その日の昼、美由希とスレイはライル、モニカに食事を誘われた。

別に断る理由もないため誘いを承諾した美由希だったが、後になりそれを若干公開した。

その理由はモニカの食事量だ。

自分も良く食べるほうだとは思っていたが、モニカのそれは自分を遥かに凌駕していたのだ。

その体のどこにそんな量がはいるんだろうと思えるくらいの量。

それを見ると空いていたお腹もいっぱいになる感じがする。

というか簡単に言えば食欲が失せてしまったのだ。

そのため目の前の食事にもほとんど手がつけられずにいる。

 

「あの……モニカさんはいつもこんなに?」

 

「う〜ん、今日はいつもより少し多いかな。 なんかかなり腹が減ってたみたいだから」

 

「こ、これで少しですか……」

 

明らかに少しと言える量ではない。

だが、モニカの食べっぷりを見るとかなり真実味を帯びてくる。

 

「世界は広いですね、主様」

 

「そ、それですませちゃっていいのかな……」

 

「ま、こいつのことは置いといて、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

 

「え? 私にですか?」

 

「ああ。 それと伝えないといけないこともね」

 

「はあ……なんですか?」

 

「まず聞きたいことなんだけど」

 

なくなった食欲のまま少しずつ食事の手を進めながらライルの話を聞く。

その手も次のライルの言葉で完全に止まる。

 

「美由希に恭也って名前の知り合い、いる?」

 

「え……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!〜対なる心、継承せし二刀の剣〜

 

第九話 守りたいもの

 

 

 

 

 

 

 

 

ライルの言ったその名前を美由希はよく知っている。

そしてほんとならこの世界で聞くはずなんてないということも。

だが、ライルはその名前を言った。

 

「え、え……どうして、ライルさんがその名前を……」

 

呆然としながらそう呟く。

ライルは美由希のその様子が答えかのように

 

「……いるんだね」

 

そう言う。

その言葉で美由希は我に帰る。

 

「な、なんでライルさんがその名前を知ってるんですか!?」

 

今までに見たこともない勢いでライルへと問いただすように聞く。

その勢いに若干驚きを覚えながらもライルはそれに答える。

 

「な、なんでって……本人に聞いたんだけど」

 

「本人……? 恭ちゃんがここに……いる?」

 

ライルの答えにまたも美由希は呆然と呟くように言う。

だが、すぐに我に帰り先ほどと同じような勢いで聞く。

 

「ど、どこに、恭ちゃんはいまどこにいるんですか!?」

 

「そ、それについて今から言うから、お、落ち着いて」

 

ライルはそう言うと美由希は落ち着きを取り戻すように軽く深呼吸をする。

そして少し落ち着いたのか続きを言うように頼む。

 

「えっと、本人からの伝言なんだけど、この学園の外に出て北に行ったところ遺跡があるらしいんだ。 恭也はそこで待ってるって」

 

「遺跡……ですね」

 

美由希が確認するように聞くとライルは首を縦に振る。

ライルが頷いたのを見ると美由希は席から立ち上がる。

 

「も、もしかして……今から行く気?」

 

「はい」

 

「で、でも時間のとか言ってなかったから今から行ってもいないかもしれないよ?」

 

「いないなら待ちます」

 

決意は固いようだった。

今の美由希は何を言っても無駄だろうと悟ったのかライルはそれ以上何も言わなかった。

 

「でも、美由希は道わかるの? 地下水路とか結構入り組んでるわよ?」

 

食事をしながらも二人のやり取りを聞いていたモニカがそう聞く。

だが、それに答えたのは美由希ではなかった。

 

「その心配はありません。 そのために私がいるのですから」

 

「どういう意味?」

 

ライルはそう聞く。

モニカも同じようなことを思っているのかスレイの返答を待つ。

その二人の疑問に答えるように席を立ち、詠唱を開始する。

そしてその詠唱が終わると人が通れるくらいの光の渦が現れる。

 

「その遺跡への直通です」

 

「マジか?」

 

「マジです」

 

「でもこれ……ほんとに繋がってるの?」

 

「はい。 転移魔法などは得意ですのでご安心ください」

 

そう言うスレイの顔いつも通り無表情だが言葉は自信ありげな感じだった。

 

「では、主様」

 

「うん」

 

美由希は頷くと渦の中へと入っていく。

それに続いてスレイも入る。

スレイが入るとゲートは光の粒子となって黙散する。

 

「ねえ、ライル……」

 

「……なんだ?」

 

「私たちってかなり目立ってない?」

 

「ああ……かなり目立ってる」

 

あとにはその場のすべて視線を浴びるライルとモニカのみが残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

美由希とスレイが遺跡へ行く二時間前。

恭也たちがいるアジトからは口論らしきものが聞こえていた。

 

