ある日の午後、職員室の中で恭也とミラは言い合いをしていた。

といってもほぼ一方的に言うミラに恭也がたじたじになりながらも反論する、といったほうが正しい。

そしてこの二人が言い合いをしているからといって別に喧嘩をしているわけではない。

なら何で言い合いをしているのかというと……

 

「だからな……蓮也と綾菜も着実に腕を上げている現状だと深夜の冒険をさせたほうが今よりも確実に強くなれると思うんだが」

 

「だからって二人が大怪我でもしたらどうする気なの!? 強くなるためだからってあの子たちが危険な目に合うのは絶対に駄目よ!」

 

「いや、しかし……」

 

「しかしもかかしもないわよ! いい? 本来なら夜の鍛錬だって私は反対なのに、蓮也と綾菜がどうしてもって言うから了承してるのよ? なのに、それに加えて二人を冒険に出させるなんて……」

 

朝の鍛錬に関しては早起きも出来るということで言うことはないのだが、夜に関してはミラは断固として拒否をしていた。

朝の鍛錬に比べると夜の鍛錬は遅い時間までやるために寝るのが遅くなってしまう。

まだまだ子供の二人には健康のために早寝早起きをさせたいというのが親としてのミラの心情であったため拒否をしていたのだ。

故に、自身の子供はもちろんミラにもかなり甘い恭也はそれこそどうしたものかとかなり困っていたのだが、そんな恭也を助けたのが他でもない蓮也と綾菜だった。

曰く、もっと自分は鍛錬して強くなりたい、強くなって父さんや母さんを守れるようになりたい、と二人は真剣な目でミラにお願いした。

恭也以上に子に甘い、というか過保護という感じがあるミラは二人にそんな目でそんな理由を提示されて頼まれれば頷くしかなかった。

そのため夜の鍛錬に関しては了承したのだが、二人が冒険をして魔物を相手にするというのは断固として反対らしい。

 

「だがな、ミラ……」

 

「駄目なものは駄目! こればっかりはどんな理由があっても二人が頼んできても絶対に駄目よ!」

 

「むぅ……」

 

「もし黙って冒険に出そうとかしたら、しばらく口利いてあげないから!」

 

釘を刺すように最後に言ったミラの言葉に恭也は顔を顰める。

そんな恭也からプイッと顔を逸らしてミラは職員室を出て行き、恭也はどうしたものかと思いながら力なく椅子に腰掛ける。

ちなみに、職員室には恭也とミラ以外に数名おり、その数名はかなり珍しい二人の言い合いを興味深そうに見ていたということを追記しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!2〜永久に語り継がれし戦士たち〜

 

第十三話 技と意思を受け継ぐ兄妹

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カールの体調が優れないため、最近はカール抜きで冒険に出ているレイナたち。

そんな一同はカールの体調を心配しながらも地下水路へと行くために倉庫を目指す。

 

「カールさん……ほんとに大丈夫かなぁ?」

 

「大丈夫だと思うわよ? 昼間の講義のときも結構元気っぽく見えたから」

 

「そうですね。 私も昼間会いましたけど、そこまで心配するほど体調が悪そうにも見えませんでした」

 

「じゃあなんで冒険休んでるのかな?」

 

「さあ? 念には念を入れてってことじゃないかしら」

 

レイナは少し首を傾げながらそう言うと静穂は、う〜ん、と悩むような声を小さく上げる。

まあカールがどんなことをしているのかは本人が言ってない以上悩んでも分かりようがないことではある。

だが、やはりなんでだろうと心配にはなってしまうためこうして悩んでいるのだ。

しかし結局のところ疑問は解けることなく一同は歩みを進めていき、倉庫のあるテラスへと差し掛かる。

 

「あ……」

 

