「で、ここはどこかな?」

 

『転移指定は学園ということだけでしたのでほぼ学園のどこかにランダムで転移しました。 ですのでわかりません』

 

「ランダムって……人の多いとこだったらどうする気だったのよ」

 

『……まあ、結果的にこうして人気のない場所でしたので問題なしです』

 

「誤魔化したね……ま、いいけど。 う〜ん……見た感じで言うと学園の物置って感じだね」

 

転移したその場所の周りを見渡しながら女性はそう思い呟く。

書物が大量に置いてある棚、何に使うのかわからない大きな壷、壁に立て掛けられた剣やら槍やら。

それらを見ると確かに物置という以外に思いつくものはない。

 

『のようですね。 それで、この後どうしますか? 夜になるまでしばらくこの場所に身を隠しますか?』

 

「う〜ん……でもそれだと、人が来たとき困るんじゃない? ここって見た感じ隠れる場所が無さそうだし」

 

『なら、どうするんですか?』

 

「そうだね〜……」

 

女性は考えるような仕草をして徐々にその表情はにやけたような笑顔になっていく。

その笑顔にランドグリスはかなり嫌な予感を感じてる。

そして数秒後、ランドグリスがそんな予感を感じているとも知らずその女性は笑顔で告げる。

 

「紛れ込んじゃおっか。 学園の生徒として」

 

『……いや、それはいくらなんでも無理があるのでは?』

 

「む〜……なんでよ」

 

『なんでって、マスター……ご自分のお歳を考え、いたっ!』

 

「ランちゃ〜ん……女の子に年齢の話は禁物なんだよ〜?」

 

『女の子って歳でもないでしょう……って、痛いっ! 痛いですマスター!!』

 

「も〜、ランちゃんは懲りないな〜」

 

最近恒例になりつつある両サイドを持って力を加えていくお仕置きにランドグリスは叫ぶ。

まあ本気で折る気などない女性はある程度叫ばせるとランドグリスを腰に戻す。

 

「で、どうかな? この提案、結構いけてると思うんだけど」

 

『私はそうは思えませんけど……はぁ、マスターの中ではそれはすでに決定事項なんでしょう?』

 

「わかってるじゃない♪ じゃ、お願いね」

 

『はいはい……』

 

溜め息混じりにランドグリスは返事を返して魔法陣を展開する。

その上に立っている女性は魔法陣の光に徐々に包まれていき、身に付けている衣服が変わっていく。

完全に光が収まったとき、女性の衣服は先ほどの真っ黒なものではなく、学園の女子生徒が着る制服になっていた。

その制服を女性は機嫌良さ気に見回してその場でくるりと一回転し、なぜかポーズをとる。

 

「どう? 似合ってる?」

 

『はいはい、似合ってますよ〜』

 

かなりおざなりな言葉でランドグリスはそう返すが女性は機嫌がいいのかニコニコと笑みを浮かべるだけ。

そんな女性に一体何が嬉しいのかわからないランドグリスは溜め息をつきながら呆れるばかりだった。

 

「じゃ、いこっか」

 

『はぁ……どうなっても知りませんからね』

 

嬉しそうな笑みを浮かべながら歩き出す女性にランドグリスは絶えることなき溜め息をつきながらそう言う。

そして女性は倉庫の出入り口の扉に手を掛けてゆっくりと開け放ち、外へと出て生徒たちの中に紛れ込んだ。

こうして、女性とランドグリスは学園への潜入を果たすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!2〜永久に語り継がれし戦士たち〜

 

第四話 体験授業が生む出会い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入学式から一夜明けた次の日の午前。

