アルフとユーノに加え、アイラも加勢してなのは側は数にして五人。

対して相手――闇の書は一人だけ……数だけで言えば圧倒的になのはたちが有利であった。

しかしその認識は目の前の相手には通用せず、数の差を埋めても余るほどの実力を見せ付けられる。

両サイドから放たれたなのはのディバインバスターとフェイトのプラズマスマッシャーを両手で展開した障壁で容易に防ぐ。

アルフとユーノが放った拘束魔法も瞬時に砕き、アイラの放つ破壊力抜群の一撃も二人の砲撃同様障壁で防ぎ切る。

それらの行動全てに於いて苦悶の表情どころか、表情そのものを変えることすら一切ない。

技量からして明らかに普通ではない……言ってはなんだが少なくとも今まで戦った守護騎士より強いと言えた。

 

「捕らえよ、蒼の棺……」

 

「っ!?」

 

なのはへと手が向けられ、同時に彼女の四方を透明な蒼の障壁が覆い始める。

それは過去に一度見たことがある魔法と酷似していた。だから、なのはは瞬時に上へと飛翔する。

彼女が逃れると共に逃げたほうも障壁で塞がれ、展開した障壁は完全に一つの箱を形成した。

 

「あれって……シェリスの、魔法?」

 

「ああ、間違いなくあれはアイツの魔法……パンドラボックスだね。でも、一体どういう事だ……なんでアレがシェリスの魔法を」

 

魔法は千差万別。同じように見えても違いがあり、それは人それぞれとも言えるもの。

だからそれがシェリスの魔法と似てるだけという推測も出来るが、それにしてはあまりに似すぎていた。

故に何度も見たことがあるアイラはもちろん、フェイトたちも同様に驚き、動揺を浮かべてしまう。

しかし彼女たちが動揺を収めるのを待つ気はないのか、彼女は次としてフェイトへと狙いを定めた。

 

「ちっ、立ち止まるな、動け!! アレがシェリスの魔法と同じなら一箇所に留まらない限り捕まりゃしない!!」

 

アイラの叫びで我に返った全員は即座に動き出す。そしてその間も闇の書は箱を形成していく。

だが閉じ込めようとするために放ち続けてもアイラの言うとおり、常に動いていられては捕らえることは出来ない。

それがシェリスの扱う魔法――パンドラボックスの弱点。発動の際に座標固定が必要なため、展開に僅かな時間を要する。

そのため僅かながらもその時間内で逃れることは可能であり、捕まえるなら相手がこの魔法を見たことがないのが条件。

しかしこの場にいる全員、シェリスがパンドラボックスを使うところを見ている故、その条件には当てはまらず捕まらない。

だけど、パンドラボックスの能力は捕縛だけではないのをアイラは知っているため、そこで疑問に思う。

 

(あれがパンドラだとすると、何でアレを使わない? 知らないのか……いや、使うことが出来るなら術式から理解してるはず。だったら知らないわけがないのに、どうして)

 

パンドラボックスのもう一つの能力。それこそがシェリスの最も使う能力でもある。

使うにはそれなりに腕がいるが、それでも初めて使うとしてもそこそこには扱えるであろうものだ。

だからこそ疑問に思う……使える能力であるのに、どうして彼女は捕縛だけに使おうとするのか。

 

(まあ、使わないなら使わないでそれに越したことはないか……)

 

思った疑問は考えても分からないこと故、アイラはそう前向きに区切ってこれを完結させる。

そして別のこと……相手をどうやって止めるかを考える。パンドラボックスに捕まらないよう、ただ空を駆けながら。

そうして全員が動き回るために捕縛が出来ず、とうとう闇の書は断念したのか展開した箱を消す。

後に動きを止めた全員のちょうど中央部に手を向け、消え入るほどの小さな声で呟く。

 

「咎人達に、滅びの光を……」

 