テラスに差し掛かって数歩歩いたところで視線の先に見えた人物たちにレイナが声を漏らす。

突然歩みを止めて声を漏らしたレイナにどうしたのかと思った一同はレイナの視線の先に目を向けて少しだけ驚きを浮かべる。

本来ならばこの時間に冒険をしているのは自分たちだけではないので自分たち以外の人がいてもおかしくはないし驚くことでもない。

だが、レイナたちの見つけた人物たちは生徒ではなく一人が講師なのでそれには当てはまらず、ならば見回りではないかという点が浮かぶ。

それならば別段おかしいことではないが、しかしそれはあくまでその人物一人ならばの話であるためそれは消える。

つまるところその人物たちがここで見かけることが少し不思議だったために一同は驚きを浮かべたということだ。

 

「ん?」

 

そんなわけで一同が驚きを浮かべてその人物たちを視線を向けていると、その人物たちも一同に気づいて近寄ってくる。

一同は少しだけ浮かべていた驚きを消して近寄ってきた人物たちに深夜の挨拶をする。

 

「「「「こんばんは、恭也先生(恭兄)」」」」

 

「ああ、こんばんは」

 

「蓮也くんと綾菜ちゃんもこんばんは〜」

 

「「こんばんは」」

 

その人物、恭也に挨拶をした後で静穂はその斜め後ろにいる二人、蓮也と綾菜に同じく挨拶をする。

それに二人が静穂の挨拶に小さくお辞儀をして挨拶を返す辺り礼儀正しさというものが窺える。

 

「あの、恭也先生……」

 

「ん、なんだ?」

 

「後ろの子たちは……誰なんでしょうか?」

 

リィナは蓮也と綾菜に会ったことがないためか恭也にそう尋ねる。

レイナや静穂、そしてリゼッタは二人のことは知っているが、最近入ったばかりのリィナが知らないのは無理のないことだった。

そしてそれは恭也もそう思っているため、少しだけ二人を前に歩ませて自己紹介をするように言う。

 

「えっと……初めまして、高町蓮也です」

 

「高町綾菜……です」

 

「あ、初めまして……リィナ・クライトンです。 ……高町?」

 

二人につられて自身も自己紹介をした後、リィナは二人の名乗った姓に首を傾げ恭也を見る。

それに恭也は少しだけ苦笑しながら先ほどのリィナの疑問に対しての答えを口にする。

 

「姓で分かると思うが、二人は俺の息子と娘だ」

 

「そ、そうだったんですか……」

 

恭也の口にした答えにリィナは例に漏れずに若干の驚きを浮かべる。

まあカールやレイナなどは声を出して驚いたのを考えるとまだマシなほうだと言えるだろう。

 

「にしても、皆は今日も冒険か……熱心だな」

 

「あはは、そんなことないよ〜。 それで、恭兄たちは今日も鍛錬?」

 

「ああ。 といっても俺はこれから残業があるからもう終わって帰るところなんだがな」

 

「そうなんだ〜。 あれ? でも、まだ十時なのに終わるの早すぎない?」

 

「そうなんだがな……さすがにこれ以上続けると仕事が終わりそうにないんだ」

 

「なるほど〜……って、ならこないだみたいに二人だけで鍛錬させたらいいんじゃないの?」

 

「いや、それはこの間ミラに怒られた上に禁止されたからな。 また同じ事をしたら深夜の鍛錬を禁止されかねん」

 

この間、恭也が残業のために蓮也と綾菜を二人だけで鍛錬をさせたのだが、そのことを知らなかったミラに恭也はかなり怒られた。

蓮也や綾菜の頼みというのもミラが了承した理由だが、恭也がついているのだから安心というのがミラが了承した一番の理由なのだ。

故にそれを無視したこの間のことに関してをミラが知った後、恭也は部屋で正座させられて一時間ばかり説教を受けた。

まあ少し過保護な気もするがそれはミラがどれほど二人を大事に思っているのかということが良くわかる。

 

「あ、あはは……そうなんだ」

 

「ああ。 だが、まだ十時だというのに鍛錬を終えねばならないというのも本来ならばいかんのだが……どうしたものか」

 

「う〜ん……じゃあいっそのことばれないように二人だけで鍛錬させたらどうかな?」

 

「いや、それは……ん、待てよ? ふむ……」

 

