学生寮内に突如響き渡る銃声、それを聞いてちょうど寮内を見回っていた裂夜ははじかれたように音の発生元へと向かった。

見回っていたのが一階だったため階段を目指し、そして一気に階段を駆け上がってその場所を目指す。

息を切らさぬままに発生元を探し駆け回り、一分と掛からぬ内に裂夜はその場所を見つけ出した。

 

「……」

 

だが、裂夜が駆けつけたときにはすでに誰もおらず、あるのは物言わぬ屍となった生徒の姿のみ。

その横たわる生徒の遺体に裂夜は近づいてしゃがみこみ、脈を見てから静かに目を伏せて立ち上がる。

 

「裂夜!」

 

立ち上がったと同時に聞こえてきた声に裂夜が振り向くと恭也とミラ、セリナとアーティ、ジャスティンとフィリス、それにミレーユとベルナルドというこの学園の講師陣+αが揃って銃声を聞いて駆けつけてきていた。

そして駆けつけた講師陣は裂夜の目の前に横たわる生徒の遺体に絶句してしまう。

そんな中、ただ一人若干の冷静さを保っている恭也が裂夜に近寄って小さく口を開き尋ねる。

 

「手遅れ……だったのか?」

 

「ああ。 心臓に一発……ほぼ即死のようだ。 そして俺が来たときには、すでに犯人の姿はなかった」

 

「そうか……」

 

恭也はそれだけ呟いてその生徒に視線を向けて逸らすように小さく目を伏せる。

それとほぼ同時に我に返ったジャスティンはベルナルドとフィリスに一言二言告げ、ベルナルドは頷くと遺体へと近づいて抱き上げフィリスと共にその場を後にしていった。

そして二人が去った後、残った者たちはこのことについて話し出す。

 

「このことについて……皆さんはどう考えてますか?」

 

「ふむ……信じたくはないが、内部犯の可能性が確実に高いと思う」

 

「そうね……ジャスティンが学園内に張る結界を掻い潜り、尚且つ私たちに気づかれずに犯行に及ぶのは不可能に近いわ」

 

「ですけど、それだと犯人は生徒たちの中にいるということになりますよ? それに聞こえたのは銃声……入学の際に持ち物の検査はしてますから、生徒がそんなものを持っているというのは考えにくいわ」

 

「いえ、生徒たちの中に犯人がいるとは一概に言えません……もう一つの可能性がありますから」

 

「もう一つの、可能性?」

 

「講師の中……つまり俺たちの中に犯人がいるという可能性もあるということだな?」

 

「はい」

 

小さく肯定するように頷くアーティに裂夜以外の者が若干の驚きを浮かべる。

だが、誰も自分は違うなどと否定をしようとはしない。

疑われているのであれば、したところでそれは意味がないことだからだ。

 

「とりあえず仲間内で疑うよりも先に、このことに対してどうするかを決めなければいけませんね」

 

「そうだな……まあ今言えることは、事件解決までの間はこのことをなるべく生徒たちの間に広げないようにしなければならないということだ。 被害者のあの子には悪いが……生徒たちに無用な動揺と恐怖心を与えるわけにはいかない」

 

「ああ。 そんなことになれば、下手をするとあのときの再来になりかねん」

 

「わかりました……では当面はその方向で、あの生徒の検死の結果が出たら再度事件解決に対しての方針を決めましょう」

 

ジャスティンのその言葉に、そこにいた一同は険しい顔をしながらも小さく頷く。

そしてその場を静かに去ろうとしたとき、ベルナルドとフィリスが去った方向とは別の方向から複数の足音が聞こえてきた。

おろらくはあの銃声を聞きつけてやってきた生徒だろうと一同は思い、その生徒たちをどう誤魔化すのかを考える。

が、考えも決まらぬうちに足音を響かせて向かってくる者達の姿が一同の目視できる位置まで近づいてきた。

そしてその生徒たちにミレーユ以外の者たちは驚きの顔を浮かべ、ジャスティンがその生徒たちの先頭にいた男子の名前を戸惑いつつ呟く。

 

