さて、恭也が少女に懐かれ、ミラとヘルの危険極まりない話し合いが終わってしばし。

ヘルは昼間の学園は初めてだと言って嬉々として学園内回りを始め、ミラはそれをボロボロになりながらも見送った後、保健室へと向かった。

そしてそこで、恭也とイチャイチャ(ミラにはそう見えたらしい)してる少女の姿を目撃して嫉妬大爆発。

今にも雷撃の嵐を保健室に撒き散らそうとするミラを恭也とフィリスはなんとか止め、ようやく落ち着かせて現在に至っていた。

 

「つまり、恭也がその子に血をあげたら、その子が懐いちゃった……そういうわけね?」

 

「あ、ああ……ところでミラ、さっきから気になってたんだが、なんでそんなに服がボロボロなんだ?」

 

「気にしないで……ヘルとの話し合いが少し盛り上がっちゃっただけだから」

 

なんで話し合いでボロボロになるのか、そんなもの考えずとも誰でも想像できる。

そんなわけで恭也はミラのその言葉に納得し、とりあえず抱きついてきてる少女をどうするかと考える。

しかしまあ、懐いてきている少女を無下に引き剥がすのも気が引けるし、離れてくれと言ったところで悲しまれそうな気がする。

そのため、結局のところ恭也は今の状況を打開することが出来ず、ミラに助けを求めようと視線を向ける。

向けられた視線に、ミラも意図を読み取ったのか溜め息をつきつつ小さく頷き、少女へと歩み寄ってグイッと引き剥がした。

 

「む〜……」

 

「あんまり懐かないの。 恭也が困ってるでしょ?」

 

無理矢理引き剥がされ、不満そうな顔を浮かべる少女にミラはそう言い聞かせる。

そこで、少女は今まで恭也に懐いていたため、意識を向けることなかった他の二人に視線を向ける。

フィリス、ミラ、と向けて一度恭也へと視線が戻り、そしてまたフィリス、ミラを向けてそこで止まる。

視線をミラで止めたまま、少女はジッとミラを見続けた後、幼い故の爆弾発言を口にした。

 

「おばさん……誰?」

 

「なっ!?」

 

ここでフィリスではなく、ミラに向けておばさんという辺り、鋭いと言えよう。

しかしまあ、鋭いには鋭いのだが、幼い子供の発言というのは時に人を傷つけたり、怒りを抱かせたりする。

この場合、ミラが傷つくと怒りを抱くのどちらに相当するかといえば、そんなものは言わなくてもわかるであろう。

 

「私はおばさんじゃなーーーーい!!」

 

ミラの叫びと共に、怒りの雷撃がとうとう炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!2〜永久に語り継がれし戦士たち〜

 

【第二部】第十二話 僅かに戻りし日常での騒動

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミラと遊んだ(本人はそう思っている)後、ヘルは昼間初めてともなる学園回りを行っていた。

といっても、学園内すべてが昼間初めてというわけでもなく、人気のない場所に限ってはすべて回り終えている。

そのため今日回るのは、昼間は回れなかった人気のある場所などであった。

しかしまあ、昨夜のこともあり、本来人気のある場所でもいつもより人の数はなく、活気も微妙になかった。

 

「ん〜……もっと活気のあるところがみたいのだけど」

 

『しょうがないですよ。 昨日あんなことがあったとなれば、詳細を知らなくても生徒は不安になるものです』

 

周りを見渡しながら人が少ないことにヘルがそう呟くとランドグリスがすぐにそう返してきた。

返されたその言葉にヘルは昔、自分が事件を引き起こしたときの学園を思い出し、納得したように頷く。

正体が知れぬ者が襲撃してきた、とだけ聞いても不安は出てくるが、かといって襲撃してきたという事実そのものを隠しても同じこと。

結局のところは事件そのものをどうにかしない限り、生徒の不安感というのを完全に拭い去ることは出来ないのだ。

 

『ですが、これからのことを考えると生徒の不安というのを少しでも拭う方法を考えておかないといけませんね。 教団の襲撃は昨日が最初ではありますが最後ではありません。 また何時襲ってくるかもわからないんですから……』