静穂の言葉から何かを考えるように恭也は顎に手を当てる。

そして考えが纏まったのか手を退けてレイナたちにその提案を告げる。

 

「君たちがよければなんだが……二人を冒険に参加させてやってくれないか?」

 

「「「「「「え?」」」」」」

 

恭也の提案に蓮也と綾菜を含む皆は驚きを浮かべて声を漏らす。

まあ実際このような年齢の子を危険が伴う冒険に参加させようとする親は普通いないのだから驚くのも無理はない。

 

「でも、父さん……」

 

「お母さんが……怒ると思う」

 

「ふむ……確かに怒るかもしれんが、お前たちには実戦鍛錬もさせたほうがいいのも事実だ。 それにお前たちだけならまだしも、この人たちと一緒ならそれほど危険が伴うということもないだろう」

 

恭也がそう説明すると蓮也はレイナたちを見て納得したように頷く。

だが綾菜は目を潤ませてまで恭也に無言のまま嫌だという意思を訴える。

恭也がいるから今も人見知りの一面を出してこそいないが、恭也がいない状況で馴れない人たちと一緒に行動するのは綾菜にとって嫌以外のなにものでもない。

だがそんな綾菜の人見知りを知っている上で、恭也は涙目で訴えてくる綾菜の前にしゃがんで頭を優しく撫でながら口を開く。

 

「綾菜……お前が人見知りするのはわかるが、こうしないと実戦鍛錬ができないんだ。 綾菜や蓮也が前に言ったように誰かを守れるほど強くなりたいのなら、尚更これはやっておかないといけない」

 

「でも……」

 

「強くなりたいんだろ? お父さんやお母さんを守れるくらい、強く」

 

「うん……」

 

なら頑張れ、そう言うように恭也は優しく綾菜を抱きしめて背中をポンポンと叩く。

そして綾菜から体を離して立ち上がり再度レイナたちを見てもう一度お願いを口にする。

 

「先ほども言ったが、君たちがよければ二人を冒険のメンバーに混ぜてやってくれ。 決して足手まといにはならないと思う」

 

「う〜ん、僕はいいよ〜。 蓮也くんと綾菜ちゃんの実力はよく知ってるし」

 

「私もいいですよ」

 

静穂とレイナがどう言い、リィナとリゼッタも賛成というように頷く。

それに恭也は微笑みを浮かべながら小さくお礼を口にすると、皆は一様に頬を赤く染める。

恭也の笑みの破壊力は年をとっても健在ということがそこでとてもよく伺えた。

ともあれ、こうしてレイナたちに新たな仲間として蓮也と綾菜が加わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残業があるということで恭也と別れた後、一同は当初の目的である地下水路へとやってきた。

その間、蓮也は静穂やらレイナやらとちょこちょこ話をしてはいたが、綾菜に至っては蓮也の後ろに隠れるように無言で歩いていた。

綾菜に対してレイナやリゼッタが話を振ってもまるで返さずに後ろに顔を隠すだけで、良くてもまだ馴れている静穂の言葉に短く返すだけ。

そんな綾菜の態度に蓮也は申し訳なさそうな顔で何度か謝罪をするが、レイナたちは気にしてないと言って笑みを浮かべる。

しかし、だからと言ってずっとこのままというわけにもいかず、どうしたものかと一同が悩んでしまうのもまた事実。

だが悩んだところでこれと言った方法は浮かばず、馴れるまで根気良く話しかけるしかないかと言う結論に至る。

 

「そういえば、蓮也さんと綾菜さんの武器は腰にある刀ですか?」

 

「はい、確かにこれが俺たちの扱う武器です。 あ、それと俺のことは蓮也でいいですよ。 皆さんのほうが俺よりも大分年上ですし」

 

「あ、じゃあ私はそうさせてもらうね」

 

「あ〜、僕は前からこれが定着してるからこのままでいいかな」

 

「私もですね。 どうも、呼び捨てというのは慣れなくて」

 

「私も……蓮也くんと綾菜さんと呼ばせていただきます」

 

口々にそう言うレイナたちに蓮也は、わかりました、と小さく頷く。

 

