恭也からの助言を受けた後、カールはどこか曇りの晴れた表情でテラスを後にした。

信じてもらえなくても自分はリィナを信じ続ける、恭也の助言であるそれを自身の胸に刻みながら。

しかし、それでもまだ完全に曇りが晴れたわけではない。

信じ続けると決めた今、リィナがどうしてあんな風になってしまったのかと疑問を抱いたからだ。

それは今更な疑問でもあり、そして今まで何度も浮かべた疑問。

だがその疑問は、長い間リィナと離ればなれだったから、という理由で納得してしまい考えることをしなかった。

だから助言を受けた今になって、カールはリィナがあんな拒絶する態度を取るようになったのには何かわけがあるのではと考えるようになった。

そして考えに考えた末、自分たちと離ればなれになって再会するまでの間に何かがあった、という答えに行き着く。

しかし、行き着くがそれ以降はリィナ本人に聞きでもしない限りどうにもならない。

そのため、カールは拒絶される可能性は高いが本人に直接聞いてみるためにリィナを探して回っていた。

 

「う〜ん、でもどこにいるんだろ……」

 

探し回ってはいたが、再会した当初から避けられていたカールはリィナが行きそうな場所など知らない。

だから適当に探すしかなかったのだが、夕食の時間まで必死に探し回ってもリィナの姿を見つけることはできなかった。

そのためカールは今が夕食の時間であることから、食堂にいれば見つかるかな、と考え探し回るのをやめて食堂に向かった。

そして食堂に着いたカールは食事を取りに行く前に軽く食堂を見渡してリィナの姿がないかを探す。

 

「あ……」

 

すると、食堂の一角にてリィナの姿をカールは発見した。

見つけるや否やカールはリィナに近寄ろうとするが、その足は途中で止まることとなった。

なぜなら、足を止めたカールの視線の先にいるリィナは再会してからカールたちの前では見せたこともない笑みを浮かべていたからだ。

一体誰がその笑みを引き出していると思ったカールは今リィナと話している人物に目を移し驚きを浮かべる。

その人物とは、この学園で白魔法の講師をしているベルナルドだった。

 

(なんでベルナルド先生とリィナが……?)

 

正直、ベルナルドとリィナがそこまで接点があるようには思えなかった。

片や白魔法講師で片やこの学園の生徒なため、接点があるとすれば講義の時ぐらいしかない。

しかし他者との拒絶を取っているリィナにこの数日間であんな笑みを浮かべさせるまでに慕われることはまず無理だと言える。

ならば、なぜリィナはあそこまでベルナルドに慕っているのかという疑問は浮かんだ一つの考えで解けることとなる。

 

(学園以外の接点が……ある?)

 

あそこまで慕われるということは学園での接点以外でなく、必ずそれ以外の接点がある。

半ば確信に近いその考えを浮かべたカールはちょうど会話を終えて去っていったベルナルドと入れ替わりでリィナに近づく。

近づいてきたカールにリィナは先ほどまで浮かべていた笑みを消していつもの拒絶するような目で口を開く。

 

「何か?」

 

「あ、えっと、ずいぶんとベルナルド先生と親しいみたいだから……どういう関係なのかなって」

 

「あなたには関係ないはずですが……」

 

「か、関係なくは……」

 

ない、とは言えなかった。

言ったところでリィナは過去のことなど所詮は過去と言って否定する。

リィナからその一言が放たれ、リィナとの過去のすべてを否定されるのが怖くて、カールは言うことができなかった。

そしてそれ以上何も言うことができず口を噤んでしまい、二人の間に沈黙が流れる。

しばしの間沈黙が流れ、冷めた目をしていたリィナは何も言うことをせず立ち去ろうともしないで目の前に立っているカールに呆れたような目をする。

そして何を思ったのか、リィナは呆れた目のままカールの疑問に対する答えを口にした。

 

「ベルナルド先生は私の主治医です」

 

「え……」

 

