一同が各々の準備を終えると同時に、暴走までの時間はゼロを向かえた。

そしてその時間が訪れたとき、海面を貫くような音が誰もの耳へと嫌というほど届く。

それは闇の球体の周りから突如として、同質の色をした柱が海面より次々と立ち上る音。

まるで闇の球体を守るように、そして球体の中からの何かの誕生を祝うように柱はそこにある。

 

「……始まる」

 

それらの光景に対して静かにクロノは呟き、目を一切離さぬようソレを見据える。

そうして誰もが見る中で現れた柱は一柱ずつ消えていき、同時に球体は少しずつ肥大していっていた。

 

「闇の書の……闇」

 

片手に持つ夜天の魔導書を抱きしめながらはやては呟く。

それは夜天の魔導書を闇の書と呼ばせた元凶たる存在。まさに、闇そのものと呼ぶに相応しい存在。

それが今、彼女らの目の前に姿を現すべく、最初より大きく肥大化した球体へと少しずつ亀裂が入っていく。

出来た亀裂の隙間から黒い光が漏れ出し、それは亀裂が大きくなるにつれて濃密で大きなものへとなる。

 

 

――そして僅かばかりの時間を置き、亀裂は全体へと広がった。

 

 

少しずつ剥がれていく殻の中から、異形の姿をしたものが見えてくる。

それに皆はより強く武器を握り、異形なそれから一切目を離さず気を引き締める。

そしてそんな彼女たちの視線の先で――――

 

 

 

 

 

――全ての殻を破った闇の書の闇は、この世のものとは思えない音を撒き散らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはB.N

 

【第一章】第三十一話 長き聖なる一夜の終わり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

耳を塞ぎたくなる異形の声、だけどそれは決戦開始の合図でもあった。

故にその異形に対して恐怖する心がありながらも、それを内に押し込んで各々は動き出す。

 

「チェーンバインド!!」

 

「ストラグルバインド!!」

 

まずはアルフとユーノ。二人の放つバインドが異形の周囲に存在する触手を絡め、引き千切る。

それでもまだまだ触手の数は増していくが、彼らとてそれで終わりというわけでは断じてない。

 

「鋼の軛!」

 

そう告げるかのように二人に続き、ザフィーラより鋼色の鞭が放たれる。

放たれた鞭は残存していた触手、そして増えていく触手たちを次々と薙ぎ払っていく。

それに対して触手も異形の一部であるのか、消滅させていくたびに悲鳴のような声をあげる。

だが、そこから異形が攻撃へと移る暇も与えず、次なる手が打たれる。

 

「ちゃんと合わせろよ! 高町なのは!!」

 

「ヴィータちゃんこそ!!」

 

上空にて待機していたヴィータより名を呼ばれ、嬉しさを隠せず笑みを浮かべて返す。

それに彼女も不敵な笑みで返すと異形へと向き直り、デバイスを構えた。

 

「鉄槌の騎士ヴィータと鉄の伯爵グラーフアイゼン!!」

 

《Gigant form!!》

 

名乗りを上げると同時に相棒たるグラーフアイゼンへとカートリッジが装填される。

そして溢れ出す魔力はデバイスの形状を変え、元の何倍も大きな鉄槌へと組み変わる。

 

「轟!天!爆!砕!!」

 

しかしそれだけでは終わらず、ヴィータがグルリと鉄槌を回すとそれはまた更に巨大化する。

もうそれはヴィータぐらいの体格では明らかに持てないであろう大きさの鉄槌。

だけどそれを彼女は軽々と振り上げ、自身の持ちうる最強の魔法たるそれを放った。

 

「ギガントシュラーーーク!!!!」

 

放たれたそれは異形を守る障壁へとぶつかり、途端火花を大きく散らせる。

だが均衡も差して続かず、彼女の放った魔法は事も無げに異形の障壁を打ち砕いた。

異形を守る障壁は話によると全部で四枚。これでまずは一枚を砕いたことになる。

しかしそこで安著などせず、続けるようになのはがヴィータと同様に告げる。

 

「高町なのはとレイジングハートエクセリオン、いきます!!」

 

告げた声に呼応して足元に魔法陣が浮かび上がり、自身の持つ杖を異形に向けて構える。

 

「エクセリオンバスター!」

 

