衝撃の事実を目の当たりにしたあの日から、結構な時間が経過した。
そしてその間で怒涛の如く様々な事があり、悲しみに暮れる暇もありはしなかった。
闇の書事件によってなのはとフェイトの正体を知ってしまったアリサとすずかへの説明等。
無論恭也が攫われてしまったという事は無用な混乱を招く故、この際はとりあえず伏せて説明を行った。
次に高町家の面々への事情説明……これは恭也が攫われてしまったという事実があるため、避けられない事。
下手に黙っていたとしたら数日経っても恭也が戻らない事に心配し、捜索届けでも出されかねない。
当然見つかるはずなどないのだが、それでもそこまでの行動を取らせるわけにもいかず、また見つからない不安を増大させるわけにもいかない。
それ故に管理局を代表してリンディがなのはを筆頭とする関わった者たち数名を引き連れ、事情説明へと伺った。
そのときには当然アイラも一緒。あまり言いたくはない事だが、恭也がこの事態に巻き込まれた責任は彼女にも大きくある。
だからリンディが説明を終えると同時に頭を避けて謝罪。そして、必ず恭也を連れ戻してみせると持ちかけた。
本当ならそんな約束信じられないと言われ、罵倒されるのを覚悟での謝罪。だけど、予想外にも桃子はそれをしなかった。
それどころか頭を上げさせて彼女の言葉を信じる胸を伝え、リンディへと向き直ると――――
「恭也のこと……息子のことをどうか、よろしくお願いします」
――辛さを必死に絶えながら、それでも笑みを浮かべて告げてきた。
罵倒が来るだろうと思っていたのに、話し終わってみれば一言それだけを告げて逆に頭を下げてくる。
しかし内に見える感情がその笑顔からは窺え、彼女たちは必ず助け出して見せると念を押すように彼女と約束を交わした。
そして恭也を助け出すと桃子に約束した日から数日後、アースラでは忙しい日々が続いた。
まずは恭也とリースを攫ったと思われる彼女らの捜索。海鳴のある地球以外の次元世界でも、念入りにそれは行われた。
そして併用するようにしてリィンフォースの修復も同時に行われる。それは再び暴走を引き起こさないため。
皮肉なことに二人を攫った者から齎された物が役に立ち、彼女の本体たる夜天の魔導書の修復は問題なく進んでいる。
ただ、やはりディスクから必要箇所を取り出して修復プログラムを編むという作業上、やはり時間は掛かってしまうのだが。
だけどそれでも修復出来るという事実は変わらないため、その点に関しては皮肉に思いつつも誰もが安著した。
――そうして更に数日が過ぎ、今も彼らの捜索は常時続いている。
――だけど必死に捜索するも、手がかりらしい手がかりは一切掴めぬまま……
――ただ時間だけが、刻々と過ぎていっていた。
魔法少女リリカルなのはB.N
【第二章】第一話 明かされる事実、彼女と管理局の罪
学校が冬休みに入っているなのはやフェイトも出来うる限り、捜索には協力した。
以前彼女たちが出没した場所へ赴き、近場に何かしらの手がかり、あわよくばアジトがないかを探す作業。
だけど当然と言えば当然の如く、彼女たちの努力は功を奏さずに捜索はただ難航を極めるばかり。
リンディやエイミィ、その他のアースラスタッフも必死に探し続けるが、こちらもやはり手がかりは見つからなかった。
そんな日々が続いたある日――――
「それで、一体何ですか? 僕たちに話したい事って」
――突然のアイラの呼び出しにより、一同は広めの一室に集まっていた。
呼び出した用件は、皆に話しておきたい事があるというもの。
捜索で忙しいというのが分かっているにも関わらず時間を割かせるのだから、それは重要な事だと誰もが分かる。
だから誰も行っていた作業を一時中断して現在、アイラと向き合うようにして誰もが部屋の椅子に座っていた。
そして彼らの視線を一身に受けるアイラはクロノの尋ねる一言に対し、一息置いてから口を開いた。
