会議室を後にした四人はミラの部屋へと戻った。

そして各自でベッドやら椅子やらに座って向かい合う。

 

「ねえ、お兄ちゃん…なんであのこと言わなかったの?」

 

座ってまもなく、レイはそう恭也に聞いた。

恭也はその質問に、ふむ、と呟いて若干の間を空けてから口を開く。

 

「あれは学園の問題でもあるが、俺自身の問題という割合のほうが強いからな」

 

「う〜ん、確かにそうだけど」

 

今日を含めて二日は敵の襲撃はない、ということを四人は言っていない。

あれと話していた恭也が説明するかと思っていたが一言もそのことを話さなかったのだ。

そのことにスレイとレイは口には出さなかったものの疑問に思っていた。

だからレイがそう恭也に聞いたときスレイも同じく気になるという顔をしていた。

だが、恭也が返した言葉は、確かにそうだ、と思えるものではあれど納得できるものではなかった。

二人が納得できないと言った顔をする中、美由希だけは何のことかわからず首を傾げている。

 

「どうしたのですか、主様?」

 

「えっと……あのことって何かなって」

 

「あ、そういえば美由希お姉ちゃんはあのとき気絶してたから知らないんだっけ」

 

レイはそこで気づいたかのように手をポンと叩く。

それに恭也、ああ、と呟くと簡単に美由希に説明する。

そして説明を終えると美由希は確認するように内容を言う。

 

「えっと、つまり今日を含めた二日間は敵の襲撃がなくて、その間に恭ちゃんがある選択をしないといけない…でいいのかな?」

 

「ああ」

 

「それはわかったけど、その選択ってなんなの?」

 

「簡単なことだ。 奴を受け入れ一つに戻るか、それとも受け入れず戦うか……それを選べ、ということだ」

 

そう告げた恭也の表情は、どこか暗さを感じさせるものだった。

そして、そのことに三人は気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!〜対なる心、継承せし二刀の剣〜

 

【第二部】第十四話 選べぬ二つの選択

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その選択次第ではこの戦いを終わらせることができるかもしれない。

三人は説明を聞いたときにそう思った。

だが、その考えは恭也の一言で打ち砕かれた。

 

「だが、前者を選ぶのは学園のことを考えると無理だろうな」

 

「え?」

 

「前者を選び一つに戻った後、あの少女が何もしないとは思えない。 最悪、学園に総攻撃をかけることだって考えられる」

 

「あ……」

 

恭也に言われて三人は気づく。

一つに戻った後、恭也がこの学園を攻撃し続けるとは思えない。

だが、恭也を二つに割ったあの少女も、そうだ、とは言えないのだ。

そもそも少女が恭也に何を求めているのかすら、現状では不明である。

だから最悪、恭也の言ったことをすることもありえるのだ。

それを考えると不用意に前者を選ぶことは出来ない。

 

「後は後者しかないわけだが、これも今の状況では厳しい。 良くも悪くも更なる犠牲者が出るだろうな」

 

「じゃあ、どうすれば……」

 

犠牲者を出すわけには行かないが、後者を選べば出る可能性が極めて高い。

だが、前者を選ぶことができない以上、後者以外はない。

だからこそ、三人はどうすればいいのか悩む。

 

「だが、前者を選ぶにしても後者を選ぶにしても、彼女の思惑を崩すことは可能だろうな」

 

三人が悩む中、恭也が呟くようにそう言う。

その呟きに三人は思考を止め恭也を見る。

 

「彼女の目的に俺が必要不可欠である、ということはあのときのことでわかる。 だから……」

 

「元に戻った際に……自身を消滅させる、ということですか?」

 

「前者ならばな…」

 

「そ、そんなのだめだよ!!」

 

レイは声を荒げてそう叫ぶ。

それに美由希も同意するように頷いている。

スレイも内心では美由希とレイに同意しながら恭也の言葉の続きを促すように言う。

 

「前者ならば……ということは後者の場合は違うのですか?」

 

「ええ。 後者を選んだ場合は奴と戦い、そして消滅させるという手段になります。 ですがこれは先ほども言いましたが死傷者を出さずにということはまず無理でしょう。 それに結果的には前者の場合とほとんど変わりません」

 

「変わらない? 消えるのは敵だけ、ということではないのですか?」

 

