彼女とジェドに関わる過去の話。それを聞いた一同はしばし無言だった。

それは何を言っていいのか分からなかったから。悲しい過去に対して掛ける言葉が見つからないから。

加えて管理局がそんな事をしたのだという事実を聞かされた事に対する驚きもある。

だから少しの間、誰も口を開かぬまま静寂が続く事となった。

だが、そんな中で先の話に一つの疑問を抱いたのか、クロノは静寂を破ってそれを尋ねた。

 

「以前、貴方は「罪は問うてもすぐに捕まえる事はするな」と協力の条件として提示しましたよね? あれは、さっきの話外で何か罪を問われるような事をしたという事ですか?」

 

「……ああ。研究の手伝いと称して、魔導師としての資質を持つ多くの人間を攫ったりしてたよ。アイツの研究の、実験材料としてね」

 

「それって……前に言ってた、クロノの追っていた事件の事?」

 

「そうだよ。厳密にはアタシだけじゃなく、アドルファもそれに加担してたけどな」

 

つまりは、それがアイラの抱く罪。彼の言うままに人を攫い、結果として多くの人を死なせた。

死なせた事自体はジェドの手によるものだろうが、攫ったという時点で協力していたのには変わりない。

故にそれが知れ、彼を止められぬままに管理局へと捕まる事を恐れた。だからこそ、あの条件を提示したのだ。

そのためか、クロノも事実を聞いた今、すぐに彼女を拘束するという事はしない。

それが条件だからというのもあるが、一番はこの事件を解決する上で彼女という存在は必要不可欠だからだ。

だから今はまだ捕まえるという事はしない。あくまで、今はまだというだけではあるが。

 

「それにしても、あのアドルファという者は一体何者なんだろうか? 話によれば、ロストロギアを所持しているという事だが」

 

「レメゲトン、でしたよね。彼女たちだけでなく、それに関しても気になります」

 

シグナムとシャマルだけでなく、はやてや守護騎士の皆は全員そこが気になる。

確かにアイラの言ったとおりの事をしていたのなら、それは許される事ではないのだろう。

だけど彼女たちは結果として自分たちを助けてくれた。防衛プログラムとの一戦でも、リィンフォースの事に関しても。

本当に底から悪い人間だというのであれば、そんな事はしない。だから、彼女たちはアドルファたちを悪く思えない。

しかし、だからといって今回の件、彼女たちにとって無視出来る事でもなかった。

同じく防衛プログラムとの一戦で手助けしてくれた、彼女たちの気持ちを考えるのなら。

 

「まあ、そこも踏まえてこれからどう動くかに関してを考えよう。二人を取り戻して、アイツの研究を止めるためにね」

 

恭也とリースを取り戻す事、ジェドの研究を止める事。それはどちらも重要な事。

過去にどれだけ悲しい事があったとしても、今のまま放っておくなんて事はアイラでなくとも出来ない。

故に彼女の言葉に対して全員は頷き、今後の事についてを話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはB.N

 

【第二章】第十一話 悲しみを断ち切る手段

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話の始めは、現状で分かっている事の整理。

まずはジェドの目的……エティーナが死んでから、彼は再び大切な人が失われるのを恐れている。

だから死ぬという概念を断ち切り、失われる事がない方法を自分たちの娘に施そうとしている。

それが彼の目的である、人間のデバイス化。デバイスならば、壊れた所で修理すればいいだけだから。

次にアドルファ含む集団に関して……これに関しては現状で分かっている事は少ない。

分かっているのはアドルファ、ギーゼルベルト、カルラ、名前不明の男性と少女、計五人の容姿、及び彼女たちの性格の一旦。

そして彼女たちがロストロギアを所持し、ジェドと協力して彼とは別の目的で動いているという事。

正直、分かっているのはその程度。彼らがどの程度の規模の組織なのか、目的が何なのかまでは分からない。

加えて壊れた夜天の魔道書を直す事が出来るなど、彼女たちの技術力がどの程度なのかも把握できない。

つまるところ、ほとんどが不明な状態。謎の集団と言うとしっくり来るような者たちである。

大体はこんな所であるが、正直整理と言っても分からない事が多すぎて疑問を増やすだけといっても過言ではなかった。

 

