作戦実行当日、代行者+αの面々は学園の付近まですでに迫っていた。

各自の手元には柄の長い戦斧、銀に輝く手甲、三叉の槍、などなどと各々の得物が握られている。

しかし、作戦間際ということで森に隠れて待機しているにも関わらず、この面々には緊張感というものがなかった。

その原因は五人に協調性がない、というのもあるが、それよりも強い原因が別にあった。

その原因とは五人の中の一人である、クローズの腰元にへばりついている少女だった。

 

「……ん」

 

「ほんとにいい子ですね……」

 

「そりゃそうだ。 なんてったってこの俺が作って育ててんだからな」

 

「けっ……今までジジイが作ったものを思い出してから物言えよな」

 

「なんだと……てめえ、若造の分際で偉そうな口叩くじゃねえか」

 

「お、やるってか、ジジイ。 なら掛かってこいよ……今日こそ白黒つけてやるぜ」

 

「望むところだ……後で泣いても許さねえからな」

 

今にも殺りだしそうな雰囲気を纏いつつ、クローズは目の前の男と向き合う。

目の前の男も同じ雰囲気を纏いつつ挑発的な笑みを浮かべ、武器である三叉の槍を構える。

しかし、そんな雰囲気を纏い、得物を構える二人を止めに入る者がいた。

 

「喧嘩……だめ」

 

止めに入った者、それはクローズの腰元にいる少女だった。

本当なら、少女が止めなくても一応この五人を仕切っているティルオスが止めるのだが、少女の動きはそれよりも早かった。

味方内での争いをして欲しくないのか、それとも単に父であるクローズが傷つくのが見たくないのか。

理由は定かではないが、ティルオスが止めるよりも明らかに二人には効果があるため、ティルオスは成り行きを黙って見ていた。

 

「いや、でもな、元はと言えばこの小童が……」

 

「何言ってやがる……元を正せばジジイの悪趣味な発明品が悪いんじゃねえか!」

 

「ぐ、その言葉……聞き捨てならねえっ」

 

「だめ……」

 

「「いや、だってよ……」」

 

「喧嘩、だめ……パパも、グリスおじちゃんも、仲良くするの」

 

「わ、わかった……わかったからそんな泣きそうな顔するな」

 

「お、おじちゃん……」

 

クローズは少女の泣きそうな顔に折れ、グリスと呼ばれた男は少女のおじさん発言に戦意を喪失した。

そんなわけで、結果として二人の殺り合いは収まることなり、無意識とはいえ見事な収め方にティルオスは内心で感心する。

 

「あの嬢ちゃん……すげえな」

 

「ああ、実に見事だ。 俺が止めに入っても、あんな風に無傷で止めることはできん」

 

「ま、あいつらの喧嘩はどうでもいいとして……チームに華があるっていいよね」

 

「……お前は女なら誰でもいいのか、ヴェルグ?」

 

「いや、そういうわけじゃないけど……小さな子でも女なら華があるって言えるんじゃない?」

 

「そうなのか?」

 

「知らん……というか、俺に聞くな」

 

喧嘩を収めて懐かれているクローズと、今だ落ち込んでいるグリスを見つつ、三人はそう小声で話し合っていた。

そして、そんな緊張感の欠片もない空気が続いて早数時間、時計は作戦時刻となる夜十時へと迫っていた。

それにティルオスは全員を招集し、作戦前ということで作戦の確認を行う。

 

「今回の任は、スヴァフルラーメ様と同じ『断罪者』であるホグニ様の脱出の手引きだ。 つまり、あくまで私たちのすることはそれまでの時間稼ぎ、ということになる」

 

「でもさ、誰も殺しちゃいけないってことはないんでしょ?」

 

「まあ、歯向かう者がいるなら構わないが、出来るだけ殺しは控えるべきだ」

 

「なんでだ? 別に脱出の手引きだけなら、誰が死のうと構わねえだろ」

 

「確かにな……だが、下手に殺しを行って騒ぎを起こすと、彼女が出てくる可能性が高くなる。 それだけは、なんとしても避けたい」

 

「まあ、そうだな……それには俺も賛成だ」

 

「ふむ、なら俺もそれに賛成しとこう。 こいつに人殺しなんて、これ以上させたかねえからな」

 

