視界に色が戻ったとき、レイは元の場所で立っていた。

後ろからは恭也(悪)とミラが突然戻ってきたレイに驚きつつ声を掛けながら近寄る。

だが、レイは二人の声が聞こえていないかのように呆然としていた。

 

(どういうこと……なんで、私の名前を?)

 

声が最後に呟いた言葉、それは自分とスレイの名前だった。

レイは名を名乗った覚えはない、スレイの名を出した覚えはない。

なのに声はまるでレイたちの名前を、存在を、以前から知っていたかのように呟いた。

それがなぜなのか、レイにはわからなかった。

だが、疑問に思ったのはそれだけではない。

神器を渡される際にレイの手を包んだ光の温もり、それをレイは知っているような気に駆られたのだ。

記憶にはないのに知っている……そんな気がしたのだ。

 

「…イ……レイ!」

 

「え、あ……なに、ミラお姉ちゃん?」

 

「なにじゃないわよ……光に包まれて消えたと思ったら突然帰ってきて、帰ってきたと思ったら今度はぼーっとしてるんだもの。 なにかあったの?」

 

「あ、う、ううん……なんでもないよ」

 

ちょっと戸惑いが見られるがいつものような笑みを浮かべてそう言うレイにミラは、そう、と呟く。

二人の会話がそこで止まったのを見計らってか、ミラの横にいた恭也(悪)が口を開く。

 

「それで、神器はあったのか?」

 

「あ、うん……これ」

 

中指にはめられている指輪を二人に見せるように右手を差し出す。

差し出された右手にはめられている指輪を二人はじっと見た後、納得したように頷く。

 

「目的は達成したな……では、戻るか」

 

「そうね」

 

「うん」

 

恭也の言葉にミラとレイは頷き、三人は来た道を戻っていく。

その際、二人の後ろを歩くレイは少しだけ止まって後ろを振り向き、すぐに正面へと戻して歩き出す。

こうして神器探しは特に何事もなく終わりを告げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!〜対なる心、継承せし二刀の剣〜

 

【第二部】第二十話 そして決戦の舞台へと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遺跡から戻った三人は皆に神器を手に入れたことを報告した。

報告の際にレイの若干浮かない表情に皆は気づき尋ねたが、レイは、なんでもない、と言うだけだった。

明らかになんでもないという顔ではないのだが、レイがそう言う以上皆は深くは追求することはなかった。

その後、すぐにでも皆は二ヴルヘイムへと突入しようとするが恭也(悪)はそれを止めた。

それに、どうして?というような視線で見てくる皆に恭也(悪)は簡単に説明した。

曰く、死の国二ヴルヘイムへの道を再度構築するには闇の満ちる時間、つまりは夜である必要があるという。

そしてあのヘルがこちらのこの行動を予測していないとは思えないため、どのような罠を仕掛けているかわからない。

故に準備を万全に整え英気を養うために、突入は明日の夜のほうがいいだろうと皆に提案する。

恭也(悪)の言った提案に皆は納得し頷くことで分かったという意を示す。

その後皆は各自解散し、明日の決戦に向けての準備などのためにその場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死の国二ヴルヘイムは凄まじいほどの闇が満ちていた。

その闇は二ヴルヘイムに建つ古城、エリュードニルを中心に広がっている。

そしてそれは少女の計画が順調に進んでいるという証拠でもあった。

 

「……報告は以上です」

 

「そう……彼らは神器を手に入れたのね。 まあ、あれくらいの封印は破ってもらわないと張り合いがないものね」

 

「そのことなのですが……」

 

「何……?」

 

「神器を祀る遺跡の部屋に掛けられた封印に破られた形跡がありません」

 

「どういうこと?」

 

「彼の者たちが神器を手に入れたのは確かなのですが……部屋に掛けられた封印は破られておらず、今だ健在していたのです」

 

「……誰かが彼らを部屋に導いた、ということかしら?」

 

「はい。 おそらくは、ヘル様を計画を良く思っていない者によるものかと思われます」

 

「そう……ふふふ、誰かは知らないけど、馬鹿よね。 彼らが神器を手に入れ、この二ヴルヘイムに……私の元に来ることこそが、私の思惑だとも知らずに」

 

ヘルはそう言ってクスクスと笑い、男のほうへと振り向く。

そして笑みを消さぬまま静かに男へと口を開く。

 

「残りの魔剣、あと何本だったかしら?」

 

