背中に広がる翼より、無数の羽が一匹の魔物を包み込むように舞い踊る。

まるで踊っているかのような、奏でられし歌に誘われ踊るかの如く、羽は地面に落ちることなく宙を舞う。

そして誰もが目を奪われ見惚れるその光景は、長く続くことなく次のダンスの準備を始める。

舞い踊る無数の羽の僅かが一転へと集まり、柄から刀身まで白い短剣を、魔物の周りに複数形作る。

 

「射抜け」

 

ただ一言、その声が響くことで、刃たちは第二のダンスを皆の眼前で披露する。

それは殺劇のダンス……白き刃を異なる色に染め、命という花を散らすための、ダンス。

 

「グオオォォォォ!!」

 

雄叫びを上げる魔物の体には、別の色に染まる白かった筈の短剣が複数突き刺さる。

だが、そこですべてが終わることなく、短剣の勢いはまだ消えることはない。

魔物の体内に潜り込むかの如く、短剣は突きたてた部分を抉り、抉り、その姿を消していく。

短剣が姿を消した複数の場所からは、魔物の再び上げた雄叫びと共に形容しがたい色の液体が噴出する。

 

「爆ぜよ」

 

再び響いた言葉を合図に、刃の潜り込んだ傷を中心に小規模の爆発を起こす。

耳を押さえたくなるほどの爆音、それは潜り込んだ短剣の数だけ、音を立て続ける。

一つ、二つ、三つ、次々と鳴り続けた爆音は、まるでそれ自体が音楽のようにも聞こえるようだった。

そして、永遠に続くかという幻想を抱かせるほどのそれは、すべての短剣が爆砕したことで終わりを見せた。

しかし、舞い上がる羽のダンスが終わりを見せた後も、その魔物は所々から煙を上げながらも息絶えることはなく、今だ健在だった。

 

「なるほどね……『ヴォルムス』に耐える辺り、もうちゃんと完成してるみたいじゃない」

 

『いえ、それどころか……耐久力、腕力、魔力、どれを取っても古の『Gloom Under Night(グルームアンダーナイト)』よりも遥かに向上しています』

 

「ふ〜ん、そうなると……古の技術に、現代の錬金術が融合した結晶体。 そんなところかしらね」

 

唸りを上げる魔物の前に、先ほどまでの声の主がゆっくりと宙より舞い降りる。

その光景に、その場にいた誰もが再び目を奪われることになった。

背中にある白き翼、身に纏う白銀の甲冑、そしてそれらの姿とは少しだけ不釣合いの、大太刀。

その何もかもが、全員の目を奪うには十分な姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!2〜永久に語り継がれし戦士たち〜

 

【第二部】第十話 天より舞い降りし白翼の戦乙女

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裂夜も、ミラも、フィリスも、誰もが目を奪われたその人物は、魔物を前に広げた翼を折りたたむ。

そして、大太刀を両手で握り、脇構えを取ると、少しだけ三人に視線を向けてすぐ逸らし、魔物へと駆けた。

迫り来るその人物―ヘルに魔物は咆哮を上げつつ腕を振り上げ、即座にヘル目掛けて振り下ろす。

だがしかし、振り下ろしたそこにはすでにヘルの姿はなく、振り下ろした腕を上げようとしたときには、すでにバッサリと切り落とされていた。

 

「!?」

 

「遅いわよ」

 

切り落とされた腕の痛みに雄叫びを上げることもできず、もう片方の腕さえも切り落とされてしまう。

それに今度は雄叫びを上げようともせず、背中に揺らめく白炎から炎弾を複数生成し、無差別に放つ。

その場の至るところを破壊したそれが再び放たれ、数弾が自分たちのところへ向かおうとしているのに、裂夜たちはようやく我に返り回避の体勢を取る。

しかし、咄嗟にとった回避運動のための体勢は、突如宙にて炎弾が爆砕したことで無駄に終わることとなった。

自分たちに到達することもなく爆砕した炎弾に、裂夜たちは呆然としつつどういうわけかと考える。

だがその疑問は、炎弾が爆砕することによって起こった煙が晴れることで、解かれることとなった。

 

「まったく……危ないわねぇ」

 

