「なんで私があんたなんかと……」

 

中庭の一角に立つレイは隣に立つ人物に睨むような視線を向けてぶつぶつ言っていた。

その人物―恭也(悪)はその呟きを気にした様子もなく小さく、さっさとしろ、と言う。

命令するようなその言葉にレイはかなりの怒りを覚えるが、恭也(悪)の隣にミラがいる手前何とか抑える。

 

「……ゲート、開くよ」

 

抑えてはいるものの声からは若干の怒気が感じられる。

だが、やはりというか恭也(悪)はまったく気にしていない、というか無視している。

 

「はぁ……」

 

二人のその様子にミラは溜め息をつかざるを得ない。

喧嘩するほど仲がいい、という言葉があるが二人を見ているとそれが本当なのかも疑わしい。

ミラがいるからまだこの程度で済んではいるが、いなければ学園を半壊させるほどの人外戦争が起こりかねない。

言いすぎだろうと思われるかもしれないが、二人の力を考えればないとは言い切れない話である。

 

『ミラ、がんばれ』

 

頭を抱えそうになるミラに聞こえるはずのない恭也(善)の声が聞こえる、気がした。

聞こえたその励ましの言葉にミラは上を向いて遠い目をする。

 

(ああ……やっぱり私の味方はあなただけ)

 

と心中でそんなことを思っていたりする。

それを知らずかミラの隣で恭也(悪)とレイは……

 

「さっさと開かんか、このアホロリ娘」

 

「あ、アホロリ!? キーーーー!! もう我慢できない!! あんたなんか消し炭にしてやるーーー!!」

 

「やってみろ、万年ロリっ娘」

 

魔術と剣術による人外戦争勃発寸前だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!〜対なる心、継承せし二刀の剣〜

 

【第二部】第十九話 神器を祀りし古代遺跡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そもそもなぜこの三人で行くことになったのか。

まずはそこから説明しよう。

あの話し合いの後、誰が行くかを議題として続けて話し合った。

それで上がったのはまず神器のことをその中誰よりも知っている恭也(悪)。

そして次に上がったのが空間魔法であるゲートを開けるレイとスレイ、そのいずれかということになった。

二人のうちどちらがいいか、ということを決めるのには少々時間がかかった。

なぜなら、レイはもちろんのことスレイも恭也(悪)への同行を渋ったからだ。

だからといってどちらも行かないとなれば遺跡に行くことは出来ても帰ってくることが出来ない。

故にどちらかが絶対に同行しなければならない。

だが、どちらも拒否の姿勢を見せているため皆はかなり困っていた。

そんなときに今まで黙っていた恭也(悪)から放たれた言葉が後にミラの心労を深めることとなった。

 

「闇のほうがついてくればいい。 襲撃がないにしろ、学園の守りが手薄というのはいかんから光のほうが主と守備に回るということでいいだろう」

 

その恭也の発言に皆は納得し、すぐさまその方向で話が進んでいった。

ちなみに、すでに決定事項になったその発言にスレイはほっと安著の息をつき、レイは思いっきり抗議の声を上げていた。

だがまあ、決定事項になってしまったためかレイの拒否の言葉が受け入れられることはなかった。

そんなこんなで恭也(悪)とレイの二人、という風に話は進んでいったのだがその際にミラが自分も同行すると言い出した。

それに対して恭也(悪)は別に構わないという感じに黙し、レイに至っては聞こえてないかのように喚き散らしている。

皆も少しでも恭也の近くにいたいのだろう、と思いミラもついていく方面でこのことは決定した。

まあ恭也の近くにいたい、というのもあるだろうがそれよりも、この二人だけで行かせることが不安以外の何者でもない、というのが主な理由だったりするのだがそれを皆が知ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで現在に至るというわけなのだ。

ちなみに先ほど人外戦争を起こしそうだった二人はミラによって止められ、さらには説教された。

レイがミラに頭が上がらないのはいつものことだが、恭也(悪)がミラに説教されてたじたじになるのはどこか妙な光景だった。

ともあれ、説教を受けた二人とミラは開かれたゲートを潜って遺跡へと到着した。

 

「うわ〜……なんか前よりも荒れてるね」

 

「当然だろうが。 一体何年経ったと思っている」

 

「む、あんたには言ってないよ!!」

 

「ほ〜、そうかそうか。 それはすまなかったな。 あまりにアホな発言に思わず突っ込んでしまった」

 

「キーーーー!! やっぱり消し炭にしてやるーーー!!」

 

「やれるものならやってみろ」

 