呟きと共に魔力の粒子が彼女の手の先に集束し始め、大きな魔力球を徐々に形成していく。

それは規模的に砲撃に属する魔法。加えて、誰しもには闇の書が放とうとするそれに見覚えがあった。

だからこそ全員は再び動き出した。彼女が放とうとする魔法を防ぎきれる、最低限の距離まで下がるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法少女リリカルなのはB.N

 

【第一章】第二十七話 驚愕にして予想外の協力者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ……」

 

なのはたちが動き出して一分と立たず、闇の書は集束した魔力球をやや下気味に向ける。

それはなのはたちが逃げた方面……結界内の街中へと一直線に向けられていた。

 

「やっぱり、あれ……」

 

「スターライトブレイカー……」

 

距離を取る中で確信に至る一同。それは彼女が行使しようとしている魔法の事。

術者の魔力だけではなく周囲の魔力を集束して力を溜め、膨大に膨れ上がった魔力を放出する魔法。

これはなのはの持つ最強の砲撃魔法、スターライトブレイカーと異常なまでに酷似していた。

先ほどのパンドラボックスといい、他の者が扱う魔法をここまで使われてはなのはたちも認識せざるを得なかった。

 

「蒐集した際に魔法をコピーして使ってる、ってことかい……」

 

「だとすればさっき、シェリスの持つ魔法を使ったのも納得がいくねぇ」

 

つまりはそういう事。蒐集した者の魔法をそのときコピーして現在使っているというわけだ。

そしてそれが示すところはシェリスが一度蒐集されたということ。意図しないながらも明かされたその事実に皆は一様に驚きを見せる。

彼女がそれなりに実力を持つ故もあるが、明らかに守護騎士と協力体制にあった彼女がなぜ蒐集されたのか。

目撃しなかったこの数日間で仲間割れでもあったのか。いや、シェリスという少女の性格を考えるとそれは考えにくい。

だとすれば一体なぜなのか……その答えはなのはたちには導き出せない。しかし、アイラには何となくだけど分かった。

 

(守護騎士との協力体制を取る際の信用を得るため……ま、これが妥当な線だろうな)

 

闇の書が魔力蒐集型のロストロギアであることは少し調べれば分かること。

そしてそれが分かれば守護騎士の狙いも自ずと見えてくる。だからこそ、信用を得るためにそれを利用した。

自らのリンカーコアを差し出せばそれだけの覚悟があると見える故、信用を得るのにこれほど良い手はないだろう。

反対に差し出すほうも当然生半可な覚悟では到底無理だが、しっかりとした覚悟を持つほどの事がシェリスにはあった。

それが何かまではさすがに分からないが、シェリスにそこまでの覚悟を抱かせるということは相当な事なのだろう。

そう彼女は予測してこの話題を自己完結させ、頭を切り替えて砲撃が十分に防ぎきれる位置まで逃げる事に専念する。

 

 

――だが、そんな彼女たちの耳に突如驚愕の内容が届けられた。

 

 

アースラからの突然の通信。その内容は、結界内に逃げ遅れた民間人がいるというもの。

一体なぜそのような事になったのか……それを考える間もなく、一同はその民間人を探し回る。

発射までの時間はもう秒読みに入っている。急がなければ自分たちだけでなく、その人達もただでは済まない。

だからこそデバイスが探索して導き出した座標を隈なく探し続け、自分たちが放たれる砲撃から守らなければならない。

 

「なのは、あそこっ!」

 

信号機の上で見渡すフェイトから上がった突然の声。それになのはは彼女のほうへ顔を向ける。

するとフェイトはある一点の方向を指差しており、それを確認すると瞬時になのはは指差される方向へと向く。

そして指差された方角で人の姿を確認するや否や、彼女はこの場から離れろとは言わず、立ち止まってと叫ぶ。

今から逃げたところで砲撃の射程から逃れることは出来ない。それはそう判断してこその言葉であった。

放った言葉に視線の先にいる二人の人物は足を止める。しかし、こちらに向けられた顔は驚愕に染まっていた。

 

