大樹ユグドラシルは全世界に存在するマナを生産している樹だ。

そしてマナを生産する大樹自身にも普通の人間では到底ありえないほどの魔力を備えている。

いや、正確には大樹に宿る精霊がそれほどの魔力を持っていると言ったほうがいいだろう。

大樹に宿るその精霊は大樹を外敵から守るために常に大樹に障壁を張り続けている。

だが今、大樹は外敵の脅威に晒され力によって徐々に蝕まれていっている。

精霊の障壁を意にも返さず、精霊の力もその敵には及ばず、精霊はただ大樹が、自身が蝕まれていくのを感じていた。

 

『私の意志も……もう、保てなくなってきている』

 

大樹の根元に立ち、大樹を見上げながら精霊は呟く。

その表情は悲しみと苦しみを入り混じらせたような悲痛というような表情。

 

『もう……時間が無い』

 

見上げていた視線を正面に戻し、大樹に手を触れて撫でる。

痛みに涙を流す子供をあやすように優しく、優しく……。

 

『少し、もう少しだけ耐えて……きっと、彼らが彼女を止めてくれるから』

 

だが、呟く精霊の言葉に反するように汚染は進んでいく。

それを感じて、精霊の目からはうっすらと涙が見え始めていた。

そして精霊は大樹に身を預けるようにして静かに泣き続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!〜対なる心、継承せし二刀の剣〜

 

【第二部】第二十二話 ありえぬ再会、望まぬ死闘

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古城エリュードニルへ突入した恭也(悪)とミラは美由希たちと別れヘルのいるであろう玉座の間へと走る。

玉座の間に繋がる通路を駆けている間も影が二人の前に現れることはなかった。

そのことに恭也(悪)はヘルが完全に自分を誘っているということを確信する。

そして恭也(悪)の隣を走るミラも確信というほどではないがそうではないかと思っていた。

 

「もうすぐ玉座の間に着くぞ」

 

「そこに、ヘルがいるのね」

 

「おそらくはな。 だが、分かるとは思うがこれは明らかにあいつの誘いだ。 故にこの先どんな罠があるかわからん。 だから」

 

「油断するな、でしょ? わかってるわ」

 

苦笑しつつ返すミラに恭也(悪)は、ならいい、と呟いて小さく頷く。

そして二人は話しつつ走り続け、遂に玉座の間の扉の前に辿り着いた。

扉を前に二人は先ほどよりも表情を引き締め、扉を開け放ち中へと入っていく。

二人が完全に中へ入ると扉はひとりでに閉まり、コツ、コツと音を響かせて一人の少女が歩み寄る。

歩み寄ってくる少女―ヘルに二人は警戒を露にし、いつ飛び掛ってきても迎撃できる態勢をつくる。

だが、ヘルは何をするでもなく二人の視界に完全に入る位置まで近づくとそこで止まった。

そして怖気の走るような笑みを浮かべて恭也に対し口を開く。

 

「エリュードニルへようこそ……恭也」

 

それに恭也(悪)は何も返さない…いや、返せないのだ。

ヘルの笑みを浮かべながらも放たれる威圧感にミラだけでなく恭也(悪)ですら気圧されていた。

それが分かっているのか、ヘルはクスクスと声に出して笑う。

 

「そんなに警戒されるなんて……とても悲しいわ」

 

「端から殺る気満々のくせによく言う……」

 

「あら……殺す気なんてないわよ。 少なくともあなたは、ね」

 

そう言ってヘルはミラにちらっと殺意の篭った視線を向ける。

その視線にミラは体が震えるのを抑えるので精一杯だった。

ミラのその様子が手に取るようにわかったヘルは視線を恭也(悪)に戻し静かに告げる。

 

「とりあえず……二人きりで話をしましょうか」

 

ヘルが告げると同時にミラの足元に魔法陣が浮かび上がる。

そしてそれにミラは逃げることも出来ずに魔法陣の中に吸い込まれ姿を消した。

助ける間もなかったそれに恭也(悪)は目に灯す感情を驚きから殺意へと変える。

 

「あいつを……どこへやった!?」

 

「ふふふ……何をそんなに怒ってるの? 二人きりになるのに邪魔なあの女を消しただけなのに」

 

「消した……だと」

 

「ええ。 禁呪と呼ばれる闇の魔法でね……もうあの女が帰ってくることはないわ」

 

「貴様っ……!」

 

恭也(悪)は怒りを露にし神速を発動させ八景を抜刀してヘルに斬りかかる。

モノクロの世界の中で、すべてが灰色に染まるはずなのにヘルは色を失わない。

 

「っ!?」

 

「前と同じ……進歩がないのね」

 

いつの間に手にしたのかヘルは八景と同じくらいの長さの剣で斬撃を軽々と受け止めていた。

そして受け止めながら呟く言葉は呆れたような感じが見られるが、それと反して笑みを消すことはなかった。

その笑みに恭也(悪)は戦慄を覚えすぐさまヘルからバックステップで飛び退く。

 

