突然のゲシュペンストの出現に裂夜は我が目を疑った。

十数年前に死の女神ヘルと共にいた存在、そしてヘルと共に消え去ったはず存在。

そんなあるはずのない存在が目の前に現れたのだから、裂夜が目を疑うのも当然と言えば当然だった。

だが、状況が状況なだけにすぐに我に返り、裂夜は小太刀を構えなおして生徒を守るように対峙する。

 

「……」

 

しかし、対峙した裂夜に対してゲシュペンストは興味なさげに視線を逸らす。

そして視線を逸らした方向にゲシュペンストはゆっくりと歩き出し、そのまま裂夜の前から去っていった。

裂夜は去っていくゲシュペンストを追うべきか追わざるべきかを考えるが、すぐに追うべきではないという結論に至る。

なぜゲシュペンストがいるのかは疑問だが、あのゲシュペンストには少なくともこちらに敵対する気は見られなかった。

そして更に言えば、この場にいるのは裂夜だけでなくこの学園の生徒である少女もいるのだから尚更追うことは出来ない。

 

「はぁ……」

 

そういう結論に至ったが否や裂夜は溜め息をついて小太刀に纏わりついた液体を払い鞘に納める。

そして後ろにいる生徒―先ほどのゲシュペンストの出現で気絶した―を抱き上げてその場から歩き出す。

その際に先ほどのゲシュペンストが粉々にした魔物の残骸である液体に視線を向ける。

液体は先ほど裂夜が戦っていたときとは違い、再生する気配を見せずその場に静かに溜りを作っていた。

なぜ裂夜が斬っても斬っても再生をした魔物がゲシュペンストの一撃で再生しなくなったのか。

視線を向けた液体に対してまたも新しい疑問が浮かびながらも、裂夜はその生徒を抱き上げたままその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!2〜永久に語り継がれし戦士たち〜

 

第二十話 始まりを見せる怪奇事件

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔物と対峙しながらも感じていた魔物の行動に関する違和感。

それにいち早く気づいたリゼッタを初めに他の面々も同じく気づき始めていた。

近接的な攻撃で攻め入ってくる者たちに対し迎撃しているように見せて、振るわれた攻撃から連続で放たれる水弾はすべてレイナと綾菜を狙って放たれているという事実。

それに最初は薄々、そして今となっては確信として気づいてしまったその事実に皆の頭には揃って同じ疑問が浮かぶ。

なぜ目の前の魔物は、レイナと綾菜の二人をあそこまでしつこく狙うのか、という疑問が……。

 

「はあ!」

 

しかし疑問があろうがなかろうが、仲間を狙ってくるのであれば放っておくことなどできない。

その思いを抱きながら、静穂は長刀を振るって水弾を放てないように再度腕を斬り落とす。

そして、静穂だけに限らず同じ思いを抱いている残りの者たちも同様にレイナと綾菜を狙えないように中距離攻撃手段となる部位を斬り落とし、それでも再生し放たれてしまう水弾はリゼッタの放つ矢で相殺し阻む。

しかし、それらはすべて二人を狙った魔物の攻撃を阻むだけの行為であるため、どれも魔物を倒すという決定的な一撃には成り得ない。

つまりそれがどういうことかというと、魔物を倒すに至るよりも先に皆の体力のほうが切れてしまいいずれは負ける、ということだ。

斬られても砕かれても再生を繰り返す魔物を倒す方法……それを見つけ出さない限り、努力はいずれ無となってしまうということなのだ。

 

「っ!」

 

そうなる前に方法を見つけ出さなければならないのだが、じっくり考えさせてくれるほど敵は甘くない。

前衛の者たちは水弾を放たせないために攻撃を止ますわけにはいかず、それでも放たれてくる水弾をリゼッタが阻まなければならない。

そんな二人を守りながら戦わなければならない現状でじっくり方法を考えることなど少なくとも今のレイナたちには無理に近かった。

 

「っ……いい加減、倒れてよね!」

 

何度も再生を果たす魔物に苛立ちを隠すことなくそう言って静穂は長刀を振るう。

しかし、それによって斬り落とされた部位も液状になって魔物の体に集まりすぐに再生する。

その脅威の再生能力に、静穂だけでなく見た目冷静に見えるリィナも蓮也も内心で苛立ちを浮かべていた。

そんな皆が苛立ちを浮かべる中、リゼッタだけは水弾を警戒しつつ矢を放ちながら冷静に目の前の魔物について考えていた。

 