 

「ま、それは私のすべきことじゃなくて、この学園の講師たちがする仕事だけどね」

 

『それはそうでしょうけど……少しはそういう方面でも助けようとは思わないんですか?』

 

「思わない。 さすがにそこまでは面倒見切れないわ」

 

『彼……恭也様がお願いしてきても?』

 

「それは当然……引き受けるに決まってるじゃない」

 

恭也を割合に出しただけでこの変わりようは一体何なんだろうか、ランドグリスはそう思わずにはいられなかった。

ヘルが恭也大好きなのは知っているが、ここまで変わるのならばもう恭也依存症、ある種の病気である。

まあだからこそ、先ほどのようにミラと対立して話し合いという名の喧嘩をしたりするのだろう。

昨日までは会うことすらも怯えてできなかったというのに、変わったら変わったで問題である。

 

「ランちゃん……一つ聞きたいんだけど」

 

『……何ですか?』

 

「食堂ってどこにあるのかしら? いい加減何か食べたいんだけど」

 

『知りませんよ。 ご自分で歩いて探したらいいじゃないですか』

 

ランちゃんという呼び方が定着してしまっているのが心底不満。

そう言うかの如く、ランドグリスは不機嫌極まりないといった声色でそう返した。

しかしまあ、これもいい加減学習したほうがいいと思う。

そんな不機嫌さを露にした喋り方したら、ヘルが一体どんな行動に出るかということを。

 

「へ〜、私にそんな態度取るなんて……ランちゃんはそんなにお仕置きされたいのね」

 

『え、あ、えと……ひぐぅ!?』

 

気づいたときにはもう遅く、言い訳を考える暇もなくいつものお仕置きポジションへ。

ミシミシと音が鳴ってもおかしくないほど力強く両端を捕まれ、本来曲がるべき方向ではないほう方向へと力を込められる。

曲げ始めに意味不明な悲鳴をあげ、ゆっくりと力が篭っていくごとに悲鳴が徐々に強くなっていく。

 

『ギブ! ギブアップです! 痛っ、そ、そっちの方向にはそれ以上曲がらないですーー!!』

 

「やめて欲しいなら、さっさと食堂を探しなさい。 これは冗談じゃないわよ?」

 

『わ、わかりました! わかりましたから、それ以上曲げないでーー!!』

 

わかりました、そうランドグリスが言うとヘルはあっけなく力を抜き、腰元へと戻す。

するとランドグリスは泣き声混じりにほっと息をつき、すでにサーチを終えてる学園内の図から食堂を割り出す。

 

『えっと……学生寮の一階中央ですから、ここから来た道を戻らないと駄目ですね』

 

「はあ? 何よ、もしかして行き過ぎてたってこと?」

 

『まあ、もしかしなくてもそういうことですけど……』

 

「はぁ……まったく、なんでもっと早く言わないのよ。 役に立たないランちゃんなんて、ただの太刀でしかないわよ?」

 

『これくらいで役に立たないって……そもそも食堂に行くって言ったのついさっきじゃないですかっ!?』

 

至極正論な言葉で反論を試みるが、当のヘルはすでに聞いてはおらず、来た道を引き返していた。

その後もランドグリスはギャーギャーと喚いていたのだが、聞く気がないヘルは食堂につくまでずっと無視し続けたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

保健室に雷撃の嵐が降りしきり、その雷撃の標的となる少女を恭也が庇って逃げ回ること三十分。

見事にセリナとアーティの眠るベッドを避けて雷撃が保健室を半崩壊状態にさせ、庇って逃げ回った恭也の衣服は所々が焦げていた。

そして抱えられていた少女はミラの怒りなど柳に風と言わんばかりに受け流し、恭也の胸に頬を擦り寄せていた。

その光景が収まったミラの怒りを再び甦らそうとしてフィリスが涙ながらに止めた後、三人は追い出されるように保健室を出た。

保健室を追い出された三人は、とりあえず朝食がまだということで部屋へと戻り、蓮也と綾菜を連れて食堂へと向かっていた。

 

「ねえ、父さん……」

 

