アイザックの魔法の刃が俺の胸を貫く。

わかっていた。

俺一人ではアイザックを倒すことはできないことは。

 

「……」

 

意識が薄れていく。

もう胸を貫かれた痛みさえも感じなくなってきている。

それが意味するのは、死。

死ぬことはそんなに怖くない。

それよりも怖いことがある。

それは、君を悲しませてしまうのではないかということ。

それだけが、ただそれだけが……怖い。

 

「きょうやぁぁぁぁぁああ!!」

 

聞こえたそれは幻聴だろうか。

見えたそれは幻だろうか。

でも、そんなことはどうでもよかった。

その声が幻聴でも、その姿が幻でも。

最後に君の姿を見れたから。

最後に君の声を聞けたから。

ああ……俺は、幸せな奴だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!〜対なる心、継承せし二刀の剣〜

 

第十三話 心を受け継ぐ者

 

 

 

 

 

 

 

 

叫びと同時にミラは駆け寄る。

倒れる恭也の傍へと駆け寄る。

 

「恭也っ! 恭也っ!!」

 

すぐに抱き起こし、恭也の名を叫ぶ。

抱き起こした恭也から流れる血がミラを汚す。

ミラはそんなことどうでもいいかのように名を呼び続ける。

しかし、恭也は目を覚ますことはない。

 

「お兄ちゃんっ!!」

 

「恭ちゃんっ!!」

 

ミラの叫びに我に帰った美由希とスレイ、そしてレイが駆け寄る。

駆け寄った美由希はすぐに治癒魔法を掛けるようにスレイに言う。

スレイは頷き、治癒魔法をかける。

だが、治癒の光はすぐに止み、スレイは首を横に振る。

 

「スレイ……どうしたの? 早く治癒を」

 

理解はしていた。

スレイが首を横に振った意味を。

でも、わかりたくなかった。

だから、目の前の現実から逃げるようにスレイに早くと言う。

その美由希の言葉にスレイは現実を見てください、というように言う。

 

「もう……手遅れです」

 

信じたくなかった現実。

その言葉で再確認してしまう。

美由希は崩れ落ちるように膝をつく。

レイは恭也の体に顔を押し付けて泣く。

スレイは自分が不甲斐ないと思ってか俯く。

そしてミラは恭也の頭を抱えながら、消え入りそうな声で名を呼び続ける。

それをライルたちは見ていることしか出来ない。

下手な慰めなど掛けることはできない。

だから、ただ見ているしか出来ない。

 

「ふん……邪魔な鼠共が揃ってやってきたか」

 

声が聞こえる。

恭也を奪った者の声がする。

すぐ近く、すぐ目の前から。

 

「アイザック……!!」

 

ライルはアイザックに睨むような視線を向ける。

すべての元凶を睨みつける。

それはライルだけじゃない。

美由希も、スレイも、レイも。

モニカも、リサも、ジャスティンも、フィリスも。

アイザックを、討つべき者を睨みつける。

しかし、ミラはただ一人、恭也を呼び続ける。

目を覚ますことを祈り、呼び続ける。

 

「よくも、お兄ちゃんを……許さない!!」

 

闇の魔力が刃を形作る。

そしてその刃は一直線にアイザックへと向かっていく。

だが、それは届くことはない。

アイザックを守る魔法の障壁がそれを弾く。

 

「その程度の魔法では、わしの障壁は破れんわ!」

 

アイザックの魔力が形作る刃がレイを襲う。

レイはすぐに障壁を張る。

だが、障壁とぶつかりバチバチと音を立てる刃は遂には障壁を破る。

刃は迫る。

当たる、と誰もが思い、目を閉じるものもいた。

だが、当たることはなかった。

スレイが張った障壁によって刃は弾かれ、黙散した。

 

「ほう、防ぐか……ならこれはどうだ!」

 

追撃とばかりに刃が現れる。

その数は先ほどの倍以上。

 

「させない!!」

 

声と同時に刃は放たれる前に砕ける。

ジャスティンの放った魔法によって。

そのジャスティンの魔法が合図となったかのようにライルたちは動く。

各々の武器を持ち、アイザックを討つべく走り出す。

 

「スレイ……」

 

美由希の呟くような言葉にスレイは頷く。

光を放ち、自身を剣化させ美由希の手に握られる。

 

「私を使って……」

 

「え?」

 

「私だってお兄ちゃんの仇を討ちたい。 でも、今の私じゃあいつの力には及ばない。 だから――っ」

 

黒い光を放ち、レイは剣化する。

漆黒の剣は地面へと突き刺さる。

その状態で、その剣は、レイは強い意志を込めて言った。

 

