前日から様々なことがあり、時間が流れて今は翌日の昼。

昼食を終えるや否や、会議室へと集まり段取りを軽く話し合い、カールたちの班は学園門前へと向かった。

そして海底に沈む古の塔を目指す恭也たちは、それとは逆に位置する船着場へと赴いた。

が、本来人気のない場所であるため人などいないと思われたそこには、予想外にも二人の人物の姿があった。

 

「お兄ちゃんたちおっそ〜い! 待ちくたびれちゃったよ!」

 

「……」

 

その人物とは、昨日意識を取り戻したばかりのセリナと彩音だった。

なぜか自分たちよりも先回りして船着場にいる二人に恭也たちが少しの驚きを見せる中、セリナは両手を腰に当てて遅いと怒る。

そしてその隣では、何が楽しいのかしゃがみこんで蟻の行進を観察している彩音の姿がある。

だが、驚きを見せていた恭也たちが歩み寄ってきたのを合図に、彩音は顔を上げて立ち上がり、蓮也に飛びついた。

それにやはり馴れない蓮也は顔を赤くしてオロオロし、その隣にいる綾菜は不機嫌そうに頬を膨らませている。

まあ、その三人のことを止めるよりも先に気になることがあるため、恭也はセリナのほうを向いて口を開く。

 

「待ちくたびれたって……もしかして、ついてくる気なのか?」

 

「もちろん! どうせ残っててもやることないんだし、アーティもあっちについていっちゃったしね」

 

「でもセリナもアーティも病み上がりなんだから、おとなしく休んでたほうがいいんじゃない?」

 

「そんなことないよ! この通りもうピンピンしてるんだし、休んでばかりいるほうが体に悪いって言うしね」

 

心配して言っているのだが、まるで聞きもせずついていくというセリナ。

それに恭也とミラは顔を見合わせて小さく溜め息をつき、仕方がないといった感じに了承を口にする。

実際、なりはこれでもセリナは魔剣の精霊…力のないものならともかく、ついていっても別段問題はない。

故に二人は了承したのだが、そうなるともう一つの問題が浮上してくる。

 

「で、こっちのこの子はなんでここにいるわけ?」

 

「ふぇ? あ、ああ、彩音のことね……ん〜、なんかお兄ちゃんと蓮也を捜してたみたいだから塔にいくこと話したんだけど、そしたらついてきちゃった」

 

「……はぁ」

 

今日することを話せば絶対に彩音はついていこうとする。

だから彩音にはこのことが伝わらないようにしていたのだが、結果としてその努力は無意味となった。

そして同時に、向かう前に彩音に捕まってしまった現状では説得して残ってもらうというのも実質不可能であった。

その二点を考えて頭が痛いとばかりに溜め息をつくミラを余所に、彩音は蓮也に抱きついたまま胸に頬擦りしている。

 

「……先行きが不安になるわね」

 

「そうだな……」

 

恭也とミラはそう言い合って、今一度深く溜め息をついた。

そしてその二人の様子に、彩音のことをよく知りえないリィナとセリナは揃って首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!2〜永久に語り継がれし戦士たち〜

 

【第二部】第十七話 未来を見通す泉の女神

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一応説得はしたもののやはり首を縦に振ることはなく、彩音も連れて恭也たちはブリージングを行使して塔へと向かった。

一度行ったことのある場所であるため、リィナと蓮也が場所を覚えており、道を間違えることなく皆は進む。

そして歩み始めて三十分程度、皆は塔へと辿り着き、正面門を潜って内部を歩み進んでいっていた。

 

「ふ〜ん……来るのは初めてだけど、予想どおり結構荒れてるわね」

 

「そうだな……見たところ、俺たちが昔行ったことのある遺跡よりもだいぶ古い時代に作られた塔のようだが」

 

「問題は何の目的で作られたか、よね。 ヘルの話では三女神がここにいるらしいけど、それと何か関係してるのかしら」

 