「か、カールくん……」

 

先頭にいた男子―カールとその後ろについてきていたレイナ、静穂、リゼッタたちも驚きの表情を浮かべて立ち止まる。

そしてジャスティンたちのほうを驚きの表情を浮かべたまま呆然とし、そんなカールたちにジャスティンたち講師陣は困ったような表情をする。

そうして、一同の間にかなり気まずいしばしの沈黙が流れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!2〜永久に語り継がれし戦士たち〜

 

第九話 悪夢再来の予兆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恭也とミラを含めた図書室でのリゼッタとの会話からいろいろあり、リゼッタはカールたちの冒険に加わることとなった。

少しだけ緊張気味に挨拶をするリゼッタにレイナも静穂も笑顔で加入を歓迎し、一同はその日も冒険へと赴く。

新たな仲間も加わったということで、先日断念したテラス方面へと足を向けてみようということになった一同は学生寮の出入り口を目指す。

そしてその際に一同は一人の少女が複数の魔物を相手に戦い、苦戦しているのを見つける。

その苦戦しつつも荒い息をつきながら武器を振るう少女に、カールとレイナはとても見覚えがあった。

 

「「リィナ!」」

 

その少女はレイナの妹で、カールにとっても妹同然の存在であるリィナ・クライトンだった。

リィナは二人の声にちらりとだけ視線を向けるが、言葉を返すことなくすぐに襲い掛かってくる魔物たちに視線を戻して武器を振るう。

その態度から取れるのは明らかな拒絶であったが、苦戦し危うい状況に陥っているリィナを見捨てることなどカールたちにはできなかった。

故に各々の武器を手にとってリィナに助けるため戦いに加わろうとするが、その行動はリィナから放たれた言葉で止まることとなった。

 

「手を出さないでっ……」

 

冷たく放たれたその言葉に動きを止めたカールたちに目を向けることもなく、リィナは手に持つ武器―レイピアを魔物の胸に突き刺す。

そしてすぐさま引き抜き、後ろと左側から襲い掛かってくる魔物に振り向きざまに一閃して切り裂き絶命させる。

その二体を最後に魔物たちは全滅し、戦いを終えたリィナは先ほど負ったと思われる傷口に軽く手を当てながら荒い息をつき膝をついていた。

 

「リィナさん! 今、癒しを」

 

「余計なこと、しないで……」

 

回復魔法を掛けるため近寄ろうとしたリゼッタを荒い息をつきながらも放たれる冷たい拒絶の言葉が遮る。

近寄ろうとしたリゼッタがその言葉で足を止めたのを見ることもなく、リィナは傷口に当てている手から白い光を放って傷を癒す。

そして息を軽く整えて立ち上がり、四人に背を向けて歩き出しその場を去っていこうとする。

そんなリィナに先ほど放たれた冷たい拒絶の言葉で固まっていたレイナは我に返り、リィナに静止の言葉を掛けて口を開く。

 

「待って、リィナ! よかったら、その……一緒に、冒険しない?」

 

「……何を言うかと思えば。 どうして私があなたたちと共に行動しなければならないんですか?」

 

「どうしてって……ほら、さっきもそうだったけど、リィナ一人じゃ危険だし」

 

「お断りします。 私は一人でも十分にやっていけますから」

 

「でも、一緒のほうが……」

 

「しつこい人たちですね。 では、一つ聞かせていただきます」

 

リィナは冷たさしか感じられない声で背を向けたままそう言う。

皆はリィナがその後に続けるであろう質問とやらを聞くため何も言葉を発さず黙り込んでいる。

そして声もなく音もなく静まり返った空気の中、しばししてリィナはその言葉を紡いだ。

 

