その声は美由希にしか聞こえなかった。

だが、声は聞こえないが……彼女にはわかった。

明確にいるとは言えない。

確証があるわけでもない。

でも、彼女は……ミラは感じるのだ。

恭也の想いを。

恭也の心を。

美由希の持つ剣に感じるのだ。

気のせいかとも思った。

悲しみのあまりにおかしくなってしまったのかとも思った。

しかし、ミラにとってはどっちでもよかった。

それが気のせいでも、おかしくなったからだとしても。

もう一度、恭也を感じることができるのだから。

 

「恭也……」

 

冷たくなりつつある恭也の体を抱きしめる。

まだ暖かさの残っている体をぎゅっと抱きしめる。

恭也の声は聞こえないけれど。

恭也の鼓動はもう伝わってはこないけれど。

それでも……

 

「あなたは……ここにいる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!〜対なる心、継承せし二刀の剣〜

 

最終話 されど貴方は共にある

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二つの魔剣は一つとなった。

その名はソウルアレイ。

それは光の理と闇の理が合わさり一つの形となった剣。

神なる理を受け継ぐ真の継承者のみが扱える、神の剣。

 

「はあっ!!」

 

手に握るその刃はすべてを切り裂く神の刃。

秘めしその魔力は抗うことのできぬ神の魔力。

それを手にした者にとって、目の前の火球など無きに等しい。

 

「なんだと!?」

 

火球をソウルアレイの魔力で打ち消し、美由希はアイザックへと駆ける。

己の持つ魔力を最大まで込めた火球を打ち消され、アイザックは動揺と驚愕を顔に浮かべる。

だが、その表情には若干の余裕が浮かんでいた。

それは如何にそれが強かろうと自分に張られている障壁を破れはしないという絶対の自信からくる余裕。

 

「っ!」

 

障壁に刃がぶつかり、バチバチと音を立て鬩ぎ合う。

音を立て始めてからアイザックの余裕がだんだんと消えていく。

なぜなら、自らを守る障壁に罅が入り始めているから。

 

『守るものがある御神に、俺たちに!!』

 

「そんなのは通用しない!!」

 

障壁は砕ける。

ガラスのような音を立てて砕け散る。

そして障壁を砕いたその勢いのまま、アイザックの胸を

 

「が……」

 

ソウルアレイが貫く。

貫いたアイザックの胸からソウルアレイの魔力を注ぎ込む。

光を放ちながら魔力を注がれたアイザックは遂には灰となって崩れる。

それが、自身の欲望に支配された者の末路だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

崩れていく灰を見ながら、美由希は突き刺した状態から構えを解く。

それを合図にしたかのように呆然としていたライルたちは美由希に駆け寄る。

そして、やったな!!、すごかったよ!!などと声をかけ皆喜び労う。

だが、美由希は素直に喜べなかった。

嬉しくなかったわけじゃない。

恭也の仇を討ち、皆を守り抜くことができたのは嬉しい。

でも……恭也が帰ってくるわけじゃない。

それが美由希が喜ぶことの出来ない、理由。

 

『よくやったな、美由希』

 

「恭ちゃん……」

 

恭也の声が聞こえる

今度は、全員に聞こえるように響く。

 

「え……この声って」

 

「恭也、さん?」

 

誰もが信じられない。

目の前で確かに胸を貫かれ殺された青年の声が聞こえることに。

唯一驚かないのは共に戦った美由希、そして、ミラ。

 

『お前も、もう一人前の御神の剣士だ』

 

「そんなこと、ないよ。 恭ちゃんが力を貸してくれたから……」

 

『確かに俺は力を貸した。 だが、実際に成しえたのはお前だ、美由希』

 

その言葉は、まるで我がことのように嬉しそうな声で。

 

『ライルたちも、よくやったな』

 

「いや、俺たちは……ほとんど何も出来なかったよ」

 

『そんなことはない。 お前たちが共に戦ったから、美由希は最後まで立つことができたんだ。 ありがとう……』

 

その言葉は、心の底から感謝するような声で。

そして……

 

『ミラ……』

 

その言葉は……

 

『……すまない』

 

愛しき人を悲しませてしまうことを謝罪するような声で。

 

「恭也……」

 

『俺は、君を守れず、逆に君を悲しませてしまった……』

 

「いいの……そんなの、いいから……だから」

 

いかないで。

そう繋げるはずの言葉は途中で途切れる。

それは、答えがわかってるから。

答えを聞くのが怖いから。

だから、言えない。

 

『すまない……もう、時間が来たようだ』

 

「どういう、こと?」

 

『俺の魂はレイに残存した俺の魔力を媒介に一時的に神剣の中にいるだけ。 だが、それももう尽きかけている』

 