《Load Cartridge》

 

聞き慣れたコッキング音を響かせ、弾丸から溢れる魔力がレイジングハートに翼を顕現させる。

なのはへと魔力が集まるのを異形は危険と感じたのか、増え続ける触手の数本を彼女へと襲い掛からせる。

 

「守って、アリウス!!」

 

Holy shield!》

 

だが、なのはへと襲い掛かる触手はシェリスの張った光り輝く障壁によって遮られる。

いや、ただ遮られただけではない。障壁へと触れた触手は盾の放つ光に犯され、灰のように散っていた。

多種多様な能力を持つ盾を扱うのは知っているが、そんな力を持つ盾は初めて見る故になのはは驚きを示す。

しかし、視線の先で自身を守ったシェリスが無邪気な笑みを返すのに、彼女は驚きを納めて笑みで返す。

そして杖の先を向けた異形へと目を戻し、魔力のチャージ完了と共に狙いを定めて引き金を引いた。

 

「ブレイクシューーートっ!!!」

 

撃ち出された砲撃は数にして四つ。それら全てが異形を覆う障壁へとぶつかる。

そして僅かな均衡を見せた後、ヴィータのとき同様、盛大な音を立てて障壁を破壊した。

 

 

 

 

 

「……私の番だな」

 

四枚の内、二枚の障壁を破る光景を上空にて見ていたシグナムは静かに呟く。

そして呟くと共に鞘に納めていた剣――レヴァンティンを引き抜いた。

 

剣の騎士シグナム。その魂、炎の魔剣レヴァンティン」

 

彼女たち同様、自身も己の名と相棒の名を高々と告げ、魔力を身に纏う。

その魔力の大きさは今までのものとは非にならない。つまりそれは、彼女も自身の持つ最強の魔法を放とうとしているということ。

 

「刃と連結刃に続く、もう一つの姿」

 

静かに言いながら剣の柄に鞘を当て、同時にレヴァンティンへとカートリッジが装填される。

すると剣と鞘が紫光の魔力によって包まれ、光の晴れたそこには新たな姿が存在した。

 

《Bogen form!》

 

顕現したそれは弓。両端が剣のようにも見えはするが、正真正銘弓というに相応しいもの。

その弓の弦を手にとって少しずつ引くと同時に更に二発、カートリッジが装填され、魔力により矢が生成された。

そこから更に音がしそうなほど弦を引き絞り、それと共に矢へと集束する魔力も凄まじい勢いで増していく。

加えて弦を引くシグナムの足元に顕現する魔法陣からも、魔力により炎が上がっていた。

 

「駆けよ!隼!!」

 

《Stulm Falken!》

 

シグナムとレヴァンティンの声に反応して、魔力を纏う矢は一直線に異形へと放たれた。

放たれた矢は凄まじい速度で異形を纏う障壁へと到達。直後、大爆発を引き起こして爆音を撒き散らす。

そして目で見ただけでも凄まじい威力を誇るそれは容易く障壁を砕き、残るは一枚だけとなる。

それを少し離れた地点にて目視で確認したフェイトは自身も彼女たち同様、己と相棒の名を告げる。

 

「フェイト・テスタロッサ、バルディッシュザンバー……行きます!!」

 

告げると同時に自身の持つ身の丈よりも巨大な大剣を大きく振るう。

それに合わせてバルディッシュへと弾丸が装填され、足元に金色の魔法陣を展開させる。

それを一目で確認すると共に彼女は両手で持った大剣を空気を切り裂くが如く薙ぐ。

大剣にて薙ぐことでそこから衝撃波が生まれ、次々と生成される触手たちを切り払い、同時に斜線上の異形を拘束した。

そして薙ぎ払った勢いのまま剣を高々と掲げ、剣の頂点に魔力で生成された雷が落ち、剣へと巻きつくように帯びる。

 

「撃ちぬけ!雷刃!!」

 

《Jet Zamber》

 

上段から振り下ろす刃は異形へと迫る過程で伸長を伸ばし、到達したときには元の数倍の長さがあった。

だけどただ長さが大きくなっただけではない。威力も強大、そう示すかのように刃は障壁へ食い込む。

それから程なくして障壁を容易く砕き、その勢いのまま異形の身体の一部を切り裂くに至った。

 

 

 

 

 

