八神家一同が海鳴に帰ってきてからおよそ一か月という時間が流れる中、はやての足もまた着実に完治への道を辿っていた。

元々彼女の足は夜天の魔道書が闇の書だったとき、魔導師として未発達な彼女の肉体と魔力に長い間負担を掛け続けたというのが主な原因。

しかし魔導師として大成する事により負担も大幅に無くす事が出来た。となれば彼女の足が完治へ向かうのは必然というものだ。

もちろんこれが魔法関係という事もあって彼女の担当医である石田医師は突然容体が良くなり始めた事に疑問を持ったりもしていた。

だけど理由はどうあれ治り始めているというのは彼女としても嬉しく、はやてが検査で病院に訪れるたびに治りつつある足を見て笑顔を見せていた。

そんな彼女から半月経ったの三月中旬の検査日にて、学校に復学してもいいとお達しが出た事ははやてもまた嬉しいお達しであった。

前は通っていたが足が悪化してからは通えなくなり、学校という場所から遠ざかった。そしてその頃から、もう二度と通えないなどとも思い始めていた。

それがひっくり返されたのだから喜ぶ以外にはない。ただ問題なのは足の事もあって友達が少なく、前まで通っていた学校に復学するには躊躇われる事。

別に嫌なわけじゃ無いが、今更うまく溶け込める自信も無い。それをいろんな人に相談したところ、なら聖小に転入すればいいんじゃないかという案が出た。

聖小なら前のと同じで場所も余り離れてはおらず、同年代の顔見知りも何人かいる。だからか、その提案を出された直後にはやては首を縦に振るった。

そうして提案を受け入れてから間も無くして転入の手続きを取り、時期が時期だけに学年が変わるまで待つ事、更に半月経った四月――――

 

 

 

――待ちに待った、転入当日となる日を迎えた。

 

 

 

まだ聖小の物は届いていない故、身に纏うのは以前の学校の制服。だからか、ちょっとだけ懐かしい感じがあった。

そして余り用意する物が無くても登校の準備するのもまた久しぶり。その一つ一つに感慨を抱きながらも、嬉しそうに用意をした。

当日の朝はいつも通りの時間に起床し、いつも通りの時間に朝食を用意。これまたいつも通りの時間に皆で朝食を取る。

だけどそれからが違い、車椅子という手前もあって誰よりも早く出る必要があり、朝食から二十分後程度に玄関へと向かった。

 

「あの……本当に送っていかなくても良いのですか、主はやて? 確かに主の足は完治へ向かっていますが、今はまだ……」

 

「そんなに心配せえへんでも、大丈夫やって。聖小のバスが来る場所まではそんなに離れてへんし、何より見送りを頼むと他の皆も行きたがるやろ?」

 

「それは、そうでしょうが……しかし……」

 

「相変わらず心配症やなぁ、リィンフォースは」

 

玄関までの見送りに来たのはリィンフォースのみ。普段なら他の者も来そうなものだが、今朝は全員ドタバタしていた。

その中心人物となるのがアスコナ。シェリスのように元気っ子というわけではないが妙なところで好奇心がある彼女。

だから見送りに彼女を連れてくると自分も学校へ行くとか言い出す可能性がある。しかもそうなるとリィンフォースも一緒に行かなくてはならなくなる。

基本的にアスコナを窘められる人物がこの家にはいないために。それ故、この僅かな時間だけは自分以外の守護騎士に面倒を見てもらっているのだ。

幸い元気っ子ではないため、全員が総出で掛かれば見送りが終わるまで、リィンフォースがいないという事実を気付かせずには出来る。

それ故、リビングから騒がしい声は聞こえるも一応は落ち着いて見送りが出来る。他の皆には感謝という念を抱く他なかった。

 

「途中でなのはちゃんたちと合流する予定やから、心配せんでも本当に大丈夫やって♪」

 

「そ、そうですか……分かりました。ですが、くれぐれもお気をつけてご登校なさってください、主」

 

過剰と言えるほどの心配を未だ見せつつも折れてそう言う彼女にはやては苦笑しつつ、小さく頷いて返した。

それから靴を履き終え、手を借りて車椅子へと腰を下ろし、行ってきますと告げて彼女は玄関を潜り、家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはB.N

 

【第三章】第十一話 波乱を呼び込む予想外の乱入者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家を出てからそこまで距離も置かずなのはとフェイトの二人と合流。そしてその場でしばし経ってやってきたアリサとすずかの二人とも。