「知りたかったんでしょう……私とベルナルド先生の関係が」

 

「そ、そうだけど……なんで」

 

「言わないとあなたはそこを退いてくれそうにありませんでしたから」

 

そう言われてカールは自分がリィナの食堂を出て行く際の進路上に立っていることに気づく。

そしてリィナが、もういいでしょうか、と言ったと同時にカールは慌てたように横に移動して道を空ける。

道を空けられたリィナはそれ以上カールに視線を向けることなく歩き去り、食堂を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!2〜永久に語り継がれし戦士たち〜

 

第十話 絆を繋ぐリボン 前編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リィナが食堂を去った後、若干時間が開いてやってきたレイナと共にカールは食事を取る。

そしてカールとレイナは食事を取りながら少しだけ深刻そうな顔でリィナのことについて話し合っていた。

 

「ベルナルド先生がリィナの主治医だったなんて……」

 

「でも、それならリィナがベルナルド先生を慕っているのも分かる気がするよ」

 

主治医ということは、カールやレイナと離ればなれになった後のリィナと多く接してきたことになる。

そのため病気に苦しみ悩まされるリィナを励まし、懸命に治療しようとしているベルナルドの姿が二人には想像できた。

だが、離ればなれにされたカールとレイナとて何もしなかったわけではない。

離れていてもリィナが寂しがらないように二人は一週間に一度の頻度で手紙を書き、そしてそれをレイナとリィナの父親が見舞いに行く際に届けてもらっていた。

それなのに手紙はまるで返っても来ず、再会したリィナは二人を信じないと言って冷たい態度を取っている。

直接接するとの手紙とでは全然違うというのはわかる。

しかし、違うといっても接してきたのには変わりなく、故にあそこまで冷たい態度を取るのは何かしらの理由があるとしか二人には考えられなかった。

 

「一体リィナに何があったのかな……」

 

「わからない……でも、あそこまで変わってしまうほどのことがあったのは確かだ」

 

そう言い合って二人は考えるが、その理由の一端さえも浮かぶことはなかった。

離ればなれになってからのリィナのことを二人はまったく知らないのだからそれは当然のことだった。

だが、知らない考え付かないからといってそこで諦めたらこの先ずっとリィナは心を開いてはくれない。

だから、二人はどうにかして離ればなれになった後のリィナに何があったのかを知る術がないかを考える。

 

「どうしたんだ、二人とも? そんなに頭を抱えて」

 

「え、あ……恭也先生」

 

「私たちもいるわよ」

 

「「こんばんは」」

 

頭を悩ませていた二人に突然声を掛け近寄ってきたのは恭也とミラ、そして二人の子供である蓮也と綾奈だった。

なんでここに、と二人は一瞬思うが、ここが食堂であることと四人が全員トレイを持っていることから家族で夕食だろうということがわかり納得する。

声を掛け近寄ってきた四人はカールとレイナの座るテーブルの空いている席に腰掛けて手を合わせてから食事を取り始める。

 

「それでさっきも聞いたが、どうしたんだ?」

 

「あ、えっと……」

 

「その……リィナのことで、ちょっと」

 

「リィナというと……君の妹だったな、確か」

 

レイナに視線を向けながらそう言い、レイナはそれに頷く。

 

「それで、彼女の何を考えてたんだ?」

 

「えっと……」

 

「ああ、言いにくいことなら無理して言わなくてもいいぞ?」

 

箸で焼き魚の身を掴み口に運びながら恭也はそう言う。

ちなみにミラは魚の睨みながら小骨取りに悪戦苦闘していた綾奈の焼き魚の小骨を代わりに取っていたりする。

恭也がそういった後、カールとレイナは顔を見合わせてしばししてから頷きあい恭也に何を悩んでいたのかを話した。

 

「ふむ……彼女の過去に何があったのかを知りたい、か」

 