四枚あった障壁は、皆の働きによってその全てが破壊された。

しかし異形は障壁を破壊されたこと、そして自身の一部を切り裂かれたことへの怒りを叫びに表す。

そして叫びと共に幾多もの触手を出現させ、先の斬撃で隙を残したままのフェイトへと襲い掛かる。

 

「おっと、そうはさせないっスよ!!」

 

Ring Bell!》

 

触手がフェイトに到達するよりも早く、アドルファは触手へと向けてデバイスを投げる。

投げたデバイスはまるでブーメランのように回転し、まるで鈴のような音を響かせて魔力を刃に纏う。

そして凄まじい速度を見せるそれはフェイトへと迫る触手を切り裂き、返ってくる延長上で他の触手をも蹴散らす。

触手を蹴散らして戻ってきたデバイスを彼女は見事にキャッチし、柄の先の輪に指を入れてクルクルと回しながらフェイトへと親指を立てる。

それにちょっとキョトンとしながらもフェイトは小さな苦笑を浮かべるが、次の瞬間に瞳が驚愕へと染まる。

彼女のその表情の変化に何事かと思ったアドルファは彼女の視線の先、自身の後ろへと振り向いた。

するとフェイトへと襲い掛かろうとしていたとき同様、自分へと無数の触手がかなり至近まで迫っていた。

 

「やばっ!!」

 

気づくと同時に回避行動を取るが、触手の数本がそれよりも早く彼女の足へと巻きつく。

それに小さく舌打ちをして切り裂こうとするが、目の前に迫る触手の速度を見ると斬って逃げる暇がない。

逃げたところでまた捕まるか、逃げなければおそらく海にでも引きずり込まれるだろう。

故にその場でどうするかと瞬時に判断しようとするが、彼女が判断するよりも早く朱色の光輪が迫る触手と拘束する触手を同時に切り裂いた。

突然の事ながらアドルファは少し驚きを示すも、一体誰が助けたのかが想像つき、そちらへと視線を向ける。

 

「いやいや、本気で助かったスよ。感謝っス、アイラさん」

 

「……ま、今は一応仲間って事だからな。ほんとなら触手ごとテメエも斬りたいところだ」

 

「おおコワッ……背中を預けていいものか迷う発言っスね」

 

そう言いながらも笑みを浮かべる彼女にアイラはフンッと鼻を鳴らして目を逸らす。

そして互いに別々の方向へと動き出し、周りにて今も増殖し続ける触手の処理を再開した。

それらの様子を見ていたシャマルは上空にて待機するはやてへと声を飛ばす。

 

「はやてちゃん!!」

 

はやても飛ばされた声に頷き返し、夜天の書のページを一箇所開いた。

 

彼方より来たれヤドリギの枝、銀月の槍と成りて撃ち貫け!!」

 

まるで詠うかのように紡がれる彼女の言葉。そして言葉は力となりて顕現を果たす。

背中にある三対六枚の翼を震わせながら手に持つ杖を振るい、三角形を基とした魔法陣を異形へと向かって展開する。

展開した魔法陣の先には七つの高密度の光球が生み出され、今にも放たれようとしていた。

 

「石化の槍、ミストルティン!!」

 

告げた言葉に杖の先にある剣十字が強き光を放ち、主の言葉に従って球は槍となりて異形へと向かう。

一本、また一本突き刺さる毎に異形は叫びを上げ、刺さった槍を中心に異形の身体は石へとされ崩れていく。

しかしそれでも異形は倒れない。破壊される端から再生を果たし、新たな身体へと作り変えていっていた。

そのことに気づいているエイミィよりそう通信があったが、ダメージは通っている故にプランの変更なしとクロノは告げる。

 

「いくぞ、デュランダル」

 

《Okey, Boss》

 

クロノの言葉に新たなる相棒、ディランダルが応える。

そしてデュランダルの誇る凍結魔法、その中でも高位に位置する魔法の詠唱を開始した。

 

悠久なる凍土。凍てつく棺のうちにて、永遠の眠りを与えよ……」

 

描いた魔法陣から極小魔力で構成された雪が振り付け、雪の触れたものは例外なく凍結させる。

その光景を目にクロノは詠唱を終え、自身の持ちうるありったけの魔力を注ぎ込んだ。

 

