「クリスマスパーティーをしましょう」
毎度の如く、突如学園長室へと乗り込んできたミラは開口早々そうのたまった。
ただ、ミラが何の説明もなしにそんなことを言ってくるのは毎度のことだが、ここで一つだけいつもと違うことがあった。
それは、学園長室に乗り込んできたミラの横には、困り顔を浮かべた恭也の姿もあったということ。
いつもの暴走ならばミラは単独で乗り込んでくるため、この状況は激しく珍しかったりする。
しかしまあ、珍しいことではあるのだが、ミラが暴走していることには変わりなく、ジャスティンは小さく溜め息をついて聞き返す。
「なんですか、クリスマスパーティーって?」
「ああ、そういえば説明してなかったわね……よく聞きなさいよ? まずクリスマスっていうのは……」
クリスマスという概念自体この世界には存在しないため、クリスマスパーティーと言われてもジャスティンにはわからない。
故に、ミラはクリスマスについてのことをどこか偉そうに且つ自信満々にジャスティンへと説明していく。
その述べられていく説明を聞くにつれてジャスティンがなるほどというような顔で納得していく中、隣に立つ恭也は気づかれないように溜め息をつく。
そもそも、ミラも恭也がクリスマスに関してのことを気まぐれで説明するまで知りはしなかったのだ。
それを、さも自分はずっと以前から知っていましたというように説明していくミラを見ると、我が妻ながら多少の呆れが芽生えるのもしょうがない。
「―――という行事よ、クリスマスというのは」
「はあ……恭也先生のいた世界には、そんな面白い行事があるんですね」
「ええ。 というわけで、時期もちょうど合ってるわけでし、学園全体でクリスマスパーティーを開こうと思うのよ」
「なるほど、悪くはないですね……ミラ先生が考えたにしては」
「そうでしょ……って、最後のほうに何か変なこと付け加えなかった?」
「気のせいですよ」
はぐらかすようにそう返され、ミラもそう……とだけ言ってパーティーの準備は何やについて話し出す。
それを、今回に限っては肯定的なジャスティンも積極的に案を出し合い、話はどんどん膨らんでいく。
そんな二人を、恭也は何か言葉を発するでもなく、ただ小さな溜め息をつくのみだった。
メンアットトライアングル!2〜永久に語り継がれし戦士たち〜
第X−2話 聖夜に開かれし宴
ミラがクリスマスパーティーを提案してから早二日。
クリスマス当日を迎えた学園は、いつもとは目に見えて雰囲気が違っていた。
特に内装……恭也の証言を元に作られた飾り付けを前日にとある人物が徹夜で飾りつけた故か、内装はとても華やか。
会場となるテラスは並べられたテーブルの中央にどこから取ってきたのかわからないが、巨大な木が多くの装飾を成されて立てられていた。
そして現在、全て講義が終わって一時間後の午後五時という時間であるため、会場は用意されたライトで明るく照らされている。
更には講義を終えた学生たちもすでに会場へと多く集まっており、料理の置かれ始めている各テーブルを囲んでいる。
それはカールたちとて例外ではなく、テラスの一角に配置されるテーブルをいつものメンバーで囲んでいた。
「はあ〜……料理が一杯ですね〜」
「だね。 しかも、各テーブルで置かれてる料理が違うし……ほんと、この学園の食堂って凄いよね」
「東洋と西洋、両方の料理が出せるところなんて早々ないものね」
装飾の華やかさよりも、料理の華やかさに目を奪われるカールたち一同。
まあ、講義後ということもあるのでしょうがないと言えばしょうがない故、ある人物には合掌するしかない。
「でも、掲示板でクリスマスという行事については分かりましたけど、なんでミラ先生は突然クリスマスパーティーをしようなんて思ったんでしょうか?」
「ん〜、時期が合ったからっていうのもあるだろうけど……たぶん大きな理由は、ミラ先生の暴走じゃないかな?」
「そう考えるのが妥当ですね〜……にしても、今回はなんで暴走したんだろ、ミラ姉?」