塔内部の荒れようを見ていろいろと憶測をしつつも、道なりに塔を登っていく。

そして一階はほぼ一本道であるためか、特に迷うことなく二階へと辿り着き、同時に一階よりも多く壁に描かれた壁画が目に映る。

人らしき者が剣を持って立っている姿が描かれているもの、杖を持って地面に座る格好で描かれているもの。

時には大地が炎に包まれている光景など……壁には様々なものが描かれていた。

一度来たことのある蓮也とリィナは特に驚きもしないが、恭也とミラは描かれる壁画の量に驚きつつも興味深そうに眺める。

ちなみに、綾菜と彩音は初めてではあるが壁画にはまるで興味を示さず、なぜか牽制し合うように睨み合っていた。

 

「オーディン、ロキ、トール……それにこっちが、ヘイムダル。 見たところ北欧の神々ばかりが描かれているみたいだけど、なんでかしらね?」

 

「ふむ……神々を崇めるためこの塔は作られた、とかじゃないか?」

 

「でも、それだと描く神の構成がおかしくないかしら? オーディン、トール、ヘイムダルはいいとしても、ロキは邪神と呼ばれる神……そんなものを他の神と一緒に崇拝するのは変でしょう?」

 

「むぅ……まあいずれにせよ、この塔が北欧の神々と何か関係があることは間違いないな」

 

「そうね……」

 

壁画を今だ眺めながら、二人はいろいろと推測を立てながら議論する。

そしてその後ろでは二人の会話についていけず、リィナと蓮也が何をするでもなくポツンと立っていた。

まあ、今日中に事を終わらせればいいのだから、遅れてはいけないが別段急ぐ必要もないため、二人の議論を止めたりはしない。

だが、止めないなら止めないで、会話に入れない二人は何もすることなく暇を持て余してしまう。

そのため、とりあえず恭也とミラの議論を邪魔しない程度の声量で、二人は暇つぶしの会話に興じることにした。

 

「そういえば思ったのですけど……何でリィナさんだけこちらに回されたんでしょうか?」

 

「え……さ、さあ、そういえば何でなんでしょうね?」

 

始めた会話で最初に聞かれたことがそれなため、リィナは若干どもりながらも返した。

それに蓮也は特に可笑しく思うこともなく、何でなんだろうと唸りながら理由を考え始める。

ここだけの話、自身がこちらに回された理由をリィナはジャスティンにすでに尋ねており、そして答えを聞いていた。

そしてその理由とやらがリィナからしたら顔を赤くすること間違いなしであり、他の者に教えるなど論外な理由であった。

そのため、蓮也の問いに対する答えを知りながらも、答えることが出来ずに顔が赤くなるのを抑えることしか出来なかった。

 

(それにしても、どうして学園長先生は分かったんでしょうか……私が、恭也先生を好きだってことを)

 

蓮也が思考する横で、リィナもそれを疑問に思って同じく思考の渦へと舞い込む。

リィナは誰の前でも常にポーカーフェイスであるため、表情で読んだりすることなど出来ない。

それに講師である恭也の邪魔をするわけにはいかないからと、あまり話しかけたりすることもない。

まあ、その理由の裏には常にミラが傍にいるから頻繁に話しかけたりして好意を抱いているのを知られたら事だというのがあったりもする。

そんなわけで、いくら叔母ということでそれなりに親しいジャスティンといえど、それがばれる要素が何一つない。

なのに、なぜ自分が恭也に好意を抱いていることが知られたのか……いくら考えようともそれがリィナには分からなかった。

 

「ふむ……やはりこれだけでは推測の域を出ないな」

 

「そうね……まあ、これに関してもここにいる三女神とやらに聞けばいいことだし、そろそろ上に進みましょう。 ほら皆、行くわよ」

 