「自分を信じてくれない人を、あなた方は信じることが出来ますか?」

 

「「「「……」」」」

 

放たれた言葉に四人の誰もが何も返すことができずにそのまま黙り続けるしかなかった。

それに質問を放った本人であるリィナはその質問をしたにも関わらず答えは分かってるという風に言葉を続ける。

 

「信じられませんよね。 そんな人を信じたところで裏切られるのは目に見えてるんですから」

 

「「「「……」」」」

 

「私はあなた方を信じていません。 だから、裏切られたくないのなら、これ以上私に関わってこないでください」

 

そう言ってリィナは最後まで振り向くことなく言い放ちその場を去っていった。

その去っていく姿を今度は引き止めることが出来ずに、四人はリィナが見えなくなるまでその場に呆然と立っていた。

リィナのした質問を頭の中で渦巻かせながら、ただ呆然と……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リィナとのこともあり、気を沈ませながらもテラスのほうへと辿り着いて散策すること三時間。

一同はそろそろいい時間かと思い、冒険を切り上げて学生寮のほうへと戻り就寝につくため歩いていた。

その間もある程度の会話はあるものの、リィナのことに関してはほとんど話題に上がることはなかった。

というのもリィナと姉妹であるレイナがいる手前、上げることができなかったのだ。

レイナを、すべてを拒絶してしまうようなあのリィナの態度に、レイナがどれだけ傷ついているかは想像もできない。

そんな傷ついているレイナがいる前で、再びリィナの話題をあげることはレイナの傷を更に深めることにしかならない。

だから、リィナに関しての話題は一切上がらぬまま、一同は学生寮に向けて歩き続けていた。

 

「あ〜、そういえば今日は裂夜さん、見かけなかったな」

 

「そういえばそうね……」

 

「裂夜さん?」

 

「あ、そういえばリゼッタさんは知らないんだよね。 裂兄は……う〜ん、簡単に言うと恭兄の双子の兄弟かな」

 

「恭兄……ああ、恭也先生ですか。 でも、恭也先生に兄弟がいたというのは初耳ですね」

 

「まああんまり知られてないしね。カールさんとレイナさんもこの間初めて知ったくらいだし。 でも、もしかしたらリゼッタさんも知らなかっただけで見てはいるかもしれないよ?」

 

「? どういうことですか?」

 

「恭也先生と裂夜さんって……どっちがどっちか分からなくなるほどに似てるのよ」

 

「瓜二つ……ということですか?」

 

「そういうことだね」

 

リゼッタの言葉にカールはそう返しつつ頷き、一同はそのまま歩き続け学生寮に辿り着く。

学生寮へと辿り着いた一同は各自の部屋に戻るため、入り口を入った辺りで解散をしようとする。

だが、解散しようとした一同の耳に突如、銃声のような音がはっきりと聞こえた。

 

「ねえ……今のって銃声、だよね?」

 

「う、うん……僕もそう聞こえた」

 

「でも、おかしいですよ。 学園内に銃を持ち込むのは原則として禁止されているはずなのに」

 

刀や弓などといったものの持ち込みは戦闘術の講義などがあるということで許可されている。

だが、銃火器といった類のものは戦闘術にほぼ関係がなく、生徒たちが持つには危険であると判断されて持ち込みを許可されていないのだ。

故にその許可されていないはずの銃火器の音が聞こえてくるのは明らかにただ事ではないと一同には判断できた。

 

「聞こえたのは三階みたいだから、とりあえず行ってみよう」

 

判断すると同時に口にしたカールの言葉に他の面々は頷いて三階に向けて駆け出す。

廊下を進み、階段を一気に駆け上がり、周りを見渡しながら音の発生元を探す。

そして探し出して間もなく一同は廊下のある一点で何かを話している複数の人物を発見し、その人物たちに驚きを浮かべる。

それは相手側としても同じであるのか、カールたちと同じように驚きを浮かべていた。

 