「またヘルさんと何かあったんじゃないかな? ミラ先生の暴走に大概絡んでるのはヘルさんだし」
「呼んだかしら?」
「「「「「!!?」」」」」
ちょうど話に出た矢先、その本人が何の前触れもなく会話に加わってきたことに皆は驚きを浮かべる。
だが、そんなカールたちの驚きを素でスルーし、まだパーティー開始の合図も成されていないのに料理に手をつける。
「ん〜、美味しい〜……やっぱりクリスマスと言ったらチキンよねぇ?」
「え、えっと、クリスマス自体昨日初めて知ったからよく分からないですけど……」
「あ、そっか。 こっちにはクリスマスとか正月とかの概念がないんだったっけ」
「まあ、少なくとも僕たちは聞いたことないですね」
「ふ〜ん……もったいないなぁ、どの行事でも特有の美味しいもの一杯食べられるのに」
『マスターは食べることしか頭にないんですか……』
相方の言葉を華麗に無視し、ヘルは手に持ったローストチキンを食べる。
パーティーが始まってないのに食べてもいいのかなぁ、とその光景に対して一同は思うが、思うだけ無駄だろう。
そもそもヘルがミラも含めて誰かの言うことを聞いた試しなどないし、加えてマナーなんぞ皆無だ。
故にパーティーが開始していようがいまいが、ヘルにとってはなんら関係ないのだとこの場の誰もがわかるため、誰もそこには指摘せず。
「あの〜……そのことで一つ聞きたいんですけど」
「ん、何?」
「えっと、今回のこのパーティーに関しては、やっぱりヘルさんが関わってたりするんですか?」
いつもと変わらず聞き返す声に素っ気無さを感じつつも、カールは疑問を直でぶつける。
が、ヘルはその疑問を耳にしてもすぐには答えず、変わらぬ様子でローストチキンに噛り付いている。
正直、そこまで飢えているのかと言えなくもない状況だが、それを言うとキツイ言葉が返ってきそうな予感がするため、聞かずにただ返答を待つ。
そして、噛り付いていたチキンをしばらくして食べ終わった後、ヘルはまたテーブルから一つチキンを取りつつようやく口を開いた。
「予想を裏切るようで悪いけど、今回のこれは私も一切関与してないわ。 そもそも、このパーティーのことも昨日の夜に知ったくらいだし」
「え、そうなんですか?」
「ええ……って何よ、その凄く意外そうな顔は」
返答に対して本当に意外だったのか、一様にカールたちは驚きをその顔に浮かべる。
それにヘルは少し不満気な表情を見せ、機嫌を若干損ねたのか、チキンに噛り付きながらその場を去っていった。
そのヘルの後姿をカールたちは見えなくなるまで見つつも、やはり顔からは先ほどの驚きが消えない。
それもそうだろう……いっつもミラが騒動を起こすときはヘルとの喧嘩(内容は恭也絡み)がほとんどなため、関与してないなど信じられない。
しかしまあ、去り際のヘルの様子を見る限りでは、関与していないというのはあながち嘘であるとも言えなかったりする。
故に、ヘルとの喧嘩でないのならば、ミラはなぜ今回クリスマスパーティーを開こうなどという暴走に走ったのか。
それをヘルが見えなくなった後に皆は再び考えるも、他にこれといった理由が浮かぶことはなかった。
それから早一時間後、生徒たちの大半が集合したのを合図にパーティー開始宣言が成されようとしていた。
宣言をするのは意外にも目立つことが好きそうではない裂夜……しかも、なぜかサンタ服でその身を包んだ状態で。
そんな格好で用意された壇の上に立つ裂夜は、やはりというか誰の目から見ても不機嫌そのもの。
それを見る限りでは、サンタ服もそうだろうが開始宣言を自分がすることにかなりの不満があるのだろう。
だが、不満があったとしたらすぐにでも逃走を図るか反発しそうな裂夜がなぜ今、大人しくマイクを持って壇の上に立っているのか。
その疑問の答えは至って簡単で……いつも通り、精神的にも物理的にもミラに逆らえなかっただけである。
そんなわけで見た目若くともいい歳したサンタ服のおじさんこと裂夜は不機嫌な顔を崩すことなく、マイクを口元に持っていって言葉を発する。
