なのはたちが四年生となり、はやてが聖小へ転入した日からおよそ一ヶ月が経った今日。

仮配属期間を終えた彼女たちは管理局へ正式入局する事となり、制服の支給等があるからと本局へ呼ばれた。

久しぶりに赴いた時空管理局の本局は闇の書事件のときやジェド・アグアイアスが起こした事件のときのような慌ただしさは無い。

かといって誰もいないというわけではないが、それでも以前のような緊迫した空気は無く、妙な緊張もする事は無かった。

そんな中でなぜか一緒に来てくれと言われた恭也とリースの二人を除いた全員は少し離れた別室へ案内され、そこで支給された制服に袖を通す事になった。

 

「やっと正式入局、かぁ……何だか、そう考えるとちょっと緊張するね」

 

「私は嘱託として半分管理局に属していたようなものだけど、なのはは本当の意味で初めてなんだもんね。かくいう私自身も、少しだけ緊張してたりするんだけど」

 

「というより、こないなときに緊張せえへん子いうたらシェリスちゃんぐらいしか思い浮かばへんのやけどな」

 

「「あ、あははは……」」

 

彼女たち三人以外でも、守護騎士の面々でさえ大なり小なり緊張はしている。だが、その中で唯一シェリスだけは緊張のきの字も無い。

制服の着方が分からず、ボタンを掛けたまま被ってつっかえ、前が見えない状態のまま慌てた猫のように現在、周りを駆け回っている彼女。

乾いた笑いを浮かべながらそんな光景を目にし、揃って小さく溜息をついた後、フェイトは着替えを中断してシェリスの着替えを手伝いにいった。

そしてその反対側にいる守護騎士たちのほうでもまた、着替えの仕方が分からぬ子が一名ほど存在していた。

 

「ママ……これ、どうやって着るの?」

 

「ん? ああ、これは一度ボタンを外して――って、アスコナ? 服を脱ぎなさいとは言ったが、下着まで脱がなくてもいいんだぞ?」

 

「みゅ、そうなの?」

 

「つうか、普通に考えて下着まで脱ぐなんて思わないだろ。上はともかく、下なんか下手したら見えるぞ」

 

「? 見えたら駄目なの?」

 

「……このくらいの子には、羞恥心というものがないのだろうか?」

 

「そんな事はないと思うけど……」

 

着替えの仕方もそうだが、別の意味でも問題があるアスコナ。ただ、この点に関してはシェリスにも似たような事が言える。

なぜなら彼女、家では風呂上りによく服を着ないままに脱衣所を飛び出し、裸を隠す事も無く駆け回ったり飲み物を飲んだりするのだ。

現状でクロノが家にいない事がほとんどなのがせめてもの救い。いたら正直彼の事だ……顔を合わせられなくなってしまいかねない。

そんな事がないように現在、フェイトとアルフが懸命に駄目だと言い聞かせているが、その場では頷いても必ず仕出かすから困ったもの。

少し前の好き嫌い克服のときも含め、前途多難である。ともあれそんな似た所があるから、そういう意味も込めてこの二人は気が合うのだろう。

だがそんなだから正直、この二人に管理局員という職が務まるのかと考えてしまわざるを得なく、一同は自然と小さな溜息を零すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはB.N

 

【第三章】第十六話 過去より来るは記憶の魔導師 前編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シェリスとアスコナの性格等をいろいろな意味で再確認しつつ、着替え終わった一同は元の部屋へと向かう。

その道中で皆が思う事は様々だったが、二人ほど同じ事を思っている者がいる。それは誰かと言えば、なのはとフェイトの二人に他ならない。

二人の着る服はどちらも管理局の制服だが、どこの部署に入るかという点で着ている服の見た目が全く異なっている。

加えて皆もそうだが、二人にしても管理局の制服を着るのも着ている姿を見られるのも初めて。それ故、部屋で待つ人たちの反応が楽しみなのだ。

今まで世話になった人たちや大切な家族たちに自分の成長姿を見て欲しい。二人の気持ちは要するにそういった部分からきている。

それ故に部屋へ近づくにつれ、ドキドキすると共にワクワクしながらゆっくりと歩み、目的の部屋の前に立つと一度深呼吸をした後、扉を開けて中へと入った。

 