クローズは賛成の意を出しつつ、少女の頭をポンポンと叩く。

すると少女は嬉しそうに笑みを浮かべ、ぎゅっとクローズの腰に強く抱きつく。

そんな光景を見て一同は心を一つにして親ばかと思いつつ話し合い、殺しは最低限控えるという方針で決まった。

そして、作戦時刻の十時を針が差すと同時に、五人の話し合いは終わり、各々の得物を手に握る。

 

「では、行くぞ……」

 

「ああ……全ては」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「我らが崇めし、神の名の下に……」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!2〜永久に語り継がれし戦士たち〜

 

【第二部】第六話 神の裁きを代行する者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは突然だった。

夕食の時間も過ぎ、誰もが部屋に戻るなり冒険に出るなりする頃である時間。

そんな時間にセリナとアーティは突如、学園の外側から六つの強い魔力反応を感知した。

感知した魔力が学園に迫っているのを読み取り、ただ事ではないという予感を感じ、二手に分かれて学園長と講師+αたちを招集した。

セリナとアーティの複数の魔力反応感知という言葉に学園長も講師+αたちも、全員驚きと二人と同様の予感を抱きつつ会議室へと集まった。

そこで挙げられた提案は、魔力の反応はもう間近に迫っているため、すぐに生徒を非難させて正面門の橋を上げるべきだ、ということだった。

そして、その提案が上げられるや否や講師たちは橋を上げる班と生徒を避難させる班に分かれて動き出そうとする。

しかし、講師たちが動き出すよりも早く、凄まじいほどの轟音が中庭方面から響き渡った。

その轟音が示すのは、何者かが橋を渡って正面門の扉を破壊し、学園の中へと進入してしまったということ。

こうなると、橋を上げるなどということはもう意味を成さず、生徒の避難と侵入者の迎撃という二つの班に分かれ、即座に動き出した。

 

「たくっ……俺がいるこの学園に攻め入ろうなど、命知らずな奴もいたもんだ」

 

「ほんとに自信家ですね……恭也さんとは大違い」

 

「当たり前だ。 俺とあいつは、もうすでに別々の存在だからな」

 

迎撃班として選ばれた人物は、裂夜、ミラ、フィリスの三人のみ。

他の面々は避難を知らせる放送を流す者、避難の手引きをする者という二つに分かれて行動している。

避難が完了しさえすれば他の面々も迎撃には向かうが、今の優先事項は生徒の避難であるため迎撃には最低限の人数しか裂けない。

そのため、避難が完了するまではこの三人で非難の時間を保たせるしかないのだ。

 

「確か侵入者は六人、だったわよね? 一体、何が目的なのかしら?」

 

「さあな……賢者の石もすでにこの学園は存在しないし、重要視されるといえば魔女の血ぐらいだが」

 

「それなら、こんなに表立ってというのは不自然ですね……別働隊の可能性というのも、考えておいたほうがいいでしょうか?」

 

「そのほうがいいだろうな。 まあ、どこぞの部屋に避難をさせてしまえば部屋前に護衛者が必ずつくだろうし、あまり深く考える必要はないと思うがな」

 

会話をしつつも、三人の歩調は速さを失うことなく廊下を駆けていく。

途中、避難放送が響き渡り、何人かの生徒が避難場所として指定された場所へと駆けていくのを眼にしながら。

駆けていく生徒の表情は、どれもが突然の避難放送に動揺し、何が起こったのかと恐怖を抱いている者さえいた。

 

「……状況が少し違うとはいえ、これではあの時と同じだな」

 

「ええ……」

 

十数年前に起こった事件、今の現状はそれと似通ったところが多々あった。

突然の侵入者、恐怖する生徒たち、どれもが……どれもがとても似通っていた。

あのときは多少の被害でなんとかなった、しかし今回も同じくなんとかなるとは限らない。

 

「でも、護らなければいけません。 私たちの、皆の……学園を」

 

「ああ……わかってるさ」

 

裂夜とフィリスはそう言い合い、ミラも同意するように頷く。

そして三人は、侵入者がいるであろう中庭方面へと、歩調を速めて走り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁ……いつ見ても、おめえのその力はおもしれえな。 一体どうやってんだ?」

 

「……説明したところで、使えはしませんよ? こればっかりは生まれ持っての物ですから」

 

学園の正面門の入り口を破壊し、内部へと進行しながら尋ねてきたクローズにティルオスはそう返す。

返された返答に、クローズは少し面白くなさそうな表情を浮かべるが、すぐにまた興味深そうな目で学園内を見渡す。

 

