メンアットトライアングル!2〜永久に語り継がれし戦士たち〜

 

【第二部】外伝 古の魔剣、狂気に塗れしとき

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

語ろう……世界に存在する数々の魔剣、その一つの過去を。

それは現代で血の魔剣と呼ばれ、今や人の血を吸うことのみが存在理由となった魔剣。

吸って、吸って……ただ血を吸って、それでも飽きることなく欲求のままに吸い続ける魔剣。

しかし、そんな狂気に塗れた魔剣も、誕生したときからそうだったわけではない。

誕生したときから魔剣と呼ばれながらも、王族の誰もが欲しがった宝剣とも言われていた。

これはそんな魔剣の……過去のお話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠い遠い昔……まだ神々の世界アスガルドが存在していたときのこと。

とある場所にいた小人族の刀匠ドヴェルグの手によって、その剣はこの世に誕生した。

とても歪な刀身、何やら文字が刻みこまれた柄、そこをとってもその剣は普通とはかなり違っていた。

しかし、形がおかしなだけでなく、所持者問わずその剣は異形の力を発揮した。

誰が振るっても刃は対象から外れることなく、斬った相手の傷は決して癒えることはない。

そんなおかしな力を前に刀匠ドヴェルグは、これは魔剣と呼ぶに相応しいと思った。

故にその剣の銘は魔剣ダーインスレイヴと名付けられ、世に出ることとなったその魔剣を誰もが欲した。

 

 

 

人の手から人の手へ……そうやって流れに流れた魔剣はある場所にて落ち着くことになった。

その所持者とは、デンマークの王であるホグニという名の男であった。

ホグニはとても穏やかな人柄で、統治者としても優秀なのか、国の誰もからとても慕われていた。

そんなホグニが戦争を起こすわけでもないのに魔剣を手に入れた理由は、素晴らしい出来栄えだからというただそれだけ。

しかしまあ、魔剣を手にする理由に戦をするからというのよりも、そちらのほうが平和的でいいと言える。

魔剣としても、その存在意義が疑われる所持理由ではあったが、大事にされていることには変わりないのでそれでもよかった。

安易に乱暴に使われるよりも、使われずに大事にされることのほうが案外、本当に大事にしてくれているとわかる場合もある。

故にその魔剣は、本来の使われ方をされないまま、ただホグニよって大事に、大事にされ続けた。

 

 

 

魔剣がホグニの手に渡ってからも、何事もなく国は平和だった。

城下の街は活気に溢れ、人々からは笑顔が絶えない……とても、とても平和だった。

そんな平和な日も、ホグニは王としての仕事をこなしつつ、合間を縫って魔剣を大事に磨く。

そんなとき、ホグニの娘である王女ヒルドがホグニに会いに赴き、同時に魔剣の存在を初めて知った。

 

「その剣はなんですか、お父様?」

 

ヒルドは、ホグニが大事そうに磨くそれを指差して尋ねた。

ホグニはその言葉に小さく笑みを浮かべつつ、いつもと変わらぬ穏やかな声で答えた。

 

「これかい? これはね……世の中に存在する数々の剣の内、魔剣と呼ばれる変わった剣なんだ」

 

そう言われ、ヒルドは魔剣に目を向けてちょっとだけ怖いなぁと思った。

今まで見てきたどの剣とも違う、変な形をした剣……でも、ヒルドが怖いと思ったのはそこではなかった。

なぜか……なぜかはわからないが、歪な刀身からどう表現していいのかわからない空気が感じ取れたのだ。

だから、ヒルドは魔剣の話を続けている父に用件を伝えるだけ伝え、逃げるように去っていった。

ホグニは、逃げるように去っていったヒルドに首を傾げつつ、やはり魔剣を大事そうに磨き続けていた。

 

 

 

ヒルドが魔剣の存在を知ってから数ヶ月、やはり国は何事もなく平和だった。

そんなある日、隣国セルクランドの王であり、ホグニの友人でもあるヘジンがお城にやってきた。

ヘジンは数ヶ月に一回くらいの頻度でデンマークへとやってきては、ホグニと最近の情勢について語らっている。

そして語らった後は、大抵互いに王としての仕事から離れ、友人としての付き合いを始めるのだ。

だが今回はいつもと違い、ようやく互いに国の情勢を話し終えた後にヘジンがホグニの傍らにある魔剣に興味を持った。

それにホグニは友人に自慢するようにその魔剣を手に入れた経緯、魔剣の詳細、その他諸々を話した。

自慢するような感じではあったが、不快感はない上にヘジンもそれに興味を持ったため、二人の魔剣談義は長時間続くことになった。

 

