城内部の玉座の間への通路を少女は歩いていた。

歩く少女の顔にはいつもと変わらぬ笑みが浮かんでいる。

どこか嬉々とした様子の少女は玉座の間に着くとキョロキョロと小さく首を動かして何かを探し始める。

周りを見渡して探し物が見つからなかったのか首を傾げた。

 

「……恭也?」

 

探し物、いや、探し人の名を呼ぶが姿は現れない。

少女は、どうしたんだろう、と思った。

姿が見えないことは珍しいことではない。

だが、いつも少女が呼べばすぐにどこからともなく姿を出していた。

それが今回に限って姿を出さない。

 

「どこに行ったの……?」

 

少女は呟きと同時に目を閉じる。

探し人の気配を探るために意識を集中する。

ここで少女の異常さがわかる。

少女が気配を探っている範囲は玉座の間だけではない。

この城、いや、この城の立つ世界全域の気配を探っているのだ。

そんなことは普通の人間では不可能だ。

だが、少女には造作もないことだった。

なぜなら、少女は人間ではないのだから。

 

「ここに……いない?」

 

目を開いた少女の目には驚きの色が見える。

それはとても珍しいことだった。

少女は誰の前でも、喜び以外の感情をほとんど出すことはない。

しかし、今はわかりやすくこそないがうっすらと驚愕の表情を浮かべている。

それほど、探し人がいないことに驚いているのだ。

 

「……」

 

少女は驚きの色を消し、手を前に出す。

そして弧を描くように手を回す。

すると少女の手によって描かれた弧の内部に映像が映し出される。

映し出された映像を見て、少女の表情には最初と同じ笑みが浮かぶ。

 

「やはり、あなたは心を……求めるのね」

 

少女は呟きながら映像を見続ける。

そこに映し出されているのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

対峙するように立つ、恭也とミラの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!〜対なる心、継承せし二刀の剣〜

 

【第二部】第七話 心無き闇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園のすべての人間はそこから逃げ出すことはできなくなった。

生徒も、教師も、例外などありはしない。

その事実は学園全体に瞬く間に広がり、動揺を走らせる。

言わば、逃げられぬ檻の中でただ殺されるのを待つということ。

ただでさえ三日に及ぶ殺傷事件のせいで生徒たちには恐怖感が芽生えている。

それに加え、この事実が広がったことでほとんどのものが絶望を感じていた。

 

「当面の方針は決まりましたが、問題はどうやってこの事件を解決するかですね」

 

「そうだね」

 

会議を終えた美由希とスレイはどこへ行くでもなく廊下を歩いていた。

歩きながら先ほどの会議ことと事件の解決法についてを話し合っている。

 

「しかし、生徒全員を匿えるほどの部屋はあるのでしょうか?」

 

「う〜ん……わかんないけど、提案するからにはあるんじゃないかな」

 

「そう、ですね」

 

会議で決まったこと、それは生徒の安全確保と犯人の捜索を同時に行う方法について。

難しい問題ではあるが、方法を思いつかなければ第三の犠牲者が出かねない。

方法を悩み考えた末、生徒全員をその時間だけ一つの場所にまとめ教師二人ほどで護衛するということで生徒全員の安全を確保使用ということになった。

そして残りの教師たちが学園内を見回り、犯人の捜索及び捕獲、撃退を担当する。

こうすれば生徒たちの安全は確保でき、犯人の捜索も同時進行で行えるということでこの提案に決定された。

だが、それでも問題点はある。

その問題点として一番大きなものは、時間である。

美由希たち四人の調査で影の出没時間は深夜の十二時から一時の間と推測された。

だが、それも推測というだけで確実というわけではない。

もし、時間外でも影が動いたとしたら集まる前に生徒たちが狙われる可能性と守りきれない可能性がある。

それらを考えるとこの提案には穴があるのだがこれ以外に方法がないため当面はこれで行くことになった。

 

「でも一番の問題はあれをどうやって倒すか、だよね」

 

「はい。 学習していく以上長期戦は不利ですし魔眼があるとなれば魔法は逆効果、さらには物理的な攻撃はほぼ無意味」

 