「だからっ、こっちだって必死にがんばってるって言ってるでしょ!!」

 

「ふん……努力しようとも成果だせなければ意味はないわ」

 

「難癖つけるなら自分でやってよね! 自分は特に何もしないで部屋に篭ってるだけのくせに!」

 

「貴様たちと違ってワシは忙しいのだ。 ぐだぐだ言う暇があるならさっさと『石』を見つけて来い」

 

レイと口論している老人―アイザックはそう言うと奥へと歩いていく。

あとに残ったレイは頭に血が上っているのか地団太を踏む。

 

「ムキーーー!! ムカつくーーー!!」

 

「レイ、少し落ち着きなさい」

 

近くにいたミラがレイの頭をぽんぽんと軽く叩きながら宥める。

そしてしばし経ってから若干落ち着いたのかレイは近くの椅子に飛び乗るように腰掛ける。

 

「私、あいつ嫌い! 何もしないくせにすっごくえらそう!」

 

「まあそれに関しては同感だな。 それはそうと、レイ」

 

「何?」

 

「遺跡へのゲートを開いてくれないか?」

 

「遺跡? いいけど……そこに何か用事があるの?」

 

「ああ……ちょっと、な」

 

「ふ〜ん、わかった〜。 ちょっと待ってね〜」

 

椅子からピョンと飛び降りるように立ち上がり、ゲートを開くための詠唱を開始する。

 

「じゃあ、私は学園のほうに行ってくるわね」

 

「ああ、気をつけてな」

 

「恭也もね」

 

そう言ってミラも詠唱を開始する。

そして二つのゲートはほぼ同時に開かれ三人は同時にゲートへと入った。

あとには誰もいなくなったその部屋に静寂が流れるのみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲートを抜けた場所は遺跡の手前だった。

遺跡は森で囲まれており風にざわめく木々の音が聞こえてくる。

 

「では、参りましょう、主様」

 

「うん」

 

美由希とスレイは歩き始める。

恭也が待っているであろう遺跡へと歩き始める。

ゆっくりゆっくり、遺跡へと向かっていく。

その歩調に合わせるかのごとく、遺跡は徐々に見えてくる。

そして、そこに佇む二つの影も……。

 

「レイ!?」

 

「げっ……スレイ」

 

歩み寄ってきた人物の一人がスレイであるとわかるとレイは露骨に嫌そうな顔をする。

逆にスレイはなんでここにと言うような感じの顔をしていた。

 

「スレイが来るなんて聞いてないよ!?」

 

「それはこちらも同じです。 なんであなたがここに……」

 

「私はお兄ちゃんに言われて一緒に来ただけだもん。 来るのがスレイだって知ってたら来てないよ!」

 

スレイはともかく、レイは明らかにスレイを嫌っている様子だった。

だが、そんな二人の様子や会話など他の二人には気に掛ける暇はなかった。

 

「美由希……久しぶりだな」

 

「恭ちゃん……」

 

美由希の姿を見たからか若干恭也の口元には笑みが浮かんでいた。

反対に美由希は信じられないものでも見るかのように呆然と呟く。

 

「まさかお前もこの世界に来ているとは……思いもしなかった」

 

「わ、私だってそうだよ。 なんで皆の前から消えた恭ちゃんがここにいるの!?」

 

「それはお前自身、もうわかっているんじゃないのか」

 

「……」

 

確かに恭也の言うとおりだった。

聞くまでもなく今の状況が答えとなっている。

だが、美由希は信じたくはなかった。

だから微かな希望を抱きながらそれを口にする。

 

「恭ちゃんが、闇の主……なの?」

 

「そうだ、美由希。 いや、光の主」

 

それを聞いたとき、美由希は頭が真っ白になる。

信じられなかったのだ。

闇の主になるには闇の理を知っていることが前提条件。

それは心に強い闇を抱えている者が選ばれるということでもある。

だから信じられない。

自分の知っている恭也が、誰よりも優しい心を持った恭也が闇の主だということが。

 

「主様、闇の主とはどういう関係なのですか?」

 

レイとの言い合いをやめ、スレイはそれが気になったのか美由希に尋ねる。

だが、美由希は立ち尽くすだけでスレイの言葉には返さない。

そしてもう一度尋ねようとするスレイに、意外なところから答えが返ってきた。

 

「俺は兄だ、美由希のな」

 

「「えっ!?」」

 

その答えにスレイだけではなくレイも驚く。

 

「そうなの、お兄ちゃん?」

 

「ああ。正確には義理のだがな。 そしてそれと同時に美由希は俺の弟子でもある」

 

声には出さないものの二人はまたも驚きの表情を浮かべる。

 

「美由希……わざわざ俺が伝言を頼んでまでお前とあった理由、わかるか?」

 

「……」

 

