模擬戦の約束をしてから若干話をした後、恭也とリースは艦内巡りを終えて部屋へと戻った。

カルラは話し終えた後の談話室の入り口にて別れたため、現在室内にいるのは二人のみ。

本来はリースも別室なため、戻る場所が違うのだが、本人曰く恭也のいるここに泊り込むとの事らしい。

当然、それには恭也も考え込む羽目となる。年齢に見合わぬ幼い容姿だが、実質彼女は中学生程度の年齢。

親しいとはいえ、さすがにそのくらいの女の子と寝泊りを共にするのは体裁的に宜しくないのではと彼は考えていた。

だが、そう言ってみたところ、気にするなというたった一言で切り捨てられ、結果として押し切られる羽目となった。

そして現在、共に部屋へと戻ってきた二人は向かい合うようにベッド横の床にて座り、彼女の担いでいた風呂敷を広げていた。

 

「アイラの持っていたのを見たときも思ったが……本当にただの銃弾にしか見えんな。本当にこんなものに魔力が入ってるのか?」

 

「もちろん。ていうか、入ってなかったらそれこそ見た目通りになっちゃうじゃん」

 

「確かにな……それで、これはどうやってオリウスに組み込めばいいんだ?」

 

「んっと、モードに関わらずオリウスを展開したときに前は備わってなかった弾倉があるはずだから、そこに入る数だけ入れればいいの。ああ、でも今は補充しなくてもいいよ? カートリッジシステムをオリウスに組み込んだときに一応弾も装填されてるはずだし」

 

風呂敷に入っていた物の半分は、カートリッジシステムに用いられる弾丸を詰めた箱。

以前のカルラの話にあったダブルキャスティングシステムに変わってオリウスに備わるシステムというのが要するにそれ。

闇の書事件の最中で破損したレイジングハートとバルディッシュにもこれが加わり、予想以上の活躍を果たしていた。

それがオリウスに組み込まれたという事は心強いとも思えるが、これも以前言った通り、別段それがあるから強くなるわけじゃない。

何を扱うにしても要は使い方次第。恭也がこのシステムを組み込んだオリウスを使いこなせるかで、全く変わってくるのだ。

だけど言われるまでもなく恭也自身そこは理解しているためか、使いこなしてみせるという意思を自身の胸に強く抱いた。

そしてその思いを抱いたまま彼女の説明もちゃんと頭に入れ、話が終わった段階でオリウスを見つつ、改めてよろしくと声を掛ける。

その声にこちらこそと返すかのようにオリウス自身が僅かに輝き、それに彼は僅かな笑みを浮かべ、オリウスを自身の前へと置いた。

 

「ところで……カートリッジについては分かったんだが、残りのこれらは何なんだ?」

 

「これ? えっと、実のところ私もよく分かんないんだけど、何か気になったからついでに持ってきてみたの」

 

「気になったからついでにというのは、いろいろと駄目な気がするんだが……」

 

「気にしない気にしない。どうせこんなもの持っていかれて困るのなんて、アイツくらいなもんだし」

 

そう言いつつ風呂敷包みの中に入っていたもう半分、大量の書物と書類を手に取って捲り始める。

どこの言語だろうか、横から見てみても恭也にはほとんど理解出来ない。だが、リースには分かる模様。

その証拠に読み始めてからうんうんと頷いたり、ふ〜んと納得したような声をそれらを読みつつ上げていた。

 

「……何が書いてあるんだ?」

 

「ふえ? あ、ああ、そっか。恭也にはミッドの言語なんて読めないんだよね……んっと、まずこっちの本だけど、これらはデバイス製作に関係する書物なの。インテリジェントやアームドに必要な自律意志とかの組み方とか、デバイスを組み上げるのに必要な図面の書き方とか、まあ要するに製作の基本になる事を記述してある本かな。で、こっちの書類はアイツが書いたデバイスの図面の束だね」

 

「ふむ……束というだけあって、ずいぶんな量を書いてるんだな」

 

「そりゃねぇ……デバイスを作ったり、メンテナンスしたりする事ぐらいしか取り柄がないんだし。でもまあ、これって実際は引き出しに仕舞ってあったのを引っ張り出してきた奴だから、ずいぶん昔から書いてたものばっかりなんじゃないかな」

 

恭也の言葉にちゃんと答えつつも、彼女の視線は手に持っている書物やら書類やらに釘付け。

言語そのものが読めない恭也は論外としても、本来十台半ばにも届かない少女が理解出来る内容ではない。

だが、嫌いなどと言っていてもやはりジェドの子。理解出来ようが出来まいが、こういったものには興味津々なのだろう。

その姿はまるで遊び道具を与えられ、夢中になる子供のよう。故に今のリースは恭也から見ても、歳相応の姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはB.N

 

【第二章】第二十三話 新たなる剣、虚無と呼ばれし力

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の模擬戦に備え、部屋に戻って話し始めてから間もなくして休もうという話になった。

その際、リースはまだ書物等を読みたいと駄々をこねたが、何とか宥めてしぶしぶながらも了解させた。

ただそれから続けて問題が浮上した。その問題とは、リースが一緒のベッドで寝ると言い出した事。

自身に宛がわれた部屋へ泊まりこむという要求を呑んだ時点で彼はリースをベッド、自身は床で寝ようとしていた。

そんな考えを見事なまでに粉砕してのその一言。それには恭也も先ほど以上に反発するかの如く、駄目だと告げる。

だがしかし、この件に関しては彼女も一歩も引かず、仕舞いには無理矢理とばかりに恭也を引っ張り込もうとする。

引っ張る力は容姿に伴わず中々に強かったが、恭也自身許容出来る事ではないためか踏み止まり、一歩も動かない。

そうして均衡状態がしばし続いてしまう中、突如として引っ張る力が弱まり、どうしたのかと視線を向けてみれば――――

 