この四人としてもはやてが同じ学校に通うようになったのは喜ばしい事。それ故、誰もがとても嬉しそうな表情をしていた。

そんなこんなで全員が合流したのを機として道を歩き出し、皆は聖小のバスが来る場所へと談笑しながら向かっていく。

 

「あはは……シェリスちゃんも、相変わらずなんだね」

 

「ていうか相変わらず過ぎるでしょ、それ。フェイトもフェイトで、甘やかしすぎ……そういう子はすぐ調子に乗るんだから、たまには強く言わないと駄目よ」

 

「それは分かってるんだけど、怒るのって慣れなくて……それにシェリスの落ち込んだ顔って、あんまり見たくないし」

 

「あ〜、それ分かるわぁ。ウチの家でもアスコナを怒れない理由の大部分はそれやからなぁ……まあ、下手に泣かれると手に負えなくなるっちゅうんもあるんやけど」

 

「手に負えないって……確かに見た限りアスコナって結構すぐ泣きそうな感じではあるけど、はやてとかリィンフォースさんとかがあやせば泣き止むんじゃないの?」

 

「ん〜、そういうときもあるんやけど、ウチはもちろんリィンフォースがあやしても泣き止まんのがほとんどや。泣き疲れて寝るまでずっと泣き続けるんやから、正直堪ったもんやないで……」

 

別段はやてもアスコナが面倒臭い子だと言う気はないが、それでも泣き出すと高確率でそうなのだから正直キツイとは思っている。

一番新しい物では一週間ほど前、ヴィータのものと知らずにアスコナが冷凍庫のアイスを食べてしまい、ヴィータに怒られて泣いた。

そこにアイスがある場合は高確率でヴィータのアイスだと言っていなかったのだから仕方ないと言えばそうだが、それで怒りが収まるほど彼女は優しくない。

だから勝手に食べたアスコナを怒った際、彼女は大声で泣き出してしまい、すぐに駆け付けた皆であやしたのだが、一切泣き止む気配を見せなかった。

さすがにそれを見てヴィータもしまったと思い、彼女自身もあやすのには参加したが、一度泣くとほとんどの場合で泣き止まないのがアスコナという子。

結局、泣き疲れて眠るまで一時間も大声で泣き続け、かなり近所迷惑になったのではないかと懸念したりしていたのは記憶に新しいところである。

 

「とまあ、そういった部分では困りもんなんやけど、せめてもの救いがシェリスちゃんと遊ぶようになってから若干人見知りが緩和されつつあるいう事やなぁ……」

 

「……そうなの?」

 

シェリスという人物について若干痛い目を見てるアリサ(すずかは痛い目と思ってない)からすれば、信憑性が感じられなくても不思議はない。

だが事実、ここ最近は来客が来ても以前のように隠れるなどする事は無くなった。進んで知らぬ他者の前に出たりはしないが、それでもまあまあな進歩だろう。

それもこれもシェリスが八神家へたびたび遊びに来るようになったお陰。彼女の強引さでアスコナは時折引っ張られて外にも出るようになった。

さほど遠くに行く事は無いが、それなりに人通りのある場所へも行くので若干荒良治に近くはあるが、人見知りの緩和へと繋がっていた。

それを掻い摘んで説明しつつアリサの問いに頷けば、彼女は納得したようなそうでないような、かなり微妙な顔を浮かべていた。

 

「シェリスの強引さがアスコナみたいな子には良い影響を与えるっていうのはまあ、分かるんだけどさ……どうしてアスコナはシェリスを拒絶しないのかしら?」

 

「それはたぶん、シェリスが無垢過ぎる子だからじゃないかな? アスコナって結構人の内面を読み取るのが得意そうだから、変な思惑も無しに近づいてくるシェリスには安心感みたいなのが出てくるんだと思うよ」

 

「そういえば、あのときの事を話したらリースちゃんも同じような事言ってたかも……シェリスちゃんは誰と接する時も深い考えなんて持たないから、ああいう子には合うんだろうねって」

 

