いつも通りの講義が行われ、いつも通り生徒たちの声で賑わう学園。

何の騒動も起きることなく、ただ平穏のみが流れる……そんなのどかなある日。

午後の講義が終わって生徒たちがいなくなったある講義室にて、金髪をした一人の女性が立っていた。

 

「……はぁ」

 

黒板の前にある教壇の上に立つその女性―フィリスは暗い表情でため息をつく。

その表情からは、激しく落ち込んでいますというような様子が窺え、どう見てもいつもと様子が違っていた。

そしてそんなフィリスの手元には一つのノートらしきものがあり、フィリスはそれを捲るたびに小さなため息をついていた。

この様子から原因はそのノートというのが分かるのだが、一体そのノートに何が記述されているのか。

それは至極簡単で、表紙に書かれるタイトルだけでも分かることだった。

 

―錬金術・学生出席簿―

 

出席簿……つまりはその日生徒がどれだけ錬金術の講義に参加したのかを記すもの。

本来、この学園は各講義の内どれに出るかは生徒の自由であり、また講義に出なくても咎められることはない。

にも関わらず、なぜ出席簿などというものが存在するのかという疑問が出るが、これには然したる理由はなかった。

というのも、出席簿というのは各講義の講師に渡されるのだが、つけるつけないは講師の自由なのだ。

故につけている講師など恭也かフィリスぐらいで、他の講師はまったくつけてなどいなかった。

まあ、出席簿に関してはここまでにして……問題は、なぜフィリスが出席簿を見て落ち込むかだ。

と言っても、出席簿を見て講師が落ち込む内容など限られる……そして現在のフィリスもその限られた事例の中の一つで落ち込んでいるのだ。

その落ち込む内容とは、ずばり……

 

「今日の出席者……三人、ですか」

 

錬金術の講義に対して生徒たちの出席率の悪さ……それが原因だった。

そもそもこの出席率の悪さは今に始まったことではなく、入学式からずっと続いてきたことだった。

しかしまあ、長いことこの状況が続いてきたとはいえ、講義を担当する身からしたら仕方ないと言えることではない。

そのため、フィリスは落ち込みの表情から珍しく見せる決意に満ちた表情へと変え、出席簿をパタンと閉じる。

そしてその表情のまま、出席簿を片手に講義室を後にし、この状況を打開するためにある部屋を目指して歩いていった。

 

 

 

すべては、錬金術の生徒出席率向上のために……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!2〜永久に語り継がれし戦士たち〜

 

第X−3話 錬金術の人気向上大作戦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、私に人気が出る秘訣を聞きに来たというわけね……」

 

「はい……」

 

講義室を後にしてフィリスが向かった先……それは、高町一家の部屋だった。

なぜ講義の人気向上のために高町一家の部屋を訪れるのか。

それは至極簡単な理由で、高町夫妻こと高町恭也とミラ・高町が担当する講義は脅威の出席率を見せているからだ。

戦闘術も黒魔法も生徒にはそれなりに響きがいい故だろうが、それでも二人の講義はいつも席がぎっしり詰まるほど。

恭也に関してはまあ納得だが、なぜ恐怖の代名詞であるミラの担当する講義は出席率がいいのかは激しく疑問である。

とまあ、そんなわけで、出席率向上を目指してなどと意気込んで早々人頼みというのは格好が悪いが、この際なりふり構ってはいられない。

そんなわけで高町一家の部屋を訪ね、ちょうど綾菜と戯れていたミラがいたので相談を持ちかけたのだ。

 

「……人気、ねぇ」

 

話を全て聞いたミラは膝に綾菜を座らせ、その頭を撫でつつ考え込む。

が、考え込むこと僅か十秒、すぐにフィリスへと向き直って結論を述べた。

 

「無理ね」

 

たかが十秒程度しか考えずにそうきっぱり言うのは正直どうかと思うだろう。

そしてそれはフィリスとて例外ではなく、ちゃんと考えてください的な目でミラを睨む。

するとミラはしばし視線を合わせた後、はぁとため息をついて再び口を開いた。

 