カールとレイナ、静穂、そしてひょんなことから友達となったリゼッタの四人は体験授業――といっても実際は入学式の説明の追記なのだが――のために学園内を回っていた。

学園へ来たのが昨日初めてということでほとんど学園内の構図を知らない静穂以外の一同は迷いながらも体験授業に顔を出していっていた。

学園に子供の頃からいる静穂に案内を頼めばいちいち迷わなくてもいいのだが静穂曰く、初めての場所で迷いながら探すのも楽しさの内だそうだ。

ともあれ現在、カールたち一同が回り終えたのは白魔法、錬金術、自然魔法の三つだ。

残りは黒魔法と戦闘術だけなのだが、一同の中で二人ほど黒魔法の体験授業へ行くのに足が重たくなるものがいた。

まあ名前を挙げるとカールとレイナなのだがなぜ足が重たくなるのかと言うと簡単な話で、入学式でのミラのやったことや見た感じ性格に対する恐れからだ。

見た感じの性格はかなりきつそうに見え、加えて入学式での出来事を思うとかなり過激な性格ではないかと容易に想像できてしまう。

だからと言って行かないわけにも行かず、恐れはあるもののカールたちは黒魔法の講義室へと向かった。

まあ向かったと言っても自然魔法の講義室から斜め右の部屋が黒魔法の講義室なので実際は一分と掛かってはいない。

 

「は、入るぞ……」

 

講義室の扉に手を掛けて皆にそう言い、カールは恐る恐るといった感じに扉を開く。

扉を開いた先にある講義室内は他の講義室とほぼ変わらないのだが、ミラがいるのだと思うと他のとこよりも緊張してしまう。

そして扉を開けたときと同じく恐る恐る部屋の中に入ったカールに続き、レイナと静穂、リゼッタも中へと入っていく。

カールとレイナに影響されたのか緊張感が漂う一同が室内に入ったと同時に突然開いていた扉がバタンと閉まり後ろから声が聞こえてきた。

 

「ようやく来たわね」

 

「「「「っ?!」」」」

 

扉が突然閉まったのにもそうだが、同時に聞こえてきた声に一同はわかりやすいほど驚いていた。

そしてばっと驚くほど素早い動き(主にカールとレイナ)で後ろを振り向くと、なぜか恐怖が感じ取れる笑みを浮かべたミラがいた。

まあ恐怖を感じているのはカールとレイナだけなのか、ミラの姿を見た静穂とリゼッタは口々にミラへと挨拶をする。

それにミラは笑みを浮かべたまま簡単に返し、ちらっとカールとレイナに視線を向けて口を開く。

 

「あなたたちは私に何もないのかしら?」

 

「「え、あ、こ、こんにちは、ミラ先生」」

 

慌てて挨拶をしたカールとレイナにミラは満足そうにして静穂やリゼッタのときのように簡単に返す。

そして体験授業を始める前の前座というようにミラは笑みを浮かべたまま一同に質問をするために口を開く。

 

「私は黒魔法とはどういったものと説明したか、覚えてるかしら?」

 

「え、えっと……」

 

ミラの質問は一同にとって突然だったのか面を食らったような表情をしてすぐに考え始める。

だがしばし考えてはみたが、カールもレイナも静穂もミラが入学式で説明したことをほぼ忘れてしまっていた。

まあ説明よりも刺激的な出来事が起こったのだからそれも仕方の無いことではある。

しかし、ここで間違ったり適当な事言えば間違いなく何か制裁を受ける。

だからと言って素直に忘れたと言えばそれはそれで制裁を受けること間違いなしだ。

故に一同は何とか思い出そうと必死になるが忘れたものはそう簡単には思い出すことは出来はしない。

そして思い出せない焦りとどんな制裁がという恐怖から一同の必死さがかなり増してくる中、唯一説明を覚えていたリゼッタが口を開く。

 

「剣や銃と同じで人を容易に傷つけることのできるもの、だったと思います」

 

「ん……正解よ」

 

リゼッタが言ったことに頷いたミラに一同はほっと息をつく。

そのため一瞬ミラが残念そうな顔をしたのに気づくことはなかったのだが、そのほうが一同にとっては幸せだろう。

 

「入学式でも言ったとおり、黒魔法とそれらはほぼ大差ないわ。 剣で斬りつければ傷を負うのと同じで魔法を放てばそれなりの傷を負わせることになる。 それは使いどころを間違えればただの凶器にしかならないもの。 だから、この講義を受けるならそれ相応の覚悟を持って挑むことね」

 

ミラの入学式の説明に対する簡単な追加の説明に一同はごくっと喉を鳴らして頷く。

一同が頷いたのを見て満足したようにミラも小さく頷く。

 