裂夜たちに向けて大太刀を持っていないほうの手を掲げるヘル。

その姿で、自分たちに迫っていた炎弾はヘルの放った魔法によって届く前に相殺させられたと容易に想像ができた。

そして裂夜たちはそれを想像すると同時に、ヘルは再び魔物へと向き直り、目に映った光景に若干の驚きを浮かべる。

その光景とは……切り落とされた腕が、粒子となって切り落とされた腕の断面に収束し、元の腕がくっ付いていた状態に戻ったのだ。

 

「はぁ……そういえば、こんな特性があったわね。 すっかり忘れてたわ」

 

『異常といえる再生能力……いえ、これは厳密には再生ではありませんでしたね』

 

「ええ。『Gloom Under Night(グルームアンダーナイト)』は見た目では分かり辛いけど、ゾンビのようなものだから……肉体のダメージはなんら致命傷にならない」

 

『となると……本体となるコアを破壊しないといけませんね』

 

「そうなのよね……普通なら心臓を模して胸にあるものだけど、あいつらがそんなわかりやすい場所に置くとは思えないわ」

 

腕を再生させ体中にあった傷さえも消した魔物が繰り出す猛攻を避けながら、ヘルとランドグリスはそう言い合う。

手詰まり、というわけではない……だが、闇雲にコアを探すため攻撃しても、先ほどのように怒りに任せた無差別攻撃をされるのが落ちである。

故に如何にしてコアの場所を探り、そこに一撃を入れるかを思案するも、正直手持ちの手札では被害を出さずにというのは難しい。

だが、それでも考える……大切な人たちが大切にしている場所を、傷付けずに魔物を倒す方法を。

 

(リウデゲール、ブルゴント……駄目、手持ちの歌章じゃコアの破壊は出来ても、被害が出すぎる)

 

『先ほど第三歌章で消費しましたので、魔弾も残り一発……無駄撃ちはできませんね』

 

(ええ……ああもう! 牽制のためとはいえ、あそこでニーベルングの歌なんて使うんじゃなかったわ!)

 

『悔いても仕方ありません。 今はどうやって被害を出さずにあれを倒すか、それだけを考えましょう、マスター』

 

ランドグリスはそう言うが、正直ランドグリス自身とて今の状況は不味いものと判断している。

被害を最小限に抑えてコアを破壊する方法、そんな都合のいいもの早々浮かぶものではない。

だが、主の意思を第一に考えるランドグリスがそんなこと言えるはずもない。

しかし、かといってこのまま攻撃を避けつつ悩み続けても、魔物が先ほどの炎弾を再び放ってこない保証はない。

つまり、悩み続けて時間を消費しても、今ある手札を切っても、結果が変わらないのだ。

 

(コアの場所さえ分かれば一瞬で葬れるのに……どうにかならない?)

 

『正直、難しいです。 『ヴォルムス』によって傷を受けた場所は除外できますが、それでも該当場所が多すぎます。 魔力で特定しようにも隠蔽魔法が掛けられているせいか、複数の反応がありますし……』

 

(あまりに手が込みすぎてるわね……ん、ちょっと待って。 傷を受けても平気なら、該当場所から除外されるのよね?)

 

『はい……ですが、もし外れでもしたらまた先ほどのように』

 

(それについて、私に考えがあるわ)

 

『考え……ですか?』

 

(ええ。 時間がないから説明はできないけど……たぶん、これならコアの場所を特定できると思う)

 

『わかりました……マスターを信じます』

 

(ありがと)

 

そう短く礼を言うと、ヘルはその考えを即座に実行する。

魔物の攻撃を避けつつ、少しだけ後ろへと下がり、動きを止めぬままに後ろで呆けている三人に叫ぶように声を掛ける。

いや、正確には三人にではなく、三人の中にいる一人、フィリスに向かってだ。

 

「そこの弓持ってる金髪のあなた! ちょっと頼みたいことあるんだけど!」

 

「え、わ、私ですか?」

 

「そう、あなたよ! 簡単に言うわ……今から少しだけあいつの動きを止めるから、手持ちの矢を全部纏めてあいつの頭上に打ち上げて!」

 

そう言うや否や、ヘルはフィリスの返答も待たずに最後の一つとなった魔弾を使用する。

ガコン、という音が大太刀から響き、それと同時に靄のようなものを纏った刃の切っ先を魔物へと向ける。

 

