子供好き、というのもいるかもしれないが、大概は邪な理由を持って声を掛けようとするものが多い。

曰く、二人と仲良くなれば恭也とお近づきになれるかも、など……正直ミラが聞けばただでは済まない理由である。

まあそんなわけで、二人が人目のあるときに歩けば自ずとこうなるわけである。

そしてそんなに視線が集中すれば当然、綾菜は人見知りを発揮して蓮也の後ろを隠れるように歩くこととなる。

 

「綾菜……いい加減、人見知りを直そうとか思わないのか?」

 

「う〜……」

 

少し呆れたように尋ねてくる蓮也に綾菜はフルフルと首を振ることで返す。

それに蓮也は溜め息をつくも綾菜を剥がそうとはせずそのまま歩き、二人はようやく食堂へと辿り着く。

辿り着いた食堂は生徒の朝食時から少し経っているのか、あまり生徒の姿は見えない。

しかし、あまりいないというだけで二、三人程度はいるため、綾菜は以前蓮也の後ろに隠れたままである。

 

「さて……何にしようかな」

 

「綾菜は……焼いたお魚がいい」

 

「ん、焼き魚定食だな……って、それくらい自分で頼みなさい」

 

「……いや」

 

少しだけ考え、食堂のカウンターにいる人をちらっとだけ見てから綾菜は首を横に振る。

カウンターにいたのが裂夜、もしくはアーティならば綾菜は蓮也の言うとおり自分で頼んだだろう。

しかし今、綾菜が見たときに立っていたのはそのどちらでもないため、人見知りが発揮されるのも当然である。

つまり、それは予想していた返答ではあるのだが、それでも蓮也は呆れの溜め息をつかざるを得なかった。

 

「はぁ……しょうがないな、まったく。 ……すみません、焼き魚定食と野菜炒め定食をお願いします」

 

「は〜い、ちょっと待ってね〜」

 

蓮也が注文するとカウンターに立っていた人はそう返し、パパッと調理に取り掛かる。

といっても、焼き魚と野菜炒め以外はすでに出来ているし、その二つもたいした時間は掛からない。

故に近くのテーブルで二人が待つこと数分、頼んだ料理はすぐに完成して二人の手に渡る。

料理の乗っている盆を手に持って、二人は待つときに座っていた席へと戻り腰掛け、いただきますと言ってから食べ始める。

 

「綾菜……もう少し離れろ。 食べ辛いだろ」

 

「いや」

 

今度は考える間もなく即答だった。

これも二人だけのときはいつものことなのだが、食事の際に綾菜は蓮也にこれでもかというくらい引っ付いて座る。

傍目から見たらこの光景はほんとに仲のいい兄妹くらいにしか見えないが、当人からしたら食べ辛いことこの上ない。

しかし、先ほどの即答から見られるように、離れろと毎度言っても絶対に綾菜は離れようとはしない。

正直、毎度毎度これでは蓮也が困ってしまうのも無理はないかもしれない。

 

「あのな……これも毎回言ってるが、こんなにくっ付いて食べてたら綾菜も食べ辛いだろ?」

 

「……慣れた」

 

食べ辛いでも食べ易いでもなく、なぜか返答は、慣れた、である。

つまりそれは最初こそ食べ辛かったが、今となってはもうこうやって食べることに慣れてしまったということだ。

食べ易いと返されるのも困るが、こう返されるのも蓮也としては正直かなり困りものだった。

 

「はぁ……まあ、いいけどな」

 

毎度のことであるため、もう蓮也としては諦め気味だった。

そんなわけで異常なまでにくっ付きつつ、二人は目の前の料理を食べ続ける。

と、そこで蓮也はあることを思い出し、綾菜へと顔を向ける。

すると、蓮也が考えたとおりの光景を、綾菜は目の前の料理相手に繰り広げていた。

 

「……」

 

綾菜の頼んだ定食、それのメインである焼き魚の小骨取り。

それが綾菜は苦手であり、放っておけば手を使って取り始め、魚の身までぐちゃぐちゃにしてしまう。

苦手なら他のにすればいいのではと普通は考えるが、綾菜は小骨取りは苦手だが焼き魚が大好きなのだ。

そのため、悪戦苦闘しながらも綾菜は懸命に小骨を取り除こうとする。

 