「ん……なんだ?」

 

「その子、誰なの? 見かけない顔だけど……」

 

恭也が抱っこしている少女に、蓮也はなぜか頬を染めつつ不思議そうに尋ねる。

正確には恭也とミラが部屋に戻った時点で不思議に思ってはいたが、ミラが妙に怖い空気を纏っていたので聞けなかった。

そのため、綾菜の相手をしているため少しだけ空気が和らいでいる今になって、蓮也はミラに聞こえないほどの小声で聞いたのだ。

聞かれた質問に恭也はすぐに答えようと口を開くが、そこで自分が少女の名前を聞いていないことに気づき、少女へと顔を向ける。

 

「そういえば聞いていなかったが……君、名前はなんて言うんだ?」

 

「ん……EH−06」

 

「は? ……すまん、もう一回言ってもらってもいいか?」

 

「EH−06……皆はそう呼んでた」

 

EH−06……それは正確には名前ではなく、少女の型番と言えるもの。

それで少女を呼んでいるということは、教団は少女を人ではなく物で扱っているということを示していた。

故に、ホムンクルスとはいえ物として扱っているという事実に、恭也は表には出さないが怒りを内心で浮かべる。

しかしまあ、今怒ったところでどうにもならないとすぐに思い至り、同時に少女をどう呼ぶべきかと考える。

そのまま型番で呼んでしまえば教団と同じになってしまうし、かといって新しい名前というのが恭也に考え付くはずもない。

ここだけの話なのだが、蓮也と綾菜という名前は恭也が考えたのだが、これも考え付くのにかなりの時間を有していたりする。

 

「……何か思い付く名前はないか、ミラ?」

 

結局、即席で名前が考え付かず、隣で綾菜と手を繋ぎながら歩くミラを頼る。

するとミラは少しだけ不満気に少女を見た後、少しだけ思案顔をしてやはり不満気に口を開いた。

 

「彩音(あやね)、なんてどうかしら? 不本意だけどこの子、綾菜に似てるし……」

 

「ふむ……彩音、か。 俺はいいと思うが……君はどうだ?」

 

少女に再び視線を戻して尋ねるが、興味ないのか少女は聞いておらず、今だ擦り寄るのみ。

それに不本意とはいえ、ちゃんと名前を考えたミラとしてはムカッときたのか、再び怒りが紫電を形作る。

手を繋いでいた綾菜はそれを見るや否や怯えを浮かべ、手を離して蓮也のところへと駆け寄った。

そして蓮也も自分が被害に合うことを恐れたのか、駆け寄ってきた綾菜と共に恭也から若干離れる。

 

「お、落ち着け、ミラ……こんなところで雷撃なんか放ったら」

 

「心配しないで、恭也。 周りに被害を出さず、一点集中で塵も残さないから」

 

「そ、そんなことしたら俺まで塵になってしまうだろっ!?」

 

なんとか止めようと言葉を放つが、ミラはまるで聞くことはなく怖い笑みを浮かべるだけ。

そして形作った紫電がミラを纏い、バチバチと音を立て始めたのを合図に恭也は駆け出した。

それを見るなり、ミラは紫電を纏いつつまさに怒涛の如く追いかけ、置いてけぼりを食らった蓮也と綾菜も少し遅れて追いかけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂に辿り着いたヘルは、ランドグリスがまだ喚いているのを華麗に無視して周りを見渡す。

食堂というところへ来たことがないヘルは、いつもより微妙に活気がないにしろ新鮮なものを見るように楽しそうだった。

そしてようやく無駄だと知ったランドグリスが黙ったところで、ヘルは眺めることをしつつカウンターへと赴き、メニューを見る。

 

「う〜ん……ランちゃん、どれがいいと思う?」

 

『知りませんよ、私の位置からじゃ見えないですし』

 

「それはそっか……ん〜、にしても、種類多いから迷うわね〜」

 

『いっその事、全部頼んでみては?』

 

「あ、それいいわね。 じゃあ、そうしましょうか」

 

『へ……?』

 