「じゃあ体験授業はこれでお終い。 あなたたちが講義を受けに来るのを楽しみにしてるわよ」

 

笑顔でそう言うミラにリゼッタ以外の三人は一筋に汗を流しつつ頷いて講義室を出ようとする。

だが一同が出ようとした時、ミラが何かを思い出したかのように小さく声を上げて一同、というよりも静穂に制止の声を掛ける。

 

「静穂、ちょっといいかしら」

 

「ひゃい! な、なんですかっ!?」

 

「……何をそんなに驚いてるのよ、あなたは」

 

「あ、あははは、な、なんでもないですよ。 それで、なんですか?」

 

「まだ他に回らないといけない体験授業はあるわよね?」

 

「あ、はい、あと一つだけ」

 

「じゃあ、その途中でもしセリナを見かけたらここに連れてきてくれないかしら?」

 

「いいですけど……まさか、また?」

 

子供の頃から学園にいるため、ミラたちとの付き合いも長い静穂はそれだけでだいたいのことを悟り聞く。

それにミラはかなり疲れたような溜め息をつきながら肯定の意を示すように頷く。

 

「ええ……学園を改築してもう結構建つのに、あの子のあれはまだ続いてるみたいだから」

 

「あ、あははは、わかりました〜。 見かけたら連れてきますね」

 

「お願いね」

 

ミラのその言葉に静穂は頷いて皆と共に講義室を出て行く。

講義室を出て扉が閉まったところで口に出して聞きはしなかったがなんのことか疑問に思っていたカールは静穂に先ほどのことを聞く。

そしてそれはカールだけではなく他の二人も同じなのか興味有り気な視線を向けつつ静穂の答えを待つ。

聞かれた静穂は先ほどと同じく苦笑を浮かべつつミラとの会話について詳しく話し出す。

 

「えっと、セリナって子はミラ先生の妹……みたいなものかな? それで、そのセリナさんは困った癖を持っているのですよ」

 

「癖?」

 

「はい。 どんな癖かというと、どんなに慣れたところでもすぐに迷ってしまうという迷子癖です。 で、さっきのミラ先生の話によるとセリナさんがまた迷子になっちゃったみたいで……」

 

「ああ、それで見かけたら連れてきてってことね」

 

「そうなのです! でも〜……実際どこにいるかはまったくわからないから探しようはないんですけどね」

 

「だから、見かけたら、なんじゃないかな?」

 

「? どういうことですか?」

 

「つまり、見つけたら連れてきてというだけで絶対に探し出してくれというわけないじゃないってこと」

 

「ああ〜、なるほど〜」

 

納得したように頷く静穂に今度はカールたちが苦笑する。

まあそんなこんなで何事も起こらずに黒魔法の体験授業を終えた一同は歩いていく。

残す最後の体験授業である戦闘術の講義場、修練場へと向かって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言って、修練場を探して彷徨っていた間も一同はセリナを見かけることはなかった。

学園全体を探したわけではないのでどこかにはいると思うが、全体を探し回れば体験授業を受ける時間がなくなる。

故に少し悪いとは思ったが体験授業を優先することにし、一同は修練場へと入っていった。

そして入った瞬間に一同は目の前に広がる光景に驚き唖然とする羽目となった。

 

「すご……」

 

カールは目の前の光景に思わずそう漏らしてしまう。

まあ驚くのも無理はないだろう。

一同の入った修練場には入学生のほとんどがいるのではと思えるくらいに人で溢れかえっていた。

しかもこれだけ人がいるにも関わらず、先ほどのカールの声が響いてしまうくらい周りは静まり返ってる。

我に返った一同はいったい何事と思い、そこにいる人たちが視線を向けるほうを見てみる。

 

「はっ!」

 

「てぇ!」

 

「……」

 