「なのは、ちゃん? それに……」

 

「フェイト、よね?」

 

驚きの表情のまま放たれた言葉。そして暗がりの中でようやく見えたその人物たちの顔。

それらが示すことは、逃げ遅れたのがすずかとアリサだということ。それ故に二人とも同様の驚きを浮かべる。

しかしそれと同時にとうとうカウントがゼロへと達し、それが驚いている場合ではないと二人に知らせる。

故になのはは闇の書の放とうとする魔力球が光り輝く最中で二人へともう一度動かないでと呼びかける。

そして同時にフェイトが半球体型の障壁を二人へと展開し、自身も地面へと降りて目の前に障壁を展開する。

その更に前へとなのはが出て障壁を展開することですずかとアリサを守るための三重の守りを形成した。

 

 

――瞬間、魔力球は巨大な閃光となって彼女の手から放たれた。

 

 

閃光はなのはたちよりもかなり手前のほうに着弾するが、着弾した場所から更にドーム状に広がる。

魔力のドームは被弾地を中心にどんどん大きくなり、なのはたちの立つ場所にまですぐさま迫ってくる。

この場にいないアイラ、アルフ、ユーノの事がその際に心配として浮かぶが、すぐにその心配を拭い去る。

彼女たちなら大丈夫だ、きっと安全圏まで非難してると。そう思うことで拭い去り、目の前の状況に集中する。

一応は安全圏だとは思うが防ぎきれるかどうかは正確には分からず、先頭に立つなのはに恐れのようなものが浮かぶ。

そしてその恐れが杖を持つ手に及び、震えそうになる。しかし、なんとかそれを押さえ込んで迫り来るソレに今一度意識を集中させた。

 

 

――そのとき、彼女は目の前の光景に目を疑った。

 

 

――蒼い長髪を靡かせる少女が自身の前に降り立つ、そんな光景に。

 

 

それが誰であるかを判断する前に、ドーム状に広がる魔力は遂に彼女たちへと達した。

その達する瞬間に目の前へと降り立った少女は杖の先を前に掲げ、聞き覚えのある明るめの声で告げる。

 

「守って、アリウス」

 

Airtight shield》

 

少女の声に続けてデバイスから放たれた音声。それに応じるように杖先のほうへ盾型の障壁が展開する。

だが盾型ではあるも大きさは一般的な盾とは異なり、彼女の全身を隠しても余りあるほどの大きさ。

そんな大きい障壁は普通の戦闘ではあまり使い道がないが、こういった後ろを守るときに使える魔法であった。

そして彼女がその魔法を展開するとほぼ同時に魔力の波は彼女たちへと達し、凄まじい衝撃が襲い来る。

襲う衝撃と障壁に加わってくる力に彼女は僅かに表情を歪めるも、一切後ずさることもなく障壁を維持し続ける。

そうしてしばしが立つとようやく魔力の波が収まり、彼女たちの周りにいつもの色が戻ってきたのを見て少女は障壁を消した。

 

「危ないところだったね、なのはお姉ちゃん♪ それにフェイトお姉ちゃんも♪」

 

先ほどの苦悶をも消し去り、振り向くや否や彼女――シェリスは二人へといつもの笑顔を向けた。

その笑顔を見てようやくまともな思考が二人に戻ってくる。そして先ほどは浮かべられなかった驚きが表情に浮かぶ。

シェリスがなぜここにいるのか、という疑問を考えるのはこの際無意味だろう。どうせ結界の範囲内にいたというだけなのだから。

しかし、どうしても考えざるを得ない疑問が同時に浮上する。それは、なぜシェリスが自分たちを守ったりしたのかだ。

いつも会うときは基本的に敵同士。如何に今回別の相手と戦っているからと言っても、敵同士だった者を守ったりは普通しない。

なのに彼女はなのはたちを守り、目の前に立つ現在も敵対する意志すら見せることはなかった。

 