冗談で言ったにも関わらず、本気にしてしまったヘルにランドグリスは呆けた声を漏らす。

そしてランドグリスが本気かと聞く間もなく、ヘルはカウンター付近にいるコックにメニューに書かれている品全部と注文してしまった。

ここで知っておいて欲しいのだが、食堂のメニューは総数百以上あり、普通ならこれをすべて頼む馬鹿などいるはずもない。

故にメニューの料理をすべて頼む人はさすがに初めてなため、コックは唖然としながらも頷き奥へと引っ込んでいった。

頼んだ料理の数だけに、ヘルはカウンターから近い席を取り、喜々とした表情で料理を待っていた。

 

『まさかほんとに全部頼むなんて……』

 

「そんなに驚くこと? これくらい普通でしょ?」

 

『普通じゃないです。 断じて普通ではないです』

 

ランドグリスの反論にヘルは心底不思議そうな顔をし、すぐにカウンターへと視線を戻す。

視線を戻してから待つことしばし、出来上がった料理の一部を持って現れたコックに、ヘルは即座に駆け寄る。

そして、コックから四枚の料理の乗った皿を器用に受け取り、テーブルへと戻り笑顔を浮かべて食べ始めた。

その食べる速さはまさに怒涛の如くと言う他なく、というかほんとに味わってるのかと疑いたくなるくらい速かった。

しかしまあ、食べ終わっても頼んだ量が量だけに、食べ終わった矢先から次の料理が追加されて切がない。

だが、それでもヘルは嬉しそうな笑顔をまったく崩すことなく、追加される端から料理を平らげていった。

 

「ん〜、美味しいわね、ここの料理。 今まで食べてきたのと比べたら雲泥の差だわ」

 

『そりゃ……野菜は野草で肉は魔物から調達してた今までと比べたら、この料理に失礼ですよ』

 

「まあね〜。 でも、ほんとに美味しいわね……いくらでも食べられそう」

 

『……太りますよ?』

 

そう言った瞬間、ランドグリスはゴンッと強く叩かれ、黙すこととなった。

ランドグリスが黙った後も、ヘルはペースをまるで緩めることなく食べ続け、徐々に両サイドへと皿が積みあがっていく。

その後、横から見たらヘルが一体何を食べてるのかわからないくらい皿が積みあがったとき、横からゆっくりと近づいてくる複数の気配を感じる。

それにヘルは食べる手を多少遅めて気配を探ると、近づいてくる気配のうち一人は酷く覚えのある気配だった。

 

「……ヴァル、さん?」

 

「ひゃっふぁり……んく、やっぱり、カールだったのね」

 

口に物を含みながら喋ろうとして、自分でも解読不能だったため飲み込んでから改めてそう口にする。

近づいてきた団体の見知った一人、それは過去世界でもよく会ったことのあるカールだった。

そして、ヘルの姿を目にしたカールはというとなんでここにいるのかという疑問よりも、数えるのも馬鹿らしくなるくらい積み上げられた皿を前に唖然としている様子だった。

まあそれはカールだけに限らず、後ろにいるレイナたちも同じ表情だったのは言うまでもないだろう。

 

「そんなところに突っ立ってないで、座ったら?」

 

「え、あ……はい」

 

今だ唖然としつつもカールたちは頷き、向かいのテーブルの椅子に揃って腰掛ける。

そして腰掛けたカールは、改めてヘルがここにいるのを不思議に思うが、食事に夢中になっているため聞くことができない。

他の者もカールから過去世界の出来事について多少聞いているため同じ疑問を抱いてはいるが、やはり同じ理由で聞くことが出来ない。

そんな一同の聞きたいけど聞けないというような視線に、見かねたヘルは一旦食事の手を止めて口を開いた。

 

「聞きたいことがあるならちゃんと口にしなさい。 別に答えないわけじゃないんだから」

 

「あ、はい。 じゃあ……ヴァルさんは、どうしてここに? 今まで昼間は姿を見せなかったのに」

 

「姿を隠す必要がなくなったから、ただそれだけよ。 あと、今まではヴァルって名乗ってたけど、私の正式な名前はヘルだから」

 

「ヘルさん、ですか?」

 

