なのはとフェイトの初回訓練後、訓練の予定を話し合った結果、修行の時間は小学校が終わって少し後の五時から七時までの間という事に決定された。

小学生にしては少し遅い時間までやるという事もあり、桃子に許可を取った上でシェリスやアルフも含め、夕食のオマケ付きという事で。

そしてそれからおよそ一週間後の月曜日。その日は一つしか入っていなかった講義が休校という事で恭也はリースと共にのんびりする予定だった。

どうせ小学校が終わるくらいまでには家にいないといけなく、何より目的も無いのに外出した所であまり意味はないからという事で決まった予定。

だが、各々仕事や学校へ赴いていく者たちを見送ってのんびりし始めた矢先に鳴り響いた一本の電話が、二人の予定を狂わせる羽目となった。

電話の相手は、月村忍……恭也と同じ海鳴大学の学生であり、親友でもある女性だ。電話先が家からという事もあり、彼女も今日は講義が無いのが分かる。

というより、電話先など確かめなくても恭也には分かっていた。なぜなら、忍が受けている講義はほとんど恭也と同じであったがためだ。

無論恭也の受けてない講義もいくつか受けてはいるが、なぜか忍が興味を持ちそうにない恭也の受ける講義まで取っている。

正直理由など普通に考えれば分かる事なのだが、鈍感故に恭也は不可思議に思うだけ。むしろ、代返を頼む事が出来たりするので助かったりもしている。

ともあれ、恭也と同じで暇をしているのであろう忍から掛かってきた電話の内容とは……単純に言って、ただ自分の家に遊びに来て欲しいというだけ。

高校三年時に初めて知り合い、とある出来事を経てからというもの、忍はこうやって頻繁に自分の家に彼を招こうとしたり、または自分が彼の家に行ったりしている。

傍から見れば完全に彼氏彼女な関係。だが、忍としては嬉しいのだが恭也は全くそんな意識が無く、それ故に頻繁であっても進展など全くしないに等しい。

しかしそれで諦める忍ではないため、そろそろ落ち着いたのではないかという時を見計らって誘いの電話をした……それがつまり今日なわけである。

 

 

 

――そしてその誘いがあまりにも強引であったがためか、恭也は有無も言えずに了承してしまう羽目となった。

 

 

 

そんなわけで現在、恭也はその電話で連れて行くと言っておいたリースを連れ、月村家へと赴いていた。

着くや否やでかなり過激な勧誘業者撃退システムにて迎撃されたり、それを相手にリースが魔法で反撃しようとしたり。

正直辿り着いた瞬間から疲れる現象のオンパレード。それを掻い潜って恭也はリースを小脇に抱えつつ、ある程度の時間を経て扉まで辿り着いた。

それからノエルに出迎えられ、リースの事を紹介しつつも警備システムの事を一応指摘し、彼女の招かれて忍の部屋へ赴いた。

そこには当然の如く忍がおり、勧誘業者撃退システムに関して何の悪気も見せずに笑顔で出迎えるものだから言葉で返さず、拳骨で返した。

 

「〜〜〜っ!!」

 

「全く、あんな危ない物を組み込むなと何度言わせるんだ、お前は……相手が俺だからまだいいが、別の人が掛ったらどうする気だ」

 

「そ、そこんとこは大丈夫だもん……あれは恭也の声に反応してシステムが変わるように設定してあるだけ――――……あ……」

 

「……ほう」

 

言った途端に口が滑ったとばかりに手で塞ぐが、時すでに遅し。恭也は指をポキポキと鳴らしつつ怖い笑みを浮かべていた。

いつもは見る事のない恭也の笑み。それはかなり貴重とも言えるが、今ばかりは青褪めてしまうのを止められなかった。

そして青褪めながらもノエルに助けの求めようとするが、部屋の扉付近にいたはずの彼女はすでにそこにはいなかった。

ちなみにもう一人の月村家のメイド(すずか付きのではあるが)であるファリンも現状、この部屋にはいない。

それ故、彼女にとって見知らぬ子ではあるが恭也の後ろにいるリースに助けを求める視線を向け、彼女もまだ知らぬ間柄ながらも頷いた。

 

「まあまあ、恭也。そのお姉さんも反省してるみたいだから許してあげなよ。それにあのシステムだって、別に実害を被ったわけじゃないんだしさ」

 