話を聞き終えた恭也は食事の止めずにそう呟く。

そしてそう呟いてからほとんど間もなく、小骨取りを終えたミラが綾奈に魚を返すと共に口を開いた。

 

「そんなに知りたかったら本人に聞くか、もしくはそれを知っている人に聞けばいいじゃない」

 

「でも、話してくれるかどうかが……」

 

「そこまでは責任持てないわよ。 でも、聞かないよりも聞くほうが後悔は少ないんじゃないかしら?」

 

「あ……」

 

ミラの言ったその言葉でカールは昼間も恭也に同じような助言を受けたことを思い出す。

そしてしばししてから何かを決めたような顔をしてカールは小さく頷いてお礼を口にする。

それにミラは、礼を言われるほどのことじゃないわ、と言って顔を逸らすようにして手をひらひらと振りつつ漬物を口に運ぶ。

その行動がミラ流の照れ隠しだと分かる恭也は少しだけ苦笑しながら食事を取り続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恭也、そしてミラの助言を受けてから時間が流れて翌日の昼。

カールとレイナはリィナのことをベルナルドに聞くために講義が終わって早々、白魔法の講義室へ向かった。

本人に直接、というのも考えたが本人であるリィナが素直に話すとは思えず、主治医であるベルナルドに聞くということになったのだ。

そんなわけで互いの講義が終わってすぐに落ち合い白魔法講義室に赴いた二人はすぐにベルナルドを発見し近寄って声を掛ける。

声を掛けられたベルナルドは二人のほうへと振り向き無表情で短く、なんだ、と聞いてくる。

それに二人は顔を見合わせて小さく頷き合い、ベルナルドのほうへ向き直ってリィナの過去について尋ねる。

その質問にベルナルドは無表情のまましばし目を閉じ、そしてゆっくりと開けると共に口を開いた。

 

「私が彼女の主治医だということは、本人から聞いたのか?」

 

「は、はい」

 

「そうか……」

 

ベルナルドは小さくそう呟き、再び口を開いてリィナの過去について話し出した。

そしてベルナルドが語り続けると共に、二人の表情は悲痛なものへと変わっていった。

 

「……それが、彼女が治療という名目でされていた事のすべてだ」

 

「「……」」

 

ベルナルドの話が終わった後の二人は先ほどまでの元気は欠片も見受けられなかった。

そんな暗く沈んだ表情の二人にベルナルドは、ではな、と短く言って二人の元を去っていった。

ベルナルドが去った後も二人の間には暗い空気が流れ、しばししてから重たげな口を開いた。

 

「酷すぎるよ……そんなの」

 

「うん……でも、これでリィナが変わってしまった理由はよくわかったよ」

 

カールはそう口にして先ほど聞いたリィナの過去を思い返して怒りを抱く。

リィナが過去にカールやレイナと離ればなれにされたのは生まれながらにして患っていた病のせいだ。

その病のせいでリィナは実家ではもう手の付けようもなくなり、治療に専念するために治療施設へと送られていった。

そうしなければリィナはいつ死んでもおかしくはないと言われたから、カールもレイナも泣きながらもそれを受け入れた。

だが先ほどの話を聞く限りでは、リィナが連れて行かれた場所で行われていたのは治療などではなかった。

治療という名目の元で、リィナは施設にて観察やさまざまな実験を受けるというモルモットのような扱いを受けていたのだ。

そんな扱いを何年も受け続けていれば、人間不信に陥り、誰も信じられなくなってもおかしくはないだろう。

だが、二人はそんなリィナの過去を知って更にどうすればいいのかが分からなくなってしまう。

誰でも人間不信に陥ってしまうような仕打ちを何年も受け続けてきたリィナの傷は思った以上に根が深いと考えられる。

そんなリィナの傷を癒す方法が、今の二人には考え付くことができなかった。

 

「どうすればいいのかな……」

 

思い返したリィナの過去にカールは怒りを抱きながらも少し弱気な声でそう呟く。

それにレイナも同じく暗い表情で小さく俯くが、何かを思い出したかのように顔を上げて口を開く。

 

