「くっ……」

 

振り下ろされた剣を二刀を交差させて受け止める。

刃の擦れる音と主に美由希の苦悶の声が漏れ、徐々にではあるが均衡は崩れかけている。

美由希とてそれなりに力はあるほうなのだが、影のそれは美由希を凌駕している。

いきなりの攻めに若干呆然となっていたミラは美由希の漏らした声で我に返り、影に魔法を放つ。

魔法は影へと直撃し、影は闇夜に黙散する。

 

「やった、の……?」

 

黙散した影を見てミラは呟く。

だが、その呟きは次の瞬間否定される。

 

「「『『!?』』」」

 

黙散した影は元いた位置に再構成されるように姿を現す。

驚愕の表情を浮かべる四人を完全に再生した影は朱色の目を再びギョロリと動かす。

 

「不死身……なの?」

 

『わかりません……ですが、もしそうなら』

 

『最悪、だね……』

 

苦々しくレイは呟く。

影が不死身であるのならば、いくら四人が攻撃しようが無意味。

対して四人には体力と魔力という限界がある。

それが切れれば影に抵抗できる術を失い、殺されるだけとなってしまう。

 

「ううん、この世に不死身なんて存在しないわ」

 

ミラが三人の言葉を否定する。

誰だって死というものが存在する。

そのことをミラは一番よく知っているから、否定する。

 

『そう…だね。 ミラお姉ちゃんの言うとおりだよ!!』

 

『ええ。 だとすれば、あれにも何らかの弱点らしきものがあるはずです』

 

「そうだね。 諦めるのにはまだまだ早いよね」

 

落ちそうになった気を立て直して美由希は構える。

影は美由希が構えるのを待っていたかのように動き出す。

先ほどと違い、ゆらり、ゆらりと揺れながら徐々に近づいてくる。

その間も、不気味に光る朱色の目はまったく動かすこともなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!〜対なる心、継承せし二刀の剣〜

 

【第二部】第三話 続く災い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次々と襲い掛かる刃を受け流しながら時折反撃を繰り出す。

だが、美由希の斬撃はそのすべてが意味を成してはいない。

斬撃を受けた影の体はすぐに再生してしまうからだ。

だからといって反撃しないわけにもいかない。

下手に敵のペースに乗せられれば受け流せなくなってしまう。

そうなれば影の圧倒的な力に押され、敗北は必至だろう。

 

「下がって!!」

 

後方からミラの声が響く。

美由希はミラの声が聞こえるとすぐに後ろへとバックステップで下がる。

 

「燃やせっ、ファイアーピラー!!」

 

影の足元に魔法陣が浮かぶ。

瞬間、魔法陣の周りに炎の火柱が幾多も立ち上り、影を炎の檻に閉じ込める。

そして魔法陣の中央から吹き出る周りよりも何倍も大きい火柱が閉じ込めた影を焼き尽くす。

 

「これなら……っ!?」

 

仕留めたかに見えた影は炎が晴れたそこに再び再生する。

くっと声を漏らしてミラは再度別の魔法の詠唱を開始する。

だが、さっきまで美由希しか狙わなかった影は先ほどの魔法でミラを敵視したのか襲いかかろうとする。

それを美由希は瞬時に悟り、影の進行を阻もうと回り込む。

 

「行かせないっ!」

 

回り込むと同時に右の魔剣、レイで斬りつける。

物理的な攻撃がほぼ無意味となることはさっきまでのでわかってはいるが足止めにはなる。

どうやら、影は欠けた部分を再生させるとき、その場に若干停止する傾向がある。

ならダメージを負わせられなくとも、ミラが魔法を詠唱している間の足止めくらいなら可能。

そういったことでは完全に無意味ではない。

 

「はあぁぁ!!」

 

二刀による連続斬撃を影に放つ。

 

御神流 奥義之弐 虎乱

 

斬撃はすべて影に命中し、影のいたるところを散らす。

やはり影はそれでも滅されることなく再生をするが、その間は足は止まる。

足の止まった影はミラにとって動かぬ的。

美由希はすぐに先ほどと同じように後方へ下がる。

 

「貫けっ、アイスランス!!」

 

それはファイアーピラーの氷版魔法。

影の足元に浮かぶ魔法陣の周りを氷の柱が囲む。

そして魔法陣の中央からひときわ大きい氷の柱が影を串刺しにする。

だが、やはりというべきか影は氷の柱が消えたそこで再生し始める。

わかっていたとはいえ四人は落胆の色を隠せない。

 