「刀が武器……ということは魔法は扱ったりしないんですか?」

 

「えっと、綾菜は使うんですけど、俺はあまり魔法が得意ではないので……」

 

「あまり得意じゃないってことは最低限の魔法は使えたりするの?」

 

「まあ、一応は。 母さんが黒魔法の講師をしてますから一通りの黒魔法は教わってます」

 

「そうなんだ……いいな、魔法が使えて」

 

「レイナさんは使えないんですか?」

 

「うん。 なんでも生まれながらに魔法の適正がないみたいで……その代わり別の力があるみたいだけどね」

 

「なんですか?」

 

「モンスターを自在に操る能力……まあ簡単に言えばモンスターテイマーの力かな」

 

「それって、滅多にない能力ですよね? そんな能力があるなんて、すごいじゃないですか!」

 

モンスターテイマーの資質は滅多に見られることはなく、能力的にもハンターとしてとても重宝されるものだ。

故にそんな能力がレイナにあることを知って蓮也は若干興奮気味でそう言い、レイナは照れたように、ありがと、と返す。

そして、蓮也の事に関しては粗方聞いたため次は綾菜について聞こうと綾菜のほうを向いて口を開く。

 

「綾菜はどんな魔法が使えたりするのかな?」

 

「……」

 

「ほら、綾菜。 レイナさんが聞いてるんだからちゃんと答えないと」

 

「っ……」

 

質問に答えず後ろに隠れている綾菜を蓮也は前に出そうとするとぎゅっと蓮也の服を掴んで首を横に振る。

それに蓮也はさすがに失礼だろうと判断し、少し怒鳴るような声量で口を開く。

 

「綾菜! 皆さんに失礼だろ!」

 

「っ……っ……」

 

その怒鳴りに綾菜は体を震わせて涙目を浮かべながらも今だ嫌だと服を掴む。

もう言葉で言っても無駄だと蓮也はそれで判断し、綾菜を無理矢理引っぺがして前に出そうとする。

が、それをレイナたちは気にしてないからと笑みを浮かべつつ静止する。

 

「綾菜さんが嫌がってるんですから、無理に言葉を返させることはないですよ」

 

「でも……」

 

「まだ初日なんだから、これから慣れていけばいいんだよ。 だから今はそのままでいいから」

 

「わかりました……でも、不快に思ったのなら言ってくださいね?」

 

「あはは、この程度で不快に思うなんてことないよ」

 

そう言って笑みを浮かべる静穂に蓮也もつられて笑みを浮かべる。

と、そんな会話をしつつ地下水路を進んでいたレイナたちは歩く先の方で魔物の気配を察知する。

それにレイナたちは各々の武器を取り出して魔物の群れと遭遇すると同時に攻撃を仕掛ける。

 

「はっ!」

 

魔物の群れの戦闘にいる一体に接近したレイナは拳、蹴りと連撃を放って吹き飛ばす。

それに他の魔物たちが怒りを露にして一気にレイナへと襲い掛かるが、そのうちの二体はリゼッタの放った矢を心臓部に受けて絶命する。

そして残りの二体の攻撃をレイナは紙一重で避け、避けられたことで体勢を崩した魔物を静穂の長刀とリィナのレイピアが切り裂く。

 

「ふぅ……」

 

「す、すごいですね、皆さん」

 

「それほどでもないよ〜。 ここら辺の魔物はそこまで強くもないしね」

 

魔物の群れを一気に片付けたレイナたちに蓮也は賞賛の言葉を言い、照れたように静穂がそう返す。

実際のところ地下水路の魔物となるとそれなりの力を持った魔物がほとんどなのだが、それを容易く片付けてしまうレイナたちは蓮也のいうとおり確かに凄いと言える。

そして静穂に限らず皆も若干の照れを見せながら武器を収めようとした矢先、蓮也は急に表情を変えて駆け出す。

その蓮也の急な変化と駆け出しに皆は驚きを浮かべ、同時に自分たちの再度魔物の群れが襲い掛かってきていることに気づく。

自分たちよりいち早く魔物の接近に気づいた蓮也は駆け出すと共に小太刀の抜き放ち、攻撃を仕掛けようとする魔物の一体を切り裂く。

それに遅れながらもレイナたちも再度武器を構えて攻撃を仕掛けようとするがそれよりも早くもう一人の影が自分たちを通り越して魔物へと駆ける。

 