(見た目に違わず液体で出来ているから斬られても砕かれても再生できる……そういうことでしょうか)

 

水は刃物で斬ることも鈍器で砕くこともできない。

それに乗っ取って目の前の魔物は斬られようが砕かれようが一転に集まって再生を果たすことができる。

リゼッタは敵の再生能力に関してそこまで考え、そして同時にもしかしたらという考えが頭に浮かぶ。

 

(液体だから再生できるということは……固体にすることが出来ればもしかしたら)

 

そう浮かんだが矢先、リゼッタは少し叫ぶような声で前衛の三人に少しの間レイナと綾菜に攻撃が及ばないように時間を稼いでくれと言う。

そのリゼッタのいきなりの頼みに三人は不思議に思うが、すぐに何か考えがあってのことだろうと考え揃って頷く。

三人が頷いたのを見て、リゼッタはすぐに考えを実行するために弓を下ろして魔法の詠唱を開始する。

リゼッタのその行動さえも無視するように魔物はレイナと綾菜に水弾を放とうとするが、それをさせまいと前衛の三人がその部位を斬り落として攻撃を阻む。

そして詠唱を始めてから時間にして十数秒、魔物の斬り落とされた部位が魔物に集まり再生したと同時に魔物の足元に魔法陣が浮かぶ。

 

「フリーズ!」

 

リゼッタが腕を振るうと共に魔法の名称を叫ぶと魔物の足元の魔法陣が呼応するように光り輝く。

唱えた魔法は黒魔法の講義で習う下位中の下位に部類する氷結系の魔法なのだが、考えが正しければそれでも十分なはず。

そうリゼッタが考えつつ事の成り行きを見続ける中、魔物は足元からその体を凍てつかせられてゆく。

そして魔物の体全体が凍てついたとき、今だと言わんばかりにリゼッタはリィナの名を叫ぶ。

名を呼ばれたリィナはすぐにリゼッタの意図に気づき、手の平に氣を収束させて凍てついた魔物の体に触れるぐらいの距離で掲げる。

 

「デッドヘイザー!」

 

技の名称を叫ぶと共にリィナの手から収束した氣が衝撃となって放たれ、凍てついた魔物の体は音を立てて砕ける。

そして砕けた魔物の体が再生するのを警戒しつつ皆が視線を向ける中、原型を留めている魔物の下半身がゆっくりと倒れて砕けた。

その後、再生する気配を見せない魔物に皆は安心したように息をつきながら若干駆け足でレイナと綾菜の元へと駆け寄った。

 

「レイナさん、綾菜の傷は……」

 

「あ、うん……外傷はないみたいだけど、あの吹き飛びようからして少なくとも骨に罅くらいは入ってるかも……」

 

「な、なら早く治癒の魔法を……」

 

蓮也は若干冷静さを欠いた様子でそう言うが、それに誰もが申し訳なさそうな顔をする。

 

「すみません、蓮也さん……私、傷などを癒す治癒魔法は使えるんですけど、骨折などに対する治癒はまだ使えないんです」

 

「私もです……ごめんなさい、蓮也くん」

 

「僕も……っていうか、僕は治癒魔法自体使えないんだけどね」

 

傷に対する治癒魔法と骨折などの体内に掛ける治癒魔法は別物であり、前者に比べて後者は結構高度な白魔法だ。

そしてその魔法は講義でも習うのはずいぶん先ということもあってこの場にいる全員が使うことができない。

そのため、リゼッタ、リィナ、静穂の三人は使えないという申し訳なさを浮かべながらそう言い、蓮也は更に焦りを見せ始める。

 

「じゃ、じゃあどうすれば……」

 

「フィリス先生に見せるのが一番いいんだけど……この時間だと保健室にいないだろうし」

 

時間にして現在は夜中の一時前。

そんな時間にさすがに保健室にフィリスがいるとも思えず、かといってフィリスの自室に呼びに行けばいいだろうという考え無理だという結論に至る。

なぜなら、普段生徒が講師の部屋にいくことなど滅多にないこともあってか講師の部屋がどこにあるかなど把握していないのだ。

そのため当然フィリスの部屋も知っているはずもなく、フィリスに診てもらうというのは除外せざるを得ない。

ついでに言えば、同じく白魔法講師であるベルナルドに治癒してもらうというのも同じ理由にて除外される。

しかし、だとすると治癒が使えたり医療の心得のあったりする人物のほとんど除外されるということになり、現状ではどうしたらいいのかということがわからなくなってしまう。

そんな急がないといけないと思いながらも考えが浮かばない皆に同じく焦りを見せながらも考えていた蓮也が小さく声を上げてそれを口にする。

 