「奏でよ!」

 

呪われし指輪(ニーベルング)の歌 第一歌章 『クリエムヒルト』

 

再び紡がれし歌に誘われ顕現した靄は、纏いし刃から離れて魔物へと絡みつく。

その瞬間、ヘルに対して猛攻を続けていた魔物は動きを止め、もがくように蠢き始める。

正直、第一歌章は束縛型の歌ではあるが、そうだとしてもこの魔物の抑止はそう大した時間できはしない。

それほどまでに、目の前でもがく魔物は異常すぎるのだ。

だが今のヘルにとって、抑止できる時間はそんなに多く必要ではなかった。

 

「今よ!」

 

「は、はい!」

 

ヘルの叫ぶような合図にフィリスは返事を返し、残り十数本の矢をすべて魔物の遥か頭上へと正確に放つ。

技術的にかなり難しい芸当ではあるが、錬金術師であると同時に弓使いでもあるフィリスならなんとか出来る芸当だった。

そして放たれた弓は魔物の頭上に到達する以前である程度バラけ、魔物の頭上に到達すると一瞬静止して尖った部分を下に向けつつ落ちていく。

靄によって動きを封じられた魔物は、頭上より迫り来るそれを避ける術はなく、そのまま体のいたるところに矢を受けることとなった。

 

「ランドグリス!」

 

『反応検知……完了。 首元です、マスター!』

 

ランドグリスがそう言うと、すぐさまヘルは動き出す。

大太刀を突きの構えで持ち、駆け出した勢いのまま魔物の首元に突きたて、貫く。

その瞬間、魔物を捕らえていた靄は消え去るが、拘束が解かれたにも関わらず魔物は貫かれた体勢のままぴくりとも動かない。

そしてその状態にて数秒が過ぎると、パキンという何かが砕ける音と共に、動かなくなった魔物の体は砂のように崩れ去った。

 

「ふぅ……やっと倒れてくれたわね」

 

『そうですね……ほんと、一時はどうなるかと思いましたよ』

 

貫いた状態の体勢を解き、ヘルは大太刀を納めつつ呟き、ランドグリスがそれに返す。

それと共に、纏っていた甲冑も、背中にあった翼も、白い光の粒子となって消え去り、元の学生服を着た格好に戻る。

その格好に戻ったヘルはこの後のことを思い出して少しだけ憂鬱そうに溜め息をつき、覚悟を決めたかのように、よしと口にして振り向く。

振り向いたヘルが歩みを始め、ゆっくりと近づいてくることに、助けられたとしても裂夜たちは警戒をせざるを得なかった。

今回攻めてきた相手は一人一人を見ても、集団と見ても謎が多すぎる……故に、目の前の女性が自分たちを助けたのも、自分たちを油断させる罠なのかもしれない。

そういう考えが浮かぶからこそ、警戒を浮かべた視線を向けざるを得ないのだ。

そんな警戒を露にする裂夜たちに、ヘルはそういう考えを抱いているのだろうとわかっているからか特に気にした風もなく、ある一定の場所まで歩み寄るとその足を止めてにっこりと微笑を浮かべる。

 

「そんなに警戒しないで……別に私はあなたたちに危害を加えようとしてるわけじゃないわ」

 

「この状況で、そんな言葉をはいそうですかと信じられると思うか?」

 

「普通は、無理でしょうね。 でも事実、私は危害を加えない……なんなら、これを捨てましょうか?」

 

そう言って腰の大太刀を示すようにポンポンと叩く。

しかし、裂夜は元来の疑り深さがあるせいか、そんなことをしても警戒は解けないと目で訴える。

それにヘルは、本当に困ったというように笑い、再び閉じた口を開く。

 

「じゃあ、どうすれば信用してくれるのかしら? あなたの隠し持ってる紐で私が縛られればいいのかしら?」

 

「女を縛る趣味はないな……ん? 待て……なんで俺が鋼糸を持ってることを、お前が知っている?」

 