「っ!」

 

その影、綾菜は魔物の前まで来ると小太刀を抜刀して魔物を斬りつける。

その刃を受けて魔物が倒れたのを見ることもなく、綾菜は一体の魔物に対して突きの構えを取る。

そして構えを取る綾菜に迫り来る魔物を視線に捉えながら綾菜は小さく短く言葉を紡いで足元に魔法陣を展開する。

 

「刃に纏え、炎付与(エンチャントフレイム)

 

紡いだ言葉と同時に綾菜の構えた小太刀の刃へと炎が螺旋状に纏う。

そして炎が纏ったと同時に綾菜は駆け出し、魔物へとその技を繰り出す。

 

御神流・裏 奥義之参 射抜

 

それは恭也の義妹が得意とし、綾菜自身も得意とする御神の奥義。

その放たれた奥義は魔物の心臓部を正確に捉え貫き、そしてそこを中心に纏った炎が魔物の体を焼き払う。

魔物が炎に包まれるのを見て綾菜は小太刀を引き抜いて蓮也のほうに目を向ける。

すると蓮也のほうも魔物を討ち終えたのか綾菜と視線が合い、二人は同時に魔物に背を向けてレイナたちのところに戻る。

戦闘が終わり呆然していていたレイナたちは蓮也と綾菜が戻ってくるなり我に返って口を開く。

 

「す、すごいね……二人とも」

 

「そんなことないですよ。 父さんならもっとうまく倒すと思いますし」

 

「いえ、それでも凄いと思いますよ」

 

「えっと、ありがとうございます」

 

「でも一番驚いたのは綾菜の魔法かな……あの武器に火を纏うって確か、錬金術だったよね?」

 

「いえ、錬金術のあれはあんな風に纏ったりはしないので……ですから綾菜のあれは黒魔法の一種ですね」

 

「そうなんだ……あれ、そういえば綾菜は?」

 

「綾菜なら……ここに」

 

そう言って指差すのは自分の背中。

そこには戦闘が始まる前を同じように隠れる綾菜の姿があった。

そんな綾菜に蓮也はやはり申し訳なさそうな顔をするが、それとは反してレイナたちは苦笑を浮かべる。

それは先ほどの戦闘の様子と今の綾菜の様子とのギャップからの苦笑だった。

 

「……?」

 

自分を見るなり苦笑を浮かべるレイナたちに綾菜は隠れながらも首を傾げる。

そんなこんなで二人が入ってから初めての戦闘を終えたレイナたちはひとしきり笑い合うと再度地下水路を歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園とは離れたところに位置する場所、そこにひっそりと建つ教会。

その扉の横の壁に目を閉じて背を預ける一人の男の姿があった。

男は目を閉じたまま何をするでもなく、ただ腕を組んだまま何かを待っているように居続ける。

そしてしばらくして、その待っていた何かが来たのか目をゆっくりと開ける。

 

『お〜い! 聞こえるか〜!!』

 

『そんな大声を出さなくてもちゃんと聞こえてますよ。 それで、そちらはどうなりましたか?』

 

頭の中に響くように聞こえてくる声に男は口を開かずそう返す。

すると、声は少しだけ苛立ったような様子でそれに答える。

 

『失敗しちまった。 あいつらだけならどうにでもなったんだが……くそ、まさかあの二人がいるとは思わなかったぜ』

 

『あの二人……? 誰ですか、それは』

 

世界樹(レーラズ)の女、それともう一人はよくわからねえが……妙に強かったのは確かだ』

 

『あなたを退けるほどですから相当なんでしょうけど……妙ですね。 彼女はこの世界(ミッドガルド)に降りることはできないはずですが』

 

『じゃあ、なんであいつがいるんだよ。 おかげで賢者の石を奪い損ねたじゃねえか』

 