「わからない……でも、リィナは完全に変わっちゃったわけじゃないと思う」

 

「どうして?」

 

「これよ」

 

レイナはそう言って自身の髪を纏めているピンク色のリボンをカールに見せる。

カールはそのリボンを少しだけ見て、同じように思い出したかのような声を漏らす。

そのリボンはまだカールとレイナ、そしてリィナの三人が一緒に暮らしていたときにカールが二人の誕生日にとプレゼントしたもの。

そして、その二人の取って大切なリボンをレイナが今もつけているのと同様に……

 

「リィナはまだ、あのリボンをつけてる……」

 

「うん……だからきっと、望みはまだあるわ」

 

その二つのリボンは三人の絆の証でもある物。

それを今も身につけているということは、リィナはあの楽しかった過去を忘れてはいないということ。

半ば確信に近いそれを思い出した二人は、暗かった先ほどまでの表情に若干の光が見え始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に時間が流れて冒険の時間である深夜。

カールとレイナは静穂とリゼッタと合流して今夜はどこに行こうかということを話し合う。

その話し合っている間もカールとレイナは内心でリィナがまた無理をしてないかと案じていたのだが、静穂とリゼッタが気づくことはなく話は進む。

そして話し合った結果、テラス方面へ行こうということになり、一同は学生寮を出てテラスへと向かう。

が、魔物と遭遇することがなかったためか向かって十分程度で一同はテラスへと辿り着き、再度どこに行こうかと話し合う。

 

「あ、倉庫のほう見てみません? 何かあるかもしれないですし」

 

話し合いの中で静穂が言ったこの提案は採用され、一同は倉庫の入り口を潜って中へと入る。

そして倉庫の中で一同はいろいろと散策するが、奥まで行っても特に何もなくどこか意気消沈といった感じで倉庫を出ようとする。

しかし、倉庫を出ようと出入り口に一同が向かおうとしたと同時に、ガタッ、と突然物音がする。

それに一同はキョロキョロと周りを見渡してみるが先ほどと変わらず特に何もなかった。

一同は何もないため気のせいかと思うことにして、再度歩き出そうとすると今度は先ほどよりも大きな物音がする。

しかも、その物音は先ほどと違い、ガタガタ、と連続に続き、一同は再度キョロキョロと見渡してその物音の発生源を見つける。

 

「……床?」

 

「なんで床から物音が……」

 

そう呟きながら一同はその発生源に近づき目を凝らして見てみると、音に合わせて床が振動しているのに気づく。

それに一同が気づいたと同時にその振動していた床が、ドゴンッ、と音を立てて勢いよく開き、一同は揃ってそれにビクッと体を震わせ驚く。

そして驚いている一同の目の前で開かれた床から、ヒョコッ、と一人の女性が姿を現した。

 

「やっと出れた〜……って君たち、誰?」

 

「え……あ、ぼ、僕たちは」

 

「あ〜、思い出した。 君と君はこの前会った生徒さんでしょ?」

 

カールとレイナを交互に指差して女性をそう言い、二人はそれに頷く。

二人が頷いたのを見て、やっぱり〜、と言いながら女性は開かれた床から倉庫に上がってくる。

倉庫に上がりポンポンと埃を払っている女性に一同はその穴が何なのか気になり女性に聞いてみた。

 

「あの……この穴は?」

 

「これ? う〜ん、よくわかんないけど、たぶん隠し通路かなんかじゃないかな」

 

「隠し通路……それは僕も知らなかったよ〜」

 

この学園を知り尽くしてるはずの静穂でも知らない隠し通路。

それがどこに繋がっているのか興味を持った一同は女性に再度尋ねてみる。

すると女性は先ほどのようには答えず、行けば分かるよ、と一言だけ言って一同の元から歩き出し去ろうとする。

 

「あ、待ってください!」

 

「ん……何かな?」

 