「先生が駄目なんでしたら、アーティ姉さんに頼めば……」

 

「あ……確かにその手があったね」

 

蓮也の言葉に静穂はそう言うが、アーティなる人物を知らない他の者は首を傾げていた。

だが思いついたが矢先、蓮也はアーティに関して説明している暇はないと言わんばかりに、行きましょう、と一言言って早足気味で歩き出す。

皆はアーティという人物に関してかなり気になりつつも、蓮也と同様に綾菜のことが心配であるため蓮也の後をついて歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜中ということでアーティは部屋にいると考え、一直線に皆はアーティの部屋へと向かった。

そして歩き始めること約二十分、アーティのいるであろう部屋へと辿り着いた皆はその部屋のドアをノックする。

すると、中から出てきたのはアーティではなく、皆も見覚えのある黒魔法の講義でアシスタントを務めるセリナだった。

部屋から出てきたのがアーティなる人物ではなくセリナだったことに二人が同室だと知らない者たちは驚きを浮かべていた。

そんな中、蓮也は先ほどの焦りを浮かべたままセリナにアーティはいるかと聞くが、返ってきた答えはノーだった。

ならばどこに行ったのか、と蓮也は続けて聞くも、セリナの告げた答えは蓮也に更なる焦りと落胆を抱かせるものだった。

 

「アーティなら……美由希っていうお兄ちゃんの妹のところに行ってるから、当分は帰ってこないんじゃないかなぁ」

 

美由希のところ……つまりはこの世界とは別の世界に行っているということ。

如何に魔剣の精といえど本来なら世界を越えるゲートなど開くことはできないが、神器であるスレイプニルを使用すればそれは可能になる。

スレイプニルの本来の持ち主はセリナなのだが、こういったアーティが美由希に会いに行くなどのときにはスレイプニルをアーティに貸し出し、そこから少なくともこちらの時間で二、三日はアーティが不在であることがある。

つまりはちょうどそのときにぶつかってしまい、アーティは現在こちらの世界にはいないということなのだ。

そしてそれは、アーティに綾菜を診てもらう、という考えを断念せざるを得なくなったということだった。

そのためあからさまな落胆を見せる皆にセリナは首を傾げながら一体どうしたのかと尋ねる。

それに皆の中で一番焦りと落胆を見せている蓮也が事を掻い摘んでセリナへと説明するとセリナはミラのところに行けばいいと告げる。

これはミラの子である蓮也も知らなかったことであるが、ミラは黒魔法だけでなく講義で習うくらいの魔法と名のつくものは一通り使えるらしいのだ。

セリナから聞いたその事実に誰もが驚きを浮かべる中、蓮也はすぐにお礼を言い、続けて皆に急ぎましょうと言って歩き出した。

皆もそれに慌ててセリナにお礼を言いつつ蓮也の後を追いかけるように歩き出す。

再度蓮也を筆頭に歩き出して数分、皆は恭也とミラ、加えて蓮也と綾菜のでもある部屋の前へと辿り着く。

そして辿り着いたが矢先、蓮也はすぐに部屋の中へと入ってちょうどお風呂に入り終えた(部屋の風呂で済ませた)ミラに事の次第を説明する。

すると、説明し終えたと同時にミラの顔色が徐々に青褪めていき、凄まじい勢いで綾菜を抱えながら扉の前に立っているレイナのところへ駆け寄る。

 

「綾菜っ!」

 

名を叫ぶと共に駆け寄ってくるミラの勢いにレイナは少し後ずさりそうになりながらも綾菜を受け渡す。

ミラは綾菜を受け取るとすぐに部屋の中へと戻ってベッドの上に寝かし、青褪めた顔色のまま綾菜の容態を診る。

 

「ふぅ……ん? どうしたんだ、ミラ?」

 

ミラが綾菜の容態を診ている最中、ちょうど風呂から出てきた恭也はミラの様子に不思議そうな顔をして尋ねる。

だが、容態を見て治癒をすることに集中しているためか、ミラは恭也の言葉に返すことはなかった。

それに恭也は不思議そうな顔のまま首を傾げ、近くにいたレイナたちに今の状況に関しての説明を求める。

そして尋ねられたレイナたちが蓮也がミラにした説明とほぼ同じ説明をすると、恭也はそういうことかと呟いてミラの隣へと歩み寄る。

 

