「恭也…さん?」

 

皆が突如現れた青年に呆然とする中、フィリスは小さく呟く。

青年―恭也はその呟きに反応し少しだけ視線を向けるがすぐに逸らす。

そしてテラスの出入り口に向けて歩き出した。

 

「オオオォォォォ!」

 

それを阻むように雄叫びを上げながら影が迫る。

だが恭也はそれに視線を向けることもなく瞬時に魔力を練り大剣を手に顕現させる。

そしてその剣を軽く横に一閃する。

 

「オオオォォォ…」

 

その剣は迫った影の目を正確に捉え砕く。

目を砕かれた影は闇夜に溶けるように静かに消滅する。

 

「その程度の力で俺を止められると思ったか……愚かな」

 

恭也のその呟きに反応するかのように影たちは一斉に恭也へと攻め始める。

だが、一斉に掛かってくる十体以上もの影に恭也は動揺することすらない。

いつも通りの無表情でもう一刀の大剣を顕現させ音もなく影のほうへ向く。

 

「消え失せろ…粗悪品どもが」

 

殺気を込めた言葉を吐きながら、恭也は二刀を構える。

構える恭也から立ち上る魔力は誰から見ても、とてつもなく禍々しいものに映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!〜対なる心、継承せし二刀の剣〜

 

【第二部】第十六話 目覚めの予兆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは一瞬だった。

恭也から魔力が立ち上り殺意の篭った声が聞こえると同時にその姿が消えた。

そして姿が消えた瞬間、魔力による凄まじい強風が巻き起こる。

 

「っ…」

 

その風は皆のところにまで届き、皆は目を開けていることができずにぎゅっと閉じる。

皆が目を閉じて間もなく、その風は収まり皆は目をゆっくりと開ける。

そして目の前に広がる光景が信じられず驚愕の表情を浮かべる。

 

「ふん……」

 

十体以上もいた影のすべてはあの一瞬で目を砕かれ消えていく。

恭也はそれを一瞥し、再度テラスの出入り口へと歩き出そうとする。

だが、またもそれを阻むように影が数体召還されてくる。

 

「ちっ……鬱陶しい奴らめ」

 

召還されると同時に襲い掛かってくる影に恭也は舌打ちをしながらそう呟き迎撃する。

一体一体確実に消滅させていくが影の召還速度は衰えることなく続くため切りが無かった。

それに再度舌打ちをし今だ呆然としているフィリスに向かって叫ぶように声をかける。

 

「おい! そこの女!」

 

「え?」

 

呼ばれたのが自分ということに気づかずフィリスはキョロキョロする。

それに恭也は内心イライラしながら再度叫ぶ。

 

「そこの金髪の女、貴様だ!」

 

「え、あ…私、ですか?」

 

「そうだ! 単刀直入に言う! こいつらをどうにかしろ!」

 

「どうにかしろ、と言われても…」

 

数が少なくなり召還速度も衰えてはいないが先ほどから変わってはいないためか数は最初より激減している。

もともと一体一体ということならさほど苦戦もしていなかったフィリスはさっきまでなら恭也のその言葉に首を縦に振っただろう。

だが、現在のフィリスは弓を影によって破壊されているため攻撃手段がない。

だから恭也の言葉に首を縦に触れず、その自分の現状を提示するように地面に転がる壊された弓に視線を向ける。

 

「武器がないならこれを使え!」

 

「え? ……っ!」

 

前方で交戦する恭也から大剣が投げられ、フィリスは慌ててそれを受け取る。

すると受け取った大剣は魔力の粒子に黙散し、フィリスの手の上で弓の形に再構成される。

フィリスはそれに驚き、どういう原理なのか、と聞くように恭也のほうを見る。

 

「悪いが説明している暇はない! さっさとこいつらをそれで抑えろ!」

 

「は、はい!」

 

恭也の言葉にフィリスは慌てて返事をし弓を構えて矢を放つ。

矢は恭也が交戦している影とは別の影の目を捉え砕く。

 

「オオオオオオォォォォ…」

 

消え行く影を見ながらフィリスは驚く。

恭也が渡したそれは自身が先ほどまで使っていた弓よりも手に馴染む感じがしたのだ。

それはまるでかなり昔からずっと使ってきたもののように。

 

「ふっ!」

 

恭也はそれを横目で一瞥すると残ったもう一刀で影の目を砕く。

そしてここはもうフィリス一人で十分だと判断し出入り口へと駆け出す。

テラスから出て行く恭也にフィリスは慌てて声を掛けようとするがそれを遮るように影が召還される。

その召還された影をフィリスは瞬時に矢を放って消滅させ視線を戻すがそこにはもう恭也の姿はなかった。

 