感情に敏感な子と打算の無い子。あのときアスコナがシェリスを拒絶しなかったのも、今も仲良くあるのも、この点で相性が良いから。

誰しも打算をまるで持たずに他者へ近づく事は難しい。しないようにしようと思っていても、無意識の内に打算という物は抱いてしまう。

だけどシェリスはそれが全く無い。深く考えないから善悪の区別が出来ない……それがここでは幸いして打算が無いという事に繋がっている。

そこが彼女の凄い所であり、真似出来ない所。精神年齢が低くてかなり子供な彼女の中で唯一、尊敬の念を抱けるような部分であった。

そこまで聞くとアリサも今度は納得出来たのか、ふ〜んとだけ言ってそれ以上は何も言わず、別の話題へ変えつつ目的地まで揃って歩き続けた。

 

 

 

 

 

目的地まで行けばタイミングが良いと言うべきか、ちょうど聖小のバスが到着したところであった。

車椅子は畳めるようになっているため、畳んでバスへと積み、彼女自身も手を貸して貰って扉を潜り、バスの中へと入った。

そして空いている席へと全員が腰を降ろしたのを合図として扉が閉まり、バスが発進。再び談笑しつつ揺られるままに聖小を目指す。

それから更に十数分程度が経ち、停車したバスを降り、同じく降ろした車椅子にはやては腰を下ろして同乗していた先生に連れられていった。

おそらく職員室で多少説明をした後に自分が転入する組の教室へ向かうのだろう。それ故、四人もそこで彼女と別れ、自分たちの教室へと向かった。

昨日から四年生へ上がり、向かう教室も違う。昨日の事だから間違えそうになりつつもそこへと辿り着き、四人は昨日宛がわれた席に鞄を置いて一か所に集まる。

 

「はやて、何組に入るのかしらね……希望を言えば、こっちに来て欲しいかなとは思うんだけど」

 

「こっちのクラスに来たら、私たちで慣れない内はフォローも出来るもんね」

 

「そうそう。なのはもフェイトも、どうせならこっちのクラスに来て欲しいなって思うでしょ?」

 

アリサがそう聞くと二人とも同意するように頷く。確かに心情的には、彼女に同じクラスへ来て欲しいとは思う。

だけどまあ、こればっかりは学校側が決める事。だから彼女たちにはどうしようもないため、思う以上の事は出来なかった。

 

「あ、ところで思ったんだけどさ……はやても、なのはやフェイトと同じなのよね?」

 

「? 同じって――――ああ、うん、そういう事になるね。それがどうかしたの、アリサちゃん?」

 

「いや、はやてがそうならはやての家の他の人たちもそうなのかなって思ってね……で、実際のところどうなの?」

 

「えっと、確かにあそこはほとんど皆がそうなんだけど……アスコナに関してだけはちょっと私たちにも分からないかな」

 

「そうだね……全く関係してないわけじゃないんだけど」

 

夜天の書を修繕する際に生まれた存在というのがアスコナ。扱い的にはリィンフォースと同じ、夜天の書の管制人格の一部という事になっている。

ただ、リィンフォースがそうであるようにアスコナもユニゾンデバイスだと断言は出来るが、魔導師としてはどうかと聞かれれば口を濁してしまう。

ユニゾンデバイスはそもそもユニゾンせずとも単独で魔法行使が可能。ユニゾン時よりも魔法のランクは落ちるが、その個体で一人の魔導師とも言える。

だからアスコナも多少なりと魔法は使えるだろうが、実際に見た事は無いので何とも言えない。それが現状で言える限界であった。

故にかそれ以上はアリサも追及はせず、別の話題へ転化しようと口を開こうとした矢先、教室の扉が開かれ、担任の教師が入ってくる。

それを見て全員が席へと戻り、着席したのを合図として担任は出席を取る。そしてそれが終わると――――

 

 

 

「今朝の連絡の前に、まずは皆に転校生を紹介したいと思います……」

 

――なのはたちにとって嬉しい言葉を、何か妙に疲れたような声色で告げた。

 

 

 

続けて入ってきてくださいと担任が口にすると扉が再度開かれ、僅かに廊下から車椅子が進む音が聞こえてくる。

そして最初に車椅子の先端が見え始め、途端になのはたちの表情に自然と笑みが浮かぶのだが、その笑みはすぐに驚きへと変わる。

完全に車椅子が教室内に入った瞬間、車椅子の上で座るはやての膝の上にはアスコナ(睡眠中)、車椅子を押しつつ入ってくるのはリィンフォース。

更にはなぜか、リィンフォースの背中に乗っかって肩に顎を乗せ、マッタリしているシェリスの姿まである始末。これは驚きを通り越してもう意味が分からない。

というかなのはたちだけに限らず、他の生徒たちにも理解不能。そんな異質な空気の最中で車椅子が中央で止まると担任は自己紹介を促した。

 