「無理なものは無理よ。 そもそも一度生徒たちの中で固定されたイメージっていうのは早々変えられるものじゃないし、錬金術そのものも結構地味なものなわけだしね」

 

「で、ですからこうして、ミラさんに錬金術の魅力をどうしたら生徒たちに伝えられるか相談してるんじゃないですか……」

 

「って言われてもねぇ……正直、どう足掻いても人気向上なんて出来ないと思うわよ?」

 

「そんな……」

 

どう足掻いても無理……その一言が、フィリスを今一度失意のどん底に叩き落とす。

それにはさすがに言った本人も悪いと思ったのか、バツが悪そうに綾菜のいる膝に顔を向ける。

すると、綾菜は膝に座った状態からミラを見上げ、まるでフィリスを助けてあげてというように目で訴えていた。

話自体はそれなりに難しい故に理解しているわけではないのだが、フィリスが落ち込んでいるということは綾菜にも分かる。

だから、人見知りだけど恭也譲りの優しさがある綾菜は、今フィリスが頼っている自身の母親に自分自身もお願いしているのだ。

恭也以上に子を溺愛するミラが子である綾菜にそんな目を向けられれば、もう結果など火を見るより明らかだった。

 

「はぁ……わかった、わかったわよ。 うまくいくか分からないけど、何かいい手がないか考えておくわ」

 

「え……あ、ありがとうございます!」

 

「大げさねぇ……綾菜も、これでいいんでしょ?」

 

「……うん」

 

見下ろしつつ聞いてきかれた言葉に、綾菜は小さな笑みを浮かべて頷いた。

その笑顔を見ると、正直乗り気ではないながらも笑みで返すしかなかった。

そんなわけでフィリスを助ける羽目となってしまったミラはフィリスがお礼を言って去っていった後も、その方法について考える。

しかしまあ、錬金術の人気向上など安易な策では出来るわけもないため、考えも簡単に浮かぶことは無かった。

そしてしばし考えた後に自分一人では考え付かないという結論に達し、しばらくして帰ってきた恭也や蓮也を巻き込んで策を考え続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相談から三日後の午後五時、その日の講義も全て、終了の鐘が鳴ると共に終わりを迎えた。

講義を終えた生徒たちは早めの夕食を取ったり、ロビーやテラスで談笑したりしながら一様に賑わいを見せる。

そんないつも通りと言える放課後のロビーの中央にて、お世辞にもいつも通りとは言い難い光景が広がっていた。

中央に二つ並べて置かれた机、その上に置かれる様々な道具、そして机の前に下がる垂れ幕。

一体なんだ、と誰もが例外なく思ってしまうそれだが、その疑問は垂れ幕を見るだけで解けたりする。

 

―第一回、お試し錬金術講座―

 

つまりは、こういうことである。

錬金術というものはそもそも地味なものであるため、普通に口で説明や宣伝をしても意味はない。

そしてそれに加え、地味というイメージで固定されている故に安易なことではイメージアップなど出来はしない。

ならば、どうしたら錬金術のイメージをアップさせ、出席率を向上出来るか……それをミラたちが考えた結果、実演しかないという結論に至った。

実演で錬金術を披露し、錬金術とはただ地味な作業だけじゃないと分かってもらえば、自ずとイメージもアップする。

そのため、この結論に至ったミラはフィリスへと伝え、いいじゃないかとフィリスが乗り気になったため今に至っているというわけだ。

ちなみにだが、こんなこと無断ですれば何かしら言ってくるジャスティンには事前に許可を得ていたりする。

 

「えっと、じゃあ……何をしましょうか?」

 

「私に聞かないでよ……錬金術講師はあなたなんだから、やることはあなたが決めるべきでしょう?」

 

「そ、そうですね。 では……今日は魔法石からマナを取り出す、というのを」

 

地味ねぇ……

 

「じゃあ何をしろって言うんですかっ!?」

 