「あの人が……恭也さんの言っていた半身、なんでしょうか」

 

そのフィリスの呟きに答えるものは誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

恭也は八景を構えながら若干荒めの息をつく。

普通ならば恭也が一時間や二時間の戦闘で息を切らすことはない。

ならばなぜ恭也は現在こんなに息を荒くしているのか。

その理由は…

 

(やはり…ミラの体で長時間の戦闘は耐えられんか)

 

ということである。

今の恭也はミラの中にいるためかミラの身体を借りなければ行動できない。

そしてミラは完全な魔法タイプの人間であるため剣術や体術などはまったく扱わない。

そのためミラはその手の人間と違い筋力や体力などがほとんどないのだ。

筋力などはどうにか剣の腕でカバーできるが体力に関してはどうしようもない。

 

「はっ!」

 

人は疲れてくると動きが単調になりがちになるのだが恭也はそのようなことはない。

だが、単調にならないというだけで動きが変わらぬまま維持できるわけではない。

最初に比べて恭也の動きは若干悪くなってきているのだ。

それを悟られぬようになんとか攻撃の手を緩めず戦うが、やはり少女にはお見通しらしく邪笑を響かせながら言う。

 

『そろそろ限界かしら、恭也。 動きが悪くなってきてるわよ?』

 

「く……」

 

完全に見透かされて恭也は悔しそうに呻く。

少女の言葉に美由希たちは驚きの表情を浮かべる。

恭也の腕を知っているからか、このくらいでそうなるなんて思っていなかったのだ。

だが、恭也に視線を向けてみれば若干肩で息をしている。

それが少女の言うことが真実であると物語っていた。

 

『その身体はあなたの身体じゃない。 それなのにそれだけ動き続けていれば、耐えれるはずがないわよね』

 

「それでも……俺は必ず…守る」

 

『ふふふ……その強さはあなたの魅力でもあるけど、いいのかしら? それ以上あなたがその身体を酷使し続ければ、あなたの大事な大事なその女の身体……どうなるかしらね』

 

「っ……」

 

限界を超える動きをし続けることでその身体はどうなるか。

それは恭也が一番良くわかっていることだった。

身体の限界を超え動き続ければその身体は確実に壊れてしまう。

恭也自身がしたことのある経験、それをミラの身体でする気なのか。

少女の言っているのはそういうことだった。

当然ミラの身体を壊すわけにはいかない。

だが、ミラの身体の限界を超える動きをしなければ自分だけでなく美由希たちにも危害が及ぶ。

どっちにしたところで恭也の望まぬ結末が待っているのだ。

 

『わかったかしら? 今のあなたがどう足掻いても大切な人を守りきるなんて不可能なのよ』

 

少女がそう告げると影がさらに数を増す。

数を増した影は恭也と美由希の周りを囲むように立つ。

 

『まずは光の継承者、次に魔剣……そしてあなたの大事なその女は、最後』

 

二人を囲んだ影はゆっくりと迫っていく。

恭也と美由希はそれに合わせるように徐々に後ろに下がり、遂には二人の背中がぶつかる。

かなりの数の影に囲まれたこの状況、如何に御神の剣士である恭也と美由希でもこの状況下で無傷で切り抜けることはほぼ不可能。

下手をすれば生き残る可能性よりも少女の言うとおり死ぬ可能性のほうが高いかもしれない。

それが分かっていても、二人は諦めることなく剣を構え抗う意思を見せる。

少しでも可能性がある限り自分たちは絶対に諦めない、というかのように。

 

『やりなさい……』

 

少女の言葉に反応し、影たちは一斉に襲い掛かる。

襲い掛かってくる影に二人は迎撃のために動き出そうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのときだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『「「!!?」」』』

 

凄まじい速度で無数の何かが恭也たちへと襲い掛かる影たちに飛来する。

飛来した何かは影の目に正確に当り、影の目はガラスの割れるような音と共に砕ける。

目を砕かれ粒子に分解されるように影たちは黙散し消え去る。

 

「間に合ったな……」

 

影たちが完全に消え去ると共にそれらを投げたと思われる人物が暗がりから恭也たちのところへ歩み寄ってきた。

歩み寄ってきたその人物に恭也たちは驚愕の表情を浮かべ呆然とする。

そして恭也たちとは異なり、邪魔をされた少女は怒った風もなくただ笑いながら口を開く。

 