ミラのその言葉にリィナと蓮也は思考の渦から抜け出し、揃ってその言葉に小さく頷いた。

が、綾菜と彩音に至っては返事を返すことも頷くこともせず、まるで聞こえていないかのように睨み合い続けている。

それに恭也とミラはここ最近では見慣れたその光景に小さく溜め息をつき、揃って歩を進め、二人へと近寄る。

そして恭也は彩音を、ミラは綾菜を抱っこするような形で抱き上げて引き離し、三階への階段に向けて歩き出す。

その間も、二人は睨み合い続けており、その光景にリィナと蓮也は少しだけ苦笑しつつも続くように歩き出そうとする。

だが、歩き出そうとした足は途中で止まり、キョロキョロと周りを見渡した後に蓮也はそれを口にした。

 

「そういえば……セリナ姉さんはどこに行ったんでしょうか?」

 

会話があまりないため、静かな広間に蓮也のその言葉が響き渡る。

そしてその響き渡った言葉に恭也とミラは足を止め、まさかと思いながらも周りを見渡し始める。

だが、やはりというかセリナの姿は見当たらず、考えが当たったことに深い溜め息をつくのだった。

ちなみにセリナのその癖を知らないリィナは、二人がなぜそんなに疲れたような顔をしているのかと疑問符を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこをどうやったらそうなるのか、一階で泣きべそをかいていたセリナを保護し、一同は塔を登っていった。

一階、また一階と登っていくごとに描かれる壁画はその数を増していき、それを歩きながら、時には足を止めて眺める。

描かれる壁画のどれもが神についてのことや、神が齎した戦についてのことが描かれている。

若干禍々しく感じるもの、どこか引き込まれるような感覚を感じさせるもの……様々な壁画は様々な感じを抱かせた。

そんな壁画たちを眺めながら歩み続け一同はようやく最上階へと辿り着き、目的と思われる最奥の扉前にて立ち止まった。

 

「ここ……かしら?」

 

「じゃないでしょうか? ここが一番奥ですし、描かれる絵を見る限り……」

 

「この扉が一番それらしい……か。 だが、この奥には何の気配も感じないが……」

 

「まあ、入ってみればわかるわよ」

 

恭也とリィナにそう返し、ミラは両の手を扉に当てて押し開いた。

だが、開かれた扉の奥には恭也が告げたとおり目的の人物たちの姿はおろか、誰もいはしなかった。

それに室内へと入って本当に誰もいないかどうか見渡し、本当に誰もいないと分かると皆は揃って部屋から退室する。

 

「ここじゃないとすると……どこなのかしらね、目的の部屋は」

 

「ふむ……見たところ部屋の数もそう多くはないし、手当たり次第探すという手もあるが……」

 

「? 何か問題でもあるの、父さん?」

 

「ああ。 ここから探った限りでは、どの部屋にも気配らしきものを感じないんだ。 だから、もしかすると他の部屋も……」

 

「ここと同じで……誰もいない可能性が高い、ということですか?」

 

聞き返された言葉に恭也が頷くことで答えると、皆は揃って悩み始める。

恭也の気配探知能力は優れているということは、この場にいるほとんどの者もよく分かっている。

だが、それだと他の部屋にも目の前の部屋と同じく、誰もいないということになってしまう。

ならば一体、三女神がどこにいるというのだろうか……それが皆の頭に疑問として浮かぶ。

 

「……」

 

そんな、皆がそれについて悩み続ける中、ただ一人目の前の扉を見続ける者がいた。

それは抱っこされても尚、つい先ほどまで牽制するように綾菜と睨み合っていた彩音であった。

睨み合いを唐突に止めた彩音は、ただ目の前に存在する扉…そのある一点を凝視し続ける。

そして彩音が扉を見始め、皆が三女神の所在について悩み始めてから数分の後、彩音は突然恭也の服を掴んで軽く引っ張る。

 

「ん? どうした、彩音?」

 

「……下りる」

 