再度人外戦争が勃発しかねない空気の中、ミラは小さく溜め息をつき笑顔を浮かべて二人を見る。

すると今にも相手に飛び掛ろうとしていた二人はピタッと動きを止めてだらだらと汗を流し始める。

そして恐る恐るミラのほうを向いてその笑顔に恐怖を覚える。

 

「二人とも……また説教されたい?」

 

微妙に殺気を漂わせてそう問うミラに二人はブンブンと凄い勢いで首を横に振る。

 

「なら……わかってるわよね?」

 

それに今度は同じくらいの勢いで首を縦に振る。

首を縦に振った二人を見てミラは、ならいいわ、と呟き、漂う殺気が黙散する。

殺気が消えたことに二人は同時に酷く疲労したような溜め息をつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

と、そんなこともあり、ミラの怖さを再確認しつつも三人は遺跡内部へと侵入する。

遺跡内部は外もそうだったが中も負けないほどに荒れ、所々が崩れかけている。

 

「ほんとにこんな所に神器があるのかな……」

 

「それを調べるために来てるんだろうが」

 

「む、そんなのわかってるよ!!」

 

先ほどと違い行動にこそ出ないが相変わらず口論が絶えない二人。

そんな二人に本日何度目かの溜め息をつきつつミラは遺跡内を見渡しながら歩く。

 

(ずいぶんと古い遺跡ね……いつ頃からのものなのかしら)

 

数年という年月を抜いてもその遺跡がかなり昔からのものというのが見て取れる。

でなければここまで荒れているのも老化しているのもおかしいということになってしまう。

 

(建ってから数十年…ううん、数百年前は経過してるわね。でも、そんな昔になんでこんな遺跡が…)

 

思考しながらも徐々に前へと進む。

ちなみに後ろではぎゃーぎゃーと喚き散らしている人たち(主にレイ)がいるがそこは敢えて無視をすることにした。

ゆっくりと遺跡の中を歩いているといろんなところに所々に小さな空間があるがそのどこにも神器らしきものは見当たらなかった。

そして神器が見当たらぬまま歩き続け、三人は等々通路の終わりへと行き着いてしまう。

 

「行き止まりね……」

 

「ぶ〜、やっぱり何もないじゃない。 敵の言ったことなんて信じるだけ無駄だったんだよ」

 

「……」

 

文句を言うレイに恭也(悪)は何も返さず行き止まりの壁に手で触れる。

それにミラは首を傾げレイは、諦めが悪いな〜、と呟きながら二人は恭也(悪)のそれを何もせず見ていた。

しばらくして恭也(悪)は壁から手を離し、黙していた口を開く。

 

「ここだ……」

 

「「え(は)?」」

 

同時にミラとレイは声を上げる。

ミラはどういう意味か分からず、レイは、何言ってるんだ、と馬鹿にするように。

だが、そんな二人にまたも言葉を返すことなく恭也(悪)は片手に大剣を顕現する。

 

「ちょっと……武器なんか出してどうする気よ」

 

「こうするんだ……っ!」

 

大剣を振り上げて力いっぱいと言うように壁に向かって振り下ろす。

だが、振り下ろされた大剣の刃が壁に触れた瞬間、傷をつけることもなく触れた刃の部分が魔力の粒子に変わり黙散する。

ミラとレイはそのことに驚愕の表情を浮かべた。

 

「ちっ……やはり封印の方が強いか」

 

「どういうこと?」

 

「ん? ああ……説明したときに、スレイプニルは封印の施された部屋にある、と言っただろ? おそらくそれがここだ」

 

「ただの壁に見えるのはそういう封印だからってこと?」

 

「いや、それはまた別だろうな。 おそらく封印をかけた者とは別の者が封印の上に魔力で擬装したんだろう」

 

「なんで封印をかけた人とは別の人ってわかるのよ……」

 

「簡単な推理だ。 さっき擬装に使われている魔力と封印に使われている魔力の濃度の違いを調べたんだが、明らかに擬装よりも封印のほうが魔力濃度が薄くなっている。 封印を掛けられてから少なくとも百年以上は経過してから擬装魔法を掛けないと二つにこんなに差は出ないというほどにな。             故に誰かがこの封印の存在を知り誰にも見つからぬように擬装魔法を掛けた、という結論に至ったんだ」

 

「さっき壁を手で触れていたのはそういうわけだったのね……」

 

「ああ。 だが、わかったからといってどうにかなるものではない。 この封印は魔力濃度がここまで薄くなって尚、凄まじいほど強固さを見せている。並みの者では破ることは不可能だろうな」

 

「そんなこと言って、単純にあんたの力が弱いだけじゃないの〜?」

 

「ほう……そう言うということはお前なら破れるということだな?」

 

「は・・・?」

 