 

 

それから更に数ヶ月、ヒルドは悩みを抱いていた。

父であるホグニは知らないことだが、ヒルドはホグニの娘であると同時に、戦乙女(ヴァルキリー)と呼ばれる存在だった。

その戦乙女としての自分が、父の持つあの魔剣が危険であると警告しているのだ。

そんな風に危険なのか、それはヒルドにもわからなかったが……ただ、あの魔剣は人が持つべき存在ではないということはわかった。

しかし、それを父に一度進言してはみたが、当然の如く信じてもらえず、そんなことあるわけないと笑って返された。

確かに魔剣を手に入れて何ヶ月も経つが、戦乙女としての自分が警告するような危険とやらは今だ起こってはいない。

故に、自分の取り越し苦労かと思うことにしながらも、今だ警告を鳴らす戦乙女としての自分に不安を抱き悩み続けた。

 

 

 

悩みを抱いてからも時間は経ち続け、薄れるどころかそれは次第に強くなっていっていた。

そんなある日、城下町へとお忍びで赴いたヒルドは一人の男性と出会いました。

腰に鞘に納められた剣を携え、荷物が入っているであろう袋の紐を担ぐように持つその姿は一見して旅人と分かる、そんな男性。

戦乙女であるとはいえ、人としての身分は王女であるヒルドはほとんど城下に出たことがなく、旅人を見るのも初めてだった。

そして付け加えて、城下の人々ばかりしか見たことがないヒルドは、人とはとても綺麗なものだと信じて疑わなかった。

だから、その旅人である男性とは出会って早々、とても仲良くなり、旅で経験した話を面白い物語を聞くように楽しんでヒルドは聞いた。

そして初めての邂逅を経てからというもの、ヒルドは頻繁に城下町へと隠れて降りることが多くなり、そのたびに男性と会ってお話をした。

それからまたしばし時が経って、ヒルドはいつものように男性とお話をしようと城下町へと降りた。

だが、探し始めてすぐに見つかった男性は、ヒルドを見るとすぐに悲しそうな表情で一言、そろそろ街を出ようと思う、と告げました。

その男性は旅人、だからいつかは旅に出てしまう……それは理解してはいたが、ヒルドにとってそれは衝撃的な一言でした。

悲しくて、悲しくて、必死にヒルドは止めようとしたが、男性が首を縦に振ることはなかった。

そして結局止めることはできず、男性はヒルドに背を向けて城下町の出入り口へと歩き出し、だがすぐに足を止めて顔だけを向けて口を開いた。

 

「『殺戮は人が望むから起きるのか、剣が望むから起きるのか』……君は、どちらだと思う?」

 

去り際に聞くことにしては意図が読めず、ヒルドは少しだけ困惑を顔に出した。

だが、その質問と自分の悩みがどこか似ている気がして、ヒルドは悩んだ末にこう答えた。

 

「剣、だと思います……人が、殺戮なんて望むわけがありませんから」

 

人が綺麗な存在であると信じて疑わない、それがよく現れた答えだった。

それに男性はおそらく答えを予想していたのだろう、少しだけ悲しげに微笑み、さよならと言って今度こそ去っていった。

その質問の意図が一体なんだったのか……そのとき、ヒルドにそれが分かることはなかった。

 

 

 

