メンアットトライアングル!〜対なる心、継承せし二刀の剣〜

 

【第二部】外伝之弐 狂気の所業

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは語られることのないレイとスレイの過去の出来事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸せだった二人の日々が崩れる予兆を感じさせた最悪の事件。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大量の人間の死、そして見る影もないほどに破壊された街。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは狂気に狂った、たった一人の人間の手によって行われた所業。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、誰の耳にも届くことのなく隠蔽された事件。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これはそんな事件を目の辺りにした二人の過去の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜遅くといっていい時間の施設の一室。

そこのベッドでレイとスレイは対照的な状態で眠りについていた。

掛け布団を顎の下の部分まで掛け、規則正しい寝息を立てているスレイ。

反対に掛け布団を跳ね除けるようにしてだらしない姿勢で眠っているレイ。

これだけで性格やらなんやらが見て取れる。

 

「……」

 

そんな二人の眠る部屋に一人の人物が入ってくる。

その人物は二人の近くによると小さく声を掛ける。

 

「レイ、スレイ……起きてくれ」

 

「ん……」

 

掛けられた声にスレイは眠たげな目を擦りながら上体を起こす。

そして首を傾げながら声を掛けてきた人物に視線を向ける。

ちなみにレイは今だ寝たままだ。

 

「どうしたのですか、お父様」

 

「夜遅くにすまないけど、近くの街に行かないといけないから出かける準備してくれないか」

 

「はあ……何をしに行くのですか?」

 

「いや、ちょっと、ね……」

 

「?」

 

その人物―ラウエルの歯切れの悪さにスレイは再度首を傾げながらもベッドから立ち上がる。

そして寝巻きから着替えるために部屋の隅のタンスに歩いていき、中から服を取り出す。

取り出した服にぱぱっと着替えるとすぐにラウエルの傍へと戻り、準備ができたというふうに視線を向ける。

 

「レイ……すまないけど起きてくれないか」

 

「ん〜……もう食べられないよ〜」

 

レイの体を軽く揺すって起こそうとするが、レイはなんともお決まりの寝言を呟くだけ。

ラウエルはまったく起きる気配を見せないレイに困った顔をして、どうしたものか、と悩む。

すると困った顔をしていたラウエルにスレイが、私に任せてください、と言ってレイの近くに寄る。

 

「レイ、いい加減に起きなさい。 置いていきますよ?」

 

「いいよ〜……」

 

返答を返してきてる辺り本当に寝てるのか疑問である。

その返答を予測していたスレイは次に用意していた言葉を口にする。

 

「じゃあレイはお留守番ですね。せっかくお父様とお出かけですのに……残念ですね」

 

「ん〜…お父さんと……お出かけ!?」

 

その一言でレイはばっと飛び起きすぐさまタンスへと走る。

そして今までの中で最速とも言える速さで着替え二人の前に立って満面の笑顔を浮かべる。

 

「じゃ行こ、お父さん!」

 

「あ、ああ、そうだね」

 

唖然としていたラウエルはレイの言葉に反射的にそう返す。

ラウエルがそう返すとレイは笑顔を浮かべたまま早く早くというようにラウエルの手をとって歩き出す。

引っ張られるままに部屋を出て行くラウエルとその後を静かにスレイはついていく。

この後怒るであろうレイをどうやって言いくるめるか、ということを考えながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

施設を出て歩きながらスレイは何しに街へ行くのかを再度ラウエルに尋ねる。

レイもワクワクしながらラウエルの返答に耳を傾ける。

 

「ああ……実はね」

 

ラウエルは若干暗い表情で説明を始める。

曰く、数時間前にある物を捜索に行っている施設の研究員の一人から連絡があったのだ。

その連絡は簡単なもので、施設付近の街で捜索物を見つけた、というものだった。

だが、たったそれだけを告げてその研究員からの連絡は途絶えてしまった。

それがラウエルに不吉な予感を感じさせ、調査に赴くため二人を起こし同行するように言ったというわけだ。

 

「む〜……何よそれ〜」

 

説明を聞き終えた後、予想通りレイはあからさまに不機嫌になった。

お出かけと聞いて遊びにいくことを想像していたのだからまあ仕方ないといえる。

スレイがああやって起こした手前こうなるのはラウエルも予測していた。

だが、予測していたからといってどう機嫌取りをすればいいのかわかるわけではない。

また今度連れて行ってあげる、というご機嫌取りは結構頻繁に使っているからこの場では効果はない。

しかし、それしか方法が思いつかないからこそラウエルはかなり困った顔をする。

そんなラウエルに先ほどのように小さく、お任せください、と言ってスレイは用意していた言葉を口にする。

 

「ほら、そんなに拗ねないの。 レイがそんな態度を取っていたらお父様も困ってしまうでしょ」

 

「だって、折角お父さんと遊びに行けると思って楽しみにしてたのに……」

 

「遊びではないですけどお出かけには変わりないでしょ?」

 

「全然違うよ……スレイの嘘つき」

 

「はいはい、嘘ついてごめんなさいね」

 

「む〜……全然心が篭ってない」

 

「明日の私の分のおやつ上げるから」

 

「……ほんとに?」

 

スレイは確認というように聞き返してくるレイに小さく頷く。

すると先ほどまでとは打って変わりにっこりと笑みを浮かべて、じゃあ許す、と言う。

それを見てスレイは表面上はいつも通りだったが内心では、ちょろいですね、などと黒いことを思っていた。

まあそれにレイが気づくわけもなくスキップしそうなほどご機嫌な様子で歩いていた。

二人のそのやり取りをただ見ていたラウエルはというと見た目普通どおりだったスレイの若干浮かんだ口元の笑みを見て…

 

(育て方を間違えたかな……?)