視線の先、修練場の上では三人の人物が二対一という状況で剣(と言っても木刀だが)を交えていた。

その三人のうち一人は戦闘術の講師である恭也だとカールたちはすぐに分かるが、その恭也と剣を交えている二人には見覚えがなかった。

一人はどこか恭也に似ている顔立ちと髪型した少年、そしてもう一人は長髪で恭也にも似てはいるが別の誰かと重なる顔立ちの少女。

ただ似ていると言うだけで見覚えがない二人の少年少女は恭也に向かって両手に持っている短めの木刀を振る。

対する恭也はそれらをいとも簡単に捌き、避け、時には反撃をする。

剣を交えるというよりも鍛錬に近いそれは激しさを感じさせるも、とても綺麗な舞のような感じだった。

そしてその光景に一同がしばし見惚れること数分、恭也の握る木刀が二人の喉元に突きつけられたとこでそれは終わりを告げる。

終わると同時に二人は恭也に、ありがとうございました、と言い、恭也はそれに頷いて木刀を納める。

途端、静まっていた周りから耳を押さえたくなるほどの盛大な拍手が巻き起こる。

それに二人の少年少女は恥ずかしそうにしていたが、恭也はそう思っているのかいないのかいつもの表情だった。

そして、拍手が終わったと同時にいろいろと講義に関する質問やらをするためにほとんどの生徒が恭也に駆け寄る。

ちなみにといってはあれだが、少年と少女の二人にも可愛いだのかっこよかったなどと言って近づく生徒もいた。

 

「恭兄も相変わらず人気だね〜」

 

その光景を見つつ静穂がそう呟くが一同には聞こえてはいなかった。

まあ騒がしいというのも理由にあるが、一番の理由は先ほどの鍛錬を見て呆然としていたから。

恭也の強さに関しては驚きはしたが戦闘術の講師ということで納得はできる。

だが、その恭也と対峙していた少年と少女に関しては驚きを隠すことは出来ない。

見た目の年齢からして十とちょっとというくらいの子供が恭也に軽くあしらわれていたとはいえあそこまでの強さを見せたのだ。

その強さはおそらく接近戦を得意するレイナ以上のものであるのだから驚くなというほうが無理な話だ。

そんなわけで、驚きのあまりに呆然とする一同(静穂以外)は騒がしさが静まるまでしばしそのままなっているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから三十分後、やっとのことで騒がしさも静まり生徒たちの一部は修練場から出て行った。

だが、まだ結構な生徒たちが残っており、いろいろと聞かれ続けて恭也の表情には若干の疲労が見えていた。

まあ講義に関する質問だけならいいのだが、生徒たちの質問には恭也個人について聞くことが多々あった。

そしてそれは少年と少女の二人に関しても同じだが、こちらは恭也とは違い恥ずかしさからか顔を赤くしながら俯いているだけだった。

困っているなら用事があるとか言えばいいのだが、恭也も、おそらくその二人も人がいいのか邪険にはできない様子だった。

しばらくその光景を見ていた静穂は困った状況に陥っている三人に救いの手を差し伸べるべく声を掛けることにした。

 

「恭兄〜!」

 

そう大声で呼ぶと恭也と少年少女は静穂のほうを向き、明らかに助かったというような顔をする。

そして質問をし続けていた生徒たちに一言二言言って静穂のところへと歩み寄ってくる。

ちなみにその際、静穂は生徒たちからの嫉妬というか殺意というか、そんな視線を向けられていたが気にしてはいなかった。

 

「よく来たな、静穂。 こう言ってはあの子たちに悪いんだが、正直助かった」

 

「「ありがとうございます〜……」」

 

「どういたしまして♪ でも恭兄、僕だったから良かったけどミラ姉だったらきっと凄いことになってたよ?」

 

「確かにな……質問やらをされてただけとはいえ、あんなところを見られたら死者がでかねん」

 

「あはは、否定できないところが怖いよね〜。 でもさ、たぶんあの人たち、質問するだけが理由じゃないと思うよ?」

 

「? 他に何かあるのか?」

 

「やっぱり気づいてないね〜……さすが相変わらずの鈍感さん♪」

 

「む……」

 

静穂の言葉に恭也はやや憮然とした表情をするが、もう言われ慣れているためすぐに元の表情に戻る。

というか、言われ慣れるぐらいなら鈍感な部分を直せよと言いたいが、恭也にそれを求めるのはきっと酷な話なのだろう。

 

「それで、静穂と一緒に来たのは後ろの三人か?」

 

「うん。 右からリゼッタさん、レイナさん、それと」

 

