「返せ……」

 

すでに目の前までに近づいた男はミラを見据えながら呟く。

その視線から逃げ出すことも出来ず、ミラは八景をさらに強く抱きしめる。

 

「返せ……」

 

男は先ほどからずっと同じ言葉ばかりを繰り返す。

返せ、返せ、という言葉を何度も、何度も。

その返せと言う言葉が何を指しての言葉なのか、ミラはわからなかった。

 

「あ……」

 

呟きを止めることもなく、ゆっくりと男は右手をミラに向ける。

その手は徐々にミラに近づいてくる。

それにどこか恐怖感を感じるも動くことができず、ただ手が近づいてくるのを見ているしかできない。

 

「っ……」

 

近づいた手は八景を抱える腕をすり抜けるようにミラの胸を貫き侵食する。

胸に侵食した手は何かを探すようにうごめく。

そして手が動くたびにミラの表情は苦痛に歪められる。

 

「あ…あぁ……」

 

感じる苦痛に漏らすように声をあげるミラに構うことなく男は手を動かし続ける。

そして動き続ける手が突如として止まる。

その瞬間、男の口元には笑みが浮かんでいた。

 

「見つけた……―――」

 

虚ろになりつつある意識の中、ミラの耳には男の嬉々とするような声が聞こえる。

だが、それに続いた言葉は聞こえることもなくミラの意識はそこで途切れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!〜対なる心、継承せし二刀の剣〜

 

【第二部】第九話 心の在り処

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄……ちゃん」

 

駆けつけた轟音の中心部、中庭の入り口でレイは立ち尽くす。

いるはずのない人の姿に呆然と立ち尽くす。

だが、レイはすぐに我に返ることとなる。

それは目の前で起こっているその出来事が目に入ったから。

ミラの胸をその人物の手が貫き侵食しているのが見えたから。

 

「ミラお姉ちゃん!!」

 

レイはすぐさま二人のところに駆け寄る。

だが、レイの手はミラに届くことなく、二人を取り巻く障壁に弾かれる。

 

「っ、結界!?」

 

それはその男によるものか、それともまた別の者か。

どちらかはわからないが、レイにはそんなことどうでもよかった。

その障壁がある限り、二人に近づくことはできない。

ならば、それを壊してしまえばいい。

 

「ブラッディレイ!!」

 

幾多もの黒いレーザーが障壁に注がれる。

主がいない状態でのレイはいるときに比べるとそこまで力があるわけじゃない。

だが、中級の魔法を行使するくらいの力はある。

そして中級魔法ならば大概の障壁は破ることは可能。

 

「これで……え」

 

しかし、煙の晴れたそこには障壁が今も健在していた。

健在する障壁にレイは驚きを隠せない。

障壁魔法は大体初級から中級の間に位置する魔法。

ならば中級魔法の上位に位置する魔法ならば破ることは可能なのだ。

だが、実際に目の前の障壁は破壊することはおろか、罅一つ入ってはいない。

 

「まさか、これって……」

 

そこで気づく。

その障壁が発する魔力の質に。

 

「闇の…魔力」

 

障壁にも属性が存在する。

術者の内に秘める魔力は人によって属性というものが違う。

さまざまな属性の魔法が使えようが、どの魔術師も魔力の本質は一つに絞られる。

そして障壁魔法とはその魔術師の魔力本質によって属性が変わるのだ。

光の魔力が本質であるのであれば、光の障壁。

炎の魔力が本質であるのならば、炎の障壁。

そして現在、レイの目の前に張られているのは闇の魔力を本質とするものが張る闇の障壁。

だが、これだけではレイはそれほど驚くことはない。

少ないとはいえ、闇や光の魔力を本質とする人はいる。

ならば、レイは何に驚いているのか。

それはその障壁から感じるその闇の魔力に覚えがあるからだ。

 

「なんで……」

 

その魔力は自分の主、恭也の魔力だった。

そしてそれは目の前の人物が恭也本人だということを現している。

ならば、尚のこと目の前の状況が理解できない。

 

「どうして……こんなことするの…お兄ちゃん!?」

 

意識がなくグッタリとするミラの胸に手を貫き侵食させて嬉々とした表情をする恭也。

レイの知っている恭也ならば、そんなことをするはずがない。

だが、するはずがないと思っていることが目の前で起こっている。

だから、レイは声を荒げて叫ぶ。

なぜ、こんなことをするのかと。

 