「……貸してみろ」

 

「あ……」

 

綾菜が魚の身をめちゃくちゃにする前に、強引に皿を取って蓮也は小骨を取り始める。

小骨取りはいつもならミラの仕事なのだが、今はミラがいないため蓮也が代わりにそれを行う。

パパッと小骨を取っていく蓮也を綾菜はボーっと見つつ、小骨が取り終わるのをじっと待つ。

 

「ほら……母さんほどとはいかないから、多少残ってるかもしれないけど」

 

「うん……ありがと、お兄ちゃん」

 

ニコッと笑みを浮かべながら皿を受け取り、綾菜は魚を食べ始める。

向けられた笑みに蓮也は少し照れた仕草をするも、同じく笑みを返してから食事を再開した。

 

「お、美味そうな物食ってるな」

 

食事を再開して間もなく、そんな声が聞こえると同時にひょいっと蓮也の定食の漬物が取られる。

それに蓮也が少しだけ驚いたような顔をしつつ頭を上げると、そこには音を立てて漬物を食べる裂夜がいた。

そしてその隣には昨日と同じくリエルが立っており、互いに会釈をしてから裂夜へと口を開く。

 

「裂夜叔父さん……手で食べるなんて行儀が悪いですよ?」

 

「まあそう言うな。 朝から話し合いだのなんだので腹が減ってるんだよ」

 

「じゃあ何か頼めばいいんじゃないですか?」

 

「お前たちので……朝食タイムは終わったらしい」

 

「ああ……ご愁傷様です」

 

朝食タイムは朝七時から九時までの間。

それにうまく滑り込んだ蓮也と綾菜はよかったが、話し合いなどで裂夜は間に合わなかったらしい。

ちなみにだが、リエルは裂夜を探す前にすでに朝食を済ませていた。

 

「というわけで……その野菜炒めをくれ」

 

「嫌ですよ。 なんでメインの料理をあげないといけないんですか」

 

「そうけちくさいことを言うな」

 

「けちくさくないです……というか、子供にたかろうとしないでください」

 

呆れたような目で言いつつ、蓮也は食事を再開する。

それに裂夜は駄目か、と呟いた後、綾菜へと視線を向けてみる。

魚を食べることに集中していた綾菜は向けられたその視線に気づくと、すぐに警戒し始める。

事食べ物に関しては、裂夜の信用はまったくないということがよくわかる様子だった。

 

「はぁ……なあ、お前は何か食べる物持ってないか?」

 

「私ですか? えっと……これぐらいなら」

 

そう言って取り出したのは二つの飴だった。

それを見て裂夜はこの際しょうがないか、と呟いて差し出された飴を手に取り、二つとも口の中に放り込む。

そして放り込まれた飴を口の中で転がしつつ、裂夜は綾菜に再び視線を向けて口を開く。

 

「それにしてもどうしたんだ、その左目。 怪我でもしたのか?」

 

「えっと、母さんが言うには少し傷が出来てるらしいです」

 

「だ、大丈夫なんですか、それ」

 

「まあ、母さんも眼帯をしてれば治ると言ってましたので、大丈夫だと思います」

 

綾菜の代わりに返した蓮也の言葉にリエルは聞き、返答を聞いてほっとしたように息をつく。

そんな中最初にそれについて聞いた裂夜はというと、眼帯の付けられた左目をじっと見ていた。

 

「ふむ……傷、なぁ」

 

小さく呟きつつ、裂夜は手を伸ばして眼帯へとそっと触れる。

そして触れたと同時に若干顔を顰め、すぐに元の表情に戻して手を離す。

その変化に気づいたのは触れられた綾菜だけなのだが、他の者が気づいた風もないので見間違いかと思うことにした。

 

「さて、と……俺はそろそろ行くとしよう」

 

「あ、では私も……」

 

「……いや、お前はここにいろ。 もしくは講義にでも行ってこい」

 