「凍てつけぇ!!!」

 

《Eternal Coffin》

 

デバイスのコアも強く、ただ強く光り輝き、それに応じて異形の身体を一部も漏らさず凍らせる。

そして僅かに弱い部分はそれで崩れ去る。だが、それでも異形は凍結されながらももがき続けていた。

それはシグナムやシャマルが言ったとおり、コアが健在である限り闇の書の闇は再生を繰り返すという事。

だけどそれは初めから分かっていた事。だから異形を凍結させたそれも再生を遅らせるために過ぎず、最後の一手は残されている。

 

「フェイトちゃん!! はやてちゃん!!」

 

「うん!」

 

「ん!」

 

なのはは構えていたレイジングハートに残る全てのカートリッジを叩き込み、膨大な魔力を注ぎ込む。

そしてそれはフェイトとて同じであり、二人のデバイスは魔力に応じて己の最強魔法を顕現させる。

なのはは周囲を魔力を集束させて杖を大きく振りかぶり、フェイトは振り上げた大剣に幾多もの雷を落として纏わせる。

 

「全力全開!! スターライト――――」

 

「雷光一閃!! プラズマザンバー――――」

 

今にも放とうとする二人に対してはやては夜天の魔導書を抱きしめ、ごめんなと静かに呟く。

それは夜天の魔道書やリィンフォース、そして自身を脅かしたものに向ける言葉では本来ない。

だけどそれでもそう告げるのは、彼女が優しいから。なんであれ失われる命に対して悲しみを抱いてしまうから。

しかし悲しみを抱いても彼女は迷わない。悲しくても、そうしなければならないのなら。

 

「響け終焉の笛!!ラグナロク!!」

 

彼女の迷いなき言葉に応じ、魔道書と杖にはやての魔力が走る。

そうして眼前に大きな魔法陣が現れ、三つの頂点のそれぞれに強き光が顕現した。

そして――――

 

 

 

「「「ブレイカーーーー!!!!」」」

 

――彼女たちの起動キーが合わさり、各々の魔法は放たれた。

 

 

 

放たれた魔法により異形を包む氷は一瞬にして砕け、再生速度を超えるダメージを異形に与える。

それにより異形の外郭はものの見事に破壊され、遂にコアとなるべき存在が露出した。

 

「捕まえた……!!」

 

その機会を逃すことなく、旅の扉にてシャマルはコアを拘束する。

 

「長距離転送!!」

 

「目標、軌道上!!」

 

コアの上下にユーノとアルフは閉じ込めるように魔法陣を顕現させる。

そして三人は声を重ね――――

 

 

「「「転送!!」」」

 

――同時に転送魔法を放つ事で、コアを一気に軌道上へと飛ばした。

 

 

 

 

 

 

「コアの転送を確認……っ、転送されながら生体部品を再構築! すごい速さです!」

 

転送魔法を重ねがけしたことで生まれた歪曲空間。そこを移動しながらもコアは再生を続けていた。

ダメージにより小さくはなっているが、その大きさはなのはたちと戦った時の状態にはすでに戻っている。

 

「アルカンシェル、バレル展開!!」

 

だけど如何に再生速度が速くとも、軌道上への出現と同時に撃てばきっと倒せる。

そう信じてアルカンシェル発射の準備を告げ、ブリッジの一同は応じて各々の作業へと集中する。

それにより程なくしてアルカンシェルのバレルは展開され、膨大すぎる魔力がその砲身へと集まる。

 

「命中確認後、安全圏まで退避します。準備を!」

 

アルカンシェルのトリガーたるロックに鍵を差し込みながらリンディは艦員たちへと告げる。

凄まじい射程を持つアルカンシェルではあるが、威力の効果範囲はそれ以上に凄まじいと言えるもの。

だから撃った後に退避をしなければ艦も巻き込まれる危険性が非常に高いことを現していた。

故に艦員たちはリンディの言葉に従って早急に準備へと移り、それから程なくして遂にコアが軌道上に出現した。

出現したコアはオペレーターの報告通り、今も再生を繰り返して非常におぞましい姿へと変貌していた。

しかし、いくら再生しようとも軌道上に出たが運の尽き。それを表すようにリンディは告げる。

 

「アルカンシェル、発射!!」

 