 

「ふえええん……っ……恭也の、意地悪〜!」

 

――引っ張っていた手を離して目元に当て、泣き始めていた。

 

 

正直、誰がどう見ても泣き真似にしか見えない。というか、実際のところ泣き真似だ。

だが、泣き真似だと分かっていても見続けたいとは普通は思わない。恭也とてその例に漏れず。

故にか、どうしたものかと指で頬を掻きつつ僅かに悩み、結果として了承を口にするしかなかった。

するとリースは途端に嬉しそうな笑顔になり、さっさとベッドの中に潜り込んで掛け布団へ捲り、自身の横をポンポンと叩いてくる。

年齢的に見ればそういった事への恥ずかしさというのを持ってても良いものだが、よく考えれば彼女のそれは仕方ないのかもしれない。

以前、アイラから聞いた話なのだが、リースはシェリスの姉という立場上、他者に甘えるという事をしない子だったらしい。

その当時は慕っていたジェドにもそんな一面は見せず、アイラ自身も見たことが無い。だから、ほとんどの者にはしっかり者と映る。

しかし、実際は立場の問題でそうせざるを得ないだけ。本当の彼女はシェリスと同じで、甘えたい年頃の女の子なのだ。

そして今まではそれが出来なかったが、今は恭也という甘えられる人がいる。だから、無意識にでも素の自分が出るのだろう。

いつもと異なる様子からアイラの話を思い出し、そこへと考えが至ったからこそ、恭也ももう文句も言わずに指示通りにした。

 

「前はデバイスの中だったから分からなかったけど……恭也、温かいね」

 

「そうか……」

 

室内の電気を消し、隣へと身を横たえた恭也の腕に軽く抱きつき、呟くような声でそう漏らした。

それに彼も相槌を打ち、その少し後にリースが寝息を立て始めたのを合図に自身も目を閉じる。

そして目を閉じてから更にしばしして意識がゆっくりと落ちていき、彼自身も静かな寝息を立て始めるのだった。

 

 

 

 

 

翌日、いつもの習慣で恭也は少し早く目が覚めたのだが、起きるに起き上がれなかった。

その理由は隣で眠るリース。眠る前から翌日となった今に至るまで、彼女はずっと彼の腕を抱き続けている。

起こせばそれまでの話ではあるが、気持ち良さそうな寝顔を見ると気が引け、結局しばらくそのままとなる。

そしてそれから約一時間近く二度寝も起きる事も出来ないままが続いたとき、彼女はようやく目を覚ました。

 

「ふみゅぅ……おはよ〜……」

 

「あ、ああ……おはよう、リース」

 

片手でまだ彼の腕を抱いたまま、もう片方の手で少し眠たげに目元を擦りだす。

その行為にて少しばかり目が覚めたのか半目の状態で腕を離し、ベッドに手をついたまま恭也を跨いで降りようとする。

だが、少し目が覚めたといっても未だ若干寝ぼけ気味なため、彼を跨いだところで手を踏み外してしまう。

咄嗟に手を伸ばした恭也によって落ちるのは免れたがそれで完全に目が覚め、今度はちゃんとベッドから降りた。

その後、リースが起きた事で恭也もようやくベッドから降りることができ、軽く伸びをしてからベッドに腰掛ける。

するとそれとほぼ同時に扉をノックする音が聞こえ、二人が視線をそちらに向けると共に扉が開き、一人の少女が入ってきた。

 

《おはようございます……って、あれ? 何で恭也さんの部屋にリースもいるの?》

 

「何でって……一緒の部屋で寝たからに決まってるじゃん」

 

《そ、そうなんだ……》

 

部屋に入ってきた袖越しにトレイを持つ少女――カルラはリースの姿を見るや否や、疑問符を浮かべて尋ねる。

それに彼女が真っ正直に答えた途端、なぜかカルラは相槌を打ちつつ若干目を逸らし、頬を赤く染めていた。

普通の人が見れば何を想像したのかというのはこの様子で一目瞭然だが恭也はもちろん、リースも鈍いのか首を傾げるだけ。

そして若干の沈黙が訪れる羽目となるが、静寂を破るようにカルラは頬を染めたまま視線を戻し、手に持っているトレイを差し出す。

 

《えっと、朝御飯を持ってきたんですけど……》

 

「……一人分しかないじゃん」

 

《ご、ごめん。その、リースまでいるなんて思わなくて……す、すぐ用意するから》

 

そう言ってトレイを近場の机に置き、リースの分を用意しようとすぐに部屋を出ようとする。

だが、部屋を出るより早く恭也に止められ、自分はそこまで空腹じゃないから今持ってきた分をリースにと言う。

それにカルラはやはり若干申し訳なさそうにいいんですかと尋ね、それに恭也が頷いた事で部屋へと留まった。

ちなみにリースはというと、恭也がそう言った時点で早くもトレイを持って床に座り、現在進行形で食事に夢中であった。

それを恭也は少し呆れ気味の目で見つつカルラと共に同じく床へと腰掛けると、彼女はそこで思い出したかのように告げた。

 

《そういえば、昨日の賭けについてラーレから伝言を預かってきたんですけど》

 