「ミラ……綾菜の容態はどうだ?」

 

「……フィリスに診せてみないと正確にはわからないけど聞いた限りでは右腕辺りの骨に罅、最悪だと肋骨が一、二本折れてるかもしれないわ」

 

「そうか……なら、フィリスさんのところに連れて行ってみるか?」

 

「……ううん、私が治すわ。 もしそれ以外に折れてる場所や異常の見られる場所があっても体全体に治癒を掛ければ……」

 

ミラはそう言うが否や、綾菜に手を掲げて治癒の魔法を行使し始める。

部位的な治癒ならば差して魔力を使わないが、体全体に満遍なく掛けるとなるとそれなりの魔力を消費する。

しかし、普通の人ならばそれが大半の魔力を持っていく行為でも、ミラならばそこまで問題ではない消費量だった。

故にミラがそれを言い出し魔法を行使し始めても、それを知り信頼している恭也は静止の言葉を掛けることはなく魔法の行使を止めることもなく、ただミラが綾菜を治癒するのを静かに見守っていた。

そしてしばらく治癒の魔法を放ち続けてた後、完全に治癒を終えたミラは小さく息をつく。

 

「終わったのか……?」

 

「ええ……それにしても、まさか綾菜がこんなことになるなんて。 やっぱり、二人にはまだ時期が早すぎたんじゃないかしら?」

 

「かもしれないな……」

 

恭也は同意するようにそう返して静かに眠る綾菜を優しく撫で、扉の前で立っているレイナたちに部屋に入るように言う。

それにレイナたちは少し緊張しながら部屋の中へと入り、恭也とミラ、蓮也の三人の後ろで綾菜を心配そうな表情で見る。

 

「あの……綾菜さんは、もう大丈夫なんですか?」

 

「ああ。 ミラが治癒を掛けたからもう大丈夫だろう。 まあ、念には念を入れて明日辺りフィリスさんのところに連れてはいくが」

 

「そうですか……あの、すみませんでした。 私たちが未熟なばかりに綾菜さんを危険な目に合わせてしまって」

 

「まったくね……」

 

申し訳なさそうに謝罪するリゼッタにミラはまるで責めるように冷たくそう言う。

それにリゼッタだけでなく、レイナやリィナ、静穂の三人も申し訳なさそうに俯いてしまい、恭也はミラの過保護振りからわかっていたこととは言えミラの言葉に溜め息をついてしまう。

そんなレイナたちにミラはさらに追い討ちをかけるように普段は出すことのない冷たい怒りを露にして言い続ける。

 

「なんであなたたちが無事で、綾菜がこんな目に合ってるのかしら? もしものときはあなたたちが二人を守ってくれると思ってたのに……ほんと、あなたたちには失望させられたわ。 二人が望んだこととはいえ、あなたたちに二人を任せたのは間違いだったかもしれないわね」

 

「……すみません」

 

「謝れば済むとでも思ってるの? もしそうなら言っておくけど、恭也みたいに謝れば許すほど私は優しくないわ。 それが蓮也と綾菜に関係することなら尚更ね」

 

「か、母さん……レイナさんたちは――」

 

「蓮也……ちょっと黙っててくれる? お母さんは今この人たちとお話してるから」

 

レイナたちを庇おうとする蓮也にミラは二の句を繋げさせないようにそう言う。

普段は自分たちに優しい一面しか見せないミラの柔らかくも冷たい言葉に蓮也はそれ以降口を開けず黙ってしまう。

 

「で、あなたたちは少なくとも全員黒魔法の講義を一回や二回は受けてるわよね?」

 

「「「「はい……」」」」

 

「そう……だったらちゃんと言ったと思うけど、力っていうのは誰かを傷つけるだけじゃなくて守ることもできる。 むしろ、守ることに使うほうが正しい使い方といえるわ。 なのに……ちゃんとそう教えたはずなのに、これはどういうことなのかしら? あなたたちは私の講義で一体何を聞いてたの? いえ、むしろ何をしに来てたのというほうが正しいかしらね?」

 

レイナたちが守る暇もなく綾菜は魔物の攻撃を浴びて怪我をしてしまった。

そのことを知らない……いや、知っていても同じかもしれないがミラはそう冷たく言い続ける。

それに誰もが申し訳なさからか反論できずにずっと俯いたままだった。

 