「えっと、この間聞き忘れてたんですけど……あなたの名前、なんていうんですか?」

 

「名前? う〜ん……」

 

女性は唸りながら腕を組んで考え込む。

女性に名前を聞いただけなのになんでそんなに考え込むのか一同は疑問に思ったが口には出さずに女性の名乗りを待つ。

そんな自分が名乗るのをじっと待っているカールたちの前で女性は表面上冷静に考え込んでいるが内心では……

 

『ど、どうしよ……名前聞かれちゃったよ』

 

『別に、名乗ったらいいじゃないですか。 どうせあなたの名前を言ったところでこの子たちには分かりませんよ』

 

『そ、それはそうなんだけど……でもほら、この子たちから知ってる人にばれる可能性もあるわけだし』

 

『まあ確かにその可能性は十分にありますね……でしたら、適当な名前を名乗ってしまえばいいのでは?』

 

『いや、それもなんか悪い気がするし……』

 

『一体あなたはどうしたいんですか……』

 

と、焦りながらランドグリスと念話で話し合っていたりする。

まあそんな女性の念話での会話など聞こえない一同はただじっと女性が名乗るのを待つ。

そして女性が考え込むような仕草を取ってから一分弱、女性はどこか重たげに自身の名前と思しき単語を口にした。

 

「ヴァル……」

 

「ヴァルさん……ですか?」

 

「あ、うん……」

 

カールの言葉にどこか気まずそうに女性―ヴァルは頬を掻きながら頷く。

 

『安直な……』

 

「うっさいよ……」

 

「え?」

 

「あ、な、なんでもない」

 

ランドグリスの言葉に思わず口に出して返し、それに不思議そうにする一同に慌ててそう返す。

そしてその後ヴァルは、じゃあ行くね、と短く言ってそそくさとその場を去っていった。

見た感じ焦りのようなものが見えるヴァルに一同はやはり不思議そうな顔をして……

 

「どうしたんだろうね?」

 

「さあ……?」

 

と、首を傾げながら呟くように言い合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァルが去ってから間もなく、一同はヴァルが出てきた床から続く階段を下りていった。

そして階段を下り終えた一同が行き着いた場所は……

 

「地下水路……?」

 

「みたいだね……」

 

学園の地下水路だった。

倉庫の隠し階段の先にあったのが地下水路ということに一同は少しだけ驚きを浮かべる。

そんな驚きを浮かべつつも一同は興味深そうに周りをキョロキョロと見渡しながら地下水路をゆっくりと進んでく。

そして一同が進み始めてほとんど間もなく、一同の進む先のほうから武器を交えているような音が聞こえてくる。

それに一同は先日と同じような予感を感じてその音のする方向に駆けつけ、そしてそこにいた人物に驚きを浮かべる。

 

「リィナ!」

 

レイナの声にその人物―リィナは何も言葉を返さず視線を向けることもなく、魔物と対峙する。

対峙するリィナはこの間と同じように傷を負っており、荒い息をつきながら武器を構えている。

だが、この前と同じように見えるその状況で唯一つ違うことがあった。

それはリィナが対峙する魔物たちの強さだった。

地下水路は見つかりにくい場所であると共に、リィナがこの前苦戦していた場所の魔物とはまるで強さが違う。

それをこの前とほぼ同じ状況、同じ数の魔物と対峙するのはあまりにも無謀といえる。

だから、カールたちは各々の武器を取り出して加勢しようとするが、その行動は以前と同じようにリィナの声で止められる。

 

「手を、出さないでっ……」

 

荒い息をつきながらも拒絶するような言葉を口にするリィナに思わずカールたちは動きを止める。

それを合図にしたかのようにリィナは魔物へと攻撃を仕掛け、レイピアを魔物の胸に突き刺す。

そしてすぐにレイピアを引き抜き、横から来た魔物の攻撃をぎりぎりで避けて先ほどと同じようにレイピアを突き刺す。

 

「リィナ、危ない!」

 