「まあ簡単な結論を言えば、ジェドを止めるにしてもアドルファたちを捕まえるにしても、アイツらのアジトを掴む必要があるわけだわな」

 

「アイラさんは以前そこにいたんですよね? だったら場所がどこなのかを知っているのでは?」

 

シャマルが告げてきたのは、最もと言えば最もな疑問。

リースを連れて逃げる以前にそこにいたのであれば、場所がどこかを知っているはずだ。

しかし、その疑問に対してアイラは肩を竦め、首を横に振るった。

 

「アイツらにアジトってのは、要するにアースラみたいな艦の中だからねぇ。当然、定期的に場所も移動するからアタシでも今どこにいるのかは把握出来ないよ」

 

「だったらアースラで近辺の探索をしてみるのはどう? さすがに艦というだけあって大きい物でしょうから、レーダーにも引っ掛かるはずじゃないかしら?」

 

「それも無理だね。どんな技術使ってるのか知らないけど、あの艦は外敵から発見されないように半透明化のシールドを常時張ってるんだよ。だからレーダーにも引っ掛からないし、動いて探索しても目に見えないから見つけようが無い」

 

リンディの提案も否定され、正直なところ打つ手がないといった結論に達する。

艦のレーダーにも引っ掛からず、目で見つけようにも見つからないのであればアジトを掴むなど無理だ。

だとすれば直接アジトを見つける以外での方法を探さなければならないが、それも容易ではなかった。

 

「アイツらの面子の内で誰かを捕まえて場所を吐かせる……ってのも、難しいよなぁ」

 

「だろうね。アイツらがいつ姿を見せるか分からないし、それ以前にあの集団の面子は個々で高位魔導師と言える実力を持ってるからね」

 

「見つけても太刀打ち出来なければ意味がない、か。だが、数で攻めればどうにかなるのではないか?」

 

「そうね……大勢で一人をなんていうのはあまり気が進まないけど、手段としてはそれが一番かもしれないわ」

 

個々で戦えば太刀打ち出来なくても、一人を相手に皆で力を合わせれば捕らえられるかもしれない。

それは騎士としてはあまり気の進む方法ではないが、現状でそれしかないのであればそうするしかない。

そんな彼女たちの意見にアイラは少し思案し始め、本当にそれ以外手段がないのかを考える。

彼女にとって集団で一人をというのが卑怯だとか言うつもりは無い。だが、手段としてはよくとも危険が伴う。

過去自分と戦っていたときも、防衛プログラムとの一戦でも、見た感じアドルファは本気ではなかった。

だとすれば彼女の力というのは想像が出来ず、同様に他の面子に関しても実力が計り知れない。

そんな状態で安易にこの手段を取れば、下手をすると怪我では済まない可能性だって十分に考えられる。

だから他に手段があるのであればそうしたいが、生憎といくら思案しても彼女には思いつく方法がなかった。

故に仕方ないかとアイラは思案を止め、彼女たちの提案に頷こうとした矢先――――

 

 

 

「シェリスちゃんを説得するというのは、駄目ですか?」

 

――突如として、今まで黙っていたなのはがそう告げてきた。

 

 

 

その提案に関しては、アイラを含む誰もが驚きを示すものだった。

思いもよらぬ提案だからというのもあるが、一番は説得するという部分に関して。

彼女は誰の目から見てもジェドに忠実で、今まで説得に関しては誰の言葉に対しても聞く耳を持たなかった。

そんな彼女を捕らえるではなく、この期に及んでまだ説得すると言い出すなのはには呆れより驚きが先立つ。

だが、当然と言えば当然か、彼女に賛同する者もこの場にはいた。

 

「ウチもなのはちゃんの提案に賛成や。シェリスちゃんはいい子やから、ちゃんと話せば分かってくれるはずや」

 

