闇。

一筋の光さえもないそこはまさにそう呼ぶに相応しい場所。

もし人がそこにいたのなら間違いなく精神崩壊を起こすだろう。

ただ何も見えないほど暗いからというだけではない。

この闇には人の怨念や憎悪というものが渦巻いているからだ。

そしてそんな場所に、一人、ただ一人佇むように少女が立っていた。

 

「まだ……まだ繋がらない」

 

そう呟く少女にはこの闇には不釣合いな笑みが浮かんでいた。

その笑みはまるで子供のような無垢な笑み。

 

「それほど、あなたを照らす光は……強い」

 

誰もいないはずの闇から雄叫びが上がる。

それは怨念と憎悪が入り混じった負の雄叫び。

まるで少女の言葉に反応するかのように聞こえてくる。

 

「それも時間の問題……」

 

少女の身に纏う空気が変わる。

それと同時に雄叫びがさらに大きくなる。

 

「無限の闇を前に、人一人の光なんてとても儚いもの」

 

少女は自分を抱きしめるように自身の体に腕を回す。

そして小刻みに震える。

 

「あなたが光を失ったとき……あなたの闇は目覚める」

 

闇の中であるはずなのに、少女からは目視できるくらいの黒い気が上がる。

その気はその闇を形作る怨念や憎悪、それよりも深い……とても深いもの。

 

「運命からは、逃れられないのよ……恭也」

 

人はそれをなんというのか。

それはわからない。

だが、少女はそれをこう呼ぶ。

愛、と。

 

「ふふふふふふ……あははははははははははははははは!!!!!」

 

少女は、どこまでも歪んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メンアットトライアングル!〜対なる心、継承せし二刀の剣〜

 

第五話 光と闇が出会うとき 前編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呼び出しがないまま美由希は朝を迎える。

目を覚ました美由希の視界に最初に入ったのはなぜか部屋を掃除しているスレイの姿だった。

寝ぼけ眼で美由希はスレイを呆然と見ること数秒、意識がしっかりしたのか驚いた表情でスレイに聞く。

 

「な、何してるの、スレイ?」

 

「あ、おはようございます、主様」

 

「あ、うん、おはよう……て、そうじゃなくて」

 

会話をしながらもスレイは手を止めない。

てきぱきと掃除をこなすスレイになぜそんなに手馴れてるのか疑問に思ったが、

それよりもなぜそんなことをしてるのかのほうが気になったので後回しにし、再度尋ねる。

 

「どうして掃除なんかしてるの?」

 

「主様の住まうお部屋ですから清潔にしておくほうがいいと思いまして」

 

「清潔にっていうのは私も思うけど、何もスレイがしなくても私がするから」

 

「そういうわけにはいきません。 主様のお世話をするのも私の役目です」

 

「そ、そうなの?」

 

内心違うだろうと思うがそう聞いてしまう。

それはスレイの当然だと言わんばかりの言い方がそうさせる。

そして……

 

「そうです」

 

こうきっぱりと断言されてしまえば違うとは言えなかった。

そうこうしているうちに掃除を終えたのかスレイは窓を拭いていた雑巾をバケツの上で絞り、元あった場所にかける。

 

「そういえば、主様」

 

「ん? 何?」

 

ベッドから起きた美由希にスレイは何かを思い出したかのように声をかける。

 

「さきほどこの学園の学園長の方がいらっしゃいまして、後で学園長室に来てくださいと言伝がありました」

 

「お、起こしてくれればよかったのに……」

 

「いえ、主様も昨日のことでいろいろとお疲れのご様子でしたので」

 

つまりは気を使ったということだ。

美由希もそれがわかってかそれ以上は何も言わなかった。

 

「それで、いつ頃来るようにとか言ってた?」

 

「確か午前の授業が始まる前にと」

 

「そうなんだ……て、もうほとんどないじゃない!」

 

壁にかけられた時計を見て美由希は慌てて鏡の前にいき髪を整える。

そして凄まじい慌て様で扉を開け部屋を出る、そして

 

「あいたっ!」

 

こけた。

スレイはその音と美由希の声を聞いてすぐに部屋を出てみるがそこにはすでに美由希の姿はなかった。

声と音がしてから数秒しか経っていないのにすでに姿の見えない美由希にスレイは、さすがです、主様と少しずれた言葉を呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します……」

 

「どうぞ」

 

返答が帰ってきてから美由希はドアを開け中に入る。

部屋の奥にある机の椅子にはミリアムが座っていた。

 

「昨夜は良く眠れましたか?」

 

「あ、はい……」

 

「そう、それはよかったわ」

 

そう言って微笑を浮かべる。

ちなみに美由希はその質問からさきほど自分がぐっすり寝ていたのを知られていることを思い出し顔を赤くする。

 