「見つけた……」

 

そんなレイの叫びを無視するように障壁越しに恭也は呟く。

そしてその瞬間、ミラの胸を中心に光が放ち始める。

 

「が…がああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

光が放ち始めると同時に恭也の表情は一転し苦悶に歪めながら苦しむ。

そして遂には侵食させていた手を抜き、後方へと後ずさる。

抜き放った恭也の手はまるで塵のように分散し、跡形もなく消える。

それと同時に二人を取り巻く障壁が消え、支えを失ったミラの体が後ろに倒れかけるのを我に返ったレイが受け止める。

その際、手を貫かれていた場所を見るが傷らしい傷はない。

 

(魔法? …でも、そんな痕跡はないし……じゃあ、いったい)

 

貫かれていたにも関わらず傷一つないことにレイは疑問が浮かぶ。

だが、その疑問を考えるレイの思考を打ち破るように恭也が苦悶の表情を浮かべたまま呟く。

 

「なぜだ……なぜ、拒絶する」

 

「え……?」

 

その言葉が何を意味しているのか分からないレイは恭也に視線を向ける。

恭也は苦悶の表情の中に苦々しさを浮かべながら二人を、いや、ミラを見ている。

だが、その表情はすぐに変わる。

 

「貴様の……貴様のせいか」

 

怒りを秘めた憎悪の目をミラに向け始める。

その目にレイはぞくっとした感じを覚える。

それは自分の知っている恭也ならば絶対にしないような瞳。

その瞳が目の前の者が恭也ではないのではと思わせる。

 

「誰……なの」

 

だから、その疑問が口に出た。

だが、その疑問に恭也は答えることなく、表情を変えぬまま呟く。

 

「貴様が……貴様がいるから」

 

憎悪の声と共に恭也の体からは魔力が立ち上がる。

そしてそれに応えるように恭也の後方に影が出現する。

その数、三体。

 

「!?」

 

その影は何度もミラたちを襲った影。

手に剣を持ち、朱色の目をした脅威の存在。

それがまるで恭也に呼び出されたかのように現れた。

 

「殺せ……」

 

呟きを聞き影は二人に襲い掛かる。

一体でも今の状況なら太刀打ちなどできない。

それが三体ということもあり、襲い掛かってくる影にレイは目をキュッと閉じる。

まるでこれから訪れる痛みに耐えるように。

目を閉じた瞬間自身の体に衝撃が走る。

だが、衝撃はきても痛みは一向にこない。

それを不思議に思ったレイは閉じていた目を開ける。

 

「大丈夫だった?」

 

視界に入ったのは自分とミラを抱える美由希の顔。

何が起こったのかわからず混乱するレイは呆然とした表情で美由希を見ていた。

美由希は答えを返してこないレイにどこか怪我でもしたのかと思い心配そうな顔をする。

その表情に我に返ったレイは戸惑いがちに首を縦に振る。

頷いたレイに安心したというような表情を見せ、美由希はレイを下ろし、ミラを地面に寝かせる。

 

「それにしても……なんで恭ちゃんが」

 

影の後方にいる恭也の姿に美由希は表情を若干曇らせる。

信じられないのも無理はない。

恭也が死ぬ所はここにいる全員が見ているのだから。

 

「光の継承者……」

 

憎悪の表情を変えぬまま恭也は呟く。

それに呼応するように三体の影の目が赤く、妖しく光る。

 

「とりあえず…あの影をどうにかしないといけないみたいだね」

 

『はい。 あの者の捕縛はその後に』

 

「うん」

 

美由希は三体の影を前にスレイを構える。

 

「継承者以外を……殺せ」

 

影の後方に立つ恭也がそう告げると影は動き出す。

動き出す影に美由希は迎撃するように斬りかかる。

斬りかかってくる美由希をまるで無視するかのように避け、通り過ぎようとする。

影のその行動は恭也の命令によるもの。

継承者である美由希以外の殺害を命じられたための行動。

だが、それは今の美由希に対して倒してくれといっているようなものだった。

なぜなら、美由希とスレイは影の弱点をすでに掴んでいるのだから。

 

「はあ!」

 

美由希を無視しレイとミラに襲い掛かろうとする影に美由希はスレイを振るう。

振るわれた刃は影の体を傷つけ、若干動きが鈍る。

動きが鈍ったところを狙い、美由希は影の目を狙って刃を振るう。

 

「!?!?!」

 