「私も、なのはやはやてに賛成です。今のままシェリスを放っておくなんて、したくありませんから」

 

なのはだけでなく、シェリスと大なり小なり交流があったはやてとフェイトはその提案に賛成した。

そして少し遅れてはやてと同じくらい彼女と交流のあるシャマルが賛同の意を示す。

しかし、彼女以外の守護騎士及びその他の面々は賛同出来ず、難色を示すような様子を見せた。

シグナムやヴィータ、ザフィーラとてはやての意に賛同したいのは山々だが、正直彼女が説得に応じるとは思えない。

下手をすれば先に挙げた方法よりも危険性が出てくる可能性とてある。故に安易に賛同が出来ないのだ。

残るクロノやリンディ、アルフやユーノとしても彼女らと同意見であるため、シェリスを対象にするにしても捕縛のほうがいいのではと考えている。

別に説得などしたくないわけではない。むしろ、それが出来るなら彼女たちだってその方法に賛同している。

だけど一度だけ戦ったときの彼女の様子を見る限りでは、説得が成功する可能性よりも戦う事になる可能性のほうが高い。

だとすれば先に挙げた通り、説得するという意識化で対峙するのは危険が伴うため、この方法を選ぶ事が出来なかった。

 

 

 

――だが残る一人、アイラだけは他の面々とは少し違った反応を見せていた。

 

 

 

なのはたちの説得するという手段に対して一番に否定すると思われた彼女。

だけど実際はそれを否定するわけでもなく、かといって賛同することも無く何かを考え込んでいる。

そして皆の視線がそちらに集中のする中、彼女は視線をなのはに向けて口を開いた。

 

「シェリスを説得するのは、正直簡単な事じゃない。それを知っててその方法を選んだって事は当然、当てはあるって事だよな?」

 

「そういうわけじゃないです。でも、はやてちゃんが言うようにちゃんと面と向かって話せば、シェリスちゃんだって分かってくれる……私はそう、信じてます」

 

「信じる、ねぇ……何の根拠もなく、たかだか数回会っただけの相手をそんな安易に信じるって言うのか、アンタは?」

 

「はい。根拠がなくても、たった数回しか会った事がなくても――」

 

 

 

 

 

「シェリスちゃんは、なのはの友達ですから」

 

 

 

 

 

彼女の口から放たれたその一言。それにアイラは若干の驚きの色を見せる。

だけどそれをすぐに収めると今度は押し殺すような笑いを上げ、そのままフェイトとはやてにも視線で尋ねる。

それに二人は顔を見合わせた後、再びアイラへと視線を向け直すと頷くことで答えを返した。

彼女らの答えを見たアイラはまだしばし笑い続け、少し経って収めると再び口を開いた。

 

「本当を言うと捕縛するにしても説得するにしても、今のアイツには手を出さないほうがいいんだよ。アンタらが危険な目に合うっていうのもあるけど、戦う事がアイツを追い込む事になるからね」

 

「追い込む? どういう事ですか?」

 

「何かと戦う事でデバイスの意思と使用者の心を深く溶け合わせる機能。『リンクシステム』って言うんだけど、これがある限りアイツはリースと同じ運命になる事を避けられない。もし今のまま救おうとして戦えば、リンク率を挙げてアイツ自身のデバイス化を速めるだけになるんだよ」

 

それを聞いた一同は驚きの色を隠せなかった。なぜなら本来、そんな機能を作り上げるという事自体が無理に近いのだ。

デバイスの自律意志に関してはともかく、人間の心というのはデータでもなければ明確な形があるわけでもない。

そんな物同士と溶け合わせる事の出来る機能など、今の科学力で作れと言うほうが無理な話である。

だけどそれを語るアイラが嘘を言っているようには見えないし、現にリースはデバイスに心ごと組み込まれていた。

ならば信じるしかない。しかし信じるにしても、逆に今度はどうすればいいのかという疑問が浮上してしまうのも事実だった。

中でもなのはたちが特に気落ちしていた。説得すれば助けられると思っていたのに、戦いになれば彼女を追い詰める事になるのだから。

しかし、アイラの話はそこで終わりではなく、予想だにしない言葉をその後に続けた。

 