恭也の意識が自分に向くと同時に聞かれた問いに、彩音は短くそう返す。

それに恭也は、ふむと頷きつつ呟き、抱き上げていた彩音をゆっくりと地面に下ろしてやる。

すると、彩音は地面に両の足をついたと同時にミラへと駆け寄り、何を思ったのか服の胸元の部分を掴んで引っ張る。

さてここで問題となるのが、普通の人ならば服が乱れる程度で済むその行為を、彩音がするとどうなるかということだ。

直接戦った恭也にしか分からないことだが、彩音は改造ホムンクルスである故か、普通の人間の数倍力を有している。

そんな彩音が無造作に服の胸元を掴み加減なしで引っ張ったとして、乱れる程度で済むだろうか…いや、済むはずがない。

 

――ビリビリッ

 

それを証明するかのように、彩音が引っ張った矢先に響き渡るその音。

突然の事態に頭がついていっておらず、呆然とするミラがゆっくりと音の発生源へと目を向ける。

すると視線を向けたそこ……衣服の自分の胸を隠す部分は、引っ張られた方向へと破れていた。

そしてその部分が破れたことにより隠していた肌(というか胸)を晒してしまい、事態を認識していくにつれて顔が徐々に赤くなる。

大浴場にて全裸をカールに見られたときには特にどうも思わなかったミラも、恭也の前だと話は別である。

破れた部分から諸に胸を晒してしまうという痴態……周りの者たちはともかく、恭也に見られるのはやはり恥ずかしいらしい。

 

「っ……」

 

故に、さすがに叫びこそしないがかなり恥ずかしげに頬を染め、綾菜を地面に下ろしてすぐさま胸を両腕で隠す。

対する恭也も、突然のそれにちょっと凝視してしまいも、顔を赤くしながらもすぐに視線を逸らす。

結婚して十数年も経ち、子供が二人もいるというのにその反応…とても初々しさが感じられるものである。

だがまあ、他の面々も唖然とし(蓮也のみ顔が赤いが)、二人もそんな様子になる中、この事態を招いた張本人はというと……

 

「……石」

 

紐で首から下げられ曝け出された胸元にて光を放っている神器、ミーマメイズを視線に捉えていた。

そしてミーマメイズの所在を確認するや否や、彩音は手を伸ばしてそれを掴み、服を破ったとき同様に引っ張る。

すると、ミーマメイズを繋ぐ紐はとても呆気なくプチッと切れ、ミラの首から外されて彩音の手に渡る。

そのことにミラはようやく我に返り、胸を片腕で隠しつつもう片手を差し出し、ちょっと怒気を含ませながら口を開いた。

 

「返しなさい、彩音」

 

「……」

 

それに対して、彩音は嫌だというように首を横に振ってそれを背中に隠す。

先ほどの所業も含めて、その返答にミラの怒りは増し、紫電を纏いこそしないものの不穏な空気を発する。

そのミラの様子に恭也は一筋の汗を流し、怒りが爆発する前になんとかするべく彩音へと歩み寄る。

 

「彩音……それはミラにとって大切な物だから、返してやってくれないか?」

 

「む〜……」

 

彩音の前にしゃがみこみ、頭を撫でながらそう言うが、彩音はやはり首を横に振る。

いつもなら懐かれている恭也が言えば彩音も素直にいうことを聞くのに、今回に限っては聞かない。

それに対して、それほどまでにそれが気に入ったのかと恭也は思い、どうにか説得を続けようとする。

だがそれよりも早く、彩音は突如壁画の彫られる扉の前へと駆け寄っていき、扉の前でミーマメイズを持った腕を背伸びしつつ上に伸ばす。

その行動に恭也だけでなく、今にも怒りを爆発させようとしていたミラも、呆然と成り行きを見守っていた者たちも、一体なんだと一様に思いつつ近寄っていった。

そして近寄ると同時に彩音が手を伸ばす先に皆は目を向け、誰もが大なり小なり驚きを浮かべることになった。

彩音が手を伸ばす先あるもの……それは、三角形を形作るよう扉に刻まれる三女神の中心に描かれる大樹の壁画。

その大樹の壁画の更に中心部分には、何かをはめ込むのだと思われる小さな窪みが存在していた。

それはミーマメイズとほぼ同じくらいの大きさの窪みであるため、彩音の行動から察するとおそらくははめ込む場所なのだろう。

だが、そうだとするのならば一つだけ、おかしいと思わざるを得ないことがミラの頭に浮かんできた。

 