ミラがボソリと呟いた言葉が聞こえたらしく、フィリスは逆切れし始める。

それにミラは若干呆れ気味でため息をつきつつも、顎でフィリスに前を見るように促す。

ミラのその行動にフィリスは我に返って目線を元に戻すと、すでに興味アリと集まってきている生徒たちの視線が集中していた。

数は少ないながらも集中する生徒の視線にフィリスは恥ずかしそうに頬を染めるも、とりあえず先ほど言ったことを実行することにした。

 

「えっと、まずはこの石……これが魔法石というものだけど、これをまずは細かく砕きます」

 

「……で、何で金槌と石を私の前に出すのかしら?」

 

「私は私で他の準備がありますから。 それにミラさんも見ているだけでは暇でしょう?」

 

「暇でも全然問題ないからあなたがやりなさいよ……」

 

「さて、ミラ先生が魔法石を砕いている間、マナを取り出すための溶液を作成します」

 

ミラの言い分を華麗にスルーし、フィリスは生徒たちに説明しながら机に置かれるビーカーに液体を加えていく。

言い分をスルーされたミラは若干ムカッときたが、手伝うといった手前仕方ないかということで地道に石を砕く。

先ほどフィリスに抱いた怒りを石にぶつけるかの如く、ガンッ、ガンッと石に金槌を叩きつけて石を砕いていく。

だが、それが始まってから僅か数十秒後、隣で説明と溶液作成を終えたフィリスがミラの作業にお構いなく口を開いた。

 

「はい、これで溶液は完成です。 この溶液の中に砕いた魔法石を入れることでマナを取り出すことが出来ます。 では早速……って、まだ終わってなかったんですか?」

 

「あのね……このくらいの石を砕く作業が、あんな短時間で終わるわけないじゃない」

 

「はぁ、仕方ないですねぇ……じゃあ、ここにある予め砕いておいたものを使いましょう」

 

「って、そんなのあるなら初めからそっち使いなさいよ!」

 

金槌を地面に投げつけつつ叫ぶミラをフィリスはやはりスルーして作業を続ける。

これにはいくら手伝うと言ったとはいえ、さすがのミラも怒りの雷撃をフィリスに放ちたくなった。

そんなミラを余所に、フィリスは粉末状になった魔法石を溶液の入るビーカーへと流し込む。

 

「と、これで魔法石からマナを取り出せるんですが、このまま放置してもマナは発生しません。 じゃあ、どうしたらマナは発生するでしょうか……はい、そこのあなた」

 

「わ、私ですか? えっと……振って混ぜ合わせる……ですか?」

 

「ん、正解よ♪ じゃあミラ先生……そういうことで、お願いします」

 

「……はぁ」

 

再びの自分指定に不満満載だったが、どうせ言ってもスルーされるので諦め気味で差し出されたものを受け取る。

そして受け取ったビーカーの中にある溶液と魔法石の粉を、ゆっくりゆっくりと同じく受け取ったガラス棒でかき混ぜる。

すると、溶液によって魔法石の粉が分解されたのか、蛍のような光がビーカーより徐々に立ち上がってきた。

それに見学していた生徒たちから僅かに声が沸きあがり、声を出していないものたちもその光に見入ってしまう。

しかし、それもほんの僅か……光を立ち上げるだけだったその溶液は、徐々にその光に負けぬぐらい輝き始める。

そして輝き始めて数秒後、ドカンッと凄まじい音を立てて小規模な爆発を引き起こすことなった。

その爆発に見学していた生徒たちが短い悲鳴を上げる中、その事態を予想していた故かフィリスは驚かず、変わらぬ声色で説明を口にする。

 

「はい、これが魔法石の粉を入れすぎるとこうなるという典型的な例です。 過剰に分解された石のマナが外に出切れず、溶液の中で結合して爆発を引き起こす……今回はこの程度の器でしたからこの程度でしたが、これが大きい器になるともっと凄い爆発になります。 だから、実験の際は器の小さいものを選ぶことと、加える魔法石の分量を間違えないことを心がけるようにね?」

 

いつも浮かべているような笑みと共にそう説明するフィリス。

だが、生徒たちの視線はそのフィリスには向いておらず、揃ってフィリスの隣に釘付けだった。

 