 

 

――その直後、今まで考えていた事を全て吹き飛ばすほどの光景が眼先に広がった。

 

 

 

最初にいた部屋となるそこは応接室と似たような構造になっており、入口側に背を向ける形と向かい合う形でソファーが各二つずつ。

その構造自体は何一つ変わってはいないが、変わっていたのは向かい合う形で置かれているソファーに腰掛ける人が一人増えている事。

しかもその増えた人というのが、前に別れを告げた人。犯罪を犯したからと管理局に拘束され、会う事も出来なくなったはずの人。

 

「「あ、アイラ(さん)……?」」

 

「……久しぶりだね、なのは、フェイト。それに後ろのアンタらも」

 

皆に驚きを招いた人物――アイラは二人へ小さな笑みを浮かべながら、軽く片手を上げて久しぶりだと言う。

見た目も、こういった軽いノリも正しく彼女だという証拠。そのためか本当に久しぶりの再会を喜び、なのはとフェイトの二人などは即座に駆け寄ろうとした。

 

「にゃーーー♪」

 

「――どわっ!?」

 

だがその二人の行動より早く、後ろから先頭の者たちを押し退け、驚異の跳躍力を見せてソファーを飛び越え、シェリスが彼女へと飛び付いた。

いきなり飛び付かれてかなり驚いた風な様子をアイラは見せるも、避ける事はせずにそのまま抱き止め、擦り寄るシェリスの頭を撫でる。

完全に駆け寄るタイミングを外した二人も、僅かに呆気に取られた他の面々も、空気を読んでこの場はしばし黙り、その光景を見守った。

この場にいる他の誰よりも、アイラとの別れを悲しんでいたのは一番長く傍にいた彼女の家族とも言えるリースとシェリスの二人。

特にシェリスはアイラに怒られてばかりではあったが、懐いてはいた。家族として一緒にいたから、その懐きようはリースとジェドの次ぐらいだっただろう。

そんな懐いていた家族の内、リースだけを残して二人ともいなくなった。ジェドの事は忘れているからまだいいがアイラの事は覚えている分、やはり悲しみは強い。

だから再会できた事は彼女にとって家族が戻ってきたというのと同等。それが分かる故、皆も口を挟むなど無粋な事はせず、ただ静かに見守り続けた。

 

 

 

それからしばらくしてようやくの落ち着きを見せた後、アイラの罪が保護観察処分程度で済まされた事が皆へ話された。

裁判で減刑が為されたとしても、無罪にはならないだろうと誰もが思っていた。そしてそれは確かに思っていた通りにはなった。

だけど刑があまりにも軽すぎるという点に於いてはかなり予想外。身内からすれば喜ばしい事ではあるが、不信感は否めない。

だが、不信感を持って考えたところで管理局の思惑など分かるわけも無い。それ故、この話はこれで打ち切られる事となった。

 

「それにしても……似合ってはいるんだけど今までを見てる分、なんか違和感あるよな。なのはとフェイトは特にさ……」

 

「年齢の面があるからそう思えるんじゃないか? クロノでもそうだが、なのはやフェイトぐらいの歳で職に就くなどほとんど無いだろうしな」

 

「あら、そんな事もないわよ? 他のはどうか知らないけど、少なくとも時空管理局ではお二人ぐらいの年頃で管理局入りするっていう例は他にもあるもの。ただそれでも、万年人手不足には変わりないんだけど……」

 

「まあ、ここにいる面子はおろか、武装局員レベルの人間さえも中々いないって言うしな。そう考えるとほんと、高ランクの奴がこれだけ管理局入りしたってのはほぼ奇跡だよな」

 

「ほんとにその通りよね〜。あとは恭也さんとリースちゃんさえ管理局入りしてくれれば、私としては万々歳なんだけど……」

 