「ええ」

 

「えっと……なんで今まで偽名を?」

 

「本当の名前を知られなくなかったから……結構知ってる人は知ってるしね。 それに、私自身あのときはこの名前を口にしたくなかったというのも理由の一つよ」

 

肩肘つきながら止めていた手を動かし、答えながらちょっとずつ料理を摘まんでいく。

その様子と答える口調に、カールはどことなく以前の様子とは違って見え、不思議感を抱かざるを得なかった。

しかし、さすがにヘルもカールがそこを不思議に思っているとは考えず、再びカウンターへと赴いて出来上がった料理を持ってくる。

そして再び椅子へと腰掛け、同じ体勢を取りながら料理を摘まみつつ、他にはと言うような視線をカールたちに向ける。

 

「んっと……他には」

 

「別に無理して質問考えなくてもいいわよ? というか、無理して考えた質問に答えるのも面倒だしね」

 

「は、はあ……」

 

そう言うとカールたちは黙ってしまい、それを合図にヘルは少し食べるペースを速める。

速められたペースで徐々に料理は消費され、次々と積みあがっていく皿にカールたちは胸やけがしてくる。

この食堂で一番同席したくない人物ナンバーワンが今まで恭也&ミラのペアだったのだが、この様子だと順位が変わりそうな勢いだった。

本来食堂に朝食を食べにきた一同ではあったが、ヘルのそれを見た今となってはもう食べる気も起こらなくなっていた。

 

「……あなたたち、朝食食べに来たんじゃないの?」

 

「あ、いえ……そのつもりだったんですけど」

 

「わ、私はもうお腹一杯……うっ」

 

苦笑いを浮かべつつカールはそう返し、レイナは気持ち悪くなってきたのか口を押さえていた。

他の者に至っても、レイナと同じでヘルのその様子に胸やけ通り越して吐き気を催してる様子だった。

そしてそんな中、突如勢いよく開いた扉の音と共に、新たに驚くべき事態がこの食堂を襲うこととなった。

 

「恭也……もう逃げられないわよ」

 

「た、頼むから落ち着くんだ、ミラ」

 

「嫌よ。 人の夫を独占してるどころか、私の話をまるで聞かない子に掛ける情けはないわ」

 

怒りが頂点に達しているミラは、恭也の言うことすらまるで聞きもしない。

それどころか、これだけの騒ぎがあったにも関わらず今だ我関せずの少女―彩音に対して怒りの限界が超えかけてる様子だった。

そんなミラの様子に、恭也は冷や汗をだらだらと流しながらも後ろへ後退していき、それに合わせてミラもジリジリと間合いを詰める。

そして遂に、恭也の背中が食堂の壁に突き当たり逃げ場なしとなったとき、突然ミラの後頭部に何かが激突する。

怒りのせいで周りに気がいかなかったミラは、ゴンッと鈍い音を立ててぶつかったそれに目を向けることなく、痛そうに後頭部を抱えてしゃがみ込む。

一体何が飛んできたのか……若干呆然としつつもそれを疑問に思った恭也は地面に落ちたそれに目を落とす。

そこにあったのは、食堂で使われているプラスチック製のコップだった。

プラスチック故に軽いし、あれだけの音を立てて尚且つ落ちても割れてはいないが、飛来したスピードが速ければ激しく痛い。

恭也が見ただけでもかなりのスピードでコップは飛来したため、今のミラの痛がりようは激しく頷ける。

そしてその様子を見て、さすがに恭也も心配になったのか声を掛けようとするが、それよりも早くミラは立ち上がってコップを投げた本人へと歩み寄る。

 

「あら、何か御用かしら、ミラ?」

 

「とぼけようとしても無駄よ……この場にいる人で、私にあんなことする勇気のある奴があなた以外にいるかしら?」

 

「へ〜……そう言うってことは、自分が学園で恐怖の対象になってるって自覚があるのね」

 

怒りを浮かべ纏う紫電を一層強めるミラに対して、ヘルはまったく動じてはいない。

それどころか食事の手すらも止めることなく、ミラに視線さえも向けてはいない。

しかも、それが更にミラの怒りを倍増させていくことと知りながらやっているので、かなり性質が悪い。

 