「ほ〜う、侵入阻害結界か……しかもやたら広範囲だな」

 

「ええ、学園全体を包み込むほどの結界……これは、相当な力を持つ魔術師がいますね」

 

「ま、俺たちにゃ意味ねえけどな」

 

学園全体に張られた結界、それは侵入者を感知して妨害する阻害結界だ。

しかし、それもこの六人には意味を成さず、六人はこうして結界を抜けて内部へと侵入したのだ。

 

「さて……私はホグニ様の出迎えに向かうとする。 時間稼ぎのほう、頼んだぞ」

 

「歯向かってきた奴は、殺してもいいんだろ?」

 

「まあ、歯向かってきたらな。 逃げようとする者、敵意がない者に関しては絶対に手を出すなよ?」

 

「へいへい」

 

おざなり気味に返事をするグリスに、ティルオスは小さく溜め息をつきつつ駆け出していった。

そして、駆け出したティルオスが見えなくなった後、グリスはやれやれというように小さく息をつく。

 

「ティルオスも甘いねぇ。 アルナ・ベルツに所属してるくせに、殺しが嫌だなんてよ」

 

「だねぇ。 この組織に所属しているんだから、殺しなんて日常茶飯事って割り切らなきゃ」

 

「ま、無駄な殺しはしたくないって言うのなら、俺も同感だがな」

 

口々に去っていったティルオスに対してそう言い、各自得物を手に握って歩を進める。

ティルオスにはああ言ったが、正直グリスもヴェルグも、従う気などさらさらなかった。

それは、殺しこそ最高の快楽という悪趣味な考えを持っているからこそ、この二人はそれに従えないのだ。

そして、残ったクローズとフェリスタも、別に殺しが好きだというわけではないが、別段止めたりもしなかった。

 

「さ〜て、久しぶりの人狩だ……じっくりたっぷり楽しまねえとな、ヴェルグ」

 

「もっちろん♪ あ、女は僕に譲ってよね。 魔法で切り刻んだときの、あの顔が病みつきになるんだよねぇ」

 

「わかったわかった……て、ちょっと待てよ。 確か、ここは女のほうが明らかに比率が高いんじゃなかったか?」

 

「まま、細かいことは気にしない気にしない♪」

 

「ん〜……まあ、いいか」

 

釈然としないもののグリスは納得し、揃って学園内へと進入しようと歩き出す。

しかし、二、三歩歩いたところで、場の空気が突如変わり、五人も前方にバシュッという音と共に複数の影が現れる。

朱色の目、黒塗りの剣、人の影といえる姿、前方に現れたそれらのその姿に、少女の抜かした四人は見覚えがあった。

 

「ありゃ、ゲシュペンストじゃねえか……また珍しいものを保持してんなぁ、ここは」

 

「だが、所詮は紛い物だろ。 本物と比べると、比較にもなりゃしねえさ」

 

「ついでに言っちゃえば、僕たちにとって脅威にもならないね」

 

口々に言いつつ、四人は各自の得物を構える。

得物を構えた四人の闘気を感じ取ったのか、ゲシュペンストは各々剣を構えて駆け出す。

数にして十五体、しかし四人は特に危機感を持った風もなく、構えた得物を握り、迎え撃つために駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲシュペンスト対代行者たちの戦いを、学園の屋上から見続ける者がいた。

それはゲシュペンストを放った張本人である、ヘルだった。

ヘルが屋上から眺めるその戦いは、正直勝負にもなっていないという様子だった。

所持していた魔眼より生成したばかりのゲシュペンストは、生まれたばかり故になんの学習もしていない状態。

その状態でも普通の人間くらいなら問題ないのだが、相手は仮にも教団の代行者。

実力的に言えば学園の講師と同等かそれ以上の力を持つ彼らに、生まれたばかりのゲシュペンストなど本当に赤子同然だった。

 

『……いいんですか、マスター?』

 

「……」

 

『如何にゲシュペンストと言えど、彼らには敵いません。 正直、全滅するのは時間の問題ですよ?』

 

「……」

 