「あ〜……静かにしろ、ガキンチョ共」
いつもも良いとは言えないが、不機嫌なこともあって更に悪い口調で言う。
しかしまあ、もうこの時期ともなると裂夜を知らない者などほぼおらず、故にその口調に気を悪くする者などいない。
それどころか、裂夜がそんな格好をして不機嫌になっている理由がミラにあると誰もが分かり、哀れそうな目で見る者さえいた。
意外に多いその視線を、裂夜は不機嫌顔を引き攣らせつつスルーし、開始宣言を口にする。
「これより、第一回クリスマスパーティーを開催する。 各生徒、並びに講師の者たちは勉強や仕事を忘れ、大いに楽しんでくれ……というか楽しめ。じゃないとこれを徹夜で用意した俺がただの馬鹿になる」
徹夜のせいか、不機嫌の中に若干の疲れを見せつつそう言い、裂夜は壇の上を降りていった。
それを合図に生徒たち、講師たちは一斉に食事やら会話やらを始めだし、場は一気に盛り上がりを見せる。
そしてその盛り上がりだした会場の一角にて、当然の如くこの人たちも他に負けないほどの盛り上がりを見せていた。
「ここの料理はいつも美味しいけど、こういった行事の中で食べるとまた美味しく感じるわね」
「そうだな……っと、綾菜、口にソースがついてるぞ」
「ん……」
クリスマスパーティーの発案者であるミラを含めた、高町一家+αの面々。
まあ、この様子を見る限りだと盛り上がりを見せているというより、会場の雰囲気に溶け込んで楽しんでいると言ったほうがいいだろう。
しかし、それはあくまで恭也とミラ限定でのこと……二人の子供たち+彩音はそうでもなかったりする。
現に、恭也によって口をナプキンで拭かれている綾菜は、蓮也に自分が取った料理を勧めている光景を横目で睨んでいるのだ。
そして彩音も、それが分かっているにも関わらず行動を止めることはなく、それどころかくっ付き始める始末。
それにはさすがに綾菜も黙っているわけにはいかなくなったのか、口を拭っている恭也の手を振り切って蓮也を奪うべく近寄る。
「お兄ちゃん……」
「あ、あの、綾菜さん? なんで俺の腕を抓ってるんでしょうか?」
「蓮也〜、こっちも美味しいよ〜」
「いや、彩音も差し出してこなくてもいいから。 自分で食べられ、痛っ! 痛いって、綾菜!」
片や嫉妬を燃え上がらせて兄の腕を抓り、片やそれを理解しているものの行動を止めずに繰り返す。
間に挟まれた蓮也からしたら、いつもことではあるものの困惑を隠すことは出来なかった。
だが、やはりというか、鈍感故に綾菜が怒っている理由も彩音がそんなことをする理由も分からず、打開の手が考え付かない。
そのため現状を甘んじて受け入れるしかなく、事態は泥沼状態へと陥っていくしかなかった。
「ほんとあの子は……いろんな意味で恭也に似ちゃったわね」
「ふむ……そうなのか?」
「ええ……あれじゃあもう、昔の恭也って感じがするわね。 まあ、今でもあまり変わってはいないけど」
「むぅ……」
十数年経っても鈍感は直らず、恭也はわからないとばかりに小さく唸る。
それをミラはいつものように溜め息を吐くも、すぐに元の笑みへと戻して恭也へと寄りかかる。
「でも、恭也のそんなところも含めて私は好きになったのだから……文句を言うのはおかしいわね」
「ふむ……そんなところというのがどんなところかはわからんが、そう言われるとやはり照れるな」
「ふふ……」
照れくさそうに頬を掻きながら言う恭也を見て、ミラは苦笑を浮かべる。
そして料理に手をつけるでもなく、ただ寄りかかった状態から恭也の腕に自身の頭を預ける。
それに恭也は同じく苦笑を浮かべ、手に持っていた皿を目の前のテーブルに置いてミラの肩に手を回す。
寒空の下で互いの身を温め合うように、二人はその状態のままでしばらく佇んでいた。
いつもと同じようでどこか違う、そんな二人の発する雰囲気に邪魔をしては難だと思ったのか、周りの者たちは静かに離れていっていた。