「本当に不死身ってこと……?」

 

『単純に魔法の攻撃力が足りないという考え方もあります』

 

スレイのいうこともありうる可能性はある。

だが、それは限りなく低い確率の推測。

今までミラが使った魔法はどちらもその属性の中級に位置する魔法だ。

そしてどちらも擬似だけでなく、学園の外にうろつく魔物ですら一瞬で消し去るほどの威力を誇っている。

その魔法を行使して尚威力が足りないとなれば、残るは上級魔法だけとなる。

上級魔法の威力は中級魔法の非ではないため、ほぼ確実に対象を滅殺するだけの威力がどの魔法にもある。

だが、それだけの威力を誇るだけに難点が多々ある。

それは多少の時間による詠唱と多少の魔力で放てる中級とは違い、上級は詠唱が長く、膨大な魔力を消費する。

さらには対象を指定できない無差別な魔法が多いため、自ずと敵味方問わずになってしまう。

他にも難点はあるが大きなものといえばこの二つ。

敵味方問わずというのは障壁の張れる四人にとってたいした問題ではない。

だが、詠唱と消費魔力、いや、正確には消費魔力に関してはそうも言ってはいられない。

術者であるミラの魔力は普通の人よりもかなり多いほうではあるが、それでも一度上級魔法を使えばかなりの疲労感が体を襲うだろう。

つまりは一度限りの大技、とでも考えたほうがいい。

 

「なら……上級魔法を使うわ」

 

だが、それしか他に可能性がないのならするしかない。

短く告げるミラにレイはミラの体を気遣ってか抗議の声をあげようとする。

賢者の石を使い、人間になったミラの体に上級魔法の行使が耐えられるのかはわからない。

下手をすれば自身の体に深い傷を負わすことになる可能性もある。

しかし、そう告げるミラの表情を見て抗議の声は出なくなる。

何を言っても聞かないという確固たる意志がその表情にはあった。

 

(ミラお姉ちゃんが……怒ってる)

 

普段のミラはそれなりに感情表現はするほうではある。

だが、ここまで解りやすいのはかなり珍しい。

いや、付き合いの長いレイとてこんなミラは見たことがない。

だからか、ミラがどれだけの怒りを抱いているのかがよくわかる。

恭也との思い出の場所をあんな奴にこれ以上汚されたくない。

その怒りの思いがミラの表情からは見て取れた。

 

「美由希、私が詠唱している間、あれの足止めをお願い」

 

「う、うん」

 

ミラの怒りを同じく感じた美由希は戸惑いながら頷き二刀を構える。

四人が話している間に再生を終えた影は再度ミラに襲いかかろうとする。

それを許すわけにはいかない美由希は迎え撃つように影の体を斬りつける。

しかし、影は驚くことに美由希の斬撃を受け止めた。

影が自身の剣を受け止めたことに美由希は驚きを隠せない。

先ほどまでは斬撃を受けることなどせず、ただ体を斬られていくだけだった。

だが、影は今回自身の剣で美由希の斬撃を受け止めた。

それがどういったことを意味するのかは美由希にも、スレイにも、レイにもわかった。

 

『学習…してる?』

 

『厄介ですね……』

 

美由希は口にこそしないが二人と同じことを考えていた。

影は今まで斬撃を受け続けたことと美由希が自身の剣を受け止め続けることである程度の知能をつけたという考えられる。

だが、最悪な考えをすれば、影が今まで斬撃を受け続けたのは美由希の斬撃のパターンや動きなどを見極めるためだったという考えができる。

前者ならまだいいのだが、後者ならば最悪としか言いようがない。

美由希たちが考えたとおりなら普通の斬撃だけでなく、虎乱ですら学習したという可能性もある。

 

(でも、そうと決まったわけじゃない。 ならっ!!)

 

試してみる。

学習されていたのならばおそらくは何らかの手を打ってくるだろう。

だが、学習されていないのならば影の体を傷つけ、ある程度の足止めが可能となる。

前者だったのならばあまり良くはないが美由希にもある程度の策はある。

どちらだったとしても最悪、数秒の足止めはできる。

 

(今っ!!)