ランドグリスが声を掛けるがヘルは何も返さず、ただゲシュペンストがやられていくのを見ているだけ。

それにランドグリスはヘルの心境に対する事情を聞いてはいるものの、苛立ちを隠せない。

こんなのはマスターじゃない、いつものマスターならこんな無駄だとわかっていることをしたりはしない。

苛立ちを共にそう考えるが、直接言葉にすることはできず、少しだけ遠まわしな言い方で言葉を紡ぐ。

 

『このまま、見捨てるんですか? 学園が落とされるのを、マスターを助けてくれた人たちを……』

 

「……」

 

少しだけ煽るような言い回しで言うが、ヘルが答えることはなかった。

それが更に、ランドグリスを苛立たせるが、怒りに任せて言ったところで意味はない。

こればかりは、ヘル自身がどうにかする以外には方法がないのだ。

 

「……」

 

ヘル自身も、この迷いをどうにかしたいとは思っていた。

しかし過去の罪が重いだけ、割り切ることもそう簡単なことではない。

いや、どちらかといえば、ヘルは割り切ることよりも彼らの前に姿を現すこと自体を怖がっているのだ。

大好きだからこそ、再び姿を出して嫌われ拒絶されるかもしれないことが怖い。

大切だと思っているからこそ、いらない子だというような視線を向けられるかもしれないことが怖い。

普段はおちゃらけた雰囲気を纏っていても、内面はとても臆病……それが、ヘルの本来の姿なのだ。

 

「……っ」

 

『マスター?』

 

口を開くことなく、ずっとゲシュペンストが倒されていく様を見ていたヘル。

だが、そのヘルの表情が突然驚愕に染まり、そしてすぐに屋上の塀に隠れるように背を向けてしゃがみ込んでしまう。

一体どうしたというのか……そう思ったと同時に、ランドグリスはヘルが小刻みに震えていることに気づいた。

まるで怖いものでも見た子供のように膝を抱えて、顔を隠すように膝に埋めて震え続ける。

 

「……なんで……なんで、来るのよぉ」

 

震えながら呟かれる言葉、普通に聞けば何のことかわからない言葉。

しかし、ヘルの様子と照らし合わせることで、ランドグリスには言葉の意味が予想できた。

おそらくはヘルが今、もっとも会いたくないとされる人物が姿を現したのだ。

でなければ、先ほどまでの様子からこうなってしまう説明がつかない。

 

『(やはり、マスターにはまだ無理なんじゃないですか、姉さま)』

 

『(かも、しれないわね。 でもね、ランドグリス……辛くても、ヘルはこれを乗り切らなければならないわ)』

 

『(でも……私は、マスターのこんな姿は見たくありません。 辛いのなら、今強要しなくてもいいんじゃないですか?)』

 

『(駄目なのよ……ここで逃げて、もし彼らがこの事態を乗り切ったとしても、それは問題の先延ばしにしかならないわ。 問題を先延ばしにして、迷いを抱いたまま戦う……これが何を意味するか、賢いあなたならわかるでしょう?)』

 

『(わかります……わかります、けど)』

 

『(あなたが辛いように、私だってヘルのこんな姿を見るのは辛いわ。 でも、迷いが滅ぼすのは、何も自分だけじゃない。 それを理解して、迷いを断ち切らない限り……ヘルにも彼らにも、未来はないのよ)』

 

『(……)』

 

『(今は、祈りましょう。 ヘルが自らの力で、迷いを断ち切れるように)』

 

自分の姉がそう言うのを聞き、ランドグリスは自分の主に意識を向ける。

前までの様子など見る影もないほどに怯えきった姿、大きく見えたはずの主が小さく見えてしまう、そんな姿。

それを見るのはヘルの相方として辛いけど、姉の言うとおり、これを解決できるのはあくまでヘル自身だけ。

だから、それ以上は何も言葉を発することなく……ただ、ヘルが自らの迷いを断ち切ってくれるのを、祈り続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

侵入者迎撃のために駆けつけた三人は、学園正面門前に広がる光景に驚愕した。

その光景とは、侵入者と思わしき四人とゲシュペンストが交戦しているという光景。

 

「な、なんでゲシュペンストが……」

 

「知らん……それよりも、俺はゲシュペンストが侵入者と戦ってるほうが驚きだぞ」

 

信じられないことではあるが、ゲシュペンストの様子を見る限りではまるで学園を護っているように見える。

十数年前の事件では学園に恐怖と災いを齎したあの化け物が、学園を護るべく侵入者と戦う。

その事件に関わった者ならば、信じられないのは当然のことだった。

 