「賭け……ああ、ポーカーの件か」

 

《はい。まず恭也さんに対しての要求ですけど……『一日給仕係に任命する』、だそうです》

 

「給仕係、か……ずいぶんとまともな要求だな。もっと滅茶苦茶なものがくると覚悟してたんだが……」

 

《言葉はまともですけど……ラーレの事ですからたぶん、給仕係というより奴隷に近い感じになると思います》

 

給仕係と聞けば、ほとんどはお茶を入れたりある種の雑用をこなしたりする人を想像する。

だが、聞けばラーレの脳内では給仕係=奴隷という構図になっている可能性が高いらしい。

つまりどの道、楽な要求ではないという事。故に恭也はどうとも言えないという顔をするしか出来ず、若干話題を逸らすように詳細を聞く。

それにカルラが語るには、それを行うのは明日の朝から。これは模擬戦の事を聞き及んだ上でのせめてもの配慮との事。

そして給仕係に任命された一日はラーレの命令には必ず従わなければならず、時間もそれなりに遅い時間まで。

内容を聞く限りでは結構ハードな要求であるためか聞き終えた後、恭也はすでに疲れたような表情で溜息をついた。

そこでトレイの上の食事をちょうど食べ終え、マッタリ気味だったリースがふと首を傾げつつ、口を開いた。

 

「それが恭也に対してって事は、私にも何か要求みたいなのがあるの?」

 

《あ、うん……一応、あるよ。ただ……その……》

 

「歯切れ悪いなぁ……あるんならあるで、さっさと内容言ってよ」

 

《えっと……じゃあ、言うけど……あの……お、怒らないで、ね?》

 

いつも以上におどおどした様子で言ってくる彼女に対し、リースははいはいと何度か頷いて返した。

だが実際、怒らないようにと念を押すという事は相当な要求を言ったという事なため、場合によっては怒るかもしれない。

しかし彼女が頷いた事で絶対に怒らないと信じ込んだカルラは、少しホッとしつつそれを口にしてしまった。

 

《『乳臭いガキンチョは邪魔だから、部屋の隅で丸くなってなさい』って……》

 

「……は?」

 

《だ、だから……『乳臭いガキンチョは邪魔だから、部屋の隅で丸くなってなさい』って、言ってたんだけど》

 

聞き取れなかったのだと思い、律儀にもわざわざ同じ事を繰り返し伝えるカルラ。

でも実際のところは聞き取れなかったわけではない故、それは怒りを増長させる行為に他ならない。

だけどカルラには怒らないのだという前提が頭にあるためか、自分のした事を理解していない。

故にトレイに両手を添えて俯き、プルプルと震えだすリースの様子に疑問符を浮かべて首を傾げる。

加えて彼女の纏う空気が危ないものに変わっているのにも気づかず、首を傾げつつどうしたのかと尋ねようとする。

しかし、尋ねるために彼女が念話を飛ばすよりも早く――――

 

 

 

「ふ、ふざけるにゃぁぁぁぁ!!」

 

――リースの怒りが、爆発してしまった。

 

 

 

興奮のためか語尾は猫語。加えて爆発と同時に手を添えていたトレイを怒りのまま宙へと舞わせる。

当然、トレイが宙を舞うと上に乗っていた皿も舞うため、そのまま落ちてしまえば確実に皿は割れる。

故かリースの怒りを察していた恭也はすぐさま手を伸ばし、宙を舞う皿のみをキャッチするという機転を利かせた。

それにより落ちたのはトレイにみ。トレイは材質的に割れる代物ではないため、落ちても安心であろう。

だけどそれで安全なのは皿だけ。怒りが本格的に向けられるのはそこではなく、実際は要求を言った本人。

でも本人はその場にいないため、代わりに彼女の怒りを向けられてしまうのはこの場に一人しかいなかった。

 

「十三歳の女の子に向かって乳臭いって何よ!? ていうか私だけその扱いっていうのがムカつくにゃぁぁぁ!!」

 

《い、痛い痛い!! か、髪、引っ張らないで〜!!》

 

トレイを投げたと同時に飛び掛り、咄嗟に逃げようとしたカルラは背を向けた段階で足を縺れさせて転倒。

その上にリースは馬乗りになり、先端を結んで二つに分けられている長い髪の先を両方掴み、引っ張り出す。

引っ張る力は手加減がないため、引っ張られている本人からしたら凄まじい痛みを味わう羽目となるだろう。

実際にそれを象徴するかの如く、その本人たるカルラは痛いと連呼し、表情は今にも泣きそうな感じになっていた。

 

「お、おい、少し落ち着け、リース。さすがにやりすぎだ……」

 

「にゃぁぁぁ!! はにゃせ〜!!」

 

カルラの様子を見てやりすぎだと判断した恭也はキャッチした皿を床に置き、リースを抱き上げる。

その際に掴んでいた髪を放させ、それによりカルラは解放された。だが、当のリースは未だ暴れ続ける始末。

だが必死に恭也の手を逃れようともがくも、放したらまたカルラに襲い掛かると分かるため放さない。

そしてリースの様子にカルラはビクビクと怯える……そんな若干騒がしい状況はリースが落ち着くまでの間、しばらく続く事となった。

 

 

 

 

 