「え〜……では、自己紹介の方、お願いできますか?」

 

「は〜い♪ シェリス・A・ハラオウン、十三歳なの♪」

 

「いや、貴方じゃなくて……」

 

何となく、担任が疲れている理由が分かる。おそらく職員室でもシェリスのテンションに若干翻弄されてたのだろう。

しかも自己紹介にまで出しゃばる始末だから疲れもまた増える。だが、それもはやてが止める事によって何とか静まった。

そして改めてはやてが皆に自己紹介をした後、溜息をつきながらはやてが座る席を告げ、彼女がその前に移動したのを見て今朝の連絡事項を伝える。

それを終えるとやはり疲れたように教室を出ていき、その途端になのはたちははやての所へと駆け寄り、事情説明を求めた。

するとはやて自身も若干疲れたように小さく溜息をつき、寝ているアスコナの頭を撫でつつ事情を静かに語り出した。

 

「うっかり弁当を忘れてしもうたんやけど、それをリィンフォースは持って来てくれたんよ。ただ家を出る際、アスコナに見つかってしもうたらしくてなぁ……しかも運悪く、そのときはシェリスちゃんが遊びに来てたみたいで……」

 

「……そういえば、確かに今日ははやての家に遊びに行くんだって早起きしてたね」

 

「はぁ……でまあ、留守番しててって言ったら泣きそうな顔するもんやから、連れて来てしもうたとの事や」

 

「私も弁当を渡したら二人を連れて帰るつもりだったのだが、なぜかアスコナが帰りたがらなくてな……シェリスもシェリスでテスタロッサに会いに行くと騒ぐものだから」

 

当の本人の一人であるアスコナは帰りたがらなかったくせに睡眠中、もう一人のシェリスは妙に静かだなと思えば、黒板で絵を描いていた。

その二人を見つつ事情を聞いた四人は揃って溜息をつきつつ、どうにかしてアスコナとシェリスを帰らせなければと考える。

しかし現在眠っているアスコナはともかく、シェリスが頷くとは思えない。見たところ、現状では教室そのものに興味津々な様子なのだから。

となればある程度時間が経って飽きた頃合いに連れて帰ってもらえばとも考えつくが、その前にアスコナが起きたらそれはそれで厄介。

要するに強引な方法以外では帰らせる方法が無い。だけど強引な方法を使えば、シェリスはかなり暴れるだろうと予想できる。

そんなわけで結局、帰らせる方法は見つからず。今度は元凶の二人を除く六人全員が揃って溜息をつく羽目となった。

 

 

 

転校生が来た際にありがちな生徒の質問攻めも無く、異常な光景のまま授業時間を迎える事になった。

授業はそのクラスの担任がほとんど請け負う上、職員室で今日のところの許可はすでに取ってるのもある。

だから担任は授業に来ても驚くという事はもう無かった。たとえフェイトの横に若干一名、ダンボールを机としてる者がいたとしても。

そもそも寝ているアスコナはともかく、リィンフォースが椅子に座っているのになぜその人物――シェリスだけがダンボールなのか。

これは別段嫌がらせでも何でもなく、ただ単に教室の後ろの隅にあったちょうどあったダンボールを持ってきて机代わりにしてしまったから。

一応椅子を持って来てここに座るよう言ったのだが、何をそんなに気に入ったのか応じる事は無く、結局そのまま授業を行った。

そして進む授業の中でもやはりというか、シェリスが大人しくしてるわけもなく、当然ながら迷惑行動を起こしていた。

 

「え〜、ではこの問題が分かる人〜……」

 

「は〜い!!」

 

「……他に分かる人は――」

 

「は〜いは〜いは〜〜〜〜い!!」

 

「はぁ……では、シェリスさん。前に出てこの問題の答えを書いてください」

 

誰も手を上げない中でただ一人元気良く挙手をするシェリス。あまりに喧しいのでしょうがなく担任も指定する。

それを聞いて彼女は立ち上がり、トコトコと黒板まで行って問題の前に立ち、白いチョークを手に取る。

黒板に書かれる問題は55÷8という何の事は無い単純な割り算。余りは出るが、差して難しい問題でも無い……はずだったのだが。

 

