食堂に来た四人は食事を取りながら例の件に話し合う。

美由希はもうさすがに慣れたのか先ほどのように耳を塞ぐ等のことはなかった。

ただ、ほとんど会話には参加していないが。

 

「じゃあ、どうしよっか?」

 

「その『ゲシュペンスト』という言葉の真の意味と私たちの感じた闇の魔力に何か関係があるのかをつきとめるには行動しかないと思います」

 

「そうね。 伝承の通り、深夜十二時から一時にそれが出るのだとしたら、その時間に学園を見回ってみるのが真偽を確かめるには一番ね」

 

「それじゃあその時間に皆で集まって学園内を見回る、でいいの?」

 

「ええ。 美由希もそれでいいわね?」

 

「………」

 

「美由希お姉ちゃん?」

 

「………」

 

呼びかけに答えず、美由希は黙々と食事を食べ続ける。

耳を塞いでないのだから聞こえているはずなのになぜ反応しないのか。

それがわからずレイとスレイは首を傾げる。

だが、この人にはなんとなく理由がわかっているのか、溜め息をつきながら電撃を飛ばす。

 

「っ!??!」

 

声にならない悲鳴を上げて美由希は先ほどと同じようにきょろきょろし始める。

だが、すぐにミラが呆れた表情で見ているのが目に入り、乾いた笑いをする。

 

「美由希……私たちの話、聞いてた?」

 

「う、うん」

 

「じゃあ言わなくてもわかるわね? 遅れたり来なかったりしたらもっと強いお見舞いするからね」

 

「え、あ、その……ごめんなさい、聞いてませんでした」

 

「やっぱり……全部聞き流してたのね」

 

話し合いの間、美由希が会話に入ってこなかったのはそういうわけである。

どうやら慣れたわけではなかったようだ。

ミラは呆れながらも再度決定事項を伝える。

 

「もう一度言うからちゃんと聞いてよ?」

 

「え、あ、うん」

 

「例の言葉と闇の魔力の関連性を調べるために私たち四人で深夜十二時から一時の間、学園を見回るってことになったの」

 

「え……」

 

「言わなくても解ると思うけど、美由希に拒否権はないからね」

 

にこやかにそう言い放つミラ。

美由希は口を金魚のようにパクパクさせ、どんどん青褪めていく。

そして次の瞬間…

 

「ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

凄まじいほどの美由希の叫びがあろうことか学園全体に響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!〜対なる心、継承せし二刀の剣〜

 

【第二部】第二話 来たる闇の影

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間が流れ、今は深夜の十二時前。

嫌がる美由希を半ば無理矢理引きつれ、四人は学園内を巡回する。

食堂やら、中庭やら、テラスやらと歩いていく四人は擬似モンスターに出くわすことも多々ある。

四人にとって擬似モンスターなど脅威でもなんでもない。

だが、その脅威でもない擬似モンスターと戦っていくうちに四人は違和感に気づく。

 

「妙ね……」

 

『何が妙なの? ミラお姉ちゃん』

 

「私の勘違いかもしれないけど、擬似モンスターが強くなってる気がするのよ」

 

「あ、それ私も感じたよ。 私も気のせいかなって思って言わなかったんだけど」

 

美由希もミラと同じことを感じたと聞き、四人は悩む。

本来、擬似モンスターは学園内での生徒の鍛錬用といった物として放たれているため、強さ的にはそこまで強いとはいえない物。

それは鍛錬をする生徒に重傷といえる怪我を負わせないようにという理由もあるが、強すぎては鍛錬にならない可能性があるという理由のほうが強い。

だが、先ほどまでで四人が戦った擬似モンスターはそのどれもが今までのものよりも強くなっている。

力、魔力、知能、そのどれもが格段に上がっているのだ。

この強さの擬似モンスターと戦って今の数まで怪我人が増えたのか、と四人は考えるがすぐに否定する。

否定する理由は二つ。

それはいくら強くなったといってもあれほどの重症を負うほど強くはないという理由。

そしてもう一つは、重症を負った生徒が呟いた『ゲシュペンスト』という言葉には繋がらないというという理由である。

だが、否定されるからこそ謎は深まるばかりである。

 

「…ここで悩んでても仕方ないわね。 他を見て回りましょう」

 

三人はミラの言葉に頷くとまだ回っていない場所へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

巡回すること四十分弱。

手がかりの欠片も見つからぬまま例の時間は迫っていた。

 