「? 後ろのお姉ちゃんたち、避難させないの?」

 

彼女たちがそんな事を疑問に思っているとは露知らず、彼女は全く別の事を口にした。

だがシェリスが言ったことは今の最優先事項でもあるため、とりあえず疑問を一旦置いてアースラに呼びかける。

それにアースラにいるエイミィが応じ、すずかとアリサを別の場所に転送することで避難させる。

彼女たちが転送されたのを見届けた二人は続けて別の場所にいる三名へと連絡を取る。

無事かどうかの確認と共に転送された二人が結界外に出れるまでの間、守ってあげるようお願いするために。

そのお願いには主にアルフが渋りはしたが、フェイトのお願いということもあるため了承して現場へと向かった。

だけどそれは二人だけで十分だと勝手に決めたアイラだけは合流するとだけ言って念話を一方的に断絶してしまった。

それに僅かばかり困った表情を見せるも彼女の性格を考えると諦めるしかなく、溜息をついてもう一方の問題へと目を向けた。

 

「シェリスちゃん……どうして、私たちを助けてくれたの?」

 

「にゃ? 助けちゃ駄目だったの?」

 

「う、ううん、そういうわけじゃないんだけど……ほら、私たちって敵同士だから」

 

直球の疑問をぶつけるも同じく疑問系で返され、僅かばかり困りながらも聞きなおす。

聞きなおされた内容にシェリスはやはり疑問符を浮かべて首を傾げ、不思議そうな声色で言った。

 

「敵同士じゃないよ? お姉ちゃんたちはシェリスのお友達だもん」

 

返された言葉に今度は呆気に取られてしまう。だけどそれも仕方のないことだろう。

つい先日まで敵対していた少女に守られ、挙句理由が友達だからと言われれば少なからず呆れる。

加えて言うならば友達になろうと言われたわけでもないのに、彼女の中では二人が友達確定。

もう状況すらも忘れて呆気に取られるしかない言動だったが、後に聞いたシェリス像を今一度思い出して納得した。

無邪気で純粋で人懐っこい性格。それがこの間出会って話したときに働き、そうなってしまったのだろう。

しかしこれはある意味好機とも言える。友達だと言って彼女が自分たちを信用してるなら、少なくとも攻撃してくることはない。

それどころか友達としてお願いすれば共闘してくれる。利用するようであまり気は進まないが、現状では少しでも戦力が欲しい。

だからこそなのはもフェイトも少しだけ見合って頷き合い、再びシェリスへと目を向けて告げた。

 

「じゃあ、シェリスちゃん……一つだけお願いがあるんだけど、いいかな?」

 

「にゃ、言わなくても分かってるよ♪ あのお姉ちゃんを倒せばいいんだよね?」

 

「ち、違うよ。私たちがお願いしたいのは――」

 

あくまで説得して戦闘を中断して欲しい……そう言い切る前にシェリスは地面から飛び立った。

言葉から行動までが速過ぎる。飛び立った彼女に二人はそう思うが、すぐにそれは間違った認識だと気づいた。

徐々にではあるが強まっていく地面の振動。おそらくはこれをいち早く察知して空に逃げたのだ。

その事に気づくや否やなのはとフェイトもすぐさま地面から飛び立ち、割れた地面の裂け目より現れた触手から間一髪で逃れる。

そして自分たちよりも早く飛び立ったシェリスを見渡して探すが、彼女の姿は予想外の位置にて見つかった。

 

「あははは、こっちこっち〜♪」

 

彼女がいたのは、闇の書がいる場所のすぐ付近。これからすると案外、先ほどの認識は合っていたのかもしれない。

飛び立つと同時に闇の書へと近づいた彼女はパンドラボックスを複数展開、そして闇の書が使わなかった能力を駆使していた。

彼女の周りを距離を置いて囲むように数多く展開された箱、その一つの内部から突拍子もなく現れて攻撃。

それが避けられるか防がれるとすぐさま自身を箱で覆い、別の位置に設置された箱から出現……それを繰り返していた。

彼女が現在使うその能力は以前も見たことがあるもの。だけど改めて見ても不思議な魔法であると言う他なかった。

 