落ち着きを取り戻すまで約十分という時間を消費した後、三人は部屋を出て艦内をぶらつく事にした。

本当なら恭也とリースは完全に部外者、というか敵なのだから、下手に艦内をウロウロされるのは宜しくないはず。

だが、面子の一人であるカルラが何も言わない事から別段構わないのだと察したため、ぶらつくという事になった。

まずは給仕室へと赴いて食器やトレイを片付け、約束の時間まで適当に艦内を出歩いて時間を潰した。

そして時間近くになるとカルラに用意してもらった昼食を取り、そのまま三人揃ってトレーニングルームへと足を運んだ。

そこですでに待っていたギーゼルベルトと合流し、彼の口から模擬戦に関する簡単な説明を受ける。

といっても本当に簡単なもので、単に設定を非殺傷にして互いに全力で戦う事というだけのものである。

その簡易な説明の後、ギーゼルベルトが部屋を出たのを合図に若干間を開け、互いのデバイスを起動させる。

だがカルラはそれだけでいいのだが、恭也の場合はオリウスを起動するだけでなく、もう一つだけする事があった。

 

『では……模擬戦を始める前にまず、高町恭也はリース嬢とのユニゾンを行ってもらう。可笑しな聞き方ではあるのだが……ユニゾンの仕方は分かるか、リース嬢?』

 

「完全に分かってるとは言えないけど……一応、何となくなら」

 

『ふむ……まあ、こればかりは一度やってみないと分からんか。ではリース嬢、君の思うやり方で早速やってみてくれ』

 

ユニゾンデバイスとしての自分は初めて。だから、いきなりユニゾンしろと言われても分からないのが普通。

しかし先ほど口にした通り、リースには分かる。ユニゾンデバイスとなった身体が、全てを自分に教えてくれる。

だから隣の部屋よりマイク越しに告げてくるギーゼルベルトの指示にも戸惑わず、恭也の前へと立って向かい合う。

 

「じゃあ……いくよ、恭也」

 

「……ああ」

 

ユニゾンデバイスが術者に求める中に魔導師であるかないかという部分はあまり関係してこない。

そんなものよりも一番術者に求められるのは、融合適正があるのかどうかという部分だ。

もちろん、デバイス側にも術者に合わせての微調整や適合検査などというものが必然的に求められる。

だけどそれはあくまでユニゾン出来ればの話。第一前提である融合適正がないものでは、ユニゾン時に問題が発生する。

それこそがユニゾンデバイスを製品化に至らせなかった理由。当時事故例が多く、危険性も高かった『融合事故』。

ユニゾンした対象が適正を持ち得ない場合、デバイス側が術者をのっとり、自立行動を始めてしまうという事故。

故に適正がない者はユニゾンすべきではなく、そもそもユニゾンデバイスなど持ってはならないのだ。

だが、この適正というのも判断はかなり曖昧であり、一見しては分からぬ上に検査をしても明確に結果が出ない場合がある。

しかし、適正を見極める項目の中で唯一検査をせずとも、目で見るだけで分かる項目がある……それは――――

 

 

 

――術者とデバイスの間に、信頼という繋がりがあるかという項目。

 

 

 

インテリジェントやアームドよりも明確に持ちうる意思、デバイスの中で唯一姿を与えられたデバイス。

一部の研究者や技術者の間では、デバイスは心を持っているという考えがあり、ユニゾンデバイスはその代表だと言える。

開発中止に伴って希少種なデバイスだが、最も人間に近い……下手な人間よりも、人間らしいデバイス。

それ故にこのデバイスと術者との信頼という形はそれぞれ違っても、目で見ただけでも分かるものがほとんどだ。

そして適正の中でこれが最も分かりやすい適正であると同時に、最も必要となってくる適正でもあった。

だから検査も何もしていないというある種危険なテストでも、ギーゼルベルトもカルラも、この二人なら大丈夫だと信じていた。

そんな思いを抱く二人が見守る中で恭也と向き合ったリースは静かに目を閉じ、彼を巻き込んでその身を光で包み込む。

 

《『…………』》

 

光が二人を包み込んでから僅かして、測量せずともその地点から感じる魔力は膨大となる。

それはある意味異端な量。確かにユニゾン時はユニゾン前よりも魔力量というのは飛躍的に上がる。

だが、今までユニゾンデバイスを多く見てきたわけではないが、その量は見てきた中では一番と言えるもの。

しかしよく考えれば、それは当然と言えるかもしれない。リースはユニゾンデバイスだが、普通のユニゾンデバイスではないのだから。

人の心とリンカーコアを持つ、本当の意味で最も人間に近いユニゾンデバイス。それがリースという少女の現在なのだ。

つまり、今感じる魔力は恭也が持ちうる魔力にリースの持つ魔力が上乗せされ、更にそれをユニゾン時魔力上昇の傾向に乗っ取った結果。

そして魔力の上昇が止まった途端、二人を包んでいた光が晴れていき、初ユニゾンの結果がその場に姿を現した。

 

『ほう……』

 

《…………》

 

目の前に晒された姿にギーゼルベルトは感嘆の息を漏らし、カルラに至っては言葉が出なかった。

そんな二人の視線の先にあるのは、恭也の姿のみ。先ほどまで彼の前にいたリースの姿はない。

だが、恭也の姿も先ほどまでとは明らかに違う。纏っていなかった漆黒の防護服を纏い、髪と瞳の色は黒から蒼へ変わっている。

更に一番特徴的なのが、背中にある翼のような形状をした同色の二枚の羽。魔力の放出とも見える、力強さを窺わせる翼。

その変化こそが、ユニゾンが成功した証。二人が一つとして交じり合い、互いの信頼を形として表した姿であった。

 