 

敵の攻撃の隙をつき、美由希は再度それを放つ。

 

御神流 奥義之弐 虎乱

 

二刀により連続に放たれる斬撃が影に迫る。

だが、考えは最悪のほうへと進んだ。

 

「オオオォォォォ……」

 

雄叫びと共に影がした行動に驚く。

あろうことか虎乱の斬撃パターンを読みきっているのかの如く、すべての斬撃を一本の剣で捌いていく。

普通はありえないことである。

ただの一度見ただけで遅いとは言えない虎乱の斬撃をすべて受けきるなど。

だが、これで美由希は確信した。

影が今まで斬撃を受け続けたのは美由希のそれを学習するためだったのだ。

 

(だったら、これでっ!!)

 

足止めが出来るはずだ。

その技は一度も影には見られてはいない。

考え通りならこれで足止めが可能のはずである。

 

御神流 奥義之参 花菱

 

虎乱よりも多く、その数は無数とも言えるほどの斬撃が影に放たれる。

その斬撃は美由希の予想通り、影の体を切り刻んでいく。

無数の斬撃によって切り裂かれた体を再生するのは少なくとも十数秒は掛かるだろう。

だが、それだけあれば十分である。

 

「ミラさん!!」

 

ミラを呼ぶように叫びながら後方へ下がる。

それと同時にスレイとレイが障壁を展開する。

 

「其は彼方より吹き荒れる絶対零度の風、其は古より来たりし浄化の炎」

 

ミラの足元に魔法陣が展開し、その周りを三つの魔法陣が囲む。

足元に浮き出る魔方陣に周りの三つの魔法陣から伸びた線で繋がる。

 

「其は天空より舞い降りる破壊の雷、三つの力は一つとなりて我が敵を討ち滅ぼさん!!」

 

詠唱を終えたミラの足元、そしてその周りの魔法陣が光り輝く。

 

「吹け、必滅の嵐!レイジングストーム!!」

 

炎、氷、雷、その三つの属性を複合させた上級魔法。

レーザーのように空から降り注ぐ無数の炎。

その場にいるすべてのものを凍らせるかの如く、吹き続ける氷の風。

炎と同じように空から人、物問わず降り注ぐ雷。

それらは術者以外のその場にいる者に対して無差別に襲い掛かる。

 

『『っ……』』

 

スレイとレイの張る障壁に魔法が次々と当たっていく。

一つ一つがかなりの威力を持っているため、気を抜けば障壁が破られる。

それほどミラの放ったこの魔法は強すぎる。

そして強すぎるからこそ、術者のミラへの反動は大きい。

魔法を制御しているミラは自身の体を襲う虚脱感を感じていた。

気を抜けば意識を保てないほどの反動。

それに抗いつつ魔法を制御することに集中する。

 

「オオオォォォォ……」

 

風が影の体を徐々に凍らせ、それに雷と炎が直撃していく。

徐々に影の体は崩れ、最後には完全に消える。

それと同時に魔の嵐は終わりを告げる。

 

「はぁ…はぁ……これ、なら」

 

上級魔法行使による虚脱感でミラは地面にへたり込む。

膨大な魔力を消費した手前、立っていられないのだ。

美由希もさすがにあれではもう再生は出来ないだろうと思ったのか一瞬気を抜く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが間違いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぐっ……」

 

へたり込むミラの後ろに現れた影はミラの首を掴み持ち上げる。

ミラは苦悶に顔を歪めながら首を掴む影の手を掴もうとする。

だが、その手は影に触れることなくすり抜ける。

 

『『「ミラさん(様、お姉ちゃん)!!」』』

 

すぐさま駆け寄ろうとする美由希。

だが、その足は止まることとなる。

影が手に持っている剣を美由希に突きつけるように構えたのだ。

迂闊に近づけばどんな手を打ってくるかわからない。

だが、近づかなければミラの命が危ない。

神速を使えばどうにかなるかもしれない。

しかし、先ほどの魔法を防ぐために張った障壁はスレイ、レイだけに留まらず美由希の魔力さえも消費する羽目になった。

そして一度神速を行使したこととさっきまでの戦闘とで美由希の体にも負荷が掛かりすぎている。

もし、今神速を使おうものなら下手をすれば美由希の体が壊れかねない。

 

(でも、使わないとミラさんが)

 

考えている間もミラは苦しむ。

徐々に、徐々にではあるがもがく手にも力が無くなってきているに見える。

もう時間が無い。

それをミラの様子から悟った美由希は自身を省みず神速を発動しようとする。

 

「ア、アアアアアァァァァァ……」

 

そのときだった。

神速を発動しようとした美由希の目に映ったのは小刻みに震える影の姿。

震え始めた影は徐々にその姿が消えていく。

同時にミラの体は地面へと落ちる。

 

