メンアットトライアングル!〜対なる心、継承せし二刀の剣〜

 

【第二部】外伝 魔剣の過去

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは賢者の石事件が起こるよりもずっと前のお話。

二刀の魔剣が継承者を持たず、まだ二人が自身の存在の意味を知らない。

それでも、二人が継承者と共にいたときと同じくらいの幸せを感じていた。

そんなときのお話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヨーロッパのどこかの山にひっそりと建つ小さな施設。

その施設の庭に、小さな二人の少女の姿があった。

一人は白いドレスのような服を着て、腰元まで伸びるほどの長く白い髪を両サイドでまとめた少女。

そしてもう一人はその白の少女とは対照的に黒いドレスを纏い、同じくらい長い黒の髪をポニーテールのようにまとめた少女。

その二人の少女が対照的なのは姿だけでなく、雰囲気や表情も対照的だった。

白の少女は庭に置かれる椅子に腰掛け、無表情のまま静かに本を読んでいる。

反対に黒の少女は芝生の上に寝転がりながら鉛筆でスケッチブックに何かを書いている。

その表情は白の少女と違い、満面の笑みが浮かんでいた。

 

「できた〜♪」

 

黒の少女は鉛筆を置きスケッチブックを両手で持つ。

そしてスケッチブックを持ったまま立ち上がり、白の少女のところへ駆け寄る。

黒の少女が駆け寄ってきたことに白の少女は本を開いたまま顔だけを向ける。

 

「何ができたの?」

 

「えへへ〜、ほら!」

 

スケッチブックの開かれたページを白の少女に見せる。

白の少女は興味深そうにそのページに目を向け、若干顔を引きつらせる。

 

「これは……なんて名前の魔物?」

 

「魔物じゃないもん!! お父さんの絵だもん!!」

 

頬を膨らませて黒の少女は訂正を口にする。

その訂正の言葉に白の少女は顔を顰め、再度その絵を見る。

そこに描かれているのは見方によっては人に見えるかもしれないが、白の少女から見たら化け物にしか見えなかった。

顔を顰めながらじっと絵を見る白の少女を黒の少女はわかったかというように自信満々な顔で見ている

 

「……私にはどこからどう見ても魔物くらいにしか見えませんね」

 

「だから魔物じゃないもん!! スレイの馬鹿!!」

 

「レイ……またあなたはそんなはしたない言葉を」

 

本を閉じて溜め息をつきながらスレイと呼ばれた白の少女は説教を始めようとする。

だが、その説教は施設の扉から出てきた人物によって遮られることになった。

 

「おや? どうしたんだ、二人とも」

 

その人物は白衣のような服を身に纏った歳にして四十台前半といったくらいの男。

その男の登場にレイと呼ばれた黒の少女はスケッチブックをスレイからひったくるように奪って男に駆け寄る。

 

「見て見て、お父さんの絵を描いたの!」

 

「絵を? どれどれ……」

 

駆け寄ってきたレイに微笑を浮かべ頭を撫でながらスケッチブックを覗き込む。

そしてそこに描かれている絵を微笑を崩すことなく見続ける。

 

「な、なかなか個性的な絵だね」

 

そう評価する男の額からは一筋に汗が流れる。

描かれた絵に対してどう評価していいのか迷ったというのが丸分かりである。

 

「そう? えへへ〜」

 

だが、それが分からず評価されたことにレイは嬉しそうな顔をする。

その表情に男は内心でほっと息をつく。

 

「お父様、お仕事は終わったのですか?」

 

閉じた本を椅子の上に置いてスレイは二人に近寄りながら男に尋ねる。

男はレイを撫でていた手を下ろしてもう片方の手で頭を掻く。

 

「やっと一段落ついたところだよ。 だからちょっと二人の様子を見るついでに外の空気を吸おうと思ってね」

 

「そうですか……お疲れ様です、お父様」

 

「ありがとう、スレイ。 でも、二人にはほんとすまないと思うよ。 いつもいつも退屈ばかりさせているんだから」

 

「ほんとだよ〜。 スレイはいっつも本ばっかり読んでるし、お父さんはお仕事で忙しいから構ってくれないし……ほんと退屈〜」

 

「しょうがないでしょ、レイ。 お父様のお仕事を私たちのわがままで邪魔をするわけにはいかないのですから」

 

「それはわかるけど……でも、たまにはお出かけとかしたいよ〜」

 

不満そうな顔をするレイに男は困ったような笑みを浮かべる。

 

「ほんと、すまんな。 今やってるのが終わったらお出かけでもなんでもしてあげるから今は我慢しててくれないか?」

 