「……準備はいいか、リース、オリウス」

 

《《オッケーだよ、恭也(No problem, my master)!!》》

 

ユニゾン後の恭也の声には変化に対する戸惑いはなく、リースとオリウスに至ってはテンション高め。

そんな両者の返答を聞いた後、同じ質問を問うような視線を目の前少し先にて立つカルラへと向ける。

するとその向けられた視線によって若干呆然としていた彼女は我に返り、慌てたようにコクコクと頷いて返事を返した。

その返答から緊張が互いの間を走るかの如く、場が静まり変える。向かい合う二人も、相手から目を外さない。

そしてそんな時間にすればほんの僅かの見詰め合いと静寂は――――

 

 

――恭也が動き出した事で、破られた。

 

 

フェイトとしたときのように相手の力量を測るためならともかく、今回のような場合は実戦に近い。

それ故、彼のそれは開始の合図など存在しないというかのような行動。そしてそれはカルラとて熟知していた。

だから急速で接近してくる彼に対して、飛翔魔法にて僅か後ろ気味に宙へと飛び上がり距離を取る。

そこから同時に魔法陣を展開して橙色の球体を複数生成し、右手を振るって彼へと目掛けて飛来させる。

 

《っ――恭也!!》

 

それが普通の魔力弾ならば、避けるのは容易い。だが、飛来する速度が遅すぎるのが奇妙。

その奇妙感からリースは以前の事を思い出し叫ぶ。対して恭也も、リースと同様の事を頭に思い描いていた。

故に彼は高速移動魔法を行使して直線的な軌道で飛来してくる魔力弾を横に回避。途端、魔力弾の全てが分裂拡散する。

以前も使われた見覚えのある花火のような魔法。それは見たところ、術者本人の意思で分裂のタイミングは操作出来るはず。

だから以前も今回も彼の至近に到達したタイミングだった。そして炸裂させたという事は、避けられるとは思ってなかったのだろう。

高速移動魔法で目の前から姿を消した瞬間、考えが外れた驚きよりも先にカルラはその場で若干しゃがむように身を屈める。

瞬間、彼女の上半身があった場所を刃の一閃が通過。そしてそこから二撃目が来るよりも早く前へと飛び退いた。

それと同時に先ほどと同種類の魔法を今度は飛来させるわけではなく、浮遊させるように進みながら後方にばら撒く。

そして彼が追撃のために動き出した矢先に炸裂させ、動きを止めて振り向き、魔法陣を展開。別の魔法を瞬時に構成する。

 

Lumiere Tonnerre》

 

魔法陣の展開と共に前へと掲げた右手。袖に隠れたその部分から僅かな光が発せられる。

その光が術式構成完了の合図となり、環状の魔法陣を纏った球体が彼女の周囲に複数形成される。

形成されたそれらは彼女が前へ掲げた右手を横に振るうと閃光となって発射され、雷を纏いつつ彼のいるであろう場所へと迫る。

しかし、先ほどの爆発で僅かに煙が発生しているそこを閃光が貫くも――――

 

 

――直撃の手応えが一切、なかった。

 

 

動き出したと同時に炸裂させたのだから、アレを避けるのは難しい。よって手段として浮かぶのは防御。

だけど瞬時に障壁を発生させて魔力弾炸裂の脅威を免れたとしても、煙で見えない状態から次を予測するのは困難。

もし予測して障壁を維持していたとしたら、着弾の手応えくらいあるはず。だけど、先ほどはそれすらもない。

だとしたら一体どうなっているのか……そこを思考し始めた矢先、自身のいる地点から若干横の先にて、弾丸の装填音が響いた。

 

《っ――!?》

 

音が耳に届いた途端に振り向いたその先にはあの状況から無傷の状態で抜け、浮遊している恭也の姿。

ただ浮遊しているわけではない……弾丸の装填音をその位置で響かせ、剣をデバイスの一部たる腰の鞘に納め、抜刀の構えを取っている。

カルラ自身、彼の持つ魔法の全てを知っているわけではない。むしろ、ほとんど知らないと言ってもいいくらいだろう。

それに極まって予測のし易いようでし辛いソレ。距離も考えて一見すれば、抜刀の瞬間に刀身を魔力で伸ばしての中距離攻撃が浮かぶ。

しかし絶対にそうだと考えて安易に避けるわけにもいかない。もし全く違う傾向の魔法なら、それが裏目に出る場合がある。

となると避けるか防御するか、どちらが正解かを見極める必要があった。それ故、どちらの動きも取れるよう警戒しつつ、出方を窺う。

 

「切り裂け!!」

 

Schwarze Welle!》

 

出方を窺うカルラに向けて恭也は叫びと共に抜刀。瞬間、予測したとおり刀身に魔力が纏っているのが分かった。

だけど予測が合っていたのはそこまで……抜刀から刃を振り切る事で魔力は刀身から離れ、青黒い半月状となって飛来する。

簡単に言ってしまえば飛ぶ斬撃。速度は抜刀のソレに影響されるのか、中々に速いものだと言える。

しかし刀身から離れた瞬間にどんな魔法かが分かったカルラにとって、速度が速かろうとそこから避けるのは容易い。

故に彼女は飛来するソレに対して上空へと上昇し、飛来する斬撃の進路上から逃れてそれを避けた。

 

 

――だが、その判断は誤りだったと次の瞬間にて知らされる羽目となった。

 

 

