神剣の与える力は二つの世界を繋ぐ鍵。

断絶された二ヴルヘイムとこの世界との架け橋を切り開くことのできる刃。

だが、その力とて誰でも扱えるわけではない。

神剣を扱えるのは二つの理を知り、主として認められたたった者のみ。

故に、光の理しか知らない美由希には神剣は扱えない。

故に、闇の理しか知らない恭也には神剣は扱えない。

しかし、対なる心を持つ二人が力を合わせたのなら、神剣は二人を真の主として認めるだろう。

その証拠が今、眩い輝きを放つ剣を握る二人によって証明されていた。

 

「「っ……」」

 

手を合わせるように握られる一刀の神剣は道を開くために多大な魔力を二人から奪う。

継承者である二人の魔力は普通の人間とは比べ物にならないくらいの量だ。

その二人の魔力を合わせても、体には多大な魔力が抜けるときの虚脱感が襲う。

それほどまでの魔力を消費しなければならないほど道を開くのは容易ではないということなのだ。

 

「今だっ!」

 

額に若干の汗を浮かべながら、恭也(悪)は叫ぶ。

その叫びに呼応するように神剣は今だ放つ眩い光をさらに強める。

強まった光は二人の少し前方に伸び、人が入れるほどの空間、道の入り口を作り出す。

道が出来た瞬間、二人の手にする神剣は元の形、二刀の魔剣へと姿を戻す。

そして二刀の魔剣はさらに二人の少女へと姿を変え、開かれた道への入り口に視線を向けていた。

 

「ふぅ……よし、行くぞ」

 

魔力消費による疲れからか小さく息をつくも恭也(悪)は皆にそう言い歩き出す。

皆は各々頷いて恭也(悪)の後へと続き歩き出す。

敵の親玉、この事件の元凶であるヘルの待つ二ヴルヘイムへと向けて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!〜対なる心、継承せし二刀の剣〜

 

【第二部】第二十一話 憎悪に満ちる死者の闇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神剣によって再構成された道、それを一同はゆっくりと歩み行く。

普通は再構成されただけの道では二ヴルヘイムに辿り着くことは出来ない。

だが、一同には神器スレイプニルがある。

単独の力でさえ二ヴルヘイムにいくことが出来るスレイプニルを用いれば迷うことなく辿り着ける。

それを知っている一同は迷いなど見せないしっかりとした足取りで道を歩み続ける。

そして一同は二ヴルヘイムに行く前の最初の通過点へと差し掛かった。

 

「何ここ……魔力が満ち溢れてるよ」

 

「ここは……フウェルゲルミルの泉だな」

 

歩きながら恭也(悪)がレイの漏らした言葉に答える。

だが、その答えに反応し驚いたのはレイではなくスレイだった。

 

「なぜ、フウェルゲルミルの泉だとわかるのですか?」

 

「…二ヴルヘイムへ行く際に通過する場所は二つある。 一つは二ヴルヘイムを含めて三つの世界に根を伸ばす大樹、ユグドラシル。 そしてもう一つは、その根元に広大に広がる泉、フウェルゲルミルだ。 ここの周りにはまだ大樹の姿は見えない。 だから消去法でそうなのだろうという結論にいたったというわけだ」

 

「そうですか。 ですがフウェルゲルミルの泉はここまで大きいものなのですか?」

 

「全部を見たわけではないから詳しく知らんが、あの学園の何十倍もの広さはあるとは聞いたな」

 

それにはスレイだけでなく皆驚いた。

ウォザーブルクとて小さくはない、というかむしろ大きい部類に入るだろう。

そのウォザーブルクの何十倍もの広さなどと聞けば驚くのは当然だろう。

普通なら信じられない話と思ってもおかしくはないが、目の前に自分たちの周りに広がる泉を見ると信じるほかなかった。

 

「でも、そんなに広いなら二ヴルヘイムまでつくのに結構掛かっちゃうんじゃない?」

 

「その心配はないだろうな。 二ヴルヘイムに行く際の空間転移は普通のときと違い道を通らなければ行けれないとは話しただろう?」

 

「う、うん」

 

「空間転移であるのになぜ道を通らなければならないのか。 それは二ヴルヘイムと俺たちの世界が壁によって隔たれているからだ。 壁によって隔たれた向こう側の世界に行くにはそれを越えなければならない。 その壁を越えるための道を指し示し導くための道具が神器スレイプニルなんだ」

 