「か、カールくん……」

 

相手側の中にいる一人、ジャスティンは皆の先頭に立っていたカールの名前を呟く。

が、どちらもまさかそんな人たちに出くわすとは思っていなかったのか、それ以降何も発せず場に沈黙が流れる。

そしてその沈黙から約二分、カールたちの登場に戸惑っていたジャスティンたちはまだ若干の戸惑いを浮かべながらも口を開く。

 

「あなたたちは、どうしてここに?」

 

「え……あ、えっと」

 

「銃声のような音がこの階から聞こえたから……駆けつけたんですけど」

 

その返答にジャスティンを含んだ面々たちは困ったような顔をし、者によっては額を押さえている者もいた。

そんなジャスティンたちにカールたちはやはり何かがあったんだと確信し、何があったのか聞くために口を開こうとする。

だがカールたちが口を開くよりも先に、遮るように裂夜がいつものような感じではないかなり真剣な顔で口を開いた。

 

「何があったのか、知りたいか?」

 

「裂夜さん……」

 

裂夜の言葉に頷くカールたちを見て、ジャスティンは話そうとする裂夜を止めるために口を開く。

しかし、その言葉は裂夜がジャスティンのほうを向いて言った言葉によって放たれることなく口は閉ざされた。

 

「仕方がないだろ。 あれを聞かれ、俺たちが去る前にここに来られてしまった以上、真実を話さなければこいつらは納得しない」

 

「……」

 

口を閉ざし、裂夜の言葉にジャスティンはカールたちに視線を向ける。

視線を向けられたそのときのカールたちの表情は、裂夜の言うとおりのものだった。

だから、ジャスティンは裂夜が言ったように、仕方がないですね、と呟き、裂夜はそれに頷くと何が起こったのかを説明し始めた。

その語られ始めた説明を聞いていくうちに、カールたちの表情は徐々に強張っていき、聞き終わったときには青褪めている者さえいた。

そんなカールたちをジャスティンは安心させるように笑みを浮かべて口を開く。

 

「大丈夫よ。 これ以上犠牲者が出ないように、私たちが早急になんとかするわ」

 

「ほ、ほんと……ジャスティ?」

 

「ええ。 と言っても表立って行動を起こすと生徒たちの気づかれる可能性があるから、当面は見回りの人数を増やすということしか出来ないけど……でもきっと、なんとかしてみせるわ」

 

「ああ。 だから、というわけではないが……お前たちはこれを他言しないでくれ」

 

「わ、わかりました……」

 

「よし。 では、俺たちはそろそろ行くとしよう」

 

「そうですね。 じゃあ、私たちはもう行くから……カールくんたちも、まだ犯人がうろついている可能性もあるから今日はもうお部屋に戻って休んだほうがいいわ」

 

「はい……」

 

ジャスティンの言葉にカールたちが頷いたのを見て、講師陣はその場から歩き出し去っていった。

カールたちは講師陣が去っていき見えなくなるまで見た後、部屋に戻るために歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人の犠牲者を出した夜が明けて、講義が行われるよりも早い時間に講師たちを集めて会議があった。

議題は主に、昨夜の件に関する対応策についてのこと。

議題がそれであるため、昨夜も数名で話し合ったように当面の対応策は警備人数を強化するということで会議はそこまで時間が掛からなかった。

だがその後、会議を終えて室内を出て行く講師たちの中でジャスティンとフィリスは深刻そうな顔で恭也、ミラを呼び止める。

呼び止められた二人はジャスティンとフィリスのその表情に何かがあったのだと悟り、室内に留まって二人が口を開くのを待った。

そして若干の沈黙が流れてから数分、ジャスティンは小さな声でフィリスに説明を頼み、フィリスはそれを話し出す。

 

「昨晩亡くなった生徒の検死の結果なんですけど……」

 

「何か不審な点でもあったの?」

 