突然響くレイナの叫びにリィナは後ろから振り上げた爪を振り下ろそうとする魔物に気づき振り向く。

だが、気づいたところですでにそれは回避不能な位置であるため、リィナは来るであろう衝撃と痛みに思わず目を閉じる。

 

「だめぇ!」

 

目を閉じたリィナの耳に響くレイナの声。

それと共に攻撃を受けたときの生々しい音が響くが、音はするのに衝撃も痛みも来ないことにリィナは不思議に思って目を開ける。

そして目を開けたリィナの目に映ったのは、自分を庇って魔物の爪を背中に受け、血を流しながら膝をつくレイナの姿だった。

 

「レイナ!」

 

その光景をリィナが呆然と見ている前でカールたちはレイナに慌てたように駆け寄る。

駆け寄ってすぐ負った傷を見てその出血の多さにカールたちは目に見えて慌てだしてしまう。

 

「そこで何をしてる……」

 

そんな一同の後ろから聞き覚えのある声が聞こえてくる。

その声に振り向くと皆の思ったとおり、そこにいたのは白魔法講師のベルナルドだった。

ベルナルドは目の前にいるカールたちとリィナを交互に見た後、レイナの傍に近寄って傷の具合を見る。

 

「ふむ……見た目ほど深い傷ではないな」

 

そう呟いてベルナルドは傷に手を触れるぎりぎりまで近づかせて白い光をその手に灯す。

光が灯ると同時にレイナの背中の傷は徐々に塞がっていき、光が消えたときには跡も残らぬほど完全に塞がっていた。

 

「これでいいだろう……だが、先ほどの出血量を考えると、今日はもう無理せずに部屋で休んだほうがいい」

 

「は、はい……ありがとうございます」

 

礼を口にするレイナにベルナルドは何も返さずに立ち上がり、レイナの傷を負わせた魔物に近づく。

その魔物はリィナに襲い掛かっていたときとは打って変わって、どこか怯えたような様子をしていた。

そんな様子の魔物をベルナルドは少しだけ観察し、ふむ、と呟くとカールたちのほうを向いて口を開く。

 

「この魔物は、最初からこのような様子だったか?」

 

「い、いえ……」

 

「そうか……だとすると、この様子は」

 

そう呟いてベルナルドはしばし考え込み、そして再度口を開く。

 

「誰か、この魔物に攻撃をするなというようなことを言った者はいるか?」

 

そのベルナルドの言葉にカールたちは不思議そうにしながらも考える。

そして、考え込む一同の中でそれらしいことに思い至ったレイナは遠慮がちに口を開く。

 

「あの……攻撃するなとは言ってませんけど、リィナを助けるときに、だめ、って」

 

「ふむ……やはりそういうことか。 では、レイナくんだったな? この魔物に帰れと言ってみろ」

 

「は、はい。 えっと……帰れ」

 

ベルナルドに言われたとおりレイナがそう言うと魔物は小さく頷いて水の中へと飛び込み去っていった。

それにカールたちは驚きを浮かべ、ベルナルドは納得したように頷く。

 

「あの……これって、どういうことなんですか?」

 

「簡単に言えば、レイナくんの能力だ。 詳しい詳細は明日話す」

 

ベルナルドはそう短く言ってリィナに近づき、何か注意するような事を言ってその場を去っていった。

あまりに簡単な説明にベルナルドの姿が見えなくなるまで呆然とカールたちは呆然としていた。

そしてしばしして我に返ったカールたちはレイナに大丈夫かと口々に聞く。

それにレイナは大丈夫と告げて立ち上がり、スカートについた汚れをポンポンと払う。

 

「うう〜、傷は塞がったから大丈夫だけど、背中がすうすうする〜」

 

立ち上がってそう言うレイナにカールたちはどこか違和感のようなものを感じる。

そしてその違和感が何かとしばし考え、そしてその違和感の理由に最初に気づいた静穂は声を上げる。

 