恭也(悪)の説明に質問をした美由希だけでなく、皆納得したような顔をしていた。

それを見て恭也(悪)は美由希の質問に対する説明の続きを口にする。

 

「さて、ここからがお前の質問に対する答えだが、二ヴルヘイムに繋がる道は空間転移の際にできたものだ。 そして空間転移であるためにそこまで道は長いものではない。 こうやって俺たちに見せているこの泉も本来の四分の一程度を見せているだけなんだ」

 

「そうなんだ……」

 

美由希がそう呟き頷いていると歩き続けていた皆の視界に大きな樹が見えてくる。

一歩一歩近づいていくごとに樹は比例してその大きさを増していく。

最終的に樹の付近まで辿り着いたとき、皆はその大きさに唖然とした表情をするのだった。

 

「これが、大樹ユグドラシルなのですか……?」

 

唖然としつつ小さく溢すように呟くスレイに恭也(悪)は若干顔を顰めながら大樹を見つつ頷く。

目の前に聳え立つ大樹は多大な魔力に満ちており、ところどころから蛍のような魔力の光を立ち上らせていた。

だが、それとは反するように大樹の節々に黒い斑点模様の跡がついていた。

それはまるで病魔にでも侵されているような跡、皆にはそう見えた。

 

「まずいな……ユグドラシルが闇に侵食され始めている」

 

「それは…どういうことですか?」

 

「何者か……まあ十中八九ヘルの仕業だろうが、悪意に満ちた闇の力でユグドラシルを内部から侵食しているんだ。 このまま行けば、ユグドラシルはヘルの手に落ちるぞ」

 

「落ちたら、どうなっちゃうの……?」

 

「あいつの計画が俺たちの力では止められぬ域まで達することになる。 ユグドラシルの魔力を使えば俺を手に入れ、お前たちを消すことくらいわけないからな」

 

「そんな……なら落ちる前に急いで阻止しないと!」

 

「ああ……急ぐぞ」

 

恭也(悪)の言葉に同意するように頷き、皆はユグドラシルの元から走り出す。

 

『来て……』

 

ミラも皆と同じく走り出そうとする瞬間、ふと聞き覚えのない声がミラの耳に聞こえてくる。

どこまでも深い優しさと暖かさに満ちたそんな声が。

その声にミラは後ろを振り返り、大樹に視線を向ける。

だが、視線を向けられた大樹は何事もなかったかのようにただ聳え立っているだけだった。

ミラは首を傾げながら、気のせいかな、と思うことにして皆の後を追い走り出すのだった。

そして皆の視界から大樹が見えなくなっても再び先ほどの声が聞こえてくることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

大樹を通り越してからほとんど経たず、皆は道の出口を発見し駆け込むようにそれを潜る。

出口を潜った一同の目の前に広がったのは黒い靄がところどころを覆うように漂っている廃墟のような街だった。

その街からは人の姿はおろか、気配すらもまったく感じることはない。

唯一感じるものといえば、頭がおかしくなりそうなほどの憎悪に満ちた闇の気配だけだった。

 

「っ……ここが、二ヴルヘイム」

 

「街全体が、人の負の感情で満ち溢れてる……ここって、いっつもこうなの?」

 

「いや、そんなことはないが……おそらくこうなっているのはヘルの仕業と思う」

 

「死霊の負の感情……人の闇を活性化させているということですか?」

 

恭也(悪)はスレイの言葉に頷いて返す。

そして周りを見渡しながら怪訝そうな顔を浮かべた。

 

「妙だな……影の姿がまったくない」

 

「私たちがここに来たことに気づいてないだけなんじゃないの?」

 

「ふむ……」

 

レイの言葉に恭也(悪)は腕を組んで考え込む。

確かに気づいていないという可能性はあるが、それは限りなく低いと考えている。

なぜならヘルはこの世界から恭也たちの行動を常に監視するように見ていたからだ。

それなのに恭也たちがこの世界に乗り込む算段をしていたことをヘルは見逃すだろうか。

否、ヘルの今までの行動を見ればそれはありえないと言えるだろう。

だが、ならばなぜ街に影を放ち迎撃しようとしないのか。

 

(俺たちを……誘っている?)