(なんでこの扉に、ミーマメイズをはめ込む場所があるのかしらね……)

 

そう……ミーマメイズをミーミルの手から受け取ったとき、ミーミルはこれはまだ生まれたばかりだと言った。

にもかかわらず、あの事件が起きるよりもかなり昔から存在しているであろうこの塔の扉に、どうしてミーマメイズをはめ込む場所があるのか。

元々壁画等で謎が多い場所であるのに、そのことがミラの中で更に謎を深める羽目となる。

だがまあ、判断材料も足りないからわからないのだし、考えたとしてもどの道推論の域を出ることは決してない。

故に、ミラは疑問に思いながらもそれについて考えるのを止め、目の前で必死に背伸びしながら手を伸ばす彩音に意識を戻す。

 

「はぁ……恭也」

 

背を伸ばしても届かないが、それでも必死に頑張る姿はちょっと微笑ましいものがある。

だが状況が状況なだけに、ミラはそれに対して溜め息をつきつつ、恭也に手伝ってあげるように促がす。

名を呼ばれただけだが、その意味を汲み取った恭也は小さく頷くと彩音の後ろに歩み寄り、両脇を持ってその小さな身体を持ち上げる。

 

「ほら、これで届くだろ?」

 

「……うん」

 

彩音は恭也の言葉に頷いて返し、手に持ったミーマメイズを窪みへとはめ込んだ。

すると、窪みにはめ込まれたミーマメイズは蒼い光を放ち始め、周りを囲む三つの壁画へと光の線を伸ばし始める。

その伸ばされた線はそれらへと繋がり、同時に三つの壁画はそれぞれ光を放ち始める。

そして壁画の放ち始めた光は徐々に収まりを見せ、はめ込んだミーマメイズが地面へと落ちると共に扉が開かれた。

開かれた扉の先に広がる先ほどまでとは違う風景に、皆は一様に驚きを見せながらも室内へとゆっくり入っていく。

そんな中で恭也のみは違い、破けた服の部分を手で隠しながらミーマメイズを拾うミラへと歩み寄っていった。

そして、自分の着てきた上着のボタンを外して脱ぎ、肩から掛けるようにしてミラに着せる。

 

「少し大きいだろうが、何もないよりはマシだろ」

 

頬を染めつつ横を向きながらそう言った恭也に、ミラも少し頬を染めながらも嬉しそうに微笑む。

その後、室内へと入っていったセリナが振り向き呼ぶまでの間、二人はしばしそのままだったという……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呼ばれて最後に恭也とミラが室内へと踏み込むと、開かれた扉は音を立てて一人でに閉まる。

そして勝手に扉が閉まったことに皆が戸惑いを見せつつも部屋の中央へと進んでいくと、進む先に泉が見えてくる。

大きさからして池というのが似合うほどの小さな泉……しかし、近づいていくごとに泉から光の粒子が立ち上っているのが見えてくる。

その粒子は一見して魔法の元、マナであるということは一目瞭然だが、人の目に見えるほど濃縮されたマナというのはとても珍しい。

そのためか、泉から立ち上るマナは皆の目から見ても、どこか神秘的な光景という風に映った。

 

『現世に巻き起こりし闘争、其の元凶と成りえるのは古よりの使者』

 

『彼の者の願いは純粋故、彼の元には多くのものが集う』

 

『神を代行せし者、神よりの断罪を下す者……終焉導く礎となりし『狂戦士(ベルセルク)』たちは、彼の悲劇を再び繰り返すだろう』

 

泉まで後数歩という位置まで近づいたとき、そんな三つの声が聞こえてきた。

聞こえる声が語ることのほとんどは理解出来ないことが多く、それが更に神秘的な感じを強める。

そして声が聞こえた僅か数秒後、泉の上にマナとはまた違う粒子が収束し、三つの人の形を形成した。

 