「けど、アンタたちがアイツを説得したいってんなら止めない。アンタたちのしたいようにやってみな」

 

「でも、もし戦う事になっちゃったら、シェリスちゃんも……」

 

「そうならないために説得するんだろ? なに、アイツがすぐにデバイスにされるわけじゃない……出来なかったら出来なかったで、別の手を考えればいい。だから今はアイツを友達だと言ったアンタらに賭けるよ、アタシは」

 

危険な選択であるのは分かっている。だが、それでもアイラはなのはたちに賭けてみたかった。

以前の自分がエティーナに言われた事と同じ事を口にした、彼女たちに。

彼女のその言葉になのはたちは未だ迷ってはいたが、だけど分かった返すように小さく頷いた。

そして他の面々に関しても止めたいのは山々だが、他に手段も思いつかない故に許容するしかなかった。

 

「はぁ……では、その方向で進める事にしましょう。まず、なのはとフェイト、はやてとアイラさんは――」

 

「ああ、悪いけどアイツの説得ならアタシは無理だよ。アイツがアタシを苦手視してるのは自覚してるし、アタシもアイツを見てると無性にムカついてくるから説得には完全に不向きだ」

 

「そうですか……では、アイラさんの抜かした残る三人はシェリスを発見するか、もしくは僕たちが彼女を発見したという連絡を出し次第、彼女と接触して説得を行う事」

 

「「「うん(分かった、了解や)」」」

 

「僕とユーノ、ここに残っての情報収集、守護騎士の方々とアルフ、それとアイラさんは彼女たちに万が一の事がないように警戒しておく事。以上が今後の方針という事で、いいね?」

 

皆を見渡しながら聞き、全員はその内容に対して各々分かったと頷いた。

それを見たクロノも頷き返し、続けてもう一つ言わなければならない事を告げる。

 

「アドルファ・ブランデスを含む例の集団に関してはだけど、シェリスを説得するに当たって彼女たちと遭遇する可能性も考えられる。もし遭遇した場合は出来うる限り情報を引き出して欲しいところだけど、無理ならそれで構わない。ただ、極力戦闘は避ける事……彼女たちは危険すぎるからね」

 

それはこの方針で進めるに対して、一番に注意する点であるとも言える事。

計り知れない戦闘力と技術力、これらだけを見ても彼女たちという存在は余りにも危険だと言える。

管理局としては捕らえなければならないというのが本音だが、彼女たちに任せるには荷が重い。

故に彼女たちと戦う事はなるべく避け、情報を引き出せるならば引き出す。無理ならば無理で逃げる事に専念する。

今は彼女たちを捕らえる事よりも、彼女たちの居所を掴むほうが先決であるが故の選択であった。

そしてその注意点を最後にこの話し合いは終わり、各々で様々な思いを馳せながらこの集まりは解散という形になった。

 

 

 

 

 

解散した後、はやてと守護騎士の面々、そしてなのはとフェイト、アルフとユーノは揃ってリィンフォースのいる部屋に向かった。

彼女の本体たる夜天の書の修復が開始されてから数日という時間が経っているが、まだ修復を終えてはいない。

元のデータが収められたディスクがあるためか別段難しい作業ではない。だが、それでも手間なのは変わりなかった。

夜天の書の破損箇所を漏らす事なく探し出し、その部分をディスクから探して引き出して修正パッチを作る。

破損箇所を探すにしてもディスクからデータを取り出すにしても、念入りにしなければならないため当然時間は掛かるわけだ。

しかし、それでも掛かりっきりでその作業を行っているためか、現在は修正パッチを作る段階までは進んでいる。

故に夜天の書の修復が完了するのもあと少し……それを聞いた彼女たちは、いてもたってもいられなかったというわけだ。

そんなわけで大多数の面々が部屋から退室し、続けて話の件について早速調べてみるとクロノも退室していった。

そして部屋に残ったのはアイラとリンディのみとなり、何とも言えない沈黙が室内を包む事となった。

 