「四本です」

 

「そう。 なら、その内の二本を私に……選別はあなたに任せるわ」

 

「かしこまりました」

 

「あなたも準備をしておきなさい。 継承者と神剣……せめて製作者であるあなたの手に葬りたいでしょう」

 

その言葉に男は少しだけ迷いを見せる。

だがそれも数秒、すぐにその言葉に男は頷き、その場を後にした。

 

「でも……あなたにはできないでしょうね。 だって、神剣とその製作者である以前に……」

 

男がその場を去った後、ヘルは誰に聞かせるでもなく呟く。

呟くその顔にはどこか楽しそうで、禍々しい笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「父と子なのだから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

解散した後、恭也(悪)は恭也(善)と入れ替わり奥へと引っ込んだ。

なんでも、英気を養うために寝る、ということらしいが性格からするとただ寝たいだけというのが見え見えだった。

だが、特に恭也(悪)が表に出てないといけないわけでもないので恭也(善)は若干呆れながらも入れ替わったということだ。

そして現在、恭也(善)はミラと共に部屋で決戦に備え装備の点検、手入れをしている。

恭也(善)の場合だと傍にいるのが常なレイはというと、なにやら一人で考えたいことがあるということで部屋に戻る途中の廊下で別れた。

 

「ねえ、恭也……」

 

「ん? なんだ、ミラ?」

 

装備の手入れをしていた恭也を隣で静かに見ていたミラは不意に声を掛ける。

それに恭也は手入れの手を止め、ミラのほうに顔を向ける。

 

「明日の決戦のことなんだけど……」

 

「ああ……」

 

「私も…連れて行って」

 

「え…?」

 

ミラの言ったことに恭也(善)は目を若干見開いて驚きを浮かべる。

そしてすぐに我に返り、首を横に振る。

 

「どうして? 私だって戦える。 恭也ほどじゃない力はないけど、恭也の手助けをすることぐらいは出来る。 なのに、なんで一緒に行っては駄目なの?」

 

「それは……」

 

まっすぐな視線で見つめ聞いてくるミラに恭也(善)は返答しかねる。

恭也(善)はミラを置いて決戦へと赴くつもりだった。

それにはいくつか理由があるが、その中で一番強いのは、ミラに傷ついて欲しくないから、というもの。

恭也という一人の人間の心はミラという存在がその大半を占めている。

ミラがいるから今の自分がある、といってもおかしくないくらいにミラの存在は大きいのだ。

だからこそ、それほどまでに大切に思っているからこそ、ミラには傷ついて欲しくない。

 

「恭也……」

 

その恭也(善)の様子にミラはなんとなくそれに気づいた。

だからか、恭也(善)の頬にそっと触れて優しく撫で、言葉を紡ぐ。

 

「私を大切に思ってくれる、それはとても嬉しい。 でも……それでも私は、あなたたちと一緒に行きたいの」

 

「……」

 

「わがままを言ってるのはわかる。 でも、私はもう嫌なの。 待っているだけは……もう、嫌」

 

「ミラ……」

 

「だから……お願い」

 

そう言うミラの目には少しだけ涙が滲んでいた。

おそらくは、恭也を待ち続けた日々のことを思い出したのだろう。

それを前にした恭也(善)の言える言葉は、一つしかなかった。

 

「……わかった」

 

頷きながら恭也(善)はそう言う。

その返答にミラは涙で目を滲ませたままそっと微笑む。

 

「ありがとう……恭也」

 

「ああ……だが、これだけは約束してくれ。 絶対に、無茶はしないと」

 

「ええ……でも、それはあなたもよ? またいなくなったりしたら、もう許さないんだからね」

 

「わかってるさ……」

 

二人はそう言い合った後、しばし見つめ合う。

そして互いに目を閉じて、ゆっくりと顔を近づけ唇を重ねる。

重ねた唇を離すことを惜しむかのように、二人はしばし求め合うように重ね続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、二人がそんな甘い雰囲気を全開の時……

 

「あ、あやや……す、スレイ、ど、どうしよ」

 

「……(真っ赤)」

 

美由希とスレイがその部屋の扉の隙間から覗いていたりした。

この後、当然の如く恭也(善)に見つかった二人は恭也(善)とミラから長い説教を受けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人と廊下で別れたレイはバルコニーへと来ていた。

普段から生徒がほとんどいないそこは一人になるにはぴったりだったからだ。

 