「ああもう、弱いくせに数が多くてめんどくさいよ、こいつら」

 

「だったら、魔法で纏めて始末しちまえばいいだろっと!」

 

「ん、じゃあそうする♪」

 

「へ?」

 

フェリスタの言葉を真に受けたヴェルグは、にこやかに返事をして手元の本を開く。

それに提案したフェリスタ自身も、他の者も慌てて止めようとするが、時すでに遅し。

開いた本に書かれているであろう文字を読み始めたヴェルグは魔力の粒子を放ち始め、すでの止めることはできなくなっていた。

 

古の風が運びしもの……其れは天の腐敗と大地の災厄なり。 彼方より来たりて命を狩り、此方へと去りて魂運ぶ。 呪われし詩に誘われて、蒼天の風は悪しきものとなり、冥界の大地より吹き荒れる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

禁呪・風 呪われし英知の宝剣(バルムンク)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬわっ! この馬鹿がっ!」

 

暴風と共に顕現する無数の鎌鼬に、その場にいる誰もが例外なく慌て、回避行動を取る。

禁呪と呼ばれる風の魔法、『呪われし英知の宝剣(バルムンク)』は名の通り、悪しきに染まった風の刃で敵味方関係なく切り刻む。

あまりに禁呪と呼ばれるだけあって、威力は折り紙つきな上に、巻き起こる鎌鼬の数は数え切れないほど。

さすがに同じ代行者といえど、無傷で避けきることはできず、所々に切り傷を作ってしまっていた。

 

「くっ!」

 

「きゃあっ!」

 

魔法の発動と同時にその場にいた裂夜もミラとフィリスを両脇に抱えて回避行動を取る。

しかし、やはりというか裂夜でもすべて避けることはできず、両脇に抱える二人を庇うことで精一杯だった。

 

「オォォォォ……」

 

そして避け続ける者たちとは違い、回避行動を取るという知能まではまだ学習していないゲシュペンストたちは身を切り刻まれていく。

体のみを切り刻まれるのならばゲシュペンストはほぼ無傷、しかし鎌鼬は体だけでなく、核たる朱色の瞳も区別なく切り刻む。

結果、暴風と鎌鼬が止んだときには、ゲシュペンストたちはすべて核を破壊されて消え去っていた。

 

「くっ……こんの、アホたれがぁぁ!!」

 

「うわっ、なんて酷いこと言うかな。 せっかくめんどくさい相手を纏めて始末してあげたのに」

 

「だからって、やり方にも限度ってもんあるっつうんだっ! こいつが怪我でもしたらどうすんだ!!」

 

「あ、そこまで考えてなかった。 あ〜、うん、でも結果として無事だったんだから、万事オッケーってことで♪」

 

先ほどの魔法に対して抗議してくる三人に、ヴェルグはまあいいじゃん的なノリで流そうとする。

結果として無事だったには無事だったのだが、無傷とはいかなかったため、三人はそのノリに青筋を浮かべる。

まあ、その中でクローズのみは、自分に出来た傷よりも少女が危険な目にあったということに怒りを覚えているが。

 

「くっ……」

 

「だ、大丈夫ですか、裂夜さん!?」

 

それとは反対に、ミラとフィリスを庇って傷を多数負った裂夜は痛みに膝をついていた。

それに抱えられた状態から解放された二人は、慌てて裂夜に対し治癒魔法を掛ける。

 

「あなた、馬鹿じゃないの。 別に庇って傷を負わなくても、障壁でどうにかなったのに」

 

「お前な……こういうときくらい、素直にお礼の一つくらい言えんのか」

 

軽口を叩きながらも、治癒を行いながら互いに笑みを浮かべる。

二人の治癒魔法によって傷は徐々に塞がっていくが、すべてを癒すには時間がなかった。

なぜなら、先ほどまで三人の目先で言い合いをしていた者たちが、裂夜たちに気づいてしまったのだ。

 

「あれれ、いつの間か人が来てるねぇ。 魔法の行使に気を取られて全然気づかなかったよ」

 

「それどうかと思うぞ……まあ、俺も気づかなかったわけだけどな。 どこぞの馬鹿のせいで」

 

「あ〜、僕のせいにする気ぃ?」

 

「する気も何も、てめえが禁呪なんか不用意に使うからだろうがっ!」

 