 

などと考え、けっこう深刻に悩んでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街へと辿り着いた三人は違和感を感じた。

街路を挟むように並んで立つ建物、そのどれにも明かりは灯されてはいない。

それは夜遅いのだから分かる。

街路には誰一人として歩いてはいない。

それも当然のことだと思う。

違和感を覚えるのはもっと違うことだった。

 

「血の匂いが……します」

 

「それにまったく人の気配が感じられない。 寝てるにしても少しくらい気配がするものなのに」

 

スレイとレイがその違和感を口にする。

街に漂う血の匂い、そしてまったく感じられない人の気配。

それはまるで死の街といってもおかしくない感じだった。

 

「とりあえず……少し歩いてみよう。 血の匂いはともかく、気配が感じられないのはここだけかもしれないし」

 

「「はい(うん)」」

 

そう言って歩き出すラウエルに二人は頷いてついていく。

静かな街に三人の足音だけを響かせて、ゆっくりと気配を探りながら歩いていく。

 

「ないね……気配」

 

呟くレイに二人は頷いて返す。

いくら歩こうとも街からは人の気配を感じることはできなかった。

それどころか、血の匂いすらも消えることはない。

明らかにおかしい。

三人がそう思った瞬間だった。

 

「「「っ!!?」」」

 

少し前方に建つ建物の扉が突如吹き飛んだ。

スレイとレイは突然のそれにビクッと体を震わせて驚き、ラウエルも二人ほどではないが若干の驚きを浮かべて警戒する。

三人がそんな反応をすると同時に扉の吹き飛んだ建物から足音を響かせて一人の男が出てくる。

出てきたのが人間であることにスレイとレイは、なんだ、と安著したように溜め息をつく。

だが、ラウエルはその建物から出てきた男の違和感に気づき、警戒を強める。

 

(生気が感じられない……それに足取りもどこかおかしい)

 

ラウエルの感じたその違和感は二人もすぐに気づく。

普通とは到底言えないほどおぼつかない足取り、そして人間のはずなのにまるで感じられない生気。

明らかにまともではないということが感じ取れる。

 

「……」

 

歩み寄ってきたその男の姿が完全に目視できる範囲まで近づく。

そしてその男の姿、そしてその男の手に持つものに三人は驚愕する。

服の元の色が分からないほど大量に返り血を浴びて真っ赤に染まる姿。

そして手に持つのはおそらくその返り血の元となった人の死体。

死体は体中を無残に切り刻まれ胸に一刀の剣を突き刺され、さらには首さえも落とされた惨殺死体。

そのどれもがゾッとするような光景だった。

 

「「う…」」

 

二人は同時に嘔吐感を覚える。

その男から嫌でも匂ってくる血の匂い。

その男の持つ無残としか言いようのないほどの惨殺死体。

どちらもまだ幼い少女には耐え難いものだった。

普通なら即倒してもおかしくはないだろう。

 

(まさか……こんなことになるとは)

 

ラウエルはその二つにも驚いていたが、それに加えてあるところに驚いていた。

それはその男が自分の知っている人物だということ。

何を隠そうその男はある物の捜索をさせていた施設の研究員の一人。

数時間前まで自分と話し、忽然と連絡が途絶えてしまった人物なのだ。

 

「……」

 

その男は三人の目視できる位置で止まり手に持つ死体から剣を抜く。

それと同時に死体から流れ出る血に男は抜いた剣を当てる。

するとその剣は驚くことに流れ出る血を吸収し始めた。

スレイとレイはそのことに驚愕の表情を浮かべ、ラウエルはあることを確信する。

 

(やはり……血の魔剣、ダーインスレイヴ)

 

それはラウエルが監視、管理をしている五つの魔剣。

その内で唯一の所在のわからなかった最後の一本。

ラウエルは男の手に持つ魔剣がそれであるとそのことで確信できた。

それと同時にもうその男が助からないということも。

 

「レイ、スレイ……剣化を」

 

ラウエルが小さくそう言うと二人は頷いて光を放ち剣化する。

自身の手に剣化したスレイとレイを握り、ラウエルは動き出す。

その男を、少しでも早く解放するために……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狂気の事件から一夜が明けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激闘の末に勝利したラウエルは目の前の死体を静かに見下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは魔剣の意志に見入られ操られた、悲しき男の死体。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく死体を見下ろすと、ラウエルはスレイとレイと共に魔剣を持って街を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜が明けても、街には人の姿が見られることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜなら、この街には生存者がいないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただの、一人も……。

 

 


あとがき

 

 

外伝之弐は本編でも出てきた魔剣のお話です。

【咲】 暗いわね〜。

この魔剣が関わるとどうしてもこうなってしまうのです。

【咲】 狂気の魔剣、だっけ?まあ確かに無理だろうけど。

今回も前半とのギャップがあるようにしました。

【咲】 ギャップを作る意味があるの?

いや、特には。

【咲】 おばか!!

へぶっ!!

【咲】 まったく……で、思ったんだけど、なんで男は剣に乗っ取られたのにラウエルは無事なわけ?

あ〜……それはまあ本編でも出る予定だけど、あえて言っちゃうとラウエルの意志が強いから乗っ取れないということだ。

【咲】 魔剣に乗っ取られない意志の強さっていうのもすごいわね。

まあ彼は二刀の魔剣の製作者だしね。

【咲】 あまり理由になってないわね。

あ、あははは……じゃ、今回はこの辺で!!

【咲】 また本編で会いましょうね〜♪




あの二人にもやっぱり色んな過去があるんだな。
美姫 「そうよね」
にしても、街一つが全滅。
恐ろしい魔剣だな。
美姫 「ぞっとするわね」
いや、本当に。
本編の方も楽しみにしてます。
美姫 「それじゃあ、まったね〜」



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