「む……それは確かにそうだが……いや、しかしだな――――」

 

「大体、恭也は御神の剣士なんでしょ? だったら、あれくらい避けるなんてわけないんじゃないの?」

 

御神の剣士だからゴム弾の嵐を避けるなどわけない。それは若干膨張もあるが、確かに不可能ではない事だ。

現にここに来るまでで恭也はリースが言ったとおり、実害を被っていない。放たれたゴム弾をただ一つも、その身に受けてはいないのだ。

だからそれを引き合いに出されると若干困る。そしてそれ故か、とりあえず今一度窘めるだけで拳を振り下ろす事はしなかった。

窘める言葉に対して忍はうんうんと頷いてはいたが、実際のところ信用はならない。過去でも、こういったやり取りは何度かあったのだから。

だが、今のところはそれで頷いておくしか無いため、彼は溜息をつく。そしてそんな彼を間に挟みつつ、忍は視線でリースに礼を言い、リースも視線で気にするなと返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはB.N

 

【第三章】第七話 マッドサイエンティストと科学者の卵

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで見計らったように人数分のお茶をノエルが持ってきたのは、事態が収拾した直後。

そしてお茶とお茶請けを床に座っている三人の前に置くと用事があるからと再び部屋を出ていき、また三人だけとなる。

そんな中でとりあえず恭也は忍にリースを紹介しつつ、リースに忍を紹介する。その後は忍からリースへの質問攻め。

事件前はリースなる少女がいなかった事から、おそらく今回の事に関係あると思ったのだろう。ふざける事は多いが、馬鹿ではないという事だ。

だが、事件の詳細は民間の人間には基本的に話してはならない。だから彼女の質問に答えられる部分は答えるも、そうでない部分ははぐらかす。

だけどそれでも恭也が関係しているせいか質問が止まなかった故、リースはまるで話題を逸らすようにとある事を口にする。

 

「そ、それにしてもさ、あの勧誘業者撃退システムとかいうの、忍が作ったんだよね?」

 

「ん、そうだよ? それがどうかしたの?」

 

「いや、ね。そのときに書いた設計図とかあったら見せて欲しいなって思って……私、そういうのに凄く興味があるから」

 

勧誘業者撃退システムの設計図というには確かにある。むしろ、作る上で設計図が無ければかなり困難になるのだから普通はある。

それを自分よりかなり年下の少女が見せて欲しいというのだから、本来なら珍しいだとか言って若干でも驚くのが正常な反応だろう。

しかし忍が注目したのはそこではなく、興味があるという部分。それ故、正常な反応とは程遠い、喜びの感情などを浮かべていた。

彼女の開発技術は確かに凄い物がある。だが、その全てが偏った方向へ行くため、恭也を含めてあまり良い感情で見られてはいない。

だけどそれを目の前の少女は興味があるなどと言ってくれた。それが忍にとっては嬉しく、喜びのあまりに思わずリースの手を握ったりしていた。

 

「そういう事なら喜んで! 設計図だけと言わず、私の開発した物を特別に全部見せちゃうよ♪」

 

「ほんとに!?」

 

「ほんとほんと♪ ただここに持ってくるとちょっと散らかっちゃうだろうから、それらが置いてある部屋に移動してもらう事になっちゃうけど」

 

「全然問題無し!! 善は急げ、早速その部屋にゴーゴゴー!!」

 

何やら妙なテンションになるリース。どうやら趣味は本だけでなく、こういった部門にも注がれているというのがこれで分かる。

忍も忍でノリノリな様子でリースと共に立ち上がり、彼女と手を繋いだままラボとなっている場所へと目指して歩き出した。

これには二人のテンションに付いていけず、呆然としてしまっていた恭也も我に返り、放っておくわけにもいかず慌てて立ち上がり、二人を後を追っていった。

 

 

 

 

 