本人に聞こえるように呟きながら横目で見れば、恭也は困ったように頬を掻きながら苦笑する。

実際のところ、恭也としては管理局へ入局するというのも吝かではない。むしろ、なのはの事を考えると自身も入局したほうがいいようにも思える。

しかし、まだ小学生であるとはいえ心配だからと同じ道を進むのは過保護以外の何物でもないという考え方も彼にはある。

常日頃から家族に甘すぎるのどうのと言われ続け、最近では自分自身でも少しばかりそれを認識し始めた結果の考え方。

それになのはの事を除いたとしても、魔法が使えるからと言って管理局に入らなければならないという決まりなど存在はしない。

ただ問題があるとすれば、やはりリースに関してだろう。彼女が普通の人なら問題ないが、今の彼女はユニゾンデバイス。

デバイスの中でも希少種に部類し、尚且つ適性を持つ者が少ないデバイス。当然、デバイスはもちろん、使い手も重要視される。

だが、その使い手かデバイスか、どちらか一方でも拒否した場合、いろいろと問題が発生する。所有権とか、管理関係の関しての事で。

そうなると最悪の場合とて考えるわけであるため、入局するともしないともまだ判断する事が出来ないというのが彼の現状であった。

そこの辺を分かっているのかいないのかリンディは彼に対してそれ以上何かを言ってくる事はなかったが、代わりとばかりにリースへ向けて口を開いた。

 

「リースちゃんのほうはどう? 管理局、入ってみようかなって思ったりしない?」

 

「私? ん〜……思ったりしないわけじゃないけど、正直微妙なところかなぁ。シェリスが心配っていうのもあるけど、そろそろ姉離れさせないと駄目っていう気持ちもあるし」

 

「……アレがそう簡単にリース離れするとは思えねえけどな」

 

アイラがそう突っ込めばリースも反論の術が無い。それほど、シェリスを甘やかしていると彼女自身、自覚しているのだから。

今は初めて着た服に興味が向いているせいか眺めたり引っ張ったりしている分、いつものようにベッタリしてくる事は無い。

だが、興味が失せると確実にリースの引っ付いてくる。引っ付く対象がフェイトではないという点は、要するに彼女の中で未だリース>フェイトの図式だからだ。

ユニゾンデバイスと主は適正も重要だが、強い絆がある事も同じくらい重要。だから、いつまでもそんな図式が成り立つようでは論外。

それ故、フェイトとシェリスの絆を深める過程で姉離れさせる事を重要視するとすれば、同じ職場となる管理局へ入るのは躊躇われる。

とはいえ今まで甘やかしてきた分、反してことシェリスに関しては非常に心配症。加えて管理局に入局しなくとも、どの道デバイスである彼女は管理局の管理下に入る必要がある。

ただ管理局の入局せずに管理下へ入った場合、最悪のケースとして皆と離れ離れになる可能性がある故、正直こちらの選択も選びたくはない。

しかしまあ、どちらにしても彼女の結論としては恭也の判断に任せるというものであるため、結局は全責任を彼が負うという形に変わりは無かった。

そして彼自身もまだ迷っているという事から、後少しだけ結論を待つという形で譲歩する事になり、前向きに検討してくださいと念押しを忘れずリンディはこの話を切り上げた。

 

「そういえば……さっきは伝え忘れてた事なんだけど、この間預かったレイジングハートとバルディッシュの外装補強作業が終わったから、後でメンテナンスルームに取りに来てって言ってたよ?」

 

「あ、うん。でも、ずいぶんと早いんだね……無理にカートリッジシステムを搭載したようなものだから、正直もう少し掛かるかなって思ってたんだけど」

 

「元々準備そのものはカートリッジシステムを積んだ日から行われてたからね〜。いろいろあって実際の作業には取り掛かれなかっただけで」

 

以前も挙げた通り、ベルカ式アームドデバイスならばともかく、インテリジェントデバイスには本来、カートリッジシステムは搭載しない。

理由はアームドに比べ、インテリジェントのほうは外装が若干脆いから。それ故、搭載するならば外装を補強する必要がどうしてもあった。

無論、ただ搭載して使うだけならば問題はないのだが、搭載するに当たって追加したモードがあまりにも強力であった事から補強の必要性が高まった。

だが闇の書、続けてジェド・アグエイアスの一件と立て続けに事件が起こり、作業そのものが先延ばしになったため、今回ようやくそれが行われたというわけである。

これによってレイジングハートはエクセリオンモード、バルディッシュはザンバーモードを使用するに当たって破損の心配はほぼ無くなった。

 

