まだまだ続くかに見えた綾菜と彩音の喧嘩は、やっと感動から抜け出した恭也によってあっさり止められた。

そして現在、昼時近しということで彩音を加えた四人は、まっすぐに売店へと向かっていた。

なぜ食堂でなくて売店なのかとこの場合疑問になるが、それは朝食時にミラが放った雷撃が原因といえばわかるだろう。

 

「「……」」

 

「えっと……二人とも、そろそろ腕を離してくれないかな?」

 

「「や(いや)」」

 

売店へと向かい歩く間で、そのやり取りはすでに何度となく為されていた。

蓮也の右腕に抱きつく綾菜、反対側である左腕に抱きつく彩音……そして両腕を抱かれたための歩き辛さやその他諸々に困り顔の蓮也。

そんな二人の少女に挟まれる形となっている蓮也を見つつも、恭也は止めようとはせずに横を歩く。

まあ、止めたら止めたで先ほどのような状況に自分が陥るのを避けるため、息子を捧げたというほうが分かりやすいだろう。

そんなわけで、助けてという意味を込めて向けられる視線もスルーしつつ、恭也はそのまま息子娘たちと共に売店へと向かう。

 

「あら、恭也。 それに蓮也と綾菜、ついでに彩音も……」

 

「む……話とやらはもう終わったのか、ミラ?」

 

「ええ、ついさっきね」

 

売店に向かう途中のとある曲がり角にて、恭也たちはミラと遭遇した。

聞くにはヘルとの話とやらはもう終わったらしく、恭也たちを探すべく学園内を回ろうとしていたらしい。

とまあ、そんな矢先に都合よく出くわしたということで、売店へと行こうとしていたという旨を伝えつつミラも同行することになった。

そしてミラも加えた後に歩き出すこと間もなく、自らの子供たちに対して当然の疑問を抱いたミラは口を開き尋ねる。

 

「ねえ、恭也……これは一体なんなの?」

 

「ふむ……実はな――」

 

ミラの質問に対し、恭也はそう切り出して事の成り行きを説明する。

すると、話を聞いていくうちにミラは表情は変化していき、聞き終わった段階ではかなり複雑そうな顔をしていた。

そんな複雑極まりない表情でミラは聞いた話に対し小さく呆れの溜め息をついた。

 

「そういうところまで似なくてもいいのに……はぁ」

 

「む、さっきの話に溜め息をつくような部分などあったか?」

 

「……元ですらこれだものね。 蓮也の今後がとても不安だわ……」

 

恭也の言葉に答えを返すことなく、ミラはそう呟いて再び溜め息をついた。

そしてそんなミラの様子に恭也は頭に疑問符を浮かべつつ腕を組み、むぅと唸って悩むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!2〜永久に語り継がれし戦士たち〜

 

【第二部】第十五話 波乱の出発前日 前編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなことがありながらも売店へと辿り着いた一同は各々昼食となるべきものを購入する。

ちなみにだが、お金など持っているはずもない彩音の分はというと、ミラが出そうとしないので恭也が代わりに買ってあげた。

そんなわけで、各自昼食を購入した五人はそれを持ち、食堂に次いで昼食の場として人気のテラスへとやってきた。

しかしまあ、人気とはいえ状況が状況なだけに、本来人気が多いはずのテラスには二、三名の生徒の姿しか見られなかった。

 

「やっぱり、少ないわね……」

 

「まあ、仕方ないさ。 今は状況が状況……外でわいわいと食事をできる心境じゃない者がほとんどなんだろう」

 

「それもそうね……まあ、私は人が多かろうが少なかろうが構わないのだけど」

 

そう言ってミラはベンチへと腰掛け、続くように恭也も腰掛けて昼食を膝に置いた。

それに対してミラは昼食を膝に置くことはせず、蓮也か綾菜を膝の上に持ってこようとして視線を巡らせる。

だが、当の蓮也と綾菜はすでに腰を下ろしており、空いたもう片方に彩音も座るという板ばさみ状態が出来ていた。

それにミラは少しだけ寂しそうな表情を浮かべつつも、諦めて恭也と同じく昼食であるサンドイッチを膝に置いて封を開ける。

そして、封を開けた包みの中からサンドイッチを一つ手に取り、いつものように隣にいる恭也の口元に持っていった。

 

「はい恭也、あ〜ん」

 

「む……」

 