「はい。 そして、その結果は以前見たものとほぼ同一の結果なんです」

 

「以前って……まさか」

 

「はい……あの生徒の検死の結果、体内の血の大半が抜き取られていました」

 

そのフィリスの放った事実が現すことは何か、それは十数年前の悪夢再来の予兆。

最終的に二人の犠牲者を出した学園の悪夢と言える事件、それがまた起ころうとしているのではないか。

この事実はあの事件を直に体験した皆にとってそう感じざるを得ない事実。

だが、その事実に続いて放たれたフィリスの言葉は皆にとって予想外のものだった。

 

「ですが、あのときと同じであるはずなのに、あのときとは違う点があるんです」

 

「違う、点?」

 

「はい。 あのときの生徒の死因と今回の生徒の死因が一致しないんです」

 

「それってつまり、剣による傷の跡がないってこと?」

 

ミラの言葉にフィリスは小さく頷いた事で、皆の中で謎は深まる。

剣による刺殺が死因ではないとすれば、死因は銃による銃殺ということになる。

しかし、それではどうやって血を抜いたのか?

剣によるものでないとするのならば、あの魔剣の所業ではないのか?

事実から生まれた謎は、皆にとっていくら考えてもわからないことばっかりだった。

 

「とにかく……あの魔剣の封印が破られていないか、お二人に聞いておいてください」

 

「わかりました……」

 

恭也がそう言って頷き、ミラもそれに続くように無言で頷く。

そして二人は先ほどのジャスティンとフィリスと同じように深刻そうな顔で部屋を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夜が明けてからしばしの時間が流れ、その日の講義を終えたカールはテラスのベンチでまったりとしていた。

だが、まったりとしつつも頭の中に渦巻くのは昨夜に関することばかり。

午後の授業を終えたばかりということでまだ日は高くとても周りは明るいが、それに反するようにカールの表情は暗かった。

 

「にゃー」

 

「ん?」

 

そんなカールの足元にいつの間にか真っ白な猫がちょこんと座りカールを見上げていた。

その猫はカールがここ最近よく見かけるようになったやたらと人懐っこい猫だった。

 

「にゃー、にゃー」

 

白猫はカールの視線が自分を捉えたのを見て、まるで何かをねだるように鳴いて擦り寄る。

それにカールは小さく笑って懐の中からこんなこともあろうかと用意しておいたお菓子を取り出して与える。

すると白猫は差し出されたお菓子を口で銜えて受け取り食べ始める。

必死と言う言葉がちょっと似合う食べ方をする白猫にカールは苦笑をしつつ少しだけ眺め正面に視線を戻す。

そして視線を戻したと同時に、カールは見覚えのある人物を見つけ呟くように口を開く。

 

「あ……恭也先生だ」

 

「にゃ?」

 

カールの声にお菓子を食べ終えた白猫は反応し、カールの視線が向いている方向を向く。

その一人と一匹が向ける視線の先には、恭也がテラスからどこかへ行こうとしているのか歩いていた。

そして、その恭也を見つけると同時に恭也の後ろをついていくように歩くそれに目がいく。

 

「あのときの黒猫だ……」

 

それはその白猫と会うよりも前に出会った真っ黒な猫だった。

白猫と同じくよく見かける猫なのだが、白猫と違ってその黒猫はあまり人に懐かない猫だった。

そんな黒猫がまるで懐いているように恭也の後ろを歩いているのにもカールは驚くが、それよりも驚くことがあった。

それは、黒猫の後ろをついて歩くように歩く二匹の真っ黒な子猫の存在。

黒猫の存在は知っていたが、子猫の存在は知らなかったカールは驚きを浮かべるほかなかった。

そんな驚きを浮かべて恭也を見ていたカールに歩き去ろうとしていた恭也が気づき歩み寄ってくる。

 

「カールじゃないか。 こんなところでどうしたんだ?」

 