「う……けほっ、けほっ」

 

荒く息をつき咳き込むミラ。

完全に影が消えたのを見て美由希はミラへと駆け寄る。

 

『大丈夫!? お姉ちゃん!』

 

「え、ええ……大丈夫よ」

 

まだ若干顔色が悪いが大丈夫と聞いて三人はほっとする。

 

『それにしても、なぜ急に消えたのでしょう?』

 

『さあ? 眠くなったから帰ったんじゃない?』

 

『そんなわけないでしょう……』

 

なぜ、影は突然消えたのか。

それがわからない四人は困惑する。

そんな中、何かがわかったのかミラが声を上げる。

 

「美由希、今何時かわかる?」

 

「今? えっと……」

 

美由希の腕時計が指していた時間は、深夜一時三分。

それを聞いたミラは、やっぱり、と呟く。

 

「何がやっぱりなの?」

 

「わからない? あれは自身を『ゲシュペンスト』と名乗ってたのよ。 もしそれが本当なら……」

 

『そういうことですか……』

 

『え? え? 何が?』

 

ミラとスレイは分かったが美由希とレイは分からなかった。

分からず困惑し続ける二人にミラは簡単に説明する。

 

「『ゲシュペンスト』はドイツの伝承での亡霊や幽霊の類、それがドイツでは何時頃出没するかを思い出して」

 

『えっと〜……深夜の十二時から一時の間だったかな』

 

「そうね。 それでさっき美由希が言った時間は何時だった?」

 

「一時三分だけど……あ」

 

分かったように声をあげる美由希。

その後に続くようにレイも分かったかのように同じ声をあげる。

 

「偶然かもしれないけど、同じなのよ。あれが出た時間と消えた時間が……」

 

『ですが、偶然にしてはあまりに出来すぎてる……』

 

謎は解けぬまま、四人に更なる謎を増えていく。

『ゲシュペンスト』と名乗るあの影はなんなのか。

どうやって、そして何のために学園にいるのか。

すべてが謎のまま、四人の学園巡回は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、四人は昨夜の報告のために学園長室へと赴いた。

学園長室に入るとジャスティンが椅子に座りながら暗い顔をしていた。

どうしたのだろう、と思った四人はジャスティンに尋ねる。

そして暗い表情のまま、ジャスティンが言った言葉に四人は絶句することとなった。

 

「今日の朝、フィリス先生が報告に来た件なのですが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とうとう学生の中で……死人が出ました」

 

 


あとがき

 

 

目薬差されて無理矢理かかされ、心身ともにぼろぼろです。

【咲】 気にしない、気にしない。

気にするわ!!

【咲】 みみっちい奴ね。

いや、みみっちくないかと。

【咲】 まあ、それは置いといて。

置くなよ。

【咲】 あ〜もう!! うっさいわ!!

はべしっ!!

【咲】 まったく……で、今回は戦闘がメインのお話なのね。

じ、自信はないがね。 戦闘苦手だし。

【咲】 まあ、あんただしね。

何気にひどい……。

【咲】 さて、あんたの言うとおりいい感じに黒くなってきたこの作品。

事態はどのようになっていくのか。

【咲】 次回メンアットトライアングル! 二部第四話 呪いの魔剣 を。

ご期待ください!!

【咲】 じゃ、今回はこの辺でね♪

また次回会いましょう!!




スピー。ヒュルルルゥゥ。グ〜スカピ〜。
美姫 「って、続けて寝るな!」
ぶべらっ!
美姫 「ったく、何で効かないのよ。もっと刺さないといけないのかしら?」
微妙に字が違う気がするんですが。
確かに、そっちの方が効果は確かかもしれんが…。
美姫 「目薬の効果は?」
それ以上に眠いって事だろう。元々、昔から早寝する方だからな。
美姫 「やっぱり、アンタを起こしておくには実力行使が一番って事か」
……うわ〜、この目薬凄いよ! 全く眠気がこない!
美姫 「もう遅いって」
シクシク。
美姫 「それにしても、遂に最悪の事態が起こってしまったわね」
ああ。これにより、学園は、先生方はどうする、どうなる。
美姫 「あのゲシュペンストの正体も不明のままだしね」
何故、倒せないのか!?
このままでは、負けてしまうぞ。
美姫 「一体どうなるの!?」
次回も待っています!
美姫 「待ってますね〜」



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