それから更に一年のときが経ち、国の平和は唐突に壊されることになった。

一体どうしたというのか、一体何が起こったというのか、それはまったく分かることはなかった。

だが事実としてそれは起こった……突如隣国の兵が国へ押し寄せ、動揺に駆られる人々は次々と殺されていった。

そして進攻があってからあっという間に城にまで軍勢は押し寄せ、隣国セルクランドの王であるヘジンの手によってホグニの妻は殺された。

更には娘であるヒルドを人質に取り、降伏して国を明け渡すようにホグニへと言った。

信じていた友の裏切り、人質に取られた娘……前者に怒りを抱きながらも、娘を人質に取られてはどう手を打つこともできない。

故にホグニは要求を呑んで降伏をしようとしたとき、ヘジンに捕まり剣を突きつけられた状態で、あろうことかヒルドが言葉を発した。

本来綺麗であるはずの人が、なぜ争わなければいけないのか……それは、二人を和解させようとする故に放たれた言葉。

そしてそれ以後もヒルドは説得を試み続けるが、それを疎ましく思ったヘジンは、あろうことか突きつけた剣でヒルドの喉を裂いて殺してしまった。

おそらくはここで人質を失ったとて、デンマークの領土はほとんど自分の軍勢が制圧してしまっているからという余裕からの行動。

しかし……それはやってはならぬことだった、それは殺してはならぬ人だった。

妻を殺されたホグニにとって、娘であるヒルドは最後に残った家族……それを殺されて、ホグニの怒りは頂点に達してしまった。

そして結果、国を壊され家族を殺された憎悪から、決して使うことはないと思っていた魔剣ダーインスレイヴを手に取ってしまった。

 

 

 

その後、一人の人間の強い憎悪に塗れた魔剣は、本来のものとはどこか歪んでしまった。

憎き王であるヘジンを殺し、憎き国の者である兵たちを殺し……それでも、それでもホグニは止まらなかった。

自分の家臣を殺し、自分の愛した国の民を殺し……それでも、それでもホグニは止まらなかった。

自身の憎悪に狂い、関係ない者まで殺し、それでも有り余る憎悪に塗れ、殺した者の血に塗れた魔剣も同じく狂った。

そして、いつしかホグニは殺すことに快楽を覚え、いつしか魔剣は人の血を吸うことが存在意義となっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが後に『ヒャズニングの戦い』と呼ばれる歴史の、本当の姿。

 

 

 

 

 

 

 

それは決して戦などではなく……ただ、憎悪に駆られた一人の王が起こした殺戮劇。

 

 

 

 

 

 

 

そこには本来の王の姿はなく、そこには本来の魔剣の姿はなく……。

 

 

 

 

 

 

 

ただ、果て無き狂気の惨劇を繰り広げながら、王は殺戮を求め、魔剣は血を求め続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてそれは、王が人としての死を迎えるその日まで、絶えることはなかった……。

 

 


あとがき

 

 

ダーインスレイヴがまだただの魔剣だったときのお話です。

【咲】 なんであんたは外伝を暗く作ろうとするわけ?

いや、別にそう思ってやってるわけじゃないって。

【咲】 じゃあなんでいっつも暗いのよ。

ふむ、思ってなくても手が勝手に暗くしようと動いてしまうのだ。

【咲】 つまり、自分の意思とは関係ないと言いたいわけ?

そゆこと。

【咲】 それもどうかと思うけどねぇ。

あはは、まあそんなわけで、これがダーインスレイヴの過去です。

【咲】 これって完全オリジナルなわけ?

んにゃ、北欧神話の史実を交えてだから……半オリジナルかな。

【咲】 ふ〜ん……で、つまるところ、これがダーインスレイヴが血の魔剣と呼ばれる所以なの?

そういうことだな。 狂いし王と共に殺戮を繰り広げ続け、血に塗れすぎた結果と。

【咲】 へ〜……ところで、他の魔剣にも過去があるわけ?

まあ、あるっちゃあるが、基本はダーインスレイヴと同じだと思ってくれて構わない。

【咲】 つまり書く気はないわけね。

は、ははは……。

【咲】 はぁ……でもさ、これって本編のネタバレがちょこっとあるわよね?

あるねぇ……しっかり見てれば本編の謎がいろいろと分かってくるように出来てる。

【咲】 ま、そこは読んだ人次第ってことね。

だな。 では、今回はこの辺で……あ、ちなみにヘルの過去は次の外伝之弐でお送り予定ですので。

【咲】 確か元は外伝之一がそうだったと思うのだけど?

……まあ、それは気にしない方向で。

【咲】 ……まあ、いいけどね。 じゃ、まったね〜♪




魔剣にも過去あり、ってなもんだな。
美姫 「好き好んで血の魔剣となった訳ではないと」
いやー、こういう魔剣の過去というのもお話として良いもんですな。
美姫 「本当よね。でも、ヘルの過去は……」
それは次回みたいだな!
美姫 「みたいね。次回を待ってますね」
ではでは。



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