「にゃ、出来たの♪ これが答えなの♪」

 

「……残念ながら違います。そもそもこれは足し算じゃなくて割り算ですから、間違っても数が増えたりはしませんよ?」

 

書いた答えは63という明らかに足したのであろう答え。しかもそれを自信満々に答えだと宣言する始末。

これを担任は否定しつつ割り算だと告げれば、割り算とは何かと聞き返される。根本的な部分で知識が欠如していた。

故に担任ももう諦め、席に戻っていいと言えば拘る事も無くすぐさま席へと戻る。そして再び指名する気力もないのか、自身で答えを記載した。

その一連の流れをクラスの皆はクスクスと笑い、フェイトに至っては身内ながらかなり恥ずかしそうに顔を赤くして俯いていた。

それが今日の予定である算数、国語、社会、理科の全てで行われ、終始恥ずかしそうにしていたフェイトは若干哀れという他なかった。

 

 

 

そんなこんなで午前中の授業が全て終わり、疲れ果てた担任が教室を出ていったのを境として机を二つ寄せた一か所に集まり、弁当を広げた。

午前中の授業の間、ずっと寝ていたアスコナも四時間目が終わるとようやく目を覚まし、若干怯える彼女も交え、皆は昼食を取り始める。

 

「……何気にアスコナとシェリスの弁当も持ってきてる辺り、こうなる事を予測してたんですね、リィンフォースさん」

 

「まあ、な。アスコナはもちろんだが、たびたび遊びに来るシェリスと接している分、その奇行にはいい加減慣れてしまったよ……」

 

「そ、そんなに迷惑掛けてるの、シェリスって?」

 

「いや、迷惑というほどではないのだが……やたら部屋は散らかす、外に出るときは一言も言わない。挙句には稀に泥だらけで家に上がる事もあるものでな……」

 

人それを迷惑というのだが、哀愁を感じさせるほど疲れたような様子を見せるも、声色からして本当に迷惑とは思ってない様子。

彼女自身もアスコナやシェリスの世話を焼くのが有意義になりつつある。彼女のそれはそんな事実を窺わせるような様子であった。

対して話題の中心である二人はそちらの話は一切聞いておらず、揃って昼食である弁当を食べ続けていた。

 

「にゃ、そのハンバーグ、美味しそう……ちょうだい♪」

 

「こ、これは駄目……はやてちゃんが、コナのために作ってくれたハンバーグだから」

 

「むぅ……にゃあ!」

 

「あぁ! か、返して! 私のハンバーグ返して〜!」

 

昨日の残り物なれど、はやてが作った物には変わりない。それを隙を突いて取られ、返してと主張する。

だけどシェリスが奪ったものを返すわけがなく、取ったハンバーグをパクリ。モグモグと口を動かして飲み込んでしまった。

その途端に泣きそうになるアスコナであったが、溜息をつきながら自分の弁当のハンバーグをはやてが渡す事で何とか抑止出来た。

反対にシェリスにはフェイトが駄目だよと窘めるが、笑顔で頷く辺り本当に分かっているのかは怪しいところである。

だがそれ以上言えないのがフェイトの甘さ故、窘めはそこで終わって再び全員が食事を再開する。

 

「にしても前と比べてずいぶん変わったわよね、アスコナ。前は全然喋りもしなかったのに、今は結構喋るようになってるし」

 

「シェリスのお陰でな。もっとも、ここまではっきりした主張をするのは身内以外ではシェリスにだけなのだが」

 

「アスコナが泣くからとか関係無く動くんも身内を含めてシェリスちゃんだけなんやけどなぁ……」

 

「あ、あはは……それは何か凄く、シェリスちゃんらしいね」

 

なのはが乾いた笑いを浮かべながらそう言えば、誰もが同意するように頷きつつ溜息をついた。

遠慮が無いのは良いが、もう少し考えて動いて欲しい。そんな願いをシェリスに求めるのははっきり言って無意味だろう。

だから溜息をつくしか無い。そしてそんな中でも、二人はまたも何やら揉めていた。

 

「野菜を一杯食べると大きくなれるみたいだから、シェリスの分もあげるね」

 

「……そんな事言ってシェリスちゃん、前もコナに野菜を全部押し付けてきた」

 

「それもこれもコナを大きくするためなの。だから遠慮なく食べていいよ?」

 