「カール……だったか?」

 

「えっと……やっぱり恭也先生も?」

 

「まあ、カールは今年の入学生の中で唯一の男子だからな。 と、一応もう一度自己紹介しておくが、俺は戦闘術の講師、高町恭也だ」

 

「高町蓮也です。 よろしくお願いします」

 

「私は高町綾菜です。 同じくよろしくお願いします」

 

「あ、ご丁寧に……って、高町?」

 

恭也に続いて礼儀正しく自己紹介とお辞儀をしてきた少年―蓮也と少女―綾菜にカールは返そうとする。

だが、そこで二人が名乗った姓と恭也が名乗った姓が同じであるということに気づき、思わずオウムのように尋ねてしまう。

そしてそれにはカールだけでなくレイナとリゼッタも気づいてまさかというような顔で恭也を見る。

恭也はそれに、ああ、と呟いて疑問に対する答えを返そうとするがそれより先に静穂が代わりに答える。

 

「蓮也くんと綾菜ちゃんは恭兄の子供さんなのですよ♪」

 

「「「……」」」

 

静穂の言葉になんとなく予想はしていたもののカールとレイナは唖然としてしまう。

そして意識してか、はたまた無意識か恭也と二人を見比べてしまう。

リゼッタに関しては驚きはしているが静穂の言葉に、なるほど、というように頷くだけだった。

だが唖然としていた二人はそうもいかず、我に返ると同時に……

 

「「えええええぇぇぇぇぇぇ!!!!」」

 

はた迷惑な大絶叫を響かせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

驚きと絶叫が静まって数分後、今だ信じられないのかちらちらと恭也と二人を見比べるカールとレイナ。

まあ恭也の見た目からして二児の、しかも中学生くらいの子供がいるなんて信じられないのも無理はないだろう。

それほどまでに恭也の見た目は年齢と合わないと断言できるほど若々しいのだ。

 

「二人とも、他の人の迷惑になるからあまりそんな大声をあげるものじゃないぞ?」

 

「「う……すみません」」

 

恭也に苦笑混じりで言われて二人は顔を赤くして縮こまる。

そんな二人に静穂も驚くのも無理はないと思いながらも堪えきれず笑っていた。

静穂ほどではないにしろリゼッタや蓮也、そして綾菜に至っても同じくクスクスと小さく笑みを浮かべていた。

それから更に数分経って、まだ若干顔を赤くしながらレイナが口を開く。

 

「恭也先生って、結婚してたんですね。 それにこんな大きな子供まで……正直驚きました」

 

「そうか? 俺としては歳相応に見えるつもりなんだが……」

 

「「「「全然見えません」」」」

 

子供の年齢からして恭也は少なくとも三十を超えている年齢だと推測した四人は口を合わせて否定する。

その否定に恭也は、む、と言って憮然とした表情をし、蓮也と綾菜はまたもクスクスと笑っていた。

 

「まあともかく体験授業に移るが……皆は戦闘術というものをどういう風に思っている?」

 

その質問はミラと似たようなものであってどこか違うものだった。

ミラの場合は入学式でも述べたことを覚えているかといういわば一般的な知識として知らなければならないという質問。

対して恭也の場合はカールたちが戦闘術をどんなものと思っているのか、カールたち自身の思い描く戦闘術について聞く質問。

ミラの質問の場合は入学式で聞いていればいい話なのだが、恭也の場合は自分自身で考えなければならないためある意味ミラよりも難しい質問だった。

まあミラのように間違えたりしたら制裁が飛ぶわけでもないので気楽と言えばそうだが、それでもカールたちは真剣に考え口を開く。

 

「魔法を主とする人の前衛に立って戦うための術……かな」

 

「ふむ……確かにそれもあるな。 武器の扱いを学び、自身の体を鍛えて前衛に立って戦う……だが、どういった答えにしてもある一つのことに行き着くんだ。 それが何か、わかるか?」

 

「えっと……守ること、かな」

 