「ほんとに?」

 

「ああ」

 

「じゃ、退屈だけど我慢する〜」

 

不満そうな顔から一転して笑みを浮かべるレイ。

それに男はほっとした表情を見せる。

 

「じゃ、そろそろ仕事に戻るから、二人ともいい子で遊んでるんだぞ?」

 

「は〜い!」

 

「お仕事頑張ってください、お父様」

 

そう返す二人に男は微笑を浮かべ、施設の中に入っていく。

男の姿が施設の中に入り見えなくなるまで、二人は手を振りながら見続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

施設の中に入った男は研究室へと赴く。

研究室の扉には「魔科学研究室」と書かれた表札が掛けられていた。

そしてその下にはこの部屋の主である男の名前「ラウエル」と書かれていた。

その研究室の中で男―ラウエルは頭を掻きながら机の上で何かを紙に書いている。

 

「ふぅ……」

 

書く手を止めて小さく息をつく。

そして椅子を回転させて立ち上がり後方にある物に近寄ってそれを見る。

ラウエルの視線の先には展示されるようにガラスのケースに入った四本の剣があった。

そして四本の剣の横にはそれぞれ剣の名前を記された表札が置かれていた。

ラウエルの視線は上から順に剣と表札に向けられていく。

 

【壊の剣 エッテタンゲ】

 

【忌の剣 スケヴニング】

 

【刹の剣 テュルフィング】

 

【暴の剣 リディル】

 

展示されている剣は上からそう書かれていた。

ラウエルはそれを見終えるとまた小さく溜め息をつく。

 

「神が創りし五つの魔剣……か」

 

そう呟きながらラウエルは一つだけ、表札のみしかない空白の部分に目を向ける。

そこの表札にはこう書かれていた。

 

【血の剣 ダーインスレイヴ】

 

その部分しばらく目を向け、溜め息と共に目線を反らし元の位置に戻って椅子に座る。

 

「太古より封じられていたはずの魔剣がなぜ今になって世に現れたのか……」

 

呟きながら机に置かれる資料に目を通す。

そしていくつかの資料に目を通した後、本日何度目かの溜め息をつく。

 

「いずれも一つの町を壊滅させてしまうほどの事件を引き起こした……やはりこの背後には誰か糸を引いている者がいるのだろうな」

 

資料を置いて椅子の背もたれに身体を預ける。

視線はもう資料にも、剣にも向けられてはいない。

ただ部屋の天井に顔を向けてじっとそこを見続ける。

 

「いったいそれは誰か、何が目的でこんなことをするのか………いずれにしても早く突き止めなければまずいことになるだろうな」

 

そう呟くとラウエルは今度は窓に視線を向ける。

そこから見えるのはその施設の庭。

そしてそこには二人の少女、スレイとレイがいる。

対照的な雰囲気と容姿を見せる二人の少女を見ながらラウエルは小さく微笑みを浮かべる。

だが、その微笑みはどこか悲しさを窺わせるような感じが見られた。

 

「すまんな……レイ、スレイ」

 

誰も聞くものがいない部屋でのその謝罪は何を指してのものなのかわからない。

ラウエルが謝罪を口にしたことを聞くことも気づくこともなく、二人はいつも通りの満面の笑みと無表情という対照的な表情を浮かべている。

聞くことも気づくこともなかったその謝罪の意味を二人が知るのは、何十年も先のお話である。

 

 


あとがき

 

 

二部外伝でした〜。

【咲】 レイとスレイの過去話ね。

もっとはやく書こうと思ってたのに予想以上に遅れてしまった。

【咲】 腕がない証拠ね。

ひ、ひどい……。

【咲】 で、一部では外伝は二つあったけど二部ではどうなの?

う〜ん……あと二つくらいかな。どちらも二人の過去のお話だね。

【咲】 ふ〜ん……次のはもう構想はできてるの?

まあ、だいたいは。

【咲】 じゃ、さっさと書きなさい。

わかってるよ。

【咲】 遅かったら一週間研究の実験体にするからね。

いや、勘弁してくれ……。

【咲】 じゃ、今回はこの辺でね♪

また会いましょう〜ノシ




スレイの方がお姉さんって感じだな。
美姫 「二人の過去、可愛いわよね」
しかし、この先に待っているであろう事を予想しているラウエルには少し辛いかもな。
美姫 「そうよね。でも、互いに主を見つけた訳だし」
まあな。二人の過去のお話。
美姫 「投稿ありがとうございます」
本編の方も楽しみにしてます。



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る