「れ、レイナさん……髪が」

 

「え……?」

 

静穂の言葉に、レイナは自身の髪が肩元よりも少し上のほうまでばっさりと切られていることに気づく。

そして気づくと同時にレイナの表情は徐々に青褪めていってしまう。

 

「り、リボン……」

 

青褪めながらレイナは呟く。

髪を切られたと共にその髪を纏めていたリボンもなくなった。

そのリボンをレイナは必死に周りを見て探すが見つからず、水路に落ちて流されてしまったという考えに至る。

その考えに至るや否やレイナは水路に飛び込もうとし、カールたちはそんなレイナを慌てて止める。

 

「離して! リボン……あのリボンがないとだめなの!」

 

止められても尚、レイナは振りほどこうと暴れる。

だが、しばらく暴れてレイナは徐々に小さくなっていく声と共に動きを止めて地面に崩れ落ちる。

崩れ落ち、涙を流し始めるレイナにカールたちは励ます言葉を掛けられず、ただ見ていることしか出来なかった。

そしてしばしして、泣き崩れるレイナに静穂とリゼッタが手を貸して来た道を歩いてゆく。

その三人にカールは続いて歩き出そうとするが、そこでリィナが静かに水路を見詰めていることに気づく。

そんなリィナにカールは今日はもう戻ったほうがいいということを言おうと近づいて口を開こうとするが、それはリィナの呟きによって遮られた。

 

「わかる気がします……」

 

「え……?」

 

突然の呟き、それが何を意味しているのかわからないカールは呆然とする。

そんなカールにリィナは構うことなく、続けるように更なる呟きを口にする。

 

「あのリボンは、施設での私にとって唯一の……」

 

リィナはそこで言葉を切って最後まで口にすることはなかった。

そして一度だけ目を閉じてすぐに開けるとリィナはカールに、戻りましょう、言って歩き出す。

カールはそれに戸惑いながらも頷きリィナの続くように歩き出し、二人は地下水路を後にするのだった。

 

 


あとがき

 

 

うん、難産だった。

【咲】 遅すぎよ!!

げばっ!!

【葉那】 おまけ♪

ぶばっ!!

【咲】 まったく……いったいどれだけ遅れてるのよ。

【葉那】 まったくだね〜。

うう……だって、全然ネタが出なかったんだもん。

【咲】 なら徹夜してでも書きなさいよ。

せ、殺生な……。

【葉那】 そういえば、これって前編なんだね。

そうだな。 リィナが仲間になる過程は二話使ってというのは当初から決めてたし。

【咲】 単にタイトル考えるのがめんどくさかっただけじゃない?

そ、そんなことはないぞ?

【葉那】 目を逸らしながら言っても説得力ないよ〜。

う……。

【咲】 はぁ……まあいいわ。 で、次回の後編はどんなお話なの?

ほ……っと、次回だったな。 次回は、今回の続きでリィナが仲間になる過程とかがほとんどだな。

【咲】 ふ〜ん……じゃあ、原作とほとんど変わらない話なわけ?

いや、原作とは違う部分があるな。

【葉那】 どこが違うの?

う〜ん……さすがに詳細は言えないけど、敢えて言うなら恭也がいいとこ取っていくみたいな。

【咲】 わけわかんないわね。

まあ詳しいことは次回で、ということで。

【葉那】 そうだね〜。 じゃあ。

【咲】 今回はこのへんでね♪

また次回会いましょ〜ノシ




ヴァルを名乗る女性の正体は。
美姫 「って、魔剣と念話している時点であの女性なんだけれどね」
まあな。だが、本当の意味でまだ謎の女性である事には変わりないがな。
美姫 「確かにね。それにしても、ヴァルは何をやってたのかしら」
地下水路から出てきたという事になるもんな。
美姫 「レイナの能力も興味あるわね」
次回は一体どうなるんだろうか。
美姫 「次回も楽しみにしてますね〜」
待っています。



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