そのことに二人も気づいてはいたが敢えて気づかぬ振りをしつつ、しばしの間その雰囲気を楽しみ合うのだった。
パーティー開始早々、カールたちは会話を楽しみつつ食事をしていた。
だが、恭也とミラがそんな甘い雰囲気を漂わせているのが目に入り、一同は一様に居心地の悪さを感じる。
なまじいつもと違うしんみりとした控えめの甘さであるため、居心地の悪さはいつもより酷く感じていた。
「ね、ねえ……折角の機会なんだし、リィナも恭也先生と何か話をしてきたら?」
「姉さん……私にあの二人の間を裂くという恐ろしいことをしてこいと言うんですか?」
引きつり気味の笑みで言ってくるレイナに、どこかげっそりとした表情でリィナは返す。
好意を持っていたとしても、リィナは元々控えめな性格故に普段から恭也へと積極的に話しかけることがない。
しかし今日はクリスマスということで開かれたパーティー……クリスマスという行事をよく知りはしないものの、周りの雰囲気はそれに関係なく良くなる。
故に普段と違って気が少しだけ好調している感じのするこんな日ならば、積極的に恭也と話をすることも出来るかもしれない。
そう思って意気込んではいたのにそんな甘い雰囲気を出されていたら話しかけるに話しかけられず、意気消沈もいいとこだった。
「はぁ……」
「ま、まあ、話しかける機会なんて今日じゃなくてもあるわけだし、そんなに気を落とすことないよ」
「兄さん……それが出来ないから、こんな行事にでも頼らないといけなくなってるんですよ?」
「え、えっと……」
「折角今日のために話す話題も用意してきたのに……どうしていつもこうなるんでしょう」
落ちるとこまで気が落ちていき、珍しく泣きそうな顔になるリィナにカールだけでなく全員が困る。
どうして好意を抱いたのかという理由を四人は知らないが、それでもどれほどリィナが本気かということはよく知っている。
何度か話しかけるタイミングを窺っているのを見かけたりするし、話しかけずとも視線で恭也を追っているのもたびたび目撃している。
加えて、カールやらレイナやらという、恭也と話しているところを見かける人物に相談を持ちかけることもたまにある。
そのため、リィナが抱いている好意の大きさは良くわかるのだが、その気持ちが実を結ぶには障害があまりにも大きすぎる。
人間関係について結構消極的なリィナと、積極的というか誰にでも容赦のないミラ……相性からしたら最悪である。
「……」
「あ〜、えっと……そのね?」
故に、戦うどころか敵前逃亡して落ち込むリィナに、四人はもうどう返していいのか分からなくなる。
そんな微妙な、というか気まずい雰囲気がその場を包み込む中、救世主となりえる一人の男が歩み寄ってきた。
「……何をしてるんだ、お前ら? 折角俺が必死こいて用意したパーティーなんだから、もう少し楽しめ」
なぜかサンタ服を脱ぐことなく、数々の料理を盛った皿を片手に寄ってきた裂夜。
正直、その場に流れている重い雰囲気に不釣合い極まりないのだが、本人はまるで気にした様子はない。
それどころか、皿の料理を次々と頬張り、空気が読めていないのか不思議そうに首を傾げていた。
だがまあ、そんな空気の読めない裂夜が現れたからこそ、その場の重かった雰囲気は少しだけ軽くなるのを皆は感じた。
というのも、気落ちしていたリィナが裂夜の様子、というか主に格好を見て少しだけではあるが笑みを浮かべたのだ。
それは笑いを耐えている苦笑というものではあるが、それでもリィナが笑ったことで取り巻く空気は少しだけ緩和された。
だが、笑われた当の本人……裂夜はというと、リィナが笑ったことで不愉快だと言わんばかりに顔を顰める。
「む……貴様、何をそんなに笑っている」
「す、すみません。 笑っちゃ駄目というのは分かってるんですけど、その格好がどうしても……ふふふ」
「く……やはりこの服がその笑いの対象か。 くそっ、こんなことならあいつの命令を拒否してでも着替えるべきだった」
「……今でもその服を着続けてるのって、やっぱりミラ先生の指示だったんですね」
