アイラがジェドの研究所に連れ込まれ、暮らす事になってから早十数日。

半強引に施設暮らしを了承させたエティーナのお陰もあってか、彼女は意外と早く施設の皆と馴染んだ。

エティーナ曰くは彼女の性格が早く馴染めた理由だという事らしいが、実際どうなのかは不明である。

ともあれ施設の研究員たちと馴染めたはいいのだが、未だに馴染んでいない者も存在していたりはする。

というより馴染んでいない者とは他でもない……彼女と施設に連れ込んだ張本人であるジェドだ。

エティーナや他の者とは違ってジェドは少し素直ではないのか、アイラを怒らせるような冗談を多々言う。

そして怒ったアイラによって殴られる……そんな日々が続いたせいか、ジェドにのみアイラは警戒心を剥き出しにするのだ。

 

「はぁ……どうしてジェドさんはアイラちゃんと仲良くしようとしないんですか? 他の皆はすぐに馴染んでくれたのに……」

 

「むぅ、そんな事はないぞ。むしろ私は彼女と仲良くしようとするが故、場を和ませる冗談を口にしているのであって……」

 

「別に冗談なんか言わなくていいです。普通にあの子と歩み寄ってください」

 

普段はあまり怒らない――というか、いつも笑顔のエティーナもさすがに今回は笑顔になれない。

お家なんてないという彼女の発言以後、知人の情報網を頼って彼女の家となる場所、または両親を探した。

しかし返ってきた答えは彼女には両親が存在せず、数年前に身寄りのない彼女を引き取った夫婦も一ヶ月前に他界したというもの。

故に彼女が帰る家などないと言ったのも頷け、同時にあの雪の中で墓石前にただ一人座っていたのも理解できた。

だからこそそれを知った後に彼女を完全に引き取るという形にし、施設の誰もと家族のように接することが出来るようしてきた。

なのにジェドだけは未だに馴染むことが出来ず、顔を合わせれば喧嘩――というより一方的に殴られる始末。

これではさすがのエティーナも笑顔になれなくて当然。そしてそれが故に現在、彼にお説教をしているのだ。

 

「いいですか、ジェドさん? あの子を引き取った今、私たちはあの子の家族なんです。家族は共に仲良く過ごしていくのが基本……喧嘩ばかりするなんて言語道断ですよ」

 

「いや、喧嘩をしてるのではなく、私が一方的に殴られて――」

 

「この際そんなことはどうでもいいです。ともかく、ジェドさんもちゃんとアイラちゃんと仲良くしてください……いいですね?」

 

「……はい」

 

デバイス製作に関わってるときは非常に頼もしいのに、こういった部分になると彼はエティーナに頭が上がらない。

それは彼女の言っていることがまともなことであるため反論が出来ず、しようにも雰囲気がさせてくれないからだろう。

だが実際問題、エティーナに説教されはしたものの彼はどうやってアイラと仲良く出来るのかがまるで浮かばなかった。

本当にデバイスの事以外では無頓着。むしろ、エティーナと恋仲になれていること自体、不思議で仕方ないと誰もが思っている。

 

「むぅぅ……どうしたものか」

 

仲良くする方法が考え付かず、仕舞いには腕を組んで悩みこんでしまうジェド。

方法なんていくらでもあり、また簡単な事だろうとエティーナは思うのだが、それを言ったところで無意味なのも承知していた。

だからこそ一度だけ溜息をついた後、悩み続ける彼へと助言とばかりに口を開いた。

 

「何か、プレゼントでもしてみたらどうですか? アイラちゃんも女の子なんですから、指輪やネックレスみたいなアクセサリーとか」

 

「アクセサリーか……しかし、私はその辺りの事は詳しくないしなぁ」

 

「そんなに悩まなくても、要するに仲良くなりたいって想いを込めて贈り物をしてあげればいいんです。何が喜ぶかなんていうのは二の次なんですよ」

 

「想い、か……ふむ」

 

彼女の言葉を呟くように一度だけ繰り返し、彼はまたしばし悩み体勢へと入る。

だが今度は先ほどよりも早くそれから脱すると、椅子を反転させて机へと向かい何かを書き始める。

おそらくはエティーナの助言により何か策を考えついたのだろうが、その行動がそれとどう繋がるかまでは分からない。

しかし彼女もそれ以上はもう何も言わず、しばらくの間様子を眺めた後に邪魔をすまいと部屋を静かに出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはB.N

 