「て、ぼっとしてる場合じゃなかった。早くシェリスにさっきの続きを伝えないと」

 

「そ、そうだね。えっと……念話でいい、よね?」

 

実際問題、戦闘真っ只中な上に動き回る彼女には普通に口で言っても聞こえないだろう。

これは冷静に考えれば分かることなのだが、そんな事聞く辺り焦っているというのが見て取れるというものだった。

そしてフェイトとしても焦っているために呆れなどはなく頷き、それを見てからなのははシェリスに念話を飛ばした。

 

《き、聞こえるかな、シェリスちゃん?》

 

《にゃ? ちゃんと聞こえるけど……どうしたの、なのはお姉ちゃん?》

 

《えっと……さっき話が途中で中断しちゃったから、今からその続きを言うね》

 

そう前置きを置いてなのははお願いの続きを念話にて彼女へと伝える。

自分たちがしたいのは闇の書を倒すことじゃない。彼女を説得して戦闘行為を止めたいというだけ。

そしてシェリスにはそれを手伝って欲しい……そうなのはは丁寧に伝えた後、シェリスからの返答を待った。

 

《うにゅ……お姉ちゃんたちのお願いは分かったけど、説得は難しいとシェリスは思うの》

 

《え……ど、どうして?》

 

《だって、言葉で言っても聞いてくれるなんて思えないもん。シェリスのお姉ちゃんだって、シェリスが戻ってきてって言っても聞いてくれなかったし》

 

説得という方法そのものへの不満があるため、シェリスは彼女たちのお願いの了承を渋る。

そんな彼女に対してなのははどう言っていいものかを迷う。正直、リースを引き合いに出されると困るのだ。

初めて会ったときは説得らしい説得をしていなかったが、おそらくはそれ以前では説得的な事をしていたのだろう。

だから初めてなのはたちの前に現れたときは説得を元から諦め、倒して連れ帰るという方法を取ったのだ。

シェリスの言動からそう思い至れるからこそ、どう言って説得することは無意味じゃないと教えるかを迷う。

しかし、なのはがそこに思い至るよりも早く、先ほどの話を黙って聞いていたフェイトが静かに告げた。

 

《そんなことないよ、シェリス。確かに言葉では通じ難い場合は多くあるけど、それでも諦めなければ思いは届く……リースだって、シェリスが諦めなかったらシェリスの思いは届くよ》

 

《そうなの……?》

 

《うん。きっと……ううん、必ず》

 

静かに、だけど言葉の端々には自ずと力が篭る。なぜなら、今語ったことは自分の経験を踏まえているから。

諦めなければ思いは必ず届く……自分もまた、そういったなのはの説得によって現在があるのだから。

放たれたフェイトの言葉によってかシェリスは悩むように唸る。しかし、一分と立たずして発せられた返答は先ほどとは変わっていた。

 

《そう言うなら、シェリスはお姉ちゃんたちを信じてみるね。でも、あのお姉ちゃんが攻撃してくる以上、シェリスも……》

 

《分かってるよ。だけど、出来る限り抑えて戦うようにね?》

 

《にゃ、頑張ってみる〜》

 

打って変わった彼女の返答、だけど今度は呆気に取られるのではなく小さな笑みを浮かべる。

ちゃんと言えばシェリスは分かってくれる……自分の抱いていたその考えは正しかったのだ。

だから少しだけ嬉しくなって笑みが浮かんでしまう。ほんのちょっとだけ、シェリスのことが分かったような気がしたから。

しかしそのまま嬉しさあまりに佇んでいるだけではシェリスに協力を仰いだ意味が全くなくなってしまう。

だからこそ内から来る感情を押さえ、なのはと目で合図し合い、互いに頷くと闇の書へと駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結界が張られている場所空から僅かに離れた位置にて、白き影が飛翔する。