「はい。 奴と俺は同一の存在……そのため片方の心が消滅すれば、もう片方も同じく消滅します」

 

「それって……どっちを選んでもお兄ちゃんが死んじゃうってことじゃない!」

 

「いえ、それは違います」

 

レイの叫びをスレイは静かに否定する。

そしてその否定の後に続いた言葉は状況をさらに悪化させることとなった。

 

「消滅する、というのは死ぬとはまた違います。 人が死ねば転生して生まれ変わることができますが、消滅すればそれすらもできません」

 

「もっと悪いよ! つまり、もうお兄ちゃんには会えないってことじゃない!!」

 

レイは先ほどよりも大きな声で叫ぶ。

美由希とスレイも心中ではレイと同じ気持ちだが口に出すことはできない。

それはそれ以外に打つ手がないというのがわかっているからである。

レイのように下手に自分の思いをぶつけて恭也を困らせることはできない。

だから二人はレイのように口に出すことはできなかったのだ。

 

「だが、俺一人がそうなることで学園の皆から犠牲者を出すことはなくなるかもしれない。 だったら……」

 

「そんなのおかしいよ!! 確かに学園の皆も大事だけど、お兄ちゃんだって私たちにとっては同じくらい大事なんだよ!!」

 

「……」

 

「それなのにお兄ちゃんは消えるって言うの!? 私たちの前から…ミラお姉ちゃんの前からまた、消えるって言うの!?」

 

大切な人が自分たちの前からいなくなる悲しさ。

それを知るからこそ、レイは感情を爆発させてそう叫ぶ。

それに恭也は何も言えず、ただ沈黙する。

 

「レイ……恭也様を困らせてはいけませんよ」

 

「何よ! スレイはお兄ちゃんが消えてもいいって言うの!?」

 

「そうは言ってないでしょう? ただ、恭也様のお気持ちも考えなさいと言ってるんです」

 

「お兄ちゃんの……気持ち?」

 

「恭也様だって消えたいわけじゃないんです。 ですが現状ではそれしかないのなら…それで学園が、私たちが脅威に晒されなくなるのなら……恭也様はそうお考えになって言っているんですよ?」

 

「……」

 

「その恭也様自身がお決めになった覚悟を私たちのわがままで阻んではいけないのです……ですが」

 

スレイはそこで恭也のほうへ向く。

そして静かにレイと同じように自身の考えを、思いを告げる。

 

「私情を挟ませていただくなら、私もレイと同じ意見です。 一つの犠牲によって成り立つ平和なんて、平和とは思えません。 少なくとも残された人にとっては」

 

「だがな……」

 

恭也は困ったように頭を掻く。

スレイは恭也のその様子を見ながら、ふっ、と小さく微笑み言葉を続ける。

 

「レイに言っておきながら困らせてしまったようで申し訳ありません。 ですが、その結論に行き着くにはまだ早いと思いましたので」

 

「そうだね。 まだもう一日あるんだから、その間に何か策が思いつくかもしれないんだし」

 

「だからお兄ちゃん……諦めちゃダメだよ」

 

スレイに同意するように美由希は言い、レイはお願いするように言う。

恭也は三者三様のそれに軽く溜め息をつくと小さく微笑を受けべて頷く。

 

「そうだな……諦めるにはまだ早いか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二ヴルヘイムに建つ古城の玉座の間。

そこにいつものように佇む少女の姿があった。

 

「このままいっても……彼の心が壊れることはない」

 

そう呟く少女の手には朱色の玉が数個ほど握られていた。

少女は軽く目を閉じるとその玉を放るように宙に投げる。

放られた玉は地面に落ちることはなく、宙に漂うように浮いていた。

 

「憎悪の闇よ、死の淵より舞い戻れ」

 

少女がそう呟くと朱色の玉に黒い霧が集まる。

そしてその霧は人型の影となり、少女の前に立つ。

 

「オオオォォォォ…」

 

少女の前に立つ数体の影は声を揃えるように雄叫びを上げる。

その影に少女はいつもの笑いではなく無表情な顔を向ける。

 

「まだ知能も何もないゲシュペンストもどき……だけど、これで十分」

 

少女は誰に言うでもなくそう言うと影に背を向ける。

 