「アイラちゃん……その……あのときの事、だけど」

 

沈黙を最初に破ったのはリンディ。そしてその口から放たれたのは、申し訳なさからの言葉。

今でも彼女は後悔し続けている。助けられたはずの人を、助けられなかった事を。

だから以前と同じように二人になった矢先、謝らなければという気持ちに駆られ、それを口にしようとした。

だけど、その言葉が口にされるよりも早く、アイラは首を横に振るった。

 

「エティーナが死んだのは管理局が元凶の可能性が高い。だけど、だからってアンタが謝る必要はないよ。あの後、ジェドからちゃんと聞いてるしな……アンタたちがあのとき、二人を止めようとしてくれてたって事」

 

「でも、結局私たちは止める事が出来なかった……ううん、むしろ止めなかったというほうが正しいわ。それがジェドさんとエティーナの意思だとか思って、危険を見てみぬ振りをして……」

 

「確かに、その結果でアイツは死ぬ事になった。でもさ、もしアンタらが止めようとする行為を続けてたとして、あの二人が素直に止めると思うか?」

 

その問いに対しては、リンディも止まると断言する事は出来なかった。

あの日行われたテストは、二人にとって家族を繋ぐための重要なものであったと言える。

故に成功させなければという思いが強かった。だからおそらく、止めようとする行為を続けても止まらなかっただろう。

そう思えるからこそ問いに対しての返答を口に出来ず、結果として沈黙が答えという形になってしまう。

 

「選んだ選択が正しいのか間違ってるのかなんて、そのときには分からないもんだよ。誰しも、そういった事は結果が出てから気づく……アタシだって、リースがああなって初めてジェドのしてることが間違ってるって認識したんだ。だから、あのときの決断が結果としてアイツの死を招いた事も、言ってしまえばしょうがない事だったんだよ」

 

そう思う事で過去の出来事を割り切れる事。それは彼女があの頃より成長したという証。

だけどリンディは彼女のように割り切る事が出来ない。それほど罪の意識が強すぎるのだ。

そんな彼女の様子を見てかアイラは僅かに溜息をつき、頭をくしゃくしゃと掻きつつ立ち上がって傍まで歩み寄る。

そして至近まで歩み寄り、正面に立つとしゃがみこんで俯き加減の彼女の両頬に手を当てて自分の視線と交わらせる。

 

「罪悪感を感じる事は仕方ないとは思う。けどね、そうやっていつまでも落ち込んだりするのをアイツが望まないって事くらい、友達だったアンタならよく知ってるはずだ」

 

「…………」

 

「思い出してみなよ……アンタが今みたい落ち込んだとき、アイツが何て言ってたかって事をさ」

 

「エティーナが、言ってた事……」

 

エティーナとリンディはずいぶんと幼い頃からの付き合い。

だから何かしらの悲しい事があって、彼女の前で落ち込んだりする事もあった。

そんなとき、彼女が自分に向けて言っていた事は、いつも決まった一言。

 

 

――笑ってよ、リンディ。

 

 

たったそれだけの言葉。慰めでもなんでもない、ただ笑顔を見せてという願いの言葉。

彼女はいつも言っていた。悲しいときでも笑顔になれば、悲しみなんてきっと消え去ってしまうのだと。

だから彼女自身、ずっと笑顔を絶やさなかった。そして悲しんでいる子がいれば、いつもそう言っていた。

少し勝手なお願いだとも思った事もある。だけど、その一言を言われると自然と笑っていた自分がいた。

それを思い出したから、彼女は笑顔を浮かべる事が出来た。小さなものではあるけれど、それでもそれはちゃんとした笑みだった。

 

「ん、上出来だよ。アイツの事で申し訳ないと思うなら、その分だけそうやって笑っててやんな……その方がきっと、アイツも喜ぶだろうからさ」

 