【第二章】第二話 彼らを繋いだ魔導の器

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジェドが何かの作業を始めてから早一週間が経過した。

最初こそただ紙に何かを書き込み、コンピュータに何かを打ち込んでの繰り返し。

だがそれが二日続いた後、多数の工具や機器を部屋に持ち込んで立て篭もりだす始末。

出会った多くの人、そして研究所内の大半の研究員に総じて変人と呼ばれる由縁がここに来て表れた。

ほとんどの者はそう思ったのだが、事情を知るエティーナだけは違い、彼の手伝いをするためよく部屋に通い詰めている。

そして更に五日が経った現在、彼女は彼の行動の原因であるアイラと彼女の部屋として割り当てられた場所にいた。

 

「なぁ……あの変態、何やってんだ? ここんとこ全然見かけないけど」

 

「ん〜、ちょっとしたお仕事かな……心配?」

 

「んなわけねえだろ。ただ最近妙に大人しいから、少し変に思っただけだよ」

 

ぷいっと顔を逸らしてぶっきらぼうに言ってくる彼女に、エティーナは若干苦笑する。

ジェドには言っていないことではあるが、喧嘩ばかり仕掛けてくるアイラが実際はそこまで彼を嫌っていないことを知っている。

施設の皆と馴染み、家族と呼べるような人と出会わせてくれた今となっては、彼女はおそらく感謝すらしているだろう。

なのに喧嘩をするのは彼の冗談も理由ではあるが、一番の理由は彼女の素直じゃないという性格故。

男の子のような喋り方とちょっと乱暴な性格、だけど大胆なように見えて実は照れ屋な部分がそれなりに見られる。

だから内心では感謝していても表では突っぱねて喧嘩をしてしまう。それがエティーナから見たアイラの性格であった。

 

「にしても、デバイスを作るのって意外に時間掛かるんだな」

 

「どうしたの、突然?」

 

「いやアイツ、仕事で一週間も部屋に篭ってんだろ? だからそんなに長く篭らないと出来ないなんて、難しいもんなんだなって思って」

 

「あ〜、うん、そうだね。作るデバイスの種類にもよるけど、インテリジェントやアームドとかを作ろうとしたら自律意志も作成しないといけないから、確かに大変と言えば大変かな」

 

アイラの思った事は確かに誰でも思うことだが、実際今の状況では微妙に当てはまらない。

というのも、彼女の言うとおりデバイス製作というのは大変ではあるが、本来何日も篭る事まではしない。

体調管理を行いつつ何日も掛け、丁寧に製作していくのがいつもの彼。しかし、それが今回ばかりは違う。

丁寧に作っているのは確かにそうなのだが、自分の体調管理を疎かにして製作を黙々と続けているのだ。

そのため事情を知るエティーナならともかく、全く事情を知らないアイラがこの状況にそう思ってもなんら不思議はなかった。

 

「ふ〜ん……でもよ、そんな大変な仕事をなんでアイツは続けてんだ? 生活のために金を稼ぐ方法なんて、他にいくらでもあるだろ?」

 

「確かにそうだけど……う〜ん」

 

質問自体はそこまで難しいものではない。だが、彼女では若干説明に困るのも事実。

デバイスを製作する事そのものを楽しみとしているのは知っているが、彼女自身もジェドの本意は聞いた覚えがない。

何でデバイスを作ることが楽しいのか。何で他にも稼げる職はあるだろうに敢えてデバイスマイスターの道を進んだのか。

聞いた覚えがないからこそそこが分からず、アイラに尋ねられても答えを返すに返せない状況となる。

そんな彼女の様子から知らないという事を察してか、アイラはまあいっかと話を打ち切る一言を呟き、ベッドから立ち上がる。

 

「んじゃ、変態野郎も大人しいことだし、ちょっと外にでも出てくるよ」

 

「あ、うん、わかった。でも、あんまり遠くに行ったら駄目だよ?」

 

毎回言われる事ながらもアイラはうんざりした様子もなく素直に頷き、部屋を出て行った。

残されたエティーナは彼女が退室するのを見送ると小さな溜息をついて同じく立ち上がった。

 

「さて、と……私もジェドさんのお手伝いに行かなくちゃね」

 

立ち上がると共に誰に聞かせるでもなく呟きながら軽く伸びをする。

そしてそれにて軽く身体を解した後、アイラとは少し遅れて彼女も部屋を後にした。

 

 

 

 

 

自室を後にした彼女は真っ直ぐにジェドの部屋へと赴いた。

本格的な製作に入るのとは違い、製作するための図面や自律意志のためのデータを作るための部屋。

外装等の製作にまだ入っていない彼は現在、その部屋にて数週間に渡り作業を行っている。

故にか部屋の周りには作業のための道具だけでなく、非常に生活観が漂うほどゴミが散らかっていた。

そのため部屋に入るなり昨日よりも酷くなっているその有様にエティーナは呆れるしかなかった。

 