上空に逃れた彼女へと向けて振り切った剣の柄に左手を添え、逆方向へと今一度振り切る。

すると先ほどと同じ半月状の魔力斬撃が飛来し、上昇して立ち止まったばかりの彼女へと急速で迫る。

一撃だけの中距離魔法だと断定して動いたのが間違い。それ故、次のに対して回避が間に合わない状況。

いや、実際は絶対的に間に合わないわけじゃない……ある手段を用いれば、それは避ける事が可能となる。

でも、彼女自身その選択が取れず、回避という手段を削除して障壁を展開した。

その途端、飛来した斬撃は着弾して大爆発を引き起こし――――

 

 

――爆発が起こった場所を中心にして、威力が球体上となって拡散する。

 

 

恭也のいる地点まで届くほど大きな青黒い球体を形成され、恭也も僅かに後方へと急遽下がる。

そして形成されてから程なくして球体は消え、球体の形成されていた中心地点にはカルラの姿があった。

だがそれも無事と言える姿ではない。安易に正面だけで防ごうとしたためか、威力の拡散で纏う服はボロボロ。

非殺傷だから魔力ダメージであって外傷はないが、痛みに似た衝撃は通るためか若干辛そうな顔を窺わせる。

 

「……ん?」

 

そんな状態の彼女へと視線を肯定し、次の攻撃のための構えを取ろうとした矢先、恭也は気づいた。

ボロボロになった事で見えるようになった左手。右手にデバイスを装備しているだろうから、何もないはずの左手。

なのに目を向けた左手の手首辺りには橙色の宝玉が備わる腕輪。ただアクセサリーかとも思うが、それならば隠すはずがない。

とすればそれは一体何なのか……そんな疑問は浮かぶ事すらなく、簡単に答えは恭也の頭に浮かんだ。

 

「一つじゃ、なかったんだな……君の持つデバイスは」

 

《え……?》

 

どうしてそれをと言うよう驚きを浮かべるも彼女自身、袖が破れて左手が見えている事にすぐ気づいた。

そしてなぜか返答を返すではなく、慌てたように左手を後ろに隠す。見られたくないものを見られたかのように。

袖の中に隠して使わなかったというのも不思議だが、その行動も同じくらい疑問に思わざるを得なかった。

本気同士で戦うという前提の下での模擬戦。なのにもう片方を使わないというのは、明らかに本気とは思えない。

つまりは約束を違えているという事。しかし、様子から見て彼女が恭也とリースを舐めているからじゃないのは分かる。

だからこそ、本気を出していなかった事実に対する怒りは浮かばず、それ以上になぜかという疑問が頭の中を駆け巡っていた。

でも左手を隠したまま俯いてしまった彼女に聞いても答えは返ってこず、困り顔となる恭也に対して別のほうから答えが返ってきた。

 

『傷つけるという行為を嫌う……それが、カルラが本気を出さない理由だ、高町恭也』

 

別室のモニタから模擬戦の様子を見ていたギーゼルベルト。答えはその彼から返ってきた。

そしてそれだけ聞けば、詳細は簡単に分かる。つまり、右手よりも左手のデバイスのほうが、戦闘に特化しているのだろう。

だから使えない……相手を傷つけたくないから。だから非殺傷が最大限に利く魔法ばかりの右手のデバイスを使う。

要するにそういう事。舐めているわけじゃない、侮っているわけじゃない……ただ、傷つけたくないという優しさからの行動。

そしてギーゼルベルトの言葉からそれが分かったからこそ、彼は剣を下ろして視線を向け続けながら告げた。

 

「そのデバイスを使って、俺たちと戦ってくれないか……?」

 

《……嫌、です。これを使ったら、私は……恭也さんを……》

 

「傷つけてしまうかもしれない、か……確かに、そちらを使わない状態の君も十分に強い。それに加えてそちらを使われたら、無傷で終わるというのは難しいし、出来ないかもしれないな」

 

《だったら……》

 

「だけど、自分が傷つくという可能性が高くても、俺は本気の君と戦ってみたいんだ」

 

それは剣士として、戦うものとして、強き者と戦ってみたいと思ってしまう性分。

だが、自身の言葉を遮ってまで告げられたそれに対しても彼女は首を縦に振らず、でも……と呟き俯いたまま。

だけど彼女に対して思いを告げるのは彼だけではない。もう一人だけ、思いを告げる人物はこの場にいた。

 

《あのさ……傷つけたくないってのは優しさだと思うし、私自身もそれがアンタの良いところだと思うよ? だけど、本気で戦うって前提でそれを持ち出すのは相手を馬鹿にしてるって事にならないかな、カルラ?》

 

《わ、私は……そんな、つもりなんて》

 

《つもりがあろうがなかろうが、こっちが真面目にやってるのにアンタが手を抜いてたら、馬鹿にしてるって見ても可笑しくないんじゃない?》

 

別にリースは恭也のように強き者と戦ってみたいという思いはない。むしろ、率先して戦うタイプじゃない。

だが、戦いとなれば手は抜かないというのはある。それ故、カルラの行為はリースにとってそうとしか映らなかった。

もちろん、恭也と同じでリース自身も彼女が馬鹿にするや侮るなどという考えの下でそうしてるわけじゃないと分かってる。

それが彼女自身の優しさなのだと、美点と言える所なのだと。だけど、優しさは場合によっては相手を傷つけるときもある。

今回の場合、彼女の傷つけたくないから本気を出さないという優しさは、僅かでも二人の自尊心を傷つける事になっている。

加えてこの模擬戦はただの模擬戦ではなく、一つの賭け。もし本気じゃない彼女を倒して賭けに勝っても、二人自身納得は出来ない。

どちらの理由も自分本位なものではある。しかし、それらを抜きとしても本気のカルラと戦いたいという思いは本当だ。

恭也の言葉から、そしてリースの言葉からそれが十分に伝わるのか、少しの後にカルラは俯いた顔を僅かに上げる。

 