かなり速い速度で飛んでいるためかセミロングの髪は風に靡き、少しばかりボサボサになっていた。

だけどその人物はそこを一切気にせず、ただただ目的地へと向けて飛び続ける。

 

「っ……ああ、ここまでてこずるとは正直思わなかったっス」

 

彼女――アドルファは飛翔しながらも呟き、同時に顔を僅かに顰める。

よく見れば露出している彼女の右腕には痣のようなものがあり、顰めたのはそれの痛みだと分かる。

だけどこんな痣はこの地に下りたときにはなく、それどころか傷に該当するものは一切なかった。

なのに現在このような痣が腕にあるのはなぜか。それは――――

 

 

「さすがは『剣』とその主……条件が不利だったとはいえ、ギーゼと互角だったのも嘘ではないということっスね」

 

――オリウス、そして高町恭也との戦闘にて負った傷だからだ。

 

 

非殺傷設定だったのか、傷は痣程度で済んだ。だけど、これが殺傷設定だったならば腕を落されていただろう。

決して行き過ぎた想像などではないソレを考えると彼女としても僅かばかり冷や汗を流さずにはいられなかった。

だけど彼女が現地に向かっているということは、戦いの結末は容易に想像が出来るだろう。

そして、想像した結末故に二人がどうなったかも、同じく想像することは難しくはないであろう。

 

「今であの実力……リースちゃんが完全になったのなら、更に力は上がる。いやはや、計画通りに進めたとはいえ、予想以上の結果っス」

 

思い浮かべた自身らの計画の現状に自ずと笑みが浮かんでしまう。

『剣』と『盾』の製作状況はもちろんの事、ジェドたちに秘密で進めていた計画も気づかれずうまくいった。

『剣』に主を選ばせる事、選んだ主が『剣』を上手く扱えるくらいの魔導師に成長する事。

これらの条件を満たさせるためにジェドたちの目を欺き、今まで捕まえることが出来ても野放しにしてきた。

そして現在、全ての条件が揃った……故に計画は順調と言え、笑みが浮かぶのも仕方のないことであるわけだった。

 

「あとは『書』を救うことと『盾』の主を見つけることっスね……ああ、そういえば『鎧』なんてものもあったスねぇ」

 

『書』……つまり闇の書を救うというのはアドルファが現在行おうとしている事。

そしてもう一つ、『盾』の主を見つけなければ計画は次のステップへと移行できない。

それを考える際に――からの文で『鎧』という単語があったのを思い出す。だけど、それは脳内では後回しにされた。

なぜなら『剣』『盾』『書』の三つは現状で分かっているが、『鎧』に関しては彼女たちでも全く分からないのだ。

ならば――に『鎧』とは何のことだと聞けばいいとも思えるが、彼女にはそんな恐ろしい事をする勇気はなかった。

 

「聞いたら聞いたで……うぅ、どうせまた罵倒されて意味不明な事言われるだけっス」

 

笑みが一気に消えて怯えが表情に走り、そうなったときを想像して少しばかりブルリと震える。

想像するだけで恐れが出てしまうほど、彼女と――との間には良い事というのが本当に少ないのだ。

だけどそこまでの相手であっても彼女に縁を切るという行為が思い浮かぶことなどなかった。

極力避けたい人物であっても、それほどまでに彼女を含めた全員にとってはかけがえのない人なのだから。

 

「アレでかなりの歳っスから、一応は労わらないといけないっスよねぇ……うん、だから無駄手間は取らせないに限るっス」

 

本人が聞けばかなり怒るであろうことを呟き、自分の都合のいいように自己完結させる。

そして様々な事を考えている内に彼女の足は結界のすぐ傍まで達し、結界表面の前にて停止する。

 

「封鎖結界、スね……まあ、予想はしてたスけど、また中々に強固な」

 