「しかし、強化をしたとなると今の状態での試運転が必要となるのではないか? いきなり実戦で使って不備があったら問題になるのだしな」

 

「そういう事になりますね。ですから、ちょうどデバイスを強化したのはお二人だけですから、双方で適当に模擬戦か何かでもしてもらって――――」

 

「んなケチな事言わねえで、団体戦にでもしたらいいじゃんか。折角これだけの面子が揃ってんだからさ」

 

「――はい?」

 

横からいきなり口を挟んできたアイラの言葉にエイミィは唖然と聞き返し、他の面々に関してもポカンとした顔を浮かべる。

だが、皆がそんな感じになってしまうのも無理はないだろう。一対一の簡易な模擬戦で済む所を、団体戦にしようなどと言ってきたのだから。

そんな皆の様子を見て自身の説明不足に気がついたアイラは自分がなぜそんな事を言ったのかという理由について簡単に話した。

それ曰く、今まで事件の対処やらで彼女たちは戦う事自体は決して少なくはなかった。だが、そのほとんどが個人での戦闘ばかり。

複数で協力して戦った時と言えば、闇の書の防衛プログラムとの戦闘時のみ。正直、複数での協力戦闘に関してあまりにも経験が無さ過ぎる。

無論、管理局ではその手の訓練も行われるだろうが、各自予定というものがあるのだから、これだけの使い手が揃う事などまずあり得ないと言っていいだろう。

となれば例え今回の一回きりになってしまったとしても、この面子で団体戦闘する事自体は決して今後の無駄にはならない。

だからこそアイラは折角なんだからとこれを提案したというわけであり、説明を聞いた皆も一応納得出来る事だったのか各々頷いて返した。

 

「そうなるとまずはチーム分けを決めないといけないけど……この顔触れだから、ベルカ式とミッド式って感じになるかしら?」

 

「……ミッド式のほうが明らかに少ないと思いますよ、艦長?」

 

「そこはほら、クロノとユーノくんを連れてきて組ませればピッタリの数になるわ。後は恭也さんとリースちゃん、それとアイラちゃんがどうするかだけど……」

 

「アタシらは抜きでいいよ。この面子の中に非管理局員のアタシらが混じって模擬戦するっていうのも何か変だしさ」

 

それでいいよなと二人へ視線を向ければ、二人とも異存無しというように頷く事で返した。

これに対して言い出しっぺが拒否なんてズルイと非難する者(主にヴィータ)がいたが、結局その非難の言葉を通らず。

反対に恭也と一緒に戦えるという事を期待していた者も中には何名かいたが、それも抜きでやると決まった時点で落胆したような顔に変わった。

とまあそんなこんなでデバイスの試運転を兼ねた団体での模擬戦をする事が決まり、一同は揃って舞台となる訓練室へと移動していった。

 

 

 

 

 

通信で呼び出したクロノとユーノは勤務中なんだけど……と若干渋りながらも、律儀にも訓練室へ来てくれた。

本人らに直接聞いたわけではないが、たぶん二人も日頃の職務に関するストレス等を発散したいという思いがあるのかもしれない。

そんなわけで二人をミッド式側の面子に加え、ミッド式のリーダーをクロノ、ベルカ式のリーダーをはやてとした二つのチームが完成した。

模擬戦のルールは魔法の設定を非殺傷、武器持ちの者は相手のバリアジャケットを抜いてしまわぬよう威力設定を行うという二点のみ。

そしてルールをモニタルームのほうにいるエイミィより伝えられた後、一応作戦タイムを取ってミッド式、ベルカ式の両チームは作戦を練る。

 

「あちらはこちらのチームに比べてクロスレンジでは秀でているが、ミドルレンジに関してはこちらが有利だ。だから、戦闘の主体はミドルレンジでの攻撃をメイン、クロスレンジは引き付けるだけに留める事。それとあちらで一番の高火力を誇るはやては誰を於いても最優先で撃破、もしくは捕縛するように」

 

「じゃあ、陣形は私とシェリスとアルフが前衛でクロノがその援護、なのはが後衛でユーノがその防衛って感じでいいの?」

 