《分かりました……二人がそこまで言うなら、私の全力をお見せします。でも……危なくなったら、その……》

 

《降参してってわけね……そこはまあ、任せて。恭也が諦めようとしなくても、私が維持でも止めるから》

 

リースの返しに対して人聞きが悪い事を言うなと恭也は呟き、カルラの表情にもそれでようやく笑みが戻ってくる。

そしてそんな二人の前に背中にて隠していた左手を出し、前へと掲げるように差し出した。

 

《起きて、ベルセルク》

 

Program et commencer a construire l'exterieur. Berserk, demarrez!》

 

彼女の告げた言葉に応じて左手の腕輪に備わる宝玉は光を放ち、彼女自身の身体を包み込む。

そこから光の中でボロボロだった彼女の服はガラリと変わり、余計な部分のほとんどが切り取られた防護服を形成する。

見た目的にはフェイトの防護服と似ており、違う部分と言えば手足に装甲が付いていない事とマントを羽織っていない事。

そんな防護服を形成し終えた後、今度はデバイスが武装へと変化する。その形状は、右手と若干似たグローブ。

だけど大きく違うのが五指のそれぞれに備わる鋭い爪。そして手首辺りにある機械仕掛けの太い腕輪。

それらを光が発生してから一瞬と言える時間で形成し終え、終えた途端に光が途絶え、二人の前にその姿を晒した。

 

《その服……もしかして、さっきまでのはバリアジャケットじゃなかったの?》

 

《う、うん。こっちが私の本来の戦闘服なんだけど……その、最初からこっちを見せるとバレちゃう可能性があったから》

 

「中距離でも遠距離でもなく、本当は近接戦闘が得意なのだという事がか?」

 

防護服と左手のデバイスを見れば、自ずと導かれる結論。だが、それ以前に恭也は違和感を持っていた。

先ほどまでの彼女の戦い方は距離を置いての戦闘が得意だと見せるべく、相手の接近から全力で逃げていた。

それだけならば恭也も騙されていただろうが……一度だけ、それが得意だとすれば出来ないはずの動きを見ている。

高速移動魔法によって背後に回っての一閃。それを彼女が振り向きもせず避けるという、動きを。

距離を置く戦闘を行う者は至近まで接近されると意外と脆い。だけどその動きは、そんな考えを崩してしまうような動きだった。

だからずっと違和感を感じていた。そしてその違和感が、彼女の今の姿を見る事でようやくはっきりしたというわけだ。

対してカルラも恭也の言動からバレていたと悟り、少しの驚きを浮かべるも、肯定するように頷いた。

そしてそこから僅かに訪れる静寂の中で恭也は剣を構え、応じるようにカルラも若干姿勢を低くして左手の爪を構えた。

 

 

 

――途端、視界からカルラの姿が消える。

 

 

 

現象に驚きを浮かべる間もなく、自身の目の前まで一瞬で移動したカルラに恭也は反射的に剣を振るう。

それに振るってきた彼女の爪は弾かれるが、その瞬間に再び彼女の姿は目の前から消えた。

そして続けて現れたのは背後。それを現れて爪が振るわれる寸でで感じ取った恭也は前に飛んで避けた。

 

《ファーティマ、雷弾生成》

 

《Lightning voie, Get set!》

 

前へと飛んで若干の距離を取ろうとする彼に対して、カルラは橙色の魔法陣を展開。

直後、紫電を纏う球体が複数彼女の周りに形成され、右手を振るうと同時にそれらは多種多様な軌道を描き、飛来する。

例の花火のような魔法と似たように見えるが、描く軌道も飛来するスピードもアレより断然上。

加えて追尾効果があるのか、様々な軌道を描くも全て恭也へと迫っているため、安易に避ける事は出来ない。

相殺しようにもこちらの魔法の形成から発射までの間で到達される。それ故、手段は防ぐというものしか浮かばない。

だから恭也は振り向き様に正面へ左手を掲げ、障壁を展開。その瞬間、雷弾は障壁にぶつかり、爆発を発生させた。

 

《ベルセルク、カートリッジロード》

 

Lightning Ongles》

 

しかし防いだ矢先、休ませないとでも言うかのように立ち上る煙を抜けて彼女は迫る。

そして同時に弾丸の装填音を響かせ、雷を纏い出した爪を上段から振り下ろす形で彼へと振るった。

振るわれた爪の対してその速さから恭也は回避出来ないと悟り、剣の峰に左手を添えて防ごうとする。

 

 

――だが、刃にぶつかった爪の威力は彼の予想を超えていた。

 

 

高い威力だと予想して柄に両手を添えて防いだが、その予想を大きく上回るほど重い。

ユニゾンにより魔力等だけでなく身体能力も僅かながら上がっているのだが、それでも防ぎきれない。

それ故か抑え切れない威力は彼の身体を容易に爪の振るわれた進路上へと吹き飛ばし、地面へと叩きつけた。

そこからカルラは追撃とばかりに爪を振り上げつつ急降下。そして一瞬で至近により、爪を大きく速く振るう。

しかし、それを受けるわけにはいかない恭也は痛みを耐え、地面に背中を付けた状態から爪のある手首辺りを狙って蹴りを放つ。

狙いとタイミングを若干でも間違えば足を斬られる危険のある行為。だが、それを承知で放った蹴りは狙い通りの場所に的中した。

それにより蹴りは手首にある腕輪にぶつかって腕自体を弾き、そのままゴロリと素早く一回転して一閃を放つ。

 