「……」

 

一人になったレイはベンチに座り、遺跡で聞こえた声について考えていた。

あの声が言った言葉、真実とはいったい何のことなのか。

そしてあの声の主はいったい誰なのか。

それらを考えるがいくら悩んでも答えなど出ることはなかった。

 

「知らないはずなのに……」

 

それなのに、レイの心は知っていると告げる。

記憶にないのに知っている、それは記憶喪失なのではないかという考えもできる。

だが、レイは魔剣としてこの世に生を受けてから記憶を無くしたなどということはまったくない。

それはスレイとて同じであり、常に一緒にいた二人は父であるラウエル以外の人間とはこれまでほぼ面識がない。

だから、あの声が自分たちを知っているということ自体信じられないのだ。

 

「真実を知ったとき……かぁ」

 

自身でさえ知りえない真実が何かあるのだろうか。

そしてそれを知ったとき、あの声が誰かなのもわかるのだろうか。

 

「明日になれば……わかるのかな」

 

なんとなく、レイはそんな気がした。

明日、二ヴルヘイムへと行けば、そこで知りえない何かが分かる。

何の確証もないそんな予感を感じながら空を見上げる。

そうしてまたしばらくの間、思考の渦へと沈んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時間は流れ、日付と時間は決戦の時を示していた。

英気を養い、準備を整えた恭也(善、悪)、ミラ、美由希、レイ、スレイは中庭に集結していた。

そしてその六人を見送る形になったジャスティンは皆の前に立ち少し心配そうな、それでも精一杯の笑顔で言う。

 

「皆さん……どうか、お気をつけて」

 

その言葉に皆は頷く。

そしてジャスティンに背を向け、レイとスレイは各自剣化して恭也(善)の右手と美由希の左手に握られる。

剣化したレイを握ると同時に恭也(善)は恭也(悪)へと入れ替わる。

 

「いくぞ……」

 

「うん」

 

短く告げる恭也(悪)に美由希は頷きそれぞれ言葉を紡いでいく。

 

「我、闇の理を継承せし者なり……」

 

恭也(悪)の握る闇の魔剣は黒き光を放つ。

 

「我、光の理を継承せし者なり……」

 

美由希の握る光の魔剣は白き光を放つ。

 

「「対なる二つの理を継承せし時、すべてを成しえる力となる」」

 

対照的な光を放つ二刀が二人の中央で交わり一つの形となった。

 

「「神鳴る刃を我が手に、神剣ソウルアレイ!!」」

 

 


あとがき

 

 

ちょっと短いですが、いざ二ヴルヘイムへ!!というところで次回です。

いや〜、やっとのことここまで来ましたよ〜……長かったな〜。

さてはて、次回はお分かりの通り二ヴルヘイムへと突入します!!

そこで恭也たちを待ち受けるものとはいったい!!

次回をおたのしべばっ!!

【咲】 何勝手に終わらそうとしてんのよ。

【葉那】 油断も隙もないよね〜。

お、お前ら、浩さんのところに行ったんじゃ。

【咲】 十分堪能したから帰ってきたのよ。 あんたを一人にしておくのも凄く不安だったしね。

【葉那】 だね〜。 しかも案の定だし。

あ、あははは……。

【咲】 笑って誤魔化せると思ってるのかしら……。

い、いや、待て、俺は何も悪いことなんてしてないぞ!?

【葉那】 私たち抜きで終わらそうとしたでしょ〜。

だ、だってまだ帰ってこないと思ってたし……。

【咲】 問答……。

【葉那】 無用!

ぎゃああああああ!!

【咲】 ふぅ……というわけで、また次回ね〜。

【葉那】 浩さんと美姫さんもまた今度ね〜♪




ああ、メイドさんが帰ってしまった。
美姫 「メイドという事実の前には、暴力という名の行為は無効化される所が怖いわね」
あははは。普段からお前の扱きや虐めに耐えているんだぞ。
あれぐらい可愛いもん……うべらぅ!
美姫 「誰が虐めてるって?」
な、何でもないです、はい。
にしても、またしても謎の言葉が!
美姫 「製作者に父という単語ね」
これらが指す言葉を考えると…。
おおう! 滅茶苦茶気になるな。
美姫 「次回が待ち遠しいわね」
ニヴルヘイムへと旅立った恭也たちを待つものとは。
美姫 「続きを楽しみにしてますね」
待っています!



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