再び口論を始めそうな雰囲気を出すが、すぐにその雰囲気は取り払われる。

その言い合いも所詮は本気ではなく、今最優先にすべきことをちゃんと理解しているが故だろう。

 

「さてさて、ちょっと予定は狂っちゃったけど……」

 

「人狩り……始めますかねぇ」

 

ニヤリと笑いながら、グリスは得物である三叉の槍を構え、ヴェルグは再び本を開く。

それにフェリスタはしょうがねえなと呟いて柄の長い戦斧を低く構え、クローズは少女を下がらせて短剣を構える。

戦闘態勢ばっちりと言ったその四人の様子に、治癒が不完全でありながらも裂夜は小太刀を一刀だけ抜き、構える。

そしてミラも、フィリスも裂夜の傷を心配しながらも、迎撃体勢を整え、相手を睨むように見据える。

 

「くくくっ……あちらもあちらで殺る気満々って感じだなぁ」

 

「しかもさ、今気づいたけど……あの中の二人って、『冥界の帰還者』じゃん」

 

「ほう、そりゃ楽しめそうだ」

 

各自の得物を構えた四人のうち、グリスとフェリスタが我先にとばかりに駆け出す。

自身へと得物を持ち向かってくる二人に、後方にいる者たちへと警戒も抱きながら、裂夜も同じく駆け出した。

こうして、十数年前の悪夢の再来とも言える戦いの火蓋は幕を開けることになるのだった。

 

 


あとがき

 

 

ふと思ったけど、浩さんが言ったランドグリスBという呼び名なんだが。

【咲】 それがどうしたのよ?

いやね、偶然かもしれないけど、かなりいいとこ突いてるな〜って思った。

【葉那】 なんで〜?

ふむ、ランドグリスとは違うあの声の正体のイニシャルがBだからだよ。

【咲】 呼び名としては安直だけど、知らないという前提で考えれば鋭いってことになるわね。

そゆこと。 いや〜、さすが浩さんですな。

【咲】 これも美姫さんの教育の賜物ね。

いや、教育ってあ〜た……。

【葉那】 ま、それはともかく〜、とうとう学園対教団の戦いが始まったね〜。

だな。 といっても、教団は断罪者クラスが出てないから、まだこの戦いは前哨戦でしかないけど。

【咲】 でも、代行者クラスでも十分な脅威じゃないの?

まあ、今の学園側にとってはかなりの脅威だろうね。

【葉那】 しかもさ、生徒の避難を最優先にしてるから、迎撃班が限りなく少ないしね。

その分、質があるけどな。

【咲】 裂夜やミラ、まあ恭也もだけど、強さ的にはどうなのよ?

さあね。 恭也も裂夜も強いっちゃ強いし、ミラも高位魔術師だから当然強い、としか今は言えんな。

【葉那】 つまり、強さは次回以降の戦いを見てねってこと?

そゆこと。

【咲】 そ。 じゃあ、次回予告のほう、いってみましょうか。

うぃ。 次回はだな……生徒の避難班の一人である恭也が、とある人物と交戦します。

そして、避難場に向かう途中だったリエルが、思わぬ人物と遭遇する……と、この二つかな。

【咲】 リエルはなんとなく予想つくけど、恭也が戦う相手って誰よ?

それは次回のお楽しみだ。 まあ、とりあえずヒントとして、断罪者クラス、とだけ言っておこう。

【葉那】 それってめっちゃ最悪な相手だよね……て、あれ? 断罪者クラスはこの戦いに関与してないんじゃなかったっけ?

断罪者っつっても、本部にいるやつだけとは限らんだろ?

【咲】 ふ〜ん……ま、いいわ。 じゃ、今回はこの辺でね♪

【葉那】 また次回も見てね〜♪

では〜ノシ




ほうほう、みろ美姫。どうやら、あの名称はいい所をついているみたいだぞ。
美姫 「偶然って怖いわね〜。ううん、寧ろその偶然を引き寄せちゃう私は女神?」
えっと〜。寝言はさておき、いよいよ戦いの火蓋が……ぶえらっ!
美姫 「寝言をほざいた奴は夢の中をさ迷わせ、いよいよ火蓋が切って落とされたわね」
……ど、どうなるんだろうか。
恭也の前に現れるのは、誰だ。
美姫 「うーん、やっぱり魔剣の?」
どうだろう。緊迫したシーンで、次回へ!
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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