「あの、それで用事というのは昨日のこと……ですよね?」

 

「ええ。でも、だいたいのことは龍道先生やスレイさん本人に聞いてます」

 

「え……スレイと話したんですか?」

 

「少しね。 それで美由希さんにも聞きたいことがあったから呼んだの」

 

「はあ……それで聞きたいことというのは」

 

美由希がそう聞くとミリアムは先ほどまでの表情から一変して真剣なものに変わる。

そのミリアムの表情の変化に美由希も気を引き締める。

 

「あなたは、スレイさんからどこまで聞きましたか?」

 

「えっと、スレイが私を契約したということとスレイが私に賢者の石というものを守護させたいということだけです」

 

「そうですか……では、賢者の石というものがどういうものかは聞いていないのですね」

 

「はい」

 

ミリアムの言葉に美由希は頷く。

するとミリアムは小さく息をついて先ほどの表情に戻る。

 

「はい、ではこれで質問はおしまいです。 もう戻っていいですよ」

 

「あ、はい……」

 

「あ、それと授業のことですけど、今日はとりあえずどんな授業があるかを見て回って明日あなたが受けたいと思った授業をうけると言う形になります。 先生方にも伝えてありますから遠慮なく授業を見てください。 あと制服は今日中に部屋に届けますからね」

 

「わかりました……それじゃあ失礼します」

 

そう言って頭を下げ、美由希は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

美由希は部屋に戻りスレイを連れて学園内を歩く。

スレイに関しては部屋に居てもいいと言ったのだが

 

「私は主様のお傍にいてお力になるのが存在意味ですから」

 

と言いついてきたのだ。

別についてくるのがダメというわけではないのでスレイのしたいようにさせている。

そして授業を見回っていき、最後に中庭の戦闘術の講義を見学しに行くとそこには見知った顔があった。

 

「お、美由希じゃないか」

 

「あ、こんにちは、ライルさん」

 

「うん、こんにちは。 で、そっちにいるのは……」

 

「昨日お会いしましたが改めまして、初めましてライル様。 主様の僕でシャインスレイと申します。 気軽にスレイとお呼びください」

 

「ら、ライル様……」

 

普段、くん付けやさん付けで呼ばれることはあっても様付けでは呼ばれたことがないライルはかなりの感動を覚えていた。

そしてライルが一人感動している中、もう一人近寄ってくる。

 

「兄貴〜、どうしたっすか〜?」

 

「ん? ああ、リサか。 ほら、この二人が昨日言った人たちだよ」

 

「そうなんっすか。 リサ・エアハートっす。 よろしくっす」

 

「た、高町美由希です。 よろしくお願いします」

 

「シャインスレイと申します。 スレイとお呼びください」

 

リサの元気の良さに若干たじろぐ美由希とは異なり、スレイはまるで慣れたように名乗る。

 

(この手の方はあの子で慣れてますからね……)

 

 

 

 

 

一方で……

 

「くちゅんっ!」

 

「ん? どうした、風邪か?」

 

「ううん、それはないけど……たぶん誰かが私の悪口でも言ってるんじゃないかな」

 

「誰か?」

 

「大方想像がつくんだけどね」

 

「ふむ……」

 

という会話が成されていた。

 

 

 

 

 

「それで美由希はどうして中庭に?」

 

「えっと、授業を見学しに来たんですけど」

 

「戦闘術の?」

 

「はい」

 

「ふ〜ん……見ててもあまり面白くないと思うけどな〜」

 

「確かにそうですね」

 

ライルの言葉にスレイは同意し美由希は苦笑いを浮かべていた。

そこでリサが何かを思いついたようにポンと手を叩く。

 

「なら美由希の姉貴も授業に参加すればいいっすよ!」

 

「え、参加……って、それに姉貴って」

 

「ああ。 なんでもリサは兄や姉がほしかったらしくて、それで俺もモニカもそう呼ばれてるんだ。 美由希に大してもそう呼ぶのは……わからんけど」

 

「は、はあ……」

 

「でも参加してみるっていうのはいい案じゃないか? ただ見てるだけというのも退屈だろうし」

 

「そうっすよね、兄貴!」

 

「で、どうかな?」

 

「えっと……」

 

「こらこら、あまり美由希くんを困らせるんじゃないぞ」

 

二人の視線にたじろぐ美由希に横からやってきた龍道が助け舟を出す。

それに美由希は明らかにほっとした表情をする。

 

「ほら、二人とも授業の途中なんだからもどったもどった。 美由希くんも明日から授業に参加だからしっかり見ていってくれ」

 