「ジェドさん……デバイス製作に没頭するのはいいですけど、身の回りくらいちゃんと片付けてください」

 

「……面目ない」

 

素直に謝罪するも手を止めない彼に彼女は溜息をつき、散らかるゴミを片付け始める。

本来ならば彼の部屋に手伝いで尋ねてくる大概の者は、彼女のような事をするということはない。

故にわざわざ手伝い外でゴミの片付けまでするのはこの研究所に於いて彼女くらいなものだ。

そんな彼女の甲斐甲斐しい世話に初めてのときこそ礼の一つくらいあったのだが、今ではそれもなくなっている。

というのも彼女のその行動自体が彼の中で自然な物となっているため、礼を述べる必要はないと思っているからだ。

反対に彼女もジェドの部屋掃除が半日常化しているがためか、礼を言われる事など期待はしていない。

つまりは二人のその様子は二人にとって自然な形である故、ある意味ではお似合いの二人とも言えるのだろう。

 

「はぁ……それで、例の物についてはどこまで出来たんですか?」

 

「ふむ、今しがたようやく外装の図面と自律意志の基礎データが出来上がったところだ」

 

「後は組み上げるだけ、という事ですね。ちょっと見せてもらっても?」

 

「構わんよ。ほれ」

 

散らかったゴミを袋に詰めながら告げてくる彼女の言葉に応じ、彼はそれらをモニタに映し出す。

映し出されたそれにエティーナはしばし手を止め、彼の横に歩み寄ってまじまじとそれを眺め始めた。

 

「この形状……作るのは、アームドデバイスですか?」

 

「ああ。最初はインテリジェントにしようかとも思ったが、どちらかと言えば距離を置いての戦いよりも近接関連が似合いそうだったんでな」

 

「それは、確かに私もそう思いますけど……でも、魔導師でも何でもない子が初めて持つデバイスにしてはちょっと厳しいのでは?」

 

「何、別にデバイスを持っているからといって戦えというわけではないんだ。あくまでお守り程度と思って持っててくれればそれでいい。もし彼女が戦うことを望むのなら、そのときは君が教えてあげればいいのだしな」

 

デバイスを手にする事は何も、戦うことを強要するという事ではない。

あくまでそれはデバイスを持つ上での選択肢の一つ。故に彼女が望まなければ持っているだけでいい。

もし仮に彼女が戦う術を学びたいと言い出した場合も、エティーナが指導してあげれば済むだけの話。

少しばかり他人任せな部分もあるが、ある程度は納得出来る言い分なために彼女は分かったとばかりに頷いた。

それにジェドも頷き返し、モニタの画面を閉じてデータの入ったディスクを取り出し、図面と一緒に持って立ち上がる。

 

「それじゃあ、私はそろそろ外装等の組み上げに行こうと思うのだが……」

 

「もちろん一緒に行きます。出来上がったデバイスのテストもしてちゃんとおかないといけませんし、言いだしっぺは私ですから」

 

「ふむ……」

 

別段反対する理由もない上、彼女の立場からすればついてくるのが至極当然。

故に彼はもう一度だけ頷いて彼女と並んで歩き出し、扉を潜って部屋を後にしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日から更に一週間後、この件の主役たるアイラはジェドの部屋に呼び出された。

呼び出しを聞いたときは非常に嫌そうな顔をしていたが、言ってきたのがエティーナであるため拒否はしなかった。

ちなみにエティーナを彼女の呼び出し役に選んだのはジェド。ある意味、彼女の性格を把握しているようにも見える。

とまあそんなわけで現在、呼び出しを受けたアイラはかなりムスッとした顔で彼の部屋の前に立っている。

 

「…………」

 

扉前に立ちながら目の前の扉をまるで親の仇の如く睨みつける。

しかしまあ、数秒経った後にようやくその行為の無意味さを知り、表情は変えないながらも扉に手を伸ばす。

そしてノックも何もしないまま扉を開いて中へと入ると、部屋の奥にある椅子にて呼び出した本人は座っていた。

彼の姿を捉えるや否やアイラは更に表情を顰めるも、その隣にエティーナの姿があることを知ってちょっと安著する。

だがジェドが目の前にいることには変わりないため、不機嫌さは顔に残しつつもゆっくりと歩み寄った。

それに応じてか先ほどまで背を向けていたジェドは椅子を反転させ、歩み寄る彼女のほうへと身体を向ける。

 

「ようこそ私の私室へ。歓迎するぞ、アイラ」

 