「今回の事件の黒幕、ジェドが何で今の研究を始めるに至ったのか……そこの辺の部分を、話しとこうと思ってね」
「? それは前に聞いたと思いますけど?」
「ああ、確かに話したね。だけど、あの時話した事が全てじゃない……最も重要な部分を、話してないからね」
あの時話されたことが全部じゃない。事件の発端たる事はまだ語れる部分がある。
彼女が告げてきた言葉にクロノは首を傾げ、あれ以外に何があるというのかと疑問に思う。
リースとシェリスの母親であるエティーナの死。それに準じて二人まで失いたくないという彼の想い。
それが事件を引き起こす発端となった……以前にそう聞いているからこそ、他に何があるのか分からないのだ。
しかし、クロノや事情を多少しか聞き及んでいない面々は分からずとも、彼女の告げようとすることが分かる者もいる。
「それって……管理局と関係のある事、ですか?」
「……確かにそうだけど、一体誰に聞いた? 少なくともアタシは話した覚えがないけど」
「シェリスちゃんに聞きました。管理局の欲望が、リースちゃんとシェリスちゃんのお母さんを殺したって……」
なのはとフェイトが言ったことは、驚くべき部分が混じる一言であった。
以前のときと決戦時以外でシェリスと会っている事もそうだが、一番はシェリスが二人に語った事。
それには管理局を信じているクロノがそんな事はないと反論を試みようとするが、その行動は隣のリンディに止められる。
管理局がそんな風に思われてるのにどうして止めるのか。クロノはそういった視線でリンディを見るが、すぐに何も言えなくなる。
クロノを止め、目を向けられたときの彼女の表情には、それ以上何も言えなくなってしまうほどの辛さが窺えたから。
だから口を噤む事になってしまい、今一度腰を落ち着けて話の流れに耳を傾けることにした。
「そりゃ、ずいぶん前にアタシが教えたことだな。 あの馬鹿っ子がまだ覚えてた事はちょいと驚きだけど」
「教えたって事は、アイラさんは管理局がシェリスちゃんのお母さんを殺したと思うてるん?」
「思ってるんじゃなくて、確信してるんだよ。間違いなくエティーナは管理局に殺された……直接的じゃなく、間接的にだけどな」
はやてにそう返しながらリンディに視線を送ると、彼女は頷くでもなく俯いてしまう。
彼女の語るそのときの事はリンディも少なからず関係している。だが、アイラとしては別にリンディを責めるつもりはない。
関係してると言っても彼女は止めようとした側だから。そして彼女だけではなく、グレアムも同様の事が言える。
だから今となっては責める気など毛頭ないし、むしろ感謝してもいいとさえ思っていた。
「まあそんなわけで、皆を呼んだのはそこを含めた全てを話すためだよ。これからの方針を考える上でも、知っておいたほうがいいと思うしな」
リンディから視線を移動させて全体に目がいくように向け、全員の様子を窺う。
誰もが一様に聞く気のある顔。事情を知らぬ者にしても、多少なりと聞き及んでいる者にしても。
それを知ることで今も胸の内で燻っている疑問が解けるなら、そして解決の糸口が見つかるのなら。
そういう意思を表情に浮かべ耳を傾ける彼女らを見て、アイラは今一度リンディへと目を向けて確認を取る。
すると彼女はやはり辛そうな顔をしながらも一度だけ頷き、それにアイラは頷き返した後――――
「じゃあ、まずはアタシとジェド、そしてエティーナとの出会いから話そうか。少し長くなるけど、ちゃんと聞いてろよ?」
――そう静かに告げ、彼らと自身に纏わる過去を話し始めた。
――過去回想――
雪の降る季節、ミッドチルダの西部に位置する墓の並ぶ場所。
ミッド人の間では、ポートフォール・メモルアルガーデンと呼ばれるその場所にも、雪は多く積もっていた。
一面真っ白なそこには元々お墓以外に何もない場所故か、人の姿はほぼなく、僅かに吹く風の音のみが響く。