 

考えた末にそういう結論に至るが確証がないため断定はできない。

だが、これ以上考えたところで他に浮かぶこともなかった。

 

「とりあえず、ここで考えてても意味がないわ。 時間もないのだし、先を急ぎましょう」

 

「あ、ああ…」

 

思考していた恭也(悪)はミラの言葉に我に返り頷きながらそう返す。

そしてヘルの真意がわからぬまま一同はヘルのいる古城エリュードニルへと走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、恭也たちの目的地である古城エリュードニルは街以上に憎悪の闇に満ち覆われていた。

そしてその闇の中心である玉座の間には事件の元凶の少女、ヘルの姿がある。

ヘルはいつものように玉座に座ることもなくただその前に立っていた。

 

「早く、私の元へいらっしゃい。 真の闇……あなたの最後の欠片も、あなたを待ってるわ」

 

そう呟くヘルの手には黒く輝く一つの玉があった。

その玉をヘルは愛おしそうに優しく、優しく撫でる。

 

「初めは、ただ愛おしく思えるあなたを壊したかっただけ。 でも、いつからかそれは変わっていった」

 

昔を思い出しながらヘルは小さく笑みを浮かべる。

愛おしく思うようになったときから、今に至るまでのことを思い出しながら。

 

「この人なら、私を解放してくれるかもしれない……私を縛る孤独という鎖を壊してくれるかもしれない。 そう、思うようになった」

 

撫でる手を止めて今度は玉を優しく抱きしめる。

抱きしめる玉から鼓動のような微弱な振動がヘルの胸に伝わる。

 

「そう思い始めたら……もう止まらなかったわ。 それほどまでに、あなたという存在がどんどん私の中で大きくなっていたから」

 

まるで抱きしめる玉に聞かせるように言葉を紡いでいく。

玉もそれに答えるように黒き光を一層輝かせる。

 

「本当のことを言うとね、恭也。真の闇になんてならなくてもいい、ただ私の傍にいてくれればよかったの」

 

ならなぜ、そう聞いているかのように玉は輝く。

ヘルもその輝きをそう捉えたのか、クスクスと笑いながら言う。

 

「それはね……あなたが、人間だったからよ。 あなたが人間である以上、あなたはここでは生きられない。 だから、真の闇へと覚醒させようとしたの。 真の闇になれば……あなたはこの世界で生きていけるから」

 

そう言って玉を体から離し愛おしそうに一撫でした後、玉座の上にそっと置く。

そして玉座に置かれた玉にそっと微笑みを浮かべる。

 

「あなたと契約すること、そして一つになること……それはあなたの心を私の傍に繋ぎ止めたいという私のわがまま。 真の闇になるのには必要ないことだけど……私だって女だもの。 好きな人は独占したいと思いもするわ」

 

ヘルは微笑みを浮かべつつ玉に背を向ける。

そして玉座の下にゆっくりと腰掛け、空を見上げるように視線を上に向ける。

 

「でも、それよりも先に……あなたを目覚めさせないとね。 そうしたら……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずっと、私の傍にいてくれるわよね……恭也」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街を一気に駆け抜けた一同は古城エリュードニルの前に立っていた。

城の周りには街とは違い城以外の建物はまったく建ってはおらず、まるで孤立するかのようにその城は建っていた。

そしてやはりというか、城からは街以上に闇で満ちているのに影の姿はまったくなかった。

ここに来るまでにも遭遇しなかったことを考えると明らかに誘っているとしか恭也(悪)は考えられなかった。

だが、それを伝えて変に緊張し本調子が出なかったら困るため恭也(悪)はそれを伝えることはしなかった。

 

「これから敵の本拠地に入るが、その前に今いる面子を二つの班に分ける」

 

「なぜですか?」

 

「俺たちの目的はヘルを止めることだが倒すことじゃない。 そのため前も話したが、計画を止めるにはこの古城を破壊するのが一番だ。 だが、そんなことをしようとすればおそらくヘルはそれを止めようとするだろう。 だからヘルの足止めと古城の破壊、という二つの班に分かれて行動するんだ」

 

「はあ……だいたい分かったけど、こんな大きな城をどうやって壊すのよ? まさか地道に叩いて壊すとか言わないでしょうね……」

 

「言うかそんなこと。 この城は地下の部屋にある宝玉の魔力で支えられているんだ。 故にその宝玉さえ壊せば、支えを失った城は自ずと崩壊する」

 

「分かりました。 では、どのような組み合わせにするんですか?」

 

「ふむ……俺とそこの女はヘルの足止め、そして継承者とお前たちは古城の破壊だな」

 

「その組み合わせの理由を聞いても?」

 