「ふ、ふふふふ……あなたとは、もう少し話し合いをしなきゃいけないみたいね」

 

「あれだけボロボロで手も足も出なかったのにまだやるわけ? そんなに凶暴性高いんじゃ、恭也が愛想尽かすのも時間の問題ね」

 

「そ、そんなわけないでしょ! 恭也は懐が広いから、私がこんなでも笑って受け入れてくれるわ!」

 

「ふ〜ん……ま、あなたがそう思ってるのなら別にいいけど。 あ〜、恭也が愛想尽かす日が来るのが楽しみね〜」

 

明らかに挑発するような(後半は本気な)言葉を口にされ、ミラの浮かべていた怖い笑みが消える。

笑みの消えた顔には何の感情も見えず、怖いと言えるほどの無表情だった。

そして表情が消えたと同時に紫電が限界まで増し、それに合わせるように食堂にいる全員が隅のほうへと避難した。

 

「消し炭にしてあげるわ、ヘル」

 

「やれるものならやってみなさい、ミラ」

 

その二人の言葉を合図に、本日二度目の雷撃音が食堂を中心に学園全体に響き渡った。

 

 


あとがき

 

 

少女の名前が決まり、ヘルを含めた学園での一騒動でした。

【咲】 やっぱりミラとヘルは犬猿の仲ね。

だから、喧嘩するほど。

【葉那】 喧嘩って言っても限度があると思うな〜。

う……ま、まあな。 この二人が喧嘩をすると、絶対に何かしこの被害が出るし。

【咲】 ところで、ヘルはほとんど皆受け入れたみたいだけど、ランドグリスはどうなるわけ?

ランドグリスは……まあ、もうちょっと後かな。

【葉那】 ランドグリスBの正体は?

それもまだ後。

【咲】 後々ばっかりね〜。

しょうがないでしょうが……次々と明かしたら話が成り立たなくなることだってあるんだから。

【咲】 まあねぇ……で、今回はもう一つ、少女の名前が出たわけだけど。

出た、というより、学園での仮の名前だがな。 型番以外の名前なんて、彼女にはないわけだし。

【葉那】 というか、彩音っていう名前には綾菜と似ている以外に何か意味はあるの?

んにゃ、まったくないね。

【咲】 つまり、ほぼ適当に決めたと?

適当ってわけでもないけど……まあ、そう思ってもらっても間違いではない。

【葉那】 ふ〜ん……じゃあ、今回はちょっと早いけど次回予告いっちゃお〜。

【咲】 そうね。

ふむ……ところで今回は、久しぶりに語り部風に予告をしようと思うんだが?

【咲】 私たちも?

そそ……じゃ、早速いきますよ〜。

 

僅かに訪れた日常、しかし学園全体を覆う不安は今だ拭うことは出来ない。

【咲】 だが、不安が広がる学園の中で、突如届いた吉報が皆に一筋に光を見せた。

【葉那】 残された賢者の石の所在、古の塔にてどちらにも属さず存在する神。

齎された情報を頼りに、皆は教団の目的を打ち崩すため動き出す。

【咲】 しかし反面、教団の者たちも計画の第二段階に向けてゆっくりと動き出していた。

【葉那】 希望を胸に抱きつつある学園に、再び恐怖と絶望を与えるために……。

次回、メンアットトライアングル2二部、第十三話。

【咲】 「古の塔に眠りし失われた大地」を、ご期待ください。

 

とまあ、こんな感じでやったところで、今回はこの辺で!!

【咲&葉那】 また次回ね〜♪




今回はちょっとほのぼのって感じだな。
美姫 「一部、殺伐としていたけれどね」
まあ、これも日常と化しているから問題ないだろう。
ただ、今回は相手もまたミラと張り合えるというだけで。
美姫 「室内で雷の魔法が落ちるのに慣れるってのもどうかと思うけれどね」
あははは。さてさて、次回は何かシリアスな予感。
美姫 「一体何が起こるの」
次回も待っていますね。
美姫 「待ってますね〜」



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