ここで行った戦闘で、裂夜は小刀や飛針は使ったが、鋼糸は一度たりとも使ってはいない。

なのに、どうして目の前の女性が知っているのか……そう疑問を抱いた裂夜はすぐにそれを口にした。

するとその質問を聞くや否や、ヘルは僅かなものではあるが、穏やかな微笑を浮かべて答えを口にする。

 

「ふふふ……知ってる理由なんて、当然としか言いようがないわ。 私は、ずっとあなたを見てきたのだから」

 

「ずっと見てきた……だと」

 

「ええ。 十数年前のときも、あなたがミラと出会う以前からも、ずっと……ずっと、見てきたわ」

 

その言葉には、裂夜だけでなく、ミラもフィリスも驚かざるを得なかった。

十数年前の事件を知っていて、尚且つミラと出会う以前のことも知っている、そんな人物は一人しか思い浮かばない。

しかし、その人物は死んだはずなのだ……自分たちの目の前で自らその命を、絶ったはずなのだ。

だが、それらを知っているということはそれしか浮かばず、驚きのあまり口を噤んでしまう裂夜の代わりに、ミラがまさかと思いつつも口を開いた。

 

「もしかして……ヘル、なの?」

 

「当たりよ。 お久しぶりね、ミラ……それと」

 

一度言葉を切って、ミラに向けた視線を裂夜へと向ける。

向けた視線は、とても嬉しそうで、ちょっとだけ不安の色が混ざったものだった。

だがまあ、とても真面目な場面であるのだが、ここで一つ言えることがある。

それは……

 

「恭也も……」

 

盛大な勘違いを、ヘルがしているということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はははははははは……予想通り、表舞台へと出てきたようですね、ヘル様」

 

学園とはかなり離れた地にいるにも関わらず、ルラはヘルの出現を感知して笑みを浮かべる。

ヘルが出現したことの何がそんなに嬉しいのか、部屋に誰もいないため、それを疑問に思う者はいない。

そして誰もいない室内には、今だ笑い続けるルラの声がしばらくの間続くこととなった。

 

「あなたを表舞台に引き摺り出せたのなら、『GUN』試作体の一体や二体、安いものです……」

 

ようやく笑いを収めたルラは再びそう呟き、机の前の椅子に深々と腰を落とす。

そして椅子の背凭れに背中を預け、机の上にある一枚の書類を手に取って再び笑みを浮かべつつ眺める。

 

「何にしても、ようやくこれで、SR計画第二段階の駒はすべて揃いましたよ……ふふふ」

 

なるべく抑えたといった感じで笑いを上げていたそのとき、突如けたたましいと言える音がルラの耳に聞こえてくる。

それにルラは浮かべていた笑みを収め、書類を机の上に戻して扉に目を向けると同時に、荒々しくその扉は開かれた。

いつも誰かが入ってくるときそんな風に開かれることがないためか、少しだけ驚きを浮かべるルラへと扉を開けた主は足早に歩み寄ってくる。

 

「ふむ……そんなに慌ててどうかしましたか、クローズ君?」

 

「出撃許可……出してもらえねえか?」

 

部屋を訪問してきた主、クローズはまるで睨むようにルラを見据えつつそれだけを言う。

クローズが短く言ったその一言に、ルラは不思議そうに首を傾げつつ、そのわけを聞くため口を開いた。

 

「どうしてですか? 確かあなたたちは、先ほど帰ったばかりなのでしょう?」

 

「……とある馬鹿のせいでな……あいつを、学園に残したまま撤退しちまったんだよ」

 

「あいつ……ああ、なるほど。 それで、あなたがそこまで焦ってるわけですね」

 

「ああ……って、そんなことはどうでもいい。 早く出撃許可を出してくれ」

 

「……気持ちはある程度わかりますけど、それは了承しかねますね」

 

「な、なんでだ!? あいつは計画にとっても重要なはず……なのに、そんなあいつを敵地に置き去りにしろってのか!?」

 

「まあまあ、とりあえず落ち着いてください。 ちゃんと訳を話しますから」

 

そう言って落ち着かせようとするが、理由を聞かないままに落ち着くなどできるはずもない。

故に、口こそ閉ざしたが今だ睨むように見ているクローズに、ルラは無理もないかと思いつつ苦笑する。

自身の作ったホムンクルスである少女を、クローズはこれでもかというくらい溺愛しているのは教団内でも有名だ。

まあ、少女を作った=少女の親という式を成り立たせているせいというのが少女を溺愛する大きな理由だろう。

それを本人からも聞いているためよく知っているルラとしては、今のクローズの様子は悪いと思いながらも苦笑してしまうのを抑えられないのだ。

 