ラボとなる部屋はリースとっては初めての場所だが、恭也にとってはそれこそ何度も訪れた事がある場所。

というのも月村家のメイド長であるノエルが自動人形だと知っている事もあり、メンテナンスに立ち会う事が何度かあったのだ。

もっとも、立ち会うと言っても手伝うわけでもなく、本当にただそこに立っているだけ。実際、邪魔じゃないかと思った事は数え切れないほどある。

しかし忍は折角呼んだのだから別部屋に居させるより傍に居てもらった方が良いと言い、メンテナンス時が基本的に立ち会わせている。

ともあれそんなわけで恭也は見慣れた場所だから大した感慨もないが、リースにしてみれば初めて入る場所なため、非常に目を輝かせていた。

やはり父親の血が濃いのだろう……その辺に散らばる工具やら謎の機械やら、机の上に広げられる多くの図面やらに目が釘付け状態。

そして見てもいいと聞きたげな目を忍へ向け、彼女が頷くと先ほどまで釘付け状態で見ていた物へ走り寄り、喜々として漁り始めた。

ただ漁ると言っても滅茶苦茶にするわけではなく、様々な機械を見たり触ったり、机の上の図面を見ながら独り言を呟く程度の事。

傍から見ればちょっと危ない女の子に見えなくも無いが、忍としてはそうは映らず、同じ性質の子が現れた事を再確認出来て嬉しそうだった。

 

「将来有望な子だね、リースちゃんって。普通はあの年頃の子だと機械とかに興味は示しても、図面とかまでは見たりしないんだけど」

 

「あの子の父親はこの手の事を専門にする科学者だからな……その手伝いを小さな頃から多少なりとしていたと言っていたから、その辺の興味もそれからきてるんだと思う。もっとも、将来有望かどうかはわからんがな」

 

「そっかぁ……じゃあさ、もしかしてさっき部屋で聞いた話からするとその人の専門分野って、やっぱり魔法関係?」

 

「そういう事になるな」

 

質問をしてた際に魔法という言葉がリースの口から放たれた時は、忍としてもそれなりには驚いた。

だが、別段それを疑うという事はしなかった。自分の事も含め、魔法などが合っても不思議じゃないと思わせる存在が海鳴には多いから。

むしろ今の恭也の話も合わせ、非常に興味が出てきている。今まで自分が構って機械とは違い、魔法という未知の力が加わる故に。

そのため機会があったら会ってみたいな、などと口にするのだが、実際のところそんな機会など決して訪れないであろう事を彼女は知らない。

事件の事を語れないために彼女の父親――ジェドが犯罪者として手配されてる事も、事件の黒幕と共にその消息を絶ったという事も。

それ故に恭也はその言葉に返す事は無く、二人の間で僅かに沈黙が落ちる中、忍は図面を食い入るように見ているリースへゆっくりと近づいた。

 

「何かリースちゃんの興味を引くのがあった?」

 

「ん〜……興味を引くのがあるかって言えばほとんどそうなんだけど、一番興味があるのはやっぱりこれかなぁ」

 

「どれどれ……ああ、これね。中々良いのに目を付けるじゃない……これ、私の中では最近で一番の発明かなって思える奴だよ。えっと、確かこの辺にあったと思うけど……ああ、あったあった」

 

机の付近に視線を巡らせ、そう言いつつ視線を固定したのはリースの若干後ろのほうにあるちょっと大きめの機械。

見た目的に一体何に使うのかは恭也には判断できないが、どうやら図面を見たリースには分かってるらしく、すぐさまその機械へと駆け寄る。

そしてしゃがみ込んで図面を見ながら片手でペタペタと触り始める中、忍も同様にそれへと近づき、彼女の隣りにしゃがみ込んだ。

 

「ただねぇ……組み上げたのは良いんだけど、完成はまだしてないのよね。図面に書き込んであるから分かると思うけど、いろいろと難点も多くて」

 

「そうなんだ。あ、でもさ、さっきもちょっと思ったんだけどここの辺の回路をこう組み替えてみたら、この問題はクリアするんじゃない?」

 

「へ? あ、ああ、なるほど……確かにそういう考え方もありかも。でも、そう組み替えるとこっちの伝達率が落ちるから、その辺で不備が出てくるんじゃないかな?」

 

「それはほら、こっちのほうをこう弄って、こう繋げたらここの伝達率って面では解決すると思うよ?」

 

「ふむふむ、確かに。でもそうなると今度はこっちのほうが……あ、いや、ここはこう組み替えたら――――」

 