ライルとリサは龍道に言われすぐに元の場所に戻っていく。

龍道は美由希が、はいと言って頷いたのを見て歯が輝きそうなほどの笑みを残して指導へと戻っていった。

 

「面白い方々ですね、主様」

 

「あ、あはははは……」

 

スレイの言葉に美由希は乾いた笑いを返すだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘術の講義を見終わったと同時に午前の授業の終わりを告げる鐘が鳴る。

 

「お昼になったから食堂いこっか」

 

「わかりました」

 

スレイが頷いたのを見て美由希は食堂へと足を向け歩き出した。

それにスレイも斜め後ろをキープするようについていく。

そして、しばし歩き二人は食堂へと到着する。

 

「あ、美由希の姉貴!」

 

さきほどまで戦闘術の講義があったはずなのになぜ自分よりも先にリサが食堂にいて、しかもすでに食べ始めてるのか疑問に思った。

 

(近道でもあるのかな……?)

 

美由希は内心そう考えていると

 

「にゃー! にゃーー!」

 

という声、というよりも鳴き声が聞こえてきた。

 

「クロ、おとなしくするっすよ」

 

「にゃーー!」

 

「クロ? ……て、猫か」

 

視線をリサの抱きかかえてるものに向けるとそこには真っ黒な猫がいた。

その猫にリサは見た感じ餌を与えてるようだが、これも見た感じ嫌がってるのがわかる。

抱きかかえられてることがいやなのかと最初は思ったがそうではなかった。

問題はリサが与えようとしている餌だった。

 

「り、リサさん……それって」

 

「え? これっすか? 見たとおり夏みかんっすよ」

 

「夏みかん……」

 

(猫って確か柑橘系がダメなんじゃ……)

 

その考えは猫の嫌がりようを見て確信した。

だから止めようと声をかけようとするが美由希よりも先にスレイが口を開く。

 

「リサ様、猫は柑橘系の食べ物を与えてはだめですよ」

 

「え?」

 

「現にその猫は嫌がっていらっしゃいますよ?」

 

「にゃーー!」

 

スレイに同意するかのように猫は鳴く。

それにリサは慌てて猫を放し謝る。

その後、猫は終始不機嫌だったとか。

 

 

 

 

 

 

お昼後、美由希とスレイは授業をあらかた見終わったためか学園内を見て回ることで時間をつぶす。

そして今は時間にして九時過ぎ。

夕食を終え、入浴を済ませた美由希は部屋でスレイと向かい合うようにベッドに腰掛けていた。

 

「主様、夜の鍛錬はなさいますよね?」

 

「あ、うん」

 

話した覚えがないのになんで知っているのか美由希は聞かない。

聞いてもはぐらかさせそうだからだ。

 

「それで提案なのですが、鍛錬と同時に闇のほうの捜索をしてはどうでしょうか?」

 

「あ、そうだね。 夜なら誰の目にもつかないし」

 

「はい。 さらに同時に私を扱えるように鍛錬いたしましょう」

 

「うん。 じゃ、そうと決まったらさっそくいこっか」

 

「はい」

 

二人はこの会話の数分後、準備を終えて夜の学園へと赴いた。

 

 

 

 

 

 

 

一方、ライルたちは

 

「で、合流したはいいけどまたはぐれてしまったっていうわけだ」

 

「そういうことだな」

 

また恭也と出会っていた。

しかしまたもいるのは恭也のみ。

理由は語らずともわかるだろう。

 

「それで、どうするんだ? 探すなら俺たちも手伝うけど」

 

「いや、遠慮しておく。 俺みたいな不信な奴がいたら迷惑だろう」

 

「そんなことないけどな〜……」

 

「では、俺はこれで失礼する。 もし、俺より先に発見したらバルコニーにいるようにと言っておいてくれ」

 

「ああ、わかった」

 

「ではな」

 

そう言って恭也はその場を去っていく。

 

「そういえば、リサは今度恭也にあったら勝負してもらうとか言ってなかったか?」

 

「あ、忘れてたっす……」

 

「忘れてたって……」

 

後に残ったライルたち(主にライルとリサ)はそんな会話をしながら恭也とは違う方向に歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

『ねえ、スレイ』

 

『はい、なんでしょうか?』

 

剣化したスレイに美由希は念話のような感じで話しかける。

 

『扱えるようにって言ってたけど具体的にどうすればいいの?』

 

『そうですね……光の魔法が使えるようになるといいんですが、主様はまだ光の魔法はおろか魔法自体使えませんのでそれは後回しにしましょう』

 

『うん。 それで、何をすればいいのかな?』

 

『まずは武器に光を付与することからですね。 何か私以外の武器を出してもらえますか?』

 

『えっと、飛針でいいかな』

 

そう言いながら懐から飛針を取り出す。

 