「あら、こっちが質問してるのに今度はだんまり? ほんと、あなたたちは――」

 

「ミラ、そこまでにしておけ」

 

ミラの言葉を静かに聞いていた恭也はさすがに言いすぎだと判断して言葉を遮って止める。

それに止められたミラは少し睨むような目で恭也に視線を向けて口を開く。

 

「どうして止めるの、恭也?」

 

「いくら綾菜がこんな目に合ったからといっても、さすがに言い過ぎだと判断したからだ」

 

「そんなこと――」

 

「ある。 彼女たちだって綾菜を必死に守ったのだろうから、そこまで彼女たちを責めるのはお門違いだ」

 

そう言って恭也は尚も反論しようとするミラに、とりあえず少し落ち着け、と言って頭を撫でる。

そしてミラが黙ったのを若干だが落ち着いたと判断してレイナたちのほうを向き、夜も遅いし各自の部屋まで送っていこう、と言う。

それにレイナたちは遠慮をするように言葉を紡ごうとするが、それよりも早く恭也は八景を手にとって部屋を出て行ってしまう。

レイナたちは恭也が出て行った扉のほうと静かになったミラを交互に見た後、ミラに小さく頭を下げて恭也を追うように部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、恭也先生……本当にすみませんでした」

 

恭也に追いつくや否や、レイナは先ほどと同じ申し訳なさそうな表情でそう謝罪する。

そして他のものもレイナと同じように謝罪を口にして小さく頭を下げる。

 

「謝ることはない。 確かに綾菜が怪我を負ったと聞いたときは焦りもしたが命に別状はないのだし、それに君たちが綾菜をちゃんと守ろうとしていたということぐらいわかるからな」

 

「でも……」

 

気にするなと言われても先ほどのミラに言われたことが尾を引いているのか表情の陰りは消えない。

それに恭也は小さく微笑を浮かべ優しげな声色で口を開く。

 

「まあどこに行ったのかは知らないが、少し無茶をしすぎたというのは反省するところだな。 これからは気をつけるようにな」

 

「「「「はい……」」」」

 

「ん、分かったのなら俺から言うことはもう特にない」

 

そう言って恭也は再度前を向こうとするが、そこでもう一つ言うことを思い出したのかもう一度レイナたちのほうを向いて口を開く。

 

「ミラが言ったことだが……そこまで気にすることはないからな? 講義がどうのと言っていたが、あれのほとんどはミラの私情が含まれてるから」

 

「私情……ですか?」

 

「ああ。 俺もそうだが、ミラは俺以上と言っていいくらい蓮也と綾菜を大切に思っているからな。 だから、二人が関わると時折感情を制御できなくなる傾向があるんだ」

 

廊下を歩きながら、恭也はミラを弁護するように言葉を紡いでいく。

そして恭也が語ること、つまりはミラがどれほど蓮也と綾菜を大切に思っているかが以前のことも含めてレイナたちも納得できた。

その過保護と言っていいくらいの溺愛している二人が危険な目に合えば、ミラがいつも通りではいられないということも。

 

「たぶんあれには、ミラ自身の過去が関係しているんだと思う。 詳しくは言わないが、ミラは俺と結婚するまで家族というものを一切持ち得なかったんだ。 だから余計に、初めて出来た家族であり子である蓮也や綾菜が大切なんだと思う」

 

「家族……」

 

リィナは恭也の言ったその言葉を呟くように繰り返し口にする。

家族という言葉は、施設に送られて今に至ったリィナが最近まで切り捨てていたもの。

だから精神的な面だけではあるが、リィナは自分に家族などいないと以前まで考えていた。

だからか、恭也の語ったミラの家族がいないという過去にどこか共感できる部分があった。

 

「今日の件に関してはおそらくミラ本人も言い過ぎだったとは思っているだろうから、明日になれば元通りになっていると思うぞ」

 

「そうなんですか……?」

 

リゼッタの言葉に恭也は小さく微笑を浮かべながら頷いて返す。

そしてその後もある程度会話をしながら恭也とレイナたちはレイナたち各自の部屋を目指して廊下を歩き続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほぼ同時刻、フィリスは裂夜に叩き起こされ、保健室に寄ってから裂夜が魔物と戦った場所へと連れて行かれた。