「聞くだけじゃ打つ手なし、だよね」

 

「ですが、ミラ様がおっしゃられたとおり不死身などはこの世には存在しません。 ですから、あれにも何かしらの弱点というものがあると思います」

 

「でもその弱点がわからないんだよね……」

 

「……一つだけ、弱点と思われるところはあります」

 

「えっ!?」

 

弱点がないと思われた影にそれらしい部分がある。

それは暗闇の中に一筋の光がさすくらい重要なこと。

弱点さえわかれば、影を倒すことができるかもしれないのだから。

 

「そ、その弱点って、何?」

 

「確証はありませんが……おそらく――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜が来た。

生徒たちの心を恐怖に包む夜が。

 

「生徒はこれで全員ですか?」

 

「ええ、これで全員のはずです」

 

美由希の言葉にフィリスは頷いてそう返す。

今、生徒たち、そして二人がいるのはテラスである。

まさか匿うのにテラスを用いるとは思わなかった美由希とスレイは内心驚いた。

てっきり、生徒を全員いれることができる大部屋があると思っていたのだから当然だろう。

 

「なんでテラスなんだろ……」

 

『戦うための場所を確保するためと学園に損害を出さないため、ではないでしょうか』

 

「どういうこと?」

 

『この学園で損害を出さずに戦闘ができ、尚且つ生徒の安全確保も同時にできる場所はここしかないということです』

 

「う〜ん、そう言われるとそうだね」

 

スレイの説明に納得すると美由希は別の気になることを口にする。

 

「そういえば、ミラさんとレイはどこに行ったんだろうね」

 

『わかりません。 魔力は感じられますし学園からは出られませんので、学園内のどこかにいるとは思うのですが』

 

気になることとはミラとレイのこと。

もうすぐ時間になるという頃に美由希とスレイは部屋に二人を迎えに行った。

だが、部屋には二人の姿がなかった。

最初は今回のことを誰かから聞いて先にテラスに行ったのかと思った。

しかし、テラスに集合した教師たちの中に二人の姿はなかった。

探しに行こうとも思ったが、自分たちが勝手な行動をとれば生徒たちの守りがフィリス一人となり手薄になってしまう。

そのことから二人は探しにいけずに現在に至っていた。

 

『ですが、あのお二人なら大丈夫ではないでしょうか? ミラ様は上級魔法を行使できるほどの魔術師ですし、レイも抜けているところはあっても頼りにはなりますから』

 

「そうだといいんだけど……」

 

それでもやはり不安は消せない。

力のある魔術師と魔剣の精というコンビであるから、普段ならそんなに心配はしない。

だが、今は二人とも精神が不安定な状態になっている。

そんな状態であの影と対峙すれば、下手をすれば死を招きかねない。

それに戦えたとしても、影には魔眼がある。

ミラが魔術師である以上、魔眼を持つ影は大敵とも言える。

上級魔法ならば魔眼による吸収はできないのだが、詠唱する暇を影が与えてくれるとは思えない。

 

「ほんと、大丈夫かな……」

 

スレイにしか聞こえないような声で美由希は呟く。

その呟きにスレイは、大丈夫ですよ、と返すしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミラは学園の中をどこに行くでもなく歩いていた。

足取りからはどことなくふらついている様子が見られる。

 

「……」

 

歩くミラの目は若干虚ろだった。

ふらふらとまるで何かに幽霊の如く歩く。

 

「……恭也…」

 

呟きながら八景を抱く腕に力を込める。

意識してか、それとも無意識でか。

 

「っ……」

 

歩き続けるミラに突如、轟音が聞こえた。

学園全体に響くような大きな音。

まるで爆弾が爆発したかのような音。

 

「……」

 

ミラはその轟音が聞こえた方向へ足を向け歩き出す。

なぜかは分からない。

ただ、なんとなくそこに何かがあるような気がした。

なんとなく、自分の求める答えがそこにあるような気がしたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイは学園内を駆ける。

周りを必死の表情で見渡しながら駆ける。

 

「どこ……どこにいるの、ミラお姉ちゃん」

 