「行きなさい、闇の僕たち。 彼の地を闇に染め上げるために」

 

その言葉と同時に影の足元に魔法陣が浮かぶ。

そして影は黒い光に包まれ、その場から姿を消した。

 

「どこに……送った」

 

影が消えて間もなく、殺気さえ篭った声が聞こえてくる。

少女はそれに驚いた様子もなく、声のしたほうへ振り向く。

 

「さあ? あなたはどこだと思う?」

 

振り向いた少女の顔にはいつも通りの笑みが張り付く。

その笑みとそのとぼけたような言葉が彼―恭也を苛立たせる。

 

「とぼけるな……」

 

「ふふふ……」

 

怒りに満ちた恭也の声に少女はたじろぐことさえない。

それどころか笑みをさらに深めて恭也と向き合う。

 

「奴は俺の手で手に入れる……そう言った筈だが?」

 

「そうね……確かにそう聞いたわ」

 

「なら…なぜ、あれらを送った」

 

「……」

 

「答えろ……」

 

恭也は魔力を放出させ、それを自身の手に収束させて二刀の大剣を形作る。

そしてその一刀を少女に向け、殺気を強めてそう言った。

だが、剣を向けられても、凄まじい殺気を向けられても、少女は臆することはなく呟く。

 

「飽きたのよ……」

 

「何……」

 

「私が愛しているのは完全な状態の恭也……だから、恭也を完全に染め上げるために、今まであなたで我慢してきた。 でも…もうだめ」

 

少女はそう言って笑みをさらに深める。

それは恭也がぞっとするほど禍々しく、歪んだ笑みだった。

 

「もう、あなたじゃ我慢できない……」

 

「くっ…」

 

瞬間、恭也は少女に斬りかかる。

だが、少女はそれをまるで読んでいたかのように上体をずらして避ける。

その軽く流されるような少女の回避に恭也は驚愕の表情を浮かべる。

そしてそれはすぐに苦々しいという表情に変わり、絶え間ない連撃を繰り出していく。

 

「だめ…やっぱりだめ。 あなただけじゃ役不足……」

 

連撃を避けながら少女は呟く。

そして連撃を止めるように剣を手で受け止める。

 

「なっ!?」

 

手で受け止められたことに恭也は驚愕する。

恭也の力から放たれる斬撃を手で受け止めるなど普通は不可能。

だが、目の前の少女はそれをした。

そしてそれだけではなく、受け止められた剣がまるで少女の手に張り付いたように動かない。

いくら普通ではないと分かっているとはいえ、これらことには驚かざるをえない。

 

「しばらく……眠っているといいわ」

 

呟きと同時に少女は掴んでいる剣を砕く。

そして恭也が砕かれたことに驚く間もなく、少女の手が恭也の腹部に触れ零距離で魔力弾を放つ。

零距離で諸に魔力弾を受けた恭也は数メートル吹き飛び、死んだかのように地に倒れ付す。

 

「連れて行って……」

 

少女がそう言うと、倒れ付す恭也の横に影が二体現れる。

そして恭也の両腕を抱えるように持ち、どこかへと連れて行く。

恭也が運ばれ、静まり返った玉座の間には少女のみが残された。

 

「待っててね、恭也。 すぐに……すぐに完全に染めてあげるから」

 

少女は玉座を見ながらそう言うと背を向けて歩き出す。

歩き出した少女の姿は徐々に闇の中へ溶けるように見えなくなっていく。

 

「ふふ、ふふふふふふ……」

 

姿は見えなくなっているのに、少女の笑い声だけははっきりとその場に残っていた。

その声は不気味なほどに楽しそうで、嬉しそうな狂気に満ちた笑い声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはははははははははははははははははは!!!!!」

 

 


あとがき

 

 

【葉那】 たっだいま〜♪

げ、帰ってきやがっへぶっ!!

【咲】 おかえり、葉那ちゃん♪

【葉那】 あ、お姉ちゃん、言われたとおり制裁加えてきたよ♪

【咲】 ありがとね。 疲れたでしょ?

【葉那】 あはは、あれくらいじゃ疲れないよ〜。

【咲】 さすがは私の妹ね♪

うん、確かにな。 異常なところがそっくへばっ!!