「なんだ、違うのか? 妙に人を馬鹿にしたような言い方をするからてっきり出来るものと思ったのだが」

 

破れるわけないと思っていることが見え見えの言い方で恭也(悪)は言う。

それにレイは当然の如くむっときてしまい……

 

「で、出来るに決まってるよ!」

 

と反射的に言ってしまった。

そしてその発言に恭也(悪)はにやりと小さく笑みを浮かべ、それを見たレイは内心でしまったと思う。

恭也(悪)の魔力はレイやスレイと同等に近いものがある。

故に恭也(悪)に破れなかった封印がレイに破れる可能性は限りなく低いのだ。

だが、ここで発言を撤回すれば恭也(悪)に馬鹿にされるのは目に見えている。

そのため、意地っ張りなところのあるレイは発言を撤回することができない。

それどころか……

 

「こんな封印くらい破れないなんてあんたの力も底が知れるね」

 

などと自分を追い込むような言葉を重ねる始末。

その二人の会話を聞いていたミラが溜め息をついてしまうのも仕方ないだろう。

 

「そうかそうか……なら弱者の俺に強者の力というものを見せてくれないか?」

 

笑みを浮かべながら恭也(悪)はさらにレイを追い込むような発言する。

それの発言にもう後へと引けぬレイは……

 

「いいわよ! 見せてやろうじゃない!!」

 

といってあからさまにドスドスと足音を立ててその壁の前に立つ。

 

「こんな封印、私の手にかかったら一発なんだから!」

 

そう言いながら恭也のほうを向きつつ壁をぽんぽんと叩く。

そのときだった。

 

「「えっ(なっ)!?」」

 

「へ?」

 

レイが壁に触れた瞬間、壁に封印の紋章らしきものが浮かび上がる。

そして紋章から放つ光がレイを包み込んでいく。

 

「え? えぇ!?」

 

何が起こっているのかわからないレイは困惑の表情を浮かべていた。

そんなレイを光が徐々に包み込み、そして完全に光に包まれたレイは光が晴れると同時にその姿を消した。

そして後には呆然とそれを見ていたミラと恭也(悪)のみがその場に残されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光に包まれたレイは次の瞬間には見知らぬ場所に立っていた。

先ほどまでいた遺跡に似ているようでどこか違う。

どこか神秘的な雰囲気を感じさせる、そんな場所だった。

 

「ここ…どこ?」

 

きょろきょろとその場所の周りを見渡す。

だが、その場所には目の前にある祭壇のような台以外何も見当たらない。

その台も上に何があるわけでもなく、ただ台のみしかない。

最初に感じた雰囲気とは裏腹にずいぶんと殺風景な場所だった。

 

『祭壇の前に……』

 

「え…?」

 

突如、どこからともなく声が聞こえてきた。

それにレイは少しだけ驚くも、その声に悪意などは感じられないため警戒はしなかった。

その声はむしろ優しく、暖かい、慈愛に満ちたような声。

だからか、レイは声の指示に従い祭壇の前へと歩み寄る。

 

『手を……祭壇の上に』

 

レイはそれに従い祭壇の上に手を祭壇の上に置く。

すると祭壇から静かに光の粒子が立ち上り、祭壇に置かれたレイの手を光が包み込む。

 

(暖かい……)

 

自身の手を包み込む光の温もりに、レイは心中で呟く。

そして光が手を包み込んでから数秒後、レイの手から光が黙散する。

光が消えた後のレイの手の中指には銀色に光る指輪がはめられていた。

レイは祭壇から手を下ろし、手にはめられた指輪をじっと眺める。

そして直感的にその指輪がなんであるかを理解する。

 

「スレイプニル……」

 

『ええ……あなたは、これが欲しかったのでしょう?』

 

「う、うん……」

 

レイがそう返事して頷くと、この部屋に来たときと同じようにレイの体を光が包み始める。

それにレイは慌てるようにその声へと叫ぶように言葉を発する。

 

「待って! あなたは、いったい……」

 

『今は、答えられない……でもあなたが、あなたたちが真実を知ったそのときはすべてを話しましょう』

 

光が完全にレイを包み込み、来たときのような浮遊感を感じる。

そして真っ白に染まる視界の中、その声は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『だから、負けないで……レイ、スレイ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小さく、そう呟いた。

 

 


あとがき

 

 

物語もそろそろ終盤、二ヴルヘイム突入編へと差し掛かります!!

【咲】 いきなり何よ。

いや、なんとなく。

【咲】 はぁ……ま、いいけど。 で、前も言ったんだけど、恭也(悪)の性格が本来のものとはえらい違いね。

まあ、恭也(善)に本来の性格の大半を持っていかれてるから。

【咲】 ふ〜ん……じゃあ恭也(悪)に関しては今のような感じで固定?