「本当は話をしたいだけなんだけど…あなたでは無理そうね。 もう片方のあなたならおとなしく聞いてくれそうなものだけど……しょうがないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少しだけ……遊んであげる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、恭也たちと別れた美由希たちは地下への入り口を見つけ出し駆け下りていた。

本来なら美由希とレイが一緒なので迷子率アップなのだがそこはスレイの努力のお陰と言っておこう。

ともあれ、本当に何事もなく美由希たちは最下層へと向けて走る。

 

「恭ちゃんとミラさん……大丈夫かな」

 

「大丈夫だよ、きっと。 あいつムカつくけど腕は立つし、ミラお姉ちゃんもそれに負けないくらい強いから」

 

「でも、相手は追放されたとはいっても一応神だし…」

 

「心配なのはわかります。 ですが、そう思うのであれば先を急ぐことに専念すべきではないでしょうか」

 

「……そう、だね。 恭ちゃんとミラさんの負担を減らすためにも急ぐよ!」

 

「「はい(うん)!」」

 

美由希の言葉に二人は同時に頷き、駆け下りる速度を限界いっぱいまで早くする。

そして駆け下りていた階段が終わりを告げ、若干広めではあるが何も置かれていない空間へと辿り着く。

その空間を三人は見回し、端のほうに更なる下り階段があること気づいてそこに駆け出そうとする。

だが、その足は若干前方に現れた一つの人影によって止まることとなった。

 

「ようやく敵が出てきたって感じだね。 いまさらって感じもするけど……」

 

「そうですね。 まあ、今まで順調に行き過ぎていたというのもありますが」

 

現れた人影に二人は若干緊張感なさげな言葉を口にする。

二人がそう口にする中、人影は三人の目視できる位置まで近づき足を止める。

目視できる位置まで来たその人物は黒衣を身に纏い顔をフードで隠すような姿だった。

その敵に姿にどこか美由希は恭也を連想してしまうのだが、まあそれはどうでもいい話である。

 

「やはり、来てしまったんだな……レイ、スレイ」

 

「「え……?」」

 

敵が自分たちの名を知っている、それは別に驚くことではなかった。

ヘルが自分たちの存在を知っているのだからこの城にいる者で知っている者がいてもおかしくはない。

だからそんなことではなく、二人が真に驚いたのは目の前の人物の声だった。

 

「な、なんで……」

 

レイはそう小さく呟き、スレイに至っては絶句している。

二人が信じられないと思うのも無理はなかった。

その声は、二人が何十年も前に失って、もう会えないと思っていた人物の声なのだから。

 

「本当なら……もっと違う形で再会したかったよ」

 

悲しそうにそう告げて、その人物はフードを取る。

そして外気に晒されたその顔に二人は先ほど異常に驚愕し、口から溢すように小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「お父様(さん)……」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……?」

 

二人の呟いた言葉に美由希が耳を疑ってしまうのもしょうがなかった。

フードを取ったその人物は明らかに三十台前半くらいといった年齢の男。

二人の話では二人の父は年老いてその生涯を終えたと聞いた。

だから明らかにそのくらいの年齢にしか見えない目の前の男を父と呼んだことには驚かざるを得なかった。

そんな美由希を男は少しだけ苦笑しながら見て口を開く。

 

「君が二人の継承者かな?」

 

「え、あ……はい。 正確にはスレイの、ですけど」

 

「ふむ……」

 

美由希の訂正を聞いているのかいないのか、男は顎に手を当ててまじまじと視線を向けてくる。

そして見始めてから少しして、視線を美由希の顔に戻して本当に嬉しいといった表情をする。

 

「よかったよ……二人とも、いい主に巡り会えたようだね」

 

「あ、あの……あなたは」

 

「ん? ああ、名乗り忘れてたね。 僕はレイとスレイの父親にして二刀の魔剣の製作者、ラウエル・バルセルトだ」

 

男は自身の名前をラウエルと答えたことにやはり美由希は驚愕する。

まあ二人の話したことと目の前の人物が一致しないのだから驚くのも無理はない。

再度驚きの表情をする美由希に再度男―ラウエルは苦笑して美由希からスレイとレイに視線を向ける。

 

「久しぶりだね、二人とも……」

 

「本当に……お父様、なのですか?」

 

「ああ。 信じられないかい?」

 

「そ、それはそうだよ。 お父さんの最後は私たちも見てるんだし……それに」

 

「なんで若返っているか……だね?」

 

「う、うん…」

 

「そうだね……簡単に説明すると、この二ヴルヘイムで死んだ魂は自分の中でもっとも強い思いを抱いていたときの姿を取るんだ。 それと最初の質問の答えは、ここが死者の国だから、ってことだよ」

 

丁寧に説明し、微笑を浮かべるラウエルに二人はそれが本物であると確信する。

その微笑みは昔、二人を撫でるときなどに向けられていたものとまったく変わらなかったから。

だからこそ、この後ラウエルから放たれた言葉に二人は耳を疑った。

 

「でも、残念だよ。 二人を僕の手で消さないといけないなんて……」

 