「……」

 

フィリスの隣にあるもの……それは爆発により僅かに黒ずんだミラの姿。

手にはそれなりの爆発にも関わらず割れていないビーカーが握られており、今にも握りつぶさんかの如く強く握っていた。

そしてその行動とは裏腹にミラの表情は笑顔……これ以上にないと言えるほどの、笑顔だった。

しかしその場にいるフィリス以外の全員は気づいていた……笑顔であるはずのミラの目が、僅かに危ない光を灯していることに。

 

「フィリス……」

 

「はい? どうかしましたか、ミラ先生?」

 

唯一、ミラのそれに気づいていないフィリスは首を傾げながら尋ねる。

だが、それにミラは返答を返すことなく、笑顔のまま魔力による紫電を纏い始める。

そしてそれにさすがに焦り始めるフィリスに一言……

 

「お仕置きよ」

 

そう言って、裂夜やセリナにするとき並みの雷撃を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一回目のそれから一週間後の放課後、再びそれは行われることとなった。

というのも、ある程度錬金術の出席率は増えたのだが、それでも数が少ないことに変わりはなかったからだ。

しかし、第二回目を開催する上で問題点もあった……それは、ミラが参加を拒否してきたということ。

まあ、第一回目のときにあれだったのだから、被害者たるミラが拒否してもおかしくはないだろう。

だが、だからといって助手がいない状態で第二回目というのも難しいため、フィリスは早急に代わりを探した。

その結果、ちょうど学園長室から自室へ帰ろうとしていた高町家の子供グループを発見した。

蓮也や綾菜は以前より学生に人気があったが、それに加えて最近加わった彩音も人気が出始めていた。

故にフィリスはミラの代わりにしてもお釣りが来ると考え、蓮也と綾菜には必死の頼み込み、彩音はお菓子で釣ることで引き込むことに成功した。

しかしまあ、ミラとは違って三人はまだ子供……場合によっては危ないことになる実験は出来ないし、させられない。

そのため、フィリスは錬金術の中でも初歩中の初歩、講義でも一番最初にする内容を今回の講座で行うことにした。

 

「えっと、まずは秤で小麦粉の分量を測り、それをこのボールに入れます。 そして次に分量に見合った数の卵を用意し、それを割って同じくボールの中へ――」

 

……これで分かると思うが、今回の実験はわざわざガスボンベとコンロまで用意してのホットケーキ作りである。

まあ、これを実験と言っていいのか疑問には思うが、錬金術において料理というのは初歩に位置するのだ。

つまり錬金術で料理をするということは、錬金術の適正があるのかないのかを判断する材料でもある。

だが、今回はこういうことをするんだということを生徒に教えるだけであるため、見学にきた生徒たちはフィリスが手本を見せてから。

ついでに言えば、料理するのはフィリスと生徒のみであるため、引き込まれたにも関わらず参加していない三人はというと……

 

「……」

 

「……あう」

 

無言で子供が持てる程度のサイズをした棒付きの看板を持って立っていた。

そしてそれを持つ蓮也の後ろには言わずもがな、いつもの如く隠れるように綾菜の姿がある。

恭也とミラの息子娘というのを抜きにしても、二人は生徒の目を引いてしまうくらいの子供特有の可愛さがある。

故にそんな二人の存在があるせいか、生徒たちの目は自ずとそちらへと向き、最終的にはフィリスのやっていることに目がいくのだ。

これこそがフィリスの狙い……蓮也と綾菜に看板を持って前に出てもらうことで、生徒たちを引き寄せてもらおうという作戦だった。

そしてその作戦は功を奏し、料理の成される目の前は生徒たちで一杯……フィリスの狙い通り、大成功だった。

ちなみに、同じ理由で引き込んだ彩音はというと……

 

「……じゅる

 