「ああ。ただ、最優先ではやてを仕留めるようにとは言ったけど、無理は絶対に禁物だ。下手に攻め込むと陣形が崩れて一気に不利になる可能性があるからね」

 

ベルカ式側の決め手とも言えるはやての広域魔法はかなり強力。だが、その分だけ詠唱は長い物が多いというのがネックとなる。

そこを突いて最優先にはやて(+リィンフォースとアスコナ)を撃破。続けて総攻撃を掛け、一気に畳み掛ける……簡単に言えば、そんな作戦。

だけどこれは誰かが欠いた時点でかなり困難になる作戦故、一番気を付けるべきは深追いせず、無理に攻め込んだりしない事。

それを注意しつつミドルレンジでの攻撃を主体として戦い、勝利する。それが、即席で組まれたミッド式チームの作戦であった。

 

「あっちで一番警戒するんはフェイトちゃんとシェリスちゃん、その次になのはちゃんや。なのはちゃんは後ろで砲撃のチャージをするはずやからたぶん前には出ててこうへんやろうけど、フェイトちゃんとシェリスちゃんに関してはほぼ確実に前衛へ回ってくるはずやから、こちらの前衛のヴィータとザフィーラは協力して応戦、あわよくば撃破してや」

 

「「任しとけって!(了解です、主)」」

 

「ん、頼んだで。そんでシャマルはウチの後ろでサポートに徹して、シグナムはなのはちゃんの砲撃チャージを妨害しつつウチとシャマルの防衛って感じやね」

 

「勝負の決め手は主の広域魔法。その詠唱のために私が守りに徹する……つまりはそういう事ですね?」

 

「そういう事やね。あ、あとたぶんクロノくんがバインドを使おうとするはずやから、そっちも出来るだけ警戒しててや」

 

こちら側はミッド側の面々が考えていた通り、はやての広域魔法を決め手とする作戦。それ以外は基本、防衛に徹する戦い方。

ただ全く攻めないわけではなく、フェイトとシェリスのペアだけは最優先撃破対象。それほど、この二人をこちらは危険視している。

その次に危険なのが高火力の砲撃を多数持つなのはだが、こちらはチャージを妨害出来れば撃破までする必要は無い。

残りの面々に関しては警戒しつつ適度に応戦、深追いは無し。あくまではやての広域魔法を決め手とした一斉殲滅型の作戦である。

そして各チームの作戦タイムがその後もしばし続いた後、どちらも準備完了をリーダーが告げると共に各自決められた配置へと付いた。

 

 

 

 

 

ところ変わってモニタルームのほうでは指示を下すエイミィの他に模擬戦の一部始終を見学しようとしてる者がいる。

それは模擬戦を行うと決めたあの場にいた恭也、リース、アイラ、リンディの四名。それと前三人も会った事が無い女性が一人だ。

その女性の名はレティ・ロウラン。時空管理局提督にしてリンディの同僚にして友達という間柄の眼鏡を掛けた人だ。

まだ闇の書事件、及びジェド・アグエイアスの一件にて人員派遣やらをリンディから取り次いで申請していたのはこの人である。

そういうわけで会った事自体は極めて少ないが、全く彼女らと無関係というわけでもなく、何となしにリンディが呼び掛けてみれば来たとの事。

彼女自身、彼女たちが戦っているところを実際に見たわけではない故、その分だけ興味を惹かれたがために呼び掛けに応じたのだろう。

ともあれそんなわけで作戦タイムに移行した直後にモニタルームへやってきた彼女はまず、面識のない三人組に挨拶と簡単な自己紹介。

それに三人が応じるように各自挨拶と自己紹介を返すが、それを聞いた途端、彼女はリースの前に立って目線を合わせるようにしゃがみ、マジマジと見詰める。

 

「な、なに……?」

 

印象的にちょっとだけキツそうな感じに見えるのか、ジッと見詰められて珍しく気圧されながら尋ねる。

だけど彼女はそれが聞こえているのかいないのか全く返事を返さずに見詰め続け、なぜか納得したように頷くと立ち上がった。

 

「リンディから話だけは聞いていたけど、本当にエティーナ・オーティスとソックリなのね」

 