告げたと同時にガチリと鍵を回し、それに応じてアルカンシェルは発射された。

撃ち出された閃光は僅かの狂いもなく異形へと到達、空間へと閉じ込め滅びを異形へと招く。

閉じ込めた空間を中心に幾重にも空間を歪曲させ、そして歪曲に耐えられなくなって消滅を齎す。

それに続くように歪曲した数だけの消滅を見せ、最後には閃光を放ちながら終焉を迎えた。

 

「効果範囲内の物体、消滅。再生反応ありません……!」

 

「うん……準警戒態勢を維持。しばらくは反応区域内の観測を続けます」

 

「了解……!」

 

告げた後にふうと息をつき、リンディは椅子へと背中を深く預ける。

警戒態勢とはいっても、アルカンシェルの直撃を受けたのだからおそらくは大丈夫であろう。

そう思えるからこそ張り詰めていた気を解き、今一度溜息をついてコンソールへと手を伸ばす。

今も結果を待っている、彼女たちへと報告をするために。

 

 

 

 

 

エイミィより齎された報告は、皆に安著を浮かばせるには十分すぎる内容だった。

故に彼女たちも張り詰めえていた気を一気に解き、同時にはやてが疲れからか倒れてしまう。

それに駆け寄る守護騎士たち、特にヴィータは心配そうに何度もはやての名を呼んでいた。

そんな彼女たちを見てクロノは一度アースラに帰還しようと言い、皆もそれを承諾するように頷いた。

だけど――――

 

「あれ……シェリス、は?」

 

「アドルファさんもいない……どこに行っちゃったんだろ?」

 

シェリスとアドルファ、両名の姿がないことにここへ来て気がついた。

一体どこへ行ってしまったのかも、何時いなくなったのかも分からない。

だけどそこに首を傾げる二人とは違い、クロノとアイラはなぜいなくなったのかの検討がついていた。

 

「どさくさ紛れに逃げやがったな、あの二人……」

 

「そのよう、ですね。まあ、逃がしてしまったものは仕方ありません……今回は闇の書に関しての一件が納めれただけ、よしとしましょう」

 

クロノもアイラも、というよりはこの場にいる誰もが気づかないほど素早い逃走。

だけどどこに逃げたかも分からない現状では追うことも出来ず、おそらくこの状況で追跡も出来ていないだろう。

故にクロノは闇の書事件が解決出来ただけでも良しだと告げ、アイラもそれに小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決戦の行われた場からかなり離れた地点の上空、そこをアドルファは駆けていた。

そしてその背中にはギュッと掴まりおぶさるシェリスの姿があり、向かい風に二人の髪が靡く。

 

「ねえねえ、どうして逃げるの? シェリスはもっと一杯お姉ちゃんたちとお話したいの」

 

「いやぁ、それはご勘弁を。シェリスちゃんにしてもウチにしても、あの場にいたら捕まってしまうっスよ」

 

逃げることが不本意なのか、少し拗ね気味のシェリスをアドルファは宥める。

だけどそれで彼女が落ち着くわけもなく、嫌だと叫んで背中にて暴れだす始末。

しかし背中で暴れられることが慣れているのか、慌てたような声を上げながらもアドルファは体勢を崩さない。

そして更にしばし上空を飛び続ける後、先ほどの戦闘も含めて暴れ疲れたシェリスは眠りについてしまった。

 

「やれやれ……博士といい、シェリスちゃんといい、どうしてこうも厄介な人なんスかねぇ」

 

ぼやく様に呟き、大きく広がる森の上空へと達した段階でアドルファは立ち止まる。

そしてゆっくりと木々の生い茂る森の中、そこの地面へと足をつけてキョロキョロと周りを散策し始める。

するとその行動にまるで呼ばれたかのように、木々の間から一人の男性が彼女の前に姿を表した。

 

「うっす、ギーゼ。相変わらず自然と同化してしまうほど気配が薄いっスね♪」

 

「……気づいていたくせに何を言うか。いや、それよりも――――」

 

一旦そこで言葉を切り、彼――ギーゼルベルトはゆっくりとアドルファへ近づく。

そして至近まで近寄ると腕を伸ばし、彼女の胸倉を掴んで怖いほどの感情の窺えない瞳を彼女と合わせる。

 