小さく唾を飲み込み、激しく物欲しそうな顔でフィリスの作るホットケーキを見ていた。

やってきた当初は血が欲しいとわがままばかり言う彩音だったが、多数の食べ物の味を知ってからはそのわがままは言わなくなった。

だがその代わりに、食堂ではヘル並みの食事量を誇るようになり、お菓子がもらえるということで学園長室に入り浸ることとなった。

まあそんなわけで、彩音はわがままな部分がなくなった代わりに酷く食いしん坊になり、現状でもホットケーキの完成が待ち遠しい様子だった。

蓮也や綾菜のように客引きの役割で引き込んだ故にそれでは意味がないのだが、二人が役割を十分に果たしているのでフィリスとしては構わないといった感じで気にせず料理に集中していた。

 

「それでは先ほどまでの材料を混ぜ合わせて作ったこれを今から焼いていきます。 この際の火加減ですが、強すぎると表面だけが焦げて中身が焼けないですし、変に弱すぎると焼けるのに時間が掛かりすぎてしまいます。 ですので、火加減を十分に見極めてから焼き始めてくださいね?」

 

フライパンを乗せたコンロに火をつけながらフィリスは学生たちにそう言う。

それに集まった学生全員が頷いたのを見るとフィリスは油を軽くフライパンに流して広げ、ボールを手にとって生地を流し込む。

フライパンが十分に温まっているためか、円形を形作るように流し込まれた生地は同時にジュ〜という音を立てる。

そして生地を焼き始めてから数分程度経った後、フィリスはフライパン返しを手にとって生地の下に差込み、僅かな声と共に裏返す。

さすが錬金術講師……と、これは言っていいのか分からないが、返された生地の表面は綺麗な焼け方をしていた。

そんな見た目美味しそうに見えるホットケーキを先ほどから本当に物欲しそうにしている彩音の視線を尻目に、フィリスはようやく焼きあがった生地を紙製の皿の上に乗せる。

そして、更に乗せたホットケーキにあらかじめ小さく切っておいたバターを乗せ、シロップを軽く掛けて……

 

「はい、これでホットケーキの完成です」

 

完成したことを言葉に出し、生徒たちに見えるように軽く皿を傾ける。

ホットケーキを作ること自体難しくは無いのだが、それを見た生徒たちは一様に拍手を上げた。

その拍手に照れくさそうな、それでいて満足そうな笑みをフィリスは浮かべた後、出来上がったホットケーキとナイフ&フォークを彩音の前に置く。

本当に欲しかったのだろうか、彩音はパァと花が咲くような笑みを浮かべてフォークを手に取り、ホットケーキに突き刺して齧り付く。

その様子はあまり行儀のいいものではないのだが、だからこそ子供特有の可愛さというものが窺えた。

 

「さあ、次は実践ということで、実際にここにいる誰か作ってもらおうかしら」

 

彩音の様子に軽く苦笑しつつ、フィリスはそう言って見学する生徒たちを見渡す。

そして、ちょうど目が合った一人の生徒を指定し、自分の立っていた位置に立たせてホットケーキ作成をさせる。

指定されたその生徒はどうやらあまり料理ということをしないのか、ホットケーキを作る手が微妙にたどたどしかった。

そんな生徒にフィリスは最低限のフォローを入れつつ、大半の作業は生徒だけでさせていた。

そしてその生徒が作り始めてから十五分程度、出来上がった一枚のホットケーキが紙皿の上に置かれていた。

フィリスのと比べると僅かに焦げ目があったり、形が少し歪だったりもするが、それは十分にホットケーキと言える代物だった。

それをフィリスはナイフで小さめに切り分け、一切れを自身の口へと運んだ。

 

「ん……うん、上出来よ♪」

 

口に入れたホットケーキを飲み込んだ後、フィリスは作成者の生徒に笑みと共にそう告げる。

すると、フィリスが口に含んでから不安そうにしていたその生徒はホッと安心すると同時に僅かばかり笑みを浮かべる。

そしてそれから後、別の生徒を指定して同じようにホットケーキを作らせ、自分が試食して判断するを繰り返すのだった。

ちなみに、講座に参加していない蓮也と綾菜は……

 

「ねぇ、お兄ちゃん……」

 