『あとどこがあったっけ?』

 

「バルコニーだけかな、あとは」

 

「バルコニー……」

 

ミラは小さく呟くように繰り返す。

そこはかつてミラ、レイ、そして今は亡き恭也の集合場所として使っていた場所。

そしてこの学園の中では数少ない、恭也との思い出に浸れる場所。

 

『ミラお姉ちゃん……』

 

それを知るレイが心配そうな声をかける。

あのときよりはマシになったとはいえ、完全に吹っ切れているわけではないのだ。

それほど賢者の石を巡るあの事件がミラに残した傷は、深い。

 

「大丈夫よ……レイ」

 

心配そうに気遣うレイに微笑みを浮かべて返す。

だが、それでもレイの心配は拭うことはできない。

大丈夫なはずない。

吹っ切れるはずがない。

そう思うからこそ、その微笑みの裏にある悲しみを感じ取れる。

だが、ミラ自身が大丈夫という以上、レイはそれ以上何も言えなくなる。

 

「行きましょう…」

 

ミラはそう言って歩き出す。

美由希も、スレイも、レイと同じく何を言っていいのかわからず、ただ頷いてミラの後をついていく。

ミラと恭也の思い出の場所に向かって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜であるためか、静寂が辺りを包む。

そんな人一人いないバルコニーに四人はたどり着いた。

恋人同士の生徒が好んで使うそこは普段でも人は少ないためほとんど汚れてはいない。

そのため月明かりが照らすそこはとても綺麗に三人の目には映る。

だが、ただ一人だけ、それ以外の思いを抱くものがいる。

 

「恭也……」

 

ミラは小さく呟いて歩き出す。

目指す場所はいつも三人で朝日が昇るのを見たバルコニーの端、ベンチの置かれている場所。

そのときはただの集合場所としか思わなかった。

だから、ここがこんなに大切な場所になるなんて思いもしなかった。

 

「………」

 

いつも立っていた場所にミラは立つ。

そして朝日が昇るのを待つように、あのときのようにただ静かに眺める。

そうしていると隣に恭也がいるように感じることができるから。

あの時と同じように、恭也と共にいるような気になれるから。

 

『ミラお姉ちゃ――っ!?』

 

声をかけようとしたレイの言葉は突然感じた気配と魔力による内からの警報に遮られる。

感じた気配は禍々しい闇の気配。

感じた魔力は強い闇の魔力。

 

『主様!』

 

同じくそれを感じたスレイが声を荒げるように叫ぶ。

スレイが叫ぶと同時に美由希はミラのところに駆け出す。

美由希の駆け出す先にいるミラはそれに気づいていない。

この異常なほど膨大していく気配と魔力に気づいていない。

だから、その場から動かずただ静かに眺め続けている。

 

「『『っ!?』』」

 

ミラに近づいていく三人はその影に気づく。

禍々しい魔力を放出させ、片手に持つ剣を振り上げて、影は近づいていく。

このままじゃ間に合わない。

そう思った美由希は即座に神速を発動する。

闇夜がモノクロの世界に染まる中、美由希はあと少しまで近づいたミラとの距離を縮め、抱きかかえるようにしてその場から飛びのく。

そこでモノクロの世界は終わり、突然のことに困惑の表情をしたミラを地に立たせる。

美由希の腕から降り、地面に立ったミラは困惑しながら美由希の向けている視線の方向を見る。

そして、そこにいたものにミラは驚愕の表情を浮かべる。

 

「な、なんなの……あれ」

 

視線の先にいたのは人、と呼ぶにはあまりに異形な姿をした物。

まるで人の影が具現したかのような姿。

そして黒い魔力を途切れることなく放出させ、片手に自身と同じように黒く染まっている剣を持っている。

さらにそれよりも特徴的なのがその影の目。

体の色とは異なり、寒気すらしそうなほどの朱色に染まった目。

影はその目をギョロリと動かして美由希を、いや、正確には美由希の持つ二刀の魔剣、スレイとレイを見る。

 

「見つけた……」

 

二つの魔剣の姿を捉えて、影は呟く。

その声は微弱ながら歓喜に満ちた声。

 

「“ゲシュペンスト”たる我は……主君の命により、汝に」

 

その単語を口ずさんだことに四人は驚く。

四人が驚愕の表情を浮かべると同時に影はゆらりと揺れる。

そして次の瞬間、凄まじいほどの速度で美由希との距離をつめ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死を与える」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣を美由希に向けて振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。