影の目は美由希の刃を諸に受け、砕け散る。

目が砕け散った影は雄叫びを上げながら体を黙散させて消える。

 

「え……」

 

さすがの美由希でも影を三体も相手にしては敵わない。

レイはそう思っていたが目の前のそれが考えを討ち砕く。

今まで倒せなかった影の一体を美由希は倒したのだ。

弱点のことを知らないレイからすれば驚くのも無理はないだろう。

 

「てぇ!」

 

影が消えるのを最後まで確認することもなく次へと斬りかかる。

さすがに先のことで学習したのか、避けるだけでなく反撃を繰り出してくる影。

だが、影の攻撃は当たることなく空を斬る。

瞬間、影の後方に美由希が現れ、刃を目に振るい砕く。

 

「オオォォォォ…」

 

二体目の影が消滅すると同時に三体目へと斬りかかる。

三体目の影も二体目と同じく迎撃しようとするがそれは無意味となる。

それは二体目と同じく美由希が影の目視できない速度で動いたからだ。

 

御神流奥義之歩法 神速

 

反応できぬまま、振るわれる刃を目に受け砕かれる。

目を砕かれた影は前の二体と同じく空気中に黙散して消える。

 

「はぁ…はぁ…」

 

テラスでの一回、そして今、二回神速を使った美由希は疲労のためか肩で息をする。

その呼吸を整えぬまま美由希はスレイを恭也へと構える。

 

「……」

 

刃を向けられた恭也は先ほどの表情から無表情へと変わる。

それと同時に先ほどから立ち上がっている恭也の魔力がさらに増す。

 

「邪魔を…するな」

 

魔力は増し続け、周りの風景が黒で埋め尽くされていく。

その光景に美由希も、スレイも、レイも驚きを隠せない。

驚く三人を見据えつつ恭也の両手には魔力が集まり出す。

そしてその魔力は普通の人間では扱えないほどの大きさをした剣を形作る。

 

「邪魔をするのならば……継承者とて、殺す」

 

殺意を込めた声がその場に響き渡る。

それを前に、美由希は怯むことなく構え続ける。

今自分が退けば、ミラたちは確実に殺される。

そして目の前の人物が、恭也なのかを確認できぬまま逃がすこととなる。

だから、それらをさせないために美由希は戦う意志を見せるように構える。

構えを解かない美由希に恭也は、そうか、と呟き斬りかかる。

 

「ならば……闇に沈むがいい」

 

殺意を強めたその声はその場にいる全員に恐怖を覚えさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ……面白いことになったわね」

 

映像を見ながら少女は呟く。

呟く少女の表情はまるで子供のように楽しそうな表情。

そんな表情をしたまま映像を見続ける少女の後ろに一つのフードを被った男が現れる。

 

「先の『ゲシュペンスト』敗北についての報告に参りました」

 

「言って」

 

振り返ることもなく、視線を動かすこともなく告げる。

それにその男は気を害した風もなく、淡々と話し始める。

 

「『ゲシュペンスト』の敗北は――様も映像でご覧になられたとおり、予期せぬことにより動揺が生まれたためでしょう。 この動揺に関してですが、心や感情を持たぬ『ゲシュペンスト』がなぜ動揺などということをしたのかを調べたところ、核となる魔眼の異常成長に原因があるのでは、という推測があがりました。 これに関しましてはまだ確証はありませんので後々完全な状態でご報告にあがります」

 

「そう。 あなたの作るものは優秀だけど、優秀すぎるところがたまにキズね」

 

「申し訳ありません」

 

「咎めてるわけじゃないわ。 どちらかと言えば感謝してるのよ? 魔眼の開発も、五つの魔剣の研究も、あなたがいなければできなかったことだもの」

 

「有難きお言葉、感謝の極みでございます」

 

深々と頭を下げる男。

それをやはり見ることもなく少女は言う。

 

「それで、レーラズのほうの研究はどうかしら?」

 

「それに関しましては以前ご報告いたしました件以上のことはまだわかってはおりません」

 

「そう。 なら引き続きレーラズの研究を最優先の方向でお願いね」

 

「かしこまりました」

 

男は深く頭を下げたまま後方へと消えていく。

少女は最後まで男を見ることもなく、映像を見たまま呟く。

 

「覚醒は近い……早く……早く」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたと一つになりたい」

 

 


あとがき

 

 

さてはて、今回も謎の単語が少女の口から出たわけです。

【咲】 謎を作りすぎのような気もするけどね。

謎は多いほうが面白いんだよ。

【咲】 そうなの?