「……なんだ?」

 

「お腹空いた……」

 

「……我慢してくれ。 あと少しで終わると思うから……たぶん」

 

棒付き看板を今だ持ちながら、腹の虫を鳴かせつつ立ち尽くしていた。

いつもならこの時間は両親との夕食時間であるため、綾菜がお腹を空かせるのも仕方の無いこと。

更に言えば、口ではお腹が空いたとは言っていないが、蓮也とて内心ではお腹が空いたと思っている。

しかし、フィリスに頼み込まれて了承してしまった手前、自分たちのやることを放棄して去るわけにもいかない。

故に、フィリスの錬金術講座が早く終わるのを祈りつつ、二人はただお腹を空かせつつ立ち尽くすしかなかった。

それに加えて彩音だが……二人とは打って変わって満面の笑みで次々と作られるホットケーキを頬張っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、錬金術講座は第二回目も成功し、錬金術の出席率は更に向上した。

しかしフィリスはまだそれでも物足りないと思っているのか、密かに次の講座のネタを考えていた。

それを敏感に察した蓮也と綾菜はしばらくの間フィリスには進んで近寄らず、学園長室からの帰りも早足になった。

それに比べて彩音はフィリスの言うことを聞けばお菓子がもらえると思ったのか、フィリスを見かけたら必要に近寄る始末。

助手として参加させた者にはある程度の変化を与える……そういった意味では、なんとも恐ろしい講座である。

次の講座が開かれるのはいつか分からないが、ネタ自体はそう難しいことではないので問題は助手を誰にするかということ。

しかしまあ、それも本人にとっては大して難しいことではない故……

 

「ミラさん、蓮也くん、綾菜ちゃん、彩音ちゃんときたら……やっぱり次は――」

 

次の講座が開かれる日は、そう遠くないだろう。

 

 


あとがき

 

 

何となしにネタがあったからX−3を書いてみた。

【咲】 それより1の中編と後編を書きなさいよ……。

【葉那】 だね〜。

い、いや、書いてはいるんだけどね……ネタがうまく文として纏まらないんだよ。

【咲】 ほんと、駄目作者ね。

うぅ……。

【葉那】 ところでさ、今回のこれは主にフィリスメインの話なの?

む、そういうことだな。 本編ではあまり目立たないキャラだから、こういった面で目立たせようと。

【咲】 性格が僅かに変わってる気がするけどね。

ふむ……まあ、それは否めんな。 なにぶん、X話関連は本編では書けないコメディやらだから、多少性格が変わってしまう。

【咲】 あんたの腕がないっていうのもあるんでしょうけどね。

ま、まあそれもあるだろうね。 とまあ、今回はフィリスの錬金術講座というお話だったわけだが。

【葉那】 話の中であったけど、錬金術って確かにあんまり人気なさそうだよね。

まあ、全体化とか開錠とか……そんな地味なことしか出来ないからな。 黒魔法や白魔法などに目が行くのも仕方ないさ。

【咲】 でもさ、講座を開いてホットケーキ作るっていうのはどうなのよ。

あれも原作では一応錬金術の範疇らしいからな。 メンアット3でフィリスがそう言ってたし。

【咲】 まあ、何かを使って別の物を作り出すという意味じゃ錬金術と言えるだろうけどねぇ……。

だろ? とまあそんなわけで、今回はフィリスメインのお話でした〜。

【葉那】 4とかも書いたりするの?

ネタがあればね。 まあ、その前に1の中編と後編を書き終えんといかんのだが……。

【咲】 ま、がんばんなさいな……じゃ、今回はこの辺でね♪

【葉那】 またね〜♪

では〜ノシ




フィリスの錬金術講座〜。
美姫 「ホットケーキの講座とかなら楽しそうよね」
うんうん。フィリスのあくなき挑戦はまだまだ続きそうだな。
美姫 「このX話は本編と違う顔を見れるから、かなり楽しいわよね」
本当に。もし、次があるのなら是非とも読んでみたいな。
美姫 「それでは、本編の方も頑張ってください」
ではでは。



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