「あ、いえ、少しまったりとしようかと思って……あの」

 

「ん?」

 

「その、後ろにいる猫は?」

 

「クロのことか?」

 

尋ね返すようにそう言って後ろにいる黒猫―クロを抱き上げて優しく撫でる。

それにクロは気持ち良さそうに目を閉じて成すがままになり、クロの後ろにいた子猫たちが自分もというように恭也のズボンに軽く爪を立てる。

その子猫たちに恭也は小さく苦笑し、ベンチに座るカールの隣に腰を下ろしてクロと子猫たちを膝に置いて撫で続ける。

 

「ずいぶんと懐かれてるんですね……」

 

「そうだな……なぜかはわからないが、俺はどうにも子供や動物やらに好かれるみたいなんだ」

 

「そうなんですか。 でも、なんかこの場にミラ先生がいたら、猫たちに嫉妬しそうですね」

 

自分もと強請る白猫を抱き上げ膝に置きながら言うカールに恭也は苦笑で返す。

そして二人はそれから言葉を発することなく沈黙しつつ、膝にいる猫たちを撫で続ける。

撫でられ続けている猫たちは、次第に午後の陽気と撫でられる心地に眠気がきたのか小さく欠伸をして眠り始める。

それを合図にしたのか、カールは猫たちが目を閉じて眠るとほぼ同時に恭也に対し口を開く。

 

「恭也先生……一つ、聞いてもいいですか?」

 

「なんだ?」

 

「恭也先生は……自分を信じてくれない人を信じることは、できますか?」

 

「ふむ……難しい質問だな。 自分を信じてくれない人を信じる……か」

 

猫を撫でながら考えるように恭也は目を閉じる。

そしてすぐに答えが出たのか、ほとんど間を空けずに目をゆっくりと開いて答えを口にする。

 

「できる……と思う」

 

「思う……ですか?」

 

「ああ。 実際にそんな状況に直面してみないとなんとも言えないし、必ずしもできるかと聞かれれば答えられない。 だから……思う、なんだ」

 

「そう、ですか……」

 

「だが、ひとつだけ言えることがあるな」

 

「なんですか?」

 

「信じてくれないから信じない、というのは間違いだ。 その人が信じるに値しない人だと言うのであれば話は別だがそうでないのならば、その人を信じさせるには自分が信じることが始まりだと、俺は思う」

 

「信じることが、始まり……でも、それでも信じてくれなかったら」

 

「そのときは、また別の方法を考えればいい。 無論、信じ続けながらな。 諦めて信じることを止めたら、すべてはそこで終わる」

 

「……」

 

「だからもしそういった人を信じさせたいのであれば、絶対に諦めず信じ続けろ。 必ずそれがいい方向に転ぶとは言えないが、少なくとも諦めてしないよりも後悔はない」

 

そう言葉を紡ぎながら、恭也は黒猫たちを優しく撫で続ける。

カールは恭也の言葉を聞いて何かを考えるように小さく俯き、恭也と同じように白猫を撫で続ける。

そして二人はそのまま再度沈黙し、午後の陽気の下で猫を撫で続けるのだった。

 

 


あとがき

 

 

事件再来の予感を感じさせるお話でした〜。

【咲】 だんだん暗いお話になっていってるわね……いつも通りだけど。

まあね。

【咲】 そういえば、クロの後ろにいた子猫って……。

おおっと、そこはストップだ。

【咲】 なんでよ。 別に謎でもなんでもないじゃない。

それでもだよ。 わからない人がいるかもしれないだろ?

【咲】 いないと思うけど……まあいいわ。

じゃあ、とりあえず恒例と化している次回予告をいたしましょう。

【咲】 次回はどんなお話なの?

次回はだな、リィナ関連のイベント盛り沢山なお話だな。

【咲】 例えば?