これに関してはすでに恭也は諦めているので、何の抵抗もせずに口を開ける。

開けられた口にミラは手に持ったサンドイッチを三分の一ほど入れ、恭也は入ってきたそれを食べる。

そしてモグモグと口を動かして飲み込んだ後、これまたいつも通り、今度は恭也がサンドイッチを一つ掴んでミラの口へ。

そうやって交互に恭也とミラが食べさせ合う中、隣にいる蓮也と綾菜、そして彩音もまた同じことをしていた。

 

「「蓮也(お兄ちゃん)、あ〜ん」」

 

「えっと、その……」

 

しかしまあ、同時に同じことをされても、蓮也としてはどちらを食べればいいのかと困る。

片方を食べれば片方が怒り、かといって今のように食べなければ、食べてくれないの?というような視線を向けられる。

それにもう心情的には勘弁してください状態になってしまい、父と母に助けを求める視線を向けようとして思い留まる。

なぜなら、これと似たようなことを毎日毎日繰り返している二人が、助けを求めたとて助けてくれるだろうか。

答えは否……助けを求めたところで父は諦めろと言うだろうし、母は食べてあげればいいじゃないと言うことが目に見えている。

となると二人に助けを求めることは意味がないとすぐに結論が出るわけで、そうなるとこの状況を自力で打破しなくてはいけないのだが……

 

「「食べてくれないの……?」」

 

「う……」

 

視線でだけでなく本当に言われ、悲しそうな目で見られると打破などできるわけがない。

しかし先ほども述べた通り、どちらか一方を食べるとどちらかがお怒りになるのは確実。

 

(俺にどうしろと……)

 

内心で泣きながら、蓮也はこの状況を打破する方法を必死に考える。

だがまあ、そんなにすぐ考え付くのならばそもそもこんな状況に陥っていないわけで……

 

「「蓮也(お兄ちゃん)……」」

 

「うぅ……」

 

しばらくの間、蓮也はそんな嬉しいのか苦痛なのかわからない状況を味わう羽目となった。

そしてそんな蓮也たちに関係なく、横では父親と母親がラブラブな昼食を繰り広げ続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミラと分かれた後、ヘルは昼食を取ることもなくまっすぐに保健室へと赴いた。

理由はただ一つ……昨夜の戦いで傷を負い、魔法で癒されても今だ目を覚ますことのない二人に会うため。

そして、二人が目を覚まさない最大の原因を確認し、その原因を取り払うために赴いたのだ。

傷が癒された時にフィリスには原因不明だと言ってはいるが実際のところ原因に心当たりはあるし、治す方法にも一応はある。

ならば、なぜフィリスに対してそんな返答をしたのか……それは、治す方法というのを見られ、知られるわけにはいかないからだ。

 

「……」

 

静かに眠る二人、セリナとアーティの前に立ったヘルは腰にあるランドグリスに呼びかけるようにポンポンと叩く。

すると、ランドグリスはその呼びかけに若干遅れつつも、少し高めの声をヘルの頭に響かせる。

 

『どうかしましたか、マスター?』

 

「ん……ちょっとあなたのお姉さんに用事があるの。 悪いけど、呼んでくれる?」

 

『お姉さまをですか? わかりました……少しお待ちください』

 

それを以降声は聞こえなくなり、しばらくの間静寂が周りを包み込む。

そしてそのしばらくの静寂の後、ランドグリスとは似ているようでどこか違う声が再び響く。

 

『私に何か用かしら、ヘル?』

 

「ええ。 ちょっと診てもらいたい子が二人いるのよ……忙しそうなところ悪いけどね」

 

『別に忙しくもないし悪くもないわよ。 それで私に診て欲しいと言うってことは、その二人の容態はあまり良くないのね?』

 

「血の呪い……それだけ言えば、わかるわね?」

 

『……少し、待ってね』

 

声がそう言ってから数秒後、ヘルの黒い瞳に変化が現れる。

黒から徐々に空のような蒼色へと変化していき、最終的には両目がその色へと染まった。

そして瞳の色がそれに染まるや否や、ヘルはゆっくりと二人の眠るベッドの横へと歩み寄り、掛け布団をゆっくり剥がして服の上から手を当てる。

最初にセリナ、次にアーティ……上のほうから下の方までゆっくりと手を動かしていき、ある一点に達したところで手を退ける。

 

「なるほどね……確かに、このお二人の内にある血から、負の魔力の流れを感じるわ」

 

『魔血生成、ガイストの生産に続くダーインスレイヴ最後の能力……どうやら、完全に覚醒してしまったみたいね』

 