図面を見ながら設計の見直しをしているという事は分かるが、それ以外の事はまるでサッパリであった。

そもそも、見た目十歳の子供と二十代前半の女性が地面にしゃがみ込んで真剣に話し合うという光景だけで異質過ぎる。

だが、こうなるであろうという事は本来、何となくでも予想が付いた事。二人の性質を考えれば、むしろ予想できないほうが可笑しいかもしれない。

忍は言わずと知れたマッドサイエンティスト、リースは読書好きな大人しい女の子に見せて実は父親の血が強く、専門的な事もある程度知る科学者の卵。

意気投合しないだろうと考える方が無理だ。そんな二人を引き合わせてしまった……これは場合によっては、最悪の事態を招きかねない。

だが、そんな可能性を失念していたと悔もうが、二人を引き合わせた事実は消えない。それ故、恭也は静かに溜息をつくしかなかった。

 

 

 

 

 

忍とリースの初めての出会いから数日、あのとき感じた嫌な予感は彼の中で大きなものへとなっていた。

この数日間でリースは単独外出が何回か見られるようになり、そのほとんどが月村家への訪問であった。

高町家の面々は普段あまり外出せず、家で本を読んでる事が多かったリースのそれに心配よりは喜びのほうが強かった。

特に桃子があの年頃の子が外にも出ずに読書ばかりだった事にいろいろと心配をしてたため、皆の中でも一番喜んでいた。

もちろん恭也もそういった面では良い傾向だと思ったが、それ以上に彼としてはあの二人が何かをやっていると考えると不安でならなかった。

とはいえ忍の所へ行く事が駄目とは言えず、遅い時間までいるという事もあるわけではないので不安感が募りつつも好きなようにさせていた。

そしてそんな日がどの程度か続き、講義も終わって訓練時間まで暇となったある日の午後――――

 

 

 

――彼は再び、忍の電話によって月村家へと招かれる羽目となった。

 

 

 

日に日に少しずつ増え続けていた不安感を現実として露わにする。この日の招きは恭也にとってそう思えてならなかった。

だが電話越しに忍だけでなくリースにまで来いと言われ、結局赴く羽目となって現在、彼は月村家の門の前に立っていた。

 

「はぁ……」

 

門の前に立った段階でもう溜息一つ。それほど彼の頭の中では嫌な予感で一杯なのだという事だ。

しかし来てしまった以上はもうどうしようもなく、嫌な予感を抱きながらも来客認証のために設置されてるボタンを押して認証を行う。

この時点でも、どうせまた例のシステムが起動して迎撃されるとか彼は考えていた。というか、今までで無かった時など一度も無い。

だけど驚く事に作動するかに思われたシステムは作動せず、機器はしっかりと恭也を来客と認証して門を開くという信じられない事態が起こった。

いつもいつも法律ギリギリの勧誘業者撃退システムを恭也限定で故意に起動させて迷惑を掛けていたのに、なぜか今日は起動しなかった。

本来なら驚き、そして安著する所かもしれない。しかし、驚くには驚いたが恭也としては安著など出来ず、より一層不安感が強くなってしまう。

 

「…………」

 

門前でシステムが作動しなかったからとはいえ、門から屋敷の扉に辿り着くまでで何もないとは限らない。

それ故、かなり警戒しながらゆっくりと歩を進めていくが、やはりシステムは作動せず、彼の足は屋敷の扉前の地面を踏む。

あれだけいつも欠かさずに設置していたシステムを設置せずに恭也を招く。それは彼にとってあまりにも、不気味な事。

そんな風に思いながらも恭也は扉横にある呼び鈴を鳴らした。すると呼び鈴がなってから数十秒後、何やら扉の内側からゴンッという音がした。

一体何の音だろうか、というのは気配が読める上に月村家の住人構成を知っている恭也からすれば、一瞬で分かってしまう事だった。

 

「イタタ……ど、どちらさま――って、恭也様じゃないですか。今日は忍お嬢様にお会いに?」

 

「あ、ああ、一応そういう事になるんだが……その、大丈夫か?」

 

「あ、あはは、これくらいは全然大丈夫ですよぉ。いつもいつもドジばかりで、打たれ強さだけは一人前になっちゃってますから」

 