『意外と早かったのね、恭也』

 

「ああ……」

 

少女の言葉にその人物―恭也(悪)はそう短く返す。

なぜいきなり恭也(悪)が自分たちを助けるような真似をしたのかわからない恭也(善)たちはやはり呆然とするしかない。

それを恭也(悪)はちらっと横目で見るとすぐに視線を外し、少女に対して口を開く。

 

「で、どうする気だ? 俺がいる限り、お前の考える半身の破壊は実質不可能になった。 お前が自ら出てくるなら話は別だがな」

 

『ふふふ……まさか。 遊びで本気になるほど私は子どもじゃないわよ』

 

「遊び…?」

 

『ええ。 あなたがここに来るまでに彼の心を壊すことができるか、それともできないか。 これはそういった一種のゲームなのよ』

 

「俺があそこから逃げ出せる状況を作ったのもそのためか…」

 

『そうよ。 まあ、そのゲームは私の負けで終わったわけだけど……でも、いいわ。 十分に楽しめたから』

 

その言葉が聞こえると同時に少女の気配は徐々に薄くなっていく。

感じていた視線も、聞こえていた声も、少しずつ薄くなっていく。

 

『ゲームでは負けたけど……すべては私の台本通りに進んでる』

 

小さくなっていく声で少女は言葉を紡ぐ。

その言葉は小さな声量であるはずなのに皆にははっきりと聞こえていた。

 

『目覚めは近いわよ……恭也』

 

それを最後に、少女の声は聞こえなくなり、気配は完全に消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……」

 

恭也(悪)は手に握る剣を消して恭也(善)たちのほうへ向く。

自分たちのほうを向いた恭也(悪)に恭也(善)たちは警戒を露にする。

先ほど助けられたからといって先日のことがまだ尾を引いている四人からすれば恭也(悪)が警戒すべき人物以外の何者でもない。

あからさまに警戒する四人に恭也(悪)は小さく溜め息をつくも無表情を崩さず静かに口を開く。

 

「まずは警戒を解け。 でないとまともに話ができん」

 

『そう言われて素直に解くと思いますか?』

 

「まあ普通なら解かんだろうが、そうしてもらわなければ話が出来ない以上解いてもらうしかない」

 

『話だけならこのまま話せばいいじゃない』

 

「できるならすでにしてる。 だが、そのまま聞いて貴様たちにまともな思考ができるとは思えん」

 

『だからって警戒解いた途端に襲い掛かられたら嫌じゃない』

 

「なら警戒を解いても斬りかかったりはせんと約束しよう。 だからさっさと警戒を解いて武器を納めろ」

 

『そんな約束、信用できるわけないよ』

 

「……はぁ」

 

いくら言っても聞かず話を進めることが出来ないことに恭也(悪)は再度溜め息をつく。

そしてレイやスレイでは話にならないと判断し恭也(善)と美由希のほうを向いて口を開く。

 

「そいつらでは話が進まんからお前たちに言おう。 警戒を解いてくれないか?」

 

「……」

 

美由希はレイやスレイたちと同じ意見なのか警戒を解かない。

だが、恭也(善)は警戒をしてはいるものの何かを確かめるように恭也(悪)の目をじっと見る。

そしてしばし見た後、小さく頷き八景を鞘に納める。

 

「恭ちゃん……?」

 

「警戒を解いていいぞ、美由希。 確かに今こいつに戦う意志はないみたいだからな」

 

「……わかった」

 

恭也(善)が言うのだからそうなのだろうと考え美由希は警戒を解く。

レイとスレイもまだ若干の警戒はあるものの剣化を解いて恭也(善)と美由希を挟むように立つ。

警戒を解いた四人に恭也(悪)は小さく、感謝する、と言って話を始める。

 

「今回のことで分かるとは思うが、あいつが表立って行動し始めた」

 

「そのようだな。 だが、なぜに今になって…」

 

「本人に曰く、もう我慢できない、だそうだ」

 

「我慢できない?」

 

「ああ。 もう少し分かりやすく言うなら、傍にいるのが俺だけということに我慢できなくなった、ということらしい。 だから早々にお前を壊そうとしたのだろうな」

 

「ふむ……それはわかったが、ならなぜお前がここにいるんだ? 俺を壊してもお前が手元にいなければ意味がないだろう」

 

「ゲーム、と本人は言ってはいるが真意は俺にもわからん。 謎の多い奴だからな」

 

「そうか……それで、逃げ出したお前がここに来た理由は、先日と同じか?」

 