「コナはこれ以上大きくならなくてもいいから、シェリスちゃんに返す……」

 

「返却は拒否なの。いいからつべこべ言わずシェリスの分の野菜を食べればいいの」

 

野菜の押し付け合い。というか、野菜嫌いのシェリスが押し付けてくる野菜をアスコナが拒否する図。

非があるのは確実にシェリスだが、彼女の野菜嫌いは筋金入りだから拒否しても粘り、強引にでも渡そうとしていた。

そして結局、このままではアスコナが折れると判断したフェイトがシェリスを止め、前のように食べさせるという手段に出る。

そんな様子を視界に捉え、やはり溜息をつきながら、皆は昼食を続けるのだった。

 

 

 

昼食後は一時間だけある午後の授業を受け、終礼となるHRへと移っていく。

最後の授業もやはりシェリスが騒ぎ、午前と同じく滅茶苦茶。HR時には午前のも加えて担任も疲れ切っていた。

聖小のブラックリストにでも乗るのではないかというほどのやりたい放題に後でフェイトが担任に平謝りしたぐらいだ。

まあ、そんなはやての初登校となる日も波乱に満ちてはいたが、HRを終えた事でようやく終わりを迎える。

それから帰り支度をして学校を後にし、聖小に登校したときと同じバスに乗って今朝バスに乗ったバス停にて降り、徒歩で帰宅の道を辿る。

 

「今日は折角の転校初日だったのに災難だったわね、はやて」

 

「あははは……まあ気にしてへんよ、そこのへんは。アレはアレで結構楽しかったんやしな。むしろ一番災難やったんは、ウチやのうて担任の先生やと思うで?」

 

「確かに……シェリスちゃん、授業中も関係無く騒いでたもんね」

 

「うぅ……明日から、どんな顔して授業受ければいいんだろ……」

 

明日はさすがにはやてもリィンフォースも注意するし、フェイト自身もシェリスには学校に来ては駄目と言い聞かせるつもり。

しかしそれでも今日の事が全て消えるわけではなく、フェイトとしてはしばらくの間、頭の痛くなるような状態が続きそうであった。

それを齎した当の二人は呑気にお昼寝。その片方であるシェリスを背負うフェイトは、耳元で彼女の寝息を聞きつつ溜息を吐いた。

それからしばらく歩いてアリサとすずかと途中で別れ、二人とは別の道を歩き続ける中、なのはがふとある事を思い出して口にする。

 

「そういえば朝にアリサちゃんが言ってたんだけど、アスコナちゃんって魔法が使えるんだよね?」

 

「ふえ? あ、ああ、まあ使えるっちゃ……使えるんよね?」

 

「ええ、確かに行使は出来ますね。ですが、普通の魔導師とは違って使用する魔法のランクはユニゾン時と比べると落ちる上、私もアスコナも主はやてと基本は共にいますから、使う機会はあまりないかと」

 

「という事みたいやけど……それがどうかしたん?」

 

「う、ううん、ただ知りたかっただけ。アリサちゃんが疑問に思ってたし、私もちょっと知りたいかなって思ったから」

 

それを聞いてはやては納得すると同時に、少しばかりそれに関して以前の事を二人へ語った。

管理局で検査をしていたとき、アスコナだけは一部測定が不十分になってしまった事。その内容とは、個別の戦闘測定。

ユニゾンデバイスとはいえ、単独で戦う事も出来るから一応測定しようという事になり、リィンフォースもそれに従って測定した。

だけどあのときのアスコナはまだかなりの人見知りだったから応じてくれず、果てには泣き出すので結局断念してしまったとの事。

元々一応と付け加えるような測定内容だったのが幸いでそれ以後も測定はせず、結局彼女の個別戦闘力は測定できず終いになったらしい。

これはつまり、彼女が戦う所は誰も見てないという事。だから、さっきの説明もあくまでそうであろうという仮定の話でしか無いのだ。

 

「まあ、一部とはいえ同じ夜天の書の管制人格なのだから、私と差して変わらないとは思うんだがな」

 

「でも、ちょっと見てみたい気もしますね……アスコナの戦ってる姿」

 

フェイトがそう呟いたのを境に皆はちょっとだけ想像してみる。アスコナが一人で戦っている姿というものを。

毅然と相手に立ち向かい、魔法を行使して攻撃をしたり受けたりする姿を……。

 