口を開いたヘルの口からは、先ほどまで脳内に響いていた声が発せられる。

そして反対にヘルの脳内には、ヘル本来の声が響き渡っていた。

主従の人格交代……これは、それが先ほどそれが成された結果というわけである。

 

『それで、治せそうかしら? 魔剣の精たるこの二人が、以前のこの学園の生徒のようになるのは避けたいのだけど』

 

「ええ、それは大丈夫よ。 本体もこの地から遠く離れてるみたいだし、呪を掛けられて間もないみたいだから」

 

『そう……なら呪の解除をお願いできるかしら、ブリュンヒルド?』

 

現在ヘルの肉体の表に出ている人格、ブリュンヒルドはそれを頷いて了解の意を示す。

同時に右手をセリナの胸に当て、瞳の色と同じ色をした魔力の粒子を当てた右手に収束させる。

そして収束していく魔力は同時に当てた部分から体の中へと入っていき、それに伴ってセリナの表情が若干の苦痛に染まる。

だが、魔力の収束が終わって当てた手を胸から離したときには、セリナの笑顔はとても穏やかなものになっていた。

それをブリュンヒルドは呪いの解除成功と取り、次だとばかりに隣のベッドにて眠るアーティへと同じ治療を施す。

 

『あれよね……正直今回ばかりは、あなたがいてよかったと思うわ』

 

「何よいきなり……気持ち悪いわね」

 

『感謝を言葉にしてるのに……言うに事欠いて気持ち悪いはないんじゃないかしら?』

 

「普段からそんなことしないのに、いきなりすればそうも思うわよ」

 

『素直じゃないわねぇ……感謝されたときくらい喜べばいいのに』

 

「主従は似るものって言うでしょ? 言うなれば、私のこれはあなたに毒された結果というわけよ」

 

軽口を叩き合いつつも、ブリュンヒルドは治療を終えて手をゆっくりと下ろす。

そしてしゃがんでいた状態から立ち上がり、ランドグリスに手を当ててゆっくりと目を閉じる。

閉じた目が数秒経って開かれたとき、蒼かった色は元の黒い色の瞳へと戻っていた。

 

『ふぅ……じゃあ、私はこれで下がるから、後の始末はお願いね』

 

「始末って言っても、残存するあなたの魔力の残り香を完全に消すくらいしかないけどね」

 

『それでも重要なことなのだから、ちゃんとやっておいてよ? ダーインスレイヴが教団側にある時点で、私の存在は人間にとってあまりいいとは言えないんだから』

 

「はいはい、わかってるわよ」

 

おざなり気味に返事をしつつ、ヘルは自身の魔力で周囲に残存するブリュンヒルドの魔力をかき消し始める。

それに、ちゃんとやってることを確認したブリュンヒルドは安心しつつ、ランドグリスと入れ代わり奥へ引っ込もうとする。

が、それよりも先に魔力をかき消している最中のヘルが口を開いたことで、その行動は止められることとなった。

 

「あ、ちょっと待って。 引っ込む前に、一つだけ聞きたいことがあるわ」

 

『っと……何かしら?』

 

「あなたは私と契約を結ぶ際の条件として自分の願い叶える事……つまりは、ダーインスレイヴの完全破壊を手伝うように言ったわよね?」

 

『ええ、確かにそう言ったわね』

 

「それはつまり、あなたの過去にケリをつけるということ……でも、それをあなたは本当に望んでいるのかしら?」

 

『……何が、言いたいのかしら?』

 

「単刀直入に言えば、あなたはダーインスレイヴの破壊なんて望んではいない。むしろ、あれがどんな形であれ、これからもこの時代に残り続けることを望んでいるのではないか、ということよ」

 

ヘル自身、その言葉に対して根拠がないというわけではなかった。

契約時から自分の力の大部分を封じることによる破壊時期の先延ばし。

覚醒間近だというのに表に出てこず、ダーインスレイヴが学園の生徒に呪法を施すことを黙認。

極めつけは、完全覚醒を迎えたという事実が先ほど明らかになったにも関わらず、動揺の一つもまるで見せない落ち着き様。

完全破壊を契約条件として掲げているはずなのに、これらを見る限りでは破壊しようと思っていないと見てもおかしくはなかった。

 

『……何を言うのかと思えば、そんなことを。 冗談を言うにもほどがあるわよ、ヘル』

 

「今までの行動、それとあなたとダーインスレイヴの関連性を考えたら……そう思うのも当然じゃないかしら?」

 

『……』

 