音がしてから数秒後に扉を開いて顔を見せたのは、ファリン。月村家の一番下であるすずかの専属メイドである女性だ。

ノエルと若干似たような容姿をしているが、ノエルのような自動人形ではなく、ただドジが多くて僅かにポケポケしただけの人間のメイドである。

故にすずかが学校に行っているであろう現在、彼女が出迎えに出てくるのは可笑しくはない。だが、忍の呼び出しでは大概出迎えるのはノエルだ。

加えて出迎えた彼女は忍が呼んだという事実を聞かされていない様子だが、あのノエルが伝え忘れているという事は考え辛い。

更に言えば電話ではメンテナンスをしてるとも聞いてない。そうなると一体、ノエルはどうしたのだろうかという事が疑問として浮かぶ。

しかしながら、ここで悩み始めても答えは出ない上、ファリンを困らせるだけなので忍に電話で呼ばれたと簡潔に彼女へ伝えた。

 

「そうだったんですか〜。でも可笑しいなぁ……忍お嬢様はともかく、お姉様が何も伝えないなんて」

 

「確かにな……まあ、そういう事でここに来たわけなんだが、忍はやはりあの部屋にいるのか?」

 

「あ、はい。今朝方、リース様がいらっしゃってからは大学のほうにも行かず、お昼も全くお食べにならずに……」

 

「そういえば、確かに今日は大学にも顔を出して無かったな……アイツ、そんなに熱心になって今度は何を作ってるんだ?」

 

「それは私にも……ただ、あの部屋からたびたび妙な音が聞こえてくるので、失礼ながらマトモな物を作っているとは……」

 

メイドとして主を侮辱するような事を言うのは宜しくないのだが、そう言いたくなる気持ちは恭也にも分からないでもなかった。

ともあれ、少し話し込んでしまいつつも上がってもいいかとファリンに聞き、彼女が頷くと恭也は扉を潜って屋敷内へと入る。

そしてノエルがいない現状でやる事が多いのか、玄関から少し入ったところでファリンと別れた後、彼は一直線に例の部屋を目指した。

 

 

 

――するとその部屋に近づくにつれ、確かに彼女の言葉通り、妙なとしか言いようがない音が聞こえてきた。

 

 

 

ドガガッとかギギギッとかカンカンカンッとか、中にはドカンッという爆発音に似た音さえ響いてくる始末。

一体何を作っているのかという疑問以前に部屋に入る気さ失せる。とはいえ、すでに部屋の前に立ってしまった彼に回れ右の選択肢はない。

それ故に恭也は一応礼儀として扉をコンコンと叩き、返事が返ってこない事を確認した後、扉を開けて中へと入った。

その瞬間に目の前へ広がった光景は想像以上に異質。前以上に荒れ果て、地面には工具だけでなく何かの部品が細かい物から大きな物まで落ちている。

だけどそれ以上に異質なのは目の前で作業をする二人……いや、三人の格好。忍もリースも、なぜか手伝ってるノエルも身に纏うのは作業服らしきもの。

加えて一つの機械(形的にロボットっぽい)に対して忍はスパナでネジを締め、リースはまだ閉じてない場所の内部回路を弄り、ノエルは機械が倒れぬよう支えたりしている。

そんないろいろな意味で異質な光景の中、恭也の来訪にいち早く気付いたノエルは小さく会釈するが、残りの二人は気付きさえせず作業に没頭していた。

 

「忍〜、ここもう終わったから閉じてもいいよ〜!」

 

「はいはい、りょうか〜い! えっと、ここのボルトはっと……あれ、可笑しいなぁ。この辺に置いといたはずなんだけど……ノエル〜、そっちのほうに三番のボルトが転がってな〜い!?」

 

「三番、ですか? それでしたら忍お嬢様の後ろにあるのがそうではないかと……」

 

「へ? ……おお、こんなところに! よ〜し、じゃあ早速――――」

 

ボルト探しに視線をキョロキョロとさせても恭也には気付かず、お目当ての物をノエルの指摘で見つけるとすぐに作業へと戻る。

見た感じ、おそらく完成間近で他に意識を向ける余裕は無いのだろうと分かるが、彼としてはどうしたものかと悩んでしまうのも事実。

しかし声を掛けると高確率で文句を言われそうな気がしたため、彼女らの作業が終わるまで恭也は近くの椅子に腰掛け、待つ事にした。

 

 

 

 

 