知識と神託(フウェルゲルミル)の泉へようこそ……戦乙女(ヴァルキリー)より選ばれし『永久の戦士(エインヘリアル)』たちよ」

 

目を閉じた状態で形成された三人の人物の内、真ん中にいる女性が瞳を開いてそう告げる。

その告げられた言葉に呼応するように、両隣にいる二人の女性も瞳を開き、続けて口を開いた。

 

「まずは自己紹介をしておきましょう……私は必然を司る女神、ヴェルダンディ」

 

「私は存在を司る女神で、名前はスクルド。 よろしくですわ、皆様♪」

 

僅かな笑みを見せながら名を語るヴェルダンディとは違い、スクルドは無邪気な笑みで語る。

クセ者というからもっと違うのをイメージしていたのだが、予想に反したその二人の様子に皆は若干唖然とする。

そんな皆に対して、悪戯が成功したというような笑みを浮かべつつ、中央に立つ最後の一人が名乗る。

 

「そして私が運命を司る女神、ウルドと申します。 どうぞお見知りおきを……」

 

「え、ええ……にしても、驚いたわ。 クセ者って聞いてたから、もっと滅茶苦茶な性格の女神を思い浮かべてたんだけど」

 

「あら、その見解はあながち間違ってはいないと思いますよ?」

 

「そうですわね。 なんて言ったって私たちは……」

 

そこで一旦言葉を切り、三人は互いに顔を見合わせておかしそうに笑い合う。

それに皆は何がおかしいのかというように疑問を浮かべる中、顔を見合わせていた三人はもう一度皆へと向き直る。

そして、向き直ったと同時に揃って笑みを浮かべながら、当然の事のように告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「あなたたちの手助けをする気なんて、さらさらありませんから」」」

 

 


あとがき

 

 

ようやく会うことができた女神たち。

【咲】 会って早々手助けしないと言うって……性格悪いわね。

まあ、彼女たちは要するに恭也たちの困った様子が見たいんだよ……だから、先手を打ってこう言ったと。

【葉那】 でもさあ、恭也たちも手助けしてくれないかもってのは予想してたんでしょ?

だな。 だからまあ、呆気には取られるが、この事態は予想外でありながらも予想の範疇だということだ。

【咲】 予想外で予想通りって……言葉的に意味わかんないわよ。

あははは……まあ、詳しいことは次回のお楽しみだな。

【咲】 ふ〜ん……にしても、今回ミラは彩音のせいで災難だったわね。

まあな。 服の胸の部分を引き裂かれたわけだから、さすがに恥ずかしいだろうね。

【葉那】 ま、前のことを見ると、羞恥心が出るのは主に恭也の前だけっぽいけどね〜。

ふむ、まあ今回みたいな反応を示すのは恭也の前でだけだな。 これがカールなら特に反応ないし、裂夜ならまず悲鳴と雷撃が飛ぶね。

【咲】 その反応を考えるとカールは男として見られてないってことよね。

だねぇ……まあ、見られてたら見られてたで雷撃が飛ぶだけだけどな。

【葉那】 それを考えると、ある意味よかったというべきなのかなぁ?

どうだろうな……。

【咲】 良くもなく悪くもないって感じかしらね……じゃ、次回予告いってみましょうか。

ふむ……次回はだな、セイレーンの隠れ里に向かった者たち側のお話だな。

隠れ里に辿り着く最中での会話がいろいろ、ついたあとのセイレーンたちの非歓迎っぷりが見所ですな。

【葉那】 やっぱり隔離された場所に住んでるだけあって、訪問者はあまり歓迎しないってことなんだね〜。

まあそれもあるが……と、ここからは次回をお楽しみに、だな。

【咲】 そうね。 じゃ、今回はこの辺でね♪

【葉那】 また次回も見てね〜♪

では〜ノシ




用件とかを切り出すよりも先に。
美姫 「断るなんてね」
果たして、恭也たちは説得できるのかな。
美姫 「どうなるのかしら」
うーん、続きが気になるところだ。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待っています。



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