そうなるな。

【咲】 そう。

【葉那】 お姉ちゃ〜ん! 準備できたよ〜!

【咲】 ご苦労様、葉那ちゃん。 じゃ、私は着替えてくるからここで待ってて。

【葉那】 うん♪

着替えてくる? ……ああ、そういえば浩さんのところに行くとか言ってたな。

【葉那】 そうだよ〜。 えへへ、楽しみ〜♪

ところで葉那さんや、一つ聞いていいかい?

【葉那】 何〜?

クッキーを作って持っていくとか言ってたからバスケットは分かるんだけど、そのもう片方に持ってるのはなんだ?

【葉那】 鎌だよ♪

……。

【葉那】 しかも、この日のために用意したおニューの鎌だよ♪

置いていけ。

【葉那】 え〜、なんで〜。

浩さんに危害が及ぶからだ。

【葉那】 でも、お姉ちゃんはいいって言ったよ?

あいつがいいって言ってもダメなものはダメだ。 いいから置いてげばっ!!

【咲】 あ、ごめんなさい。 手ごろな位置にいたから思わず殴っちゃった。

て、手ごろ位置にいたらお前は殴るのか!?

【咲】 当然。

即答ですか……。

【葉那】 お姉ちゃん、用意できたなら早く行こうよ〜。

【咲】 そうね。 じゃ、いきましょうか。

【葉那】 うん♪

あ〜、まてまて君たち。

【咲】 何よ。

行くのはいいけど、その鎌は置いてけよ。

【咲】 嫌に決まってるじゃない。

いや、決まってるって……だいたいそんなものメイド服で持つものじゃないだろ。

【咲】 大丈夫よ。 十分合ってるから。

合ってねえよ!!

【咲】 あ〜、もう! うっさいわね!

げぶっ!! はべっ!! ぶばっ!!

【咲】 ふぅ……じゃ、行きましょうか♪

【葉那】 そうだね〜♪

【咲】 っと、その前に……皆さん、また次回会いましょうね〜♪

【咲&葉那】 それじゃ、行ってきま〜す♪

ぴぎゃっ!!(行き際に踏まれる 

ま、また……次回………ガク。




ようこそ、メイドさん……ぶべらっ!
美姫 「行き成り鎌で斬られてるわね」
咲 「という訳でお邪魔します」
葉那 「お邪魔しま〜す」
ようこそ、ウエルカム! うん、メイドに鎌もまた良し!
ああ、そこで構えて。そうそう。
咲 「葉那……」
葉那 「お、お姉ちゃん、気にしたら負けだよ」
咲 「いや、話には聞いてたけれど、ここまで復活が早いなんて」
美姫 「便利でしょう。幾らやっても、すぐに復活。執筆に支障が出ない」
咲 「確かにそういう考えも」
こらこらこら。物騒な事を言うな。幾ら俺でも大きすぎるダメージでは時間が掛かるんだからな。
って、何で斬り掛か……い、いやぁぁぁっ!
葉那 「とりあえず、お土産はどうしよう」
美姫 「そうね、後で皆で頂きましょか」
咲 「ふー、すっきり。普段T.Sにやっている以上にやれるなんて最高!」
おいおい、ちゃんと俺の分も土産あるんだろうな。
葉那 「ちゃんと持ってきてるよ」
そうか、そうか。後の楽しみが増えたな。
咲 「…………」
美姫 「ほらほら、気にしたら負けよ負け」
葉那 「そうそう。今日一日いれば、すぐに慣れるよ」
んな、人をお化けみたいに。
美姫 「……」
葉那 「……」
咲 「……」
えっと、その無言は何? お、お化けの方がましという顔はやめてぇっ!
美姫 「さて、ほどよく浩を精神的にいじめた所で」
今回もまた謎の人物というか、声が。
咲 「あれはああいう生き物、ああいう生き物。精神的にもすぐに立ち直ると」
そこまで自己暗示掛けなければいけないほどか!
美姫 「あー、はいはい。確かに、あの声は興味を抱くわね」
だろう。いやー、今後の展開が待ち遠しい。
葉那 「次回も待ってますね〜」
咲 「葉那、それは美姫さんの台詞よ」
葉那 「あ、ごめんなさい」
美姫 「良いわよ、別に。それじゃあ、改めて、次回も待ってますね」
待ってます! ……ぶべらっ! ……な、何で?
咲 「いや、思わず?」
疑問形かよ!
美姫 「ほら、落ち着きなさいよ」
ぶべらっ!
ひ、酷い……。



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