「まあな……たくっ、そもそも俺のようなおっさんがなんでこんな服を着なければならんのだっ」
「それは……面白いからじゃないですか? 主にミラ先生が」
やはりそうか……と不機嫌さを思いっきり顔に出して呟き、裂夜はヤケ食い気味に皿の料理を平らげる。
そして空になった皿に再び料理を盛るべく、すぐ近くのテーブルに並べられる料理に手を伸ばそうとする。
だが、それよりも早く若干遠くのほうから聞こえてきた声と見えた姿に、裂夜の手はピタリと止まることになった。
「裂夜様〜! 一緒にお食事しましょ〜!」
「断る! というかいい加減俺に纏わりつくのを止めんかーー!」
「嫌です〜!」
叫びつつ逃げ出す裂夜に返しつつ、リエルは料理の乗った皿を器用に落とさないよう持ちながら追いかける。
その後、まさに嵐の如く去っていった二人をいつものことだと言うように見送った後、カールたちは再びリィナへと視線を向ける。
すると、リィナは裂夜が去った後も笑いを耐えているように口元を軽く抑えており、先ほどまでの重い空気は見る影もなかった。
リィナがここまで笑うのはほぼ初めてのことだし、なんでそんなにおかしいのか疑問ではあったが、落ち込むよりもそのほうがいいと判断した四人は顔を見合わせ、リィナと同じく一様に笑い合うのだった。
再び場面が戻って……恭也とミラは周りがそんな風になっている中でもその雰囲気を崩すことはなかった。
が、そんな二人の発する雰囲気を読み取りながらも、ゆっくりと近づいてきた三人の姿で空気は崩れることになった。
「恭也〜、私を差し置いてミラとだけラブラブするのは駄目よ〜」
「む……それはすまなかった、ヘル。 それと、セリナとアーティも」
「いや、私たちは別にいいんだけどねぇ。 お兄ちゃんとミラお姉ちゃんがいちゃいちゃしてるのを見るだけで結構楽しめるし」
「楽しめる、というのはどうかと思いますが……私もセリナと同じ意見です。 折角のクリスマスなんですから、夫婦だけでゆっくりするのは良い事だとおもいますから」
恭也の謝罪に気にするなというようにそう言うセリナとアーティとは違い、ヘルは今もくっ付いてる二人を面白くないとばかりに頬を膨らませる。
ちなみにだが、ミラは三人が……というよりもヘルが近づいてきたのを見ると同時に、気づかれないように小さく舌打ちをしていたりする。
「ねえ、恭也〜、一緒にお酒飲まない? クリスマスパーティーってこともあって、結構いいお酒が出揃ってるみたいなのよ」
「いや、誘ってくれるのは嬉しいが、生憎俺はお酒というものが苦手なんだ……というか、なぜそんなにくっ付いてくるんだ?」
「だってミラばっかりで不公平なんだもん。 私だって恭也が好きなんだから、これくらいはしてもいいでしょ?」
ミラとは反対側の腕に寄りかかられつつそう返され、恭也は困ったようにむぅと唸る。
だが、鈍感ではあるが元々好意を無下に出来ない性格もあってか、ヘルのそれを振り解くことはせず、させたいようにさせる。
しかしまあ、それで反対側に寄りかかっているミラから不穏な空気が立ち上がるのを感じるが、どうすることも出来ずに放置せざるを得なかった。
そんな困っても現状に対して対処の術を持たない恭也を間に、ミラとヘルは恒例となりつつある口論をし始める。
「ちょっと……いつも言ってるけど、人の旦那に手を出さないでくれるかしら?」
「別にいいじゃない、減るもんじゃないし。 それに、私はまだ恭也を諦めたわけじゃないんだから」
「ふふふ、残念だったわね、ヘル。 私の全てが恭也のものであるように、恭也の全てもすでに私の物よ。 だからあなたの入り込む隙間なんてこれっぽっちもないんだから」
「ふふ、それこそ甘い考えね。 人の心というのは移り気なもの……隙間がないのなら作ればいいだけの話よ!」
「そ、そんなことさせないわ! 恭也はこれからもずっと、私だけの旦那様なんだから!」
恭也を巡っての口論……本来ならこれに加えて人外戦争が勃発するのだが、さすがに二人もそこは控えてるようだった。