「知らないんですか? 講義に出る出ないは本人の自由なんですよ?」

 

「知ってるに決まってるだろ。 というか、単にいい加減付いてくるなと言いたいんだ!」

 

「裂夜様もいい加減諦めてください。 私たちが一緒にいるのは謂わば運命なんですから♪」

 

「んなわけあるか!! はぁ……もう、言い返すのも疲れてきた」

 

ほんとに疲れたようにそう言い、裂夜は不本意ながらリエルを引き連れて食堂を去っていった。

そんな二人の後姿を見つつ、蓮也は少しだけ苦笑して食事の手を再開する。

 

「ご馳走様……」

 

「ん、もう食べ終わったのか……って、漬物がまだ残ってるぞ?」

 

「……お兄ちゃんにあげる」

 

言いつつ綾菜は漬物の乗った皿を蓮也の盆へと置こうとする。

しかし、置かれる寸ででその手を止め、再び元の場所へと戻す。

 

「好き嫌いは駄目だ。 ちゃんと漬物も食べなさい」

 

「いや」

 

「いや、じゃない。 好き嫌いしてると大人になれないぞ?」

 

「……いいもん、なれなくても」

 

少しだけ考えるも、綾菜は嫌だの一点張り。

これは知る人ぞ知ることだが、綾菜はこういったことに関しては頑固であるのだ。

そして同時に、拒否してることを無理にさせようとすれば泣き出すというのは綾菜という子を知っていればわかること。

故に蓮也はそれ以上無理に言うことができず、仕方ないという表情でその漬物を代わりに食べるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食を終えた二人が次に行く場所がどこかはいつもの如く決まっていた。

講義中であるため講義室には入れない、学園内もあまりうろつかない様に言われている。

保健室も講義中であるため誰もいない、というか居ても保健室嫌いの綾菜が拒否をする。

と言う理由で、二人が行く場所と言えば講義中でも部屋にいることが多いジャスティンのところ。

つまりは学園長室だった。

 

「そういえば父さんや母さんが今日は忙しいみたいなことを言ってましたけど、何かあったんですか?」

 

「え……あ、うん。 そうね……そんなところよ」

 

来訪した学園長室でいつものようにお菓子を食べながら、蓮也はふと尋ねてみる。

すると書き物をしていたジャスティンはちょっとだけ驚いた顔を浮かべ、だがすぐに笑みへと変えつつそう返す。

なぜジャスティンが驚きを浮かべたのか少し疑問を浮かべるも、蓮也はそれで納得したように頷く。

 

「それにしても、綾菜ちゃんは良く食べますね。 さっき朝食を食べたばかりなんでしょう?」

 

「甘い物は別腹って……お母さんが言ってた」

 

「あ、あははは……」

 

それは確かによく聞く言葉だが、実際別の腹に入るわけでは断じてない。

現に綾菜ほどではないがお菓子を食べるほうであるミラとて、あのスタイルは魔法によって維持していたりする。

だが、父親や母親の言うことは真実だと思っている綾菜はそれを信じてしまっているため、我慢することなく食べる。

まあ、この年頃の子が体重を気にすることなどほとんどないことだが。

 

「……なくなった」

 

「あ、はいはい。 ちょっと待ってね」

 

蓮也はまだ四分の一も食べていないにも関わらず、綾菜は食べ終わりなくなった椀をジャスティンへと持っていく。

それにジャスティンは少しだけ苦笑しつつ、椀を受け取って棚へと向かい、椀へとお菓子を補充する。

そしてお菓子を補充した椀を持って戻り渡すと、綾菜は嬉しそうな笑みを浮かべてソファーへと戻っていった。

 

「あの……ほんと、すみません。 もう少し遠慮するように言ってるんですけど」

 

「ううん、気にしなくていいわよ。 子供のときの静穂に比べたらこれくらい可愛いものだから」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ。 あのときの静穂ったら、棚の中や机の上はめちゃくちゃにするしお皿やカップは壊すしで……ほんと、誰に似たのかわからないくらいだったわ」

 

「は〜……正直、今の静穂姉さんからは想像できませんね」

 