そう言いながら、アイラ自身も笑顔を見せる。それは昔、まだ皆がいたときに見せたことのある笑み。

その笑みを見てリンディも僅かに笑みを深めながら、エティーナの面影を彼女に見た。

本当の娘ではないけれど、彼女の意思をしっかりと受け継いだ証である笑顔。その奥に見える面影を……。

 

 


あとがき

 

 

今後の方針、それはシェリスを説得する事に決まりました。

【咲】 無理じゃない? ただでさえ重度のファザコンなんだから。

確かにそこだけ見れば無理だろうな。だけど、シェリスはファザコンであると同時にシスコンなのだよ。

【咲】 ああ、リースにベッタリみたいだものね。

ふむ。だから、そっちの方面で突けば案外説得に応じる可能性もあるかもしれない。

【咲】 父か姉か、シェリス自身がどっちを取るかに寄るわよね。

まあ、結局のところ説得が成功するか否かはなのはたち次第というわけだな。

【咲】 まあねぇ。ところでさ、管理局の罪を目の当たりにした割には反応が薄いわよね。特にクロノとか。

薄いというか、半信半疑なんだろうな。アイラがそう思ってるだけで、証拠が一切ないわけだからさ。

【咲】 まあ、それはそうだけどね。でもさ、リンディは管理局に原因があるって考えてるんでしょ?

彼女だけでなく、グレアムもあの事件以降は管理局に不信感を持ってる。でも、さすがに証拠なしじゃねぇ。

【咲】 結局はそこが問題になってくるのね。

まあ、しょうがないっちゃしょうがない。管理局の上層部は何かと証拠証拠な感じだから。

【咲】 証拠がないから現状ではそうなのかどうかも確信が持てず、問題も抱えてるから後回しにするしかないってわけね。

そういう事だな。少なくとも、二章ではこの一件はどうにもならんよ。

【咲】 じゃあ、この一件に関する事はここまでってわけ?

そうでもないけど、まあ詳しくは後々だわな。

【咲】 そう……で、今回、リンディがようやく過去の罪悪感から救われたって感じよね。

完全に拭い去るにはまだまだ時間が掛かるだろうけど、とりあえずはもう大丈夫だろうさ。

【咲】 にしても、エティーナの死ってほんといろんな人に影響を与えてるわよね。

彼女が皆の中心にいたようなものだからな。そんな人を失ったんだから無理もないだろうよ。

【咲】 まあねぇ。ところで、今回リンディは救われたようだけど、グレアムに関してはどうなるの?

ふむ、彼は闇の書の事件以降、管理局を退職してるから、現状では会う事が出来ないのだよ。

【咲】 ああ、そういえば誇りと思っていた職を捨てる事があの二人に対する償いだと思ってるのよね、グレアムは。

うむ。だから、彼が真の意味で救われるのはまだ後になる。ていうか、彼が救われるのは二章の終わりを意味するな。

【咲】 それって相当後の話よねぇ……まあ、いいわ。で、次回はようやく恭也&リース側の話よね?

その通り。カルラを半ば強引に引き入れたリースは恭也と再会、そしてカルラを質問攻めにする。

【咲】 前の話でのリースの様子を見る限りだと、質問というよりは尋問って感じになりそうよね。

まあ、リースだけならそうだろうが、恭也がいるから大丈夫だろうよ。

で、カルラを質問攻めにして判明する事はすなわち、カルラを含む例の集団の大まかな素性と目的の一端だ。

【咲】 ここにきてようやく多少なりとアドルファたちの目的が明かされるのね。

あくまで多少だけどな。

【咲】 まあ、それでも今まで謎の多い集団だったんだから、大きな進歩になるわよね。

だな。てなわけで、今回はこの辺で!!

【咲】 また次回会いましょうね♪

では〜ノシ




なのはたち側の指針は決まったみたいだな。
美姫 「そうみたいね。でも、待ちの状態なのね」
それは仕方ないかな。
美姫 「次は恭也サイドね。これで少しは何か分かるかしら」
楽しみだな。
美姫 「次回も待ってますね〜」



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る