そんな口論だけの喧嘩をするミラとヘル、そして間に挟まれて困り続ける恭也を見つつ、セリナとアーティは小さく苦笑を浮かべる。
そしていつも通りのそんな光景を見ながら二人が思うのは、ミラがこのクリスマスパーティーを提案した理由である。
何かしらのことでミラが暴走して開催されたと思われがちなこのパーティーには、実はちゃんとした理由が存在していたのだ。
その理由というのは……
『元々この学園だけに限らず、この世界には恭也の世界にあるような行事はほとんど存在しないわ。 だから、というのはおかしいかもしれないけど……学園にいる誰もが日々勉強や修行だけで一日を過ごし、一年を迎えてる。 彼らは何かしらの思いを持ってハンターを目指してるわけなんだから、それは仕方の無いことなんだろうけど。 でも、折角の学園生活なんだから……思い出に残るものにしてあげたいのよ』
いつものミラからは考え付かないような、生徒たちのことを思っての理由。
それを聞いたとときはあまりにらしくない言葉であったため二人とも驚いたが、同時に共感できることでもあった。
だからこそ、二人はミラに全面的に賛同し、クリスマスパーティーの用意をいつも以上に積極的に行った。
そして迎えた当日はミラの思惑通りになり……生徒たちにも講師たちにも、ほとんどすべての者には笑顔があった。
本来はあるはずもないクリスマスという行事を利用したパーティーは、それらを見る限りではきっと皆の心に思い出として刻まれただろう。
そのことを確認するようにセリナとアーティは周りを見渡した後、互いに顔を見合わせて小さく笑い合った。
「じゃあ、私たちも楽しもっか?」
「そうですね……」
そう言い合って、二人は揃ってパーティーの輪へと入っていった。
そしてその後も、聖夜の下で開かれた宴は、絶えることなき盛り上がりを見せていくのだった。
あとがき
クリスマスSS〜……ということなのだが。
【咲】 えっらい遅れたわね〜。
仕方ないべ? クリスマスなのに私も結構忙しかったから……。
【葉那】 だったらもう少し早めに書けばいいのに〜。
いや、早めに書き始めましたよ……なのに間に合わなかったんですよ(泣
【咲】 はぁ……まあ、あんたが執筆遅れるのは今に始まったことじゃないからいいとして。
それもそれでどうだよ……。
【咲】 言ったところで直るわけじゃないもの……さすがにもう学習したわよ。
【葉那】 それとは別に制裁はちゃんと加えるけどね〜♪
うぅ……。
【咲】 で、クリスマスSSということだけど……結局はミラの暴走から始まりなのね?
いや、完全に暴走したというわけじゃないよ。 最後のほうで出たけど。
【葉那】 でもあの理由って、ほんとにミラらしくないよね〜。
【咲】 そうね……ミラって生徒のこと考えてないようにも見えるし。
……君らの中でのミラ像が今よくわかったよ。 とまあ、そんなわけでクリスマスSSをお届けしました〜。
【咲】 ちなみに、ゴスロリメイド話はどうなってるわけ?
そっちはそっちでちゃんと進行中だよ。 少しスランプ入ってるから遅れ気味だけどね。
【咲】 ま、早く仕上がるように努力しなさいさ。
了解。 では、最後に……数日遅れましたが、浩さん。
【咲】 美姫さん。
【T&咲&葉那】 メリークリスマス!! そしてこれからもよろしくお願いします!
では、今回はこの辺にて!
【咲&葉那】 またね〜♪
メリクリ!
美姫 「投稿ありがと〜」
と言う事で、今回はクリスマスSSだった訳だけれど。
美姫 「ミラがまともね」
だな。いやいや、登場当初はかなりまともだったぞ。
ただ、恭也が絡むとあれ、なだけで。
美姫 「楽しい雰囲気が伝わってくるわね」
うんうん。流石に今回は爆発はなかったし、学園の一コマって感じで。
美姫 「それでは、この辺で」
本編も楽しみにしてます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」