「まあ、今はもうあのときみたいな子供じゃないし、あなたたちの前では出来のいいお姉さんで通そうとしてるみたいだからそうかもしれないわね」

 

苦笑しつつ語りながらも、ジャスティンは書き物をする手を止めることはない。

そしてジャスティンが懐かしそうに語るのを聞きながらも、綾菜はお菓子を食べる手を止めることはなかった。

前者には尊敬、後者には呆れを浮かべながらも、蓮也は自身に宛がわれたお菓子をゆっくりと食べていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お菓子を食べ終えてから話をしつつ二時間弱、二人は学園長室を出て食堂にて昼食を取った。

その際、かなりと言えるほどお菓子を食べていたにも関わらず昼食をしっかり食べる綾菜に少しだけ蓮也は呆れる。

しかも昼食として頼んだのが小骨を取れないくせにまたも焼き魚ということがその呆れを更に強めた。

そんなこんなでしばし経ち、昼食を食べ終えた二人は本でも読もうということで図書室へと向かった。

図書室へ向かう際に、廊下で擦れ違う生徒たちが口々に怖いね〜、などという言葉を口にしていたことに首を傾げる。

一体何が怖いのだろう、と疑問に思った蓮也は次に擦れ違った女子生徒のグループに聞こうと思い、そして声を掛ける。

 

「あの、ちょっと聞きたいことがあるんですけど……」

 

「え……あ、うん。 なにかな?」

 

声を掛けられた女子のグループは足を止め、その先頭に立つ女子が尋ねてくる。

ちなみに、声を掛けられたこの者たちが内心で、可愛いなぁ……とか、お持ち帰りしたい、とか思っていたりする。

まあそんなこと蓮也が知るはずも無く、先ほど思った疑問を尋ねてみた。

その疑問に女子たちは一様に困ったような表情を浮かべ始め、少しだけ言い難そうにしつつも口を開いた。

 

「えっとね……あくまで噂なんだけど、最近夜になると学園に吸血鬼が現れるらしいの」

 

「吸血鬼……ですか?」

 

「うん。 実際に被害者も出てるみたいで、信憑性も高いし……だからたぶん、その人たちもそれが怖いねって話をしてたんじゃないかな」

 

「そうですか……ありがとうございます」

 

ぺこっと礼儀正しくお辞儀をすると、女子たちは笑みを浮かべつつ去っていった。

去る際にその中の数名が名残惜しそうにしていたりするのだが、当然蓮也も綾菜も気づくことはない。

 

「吸血鬼、か……父さんや母さんが忙しいのも、やっぱりそれのことでかな」

 

独り言のように呟き、蓮也は後ろに隠れる綾菜を連れて図書室へと再び歩みだす。

その際、綾菜が自身の服を掴む力を少しだけ強めたことに気づいていたが、敢えて何か言ったりはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

程なくして図書室へ辿り着いた二人は、適当な本を取って近くの椅子に座る。

座ったと共に二人は本を机に置いて開き、静かにそれを読み始めた。

 

「あれ……蓮也くんに、綾菜ちゃん?」

 

読み始めてから間もなく、すぐ近くから掛けられた声に蓮也は振り向く。

するとそこには、一冊の本を手の持ったカールが立っていた。

 

「あ、こんにちは、カールさん」

 

「うん、こんにちは。 それで、二人はどうしてここに?」

 

「えっと、することもないので本でも読もうかと思いまして」

 

「なるほどね。 まあ確かに本を読む以外でここに来ることなんて普通はないか」

 

蓮也の返答にカールはそう納得し、綾菜とは反対側にある蓮也の隣の椅子に腰掛ける。

 

「カールさんこそ、どうして図書室に?」

 

「僕? あ〜……まあ、ちょっとした調べ物かな」

 

「調べ物というと……例の吸血鬼騒動についてとかですか?」

 

「吸血鬼騒動?」

 

尋ねてきた言葉に聞き覚えがないカールは不思議そうに首を傾げつつ尋ね返す。

尋ね返された蓮也は人づてで聞いた内容をそのまま伝えると、カールは驚きを少しだけ表情に浮かべる。

 