「歓迎なんてしなくていいからさっさと用件話せ。テメエの馬鹿に付き合ってるほどアタシも暇じゃないんだ」

 

「暇を持て余す年頃の子供が何を言うか。それに重要な用事で呼び出しているのに馬鹿とはなんだ、馬鹿とは……」

 

一応言葉で反撃はしてみるもアイラは表情を変えないままプイッとそっぽを向いてしまうだけ。

いつもの事ながら好戦的な態度にジェドはやれやれと息をつくも、今回ばかりはそれ以上何も言わない。

なぜなら今回呼び出した理由が理由なため、いつものように接して喧嘩を繰り広げるわけにもいかないから。

そのため食って掛かるような真似はせず、彼女の要望通り用件を進めるべく引き出しから一つの小箱を取り出す。

そして同時に椅子から立ち上がり、アイラとの距離を詰めて取り出したそれを彼女の前に差し出した。

 

「……なんだよ、それ」

 

「プレゼントというものだ。私とエティーナで作った、現状での私たちの最高傑作のデバイス……君に受け取って欲しい」

 

改まった態度で言われ、アイラは少しばかり戸惑いながらもいらないと口にしようとする。

だが先の言葉を思い出すと自分のために作ったのだと分かる故、開きかけた口を閉じて彼へと目を向ける。

するとそのとき見た彼の目からはいつもの様子が感じられず、見た事もないほどの真剣さが醸し出されていた。

その視線に押されてか、アイラは目を逸らしつつも手を伸ばし、差し出された小箱を受け取った。

そして彼と箱を交互に見た後にゆっくりと小箱を開くと、中には橙色の珠が備わるピアスが入っていた。

 

「ピアス? デバイスじゃないのか?」

 

「ふむ……君はデバイスの待機モードというものを知らないのか?」

 

「いや、そもそも多くの魔導師が使ってるって聞いただけでデバイス自体は見たことねえし」

 

「なるほど。ではまず、デバイスというものについて説明せねばならんな」

 

そう呟くとジェドは先ほどまでいた位置に戻り、椅子へと腰掛ける。

そしてアイラにも適当に座るよう告げ、彼女がベッドに腰掛けたのを見て説明を始めた。

デバイスがどういうものか、一体どんな役割を果たしてくれるのか。それを丁寧に順を追って説明する。

少しばかり長い説明にはなってしまうのだが、存外にも彼女は大人しく彼の説明に耳を傾け、静かに聞いていた。

そうしてしばらくの時間が経ち、ようやく説明を終えるとジェドは一息つき、次いでそれを告げた。

 

「まあ物は試し……一度展開してみるといい。デバイスが君を主と認めるのなら、君の言葉でそれは目覚めるはずだ」

 

説明から間もなくそう言われ、再び戸惑いを隠せずアイラはジェドを見る。

だがそれ以上彼は何も言わずただアイラを見るだけ。故に彼女は隣のエティーナへと視線を移した。

しかしこちらもニコニコと笑みを浮かべるだけで、彼と同様に何かを言ってくるという事はなかった。

故にアイラは戸惑いながらも手にある宝玉へと目を向け、あれこれ考えた末に一言だけ告げる。

 

「起きろ……」

 

デバイスを起動させるための言葉など初めての子が思いつくわけもなく、口にしたのはそんな言葉。

それにジェドもエティーナも少しばかり苦笑する中、彼女の言葉に応じたデバイスが音声と光を放つ。

同時に手に持っていた宝玉はその形状を大きく変え、彼女の体格に合わせたような大きさの斧が顕現した。

 

「お、斧になった……」

 

「ふふふ、デバイスがアイラちゃんを主と認めたみたいね」

 

「そ、そうなのか?」

 

That's right, my master》

 

予想外の所から返事が返り、アイラは驚いて返事を放ったものへと目を向ける。

それは彼女の手に持つデバイス……刃の中央にて輝く橙色の宝玉から放たれた声。

つまりそれはデバイス自身がアイラの言葉に肯定したという事。故に彼女は驚きながらも納得した。

そしてマジマジとデバイスを眺めた後にようやく驚きを納め、斧を下ろすとジェドへと再び目を向ける。

 

「それで、これって名前とかあんのか?」

 

「名前、か……そういえば決めてなかったな。何か良いのはあるか、エティーナ?」

 

「ん〜……そうですねぇ」

 

人差し指を口元に当て、少しばかり上のほうを見上げながら彼女は思考する。

だがそれもほんの数秒程……名前を思いついたのか、彼女は手をポンと叩き口を開いた。

 

「カールスナウト、なんてどうかな? 伝承か何かの本で見た武器の名前なんだけど」

 