そんな静けさの満ちるこの場所に、ザクッ、ザクッと雪を踏みしめる音を響かせながら一人の男がやってきた。
手に持つ物を見る限りではお墓参りだということが分かるが、雪が降る日に来るというのはそれなりに珍しかった。
「ふぅ……」
歩き続けていた男はある墓の前に着くと足を止め、墓に積もる雪を軽く払う。
そして、持ってきた物をお墓に供え、しゃがんで数分ほど手を合わせた後に立ち上がり、視線を墓からずらす。
周りを見渡すその視線に映るのは、真っ白な雪景色とそこから生えるように立つお墓たち。
雪景色だけがいつもと違う部分であり、本来なら特に変わり映えなどないはずのその場所。
しかし、見渡した視線には雪景色以外にもいつもと違う部分が映り、男は目に映ったそこへとゆっくり移動していった。
「……」
移動し始めておよそ一分程度で着いたそこにあったのは、墓の前で膝を抱え座る少女の姿。
俯いている故に顔は分からないが、肩ほどまである朱色の髪がこの真っ白な世界ではとても特徴的だった。
そんな少女は男が歩み寄ったことに気づいたのか、顔を上げて人目だけ視線を向けるも、すぐに興味を失ったかのように逸らす。
誰かが死んで悲しみに暮れているという様子がそれから窺え、本来ならそれは特に珍しいことではなかった。
だというのに男はなぜかその少女のことが気になり、視線を逸らされてもずっとその場に佇んでいた。
すると、少女は再び顔を上げて男へと視線を向け、再び逸らすと閉ざしていた口を開いた。
「なんか用かよ……おっさん」
見た目にそぐわず、その口調は男のこのような乱雑なもの。
それに男は僅かに驚くも、どこかその少女とその口調が合っているように思えた。
故に内心でどこか納得しつつ、男は掛けられた声に口を開き、言葉を返す。
「こんなところで座っていたら、風邪をひくぞ?」
「……おっさんには関係ないだろ。 用件がないなら目障りだから、さっさとどっか行けよ」
「そういうわけにもいかん。 子供がこんなところで座っているのを放置して凍死でもされたら寝覚めが悪い」
「おっさんの考えなんか知るか……いいからほっとけよ」
男は少女の身を案じて言うのだが、それらは全て切って捨てられる。
何を言っても平行線……男の言うことを少女はまるで聞こうとはせず、その場から動こうともせず。
そのときに少女の身体全体に視線を向けると、ずいぶん長い時間ここにいるということが分かるほど雪を被っていた。
これを見ると、このまま諦めて放置でもしようものなら、本当に少女は凍死してしまうのではないかと思えてしまう。
会ったばかりであってもそんなことを男は見過ごせるわけもなく、しかし口で言っても少女は頑として動かない。
故に、男は小さくため息をついた後、少女へと更に近づいて担ぎ上げるという強行手段へと出た。
「なっ!? お、下ろせよ、おっさん!」
「下ろしたら、ちゃんと立って歩くのか?」
「んなわけねえだろっ! つうか、さっきからほっとけって言ってるだろ!?」
担がれたことが、放っておいてくれないのが不服なため、少女はぎゃあぎゃあと喚き散らす。
そして喚きながらバタバタを暴れる故に、地面に雪が積もっていることもあって男は時折バランスを崩しそうになる。
しかし、そこは何とか踏ん張りつつも、男は暴れる少女を放すことなく歩き続けていく。
そうして、喚き散らす少女の叫びを静かなる墓場に響かせながら、男はその場を後にしていった。
墓場のある西部から、男は少女と共に東部へと移動した。
その際、少女はすでに地面へと下ろされており、逃げられないようにがっちりと手を掴まれている。
まあ、少女を担いで移動しているのを他の人に見られたら誘拐と見られて通報でもされかねないので正しい判断と言えよう。
だが、地面に下ろして手を掴んだ当初は少女の抵抗は激しく、逃げようとするだけでなく、男の手を噛んだりもした。
しかし、結局は何をしても男が手を離さなかったため、少女はとうとう諦めて男を横目で睨みながらも大人しくなった。