「ああ。 さっきの会話を聞いていたなら分かるだろうが、俺はあいつを打倒しようとしている。 だが、半身である俺では奴に勝つことはできない。 だから…」

 

「俺と一つになり、完全な状態に戻って彼女を倒す……ということか」

 

「そうだ。 お前も奴をこのままにしておくつもりはないのだろう? だったら、利害は一致しているのではないか?」

 

「……確かにな。 俺は皆を守るために、お前は彼女を倒すために……か」

 

恭也(善)はしばし考える。

腕を組んで目を閉じたまま静かに思考する。

そして一分程度の時間が経過したとき、恭也(善)は目を開け、わかった、と言って頷く。

 

「ちょ、お兄ちゃん、ほんとにいいの!? 元に戻った後にこいつに身体を乗っ取られる可能性だってあるんだよ!?」

 

「それにこのこと自体が彼女の思惑の内である可能性もあります。 安易に決めるのは得策ではありませんよ?」

 

恭也の決断にレイとスレイは反発する。

だが、恭也は首を横に振り二人を諭すように口を開く。

 

「俺は安易に決めたわけでもないし、その可能性も考えなかったわけじゃない。 だが、こうする以外に彼女に対抗する手はもうないんだ」

 

「「……」」

 

恭也(善)にそう言われ、二人は口を閉じて下を向く。

安心させるように恭也は下を向いたレイの頭を撫で、反対のスレイは美由希に撫でられる。

二人が撫で終わるのを見て恭也(悪)は、もういいか、と小さな声で聞く。

恭也(善)はそれに頷き一歩ほど前に出る。

 

「では、取り出すぞ?」

 

「ああ。 言っておくが…」

 

「分かっている。 この女の身体を傷つけたりはせん」

 

恭也(悪)の言葉に恭也(善)は小さく頷く。

それを合図に恭也(悪)は手を恭也(善)の胸に伸ばす。

伸ばされた手は恭也(善)の胸の中に差込み、中の探るようにゆっくりと動かす。

体内を蠢く手に恭也(善)は苦悶の表情を浮かべ、美由希たちはそれを心配そうな目で見ていた。

しばしその状況が続き、恭也(善)の額に汗が浮かんでくる。

 

「む……」

 

小さく声をあげて恭也(悪)の手がある一点で止まる。

そして、見つけた、と呟き、表情に若干の笑みが浮かぶ。

 

「取り出すぞ?」

 

「あ、ああ……」

 

汗を浮かべながら恭也(善)が頷いたのを合図に恭也(悪)はそれを掴む。

そして離さぬようにしっかりとそれを掴みながらゆっくりと手を引き抜いていく。

手はゆっくりと徐々に引き抜かれていき、遂にはその胸から完全に抜ける。

手が抜けた途端、力を失ったかのようにその身体は前に倒れる。

それを慌てて美由希が支え、静かに壁のほうに背を凭れかけさせるように座らせる。

 

「それが、お兄ちゃんの心?」

 

「ああ…正確には高町恭也の心の半分、だがな」

 

恭也(悪)の手には自身の半身、恭也(善)の心と思われる物体が握られていた。

それは球体のような形をし、小さな光を常時放ち続けている。

恭也(悪)はそれをしばし眺めた後、ゆっくりと自身の胸に埋め込んでいく。

球体は徐々に埋め込まれ、数秒で完全に姿を消す。

 

「ふう……」

 

「終わり?」

 

「ああ……これでいいはずだ」

 

恭也(悪)はレイにそう返すが、しばししてから首を傾げる。

 

「なぜだ……元の身体に戻したにも関わらず、心が一つに戻らない」

 

「どういうことですか?」

 

「元の身体に分かれた半身を入れたのだが、一つに戻らず二つのまま存在し続けている、ということだ」

 

「それって……」

 

「ああ。 一つの身体に二つの心がある……つまりは先ほどとほとんど変わらないということだ」

 

「お兄ちゃんの心はどうなったの?」

 

「ふむ……入れたのだから中にいるはずだが」

 

そう言って恭也(悪)は自身の内部にいる恭也(善)に声を掛ける。

二、三回声を掛けると身体の内部からはっきりと声が返ってきた。

 

『そんなに呼ばなくても聞こえてる……』

 

『ならばさっさと返事をしろ。 帰ってこないからいないのかと思っただろ』

 

『ふむ……それはすまなかった。 で、これはどういうことだ?』

 

『さあな。 俺にもさっぱりわからん』

 

『お前にもわからない…か。 これでは状況はあまり変わらないな』

 