「以前、お前は身勝手な判断で彼女らと接触したライムントを怒った事があったな……なのに、それと同じ行動をお前がしてどうする。仮にも我ら『蒼き夜』の将たるお前が……」

 

「あ、あははは……そんなに至近まで顔近づけられると、ウチでもちょいと照れちゃうっスよ」

 

「ふざけるな……言え、お前は一体何のために彼女らと接触した。あの映像に、お前は一体何を見たというのだ」

 

ふざけることは許さない。そう言うかのように胸倉を掴む手に力が篭る。

それにはさすがのアドルファも一筋の汗を流し、これ以上はふざけることを止める。

そして小さな溜息をついてゆっくりと胸倉から彼の手を解き、彼の疑問へと答える。

 

「蒼天……いや、蒼夜の名を冠する第三の器。それがあそこにあった……ただ、それだけの理由っスよ」

 

「第三の器、だと? しかしあそこにあったのは『盾』のみ、そんなものの姿は――――……まさかっ!?」

 

「気がついたみたいスね。そういう事ス……ウチたちが蒐集の手助けをしていた闇の書、あれこそが正しくあの方が言っていた『剣』、『盾』に続く第三の器――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『蒼夜の魔道書』、なんスよ……」

 

 


あとがき

 

 

以前送られてきたメッセージにあった『書』の存在、それが明らかになったね。

【咲】 でも闇の書って呼ばれる以前は夜天の魔道書だったのよね? それよりも以前があるって事?

そういうことになる。夜天の魔道書である以前に呼ばれていたもう一つの名前、それが蒼夜の魔道書だな。

【咲】 蒼夜っていうことは、彼らの組織名っぽい『蒼き夜』と関係してるわけ?

まあな。だがまあ、詳しい事に関しては少なくとも一章では語られないから、情報はここまでなんだが。

【咲】 ふ〜ん……まあ夜天の魔道書の過去がなんであれ、彼らはあれを狙ってるのよね?

狙ってるといえば、まあそうなる。だけど、夜天の魔道書に主がいる時点で強行手段に出ることはないよ。

【咲】 なんでよ?

彼らの目的の一つは『剣』、『盾』、『書』に主を持たせ、力をつけさせることだからだ。

もっとも、目的とは言ってもあくまで最終目的の過程に過ぎないんだがな。

【咲】 へぇ……ていうかさ、その三つ以外にも『鎧』っていうのがなかった?

あるね。だけどそれは一章では出ないし、二章でも際どいところだな。

【咲】 つまり、かなり先にならないと明らかにならないって事ね?

そういうことだ。とまあそんなわけで闇の書事件、これにて完結だ。

【咲】 結局アドルファやシェリスは捕まえられずに逃げちゃったわけよね。

うむ。まあ、アドルファもまだやることがあるから、彼女らの前には姿を出すだろうけどね。

【咲】 それは一章で?

そうそう。ていうか、一章もおそらく次回で最終話になるだろうと思うが。

【咲】 だとすると、長かったわねぇ……。

だなぁ。まさか一章でここまで話数を取るとは思わなかった……。

【咲】 で、ちょっと先走った質問だけど、二章はどのくらいの長さになる予定?

一章よりも短くする予定だから……まあ、二十半ばぐらいで留まらせたいね。

【咲】 ふぅん……まあ、そうなるよう頑張りなさいな。

うむ。あ、ちなみに最後付近で全く出番のなかった恭也とリースに関しては二章に入ると出番が増える予定だ。

【咲】 つまり、二人がキーパーソンになるってことね?

そのとおり。もちろんだが、ルートどおりなのはとフェイトも重要になってくる。

【咲】 はやてや守護騎士は?

う〜む……まあ、少ないということはないだろうな。二人よりは少なくなるだろうが。

【咲】 そう……ま、どうなるであれ、頑張って書きなさいな。

うい。では、今回はこの辺にて!!

【咲】 また次回も見てくださいね♪

では〜ノシ




何とか防御プログラムの方は片付いたみたいだな。
美姫 「そうね。でも、ここに来てまた新たな事が判明したわね」
だな。しかし、最終的な目的は何なんだろう。
美姫 「力を付けさせるというのが引っ掛かるのよね」
確かに、普通に手元に集めるのでは意味がないって事だよな。
うーん、何が待っているのやら。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
ではでは。



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