そしてその場所にあった血のように真っ赤な水溜りに驚愕を浮かべ、すぐにそれがなんなのかを確認するためにそれの前にしゃがむ。

しゃがんでから数分、なんなのかが判明したのか少しだけ顔を顰めながら立ち上がり、少しだけその液体を持ってきた瓶に入れて裂夜と共に保健室へと戻ってきた。

 

「それで……あれはやはり血だったのか?」

 

保健室に戻るや否や、裂夜はフィリスへとそう尋ねる。

その問いにフィリスは言葉を発することなく、静かに首を縦に振る。

 

「そうか……」

 

頷いたフィリスに裂夜はそれだけ返すと、保健室の一角にあるベッドの前に立つ。

そこには、血の魔物に襲われていたところを裂夜によって助けられた学園の生徒である少女が眠っていた。

フィリスの診断の結果、単に気を失っただけということであるため、少女の顔色は先ほどに比べて良くなっている。

 

「あの血は……すべて人間のものなのか?」

 

「わかりません……詳しく調べてみないことには」

 

「そうか……なら、お前自身はどう思う? あれがすべて人の血だと思うか?」

 

「……あくまで見た感じですけど、私はそうじゃないかと思います」

 

フィリスの言った自身の考えに、今度は返すことなく裂夜は少女に視線を向け続ける。

 

「どの道、今回の件について話し合うにしてもすべては明日だな」

 

「そう、ですね。 じゃあ後は私がついてますから、裂夜さんはもうお部屋でお休みになってください」

 

「いや、そういうわけにもいくまい。 あの魔物があれだけとも限らんし、またこの生徒が狙われる可能性もある」

 

「ですけど……」

 

「あの魔物に関してはお前だけでは対処できない。 だったらお前一人に任せて俺だけ帰るわけにもいかんだろ」

 

つまりそれは、その少女とフィリスが心配だから二人の安全を考えて自分も残るということ。

それをすぐに読み取ったフィリスは少しだけ苦笑を浮かべながら、わかりました、と頷く。

その後、さすがに時間も遅い上に先ほどまで眠っていたフィリスが眠気を我慢しているのを感じた裂夜は少女が眠るベッドの隣にあるベッドで眠るように言う。

ちなみに、そのさらに隣のベッドにはなぜかカールが眠っていたりするのだが、裂夜はカールから事情を聞いているし、フィリスも詳しくは聞いていなくても時折カールが保健室で眠っているのを知っているため特に疑問には思わずスルーしていた。

それにフィリスは最初こそ遠慮していたが、もしものときは叩き起こすという裂夜の言葉と襲いくる眠気に我慢が限界に来たこともあって裂夜の指示通りに隣のベッドで眠りについた。

そしてフィリスが眠りについた後も、裂夜はただ一人眠りにつかずに少女の眠るベッドの横の椅子に腕を組みながら腰掛けていた。

 

 


あとがき

 

 

さてはて、原作のストーリーも終盤へと差し掛かろうとする中、再び怪奇な出来事が……。

【咲】 怪奇な出来事というより怪奇な魔物のほうが正しいわね。

まあそうだけどね。 だが、あの魔物を構成する液体が血であると判明したことで、次回辺り次々と判明することがあるんですな。

【葉那】 判明することって何〜?

ん〜、秘密と言いたいけど……じゃあ、一つだけここで上げておこうかな。

今回襲われた生徒と前に殺された生徒……この二人にはある部分で共通することがあるということだ。

まあどんな共通点かは次回をお楽しみに、だけどな。

【咲】 共通点ね〜……特になさそうに見えるけど。

それはしょうがないことだ。 詳しく調べてやっとわかることだからな。

【咲】 そ。 じゃあ、次回はそれを含めてどんなお話になるの?

次回はだな〜、今回の事件と魔物に関して講師陣がいろいろと話し合いをする。

それと二話ぶりに出番がきたカールが力を失った賢者の石についていろいろと悩みます〜ってこと。

あと、目を覚ました裂夜の助けた少女が……の三本だな。

【葉那】 最後のが曖昧ですごく気になる〜。

まあ具体的に上げたら面白味ないし。

【咲】 ま、それもそうだけどね。 じゃ、今回はこの辺でね♪

また次回会いましょう!!

【咲&葉那】 まったね〜♪




学園を襲う謎の生物。
美姫 「うーん、一体何が起ころうというの?」
謎が増す中、楽しみも増えていく。
美姫 「これからどうなっていくのか、次回も待ってますね」
待っています。



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