そうして、少女を連れて歩くことしばらくして、二人はミッドチルダ東部に位置する森林地帯へと足を踏み入れた。
山中にあるここは当然の如く人気などなく、少女を連れてここに入る男を見るものが見れば変質者と思ったりもするだろう。
そして、連れ込まれた本人である少女も同じ事を思ったのか、ジロリと睨みつつ男に対し口を開いた。
「おっさん……アタシをこんなところに連れ込んで、一体何する気だよ」
「別に何も……ただ、私の家に招こうと思っただけだ。 あそこに放置しているよりは、そのほうがマシだからな」
「……この変態が」
「人聞きの悪いことを言うな。 私は君のような子供を襲うほど飢えてはいない……それに、家に住んでるのは私だけではない」
襲う気はない、という点は安心できるのだが、少女にとってはその物言いは失礼に値した。
そのため、手を掴まれた状態でサッと男のほうへと向き、右足を大きく振る被って男の足をゲシッと蹴りつける。
その一撃による痛みに男は僅かに顔を顰めるも、歩きを止めることはなく、手を離すこともなく進んでいった。
そうして木々の生い茂る中を歩き続け、しばらくして男が家と呼ぶ場所が少女の視界のも見えてきた。
しかし、少しずつ近づいていくごとに少女は思う……それは、家と呼ぶよりは何かの施設と呼ぶほうがしっくりくると。
一見してそんな風に見えるその建物へと近づいていき、正面扉前へと辿り着くと、男は足を止めて扉を開ける。
そして少女を引き連れたまま内部へと入っていき、通路をズイズイと進んでとある部屋の前にて立ち止まった。
――コンコン
目の前にある部屋の扉を、少女の手を掴んでいないほうの手で軽く叩いた。
すると、叩いたことで響いたその小気味良い音に合わせるように、部屋の内部から返事が聞こえてくる。
声からすると女性と思われるそれは、返事と共にパタパタと足音を立てた後、扉を開いた。
「どちらさま……て、ジェドさんじゃないですか。 どうしたんですか?」
部屋より顔を出したのは、少女とは対照的な蒼色の髪が印象的なやはり女性。
そしてその女性は顔を出すと共にジェドと男を呼び、僅かに驚きつつ用件を尋ねる。
だが、それにジェドが答えを返すよりも早く、女性の目線はジェドの隣にいる少女へと向いた。
「? この子は?」
「墓参りに行ったときにちょっとな……とりあえず、中に入れて欲しいのだが?」
「え、ああ、すみません。 どうぞ……少し散らかってますけど」
軽く謝罪をした後、女性は二人を部屋の中へと招き入れる。
散らかっていると言うが、招かれた部屋の内部は女性が言うほど散らかってはいなかった。
如いて言うなら、机の上に本が重ねて置かれていたり、掃除機が部屋の中央に転がっていたりするぐらいなもの。
前者に関してはこういう施設を見ると自然と言えば自然だし、後者に関しては掃除中と見ればそれまでだ。
そんな部屋に女性は二人を招き、部屋に一つしか椅子がない故に僅かにオロオロしだす。
だが、それもジェドが自分達はベッドに座るからと言ったことで収まり、女性が椅子、ジェドと少女がベッドに座って向かい合う。
「それで……先ほども聞いたのですけど、その子は?」
「ふむ……実はな――」
少女を連れてくるに至った経緯、それをジェドは簡潔に女性へと説明した。
すると、それを聞き終えた女性はなんとも言えないような顔をし、どことなく困ったような様子を見せる。
「えっと……それは俗に言う、誘拐というものではないですか?」
「しょうがないだろう……あのまま放っておいて、この子が動くとは思えなかったのだし。 もしそれで本当に凍死でもされたら洒落にならん」
「それはそうでしょうけど……それでも、もう少し別の手段もあったのでは?」
「いや、ふと思いついたのがこれだったのでな。 で、思いつき即実行……というわけだ」
やってることもそうだが、言ってることも結構滅茶苦茶だった。