【咲】 懲りない奴ね。

【葉那】 そうだね〜。 そういえば、お姉ちゃんがさっきから読んでるそれ何?

【咲】 ペルソナのところのざからさんから送られた錠剤に関するレポートよ。

【葉那】 へ〜、面白いの?

【咲】 そうね。 興味深いレポートではあるわ……あ、そういえば。

【葉那】 どうしたの?

【咲】 ちょっとこいつに聞きたいことがあったのを思い出してね。 ほら、さっさと起きなさい。

げぼっ!! ……お、起こすならもっと優しくお願いします。

【咲】 十分優しいわよ。

どこがじゃ!!

【咲】 まあ、それは言いとして……。

良くない!!

【咲】 うっさいわね……葉那ちゃん。

【葉那】 は〜い♪

……あの。

【葉那】 なに〜?

なんで俺は首に鎌の刃を突きつけられてるんでしょうか?

【葉那】 お姉ちゃんが黙らせろっていうからだよ〜。

いや、黙らせるにしても他に方法が……いや、なんでもないです。

【咲】 さて、黙ったところで聞くけど、こないだあんたの部屋にあったこの紙……何かしら?

え、あ、それは……。

【咲】 反乱計画書……って書いてあるように私には見えるんだけど?

いえ、ですから、あのね……。

【咲】 最近反乱があっちこっちで起こっては鎮圧されてるらしいけど……あんたも考えてたとはね。

あうあうあう……。

【咲】 ふふふふふ……どうしてくれようかしら、こいつ。

ガクガクブルブル……痛て!

【葉那】 変に震えると刃に当たるよ?

それを先に……いえ、なんでもないです。

【咲】 とりあえず、この改良した錠剤DXを飲むか、それとも死よりも辛い拷問パラダイスを受けるか……選びなさい。

ど、どっちもいやです。

【咲】 そう……どっちも受けるというのね。

言って、痛て!

【葉那】 だから騒ぐと刃が当たっちゃうんだってば。

う、うう……。

【咲】 じゃ、まずは錠剤DXの実験タイムね。葉那ちゃん。

【葉那】 は〜い。

や、やめふがっ!!(無理矢理お口オープン

【咲】 いっくわよ〜♪

ふごっ!!(錠剤全部を流し込まれる

【葉那】 はい、吐き出しちゃだめだよ〜♪

ん〜!ごくん。

【咲】 はい、OK。 葉那ちゃん、もう離していいわよ。

【葉那】 は〜い。

げほっげほっ……マジで苦しかっ(バタ

【咲】 う〜ん……こいつだと実験にならないわね。

【葉那】 そうだね〜。 他の人に送ってみる?

【咲】 そうね。 じゃ、浩とFLANKERとペルソナのところに送りましょう。

【葉那】 浩様と美姫様のところにも送るの? じゃあ私が届けに行きたい!

【咲】 う〜ん、行かせてあげたいのはやまやまだけど、葉那ちゃんはこいつの拷問してもらわないといけないから、今回は我慢して?

【葉那】 む〜……わかった。

【咲】 ごめんね。 次は行かせてあげるから。

【葉那】 うん!

【咲】 じゃ、錠剤の発送しないといけないから今回はこの辺でね♪

【葉那】 まったね〜♪




元気溌剌、錠剤パワー!
美姫 「いや、何でそんなに無駄に元気なんだか」
いや、お前の飲ませた錠剤のせいだろうが。
の〜め〜ば〜のめ〜るさ〜。
美姫 「うーん、効果なし、と」
いやいや、テンションがハイになってるだろう。
美姫 「……うん、やっぱり効果なし。いつも通りにバカでした、と」
そこはもう少しオブラートに包んで…。
美姫 「正確なデータが必要なのに、誤魔化そうとするからでしょう」
当たり前だろう。他の方たちを見ろ。あちこちで被害が。これ以上の改良はいらん!
美姫 「はいはい。所で、今回は敵側にも動きがあったわね」
ああ、とうとう謎の少女が動き出したな。しかも、痺れを切らして。
美姫 「これから先、どうなっていくのかしらね」
倒されたもう一方の恭也がどう動くのかと言う興味もあるな。
美姫 「益々目が離せない展開ね」
ああ。次回も待ってます!
美姫 「待ってますね〜」



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