「それに、忘れてないかしら? 私とランちゃんがそうであるように、あなたの心も私と繋がってる。 つまり、あなたが今、この話題を出したときに見せた僅かな動揺も私にはわかるのよ」

 

それは言い逃れを封じる、決定的な証拠であると言えた。

僅かとはいえ、話題を出されたことで見せたブリュンヒルドの動揺はヘルにしっかりと知られている。

他の誰にこの嘘を貫き通そうとしても、契約者たるヘルを騙すことは根本的に不可能なのだ。

故に、ブリュンヒルドは観念したかのように溜め息をつきつつも、やはりいつもと変わらぬ口調で語る。

 

『ランドグリスには誤魔化すことができたのだけど……あなたを偽るのは、やはり無理だったみたいね』

 

「じゃあ、やっぱり……」

 

『ええ、確かにあれがこれからも存続することを私は望んでる。 人があれの脅威に晒されても、あれが人を恐怖に陥れようとも……私の心が、あれがこの現世でいつまでも残り続けて欲しいと願ってる』

 

「……」

 

『『殺戮は人が望むから起きるのか、剣が望むから起きるのか』……こんな言葉を、聞いたことがあるかしら?』

 

「……ええ」

 

『私はね、人の綺麗な所ばかりを見てきたから、これを後者だと思ってたわ。 でも、本当は違うのだとあのときわかった……ダーインスレイヴは初めて起こした、あの戦のときに』

 

語り続けながらも思い出される、遠い遠い大昔の記憶。

街や建物は炎に包まれ、人々の間では争いが続き、絶えることなき戦火は大地を包む。

そして、街で争いが起こり続ける中で、その国を治める王は城の玉座で嗤っている。

傍らに歪な刀身の剣を立て掛けて、広がりゆく戦を止めようともせず、悲鳴をあげる民を助けようともせず。

ただ、ただ嗤って……まるで、戦が広がり民が死に、街や建物が崩壊していくのを、楽しむように嗤っている。

そんな大昔のようで、極最近あったかのように思い出された出来事は、ブリュンヒルドの声を知らず知らずの内に暗くしてしまう。

 

『殺戮は……きっと人と剣、そのどちらもが望むから起きること。 だからこそ、私は愚かにも存在し続けるあの剣を……でも、そう決心したはずなのに、心があれの存続を願うの。 遥かな昔を再現することだと、わかっているのに……』

 

どうしてブリュンヒルドがダーインスレイヴの存続を願うのか。

ブリュンヒルドとダーインスレイヴの関連性を本人から聞いているヘルは、それがなぜかを知っている。

だからこそ、それを少しでも和らげてあげようという意思を込めて、柄の部分に手を置いて優しく撫でる。

それに、ブリュンヒルドは沈んでいた気持ちが少しだけ癒されるのを感じ、同時に照れたように咳払いをして暗い自分を打ち払う。

 

『でも、私の私情で契約を破るわけにはいかない……だから、契約の条件は今までどおり、ダーインスレイヴの完全破壊よ』

 

「無理しなくてもいいのに……破壊しなくても、再封印に留めておけば――」

 

『駄目よ。 封印したとしても、必ずダーインスレイヴは今回のように蘇る……あの剣に、王の意思が存在する限りは。 なら、私はあの剣に破壊という救いの手を差し伸べることで王の意思を古の呪いから解放しなければならないのよ』

 

「それが……あなたの意思?」

 

『ええ。 そして同時に、私があなたと共に現世に蘇った理由……使命よ』

 

そう告げるブリュンヒルドの心は、今度こそ何の惑いも抱いてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もが昼食を迎える昼時という時間に、裂夜は学園の門から外へ出て森を歩いていた。

舗装された道を通らず、生い茂る木を避けて草を掻き分けつつ、森の中を歩いていた。

昼時であるにも関わらず、本来ならいの一番に食を選択するはずの裂夜がなぜ学園外の森を歩いているのか。

その理由は、会議が終わった後に部屋へと戻った裂夜が発見した、机の上に置かれる一通の手紙にあった。

手紙に書かれる内容はたった一言……森にて待つ、ただそれだけだった。

普段なら悪戯かとか思って無視する内容ではあるが、昨夜あった事が事だけに裂夜はそれがどうしても気になった。

故に、用心として手早く完全武装し、この近場で森と言えるほど木々が生い茂っている学園門前に広がる森へと裂夜は赴いたのだ。

だが赴いたはいいのだが、手紙の内容は森にて待つという一言だけ……正確にどこの辺りで待つというのは書かれていない。

そのため、裂夜は足を止めることなく、意識を張り巡らせて気配探査を怠ることなく、ただ森を突き進んでいった。

 