《――っ!》

 

放たれた一撃に対してカルラは驚きを浮かべるも、不安定な体勢からとは思えない動きと速さで後方に下がる。

しかし、如何に速度があっても咄嗟の行動であるのに変わりはなかったのか、左腕にて浅く切り傷が出来た。

そして彼女が距離を取ったのと同時に恭也は起き上がり、剣を構えつつ口を開いた。

 

「強いな……さっきまでとは比べ物にならないほど」

 

《恭也さんも、十分強いです。正直、今日初めてリースとユニゾンしたとは思えないくらい》

 

傷つけたくないという思いを抑えればここまでの強さを持つのだというのは二人にとって驚き事実。

対してカルラにとっても今日、初めてユニゾンをしたはずの二人がここまで立ち回れる事に驚いていた。

そんな互いの驚きを口にし合い、同時に恭也もカルラも僅かな笑みを口元に浮かべた後――――

 

 

 

 

 

――再び互いの得物を交え合うべく、二人は動き出した。

 

 


あとがき

 

 

今回出た通り、カルラは本来二つのデバイスを使う戦い方なのです。

【咲】 片方がインテリジェントで、もう片方がアームドかしら?

うむ。でも、インテリジェントであるファーティマは使う頻度が多いが、近接武器でもあるベルセルクはあまり使わない。

その理由が今回挙げた通り、彼女自身が他者を傷つける事を好まないからというわけだ。

【咲】 アームドは直接攻撃メインだから、非殺傷が利かないものね。

そうそう。ただまあ、その部分を抑え込めば、彼女の実力は飛躍的に上がる。

【咲】 というか、傷つける事への罪悪感を拭い去ったらかなり強いんじゃないの、あの子。

まあね。ただ彼女自身、今回は二人の説得で使う事にしたが、それでも罪悪感があるから攻めきれていない。

【咲】 あれでまだ本気じゃないわけ?

んにゃ、本気と言えば本気だよ。だけどさ、恭也を翻弄するだけの速さがあり、魔導師としてはカルラのほうが確実に上。

その条件化の下で本気同士で戦ってるのに、ベルセルクによる一撃が掠りもしないのは可笑しくないか?

【咲】 それは、恭也が上手く避けてるからでしょ。

いや、そう見えるかもしれんし文中では語ってないけど、カルラはそうなるよう促してるんだよ。

意識的にではなく、無意識にだけどね。

【咲】 つまり、傷つけたくないっていう思いが無意識にそんな行動をさせてるって事?

そういうこと。そして無意識だからカルラはもちろん、恭也もリースもこれには気づくことが出来ない。

でもまあ、それでも十分過ぎるほど強い子なんだけどね。

【咲】 まあねぇ。ていうかさ、今回初めてリースとユニゾンしたけど、それで強くなったの?

現状では飛躍的にとは言えないけど、多少は強くなってる。

ただまあユニゾンデバイスに限らず、こういう事は慣れないとそれ以上強さは得られないよ。

【咲】 要するに、ユニゾン状態での戦闘訓練をしっかりしないと駄目って事ね。

あと術者に合わせてのデバイスの調整等もな。まあ、そこの辺もまた、後々出てくるよ。

【咲】 ふ〜ん……ところでさ、さっきも言ってたけど、カルラの速さって恭也より上よね?

うん、確実に上だね。

【咲】 恭也も十分速いのに、それ以上の速さってどうやったら出せるのよ。

ん〜、簡単に言っちゃえば、彼女は速度向上型の補助魔法を常時掛けてるんだよ。

加えてバリアジャケットもフェイトの似たような構造で、完全に防御を捨てた速さ重視のものだし。

【咲】 つまり、恭也が高速移動魔法を常に使って戦ってるのと同じってわけね。

高速移動魔法よりは遅いけど、まあそんな認識で間違ってないよ。

ただこの戦い方は魔力を常に消費し続けるから、長期戦には向かないんだけどな。

【咲】 でも、ここまで速かったら手早く殲滅する事も可能でしょ。

まあね。とまあ、こんなところで次回の予告だが……次回は恭也&リースVSカルラの続き。

初ユニゾンという事でまだ立ち回りを把握しきれていない恭也は、異常な強さを持つカルラを相手にどう戦うのか。

【咲】 少なくとも、今のままだと負けるのは確実じゃないかしら。動きについて行き切れてないし。

まあね。だけど、この模擬戦で戦っているのは恭也だけじゃない。魔法関係なら、リースのお任せあれだ。

【咲】 つまり、勝負の鍵はリースが握ってるわけね。

そうかもしれない。ま、詳細は次回をお楽しみにという事で。

【咲】 そう……じゃ、今回はこの辺でね♪

また次回会いましょう!!

【咲】 ばいば〜い♪




恭也とカルラの戦いの行方は!?
美姫 「とっても気になる所よね」
ああ。恭也の方はユニゾンにまだ慣れてないだろうし、カルラは無意識に傷つけたくないと思っているからな。
結果がどうなるのかだけじゃなく、この戦いの後の展開も楽しみだな。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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