「どうにか……ならないのか」

 

『こればかりはな。……美由希』

 

「な、なに……?」

 

『すまないが、彼女を……ミラを頼む。 俺の代わりにミラを守ってやってくれ』

 

その頼みに美由希は涙を溜めながらも頷く。

すると恭也は呟くような声で、ありがとう、と言った。

その言葉と同時にに美由希は気づく。

神剣が元の姿に戻ろうとしていることを。

それは理の片割れが抜けるという警告。

恭也の残存魔力が尽きるという合図。

恭也が消えてしまうという、宣告。

そして、さらに同時にミラは気づく。

自分の抱きしめている恭也の体が、黒い粒子となって散っていっているのを。

恭也の体さえも消えていってしまっているのを。

だから、それを、いやだ、と言わんばかりにミラは強く抱きしめる。

だが、恭也の体が散っていくのは止められない。

 

『ミラ……最後に君に伝えたいことがある』

 

それは、今にも消え入りそうな小さな声。

声と共に動かないはずの恭也の手がミラの背中に回る。

そして、ミラと同じように手に力が篭り抱きしめる。

 

『愛してるよ、ミラ』

 

それが恭也の最後の言葉だった。

恭也の体は完全に消え去ってしまった。

声も聞こえなくなった。

魔力も感じれなくなった。

恭也の、すべてが消え去ってしまった。

 

「っ……恭也……恭也……」

 

ミラの目からは堰を切ったかのように涙が流れる。

顔を手で覆い、泣きながら恭也の名を呼び続ける。

ずっと、ずっと泣きながら呼び続ける。

そんなミラに誰も声をかけられず、ただ見ているしか出来なかった。

 

 

 

 

こうして、賢者の石を巡る事件は幕を閉じた。

だが、皆の表情からは喜びという感情はもう浮かんでいなかった。

浮かんでいるのは、悲しみという感情のみ。

そして耳に届くのは、青年が自らを犠牲にしてまで守ろうとした少女の泣きじゃくる声だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

事件後、元に戻ったスレイとレイは神剣であったときの記憶がないため何があったのかを皆から聞いた。

そして、聞き終わると同時にレイは泣き出し、スレイは恭也を救えなかったことを自分の非力さと取り俯いていた。

この二人や実際に立ち合ったものだけでなく、この事件に関係した誰もがそのことに胸を痛めた。

 

 

 

 

 

 

―数年後―

 