作業が終わったのは彼が待ちの体勢に入ってからおよそ一時間後。そして二人が恭也に気付いたのも、それと同じ時。

呆れを浮かべる彼に対して二人とも乾いた笑いを浮かべるしかなかったが、話を逸らすように今まで没頭していた作業の成果について説明する。

それによれば、何でも作っていたのは見た目通りロボット。何をするロボットかと言えば炊事、洗濯、掃除、果てには戦闘さえこなすロボットらしい。

ただ、戦闘はともかくとしても前の三つをこなすようには到底見えない。仮に出来たのだとしても、鉄の塊みたいな人型ロボットがそんな事してたら逆に怖い。

ついでに言えばノエルやファリンがいるのにそんなロボットを作る意味もない。要するに結論を言えば、また無駄な物を作ったなという一言に尽きる。

しかし実際に口に出してそう言えば彼女たちはそんな事はないと大きく否定し出し、挙句には実際にどのくらい凄いか見てもらうという事になってしまった。

 

 

 

――そんなわけでまず、炊事をさせてみたのだが……正直、結果は絶望的であった。

 

 

 

作った物は壊滅的に不味く(美由希程ではないが)、食器の洗浄に関しても片っぱしから割ってしまう。

はっきり言ってファリンのほうが百倍もマシだと言えるほど。しかもそれを恭也はともかく、忍やリースさえも否定できなかった。

ノエルやファリンもご主人である忍が作ったものとはいえ、褒める部分が見当たらなくて何とも言えない顔をしていた。

 

 

 

――それから続けて、今度は洗濯をさせてみたが……やはりというか、結果は炊事のときと同じだった。

 

 

 

まず洗濯物を洗う際、異常なまでに洗剤を入れていた。というか、洗濯用の洗剤を全て使い切っていたのだ。

そのせいで泡が出過ぎて洗濯機付近は酷い惨状となり、泡の処理をせざるを得なくなったノエルやファリンからすれば良い迷惑。

一応洗い終えた洗濯物を外の物干しに干す際も、洗濯物を伸ばす際に多くを破るわ、物干し竿は折るわで見るに堪えない。

むしろ、何がしたいのかと問い質したいくらい破滅的な洗濯技量。それ故にこれもまた、二人は否定できずに乾いた笑いを浮かべていた。

 

 

 

――そして三つ目となる掃除もさせてはみたが、結果はもう言うまでもないだろう。

 

 

 

根本的な問題としてなぜか炊事以外の力設定が強すぎるため、箒やモップを持っても必ず折ってしまう。

かといって窓拭き等の拭き作業をさせようものなら、なぜか雑巾を絞らずに地面を水浸しにしたり、挙句には拭く際に窓を割ったり。

被害が大きくなる前に止めさせたから良いが、続けさせていたらおそらく、屋敷中の地面を水浸しにした上、拭く物全てを破壊してただろう。

ちなみにこの時点で製作者の二人はすでに乾いた笑いすら浮かべられず、酷く落ち込んだ顔をしていたりした。

 

 

 

――そうして全てに於いて最悪な腕前を見せ付けられながらも、最後の希望として戦闘能力を測る事になる。

 

 

 

その相手となるのはもちろん、恭也。むしろ、本人からすれば呼び出した理由の半分はこれじゃないかと思っていたりする。

別段それに関して呆れはするが文句は無いのだが、一つだけ不安な部分を挙げるとするなら、それはそのロボットの武装である。

見た目からすれば大した武装があるようには見えないが、忍の事だから確実に危険物を何点か組み込んでいるのは間違いない。

しかも開発にはリースが関わっているとなれば、今まで以上に凶悪な可能性は高い。その点だけで考えれば、本来ならお断りしたい所だ。

だが、それを二人が認めるとは思えず、結局のところ月村家の庭にて忍とリースの立ち会いの元、恭也はそれと戦う羽目となった。

そして準備が出来たのを確認した忍が発する開始の声を合図として、ロボットは両手を上げて装甲を開き、銃器を露出させた。

 

「――っ」

 