「ふ〜ん、カールスナウトねぇ……お前はどうだ? その名前がいいか?」

 

Master of your own way(マスターのお好きなように)

 

主であるアイラに任せると告げられ、そこから彼女は少しも悩む事なくその名前に決める。

非常にいい加減とも取れるのだが、デバイスがそれで納得したのならいいかと二人も口は挟まなかった。

そして名前も決めた事でアイラはデバイス――カールスナウトを待機モードに戻るよう指示する。

すると斧は再び光に包まれて元のピアスへと戻り、それをアイラは付けてくれとエティーナに頼む。

それに彼女は苦笑しつつも頷き、ピアスを受け取ってアイラの右耳へと付け、数度頭をポンポン叩いて離れる。

彼女の行動にアイラは少しばかり照れから頬を染めるも、それを隠すようにぶっきらぼうに口を開く。

 

「にしても、どうしてアタシにデバイスを作ってくれたんだ? 製作費だってタダじゃないんだろ?」

 

「ふむ、確かにタダではないが……君はよく外に遊びに出るようだしな。人気は少ないとはいえ、多少製作費を割いても護身用に持たせておくほうがいいと思ったんだ」

 

「ふ〜ん……たかが護身用に最高傑作を、ねぇ」

 

普通なら納得出来るような理由だが、その前の言葉もあって微妙に不信感が出る。

だがまあ、別に問いただすほど興味もない故にそれで納得することにし、彼女は部屋を出ようとする。

しかし、彼女が扉に手を伸ばそうとしたとき、何かを思い出したかのようにジェドが彼女を呼び止めた。

 

「一つ聞きたいんだが……デバイスを手にした今、君は戦う術を学びたいとは思うか?」

 

「それは魔導師としてって事か?」

 

尋ね返した言葉にジェドはそうだと言うように頷き、彼女はそれを見て少し悩む。

それから一分くらい考え込み、ようやく顔を上げると同時に肯定とばかりに問いに対して頷いた。

それに彼はそうかと頷き返して納得し、もういいぞと告げると彼女は今度こそ扉に手を掛ける。

そして扉を開いて外へと出た後、扉を閉める直前で手を止め――

 

 

「デバイス……あ、ありがとな」

 

――少しぎこちない笑みで礼を告げ、扉を閉めて去っていった。

 

 

彼女が素直に礼を言った事、それはジェドにとってもエティーナにとっても予想外。

ある程度気を許しているエティーナにさえも彼女は素直に礼など言ったことがないのだ。

故にこれはエティーナが予想した以上の結果……そのため呆然としていた状態から我に返ると我が事のように喜ぶ。

対してジェドも彼女から礼の言葉が引き出せたことで強い達成感を感じ、同じように小さな笑みを口元に浮かべるのだった。

 

 


あとがき

 

 

アイラがカールスナウトを手に入れるに至った経緯の話だな。

【咲】 そこまで驚きがある部分ではなかったわね。

まあな。なのはとかみたいに衝撃の出会いがあったわけでもない……至って普通の邂逅だ。

【咲】 ていうかさ、カールスナウトとの出会いで何か事件と関係することでもあるわけ?

この出会い自体には特にないな。あるとすれば、これを布石とした次回のお話だ。

【咲】 これを布石っていうと、アイラの魔導師としての訓練かしら?

そうそう。で、そこにてようやくエティーナの実力がどれほどのものだったかも分かる。

【咲】 ふ〜ん……ちなみに魔導師ランクSS−っていうのは出たけど、それはどの戦闘に於いてなわけ?

陸戦も空戦も出来る総合型だよ。加えて近距離、中距離、遠距離に於いても戦える人だ。

【咲】 それはある意味凄すぎない?

だからこそ管理局は彼女を欲したんだよ。主に勧誘してたのはリンディなんだが。

【咲】 なるほどねぇ……。

てなわけで、次回はアイラの訓練話。エティーナを師事して彼女が魔導師としての訓練を行います。

ちなみに、そこで一つだけ……かは分からないけど明らかになる事実があったりする。

【咲】 何よ、明らかになる事実って?

それはまあ、次回のお楽しみで。じゃあ、今回はこの辺にて!!

【咲】 また次回会いましょうね♪

では〜ノシ




デバイスを通じて少しは心を開いたと言うか、照れながらぎこちないお礼って!
いや、もうこのシーンは良いですな〜。
美姫 「はいはい、一人馬鹿言ってないの」
むー。ともあれ、こうしてアイラとカールスナウトは出会ったんだな。
で、いよいよ次回は戦闘訓練なのかな。
美姫 「初めての魔法は上手くいくのかしらね」
次回も待ってます!



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