俺はそう思う。

【咲】 ふ〜ん……あ、そういえば今回また良い物を開発したのよ。

良い物の前に、私にとって、がつくだろう。

【咲】 当然。

……ま、まあとりあえず聞くけど、なんだ?

【咲】 この間、目薬作ったじゃない?

ああ、あの悪魔の目薬な。

【咲】 で、その目薬には二つの問題点があることがわかったのよ。

問題点?

【咲】 そ。 一つは人によって効き目が悪い場合があるってこと。浩がいい例ね。

もう一つは?

【咲】 連続しようした際の身体疲労って点よ。これはあんたとFLANKERっていう実験体から出た結果ね。

俺ならまだしも、FLANKERさんをも実験体と言いますか……いや、さっきまでの会話からすると浩さんもか。

【咲】 そこでだけど。

無視かよ。

【咲】 黙って聞きなさい! で、誰にでも絶大的な効力を発揮するように、ということを意識して目薬の強化をしたのよ。

でもそれだと疲労に関する問題が出るだろ。

【咲】 そこもぬかりはないわ。 疲労を感じたとき用にあるものを開発したから。

それが最初に言ってた良い物ってやつか?

【咲】 ええ。 名づけて、疲労回復栄養ドリンク!!

そのまんまだな。

【咲】 名前なんてどうでもいいのよ。 で、それがこれなんだけど。

……ドリンク?

【咲】 それ以外の何かに見える?

ていうか、それ以外の何かにしか見えん。

【咲】 どこがよ。 どこをどう見てもちゃんとした栄養ドリンクにしか見えないじゃない。

じゃあなんで、ドリンクなのに一升瓶なんだ?

【咲】 量はあったほうが効き目いいかもしれないじゃない。

そんな量飲んだら絶対に体壊すって。

【咲】 じゃあコップにでも入れてちょびちょび飲めばいいじゃない。

……もういいや。いっても無駄だろうし。 で、そのドリンクの原材料はなんなんだ?

【咲】 えっとね〜、イモリの粉末にマムシの干した奴、あとわさびにからし…。

なんかいろいろと言いたくなるところ満載なんだが……。

【咲】 にんにく、サルの脳みそ、謎ジャム、美○希の料理…。

まてまてまてまて!!

【咲】 なによ。

今おかしなものが…いや、すでにほとんどがおかしいが、入れてはいけないものがあったぞ!!

【咲】 気にしない、気にしない。

気にするわ!! …もしかして、だがそれはすでに浩さんに送ったとか言わないよな?

【咲】 送ったわよ目薬とドリンクのセットを三つほど。ついでにFLANKERにも同じくらいね。

な、なんてことを……。

【咲】 さて、と。説明も終えたところで……。

ま、まさか…飲め、と?

【咲】 当たり前でしょ。

いやだ!! そんなもの栄養ドリンクとは言えない、というか言ってはならないもの誰が飲むか!!

【咲】 問答無用!!

あがっ!!(抵抗空しく上を向かされる

【咲】 滝流し〜♪

ごぼげばげぼっ!?(一升瓶丸ごと口に流される

【咲】 さて、効果はどうかしら?

……(バタ

【咲】 あら、倒れちゃった。 しかもいい感じに白目むいてるわね。

……(ぴくぴく

【咲】 じゃ、こいつが倒れちゃったところで、また次回ね〜♪。




あはははっは〜。無駄無駄無駄〜。特技、いつでも寝れる!
美姫 「その割にはハイテンションね」
まあな。ドリンクの方は断固拒否!
ジャムだけなら問題ないが、入っていてはいけないものが入っている!
美姫 「ああ、美由希の…」
わさびにからしだ!
美姫 「そっちなの!?」
俺には重大な事だぞ。辛いのがダメダメな俺には。
美姫 「いや、そうだけど。美由希の料理よりもそっちが気になるのね」
ふっ。
美姫 「威張れる事でもないけれどね」
ともあれ、恭也(?)がミラに対して行った行為。
美姫 「そして、謎の言葉」
いやー、一体何が起こっているんだろう。
美姫 「謎が謎を呼ぶ」
次回はどうなるのかな〜。
美姫 「それじゃあ、また次回をお待ちしてますね〜」
ではで……ぐ〜す〜ぴ〜ZZ
美姫 「いや、今寝るの!?」



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