美由希は答えない。

先ほどの恭也の言葉が尾を引きずっているのもあるが、単純に解らないからでもある。

自分がこの世界にいるからといって必ず会わないといけないというわけではない。

そもそも会う必要性はないのだ。

だが、恭也はライルたちに伝言を頼んでまで美由希をここに呼んだ。

ただ会いたかったというのも考えられる。

しかし、恭也の表情を見るとその考えは打ち消されてしまう。

だからわからない。

理由が浮かばない。

 

「簡単なことだ。 お前は光の主、俺は闇の主……ならば呼ぶ理由は一つ」

 

そこで言葉を区切る。

少しだけ間を置いて恭也は続きを言った。

先ほどまでとは違う、感情を込めない冷たい声で。

 

「魔剣を渡せ、美由希」

 

「え……?」

 

「本来二つの魔剣の主は一人。 だが、どういうわけか主は二人になってしまった」

 

「だ、だったら私と恭ちゃんが協力すれば」

 

「それでは意味がない。 光と闇の魔剣は一人の主が二つ持ってこそ真価を発揮する。 一つずつだけではだめなんだ……だから」

 

再度、恭也はそれを口にする。

先ほどと同じ声で。

 

「もう一度言う。 その魔剣を渡すんだ」

 

「……」

 

美由希はその言葉に返せない。

もし断れば、恭也は敵対してでも奪おうとするだろう。

だが、だからといってほいそれとスレイを渡すなんてできなかった。

 

「主様」

 

恭也に答えを返せない美由希にスレイは声をかける。

そして迷っている美由希を後押しするように言葉を紡ぐ。

 

「主様がどのようなご決断を出そうとも、私の主様はあなただけです。 ですから、主様の思うままにしてください」

 

「スレイ……」

 

スレイの後押しが美由希の迷いを打ち払う。

 

(そうだよ、ね……スレイが私を思ってくれてるように、私もスレイが大事。 そんなスレイを渡すなんて……できない)

 

決心がついた。

たとえ恭也と敵対しようとも、スレイを渡すなんてできない。

スレイは美由希にとってただの物じゃない。

心を持った一人の人、大切な仲間であり、妹のような存在なのだ。

 

「恭ちゃん……私は」

 

決意を込めた視線で恭也を見る。

恭也はその視線を見るとふっと表情を緩めた。

 

「そうか……お前ならそう言うと思ってた」

 

そう言うと恭也は懐に手を入れ袋を取り出す。

そしてその袋を美由希のほうへ投げる。

美由希は驚きつつもその袋を受け取り中を見る。

袋の中には、青、赤、緑、そして白の石が入っていた。

 

「これは……?」

 

「それをライルたちに渡せ。 それだけであいつらにはわかる」

 

「う、うん……」

 

美由希は戸惑いながら頷く。

 

「レイ、ゲートを」

 

「うん」

 

レイは頷くと詠唱を開始しゲートを開く。

開かれたゲートのほうに恭也は踵を返し歩き出す。

 

「美由希……最後に一つだけ聞く」

 

「え、な、なに?」

 

急に足を止めそう言ってくる恭也に美由希は尋ね返す。

恭也は振り向くことなく美由希へと問いかけた。

 

「お前は……守りたいものはあるか?」

 

「え……?」

 

その質問に美由希は驚き、そして考える。

だが、その答えは見つからない。

 

「俺は……ある」

 

「……」

 

「この世界で唯一つ、俺この身をかけてでも守りたいもの」

 

言葉を紡ぐ恭也からは愛おしさのようなものが感じられた。

 

「俺は……すべてが敵に回ろうとも、彼女だけは守り抜く」

 

強い決意を込めた言葉。

その言葉と同時に恭也とレイはゲートへと姿を消した。

 

 


あとがき

 

 

美由希と恭也が接触しました〜。

【咲】 美由希、というかスレイは大胆よね。人目の着く場所でゲートを開くなんて。

主を第一考える子だから周りに目がいかないんだよ。

【咲】 慎重そうな性格とは裏腹ね。

まあね〜。

【咲】 でも、なんで宝玉を美由希に渡したの?

さあ、なぜでしょうね?

【咲】 何か考えがあるということはわかるけどね。

まあ次回になればわかるよ。

【咲】 そうなの?

うん。 さて、メンアットトライアングルもそろそろ終盤へと差し掛かります!

【咲】 次回はライルたちと恭也たちの直接対決ね?

そうなるね。

【咲】 賢者の石をめぐるこの二組の対決、はたしてどうなるのか!

次回、メンアットトライアングル第十話ご期待ください!!

【咲】 ということで。

また次回会いましょう!!




おお、何やら事態が一気に動いた感じ。
美姫 「一体、どうなるの!?」
続きを知りたければ、すぐさま次の話へ。
美姫 「無駄話は抜きにして、レッツゴ〜」



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