『わかりませんよ、私だって。 まあ何か私たちの予期せぬことが起こったことはわかりますが』

 

『まあともかく、あいつらがいる今の時点じゃ賢者の石を奪うのは無理に近いな』

 

『そうですか……なら、そちらの賢者の石は後回しにしましょう。 ですので、あなたはこちらに戻ってきてもらえますか?』

 

『ああ。 で、そっちはどうなんだよ?』

 

『順調ですよ。 あの施設に眠る賢者の石の場所も特定がつきましたし、今は『代行者』である彼が向かっています』

 

『あいつかよ。 大丈夫か? あんな野心だけの弱っちい奴で』

 

『弱いといっても普通の人間では歯が立たない強さは持ってますよ、彼は。 それに野心があるからこそ我々の思うように動いてくれるいい駒です』

 

『ははは、違いねえ。 よし、わかった。 じゃあ、こちらの賢者の石は後回しでそっちの戻るとする』

 

それ以降、それを最後に声は聞こえてくることはなかった。

声が聞こえなくなった後、男は背を預けていた壁から背を離して教会の扉の前に歩み寄る。

そして扉の取っ手に手を掛けて扉をゆっくりと開け放ち、中へと入っていく。

 

「さて、彼女はどういった行動に出るでしょうかね。 楽しみですよ……ふふふ」

 

そう呟き歪んだ笑みを浮かべながら、男は教会の中へと姿を消していくのだった。

 

 


あとがき

 

 

仲間になったのは蓮也と綾菜でした〜。

【咲】 意外性があんまりないわね。

【葉那】 だね〜。

いや、意外性を求められましても……。

【咲】 ここは恭也が仲間になるだとか裂夜が仲間になるだとかすればいいじゃない。

いやいや、冒険は一応鍛錬の一環なんだからさ。 恭也や裂夜が仲間になったら意味ないだろ。

【葉那】 そこをうまく考えるのが作者の仕事だよ〜。

無茶言うな!!

【咲】 にしても、最後のほうでなにやら気になる単語があるわね。

【葉那】 だね。

気になる単語? ああ、あれのことか。

【咲】 そこの辺どうなのよ? やっぱり彼女たち?

どうだろうね?

【葉那】 例によって秘密なわけだね〜。

そういうことだ。

【咲】 はぁ……まあいいけど。 あ、そういえばさ。

なんだ?

【咲】 教団のちゃんとした名前ってあるの?

一応あるな。

【葉那】 どんな名前?

これも秘密だ。 これを言ったら下手すると教団の姫と呼ばれる人物の素性がわかってしまう恐れがあるからな。

【咲】 つまり、彼女に関連する名前なわけね?

そういうことだ。

【葉那】 そうなんだ〜。 で、次回の話はどんなのなの?

次回はだな、またもや視点が変わって……ていうかほとんど交互なんだけど、カールのほうのお話だな。

【咲】 ああ、あっちのほうね。

そうそう。 あっちのほうでヴァルが過去改変をすると言ったが具体的に一体どんな方法を取るのか。 それを語る予定。

あ、ちなみにカールとヴァルが過去にて出会うというのもあるな。

【咲】 ふ〜ん……じゃ、今回はこの辺でね♪

【葉那】 予告として次回は実験コーナーを行いますとお伝えしま〜す♪

まだやんのかよ……まあいいけど。 じゃ、また次回会いましょう〜ノシ




蓮也と綾菜が仲間入り。
美姫 「ミラにばれたらどうなるのかしらね」
いや、本当に。
しかし、ミラがあそこまで過保護になるとはな。
美姫 「確かにちょっと過保護過ぎるような気もしないでもないけれど、夜の冒険は危ないからね」
やっぱり、もう少し成長してからじゃないと許可できないってか。
美姫 「まあ、こっそりと冒険したみたいだし、後はばれないように祈るだけって所でしょうね」
これ以降も、この二人は冒険に加わるのかな。
美姫 「どうなるのかしら」
次回も楽しみにしてます。
美姫 「待ってますね〜」



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