四人がすでに巡回した場所にて、とある生徒が歩いていた。

 

「皆……どこ行っちゃったんだろ」

 

その生徒は数人でチームを組んで学園内を冒険していた生徒の一人だった。

だが、戦闘の最中、その生徒は他のメンバーをはぐれてしまった。

 

「みんな〜……どこ〜?」

 

はぐれたメンバーを呼びながら、暗い学園内を歩く。

明かりはチームのリーダーが持っているため、先を照らすものなどない。

そのためか、いつもよりもその場所は不気味に映る。

 

「っ……」

 

物音がした。

びくっと身を震わせながら、その生徒は音のしたほうへ振り向く。

だが、そこには何もなく、気のせいかと思い元のほうへ向き直る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このとき、その生徒がその場から逃げ出したのなら未来は変わったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

向き直った少女の目に映ったのは、自らに振り下ろされる黒い刃と……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

憎悪に染まる朱色の眼光だった。

 

 


あとがき

 

 

さてはて、いい感じに暗くなってきました。

【咲】 始まってまだあまり経ってないのに早い気もするけどね。

あはは、それはそれ、これはこれさ。

【咲】 何がよ……まあいいけど。

おや、今日は突っかかってこないの?

【咲】 今日は気分がいいからね。

何かあったのか?

【咲】 知りたい?

う、うん、まあ……そう言わないと後が怖いし

【咲】 あとに続けた言葉が気になるわね……。

ま、まあいいじゃないか。 それで、何があったんだ?

【咲】 実はね……面白いものを開発したのよ。

開発? ああ、そういえば最近君、よくラボに篭ってたね。

【咲】 まあね。 すべてはあるものを作るためだったのよ。

何を作ってたんだ?

【咲】 それはね……これよ!!

………目薬?

【咲】 それ以外の何かに見える?

見えないかな。 で、開発してたってことはただの目薬じゃないんだろ?

【咲】 そうよ。 製法とかはいろいろはしょるけど、これは私にとってとても楽ができるようになる目薬なのよ。

意味がわからん。

【咲】 頭悪いわね。

ほっとけ。 というかそれだけでわかれというほうが無理じゃ。

【咲】 それもそうね。 まあ簡単に言うとこれは徹夜するための目薬よ。

徹夜?

【咲】 そう。 これを二、三滴目に入れればなんと!! 二十四時間は眠気がこないという優れものなのよ!!

最悪な目薬だな。

【咲】 これがあれば如何に眠いとあんたが言おうが無理矢理目にこれを入れることで強制的に徹夜確定!!

捨ててしまえ、そんなもん。

【咲】 ちなみに美姫さんのところにも一ダース送ったわ。

多いな、おい。 ていうかそんなことしたら浩さんが……。

【咲】 ふふふ、浩の心配よりも自分の心配しなさいな。

ま、まさかそれを入れる気か!?

【咲】 当然。

や、やめれ!! 睡眠くらい普通にとらせれ!!

【咲】 問答……無用!!

あがっ!!(無理矢理上を向かせられる

【咲】 徹夜パラダイスへGO〜♪

ぎゃあああああ!!(ありえない量を注がれる

【咲】 美姫さんもぜひご活用くださいね♪

眠気が!! せっかくきてた眠気がぁぁぁぁぁ!!

【咲】 うっさい!!

あべっ!!

【咲】 ということで、もう一本いってみよ〜。

うう、なんだろう、このいつもより酷い仕打ち……。




ぐ〜、ぐ〜。
美姫 「いや、いきなり寝られても」
寝溜めだ。
美姫 「いや、そんな器用な真似されても」
どうせ、件の目薬をさす気だろう。だからな。
美姫 「分かってるのなら早いわね」
ふっ、お前は分かっていないとうだがな。
美姫 「何がよ」
例え徹夜になろうとも、起きているからといって書くわけでない!
美姫 「威張るな!」
ぶべらっ! ……な、何故、真理とはこうも受け入れられないのだろうか……。
美姫 「いや、そんな事を真理にされても」
まあ、それは兎も角、何やら動き出してますよ。
二部に入ってまだ数話だけど、怪しい動きがもうあちこちに。
美姫 「これからどうなるのかしらね」
気になるな〜、気になるな〜。
美姫 「気になる続きは…」
この後すぐ!



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