故に女性は僅かに呆れ混じりのため息をつき、今度は少女へと視線を向ける。
向けられた視線に少女は一瞬ビクッと驚き、しかしすぐに睨み返すような眼で見返す。
だが、女性はそれに怯むことはなく、ジェドと話していたときよりも優しい声で口を開いた。
「お嬢ちゃん、お名前はなんて言うの?」
「な、なんで見ず知らずの人間に名乗ら――」
「あ、名乗り忘れてたけど、私はエティーナ・オーティスって言うの。この施設でテスターっていうのをやってるんだけど、テスターって分かるかな?」
「……作った本人の代わりに動作テストをする人の事だろ? 知ってるよ、そんくらい……」
「はい、合格です♪ それで貴方を連れてきたこの人が私をテスターとして雇った人で、デバイサーにして施設の責任者の――」
「ジェド・アグエイアスだ。よろしくな、ちびっ子」
名乗って頭をポンポンと叩いてくるのが気に食わなかったのか、彼女は手を払い除ける。
そして敵意剥き出しの視線を彼に送るのだが彼は全く気にしていない、というか先ほどまでで慣れたのか平然としていた。
「それで、貴方のお名前も教えてくれないかな? ほら、貴方を呼ぶのにお嬢ちゃんじゃ、他人行儀だし」
「他人行儀も何も、正真正銘他人だろうが……」
そう突っ込みを入れてみるが、彼女も彼女でどこ吹く風のように気にも留めない。
ジェドもマイペースではあったが、彼女のそれは彼の更に上をいくのではないかとそこで少し思いもした。
だけどそう思うだけで彼女が諦めるわけでもなく、笑顔なのに気圧されそうな雰囲気を纏わせて再度尋ねてくる。
故にか最終的に彼女の雰囲気に負け、少女は諦めたように小さな溜息を吐いて呟くように言った。
「アイラ・アルウェッグ……だよ」
「アイラちゃん、かぁ……良いお名前だね♪」
「ふむ、如何にも気の強そうな感じが見事にマッチしてぐぼっ――!?」
次ぐようにして口にされたジェドのコメントが気に食わなかったのか、腹を思いっきり殴る。
座っていた体勢ではあるがなにぶん距離が近かったため、その威力は非常にダメージの高いものとなる。
故にジェドは腹を押さえてしゃがみこみ、口もまともに聞けないほど悶えていた。
しかし、そんな彼をエティーナはマイペースに無視し、一つだけ疑問となることを彼女へと再度尋ねた。
「じゃあ、アイラちゃん。もう一つだけ聞くんだけど、アイラちゃんはどうしてこんな雪の中でお墓の前に座ってたりしたの?」
「…………別に」
「ん〜……それじゃあ、アイラちゃんのお家はどこにあるのかな? ジェドさんが勝手に連れてきちゃった責任もあるし、良かったら私が送っていくけど」
「家なんか、ねえよ……」
エティーナのマイペースさに黙っても無駄と分かっているのか、質問にはしっかりと言葉を返す。
だけど一つ目の質問には答えたくないのか素っ気無く返し、二つ目に至っては少しばかり驚きの言葉を放った。
そのためエティーナはどうしたものかと自身の頬に手を当てて困り顔を浮かべ、ジェドの意見を聞こうと目を向ける。
しかし当然の如く先ほどのダメージから復帰していない彼は悶えたまま、彼女の視線に気づく事もなかった。
だからか、彼女は自分の判断で決めてしまうと考え、少しの間思考した後に考えた提案をアイラに持ち掛けた。
「それじゃあ、お家がないならここに住むっていうのはどうかな、アイラちゃん?」
「……は?」
「ほら、お家がないっていうのは帰る場所がないって事でしょ? だったらここを出ても路頭に迷っちゃうわけだし、私もさすがにそれは駄目だと思うの。だからぁ、それだったらここをアイラちゃんのお家にしちゃえばいいじゃないかなって♪」
確かに良心のある人間なら、彼女くらいの年齢の少女をこの雪の中で彷徨わせるのを良しとはしないだろう。
だが、だからといって彼女のした提案がまともとは到底言えない。むしろアイラとしては、頭がおかしいんじゃないかとさえ思った。