「でしょ? でも、エティーナと似てるって言ったら、たぶんシェリスちゃんのほうがソックリに見えると思うわ。容姿だけじゃなく、性格も立ち振る舞いも昔の彼女そのままなんだから」

 

「そう……私は彼女と会ったことはないけど、一番親交があった貴方が言うならそうなんでしょうね」

 

会話内容だけを聞くなら、リースを通じてエティーナの面影を見たという事。だが、それは正直可笑しな話とも言える。

リースにしてもシェリスにしても、通じて彼女の見るなら彼女を知ってなければならない。でも、アイラの知る限りレティはエティーナの友達ではない。

その証拠にジェドの研究所があった場所に訪れていたのはリンディとクライド、グレアムとリーぜ姉妹の五名だけで彼女は来た事が無い。

加えて生前、エティーナの口からレティという名前を聞いた事も無い。それはつまり、エティーナの交友関係に彼女は含まれていないという事。

本人も面識が無いと明言している辺り、それは真実。となればおそらく、エティーナの事は管理局の個人情報リストか、リンディ伝かで知ったのだろう。

目の前の光景と会話でそう結論付けたアイラが一人納得したように頷く中、レティの視線に耐えられなくなったのか、リースは恭也の後ろに隠れる。

シェリスのように簡単に懐いたりしないが、人見知りでもない彼女の性格等を知っている者たちからすれば珍しい光景。

そして会ったばかりのレティもまたそこを見抜いていたのか、あっさりと視線を外して小さく息をついた。

 

「なるほどね……リンディがそこの彼を優秀な魔導師という理由以外で欲しがる訳が、何となく分かった気がするわ」

 

眼鏡をクイッと上げながら呟く彼女の言葉にリンディは笑みで返す。だが、当の本人らはその言葉の意味が分からぬ様子。

それにリンディは何でもないわと笑みのままで返すが、恭也やリースよりも長い付き合いであるせいか、アイラにも何となく言葉の示す意味が分かった。

何度も挙げた通り、ユニゾンデバイスと主の間で適正以外で必要となるのは信頼関係。一言で言ってしまえば、絆の深さが強さへ変わる。

だけど検査で分かる適正はともかく、絆に関してだけは他者の手ではどうしようもない。それこそ、本人らが努力しなければ生まれないものだ。

そのせいもあって過去に存在していたユニゾンデバイスは事故を起こす事例が極めて多く、管理局の間でも扱いがかなり難しく、危険だとされていた。

でも、今の光景を見る限り恭也とリースならば、その危険性はないのではないかと思える。それほど、リースは恭也に懐いているように見えるのだ。

 

(まあ、確かにリースは他人にあまり靡かない奴だからなぁ……シェリスの姉だっていうのが、そうなった一番の原因なんだろうけど)

 

無垢で自由奔放、人見知りの欠片も無く誰にでもすぐ懐く。そんな妹がいたから、一番しっかりしなくてはならない状況だった。

シェリスが全くしない分、人一倍他人に対して警戒心を持ち、邪な感情を持って近づいてくる者から彼女を守る。

エティーナの忘れ形見とも言える二人へそんな風な感情を持って近づく者はあの場所には全くいないだろうとアイラは断言できる。

しかし、アイラの信用していようがリースには関係無く、ジェドとアイラ、シェリスの家族と呼べる三人以外には全く靡く事が無かった。

あくまで大人ぶった対応を見せ、警戒の念は常に解かない。そこを考えると、昔のリースはある意味で人見知りだったようにも思える。

 

 

 

――そんな彼女が初めて深く懐いた人が彼――高町恭也であった。

 

 

 

優しい部分は多々見られるが、基本的には静かで無愛想。普通の子供から見たら、怖がってしまいそうな感じの人。

そんな人なのに彼女がここまで懐いたのは切っ掛けはおそらく彼に事情を話したとき、拒否する事無く手を差し伸べてくれた事だろう。

普通の人なら拒否しても当然、それどころか信用すら出来ないような話。なのに彼はちゃんと信じ、大して思案もせず協力を約束してくれた。

それを切っ掛けとして共にいる事がほとんどだったためか、段々と彼の内側に隠れた優しさを知り、押し殺していた子供の心を知らぬ内に曝け出していた。

守るべき妹が近くにいない事が余計にそうさせた。それほどリースにとってシェリスは最愛であると同時に、重荷だったのだという事だろう。

だが、一度心を曝け出してからはもう隠す事は無い故、シェリスと再会した今でも他の誰にも出さない表情を彼にだけはすんなり出している。

 