「SR計画第二段階もすべての駒がようやく揃った今、代行者たるあなたたちが一人でも欠けるのは計画に大きな狂いを生じさせるのですよ。 ですので、本格的な第二段階開始まで、あなたたちには待機をしていてもらわないといけないんです」

 

「……だとしても、あいつがいなけりゃ第三段階は――」

 

「わかっていますよ。 ですから、第二段階開始まで、と言ったでしょう?」

 

「……」

 

「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。 少なくとも彼女があそこにいても危害を加えられることはありません……所詮、お人好しな人間が集まったような場所ですからね」

 

「だ、だがよ、万が一ということも……」

 

「ほんと、心配性ですね。 ありえませんよ、その万が一さえも。敵であろうと、なんであろうと、あの地にいる彼ら彼女らが人間に、しかも幼い少女に手を出すことなどありえません」

 

なぜか自信に満ち溢れた声で断言したルラに、クローズは今度こそ何も言えなくなる。

怒涛の如く部屋に入ってきたときとは打って変わったその様子に、ルラはもう一度だけ苦笑して再び口を開いた。

 

「それに彼女があそこに留まったのは、ある意味好都合かもしれませんよ?」

 

「そりゃ……どういう意味だ?」

 

「考えてもみてください……まだ生まれて間もない彼女は身体、精神共に状態が不安定。 そんな状態で第三段階、そして最終段階で行うことに……耐えられると思いますか?」

 

「……思わねえよ。 だから――っ」

 

「だからちゃんと調整をして耐えられるようにする、ですか? 私もあなたの腕を疑っているわけではありません……ですので、その調整をすれば少なくとも耐えられるようにはなるのもわかります。 ですが、それは確実に第三段階開始までに間に合うと断言できますか?」

 

「……」

 

答えず無言で俯いたのをルラは否定と取り、言葉の続きを口にする。

 

「ですから、あそこに留まらせることで精神状態の安定を図るんですよ。 あそこは人間が多いですからね……交流をすることで、少なくとも規定値までの精神状態は確保できると思います。 身体状態の安定は、そこからでも遅くはありません」

 

「そりゃまあ……確かに、な」

 

「そういうわけで、彼女をあそこに留まらせておくのが最良だと判断したということです……わかっていただけましたか?」

 

「はぁ……まあ、あいつに危害が加えられないなら、俺も文句はねえよ」

 

溜め息をつきつつそう言うクローズに、ルラはわかってくれて何よりと言うように頷く。

そして再び椅子の背凭れに背中を預け、クローズが入ってくる前と同様に笑みを浮かべつつ机の上の書類を手に取る。

それにクローズは何を見ているのか、何がそんなに面白いのか、そういう疑問を抱きつつも、扉の開かれたままの出入り口潜って部屋を退出した。

クローズが部屋を退出した後も、ルラはずっと書類に目を向け続け、言葉を発することなく小さな笑みを浮かべているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふふふ……」

 

真っ白な……どこを見渡しても真っ白なとしか言いようがない場所。

どこにあるのか、ここがなんなのか、それさえもよくわからない場所。

そんな場所に、楽しげな笑みを浮かべる女性が、ただ一人立っていた。

 

「何がそんなにおかしいんですの、お姉さま?」

 

「何か面白いことでもあったのですか?」

 

そんな楽しげな笑い声に釣られるように、更に二人の女性がどこからともなく姿を現す。

現れた二人の女性に、最初からいたその女性は驚くことなく振り向き、楽しげに口を開いた。

 

「ようやく始まるのですよ……古より定められた、彼らの運命が」

 

「あら、それは確かに面白そうですわね。 暇つぶしと見るのにはもってこいですわ♪」

 

「そうですね。 彼らの運命が決まっているとはいえ、それを覗くのは楽しそうです」

 

二人の女性は姉と呼んだその女性に同意し、ゆっくりと歩み寄る。

そして三人とも互いに寄り添うように身を寄せ合い、目の前にある鏡のようにも見える泉を眺める。

身を寄せ合って泉を眺める彼女たちの表情は、一様に楽しげな笑みが浮かべ続けられていた。

 