元々そんなものが仕込んであるだろうと予測していた故に彼の反応は速く、銃器を放ったその先にはすでに彼の姿は無い。

しかし、一般人なら見失うだろう彼の動きも無駄に熱源センサーがあるロボットには効かず、彼の動きを追うように撃ち続ける。

とはいえ彼にとってそんな風に銃器を撃たれても避ける上では問題無い。だが、反して下手に近づく事も出来ない。

もしこの状況下で近づこうとすれば銃器の集中砲火を放たれる可能性がある。そうなるとさすがに避け切るのは彼でも困難。

デバイスを用いて魔法を使用するか、もしくは神速を使えばどうにでもなるだろうが、こんな事で使う気にはなれない。

となれば出来る攻撃方法は一つ……撃たれ続ける弾を避けながら、手持ちの中距離武器で攻撃するというくらいしかない。

だけどただ投げても強度はありそうなその外装では弾かれるのがオチ。それ故、恭也は飛針を数本取り出し、一つの手段へと出た。

 

「ふっ――!」

 

その手段とは、飛針を銃口から内部へと入れる事。そうすれば、おそらくは暴発を促せるだろう。

だが、それは正直容易な手段じゃない。小さな銃口がそもそも小さいし、走りながらではそんなピンポイントで狙うのは困難極まる。

加えてその銃器は現在進行形で使用されているため、タイミングを間違えば放たれた銃弾で弾かれてしまう。

しかし、それ以外に手段は思い付かないのも事実。そのため、保険として抜いた多めの飛針を走りつつ狙いを定め、一瞬のタイミングを見計らって投げ放った。

 

 

 

――そして放ってから僅か二秒の後、ロボットの両腕から非常に大きな暴発音が響き渡った。

 

 

 

それは恭也の行った手段が成功したという証。直後に忍とリースが声を上げていたが、正直気にしてはいられない。

むしろその好機を逃すまいと一気に勝負を決めるために距離を詰めようとする。が、その動きは途中で停止してしまう羽目となった。

その理由は両腕の銃器を破壊されたロボットの動き故。今までとは違い、全身から煙を放ちながら目のランプをチカチカさせている。

正直嫌な予感しかしなかったが、今の状態が何なのか聞かずには動けず、彼は声を張り上げて二人に聞こうかと思ったが――――

 

 

 

「……もしかして、自爆装置が起動しちゃった?」

 

「あ、あははは……たぶん、そうかも」

 

――聞くより早く、風に乗せてそんな不穏な言葉が彼の耳に届いた。

 

 

 

戦闘が出来るとはいえ、炊事洗濯掃除などの家事を主として作ったと言っていたロボットになぜ自爆装置があるのか。

そんな根本的な疑問すら浮かぶ事は無く、二人の言葉を聞いた矢先に彼は動き、すぐさま二人へ駆け寄って両脇に抱える。

そして自爆の規模は知れないが、安全圏だろうと思えるところまで逃げた途端、ロボットの目のランプは赤へと変わり――――

 

 

 

――その直後、彼らの所まで突風を巻き起こすほどの大爆発を引き起こした。

 

 

 

幸いにも爆発は庭の中心。屋敷の近くまで逃げていた恭也とその脇に抱えていた忍、及びリースの三人は無事。

しかし爆発の際に発生した煙が晴れた後、中心となっていた部分からある程度の範囲が悲惨な惨状になっていた。

クレーターは出来るわ、突風で庭の屋敷近くに干し直されていた洗濯物は物干し竿ごと倒れるわ、庭にあったテーブルを倒しパラソルは空高く舞うわ。

最後の最後まで迷惑極まりない事しか引き起こさない。それ故か、ここにきてさすがの恭也も堪忍袋の緒が切れた。

 

「忍、リース……お前らなぁ……」

 

「「あ、あはははは…………」」

 

脇に抱えていた二人を地面へ下ろすとポキポキと指を鳴らし始める。その音を耳にした二人は青褪めつつも、もう笑うしかなかった。

そんな三人のところへ屋敷の扉を開け放ち、何事かと飛び出てきたノエルとファリンも庭の惨状に絶句してしまう。

それから今のも恭也の拳骨が落とされそうな光景を目にするが、二人ともさすがに庇いきれず、見なかった事にして目の前の惨状の片付けに移る。

そして彼女らが庭の片付けを始めたその直後――――

 

 

 

 

 

――爆発後で静まり切った青空の下、二つの拳骨音が響き渡るのだった。

 

 


あとがき

 

 