「その通りだ。 君たちが出した答えにしろ、他の答えにしろ、すべてはその一言で成り立っている。 どんな理由、どんな目的であっても守りたい何かというのは必ず存在すると俺は思っている。 そして裏を返すと、それがない者が振るう武器や拳はただの凶器でしかないともな。 だから、この講義ではそういった思いのある人に思いを叶えるための力と技を教える。 まあだからと言ってそういったものがない人は受けるなというわけではない。 入学式でも言ったと思うがな」

 

四人は淡々と語る恭也の説明に言葉を発することなく聞き入る。

蓮也と綾菜もよく聞かされている内容ではあるものの四人と同じく胸に刻み込むように聞き入っていた。

そうして恭也は真剣な顔で語り続け、説明の大半が終わると同時に微笑みを浮かべて締めに入る。

 

「まあこの話を聞いて少しでも興味を持ったなら受けてみてくれ」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

「ん、いい返事だ。 では、戦闘術の講義はこれで終わりだ。この後はどこの体験授業に回るんだ?」

 

「あ、この戦闘術の講義で全部終わりです」

 

「む、そうなのか……」

 

「誰かに用事でもあったんですか?」

 

「ああ、ちょっとな……黒魔法の体験授業がまだならミラに伝言をと思ったんだが」

 

「伝言? どうせこの後何もないし伝えてこようか?」

 

「ふむ……なら、頼む」

 

「わかった♪ で、何を伝えればいいの?」

 

「あ〜、今日は少し遅くなりそうだから先に寝ててくれ、と言っておいてくれ」

 

「オッケー。 って、これって蓮也くんか綾菜ちゃんに頼めばいいんじゃないかな?」

 

「いや、二人でもさすがにこの時間学園内をうろつかせる訳にはいかないし、それに伝えるのが遅いと拗ねられるからな」

 

「なるほど〜……尻に敷かれてるね〜」

 

静穂の言葉に恭也は苦笑で返す。

そして、そこで静穂の後ろにて先ほどの蓮也と綾菜の二人が恭也の子供と明かされたときのような表情をしたカールたちに気づく。

 

「どうしたんだ?」

 

「あ、いえ……もしかして、なんですけど」

 

「なんだ?」

 

「恭也先生の奥さんって……ミラ先生だったりします?」

 

なぜか恐る恐ると言ったように尋ねるカール。

まあ尋ねはしたが内心では確信に満ちていたりするのだが。

そしてカールと同じような表情をしているレイナとちょっとだけ興味ありのような顔をしたリゼッタが聞き耳を立てる。

そんなカールやレイナの心境などを恭也が知るはずもなく平然とのたまった。

 

「ああ、そうだが……よく分かったな」

 

恭也の平然と言ったその言葉にまたもカールとレイナは唖然とする。

だがそれも数秒、我に返った二人は先ほどと同じように……

 

「「ええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」」

 

迷惑極まりない大絶叫を響かせるのだった。

 

 


あとがき

 

 

ということで体験授業の話でした〜。

【咲】 恭也とミラの子供が登場したわね。

まあね。 元々この話で出す予定だったし。

【咲】 でも、出たにも関わらずあまり出番、というか台詞がないのはどういうこと?

あ〜、それはまあしょうがないということで。

【咲】 なにがよ?

だって、今回は体験授業のお話だからさ……あの二人が目立ってしまうのはどうかと。

【咲】 別にそれはそれでいいじゃない。

そうかもしれんけど……まあ、これでできてしまったものは仕方ないということで。

【咲】 はぁ……。

じゃ、じゃあ次回についてだけど、次回は体験授業も終えたということで……。

【咲】 ことで?

恒例、深夜の冒険へ!!

【咲】 恒例かしら?

そこは突っ込まないの。 まあその冒険でまたも出会いと呼べることがあるわけだよ。

【咲】 出会い? ……ああ、だいたい予想がついたわ。

まあ実際誰と出会って何が起こるのかは次回をお楽しみに!!

【咲】 今回はまだ葉那が帰ってきてないから実験コーナーはおやすみということで。

また次回会いましょう〜ノシ




謎の少女も学園へと侵入して。
美姫 「とりあえずは体験授業は概ね無事に終了ね」
で、深夜の冒険へ。
美姫 「そこで何が起こるのかしらね」
さてさて、何だろうね〜。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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