リィナとベルナルドの関係、リィナが過去と変わってしまった理由、レイナとリィナがしているリボンの意味、などなど……。

【咲】 オリジナルなところはないの?

一応あるけど……とりあえずは秘密ということで。

【咲】 ふ〜ん……まあいいけど。 それじゃあ、そろそろ行きましょうか?

え、も、もう寝たいんですが……。

【咲】 だ〜め。 じゃ、レッツゴー♪

 

(しばらくお待ちください)

 

【咲】 咲と!

【葉那】 葉那の!

【咲&葉那】 おもしろ実験コーナー!!

【咲】 じゃ、トークが少し長かったからいろいろと省いて進めます!!

【葉那】 とりあえず、実験台はおなじみのこの人です!!

どうも〜。

【咲】 で、今回の実験物はこれよ!!(見た目ただの鉛筆を取り出す

【葉那】 それは?

【咲】 ふふふ、今回は凄いわよ? なんと、この見た目ただの鉛筆は頭で考えているだけで手が勝手に動き執筆してくれるという鉛筆なのよ!!

【葉那】 わ〜、すご〜い!

いや、基本的にキーボードをぱちぱち叩いてる人にどうしろと?

【咲】 ……。

【葉那】 ……。

考えてなかったのか……。

【咲】 ま、とりあえず実験へいってみましょう。

【葉那】 だね〜。

誤魔化したな……ま、いいけど。 で、この状態でどうやって実験するんだよ。(台に磔にされてます

【咲】 う〜ん……そこが問題よね。

【葉那】 とりあえず〜……刺してみよっか?

【咲】 そうね。

お、おかしいだろ、それ?! 普通はこれを解いて書かせてみようとかだろ?!

【咲】 じゃ、実験開始!!

【葉那】 えいっ♪(とりあえず頭にぶっ刺す

ぎゃああああああ!!!(血を頭から噴出させながら大絶叫

【咲】 殺傷能力もまあまあね。

【葉那】 だね。 削りいらずなせいか怖いほど尖ってるし。

【咲】 じゃ、とりあえずこれをいつもの面々に……。

【葉那】 これなら浩さんの場合でもいろいろと使えそうだよね。

【咲】 そうね。 執筆に使えなくても握らせれば普段何を考えてるのか美姫さんもわかるしね。

【葉那】 不穏なこと考えてたらこれで一発?

【咲】 まさにそうよ。 じゃ、今回はこの辺でね♪

【葉那】 また次回会おうね〜♪




ああ〜、手が、手が勝手に動く〜〜。
美姫 「言いながら嬉々として動かしているようにも見えるけれど」
ああ、俺の考えている事が筒抜けに〜〜。
美姫 「さて、どれどれ? ……って、何よこれは!」
メイド、メイド、メイド、メイド、メイド、メイド、メイドメイド、メイド、メイド
メイド、メイド、メイド、メイド、メイド、メイド、メイドメイド、メイド、メイド
メイド、メイド、メイド、メイド、メイド、メイド、メイドメイド、メイド、メイド
メイド、メイド、メイド、メイド、メイド、メイド、メイドメイド、メイド、メイド
メイド、メイド、メイド、メイド、メイド、メイド、メイドメイド、メイド、メイド、メイド、メイド、メイド、メイド……ぶべらっ!
美姫 「せ、せめて文章にしてよ、お願いだから。延々と単語だけを書かれても…」
な、殴って止めるのはどうかと思うぞ。
美姫 「う、うぅ。折角素敵なアイテムなのに、このバカの妄想の前には無用の長物に…」
いや〜、照れるじゃないか。
美姫 「褒めてない!」
ぶべらっ!
美姫 「はぁぁ、本当に駄目駄目だわ」
う、うぅぅ。酷い言われようだ。
それにしても、またしても起こった事件。
美姫 「これはまた何かが始まる前兆なのかしら」
これからどうなるんだ!
美姫 「次回もお待ちしてます」
ではでは。



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