忍とリースが仲良くなったはいいが、結局被害を被るのは恭也であった。

【咲】 しかも今回のは恭也だけじゃなくて、他の面でも被害を及ぼしたみたいだから正直最悪ね。

うむ、確かにな。だがまあ、忍が関わった時点でこうなるのは何となく予想できた事だ。

【咲】 まあねぇ……にしても、リースって結構凄いのね。あの歳で忍とあの話題で対等に話してるんだから。

ジェドの娘ってのもあるけど、読書好きだからその手の方面の本も当然読んでるんだよね。しかも初歩から専門的なものまで全部。

だから元々ジェドの作業を手伝ってた事もあり、そういった知識も入れてたから対等に話す事は出来てた。

【咲】 でも、話す事は出来てもやっぱり結局はああなるのね……製作作業自体はしっかり出来てたのに。

それはまあ、リースも忍と同様でマッドサイエンティストの気があるって事なんじゃないかな。

【咲】 だとするとこれから先、大変になってくるわよね……主に恭也が。

だな。とはいえ、ある意味では忍の言ったとおり、将来有望なのかもしれんが。

【咲】 進む方向次第よね……ところでさ、思ったんだけど忍やノエルもそうだけど、ファリンも初めて出るわよね?

そうだな。リリなののキャラとはいえ、二章まででは出す場面がなかったし。

【咲】 ふ〜ん……そうなの。そうなるとやっぱり、忍やノエルと同じで彼女も出番は増えるの?

どうだろうね……一応これだけで出番終了というわけではないけど、多くなるとは断言出来んかも。

【咲】 どうしてよ?

いやね、月村家が主となる話なら確実に出せるんだけど、それ以外だと出しようがなくてな。

まあ、それはノエルに関しても似たような事が言えるんだが……。

【咲】 まあ、確かにそれはそうかもね。でも、そこを頑張って出すのがアンタの仕事でしょ?

無茶をおっしゃりますね……まあ、とりあえず努力はしてみますわ。

【咲】 がんばんなさい。それじゃあ、そろそろ次回予告のほうに行っちゃいましょうか。

うむ。次回は今回よりも一か月の時間が流れ、はやてとリィンフォース、アスコナと守護騎士たちが海鳴に帰ってくる。

それを聞き付けたなのはとフェイト、そしてシェリスの三人は早々に八神家へ訪れ、皆の海鳴帰還を喜び祝う。

そんな三人を出迎えたはやても同様に喜び合うが、そんな中……本局にいたときは解決しなかった一つの問題が巻き起こる。

ずばりそれはアスコナの人見知りに関しての事。本局にいる間に全員で何とかしようと試みたが、結局それは治る事がなかった。

そのせいで玄関先からのなのはたちの声を聞いた矢先、押入れに潜り込んで出てこようとせず、無理矢理だそうとすれば泣く始末。

だがそんな全員参ってしまうような状況の中、結局一部で反対していた策を実行する羽目に…………というのが次回の話だ。

【咲】 ふ〜ん……ところで思ったんだけど、次回の話は何月くらいの話なわけ?

三月くらいかな。時期的にははやてが帰ってくるのが遅いんだが、これはアスコナの事が心配だったから帰るに帰れなかっただけ。

はやてがいたら駄目な守護騎士たちの試験等も一応は別室で待機するという事にして、このときまで帰らなかったという事だ。

【咲】 そう……でもさ、それにしても少し長くなり過ぎじゃない?

まあ、確かに若干長くなってるが、これの原因もやはりアスコナにあるんだよ。

【咲】 ああ、人見知りのせいで変に長引いちゃったって事ね……。

そゆこと。ともあれ、はやてたちが帰ってくる事で更に話の幅は広がるという事にもなるな。

【咲】 確かにね……なのはたちも小学四年生になるし、ほぼ同時期にはやても転入するから学校編も出てきそうな感じね。

出るだろうね、おそらくは。とまあそんなわけで、今回はこの辺にて!!

【咲】 また次回も見てくださいね♪

では〜ノシ




やっぱり、恭也が被害にあってしまうんだな。
美姫 「最早、これは運命ね」
リースがブレーキ役になる所か、寧ろアクセル役になってしまったか。
美姫 「庭で爆発だものね」
ノエルも苦労するだろうな。
美姫 「そのうち、とんでもない発明しそうね」
かもな。さて、次回ははやてたちの帰還みたいだけれど。
美姫 「こちら側にもちょっとした問題が発生みたいね」
そんな気になる次回は……。
美姫 「この後すぐ!」



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