どういう作用があるか分からない故に直接手では触れれないが、感じる魔力だけでも強固だと分かる。

そしてこれが封鎖結界であるが故に外部からは入れず、入ろうとすれば弾かれるだけとなるだろう。

しかし、封鎖結界が張ってあること自体予測していた彼女としては、当然ながら策をも用意していた。

 

「大本が同じならすぐ済むはずっスけど……まあ、やってみれば分かるっスね。じゃあ、用意はいいスか、スヴェントビート?」

 

Pas de problemes(問題ありま),principalement(せん、主)

 

片手に顕現した短剣型のデバイス――スヴェントビートは彼女の言葉に短く返す。

返ってきた言葉にアドルファは小さく頷き返すと、切っ先を結界表面の触れるギリギリの距離へ突き立てる。

 

「術式解析、及び干渉開始……」

 

彼女の発した言葉に応え、向けた切っ先と結界表面の間に小さな魔法陣が展開する。

同時に解析状況を伝えるためにカウントが開始され、十単位で刻まれるそれは徐々に完了へと近づく。

そして解析が早くも一分程度で完了し、続けて開始された干渉も解析と同様に早く進んでいった。

それはアドルファの予測したとおりのこと故か、カウントが進むごとに彼女の口元には笑みが浮かぶ。

 

Complete(干渉) ingerence(完了。). Vous pouvez aller et venir(出入り出来), principalement(ますよ、主)

 

「うしっ……じゃあ、急ぐっスよ!」

 

スヴェントビートを握ったまま彼女は結界内へと侵入し、再び内部を一つの方向に向けて駆け出す。

闇の書を救う……以前までは意味が分からなかったソレも、今ではちゃんと理解することが出来る。

だから駆ける速度もここに来るまでと同様に速くしつつ、彼女は闇の書がいる現地へと駆け続けた。

 

 


あとがき

 

 

片方はシェリスの介入、そして協力することに。

【咲】 予想外の協力者って彼女の事なわけね。

ふむ。まあ、次回の話で出る彼女もなのはたちにとって予想外と言えば予想外だけどな。

【咲】 確かにねぇ……ていうか、アドルファが勝っちゃったのね。

まあ、ねぇ……アドルファの魔導師としての腕は集団の中でも上に位置するほどだし。

【咲】 それでも彼女に手傷を負わせたってことは、恭也も強いほうだって事?

どうだろうな。リースの力もあるだろうし、アドルファが多少なりと見縊っていたという可能性もある。

【咲】 ふぅん……まあ、戦闘シーンが描かれてないからそこんとこは分からずよね。

だな。ともあれ、恭也がアドルファに負けた時点で彼らがどうなったかは想像つくだろうな。

【咲】 簡単に言えば捕まったってわけね。

そういうことだ。そして闇の書事件に目が向いている管理局はそれに気づけない。

もちろん、なのはたちもそちらに集中してるから今は知ることが出来ないだろうな。

【咲】 知るのは闇の書事件に収まりがついてからになるってこと?

そうなるだろうなぁ……まあ、こんな事件が起きて恭也が駆けつけない事には多少なりと不信感を持つだろうけど。

【咲】 そこの辺はアドルファが上手く誤魔化すのね。

だねぇ。今管理局といざこざを起こすのは得策と考えないから、どうにか誤魔化すだろうね。

【咲】 ちなみに、一章が終わるまで恭也とリースの出番は無し?

そうなる。まあ、二章に入ったら出番が自ずと一章よりも増えるがな。

【咲】 じゃあ、そのときまで恭也たちはお休みって事ね。

そういうこと。では、今回はこの辺にて!!

【咲】 また次回会いましょうね〜♪

では〜ノシ




シェリスの参戦に恭也の離脱。
美姫 「目まぐるしく状況が移り変わる中、闇の書の暴走は止められるのかしら」
さてさて、一体どうなるのか!
美姫 「次回も待っていますね」
待ってます。



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