「面白いものですわね……人は。 運命が決められていると分かっていても、必死に抗おうとするなんて」

 

「そうね。 何をしても、運命を変えることなんてできないというのに」

 

「でも、だからこそ人は面白いのです。 無駄だとわかっていても運命に抗うのは、たとえ神でも難しいことなんですから」

 

クスクス、クスクス。

三人は小さく笑いながら言い合いつつも、視線は泉から外さない。

その後どのくらい時間が経っても、楽しげに、楽しげに……三人はずっと、泉を眺め続けていた。

 

 


あとがき

 

 

さてはて、ようやく約五話に渡る戦いが幕を閉じたわけだ。

【咲】 そしてまた、謎を増やしたわね。

【葉那】 飽きないね〜。

そりゃまあ、謎がないとこの作品成り立たない感じがするし。

【咲】 かもしれないけど、増やしすぎるのはどうかと思うわ。

まあまあ、ちゃんと回収するから許してちょ。

【葉那】 まあ、謎を増やした〜っていうのはもういいとして、最後の三人はなんなの〜?

あれはまあ、今は秘密かな。

【咲】 いつも通りの返答ね。

まあ明かされるのはそんなに先じゃないから、それまで待ってくれ。

【葉那】 ん〜……じゃあ一つだけ〜。 この三人は重要人物なの?

むぅ、重要と言えば重要だけど……重要じゃないと言えば重要じゃない。

【咲】 どっちよ。

ん〜、まあ……正直判断し辛いってとこかな。

【葉那】 作者がそういうのもどうかと思うな〜。

む……でも、今の段階じゃそういうしかないしなぁ。

【咲】 ふ〜ん……ま、いいわ。 それで、戦いが終わったいいけど、ヘルが何やら勘違いをしてるわね。

だな。 まあ、彼女は恭也が二つに分かれたということを知らないし、仕方ないといえば仕方ない。

【咲】 というか、ずっと学園に潜んでたのになんで知らないのよ。

潜んでたって言っても彼女だっていろいろと動いてたんだし、知る余裕なんてないさね。

【葉那】 そうなの?

そうなんだよ。 まあそんなわけで、彼女は裂夜と恭也を間違えてしまっているというわけだ。

【咲】 厳密には裂夜も恭也であるといえばそうだけどね。

まあ、それは確かにそうだけどな。 でもまあ、ヘルが一番好きなのは……言わなくてもわかるだろ?

【咲】 まあね。 で、次回の話はどんなのなわけ? やっぱりヘルの勘違いを正すところから?

むぅ……それは少しだけ端折るかもしれないが、あるにはあるな。

それと他には、学園側の被害状況、学園に残された少女の処遇かな。

【葉那】 あ、そういえば、カールを始めとした三人が結局出なかったけど、その辺りどうするの〜?

ふむ、とりあえずそこも次回出てくる予定だ。

【咲】 前回もほぼ同じこと言って出なかったくせに。

う……じ、次回は出すさ! 絶対!

【咲】 ふ〜ん……ならいいけど。

ほ……あ、あと一つ言い忘れてた。

【葉那】 何を〜?

ふむ、次回の中で一番でかいことなのだが……なんと、次回はようやく、ヘルの口から教団の目的の一端が明かされる!

【咲】 全てじゃないのね。

そりゃね。それもヘルの独自の調査と自分の持ちうる知識を合わせた推測に過ぎないし。

【葉那】 それは厳密に言って、明かされるって言えるの〜?

むぅ……どうだろうなぁ。 でも、少なくとも目的の全容は多少見えてくる、はずだ。

【咲】 へ〜……ま、そこは次回になればわかることね。

まあな。 じゃあ、今回はこの辺で!!

【咲】 また次回会いましょうね♪

【葉那】 じゃあね〜♪




新たな謎が……。
美姫 「うーん、最後の三人は誰かしらね」
まあ、色んな謎のうち教団に関する推測は出てくるみたいだぞ。
美姫 「それは楽しみね。次回を見ないと困るわよ!」
そんなこんなで次回を楽しみに待つべし。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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