「よぉ……待ってたぜ」

 

しかし、気配をしっかり探っていたはずなのに、その声は突然聞こえてきた。

それに裂夜は内心で驚きながらも表面には出さぬようにし、声のした方向……若干先にある木の上へと視線を向ける。

するとそこには、青い法衣を身に纏い、紫色の短髪をした一人の男が、太い枝に足を置いて木に寄りかかりつつ腕を組んで見下ろしていた。

自分を見下ろすその男を視界に入れた裂夜は、いつでも武器が取れるように警戒しつつ、手紙を取り出して男へと口を開く。

 

「これを出したのは……お前で間違いないな?」

 

「ああ、間違いないな……って、そう警戒すんなよ。 別に戦いに来たわけじゃねえんだからよ」

 

そう返しつつ、男は寄りかかっていた木から背を離し、枝の上から地面へと飛び降りる。

そして地面へと難なく着地すると、男は組んでいた腕を解いて再びその口を開いた。

 

「へぇ……なるほどなぁ。 二つに割れた『悪夢を齎す真の闇(ナハト)』の片割れっつうからどんなのかと思ったが、器のほうも中々なもんだな」

 

「……なぜ、貴様がその名を知ってる?」

 

「あ? ……ああ、そういえばまだ名乗ってなかったっけか」

 

男はうっかりというように頭をボリボリと掻き、右手を翳すように前へと差し出す。

すると、差し出した右手の平に魔力とは違う黒い粒子が収束し、数秒足らずで粒子は剣の形を成す。

 

「この剣……見覚えあるだろ?」

 

悪戯っぽい笑みを浮かべつつ男は尋ねるが、裂夜は答えられずに絶句していた。

だがそれも仕方のないこと……なぜなら、その剣は以前エリュードニル崩壊の際に失踪した魔剣の一つだから。

美由希との戦闘で折られた二本、そして自分たちとの戦闘の際にヘルが扱った二本……その内の一つ。

 

「魔剣エッテタンゲ、だと……」

 

我に返った裂夜が信じられないというかのようにポツリと呟き、男はそれにニヤリと笑みを溢した。

そして、剣を持つ右手を下にゆっくりと下げた後、またもや裂夜にとって驚愕に値する言葉を口にした。

 

「当たりだ。 そしてもう分かるだろうが、一応俺の自己紹介もしておこう。 俺の名はインゲムンド……アルナ・ベルツ『断罪者』の一人だ。そして同時に――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔剣エッテタンゲの精霊……古に存在した王の一人でもある」

 

 


あとがき

 

 

さてさて、最後のほうで意外な展開が!!

【咲】 断罪者の一人が裂夜と直に接触してきたわね。

【葉那】 接触してきた理由ってなんなの〜?

そんなものは……次回になればわかるさw

【咲】 いつもいつもそればっかり……正直飽きたわ。

いや、飽きたとか言われても……。

【咲】 まあ、そんなことはいいとして……ランドグリスに存在するもう一つの人格の名前も出たわね。

だな。 前に言ってた浩さんの言ったことがいいとこ突いてるっての、間違ってないだろ?

【葉那】 ほんとだね〜。

【咲】 ブリュンヒルド……まあ、確かにイニシャルはBよねぇ。

だろだろ? だから、さすが浩さんと思ったわけだよ。

【咲】 美姫さん、これで美姫さんの教育が正しかったということが証明されました!

いや、前も言ったけどそれはげばっ!?

【咲】 余計なこと言わない。

うぅ……。

【葉那】 それでさ〜、早速だけど次回はこれの続き?

ふむ。裂夜と接触してきた断罪者、インゲムンドの真意。 そして呪法から解き放たれた二人の目覚め。

あとは〜……まあ、後付でいろいろかな。

【咲】 いい加減ねぇ……。

しょうがないでしょ、まだ出来てないんだから……じゃ、今回はこの辺で!!

【咲&葉那】 また次回も見てね〜♪




う、うぅぅ、勘まで美姫の教育の賜物になっている。
美姫 「あれは勘と言うよりも、単に口から出た真に近いものじゃないの」
そ、そうかもしれないが。にしても、もう一つの名前は驚きだな。
美姫 「あの外伝がここで別の意味を!」
おおう! まさか、こうなるなんて。
美姫 「そして、裂夜の前に現れた人物」
ああ、滅茶苦茶気になる所で続くだなんて!
美姫 「次回も楽しみにしてます」
待ってます!



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