そう呟くラウエルの表情はとても悲しみに満ちていた。

そして、呟かれた言葉に耳を疑い唖然とする三人の前で、ラウエルは黒衣の後ろから二刀の剣を抜き放つ。

戦闘態勢を取ったラウエルにいち早く我に返ったスレイは叫ぶように口を開く。

 

「ヘルの味方をするというのですか、お父様!?」

 

「ああ。 ここ二ヴルヘイムでは死者はあのお方、ヘル様に逆らうことは出来ないからね。 それに僕自身、二人と敵対してでも成し遂げたいことがある」

 

「成し遂げたい…こと?」

 

「そう…成し遂げたいことだ。 そのために今は、ヘル様に従うしかない……だから、悪いけど手加減は出来ないよ」

 

そう言うと同時にラウエルから魔力が放出され、手に持つ剣からは禍々しいほどの気が立ち上がる。

それに我に返った二人とスレイは信じざるを得なかった。

ラウエルが、自分たちを本気で殺そうとしているということを。

だが、だからといって引くことはできない。

美由希たちにも成し遂げなければならないことがあるのだから。

 

「スレイ、レイ……剣化を」

 

「「はい(うん)…」」

 

父親が相手ということに戸惑いはある。

だが、それを感じさせないほどに戦う意志を込めた返事を返し二人は剣化する。

それに対峙するラウエルは少しだけさっきのような笑みを浮かべて小さく呟く。

 

「強くなったな……二人とも」

 

だが、呟くと同時に浮かべた笑みは一瞬で消え、ラウエルの目からは感情というものが見えなくなる。

そのラウエルの豹変ぶりに美由希はもちろん、その状態をよく知るスレイとレイでさえ驚愕した。

 

『まずいよ……ああなったら下手すると、死ぬまで止まらないよ』

 

「どういうこと…?」

 

『お父様の手に持っている魔剣、スケヴニングとリディルの意志とお父様の意志が融合したのです。 ああなったお父様はレイの言うとおり、簡単には止まりません』

 

「じゃあ、どうすれば……」

 

『止める方法としては……お父様が死に至るほどのダメージを負わせる。 そしてもう一つはあの魔剣、スケヴニングとリディルを破壊することです』

 

「じゃあ、二つ目だね」

 

『『……ありがとう(ございます)、主様(美由希お姉ちゃん)』』

 

礼を言う二人に美由希は苦笑して返すとすぐに表情を引き締める。

そしてラウエルに、いや、正確にはラウエルの持つ魔剣に対し射抜の構えを取り、神速を発動させる。

すべてが灰色に染まる世界の中を美由希は駆け出し、動くことなく止まっているラウエルの魔剣目掛けてその奥義を放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

御神流・裏 奥義之参 射抜

 

 


あとがき

 

 

【咲】 うっわ、前回よりも中途半端。

や、やっぱりそう思いますか……?

【咲】 これはそれ以外言いようがないわ。

うう、しかしこれ以上続けるとですね……。

【咲】 言い訳無用……さ、行きましょうか?

い、いやじゃ!! あそこはいやじゃああぁぁぁぁ!!!

 

(しばしお待ちください)

 

【咲】 咲と!

【葉那】 葉那の!

【咲&葉那】 おもしろ実験コーナー!!

【咲】 はい、今日も始まりましたこのコーナー! 実験体はもちろん!

【葉那】 この方で〜す!

は、離せーーー!!(前回と同じ状況で登場

【咲】 さて、今回の発明品は……これよ!(なにやら缶詰らしきものを取り出す

【葉那】 それはなんなの、お姉ちゃん?

【咲】 ふふ、これはね……日々食べ物による効果を受け付けない人たちに対する対応策といえる発明品! その名も、悶絶異臭缶!!

なんじゃそら!! もう執筆がどうのとか関係ないだろ!?

【葉那】 で、どういった効果があるの?

無視するなあぁぁぁぁ!!

【咲】 実験体は黙ってなさい。

げばっ!

【咲】 と、どういう効果かだったわね。 この中に詰め込まれている匂いを嗅いだ人はなんと! あまりの臭さに悶絶し、たちまち元気になっちゃうのよ!

【葉那】 わ〜、すご〜い!

【咲】 ふふ、そうでしょう? じゃ、さっそく実験に入りましょうか。(どこから取り出したのかガスマスクを装備する。

【葉那】 そうだね♪(上に同じく

い、いやじゃ!! そんな明らかに有害にしか見えないもの匂いたくないぃぃぃ!!

【咲】 じゃ、レッツオープン♪

や、やめ……っ!?!??!(開封した缶を鼻の至近距離まで近づけられ悶絶する

【咲】 さて、効果のほどは!?

あ……が……ガク。

【葉那】 ……(またも無言でカーテンを閉める

【咲】 さて、今回も大した結果が出ないことを悔やみつつ今回はここまで!

【葉那】 じゃ、また次回会おうね〜♪




スレイとレイの前に現れたのは!?
美姫 「いやいや、怒涛の展開よね」
ミラも何処かに飛ばされちゃったし。
美姫 「ラウエルの目的って何なのかしら」
ここに来て、まだまだ謎が深まる。
美姫 「次回もお待ちしてますね」
待ってます。



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