「「「「想像出来ませんね(出来ないね、出来んわ、出来ないな)」」」」

 

想像しようとしたが結局今の彼女を見ると明確に浮かばず、揃って無理と口にして想像する事を断念。

精々想像出来るといえば泣きながら逃げてる姿か、怯えてリィンフォースに抱きついている姿くらいなもの。

故にそんな姿を意図せず思い浮かべてしまったためか全員僅かに苦笑しつつも、二人の寝息を聞きながら帰路を歩き続けた。

 

 


あとがき

 

 

はやての聖小転入話は予想外の乱入者たちによって滅茶苦茶に……。

【咲】 特にシェリスが一番の原因よね、今回の騒ぎって。

まあ、一番予想外な人物だしな。アスコナとリィンフォースはまだまあ、分かるんだけどさ。

【咲】 フェイトにしてもリィンフォースにしても甘すぎるのよ。多少強引にでも連れて帰るべきだと思うわ。

暴れるシェリスは抑えればいいが、近所迷惑の如く大声で泣き出すアスコナを連れて帰ったらかなり恥ずかしいものがあると思う。

【咲】 それはまあ、そうだろうけどさ……でもやっぱり、そこを我慢してでもやんなきゃ駄目よ。

それは確かに同意ではあるがね……恥ずかしさ以前にあの二人がシェリスとアスコナの嫌がる事を出来るわけがないんだよ。

【咲】 はぁ……甘すぎるっていうのもここまでくると考え物よね。

まあねぇ……だけどまあ、それも話が進むにつれて少しは変わるだろうよ。あくまで可能性の話だけどな。

【咲】 ふ〜ん……にしてもさ、話でも言ってたけど、前と比べてアスコナって変わったわよね。

そりゃシェリスとかなりの頻度で遊んでるからねぇ……変わらない方が無理だろうよ。

【咲】 ていうか、アスコナがちゃんと喋ってるところって初めてじゃない?

喋ってる場面は何度かあったけど、友達感覚で喋るのは確かに初めてだわな。

【咲】 でも身内には今回のシェリスを相手にしたときみたいな喋り方もするのよね?

するね。本編でまだ出てはいないけど。

【咲】 つまり、別に無口なんじゃなくて単に喋らないのは慣れない人が近くにいるからってわけ?

そういう事になる。

【咲】 でもさ、今回も周りにはなのはたちだけじゃなく他の生徒たちもいたはずなのに、何でまともに喋ってるの?

別に食べてる時は大して喋ってないよ。ただ、喋らざるを得ない状況を意図せずシェリスが作るから喋ったの。

【咲】 それってさ、シェリスがそういう状況を作ったら慣れない人がいても喋るって事?

まあね。ただ、作らなければそのまま無言だから、積極的に喋るって事はほとんどないかな。

【咲】 いつかはあの子もシェリスに感化されて積極的になるときもくるのかしら?

どうだろうね……それはまあ、今後をお楽しみにしててくれ。

【咲】 またそれね……まあ、いいけど。それじゃ、次回予告の方に行っちゃいなさい。

ういうい。次回はだな……なのはとフェイトとはやて、リースとシェリスとアスコナリィンフォースの七人がとある人物と会うというお話だ。

もっとも、七人がその人と会って話をするのはあくまで前半部分だけで、後半部分はまた別の話になるが。

【咲】 とある人物ねぇ……それって、一章で出た人じゃない?

さあ、どうだろうね……てなわけで予告は短かったですが、今回はこの辺にて!!

【咲】 また次回会いましょうね♪

では〜ノシ




いやはや、何とも大変な転校初日。
美姫 「しかし、よく許可がおりたものね」
確かにな。しかし、授業が始まって後悔しただろうな
美姫 「けれど、既に遅かったわね」
しかし、本当に二人に甘いというか。
美姫 「あまり強く出れないのね」
はやてよりもフェイトの方が大変だったかもと思うのは、やっぱりシェリスの方がどうしても動のイメージがあるからかな。
美姫 「アスコナの方は基本、寝てたものね」
うんうん。しかし、注意してもこれが癖になってまた来たりしてな。
美姫 「その辺りは流石にちゃんと言い聞かせないとね」
果たして、それが出来るかどうか。
美姫 「さて、次回は誰かと会う話みたいだけれど」
誰が出てくるんだろう。気になる次回は……。
美姫 「この後すぐ」



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