『そうでもないだろ。 自分の身体でこれからは戦える。 あの女の身体を傷つけることはない。 お前にとってはいい方向に転んだのではないか?』

 

『それは確かに、な。 だが、このままで彼女に勝てるのか、と聞かれれば……』

 

『間違いなく勝てないだろうな。 そういった意味では悪い方向に転んだとも言える』

 

『うまくはいかんものだな……』

 

『そうだな…』

 

『それで、状況が以前とほぼ変わらないということは俺が表に出ることもできる、ということだな?』

 

『ああ。 それに関しては問題ないだろう』

 

『そうか……なら一度表に出るが、いいか?』

 

『ああ、わかった』

 

そこで会話を終え、恭也(悪)は目を閉じる。

美由希たちはどうしたのかと思い、恭也(悪)にじっと視線を向ける。

それと同時に閉じていたゆっくりと目が開かれる。

開かれた目には先ほどのような鋭さだけではなく若干の柔らかさが含んでいた。

それだけで美由希たちはどういうことか理解し、レイがおずおずと声をかける。

 

「お兄ちゃん……だよね?」

 

「ああ」

 

頷いた恭也(善)にレイはばっと抱きつく。

恭也(善)は特に驚くこともなくレイを受け止めて優しく頭を撫でる。

そしてレイを撫でながら美由希たちのほうを向いて口を開く。

 

「この姿では久しぶりだな……」

 

「うん……でも、元に戻ったわけじゃないんだよね?」

 

「ああ。 それも含めていろいろと話さないといけない、が…」

 

「わかってる……それよりも先に生徒たちの安否、だよね?」

 

「ああ」

 

小さく頷き、レイを撫でていた手を下げる。

手を下げるとレイは名残惜しそうに恭也(善)から離れる。

レイが離れた後、恭也は壁に凭れ掛けさせているミラを背中に背負う。

 

「よし……行くぞ」

 

ミラを背負った恭也(善)のその言葉を合図に四人はテラスに向けて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恭也たちは知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一つになるというその選択を選んだことに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女がほくそ笑んでいることを。

 

 


あとがき

 

 

【葉那】 たっだいま〜♪

げ、帰ってきやがぶばっ!!

【咲】 お帰り〜。 どこにいってたの?

【葉那】 えへへ、浩さんと美姫さんのところ〜。

【咲】 あら、そうなの? 言ってくれればよかったのに…。

【葉那】 ごめんね〜。 じゃ、今度は一緒にいこ?

【咲】 そうね……そうしましょう♪

やめとけ……お前たちが揃っていけば主に浩さんに迷惑がはべっ!!

【咲】 失礼なこと言うやつね…。

【葉那】 そうだね〜。

失礼なことって……だいたい葉那が一人で行ったときも多大な迷惑かけたんじゃないのか?

【葉那】 そんなことないよ〜。

【咲】 そうそう。 こんな可愛い子が尋ねてきてくれてるんだから浩もきっと大喜びよ。

いや、それはないだろう。 こんな暴力的な奴にこられても浩さんに肉体的被害が行くだけべばっ!!

【咲】 ふぅ……ま、浩はメイドが好きらしいからこのまま行っても確かに微妙かもしれないわね。

【葉那】 じゃあ今度はメイド服着ていこうか?

【咲】 そうね。 それならきっと浩は泣いて喜ぶわ。

いや、来ないほうが喜ぶと思うんはぶっ!!

【咲】 懲りない奴ね……。

【葉那】 学習能力が致命的に欠落してるんだよ、きっと。

お前……何気に酷いこと言うな。

【葉那】 そうかな〜?

はぁ……じゃ、今回はこの辺で〜。

【咲】 では……美姫さん、ついでに浩。

【葉那】 また今度お姉ちゃんと一緒にお邪魔しますね〜♪

だからやめはぶあっ!!

【咲&葉那】 じゃ、まったね〜♪




メイドでなら大歓迎!
美姫 「はぁぁ、分かりきっていた答えだけれど、あまりにも予想通りで思わず溜め息が」
良いじゃないかよ。メイドさんだぞ。
美姫 「あ、はいはい」
むぅ。
美姫 「それはそうと、ようやく一つに戻ったと思ったけれど」
うーん、身体は一つで心は二つのまま。
美姫 「しかも、それさえもあの少女の思惑みたいだし」
いやはや、一体何を企んでいるんだろう。
美姫 「それらも含めて次回が待ち遠しいわね」
うんうん。次回も待っています。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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