小さな女の子と言えど見ず知らずの人である事に変わりはない。だから普通ならそんな提案なんて口にはしないだろう。
しかし彼女のそんな思考に構うことなく、エティーナはどうかなと笑顔で何度も尋ねてくる始末。
故に彼女は先ほどまでの態度とは打って変わって引け腰になり、動揺したような様子で反論を試みようとする。
「な、何考えてんだ、テメエ……大体なんでアタシが見ず知らずの人間の家なんかに――」
「見ず知らずなんかじゃないよ? 私たちはもうれっきとしたお友達だもの♪」
「ちょ、待てよ! いつ、誰が、テメエと友達になんて――!!」
「それで、私としてはアイラちゃんにここに住んで欲しいと思うんだけど……どうかな? どうかな?」
溜息をつきたくなるほどのマイペース。それにアイラの反論は全て無と還されてしまう。
そして更に引け腰となって呻りを上げる彼女に、エティーナは無意識だろうがどんどん追い詰めていく。
そうして結果的に反論不可能なため、彼女が折れる形となってこの件は収まった。
ようやくエティーナのそれから解放されたアイラは疲れたように溜息をつくが、当の本人は無邪気に喜んでいたりする。
なんで今日初めて会ったばかりの人間と一緒に住むことになって喜ぶのか、それはアイラに分かる事はなかった。
しかしエティーナの喜ぶ笑顔を見て、済んでしまった事だしどうでもいいかと考えることで諦めの念を内に抱き、また小さな溜息をついた。
その溜息を見たジェド(ようやくダメージから復活した)は彼女に近づくとその小さな肩を叩き――――
「彼女のマイペースさは今に始まったことではない。まあ、彼女に関わったのが運の尽きと思って諦めぶばっ――!?」
――同情したような事を元凶たる彼が宣った故、とりあえず力一杯殴っておいた。
あとがき
ジェドとエティーナ、アイラに纏わる過去のお話が始まりました。
【咲】 以前シェリスが言ってた、管理局がエティーナを殺したっていう部分ね?
うむ。その事件が起きるのは今回の出会いからおよそ一年後くらい後だけどな。
【咲】 ふぅん。でもさ、当時のアイラとジェドって、なんか犬猿の仲って感じよね。
まあ、勝手な行動でアイラを連れてったジェドに非があるんだけどな。
【咲】 ていうか本当に、アイラはなんで墓地の前に座ってたわけ? あんな雪の中を。
そこの部分はまあ……次回か次々回くらいで語られるよ。
【咲】 へぇ……にしても、エティーナもエティーナでマイペースな人よね。
ちょっと天然な人だからね。まあ、マイペース同士だから惹かれあったんだろうよ、ジェドとは。
【咲】 実際のところ、本当にそうなわけ?
無論好きになった理由は存在するけど、客観的に見たらそう見えてしまうと言うだけだ。
【咲】 なるほどねぇ。
ちなみにだが、ジェドとエティーナはこの時点ですでに付き合っていたりする。
で、リースとシェリスを宿すのがこれから数ヶ月程度後って形だな。
【咲】 でも、明らかに付き合ってる風には見えないわよね。 姓も元のを名乗ってるし。
結婚自体はまだしてないからねぇ……まあ、そこの辺の理由も今回の過去編で出てくるが。
【咲】 ふ〜ん……で、今回なのはたちサイドは過去語りに入ったわけだけど、次回は恭也&リースになるの?
んにゃ、次回は……というか、語りが終わるまでのしばらくは過去編で進むな。
【咲】 それが終わったら恭也&リースサイド?
うむ。まあ、今回始まった過去編で分かる事も出てくると思うから、そこを期待していてくれ。
【咲】 はいはい。じゃあ、今回はこの辺でね♪
また次回会いましょう!!
【咲】 ばいば〜い♪
なのはサイドはアイラの昔語りか。
美姫 「これによって、色々と分かってくる部分があるのかもね」
一体、この後アイラたちに何が起こるんだろうか。
美姫 「当分は過去編が続けられるみたいだし、すぐに分かるかもね」
だな。次回も待ってます。
美姫 「待ってますね〜」