『私を使って、あいつを倒して!!』

 

レイの言葉が美由希に届く。

その意志を込めた言葉が美由希を動かす。

小さくレイの言葉に頷いて返した美由希は漆黒の剣を手に取る。

そして二刀の魔剣をその手に握り、駆け出す。

アイザックを、恭也の仇を討つために。

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いは長時間に渡る激戦となっていた。

美由希は疲労を感じさせないかの如く、二刀で連続した斬撃を繰り出す。

ライルたちは美由希と違い若干の疲労を浮かべながらも攻撃の手を緩めない。

長時間でありながらも美由希はほとんど疲労を感じない。

それは恭也との鍛錬の成果でもある。

だが、それだけである。

長い時間の間、攻撃を続けているもののアイザックの体には傷一つついてはいない。

反対に美由希やライルたちはところどころに傷を負っている。

簡単にはいかないとは皆解ってはいた。

だが、ここまで絶望的な差があるとは思わなかった。

 

「はあ!」

 

スレイでアイザックに斬撃を放つ。

迫りくる刃を前にアイザックは避けようともしない。

それは避ける必要がないから。

アイザックを守る障壁を前にすべての攻撃は無力化してしまうから。

だから避けない。

 

「く……」

 

結果は変わらずとも攻めを繰り返す。

後方からは魔法と矢が放たれる。

だが、そのどれもが障壁を突破できない。

 

「くそ……あれどうにかならないのかよ」

 

荒々しく息をつき、苦々しく呟く。

障壁をどうにかしない限り、アイザックを討つことなどできない。

それはわかってはいても、どうにもならない。

どんな強い攻撃を加えようとも、どんな強い魔法を放とうとも。

障壁は破れる気配を感じさせない。

 

『おかしいです……』

 

「っ……なに、が?」

 

『あの障壁も魔法である手前、魔力を消費します。 ですから、ただの人間がこの長時間障壁を張り続けるなんてできないはずなんです』

 

当然の疑問だった。

アイザックを守る障壁とて魔力が生み出している魔法なのだ。

そうであるが故に、常に張り続けているアイザックは当然常に魔力を消費しているはず。

だが、長時間張り続けているにも関わらず、アイザックの魔力は尽きることはない。

如何に魔法の才があろうとも賢者の石もない状態でただの人間であるアイザックが長時間の間障壁を張り続け、

さらには絶え間なく魔法を放ち続けるなど本来不可能なのだ。

しかし、アイザックは現実にそれを行っている。

それが、スレイにも、レイにもわからない。

 

『もしかして……レイ、今のアイザックの魔力、測れる?』

 

『測るって……できないこともないけど』

 

『なら、測って。 嫌な予感がします』

 

『わかった……え……なに、これ』

 

すぐに測り終わったレイは信じられないといったような声を漏らす。

 

『どうだったの?』

 

『う、うん……あいつの魔力、最大の状態からまったく減ってないよ。 ううん、減ってないって言うよりも減る端から回復してる』

 

『やはり……』

 

『でも、これっておかしいよ! こんな現象、普通はありえない!』

 

「それって……っ……どういうこと?」

 

『結論から言いますと、このままではこちらが不利です』

 

無限の魔力。

その言葉が当てはまるような現象が目の前で起こっている。

それは戦いが長期に渡れば渡るほど、美由希、そしてライルたちが不利になっていく。

障壁を破れず、ほぼ無意味な攻撃を続け、アイザックの魔法を避け続け、皆の体力は奪われていく。

対して、アイザックは魔力が切れることもなく、魔法を放ち続ける。

明らかに分が悪すぎる。

 

「く……なら……どうすれば」

 

喋りながらも手は止めない。

止めれば魔法の嵐が来るのは確実だったから。

 

『障壁を破るほどの一撃を放つか・・・・・もしくは、この現象の元を絶つかです』

 

『でも、そのどちらも無理に近いよ』

 

前者の場合だと、障壁を破れるのは上級に属する魔法かそれほどの威力を持つ一撃でないといけない。

だが、そのどちらも今の美由希にも、ライルたちにも無理なのだ。

そして後者の場合、現象の元を絶つのならばそれを見つけなければならない。

だが、そんな暇をアイザックは与えてはくれないし、元があるのかどうかもわからない。

状況は絶望的に近いのだ。

 

「どうしようも……ないってこと?」

 

『……』

 

その沈黙はほとんど肯定を意味していた。

打つ手がない以上、現状のこの状況を続けるしかない。

だが、それも無意味。

このままではいずれ体力も魔力も尽き、負けてしまう。

 

「く……」

 

アイザックの放った魔法を二刀をクロスさせて受ける。

だが、その衝撃は抑えきれず美由希は後方へと吹き飛ぶ。

 