「簡単なことだ。 ヘルは計画の大本である俺を狙っているからな。 少々危険だが俺自身が行くほうが足止めできるだろう」

 

「ミラ様が一緒というのは?」

 

「ふむ……俺は一人のほうがいいんだが、半身の奴が表に出る以上必ず守れと煩くてな。 それにその女も一緒に来る気満々みたいだしな」

 

溜め息をつきながらそう言ってミラのほうを見る。

ミラは恭也(悪)の言ったとおり、絶対に恭也についていくという気がひしひしと感じられるような顔をしていた。

それにスレイとレイは若干不謹慎と思いつつも苦笑して頷く。

 

「よし。 では、乗り込むぞ」

 

その言葉に皆は頷き、班ごとに固まるようにして城へと進入していく。

皆の姿が城の中に消していくと同時に城から立ち上がる憎悪の闇は炎のように揺らめく。

それはまるで不吉を暗示しているかのように妖しく、禍々しく……。

 

 


あとがき

 

 

今回ヘルの恭也に対する想いが語られました。

【咲】 想いというよりも過去からの今に至るまでの心境の変化って感じよね。

まあ、そうだね。

【咲】 それにしてもいつにも増して中途半端よね。

だ、だってさ……。

【咲】 このまま書けば長くなるから、でしょ。わかってるわよ。

そ、そうか。 ならよかった。

【咲】 それはそうと、ちょっとこっちに来てくれる?

へ? あ、あのどこへ連れて行かれるんでしょうか? ていうか来てくれる?とか言う割には強制ですか!?

 

(しばしお待ちください)

 

【咲】 咲と!

【葉那】 葉那の!

【咲&葉那】 おもしろ実験コーナー!!

【咲】 はい、おもしろ実験コーナーの記念すべき第一回目ということで。

【葉那】 ということで?

【咲】 記念すべき最初の実験物はこちらです(小瓶を白衣のポケットから取り出す

【葉那】 それはいったいなんなの、お姉ちゃん?

【咲】 ふふ、これはね……日々目薬強化に対する研究に没頭していた私の成果よ! その名も、目薬P!!

【葉那】 わ〜、すごいね!でも、Pってどういう意味なの?

【咲】 単純にパーフェクトって意味よ。

【葉那】 そうなんだ〜。 それで、前のとどこが変わったの?

【咲】 そうね……まずは前の目薬の材料を五十倍に増やし濃縮させたってことね。

【葉那】 五十倍か〜、それは効きそうだね。

【咲】 効かなかったら化け物よ、そいつは。 あ、でも浩には効かないかも。

【葉那】 それは納得〜。

【咲】 と、話が脱線したわね。 で、この目薬Pの効力だけど前のは精々一日ってところだったけど、これを指せばなんと! 一週間もの間眠気が来ない!

【葉那】 すご〜い!

【咲】 さて、説明もこの辺にして今回の実験体の登場よ。

【葉那】 今回の実験体はこの人で〜す♪

やめろーー!! 離せーーーー!!(二人の後ろにあるカーテンが開け放たれ、台に磔にされたT.S登場

【咲】 実験開始よ、葉那。

【葉那】 は〜い。 じゃ、おとなしく目を開けてね〜♪

や、やめろーー!! ぎゃああああああ!!(目を無理矢理開けられ、なす術もなくありえない量の目薬を差される

【咲】 さてはて、効力のほどは!?

い、痛い! 目が! 目が激しく痛いいぃぃぃぃぃ!!

【葉那】 ……(無言でカーテンを閉める

【咲】 さて、大した結果も出ずに終わったところで、また次回!

【葉那】 次回の実験はいったい何かな〜と期待してもらいつつ!

【咲&葉那】 次回のこの作品とこのコーナーをお楽しみに!!




……実験に関して触れたら自分もただでは済まないのかなと思ってる今日この頃。
T.Sさんの無事を祈りつつ…。
美姫 「いつもの感想いってみよ〜」
いや、そんなテンションになれないって。
あの二人、まだ開発してたのかよ!
美姫 「まあまあ、良いじゃない」
お前らは良くても、使用される俺たちの立場になれ!
美姫 「さて、いよいよ本拠地に乗り込んだわね」
例によって例の如く、流すんですね…。
美姫 「ヘルが手にしている玉」
そして、真の闇という言葉。益々謎が。
美姫 「どうなるのかしらね」
うぉぉぉ。次回も待ってますよ!
美姫 「待ってますね〜」



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