事件から幾つか年月が流れた。

ライルたちは教師になり学園で勤めている者やハンターとして世界を回る者といった具合に散り散りになった。

だが、時折学園に顔を出す者も入れば連絡を取り合っている者もいるので交流自体がなくなったわけじゃない。

そして美由希だが、スレイに戻りたいのであれば元の世界に戻しますよと言われたのが、

恭也との約束もあるためかこの世界に残ることにした。

しかし、教師となったミラを守るためには学園にいなければならない。

そのため生徒や教師以外は部外者がうろつくことが出来ないこの学園に留まるために美由希は戦闘術の教師になった。

傍らには常にスレイがいるため美由希の妹と見られることも多い。

それは美由希としてもスレイとしても嬉しいことだったため、特に訂正などはせず学園ではそういう姉妹という認識になっている。

最後にミラだが、教師となる前、恭也を失ったからか賢者の石の力で人間になるという望みを叶えた後も無気力な毎日を送っていた。

昼間は部屋に篭り、恭也の愛刀だった八景を抱きかかえるようにしながらずっとベッドの上に座っていた。

そして夜は恭也と共にいたときを想い、学園のバルコニーで夜空を見上げる。

そんな毎日を送っていた。

しかし、この頃は少しだけマシになってきてはいた。

事件直後はずっと宛がわれた部屋から出ず、持ってきた食事にも口をつけなかった。

だが、美由希やスレイ、レイの励ましや慰めがあってかある程度の食事は食べるようになり、夜だけだが外にも出るようになった。

それでも、どこか無気力に感じるのは仕方のないことだろう。

好きだったからこそ、愛していたからこそ、失ったときの悲しみは大きいのだから。

そしてそんな状態がしばらく続き、ある日唐突にレイが教師になってみないかと提案した。

理由は、何か生き甲斐を見つけたほうがいいという理由。

その理由を言ったときにはミラはなる気などなかく、いつものような無気力な返事を返した。

そんなミラがその提案を呑むきっかけとなったのは、その理由に至った更なる理由をレイが告げたからである。

それは、ミラのこんな状態を見たら恭也は絶対に悲しむ、という理由。

恭也は何よりもミラの笑顔を望んでいた。

だから今のミラの無気力な姿を見たら恭也はきっと悲しむ、と告げた。

レイはそう告げながら涙を溜めていた。

そのレイの言葉を、表情を見て、ミラの心境は大きく変わった。

結果的には悲しませる羽目になったとしても、恭也はミラを悲しませるために戦ったわけじゃない。

ミラが人間になるために、そして何よりミラが笑ってる過ごせるために、そのために戦ったのだ。

それがわかったから、それを思い出したから、ミラはレイの提案を呑んだ。

最初はまだ悲しみを引きずってはいたけれど、レイや美由希やスレイ、そして生徒たちと触れ合う内にそれは少しずつ和らいでいった。

そして今では笑顔を受けべている。

恭也の望んだ、笑顔を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「センセ〜!」

 

とある生徒に呼ぶ声が聞こえる。

振り向くと、その生徒は先ほど黒魔法の講義を受けていた生徒だった。

 

「何かしら?」

 

何かさっきの授業に関しての質問だろうかと思いながら尋ねる。

だが、ミラの予想とは違う言葉が返ってきた。

 

「え、えっと、センセの持ってるその刀ってなんなのかな〜って思って」

 

かなり緊張気味で尋ねてくる。

それもそうだろう。

ミラはかなり気分屋なところがあり、質問が自分にとってつまらないと判断したら容赦なく魔法を飛ばすことで有名。

死にはしないがそれでも痛いのには変わりないので質問するだけでもびくびく物。

それでもある程度人気があるのは本人の人徳というものがあるだろう。

 

「これ?」

 

片手に持っている刀を軽く上げながら聞く。

その刀は俗にいう小太刀。

鞘に納められている状態を見る限り真っ黒というのが印象的な小太刀。

銘は、八景。

尋ね返すミラに生徒はやはり緊張気味で頷く。

 

「これはね……」

 

ミラは八景を抱きかかえるようにしながら言う。

その表情はどこか切なそうだった。

それでも……

 

「大切な人の……大切な忘れ物よ」

 

ミラは笑顔で言った。

八景を大事に、愛おしそうに抱きながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ、終わらない……」

 

闇の中、少女は呟く。

 

「まだ幕は上がったばかり……」

 

呟く少女の隣には。

 

「真の闇が世界を覆うまで……」

 

仮面をつけた男がいる。

 

「舞台は終わらない……」

 

少女は仮面の男の腕に抱きつく。

 

「ねえ……」

 

仮面の男は静かに自分の仮面を取り外す。

 

「そうでしょう……?」

 

仮面の下のその顔は。

 

「恭也……」

 

恭也の顔そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<第二部へ続く>

 

 


あとがき

 

 

これが俺の言っていた考えだ。

【咲】 ……いいのかしら、これ。

いいもなにも、こうする予定だったし。

【咲】 読者から苦情くるんじゃない?

来るかもしれんな。 だが、俺はここで告知があるといったし。

【咲】 そんなの読者には関係ないわよ。

やっぱりそうかな?

【咲】 私はそう思うわ。

で、でも、もうやっちゃったものは仕方ないし。

【咲】 はぁ……知らないからね。

あ、あははははは。

【咲】 で、二部とやらはもう構想できてるわけ?

まあ、だいたいは。

【咲】 ふ〜ん……ていうかなんで分けたの?

ああ、それはな、一部と二部の間に数年の時間が流れるからだよ。

【咲】 まあ、理由としてはまともなようでそうでないようで。

ということで、二部ことを簡単に。

二部は先ほど言ったとおり一部から数年後のお話です。

軸的にはメンアットワーク!4の数年前なので4のキャラは出るかどうか微妙なところですね。

ただ間違いなく攻略キャラとなっているキャラは出ません。

あ、静穂(子供ver)くらいは出るかもしれないしれませんが予定は未定ということで。(笑

それと、話のほとんどがオリジナルになります。

二部で一応完結予定です。

メンアットワーク4へ続ける予定は今のところありません。

書きたくなったら書くかもしれませんが。

ということで、二部をよろしくお願いします〜。

【咲】 完結予定ってことは最後に出た少女は二部で大きく動くってことね?

まあね。 それは最後を見たら解ると思うけど。

【咲】 ふ〜ん、じゃ今回はこの辺でね♪

最終話まで見ていただいた読者の皆さん、ありがとうございました!!

二部は近いうちに仕上げますのでそちらも見ていただけると嬉しいです。

では、これにてノシ




第一部、完。
美姫 「お疲れ様です」
あの少女が動き出すのは第二部からか〜。
美姫 「何がどうなっているのか。それも二部にならないと分からないのね」
ああー、二部が始まるのはいつなのか。
美姫 「二部が始まるのを今か、今かと待ってますね」
待ってます。



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