「美由希! がっ……」

 

吹き飛んだ美由希に意識を向けてしまったライルはモロに魔法を受け、同様に吹き飛ぶ。

二人がそうなったのを見て若干の動揺が走ったのか続くように他の者も吹き飛ばされていく。

 

「もう終わりか……つまらん」

 

吐き捨てるようにアイザックは呟く。

そして止めとばかりに魔力を練り、火球を生み出す。

 

「まだ、まだ……」

 

剣を杖にするようにライルは立ち上がる。

姿は満身創痍の状態だがその目にはまだ戦えるという意志が篭っていた。

ライルに続くように皆も立ち上がっていく。

ライルと同じような意志をその目に宿しながら。

 

「負けない……」

 

美由希も立ち上がる。

体の痛みに耐えながら、立ち上がる。

二刀を強く握りしめながら立ち上がる。

どんなに力の差があっても、それがどんなに絶望的でも。

恭也のために、瑞穂のために、学園のために、皆のために。

 

「私は……私たちは、負けない!!」

 

強い、とても強い意志。

呼応するようにライルたちは構える。

 

「ふん……ならばその志を抱いたまま死ぬがいい!!」

 

火球はどんどん大きくなっていく。

魔力を注がれ大きくなっていく。

そして凄まじいほどに膨れ上がった火球をアイザックは放つ。

通常のものよりは若干速度が遅い。

だがその分、避ける隙間がない。

その大きさでは障壁でも防ぎきれないかもしれない。

だとしても、僅かな可能性でもとスレイとレイは障壁を張る。

 

『『く・・・・・・』』

 

障壁にぶつかる火球。

同時に二人から苦悶の声が漏れる。

火球と障壁がぶつかるバチバチという音は次第にピキ、ピキという罅が入る音へと変わる。

もう、もたない。

スレイも、レイもそう思った。

だが、そこで信じられないことが起こった。

障壁に入った罅がどんどん修復されていく。

火球を徐々に押し返していく。

 

『それがお前の守りたいものか』

 

唐突に、しかし、確かにそれは聞こえた。

スレイも、レイも、ライルたちには聞こえなかった。

だが、美由希には確かに聞こえる。

その声は、恭也の声。

 

『ならば守り抜け、お前の守りたいものを』

 

瞬間、二刀の魔剣は光を放つ。

スレイはすべてを照らしそうなほど眩い白の光を。

レイは禍々しくもどこか暖かさを感じる黒の光を。

相反する光を二刀は放ち始める。

 

『これって……お兄ちゃんの魔力』

 

レイが放つ黒の光は恭也の心。

 

『これなら……主様!!』

 

スレイが放つ光は美由希の心。

 

『いくぞ、美由希!!』

 

「うん!!」

 

魔と魔が重なりしとき、其は神となる。

神は主に大いなる力を与え、すべてを守護する剣となるだろう。

それは光と闇の魔剣に伝わる伝承。

魔剣が作られしときから、長い間伝えられてきた魔剣の伝承。

その伝承に伝えられし剣が今、ここに姿を現す。

その名は

 

『「神剣ソウルアレイ!!」』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「繋がった……やっと」

 

少女の表情は歓喜に満ちていた。

待ち望んだ迎えがやっと来たというように。

 

「目覚める……真の闇が」

 

少女は歩き出す。

城の外へと向かい歩き出す。

歓喜に歪んだ表情を浮かべたまま。

 

「ふふふ、あはははははははははははは!!」

 

狂ったような少女の笑いはどこまでも響く。

その笑いの声は少女が見えなくなっても響き続けていた。

 

 

あとがき

 

 

遂に次回最終話です!!

【咲】 次回って……これ、あと一話じゃ終わんないでしょ。

ふふふ、そこは考えがあるのさ。

【咲】 そうなの?

おうともさ。そもそも前から考えてたしな。

【咲】 ふ〜ん……じゃあここまでは予定通りなわけ?

まあね。

【咲】 珍しい。

何気に酷い言葉ありがとう。

【咲】 あら、へこまないのね。さらに珍しい。

今の俺はそんなことじゃびくともしないのさ!!

【咲】 なんかムカつくわね。……えい。

ひぎゃ!!

【咲】 あ、ちょっと強く蹴りすぎちゃった。

……(ぴくぴく

【咲】 ま、いっか。じゃ、また次回ね〜♪




いよいよ最終話。
美姫 「幾つかの謎はそこで明らかに!?」
そして、遂にあの少女が動き出す。
美姫 「どんな結末が待っているというの!?」
次回も待っています!
美姫 「待ってますね〜」



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