『はい、それで構いません。 では、それを持ってもらって、光がそれに収束するイメージを頭の中で浮かべてください』

 

『それだけでいいの?』

 

『はい。 魔法は術式などが必要になりますがこれはいりませんので』

 

『そうなんだ』

 

『では、やってみてください』

 

美由希はスレイに言われたとおりにイメージをする。

イメージが頭の中で鮮明になると手に持つ飛針を光が包み込んでいた。

 

『さすがです。 普通はイメージだけでもこんなにすぐにはできないのですが』

 

『え、そうなの?』

 

『はい。 それほど主様には才能があるということですね』

 

『そうなんだ……それで他には?』

 

『いえ、今日はこれを瞬時に出せるように訓練します。 出来るようになったところで他の術もということになります』

 

『じゃあ、これをするように意識して敵と戦えばいいんだね?』

 

『はい』

 

飛針に光を込める訓練。

それをしながら美由希は学園内を歩く。

その間、擬似モンスターと遭遇するが、そのすべてをいとも簡単に撃退する。

そしてそうこうするうちにいつの間にか知らない場所に美由希はいた。

 

『あ、あれ? ここどこ?』

 

『わかっていて進んでたのではないのですか?』

 

『えっと……全然』

 

『……申し訳ありません。私が早く言うべきでした』

 

『ううん、スレイのせいじゃないよ。 というよりも私っていつもこうやって道に迷うんだよね』

 

『そうなのですか……あの子と気が合いそうですね』

 

『あの子?』

 

『ああ、あの子というのは』

 

スレイが言い終わる前にその声は聞こえた。

声と同時に感じた気配は六つ。

 

「あれ? 美由希じゃないか」

 

「え、ライルさん? モニカさんとリサさんも……」

 

その気配と声の主はライルたちだった。

 

「もしかして美由希も探検を?」

 

「えっと……みたいなものです」

 

「そっか〜。 あ、美由希が知らない人がいるからここで紹介しとこうか。 え〜と、右からフィリス、瑞穂、ジャスティンだよ」

 

「初めまして、フィリスと言います」

 

「ライルがもう言ったけど僕はジャスティン。 よろしくね」

 

「綾小路瑞穂と申します。 もしかしてあなたはライルさんが言っていた方ですか?」

 

「あ、はい。 高町美由希といいます。 それでこっちは……」

 

紹介しようとすると剣は光の粒子に変わり人の形を成していく。

 

「初めまして、フィリス様、瑞穂様、ジャスティン様。 主様の僕でシャインスレイと申します。 スレイとお呼びください」

 

「「「……」」」

 

さすがに目の前で剣が人に変われば誰でも驚くだろう。

この三人も例外ではなかったようだ。

他の三人、ライル、モニカ、リサ(は若干驚いてはいる)はほとんど驚いてはいない。

 

「ライルの言ってたこと、本当だったんだね」

 

「なんだよ、ジャスティン…信じてなかったのか」

 

「そういうわけじゃないけど……半信半疑ではあったかな」

 

名乗った後、スレイはじっとジャスティンを見ている。

それに気づいたジャスティンは首を傾げながらなにかと尋ねる。

 

「ジャスティン様、もしかして」

 

そしてまたも声は遮られる。

凄まじいほどの轟音によって。

 

「な、なんだ?!」

 

「あっちのほうからです!」

 

ライルたちは音の元へと駆け出していく。

美由希も気になったのかライルたちの後を追い、スレイもそれに続いていった。

 

 


あとがき

 

 

【咲】 前後編に分けてるのね。

まあね。 全部書くと長くなるし。

【咲】 で、美由希はこのままライルたちと行動を共にすることになるのかしら?

さあね。 そこはまだ秘密。

【咲】 最近そればっかりね。

だって明かしたら話を書く意味ないじゃん。

【咲】 ま、そうだけどね。

さてはて、前回言っていた魔剣説明ですが。

【咲】 ですが?

ここで書くのはなんとなくキリが悪い感じがするので後編のあとがきへ持ち越し!!

【咲】 またか!!

ぶへらっ!!

【咲】 いい加減書きなさいよ。

だ、だから次回書くと……。

【咲】 持ち越すな!!

はぶあっ!!

【咲】 はぁ、ま、あんた殴っても意味ないわね。

だ、だったら、殴る……なよ……がく。

【咲】 じゃ、また次回ね〜♪




微妙に恭也と美由希が擦れ違い。
美姫 「ちょっと面白いわよね」
うんうん。果たして、このままお互いに出会う事無く何処まで進んでいくのか。
美姫 「美由希が何処まで強くなるのかも楽しみよね」
確かに。恭也が学園で何をしているのかもまだ分かってないし。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
ではでは。



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