(アタシにも、ジェドでさえも出来なかった事なのにね……ほんと、いろんな意味で大した奴だよ、恭也は)

 

そう内心で呟きながら彼へと視線を送り、その視線が不意に交わったかと思えば、彼はなんだ?と尋ねるような目をする。

自分がどれだけの事をしたのかも知らず、故にレティの言葉の意味にも気付かず。でも、だからこそ彼なのだと言えるのだろう。

だからアイラは彼の無言の問いに対して同じく無言のまま何でもないというように首を振り、今まさに始まろうとしている模擬戦の映像へと視線を戻すのだった。

 

 


あとがき

 

 

【咲】 リースの昔ってほんと、良くも悪くもシェリスとは正反対よね。

まあね。というか、シェリスがあんなだから、姉としての立場上、しっかりしないとって意識が強かったからなんだが。

【咲】 それでもまだ年齢的に幼い頃からそれって事は、元々そういう性格をしてるって事なんじゃない?

それはまあ、そうかもしれんね。ただ、もちろんだからそんな彼女にも子供としての心は存在する。

【咲】 んで、今までシェリスがいたから押し殺していたそれが、恭也と出会ってから表に出るようになったって事ね。

うむ。そこを考えるとまあ、つまりはリースにとって恭也は唯一甘えられる、兄に近い存在なのだという事だな。

【咲】 本人は姉と妹しかいないから兄って言われても実感ないでしょうけどね。

だろうねぇ。ともあれ、そんなこんなで今回は漫画でもあった団体模擬戦のお話、その始まり編だ。

【咲】 組み合わせは原作と同じだけど、ミッド側にはシェリス、ベルカ側にはアスコナがいる辺り、原作とは僅かに異なりそうよね。

基本どちらもユニゾンしてるから、変に変わり過ぎる事はないだろうけどね……最後以外は。

【咲】 何よ、その最後以外って? 最後に何かあるって事?

結論を言えばその通りだ。だが、一体何があるのかまでは言えんけどね。

【咲】 いつも通りの秘密主義ねぇ……。

結果を話したら過程の面白みが無くなるだろ。だけどまあ、一応何があるのかのヒントを挙げるとするなら……。

【咲】 するなら……?

前中後の三本構成になるこの話の題、その中に含まれてる『記憶の魔導師』って部分だな。

何があるのかまでは厳密に分からんだろうけど、この単語だけで誰がという点は何となく推測出来るはずだ。

【咲】 それって当然、あのメンバーの中に含まれてる人よね?

じゃなきゃ可笑しいだろ?

【咲】 それはまあ、確かにね。でも、記憶のっていうのはどういう意味よ?

そこまでは教えられんよ。言ってしまえば確実に分かってしまうからね。

でも、ちゃんと話を見ていれば自ずと誰かという事は分かるはずだから、頑張って考えてくれ。

【咲】 はぁ……はいはい。それで次回予告〜って行きたい所だけど、次回はこの続きって事でいいのかしら?

そうだな。別段語る事も多くないから、そういう感じでいいよ。

【咲】 ふ〜ん……ま、『記憶の魔導師』が誰なのか、その人物が一体何をするのかは次回か次々回まで待つとしましょう。

そうしてくれ。んじゃ、今回はこの辺にて!!

【咲】 また次回会いましょうね♪

では〜ノシ




何故か始まってしまった団体戦。
美姫 「まあ、良いんじゃないかしら」
確かに興味深いしな。どんな結果になるのか。
美姫 「結果だけじゃなく、意味深な記憶の魔導師に関して考えるのも楽しいわよ」
確かにな。多分だけれど……。
美姫 「それで合っているのか、間違っているのか」
次回も楽しみにしてます。
美姫 「待ってますね」



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