「そんなことが起こってるんだ……全然知らなかったな」

 

「? じゃあカールさんは何を調べに来たんですか?」

 

そう聞くと、カールは手に持っている本の冊子を蓮也へと見せる。

見せられた本の冊子に書かれていた題は『世界の歴史』という至って普通なもの。

それになんで歴史を、と言う風に疑問を浮かべる蓮也に、カールは少しだけ苦笑しつつ調べたい項目を開いて再度見せる。

再び見せられたそのページに書かれていたのは『三大魔導家の衰退とハンターアカデミーの設立』と書かれていた。

 

「これを調べに来たんですか?」

 

「まあね。 といっても、僕が調べたいのは三大魔導家の一つ、ドラクール家に関してのことなんだけど」

 

「は〜……なんだかよくわからないですけど、凄いですね」

 

返された言葉にカールは苦笑で返し、開いたページに視線を落として読み始める。

それに合わせるように蓮也も再び読書に戻ろうとするが、そこでふと隣を見て呆れ顔を浮かべる。

 

「く〜……すぅ〜……」

 

開いた本の上に頭を乗せて、綾菜が静かに寝息を立てて寝ていた。

寝ている綾菜を見つつ、一体何を読んでいたんだと開かれた本を覗いてみる。

するとそこに書かれていた題は、『オッドの探訪、フレイヤの旅』というもの。

この題を見て、蓮也はすぐに綾菜が何を読んでいたのかを察して呆れたように溜め息をつく。

 

「北欧神話って……確かに適当に持って来いとは言ったけど」

 

良くも悪くも絵本とかくらいしか読まない綾菜には少し難しい本である。

故に、それを手に取って読み、難しすぎる話だから寝てしまったというところだろう。

それを理解して蓮也は再び溜め息をつきつつ、自分の手に持つ本へと視線を戻して読書に戻るのだった。

 

 


あとがき

 

 

カールがメンバー復帰というのが書けなかった……。

【咲】 しかも事件のことが大半とか言っときながらこれだしね。

【葉那】 更に言えば、これじゃ一日じゃなくてほぼ半日だしね〜。

【咲】 まったく、駄目作者ここにって感じよね。

【葉那】 だね〜。

うぅ……そこまで言わんでも。

【咲】 ま、予告とほとんど違っていたことはさておき、なんで蓮也と綾菜の一日を書こうとか思ったわけ?

ん〜、まあ、ペルソナさんに要望は無いかって聞いたらこれが見たいって返ってきたからかな。

【葉那】 そうなんだ〜。 でも確か、ペルソナさんに言われる前にこの話って出来てたんじゃなかったっけ?

だから、元々出来ていた話にそれを加えて書き直した物がこれなわけだよ。

【咲】 また面倒なことをするわね〜。

ま、要望は出来うる限り叶える、というのが俺の信条だし。

【咲】 ふ〜ん……でもさ、ペルソナと言えば、もう一個要望があったんじゃないかしら? それと確かFLANKERからもあったような。

あったね。 しかしまあ、そのどちらも現状では書き辛いのでもうちょっと先になる。

【葉那】 じゃあいずれは書くってこと〜?

もち。 どちらも魅力的な要望だったしな。

【咲】 ま、がんばりなさいな。で、次回はどんなお話?

次回は、事件が急展開を起こすという話だな。

そして、犯人の第一候補として上がる彼女の驚愕の行動がカールたちに見つかってしまう。

【葉那】 彼女って言うと〜、あの子かな?

ま、それは次回をお楽しみにだ。 では、今回はこの辺で!!

【咲&葉那】 また次回ね〜♪




綾菜が可愛いな〜。兄にくっ付いて離れない人見知りの女の子。
いやいや、本当に。
美姫 「はいはい。それにしても、今度は吸血鬼の噂が出てきたわね」
うーん、残された吸血跡。今までとは違い、生き残った生徒。
美姫 「それってつまり、少しだけ血を頂いたって事よね」
果たして、それの意味するところは。
美姫 「次回もお待ちしてますね」
待ってます!



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