部屋で目を覚ましたとき、ベッドにはミラの姿がなかった。

普通ならそれだけで心配なんてしないのだが、今はあの影が現れる時間帯。

それでなくとも今のミラは精神不安定な状態。

そんな状態で、この時間帯に歩き回るのを放っておくことなどレイにはできなかった。

だからレイはミラを探すために学園内を走り回る。

 

「っ……これ…もしかして」

 

そのとき、突如魔力を感じた。

それは自分と同じ闇に属するものの魔力。

だが、レイが驚いたのはそこではない。

 

「そんな…そんなはず」

 

レイは魔力を感じた方向へと走り出す。

走り出すと同時にその方向からは轟音が聞こえ、魔力が強まった。

その強まった魔力が、突如感じたその魔力がレイには信じられない。

なぜなら、この魔力は……

 

「お兄ちゃん……」

 

恭也の魔力と酷似していたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟音はテラスにまで響いた。

その音に生徒たちの間に動揺と不安のざわめきが起きる。

生徒たちほどではないが、美由希とスレイ、フィリスの三人も若干動揺していた。

 

「な、なに、この音」

 

『この魔力は……っ…主様!!』

 

スレイの声と同時に、美由希の前にそれが姿を現す。

片手に剣を携え、朱色に輝く目をした黒い影。

何人もの生徒に重症を負わせ、二人の生徒を手にかけた影。

 

「フィリスさん、生徒たちを安全なところに!」

 

その言葉にフィリスは頷くとテラスの安全と思われる場所まで生徒たちを退避させる。

それを横目で見た後、美由希はスレイを構える。

 

「いくよ、スレイ!」

 

『はい、主様!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

導かれるように歩き、ミラはある場所に辿り着いた。

そこは学園の中庭。

だが、そこは以前の面影もないほどに荒れ果てていた。

地面のところどころは抉られ、草木は枯れ、見るも無残な状態になっている。

そんな中庭を空は月明かりの一筋も差せないほど雲に覆われている。

 

「……」

 

ミラの目には荒れ果てた中庭の中心が映る。

いや、正確には中庭の中心に立つ、仮面をつけた男が映る。

ミラはその男を目に映した瞬間、言いようもない衝動に駆られる。

理性は近づきたくないと言うが、心は駆け寄りたいと言う。

理性は声をかけたくないと言うが、心はかけたいと言う。

 

「……」

 

男はミラのほうへ顔を向ける。

そして、ゆっくりと仮面に手をかけ外した。

 

「え……」

 

仮面を外した男の顔にミラは言葉を失う。

それは、もう会えないと思っていた人の顔。

それは、自分がただ一人愛し、そして失った人の顔。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その顔は、恭也そのものだったのだ。

 

 


あとがき

 

 

やっとプロローグのあの場面まで着ましたよ。

【咲】 ぎりぎり予定通りね。

うんうん。 成せば成るって感じだね。

【咲】 あんたの場合、成せば成らない場合が多いけどね。

あ、あははは、まあそこはいいとして、ふとあることに気づいたんだ。

【咲】 何よ。

メンアットワーク!4のキャラで静穂が出るかもって言ってただろ?

【咲】 言ってたわね。

無理じゃないかなってことが判明した。

【咲】 なんでよ。

この時期、静穂が生まれているのかどうかすらわからん。

【咲】 設定は数年後の話って曖昧だからどうにかなるんじゃない?

う〜ん、だとしても二歳とか三歳っていう年齢になるぞ。 さすがにどう出せと?

【咲】 努力。

いや、その一言で片付けられても……。

【咲】 成せば成るのよ。

まあがんばっては見るが、可能性は低いと考えてくれ。

【咲】 へたれね。

ほっとけ。 じゃ、今回はこの辺で!!

【咲】 次回も見てね〜♪




おお、遂にあの場面に。
美姫 「いよいよ次ね」
ああ、もうどうなっているのか。
早く次が読みたいです!
美姫 「スレイが語ったあの影の弱点というのも気になるわね」
確かにそれも気になるな。
いや、もう本当に次回が楽しみだ〜。
美姫 「次回もお待ちしてますね」
ではでは。



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